原作とは異なる設定・描写が含まれています
暴力的及び、グロテスクな描写が含まれています
本人達は大真面目にやっています
今日も第603鎮守府は平和です
※この小説に登場する人物達は全員、特殊な訓練を受けています。決して真似をしないでください。
※この小説内の季節は、8月下旬頃となっています。予め、ご了承ください。
side 提督
──第603鎮守府、執務室──
22:20。
皆が出撃して約二時間近くが経った。そろそろ第一艦隊が、敵艦隊と遭遇してもいい頃だ。
しかし、未だ敵艦隊を発見した報告は入らない。
昼間ならともかく、今は夜。幾ら千歳さんが「夜間でも、探照灯や照明弾が無くても、艦載機を発艦させられる」とは言っても、索敵機で見つけるのは非常に難しい筈。それだから、時間がかかっているのかもしれない。
(何処だ?何処に居る?)
敵艦隊には姫級──空母棲姫が居ると、小嶋提督から報告を受けている。もしかしたら、空母棲姫が俺達の裏をかこうと、進行ルートを変更した可能性がある。
(鬼・姫級は非常に頭が良いと言われている。奴らなら、やりかねん──ッッッ!?)
無線が入った!素早く手に取り、スイッチを入れると──
『こちら第一艦隊旗艦、千歳です。__海域にて、敵艦隊を発見。距離、約50,000m。数は12。編成は
千歳さんの冷静な声が聞こえてきた。
見つけたか。小嶋提督から受けた報告と同じ数と編成だ。
しかも、見つけただけでなく、気付かれていないときた。
(どうやれば敵艦隊に気付かれず、発見する事が出来るんだ?)
気になるが、今はそれどころじゃない。考えるのは後だ。今は指示を出して、足止めをさせろ。
「了解した。千歳さんは艦攻・艦爆を発艦させて叩いてくれ。足柄と阿武隈は、千歳さんが航空攻撃を行った後、照明弾で敵を照らし、主砲と副砲で敵艦隊に牽制、注意を引き付けてくれ。由良と初霜、夕立は迂回して敵艦隊に接近し、撹乱しろ 。探照灯を使うタイミングはそちらに任せる。全員、決して無理はするな。いいな?すぐに第二艦隊を向かわせる。それまで持ち堪えてくれ」
『『『『『『了解!』』』』』』
いよいよ始まる。落ち着け。冷静になるんだ。俺が慌てたり冷静さを失ったら、的確な指示や判断を下せなくなる。そうなったら、皆を危険に晒す恐れがある。
……考え事をしている暇はないぞ。急いで第二艦隊に連絡を入れよう。
「こちら、提督だ。第二艦隊、応答せよ」
周波数を第二艦隊に合わせ、無線を入れる。程なくして応答してくれた。
『こちら、第二艦隊旗艦、扶桑です』
「扶桑さん、第一艦隊が敵艦隊を発見しました。場所は__海域です。敵の編成と数は──」
必要な情報を、扶桑さんに伝える。
『
「扶桑さん達は現在、何処に居ますか?」
扶桑さんのブリーフィングのイントネーションが少し可笑しかったけど、突っ込まないでおこう。
『私達は現在、__海域に居ます。第一艦隊の居る海域までは、30分──いいえ、20分以内に到達出来ます』
「了解。到達次第、報告してください」
『了解しました』
これで良し。後は彼女達を信じよう。
(頼むから、全員無事に帰ってきてくれ)
無線を置き、ゲ○ドウポーズを取りながら、何度目になるか分からないが、全員の無事を祈る。
「……」
再び静寂に包まれる。やけに時計の針の音が大きく聞こえる。
「……」
秘書艦用の椅子に座る葛城も、無言のまま不安そうな顔をして、俺と無線を交互に見ている。
何か、気の利いた事でも言って安心させてやりたい。
しかし、なんて声をかけてやれば良いか分からない。
(浦樹なら、こういう時、気の利いた事を言えるんだよな……)
俺の同期で親友の、浦樹──加藤中佐の事を思い浮かべる。今度、大規模反攻作戦が終わったら、教わろうかな?
(……おい。今はそれどころじゃねぇぞ。余計な事を考えるな!)
今は目の前の事──指揮を執る事に集中しろ!気を引き締めろ!!皆を死なせたいのか!!!
(落ち着け、冷静になれ)
深呼吸して心を落ち着けよう──ッッッ!?無線が入った!
『こちら、第一艦隊旗艦、千歳です』
「こちら提督だ。何かあったのか!?」
第一艦隊に指示を出して、10分少々経った頃。再び千歳さんから無線が入った。
まさか、誰かが被弾したのか!?それか、敵の増援が現れたのか!?
