犬山さんちのハゴロモギツネ   作:ちゅーに菌

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「読者君…ボクはずーっと大逆の四将(この)の玉藻の前(カード)を倒す戦略を考えていたんだ…。でもなかなか見つからなくて…でもようやく見つけたよ…こうすればよかったんだ!」




増えるタマモちゃん

 

 

 

 

 突然だが、犬山乙女は空前絶後の超ウルトラスーパーエリート優等生である。

 

 

 そもそも前提として、彼女が在籍している学校の高等部の偏差値は七十後半を常にマークしており、まなが名前だけで尻込みする程度には凄まじい名門中の名門だ。

 

 そして、そんな場所に居ながら学業成績に一切の非の打ち所がない。

 

 座学に関しては常に全国模試の最上位に名を連ねるほどであり、身体能力は陸上部の男子全国レベルという度肝を抜く程にあらゆる能力が極めて高い。また、部活動は演劇部の副部長を務めると共に幾つかの同好会規模の文化部に名前を貸して籍を置くこともしており、これまでの学績と素行から生徒会に召集されて広報をも務めている。

 

 いっそのこと、常人とは時間の流れる速度が違うのではないかと思うほど掛け持ちしつつ、趣味のウーチューバーもこなし、それでいて家族や自身の時間を確りと確保しているのだから彼女の異様さは伺えるであろう。

 

 そんな犬山乙女の人間性は、一言でいえば大和撫子のそれである。

 

 常に笑顔を絶やさず、誰にでも人当たりがよくありながら、相手を立てる奥ゆかしさを持ち、学校の人間からも乙女の住む周囲の人間からも極めて評価が高い。また、独特の雰囲気と余りにも人間離れした風格は、一目を置かれると共に自然と他者から頼られるような独特なカリスマ性をも持つ。

 

 そう、他者から頼られるのである。雑務から恋愛相談まで内容は多種多様だが、人間離れした雰囲気から相談者にとっては無自覚な妖怪絡みの相談を受ける事も屡々ある。

 

 これはそんな妖怪絡みの相談のひとつのお話――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、家にいる居候が妖怪かも知れない……ねぇ」

 

 場所は生徒会室内にある応接の場。

 

 元々、この生徒会は生徒に対して開かれている場のため、生徒が生徒会へ相談に来ること自体は自然なことであり、他の生徒会役員も相談に応じている。

 

 しかし、犬山乙女に関して言えば、人生相談から恋愛相談、明日の献立まで本当に何でも相談に乗る。果ては最近何かと話題な妖怪などという半ばカルト的なモノさえ真摯な態度で相談に乗るため、生徒からの信頼は厚い。

 

 

「そうなんです」

 

 

 目の前のソファーには、栗毛色の長髪をして琥珀色の淡い瞳をした女子学生が座っており、真剣な面持ちで透き通るような瞳を乙女へと向けていた。

 

 彼女の名は"岸波白野"。どこにでもいるような女学生の一人であり、これといった特徴のないただの人間である。

 

「…………へー」

 

(中々のイケ魂じゃのう……。何があっても決して折れず屈せずに進み続けそうな善性の輝きか)

 

 しかし、羽衣狐としての乙女には別のものが見えているらしい。

 

 イケ魂とは、魂がイケメンあるいはイケている魂などの略称であり、主に妖狐の間で種族的に用いられている。容姿など幾らでも変えようと思えば変えられ、化けるプロフェッショナルな妖狐は容姿ではなく魂を評価しているのであろう。

 

「岸波さんのお家に妖怪とは穏やかではないわね」

 

「……あれ? すいません、私まだ自己紹介をしていなかったような……」

 

「あら、岸波白野さんでしょう? もちろん、知っているわ」

 

 乙女は目を細めると口角を少し引き上げ、手を己の首元に当てつつ何処からともなく取り出した鉄扇を開き、ゆったりと口元を隠す。

 

