追跡鶴   作:EMS-10

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※注意※
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ


※この小説内の季節は8月下旬頃となっています。予め、ご了承ください。



第86話・化け物には、化け物をぶつけろ

 

side 提督

 

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

 

16:30。

 

 

「──よし、終わり」

 全ての書類に目を通し、記入漏れや誤字・脱字が無いか確認が終わった。

 集中して執務をしたから、普段より早く終わらせる事が出来た。

 

「お疲れ様です、渡良瀬少佐」

 

「扶桑さんの方こそ、お疲れ様です」

 資料を用意してくれたり、お茶を入れくれたり。色々サポートしてくれた。お陰で滞り無く執務を進められた。本当にありがとうございます。

 

「この後は、18:00に加賀さんの着任祝いを行います。それまで特にやる事が無いので、扶桑さんは自由に過ごしてください」

 着任祝いの料理は、涼月と阿武隈の二人が作ってくれている。少し、様子を見に行こうかな?

 

「あ、あの、渡良瀬少佐……」

 

「なんでしょうか?」

 食堂に行こうと思ったら、扶桑さんに声をかけられた。

 

「そ、その……」

 

 歯切れが悪い。どうしました?

 

「最近、事務的な会話ばかりで、あまり渡良瀬少佐と個人的なお話が出来ていないので、その……あの……」

 

(可愛い)

 頬を赤く染めて、もじもじしている。可愛い。大事なことなので2回言いました。

 

「確かに、最近扶桑さんとは、個人的な会話をしていませんね。勿論、良いですよ?」

 たまにはコミュニケーションを取ろう。

 

「本当ですか?」

 

「えぇ」

 あらま。花が割れ咲くような、とてもいい笑顔(・ ・ ・ ・)を浮かべていらっしゃる。決して、首を見つけた時に見せる、恐怖を感じさせる方のイイ笑顔(・ ・ ・ ・)ではない。

 

(さて、何を話そうか?)

 何か話題……やべぇ、思い付かない。どうしよう?

 

「あの、渡良瀬少佐。早速ですが、お聞きしたい事があります」

 

「……えっ?あ、はい。いいですよ?」

 話題を考えていたら、先にそう言われてしまった。何を聞いてくるのだろう?少しだけ不安だ。

 

「では、早速ですが、渡良瀬少佐と加賀さんについて、お聞きしたいのですが……」

 

「俺と加賀さんについて、ですか?」

 あれ?扶桑さんの様子が少しおかしいぞ?具体的に言うと、目から少しずつハイライトが消え始めている。あの、扶桑さん?ハイライトが消え始めていますよ?どうしたんですか?あと、どうやってハイライトを消しているんですか?

 

「はい。先日、大本営から艦娘──加賀さんが異動してくる、とお話をされた際、お知り合いだと仰っていました」

 

 あー、はいはい。言ったね。あの時は深く聞かれなかったから、説明しなかったんだよな。

 

何時(いつ)、何処で、お知り合いになられたのでしょうか?」

 

 おーい、扶桑さん、ハイライト。ハイライトさんが、じわじわと消えていっていますよ?

 

「加賀さんと知り合ったのは、俺が幼い頃です」

……あの〜、一瞬でハイライトが完全に消えましたよ?一瞬で瞳の色が暗くなりましたよ?早くハイライトオンにしてください。

 

「幼い頃、ですか?」

 

「えぇ。俺が幼い頃から、14歳になるまで、瑞稀──じゃない。瑞鶴達と一緒に過ごしてきました」

 いかん。一応まだ業務中だから、実名じゃなくて艦娘名で言わないと。

 

「……そう、ですか」

 

……あれ?プレッシャーが消えた。それに、ハイライトが元に戻った。

 

「所謂、幼馴染、というものでしょうか?」

 

「そうなりますね」

 幼馴染とは言っても、加賀さんは俺と瑞鶴より、三つ歳上だけど。

 

(歳上だからか、よく俺達の世話を焼いてくれたなぁ……)

 昔から爺ちゃんは、俺に対して厳しかったから、加賀さん──麻子さんに思い切り甘えたりした。そのせいで、学校の友人達に「甘えん坊」だの言われて、からかわれたっけ。

 

「羨ましいです」

 

 今、何か言ったのかな?小声だったから、聞き取れなかった。

 

「加賀さんは、瑞鶴さんと翔鶴さんのように、渡良瀬少佐の幼少期をご存知なんですね?」

 