『私の航空攻撃で、敵艦隊──
被害報告ですが、レ級と空母棲姫の敵艦載機による攻撃で、足柄さんと初霜ちゃんが小破したけど、他の娘達に被害はありません』
「」
『もう1
「」
『……提督?』
「……あ、あぁ、
ごめん。一瞬、脳が千歳さんの言葉を理解し切れなくて、フリーズしちゃった。
……えーと、12隻居た敵艦隊の内、6隻を撃破したのか。
……あれ?10分ちょっとしか経っていないよ?敵艦隊とは約50,000mも離れていたと言っていたから、艦載機でも目標地点に到達するのにそこそこ時間が掛かる筈。移動時間を含めて、10分ちょいで6隻も撃破するの早くない?早過ぎでしょ?殲滅速度早過ぎィ!
凄ぇや。流石千歳さんだ。何でこんなに凄い艦娘がウチに居るんだろう?
……わーお。無線から砲撃音に混じって、由良と夕立の
『もう。しっかりしてください。……現在、逃げた
「待って。ちょっと待って。
由良さんと夕立ちゃんが、とっても楽しそうで提督は安心しました。あと、最後にめっちゃ流暢な英語で叫んだの、初霜だね。うん。間違いない。
……信じていた。俺は信じていた。初霜は普段はともかく、戦闘時はまともだと信じていたんだけどなぁ……。
俺、ヤベー側になったら、由良に瑞雲ラリアットのやり方を教わるんだ。
それから、扶桑さんに剣術を教わって、妖怪首置いてけになるんだ。
……そうだ、涼月に
……正気に戻れ。今は戦闘中だ。しっかりしろ。俺までヤベー奴らの仲間入りしたら、ツッコミ役が。ストッパー役が不在になって、確実に第603鎮守府が魔境と化す。
もし俺までヤベー奴側になったら、良識人達──矢矧と海風、木曾。あと一応、山城と鈴谷。それから阿武隈と大鳳も良識人に含まれているな。この7人の胃と精神をブッ壊す事になるぞ。それだけは絶対にダメだ。あんなに良い娘達に負担を掛けるのは、やめよう。
……今頃気付いたけど、良く考えるとウチの鎮守府、まともな娘少なくね?俺を含めて26人中、8人しかまともな奴が居ない。ヤバくね?いや、ヤバい(確信)。
誰か、まともな艦娘が異動。若しくは着任してくれないかな?
……なんか、フラグが立ちそうだから、これ以上考えるのはやめよう。これ以上ヤベー艦娘が来たら、俺の胃と精神が持たない。いいか、これ以上ヤベー艦娘が異動して来るなよ?フリじゃねーぞ?
……あっ、まともな艦娘なら大歓迎です。高待遇を確約します。三食昼寝付き。今ならなんと!おやつも付きます!勿論おやつは日替わりです!さぁ、
……だから、ふざけている場合じゃねぇって言ってんだろ。大馬鹿野郎が。真面目モードになれ。
『もう。しっかりしなさい?もう一度言うわ。
レ級1
……レ級1
「……わか、った」
声が掠れちゃった。けど、仕方ないよね?苦戦すると思ったら、殆ど被害を受けず、敵艦隊を壊滅寸前まで追い込んだのだから。もう突っ込まない。何も考えない。阿武隈の巻舌全開で、ドスの効いた声なんて聞いていない。
……阿武隈を良識人の枠から外そう。そうしよう。
「……ね、ねぇ。今、すんごい報告と笑い声とかが聞こえたんだけど……聞き間違いかしら?」
葛城が顔を引き攣らせながら、声をかけてきた。うん。聞き間違えていないよ?安心して?
「……連絡しよう」
呆然としている暇は無い。急いで第二艦隊に伝えなきゃ。
side 提督 out
───────
────
─
side 山城
「……」
「私達の方に向かっている、か……」
突っ込どころしか無いけど、突っ込むのはやめておくわ。じゃないと、私の精神が持たない。
「ははっ!流石第一艦隊。凄ぇや」
「摩耶。顔中、冷や汗だらけよ?大丈夫?ハンカチ貸すわよ?あと、出撃前に持ってきたお茶飲む?喉乾いていない?塩飴舐める?」
「いや、大丈夫だ。ありがとよ、山城」
「……そう」
断られてしまった。お節介だったかしら?
「第一艦隊の皆が、敵でなくて良かったよ……」
激しく同意するわ、木曾。もし第一艦隊の連中が敵だったら……想像したくないわね。
(というか、戦闘力高過ぎよ!どうやれば10分足らずで壊滅寸前まで追い込めるの!?)