「岸波白野さん。学校ではもっぱらクラスで3番目に可愛いと評判。辛いもの好きで食堂ではよく激辛麻婆豆腐を頼んでいる。後、プレミアムロールーケーキが出る日も鬼気迫る顔で買いに行っているわね。入学した直後のクラスでの自己紹介の時にポーズを決めつつフランシスコ・ザビエルとふざけて名乗るも盛大に滑り――」

 

「わかりました。わかりましたから、もう止めて」

 

「あらそう?」

 

 "全校生徒の名前と顔とプロフィールぐらいは覚えておいても損はないわ"等と言いながらニマニマとなんとも言えない笑みを浮かべていた。

 

 乙女の態度は冗談のようだが、それを緊張を和らげるための他愛もない小話として話している辺りが、彼女が彼女である由縁なのだろう。

 

 人外染みたまでの美貌を持ち、生きた黒と白のツートンカラーのような彼女が目を細めつつ笑う様を眺める白野は、何気なくポツリと呟く。

 

「本当に狐みたい……」

 

『――』

 

 ピコんと乙女の頭に黒い狐耳が生える。

 

 しかし、まなにバレて以来、常に何重にも認識阻害や幻覚系の呪術を自身に掛けて人間から人間に見えるようにしている乙女の変化に白野は気付く事はない。ついでにその弊害として耳が出た事に乙女も全く気付かない。呪術とは得てして難儀なものなのだ。

 

「うふふ……? 本当に妖怪かも知れないわよ? がおー!」

 

「おっ、おお……?」

 

 自分で振ったが、想像以上に乗って来る乙女に白野は若干気負される。

 

 見た目だけなら魔王、魔女、ラスボスのような人外染みた風格の彼女のお茶目な行動は酷くギャップを生むが、それが却って親近感を生み、気軽に話が出来る場を作るのだろう。

 

 魔性とは傾国とは得てして隣にあって掴めそうなもの故に人を狂わせるのである。

 

「そう言えば他に生徒会の人は居ないんですね?」

 

「ええ、会長と副会長は外回りで、会計くんはもう仕事を終わらせて帰ったし、書記ちゃんは部活動ね。私じゃ……不満?」

 

「うちの学校の生徒会外回りとかあるんだ……。さっきから私で遊んでません?」

 

 

(うーん――ほぼ"黒"じゃな)

 

 

 無駄に艶めかしい動作で口元に手をやりつつ雑談を交える最中、乙女――羽衣狐としてはそう結論付けた。

 

「それで、その同居人の妖怪さんを岸波さんはどうしたいのかしら?」

 

「信じてくれるんですか……?」

 

「あら? 何かが存在しないと証明するのは、それが存在したことを証明するのよりもずっとずっと難しいのよ?」

 

(何せ、その者と接しているというにも関わらず、妖気の欠片も残り香もまるで感じられん――が、些か痕跡を消し過ぎておるわ)

 

 目を細めて笑みを浮かべながら羽衣狐は白野に言葉を投げ掛けつつ、羽衣は目の前の相談者が自宅に居着いていると言うそれが、少なくとも大妖怪クラスに厄介な存在であり、討滅も視野に入れる対象であると半ば断定していた。

 

「それより大事なのは、あなたがその方をどうしたいのかという気持ちではないかしら?」

 

(生活するだけで身体に受ける筈の微かな妖気すら自然に途切れておる。ならばそれは妾の目が曇ったか、余ほど術に精通した者かのどちらかであろう)

 

「そうですね……なら――」

 

(まあ、()()()にしてもこれは妾が一見せねばならない手合――)

 

「モフりたいです」

 

「そうなの! モフりたいのね! それなら………………モフ……?」

 

 意味は全くわからないが、真顔でそんな事を言い放つこの娘も大概大物であると羽衣狐は内心苦笑するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざお越しいただき、ありがとうございます」

 

「いいのよそんなの。むしろ、ご無理を言ってしまってごめんなさいね?」

 

 相談を受けた数日後。休日だったと言うこともあり、私は白野さんの自宅前に来ていた。家の外観は閑静な住宅街にある極普通のマンションと言った特筆すべき事はない様子である。

 

 上の階に部屋があるそうなので、エレベーターに乗り込んだ最中、私はやることもないので少し白野さんを見つめた。 

 