「えぇ、そうです」

 

「……あの、渡良瀬少佐。もしよろしければ、渡良瀬少佐の幼少期について、教えて頂けませんか?」

 

「えっ?何で?」

 正直言って、黒歴史ばかりで恥ずかしい。あんまり話したくない。

 今でもガキみたいな言動を取っているけど、昔は今の比じゃ無かった。

 

 例えば、瑞鶴──瑞稀と一緒に、仮○ライダーごっこや、プ○キュアごっこをして怪我したり。

 例えば、瑞稀と一緒に、大量のカエルを箱詰めにして、それを加賀さん──麻子さんの鞄の中に入れて、ガチ切れした麻子さんにジャイアントスイングされたり。

 例えば、瑞稀と一緒に、俺の爺ちゃんにワサビ入りのシュークリームを食わせて、俺だけ爺ちゃんにタコ殴りにされたり。

 他にも色々あるが、割愛する。

 

「渡良瀬少佐の全てを。どんな人生を歩んできたのかを、知りたいんです」

 

「……」

 

「勿論、私の事もお話します。……ダメ、ですか?」

 

「……分かりました。お話します」

 そこまで言うのなら、話そう。

 とりあえず、瑞稀や麻子さん、翔鶴──静流の事は、本人のプライバシーとかがあるから、俺の事だけ話そう。

 

(間違っても、あの事(・ ・ ・)は話さないようにしよう)

 両親が居ないから、色々こじらせて、麻子さんに対し、やらかした事は決して言えない。黙っておこう。

 

 

 

side 提督 out

 

 

 

───────

────

 

 

side 加賀

 

 

──第603鎮守府、加賀私室──

 

 

17:50。

 

 

「……やってしまった」

 時計を見ると、17:50を指していた。私の着任祝いが始まるのは、18:00。

 元々荷物がそんなに多くないから、荷解きにそこまで時間はかからなかった。しかし、荷解きを終えて瑞鶴──瑞稀ちゃん達の所に行き、お話をしようと思っていたけど、持ち込んだ荷物──アルバムが目に入り、思わずそれを見ていたら、何時の間にか結構な時間が経ってしまった。

 

(着任祝いの時に、お話しましょう)

 後悔しても時間は戻らない。それに、今日から私は彼女達と同じ鎮守府で過ごす事になります。話すチャンスは幾らでもあります。──ノックされた。誰かしら?

 

『秋雲です。加賀さん、居ますか?』

 

「えぇ、居るわ」

 秋雲さんでしたか。恐らく、そろそろ私の着任祝いが始まるから、こうして声を掛けてくれたのかもしれません。

 

『あ、良かった、居てくれて。そろそろ加賀さんの着任祝いが始まるから、呼びに来ました』

 

「ありがとうございます。今行きます」

 アルバムを仕舞って……よし。行きましょう。

 

 

 

side 加賀 out

 

 

 

───────

────

 

 

side 提督

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

17:50。

 

 

「──という事があったんです」

 

「昔はとても、やんちゃだったんですね」

 

「黒歴史なので、他の娘達には言わないでくださいよ?」

 もし言われたら、確実にいじられる。断言出来る。

 あと、扶桑さんの幼少期を聞いたけど、昔からストイックだったんですね。言葉は悪いけど、予想通りだった。

 

「えぇ、言いません。約束します」

 

「……お、そろそろ時間だ」

 時計を見ると、加賀さんの着任祝いが始まる10分前だった。

 一時間以上、扶桑さんと話をしていたんだけど、あっという間だったな。

 

「本当ですね。そろそろ食堂へ行きましょうか?」

 

「そうしましょう。扶桑さん、俺は執務室の鍵をかけるので、一旦外に出てください」

 

「分かりました」

 

 扶桑さんにそう言い、退室させる。

 えっと、エアコンのリモコンは……あった。エアコンの電源を切って、書類は……全部仕舞ってある。鍵も掛けてある。

 

(スマホを持って、執務を出て──暑いな)

 最近、気温が下がってきたけど、それでも暑い。さっさと執務室に鍵を掛けて食堂に行こう。

 

 

…………。

 

 

──第603鎮守府、食堂──

 

 

18:05。

 

 

「え〜、では、加賀さんの着任を祝って……乾杯!」

 

「「「「「「乾杯!」」」」」」

 

 俺が乾杯の音頭を取り、乾杯と言うと、全員がそれに倣い、乾杯と言って隣の娘達とグラスを軽く打ち付け合った。

 