分からない。全く持って理解不能。
(自信無くすわ。ふふ……不幸だわ……)
結構頑張っているんだけど、未だ扶桑姉様や、
(まだまだ鍛錬が足りないのかしら?)
若しくは、やり方が悪いのか。
……しっかりしなさい、私。今は己の無力さを嘆く時じゃない。
(今、私が。いいえ、私達がやるべき事は、敗走した戦艦レ級一隻と、空母棲姫一隻の殲滅よ。気持ちを切り替えなさい!)
「──来た」
「!?」
扶桑姉様の気配が変わった。さっきまで穏やかな頬笑みを浮かべていたけど、今は鋭い目付きで、第一艦隊が居ると思われる方向を睨んでいる。
直後、電探が反応。数は2つ。艦娘識別信号は──無い。深海棲艦ね。速度は約35ノット前後で航行している。結構早いわね。
距離は約10,000m。今日は深海棲艦の瘴気が濃いからか、普段よりも電探の索敵可能範囲が狭い。おまけにレーダーにノイズが走って、正確な位置を特定出来ない。
「総員、戦闘用意!山城は第一主砲に照明弾、第二・第三主砲に徹甲弾を装填。摩耶さんと時雨は対空戦闘の用意。木曾さんと満潮ちゃんは雷撃の用意をして?探照灯は、私が合図するまで使用しないで?いい?」
「「「「「りょ、了解!」」」」」
鋭い声で、姉様が静かに言った。なんて冷たい声。それに、殺気が含まれている。そのせいで私を含め、皆の返事が──
「山城、考え事をしている暇は無いわよ?ほら、砲撃の用意をしなさい」
「はっ、はひっ!?」
ひいぃ!姉様が怖い!あ、あわわ、慌てるな、落ち着くのよ。冷静に。そう、冷静になりなさい。
(だ、第一主砲に照明弾を。第二・第三主砲に徹甲弾を装填、発射用意急いで!)
妖精さん達に指示を出し、準備を整える。
慌てるな。焦るな。落ち着くのよ。
(距離、約9,000m。
戦艦娘にとって、10,000m以内は近距離と言って良い。この距離と敵の航行速度、そして風速と波なら──
(確実に当てられる!)
今まで数え切れない程、主砲を撃ってきた。だから感覚で分かる。当てられる。……装填が完了したみたい。次は狙いを定める。
(距離、敵艦の速度、風速、湿度、波──良し)
狙いは既に定まった。あとは撃つだけ。
「山城、いい?」
「はい。何時でも撃てます!」
「そう。私が合図したら、照明弾を撃ちなさい。その後、私が斉射して足止めをするわ。敵の足が止まったら、そこを徹甲弾で狙撃しなさい」
「了解!」
第一主砲の射角を、やや上に向ける。この角度なら、丁度敵艦隊の上空で炸裂する。
「行くわよ?用意──撃てッッッ!!!」
「第一主砲──撃てッッッ!!!」
姉様の合図を聞き、素早く照明弾を撃つ。
轟音。それと同時に発砲炎が発生し、真っ暗な海を一瞬だけ照らした。
(狙いは完璧。あとは照明弾が炸裂するのを待つだけ)
その間に、第一主砲に徹甲弾を装填、第二・第三主砲の角度を調整し、何時でも撃てるようにする。
……まだ?まだ炸裂しないの?
(──発砲炎!)
艦娘の力で強化された視力で、遠くから一瞬だけ光が見えた。それから少し遅れて、発砲音が鼓膜に響いた。
(撃ってきた!)
あの発砲炎の大きさから推測するに、レ級が撃ったわね。恐らく、私の発砲炎を見て、位置を特定したのでしょう。それにしても、私の発砲炎を確認してから撃ってくるまでの時間が早い。かなりの手練かもしれない。
(……のんきに考えている場合じゃないわよ!早く皆に回避行動をとるよう、言わなきゃ──)
「敵の発砲炎を確認!総員、回避行動!」
──と思ったら、姉様が言ってくれた。ああもう!何をやっているのよ、私!しっかりしなさい!
急いで回避行動をとる。
直後、まるで太陽のような眩い光が、上空に現れた。照明弾が炸裂した!
(敵は……敵は何処!?──居た!)
距離、約7,000m。レ級と空母棲姫の姿を確認。更に、鈍色に輝く物体が複数、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。あれは──砲弾ね。
(皆の位置は──良し、当たらない)
レ級の砲弾を見て、弾着地点を予測。あの位置なら、当たらない。至近弾にもならない。
(安心している場合じゃないわ。第二・第三主砲、発射用意!)