「……?」

 

 それにしてもイケ魂である。まだ少しあどけない栗毛の美少女が小首を傾げている動作は、何処と無く子リスを思わせる点もまたいい。

 

「うふふ、飴ちゃんあげるわ」

 

「ありがとうございます……?」

 

 まな、これは浮気ではないのよ? 近所で可愛い猫がすり寄ってきたから撫でる。それぐらいの役得な感覚なのだから仕方が無いのだ。そう、仕方がないのだ。

 

 そもそもまなだって、猫娘を推してるし、今日は朝から"猫姉さん猫姉さん!"と元気に言ってお出かけじゃない?――おのれ……おのれ……。

 

 ふう……いけない。まだ、泥眼ぐらいだから大丈夫ね。

 

 まあ、話を本題に戻すと、最初は討滅するのも辞さなかったが、少し長く白野さんを観察した感じでは、恐らく居候している妖怪は実害の無い妖怪だろうと思うので、こうして確認にだけ来た次第である。

 

 と言うのも白野さんは、一昨昨日と昨日で全く魂や生命力が減っている様子がないばかりか、艶が増しているようにさえ思えるからだ。きっと益獣的な妖怪なのだろう。

 

「どうぞ」

 

「お邪魔しま――」

 

「お帰りなさいませご主人さ――」

 

 やや紫掛かった私レベルに色白の肌。昔のアニメキャラのようなやたら整ったM字バングの前髪に、お団子に纏めた後ろ髪をした白髪に近い銀髪。赤い瞳をした切れ長の目にハッキリとした睫毛と眉毛。

 

 そんな特徴的な容姿をした人外染みた美貌の女性は、銀縁の"眼鏡"を掛け、何故か"良妻賢狐"と文字が入った割烹着を着ており、満面の笑みでお出迎えをしていた。

 

 そして、明らかに人間でないところにも目を向ける。彼女は自宅では化ける気がないのか、頭には捻れた角のようにも見える白い狐耳が生え、全体的には純白だが毛先が赤い尻尾が生えているではないか。どうやら同族(妖狐)らしい。

 

 それにしてもその尻尾を見ているとなんだかホッキ貝が食べたくなってくる。美味しそうなので今度寿司屋に行ったら頼むとしよう。

 

「マ……?」

 

 しかし、私と目があった直後、波が引くように彼女の目から光が失われたため、とりあえず、私は尻尾から武具を引き抜けるように用意はしておく。

 

「あっ、あっ、あっ……」

 

 そして、目の前の彼女は天を仰ぐように頭を抱え、ぶるぶると震え出した。また、これまで一切出していなかった妖気も溢れ出すが、ギリギリ中級妖怪程度の量のため、私どころか猫娘でも普通に倒せる程度だろうと当たりを付ける。

 

 まあ、ふと浮かんだので例えただけで、猫娘はああ見えても武闘派寄りの妖怪なので比べるのも烏滸がまし――。

 

 

 

「脳が破壊されるぅー!!?」

 

 

 

 私は確信した。この手の手合は刑部姫と同じく戦闘能力とは一切関係の無いところで無茶苦茶めんどくさいと。

 

 まなと猫娘のお出掛けの後でも着ければよかったなぁ……。

 

「うわっ、浮気……。浮気ですか!? よりにもよって(わたくし)と同じ妖狐に!? NTR!? く゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?」

 

「ちがうよ?」

 

「んふっ……んっふっふっふっふっ……! 私が先に好きだったのに(WSS)……!」

 

「聞いて"タマモ"」

 

「じゃあ、とりあえず――ご主人様を殺して私も死にますね♡」

 

 "地獄の底まで御供します"等と言いつつ、彼女は白野さんに飛び掛かって来たため、私は少し尻尾を伸ばしてそこから武具を抜き放つ。

 

「九尾の鞭"縛妖索(ばくようさく)"」

 

「へ――?」

 

 少し伸ばした尻尾と共にカウンターとして放たれたそれは、黄金と白金で編まれたように見紛うほど絢爛であり、形状としては鞭に似た武具であった。

 