「提督、乾杯」

 

「おう、乾杯」

 

「提督、乾杯〜!」

 

「ほい、乾杯」

 俺の右隣に座る矢矧と、正面に座る秋雲が、グラスを持って俺に見せてきた。迷わずグラスを軽く打ち付け合う。

 そうそう、席だけど、俺は左端に。加賀さんは右端に座っている。理由?特に無い。

……嘘言いました。襲われる可能性があるから、加賀さんから一番離れた席に座りました。

 あと、矢矧は第603鎮守府の中で数少ない良識人だから、俺の精神を守る為、彼女の隣に座る事にしました。

 

 矢矧なら、暴走する事無いし、安全だ。勿論、海風もだ。

 しかし、海風が座っている席は、足柄や摩耶、由良、翔鶴との距離が近い。だから、矢矧の近くの席にしました。

 

「(<⚫>)(<⚫>)」

 

 わ〜い!加賀さんが瞳孔かっ広げて、こっちを見てくる〜!こわ〜い!

 

「……提督、加賀さんと翔鶴さんが、こっちを見ているわよ?」

 

 

「(<⚫>)(<⚫>)」

「(<⚫>)(<⚫>)」

 

 

「気のせいだ、矢矧。ほら、料理を食べようぜ?」

 これは、カボチャを使った料理だ。間違いなく涼月が作った物だな。

 こっちはスコッチエッグだ。阿武隈が作った物だな。あいつ(阿武隈)、ガッツリした物が好きだ!って言っていたからな。

 

「いや、明らかに見ているわよ……」

 

「うん、知ってる」

 ほら、冷めないうちに食べようぜ?皿によそって矢矧に差し出す。

 

「……何で加賀さんの隣に座らなかったの?」

 

「加賀さんに襲われる恐れがあるから、一番離れた席に座った(瑞鶴や翔鶴とゆっくり話をしてもらう為だ)」

 いかん、本音と建前が逆だった。やっちまった。

 

「貴方ねぇ……はぁ。ただでさえ、貴方を巡ってのトラブルが頻発しているのに……」

 

 ごめんよ?矢矧。トラブルを起こさないよう、しっかり言っておくから、頭が痛そうに顔をしかめないで?

 

「こんなんじゃ、計画が狂うわ……」

 

「何か言ったか?」

 

「そのうち刺されるんじゃない?って言ったのよ」

 

「怖い事言わないでくれ……」

 少し前までなら笑い飛ばしていたけど、最近は笑えなくなった。特に娼鶴(・ ・)。日に日に言動が怖くなっている。マジで()られるかもしれん。誠くんのように、悲しみの向こうへ()きそうだ。

 

(これ以上放置したら、マズいかもしれない。野原主任が言ってた。放置するのは絶対にダメだ!って)

 昨夜、実力行使されたし。大規模反攻作戦が始まる前。具体的には近日中に、娼鶴(・ ・)としっかり話し合おう。

 

「これも全部、貴方がたらしこんだせいよ」

 

「だから、たらしていないって……」

 

「どうだか」

 

 本当に、たらしてなんかいないよ?普通に接しているだけなのに、やたらと好意を寄せられるんだよ。何でだろう?爺ちゃんから教わった事を実践しているからか?

 

「まぁ、骨くらいは拾ってあげるわ。残ればの話だけど」

 

「その前に助けてくれませんか?」

 死ぬ事前提なの?爆撃とかされて、木っ端ミジンコ……間違えた。木っ端微塵になる事前提ですか?

 

「考えておくわ」

 

 考えておく、って。助けてくれないのかよ……。まぁ、「助けない」と断言されないだけ、マシだけど。

 

 

 

──────────────

 

 

 

20:00。

 

 

「足柄のぉ〜、ちょっといいところ見てみたい!」

「はい!」「そ〜れ!」

 

 摩耶、大鳳、由良。煽るな。足柄は結構な量の酒を飲んでいて、顔が真っ赤なんだぞ?テキーラのストレートを一気飲みさせようとするな。

 

「ごめんなさい、これ以上は飲めないわ」

 

 よし、いいぞ。良く断った、足柄。後で褒めてやる。

 

「「え〜?」」

 

 大鳳、由良。残念そうな顔で不満げな声を出さない。

 

「足柄、ストレートで行けや」

 

 摩耶。煽るな。

 

「……飲まないわよ?」

 

「足柄」

 