 宙をうねり飛ぶように伸びたそれは、瞬時に白野に飛び掛かって来た体勢のまま彼女を絡め取り、完全に捕縛した状態で床に伏せさせる。

 

「フィッシュ」

 

「ちょっ……これ懐かし!? 女媧の……うおぉぉぉぉ!! あっ、これ絶対抜け出せねぇー奴ぅー!? 私の毛並みに特効宝具(ジャストフィット)でございますぅ!!」

 

「………………なにコイツ?」

 

「私の同居人です」

 

「もう、めんどくさいから()べていいかしら?」

 

「食べないでくださいまし!? ストップ! ストッププリーズ〜!」

 

「どうする白野さん。処す? 処す?」

 

「色々言いたいけれど、とりあえず話し合いたいかなぁ……」

 

 みこんと立つ私の狐耳を眺めつつ、白野さんは"ぐだぐだしてきた"とでも言わんばかりの半眼でそう言っている。

 

 思った以上に白野さんはこちら側に関わっているようなため、最早取り繕うこともないだろう。まあ、最悪の場合は目の前のコレの存在と白野さんの記憶を消せばいいしな。

 

「うわ、というかやっべー!? 貴女、よく見たら暗黒イケメン"セイメイ"の母親にして、閻魔の百倍恐ろしく、千倍残忍と噂の羽衣狐じゃねーですか!? タマモちゃん大ピーンチ!? ご主人様との愛の園がぁ!?」

 

「そのご主人様とやらが妾を呼んだのが……」

 

 見た瞬間に私の素性を見抜く辺り、妖怪として只者ではないどころか、現在最優先排除対象に指定したので、既に消すしかないなぁ……。存在か、認識と記憶かは選ばせてやろう。

 

「ちょ!? ご主人様ぁ!? 私なにか気に障ることしましたか! 悪いことだって…………………………今はそんなにいたしていませんよ!」

 

「間が長過ぎる。ギルティ」

 

「た、助けてください!? ご主人様プリーズヘルプミー!」

 

「どこからつっこめばいいの……?」

 

 言いたくはないが、永年の経験で魂を見ればだいたいの人となりは分かる。それに従えば、紛れもなくこの妖狐はぶっちぎりの悪妖怪であり、まるで歳の離れた私の一番上の姉にそっく……り……な…………?

 

 

 

「…………若藻大姉様(わかもおおねえさん)……?」

 

「ほえっ……?」

 

 

 

 そう呼ばれた事に驚いた様子に私は半ば確信し、あの悪魔のような姉を思い返して戦慄する。

 

 そして、それと同時に姉が玉藻の前ならば現在地獄で封印されている筈にも関わらず、ここに酷く弱体化した様子で居ることが明らかに可笑しい。

 

「どうして見ず知らずの貴女が、タマモちゃん()の妖狐の里での幼名を………………えっ、えっ? 羽衣狐……羽衣? まっ、まさか、貴女ひょっとして……末っ子の羽衣ちゃんですか……?」

 

「ええ……」

 

「姉妹だったんだ……」

 

 えっ、若藻姉さん……? なんでそんなに余りにも弱く……? 性格も明らかに異なる上、それ以前に九尾だった筈では?

 

「ほどけ!!! 私はお姉ちゃんだぞ!!!」

 

「しばくぞ」

 

 まさかの私側の身内問題の発生を前に、先んじては困惑する白野の顔を立てることにして、この暴れる奇っ怪な生物(なまもの)兼姉なるものを連れつつリビングに通されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 







ピッタリ四ヶ月ぶりの投稿ですね(支離滅裂な発言)



〜 簡易登場人物紹介 〜

岸波白野
見た目はお淑やかで日本人形のような静かな可愛らしさを持つが、カメラを向けると真顔で凄いポージングとかしてくれる女子。イケ魂。

タマモちゃん
ゲゲゲの鬼太郎の玉藻の前のわりと純真な部分ことタマモキャット(アルターエゴ)。

ハゴロモちゃん
実は妹属性持ちでもある姉なるもの。みこーんは遺伝である。

縛妖索
ガチ宝具



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