「なあに、摩耶?」

 

「ストレートで行けや」

 

「二度目の挑発?乗らないわよ?」

 

「……」

 

 摩耶さんや。そんな小馬鹿にするような顔で、足柄を見ないで?酔ってる足柄のスイッチが入っちゃう。

 

 

「やってやろうじゃねぇかよ、この野郎ッッッ!!!」

 

 

 あーあ。スイッチ入っちゃった。

 

「「「アハハハハ!!!」」」

 

(もうダメだ、止められない。逃げよう)

 足柄達の近くに居たら、巻き込まれかねん。少し距離を取ろう。

 

 加賀さんの着任祝いから約二時間が経過したが、未だ食堂は賑やかだ。

 料理が無くなり、ある程度落ち着いたので、二次会に突入したんだけど、めっちゃカオスな事になっている。

 

(未成年組とアルコールが弱い娘達。そして、夜間警邏組は既に居ない)

 俺も彼女達に紛れて逃げようとしたんだけど、加賀さんと娼鶴(・ ・)から尋常じゃないプレッシャーをかけられたから、大人しく食堂に残る事にした。

 ちきしょう。なんだよ、あのプレッシャー。一瞬で全身から鳥肌が立つわ、キ○タマが縮み上がるわ、貞操の危機を感じるわ……とにかく、あのまま逃げたら俺の部屋に強襲仕掛けて、パパ良瀬(・ ・ ・ ・)にさせられていた。断言出来る。

 

 そうそう。現時点で食堂に残っているのは、俺と瑞鶴、娼鶴(・ ・)、加賀さん、大鳳、扶桑さん、足柄、摩耶、由良の9人だ。

 飲兵衛である千歳さんが残っていない、って?調べ物(・ ・ ・)があるとか言って、二次会に参加しなかった。

 扶桑さんは、酔いが回ったのか、机に突っ伏して寝息を立てている。

 足柄と摩耶、大鳳、由良は飲み比べを。

 瑞鶴と娼鶴(・ ・)、加賀さんは───

 

「みずきのぉ〜、おねぇちゃんはぁ!わたしなのよぉ〜!!」

 

「わたしが、みずきちゃんの、おねえちゃんです」

 

「痛い痛い痛い!翔鶴姉!加賀さん!腕!引っ張らないで───ぎゃあああああ!!?メキって言った!肩の関節がメキって言った!引っ張るのやめ──お゙わ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!゙!゙?゙」

 

───すまん、瑞鶴。今回だけは犠牲になってもらうよ。

 

 さて、瑞鶴達は何をしているのか説明しよう。

 最初、俺は加賀さんと娼鶴(・ ・)に絡まれたけど、一緒に酒を飲み、ある程度アルコールが回った頃に、“加賀さんと娼鶴(・ ・)、どっちが瑞鶴の姉に相応しいんだ?”と二人に聞いた。そしたら予想通り、二人は俺を放置して“どちらが瑞鶴の姉に相応しいか”言い争いを始めた。

 

(お陰で、襲われずに済んでいる)

 アルコールの入っていない、素面の状態だったら、すぐ正気に戻って、俺に襲いかかっていただろうな。

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

「痛いと聞くけど、心の○宮では、既に妊娠しています。だから、何とかなると思うわ」

 

「何ですか、心の○宮って!?意味が分かりません!」

 ちくしょう!やっぱり襲われた!!気を抜いた結果がこれだよ!

 

 気配を消して大人しくしていたら、足柄がコーラのスピリタス割り───コーラとスピリタスの割合が3:7のとんでもない奴を、娼鶴(・ ・)と加賀さんに飲ませた事で、加賀さんは完全に暴走した。

……娼鶴(・ ・)?机に突っ伏して寝てる。

 

静流ちゃん(翔鶴)から聞いたわ。準、あなた、ここ数ヶ月【ピー】していないそうね。ダメよ、小まめに発散しないと。身体に悪いわ」

 

「やかましい!」

 娼鶴(・ ・)ァ!オメー余計な事教えてんじゃねェ!!

 

「ほら、私が手伝ってあげるから、さっさと【自主規制】しなさい」

 

「出来るか!」

 あっ、こら!椅子から引きずり降ろさないで!?ズボンのベルトに手を掛けないで!?くそっ、離れない!ここまでか!?

 

(……いや、まだだ。まだ、終わらんよ!)

 諦めるな、俺。諦めたら、試合は終了しちまう!

 あの手(・ ・ ・)を使うしかない!

 

(スマホ、スマホ……あった!)

 右手と両足で加賀さんに抵抗し、左手でスマホを胸ポケットから取り出し、操作。幸い……と言って良いのか分からんが、加賀さんはズボンを脱がす事に夢中で、スマホを操作している事に気付いていない。

 

(電話帳を開いて……これだ!)

 慌てず、冷静にスマホを操作し、目当ての電話番号をタッチ。頼む、出てくれ!出てください!

 

「何をしているの?」

 

「あっ……」

 やべっ、スマホを操作していた事に気付かれた!

 

「誰に連絡をしたのですか?」

 

 くそっ、スマホを取られた。けど、既に操作は終わって、呼び出し中だ。残念だったね!

 

「」

 

 あっ、加賀さんがスマホの画面を見て、硬直した。それもそうか。俺が連絡した相手は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、こちら、綾波です』

 

 

 大本営本部所属、綾波型駆逐艦一番艦、綾波の適性者、綾波さんなのだから。

 そうそう。俺、綾波さんの本名を知らないから、綾波さんと呼ぶ事にしている。電話帳にも、「綾波さん」で登録している。

 

「夜分遅くすみません!綾波さん、渡良瀬です!助けてください!」

 呆然としている加賀さんからスマホを奪い取り、叫ぶ。ついでに、スピーカーモードにする。これで加賀さんにも聞かせられる。

 

 さて、何故俺が綾波さんの電話番号を知っているのか説明しよう。

 あれは、加賀さんが執務室に来て挨拶をし、退室した後、知らない番号から俺のスマホにSMSが届いた。

 恐る恐るSMSを開くと、送り主は綾波さんだった。内容は、綾波さんの電話番号とメアド。そして「加賀さんに襲われそうになった時、気軽に連絡してください」と書かれていた。

 以上、説明終わり。

 

……何故俺の電話番号を知っていたのか聞きたかったけど、やめておいた。世の中、知らない方が良い事もある。

 

『随分と切羽詰まっているみたいですねぇ〜』

 

 はい。めっちゃ切羽詰まっています。

……さて、後は綾波さんに任せよう。

 

『……加賀さん、私の声、聞こえていますかぁ〜?』

 

 間延びした声だけど、恐怖を感じる。あっ、これ、キレているね。

 

『異動する前に、あれほど注意したのに、早速破りましたね?』

 

「」

 

 おぉう。アルコールで真っ赤だった加賀さんの顔が、一瞬で青くなったぞ。まるで信号機みたいだ。

 

『ダメじゃないですかぁ〜、加賀さん。少し、頭冷やそうか……』

 

「」

 

……あっ、加賀さんが倒れた。

 

「綾波さん、あの……加賀さんが倒れました」

 

『あらぁ〜?そうですか。もっとお説教をしようと思っていたんですが……』

 

 何を言うつもりだったんだ?気になるが、聞かないでおこう。

 

『渡良瀬提督、すみませんが、加賀さんが起きたら、こう伝えてくれませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次やったらカチコミするぞ』

 

「」

 

『……渡良瀬提督?』

 

「……アッ、ハイ。ワカリマシタ。伝エテオキマス」

 俺は何も聞いていない。殺意と狂気が混じった声なんて、聞いていない。

 

『では、よろしくお願いします。……あっ、そろそろ時間なので、これで失礼しますね?』

 

……通話が切れた。

 

「」

 

 加賀さんが泡を吹いて痙攣してる。どうしよう?

 

(とりあえず、医務室に運ぶか)

 

 

 

side 提督 out

 

 

 

───────

────

 





次回予告


 昨夜は何やら騒がしかったな。何があったんだ?
……分かった、聞かないでおく。
……さ、さぁ、気持ちを切り替えて、仕事をしようか、相棒!
 えっと、今日の予定は───ん?電話だ。こちら、第603鎮守府です。……相棒、第8492離島鎮守府の小嶋提督からだ。
……どうした、相棒?……えっ!?レ級が出現した!?


第87話・超弩級重雷装航空巡洋戦艦、襲来


「血が出るのなら……


殺せる筈よ」



【補足的なナニか】

・悲しみの向こうへ…元ネタはアニメ「School Days」で流れた曲。
 歌自体が陰鬱としていて、更にこの歌が流れたシーンで……ここから先は、各自で調べて下さい(但し、自己責任でお願いします)。



以上、補足終了。
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