回避行動をとりながら、妖精さん達に指示を出し、狙いを定める。
もうそろそろ、姉様が斉射を行い、敵の足止めを行う。
「主砲、斉射!──撃てッッッ!!!」
──撃った!
斉射した事により、一瞬だけ周囲が明るくなり、ほぼ同時に凄まじい発砲音と衝撃波が、私の全身に襲いかかってきた。
けど、艦娘の力と妖精さんの力で緩和され、鼓膜や眼球にダメージは受けない。
(弾着まで、10、9、8、7、6、5、4、……弾着──今ッ!)
約6,500m先に、大量の水飛沫が上がるのが見えた。
姉様が放った砲弾は、レ級と空母棲姫のすぐ近くに落ちた。至近弾だ!しかも、数発が空母棲姫の飛行甲板に直撃した。
(流石です、姉様)
見た所、中破したみたいね。これで空母棲姫は艦載機を発艦する事が出来なくなった。けど、レ級はほぼ無傷。奴が艦載機を放ってくる恐れがある。警戒しておこう。
(さぁ、私の役割を果たすわよ!)
姉様の斉射により、レ級と空母棲姫の動きが止まった。距離があるから、弾着まで少し時間がかかる。だから、奴らが今居る位置にではなく、奴らが動く先を予測し、そこに狙いを定めて偏差射撃を──
「山城!今よ!痛いのを、ぶっ喰らわせてやれ!!」
「だっ、第二・第三主砲、よーい──撃てッッッ!!!」
姉様!やめてください!突然、バ○ルシップの迷台詞を言わないで!?
吹き出しそうになるのをなんとか堪え、主砲を放つ。
(──7、6、5、4……弾着──今ッ!)
放たれた砲弾は、予測通りの位置に向かっていたレ級と空母棲姫に直撃した。けれど──
(……チッ。浅いか)
レ級は咄嗟に身を引き、砲弾の威力を減衰させた。
空母棲姫は中破した飛行甲板を投げ付け、レ級と同じく砲弾の威力を減衰。致命傷を防いだ。
(第一主砲は……撃てる!)
丁度今、装填が終わった。けど、照明弾の光が消えた。今撃つのは悪手ね。
「雷撃用意!木曾さんはレ級に、満潮ちゃんは空母棲姫に。時雨は未だ雷撃戦に参加せず、そのまま対空戦闘の用意。山城、照明弾を準備して!」
「「「「了解!」」」」
姉様が指示を出した。木曾と満潮の二人は酸素魚雷を搭載しているから、当たれば甚大な被害を与えられる筈。
(時雨も酸素魚雷を搭載しているけど、時雨は摩耶と一緒に対空戦闘要員として働いてもらうから、雷撃戦に参加していない)
第二主砲に照明弾を装填しながら、頭の中で艦隊の皆の役割を把握。
……今の所、レ級から艦載機は放たれていない。けど、何時飛ばしてくるか分からない。早く奴に損害を与え、発艦を阻止しないといけないわ。
「魚雷の特売セールだ。遠慮せず、受け取りな!!」
「深海に帰りなさい!」
木曾と満潮が魚雷を撃った。その直後、電探に複数の反応が入った。これは──
(艦載機!?)
方角は、レ級から。もしかしたら、千歳さんの艦載機かと思った。けれど、艦娘識別信号は無い。飛ばして来やがった!
「姉様!」
「分かっているわ」
焦った声で姉様を呼ぶと、冷静な声が返ってきた。何故そんなに冷静なんですか!?
照明弾の光は完全に消えてしまった。そのせいで、敵艦載機の位置が把握出来ない。こんな状態じゃ、対空戦闘なんて出来やしない。
(撃てば、発砲炎で位置を悟られる!照明弾は!?まだ装填は終わらないの!?)
妖精さん達に確認すると、あと10秒はかかると言われた。マズいマズいマズい!どうする!?
「──山城」
「ね、姉様?」
焦っていると、再び姉様に声をかけられた。相変わらず冷静な声だ。何故そんなに冷静なんですか!?
「いい?山城。皆。良く聞いて。これから、私は皆から離れて、探照灯を照射。敵の注意を引き付けるわ」
「そ、そんな!?そんな事をしたら、集中砲火されます!」
「私なら大丈夫よ。心配しないで?」
「ね、姉様?」
「山城。私を信じて?」
「……分かりました」
真剣な顔で私を見てきた。……そこまで言うのなら、信じます。
「では、行ってくるわ」
……あの、姉様?飛行甲板を放り投げてどうしました?不法投棄は良くありませんよ?艤装に装着された探照灯を外して、頭に付けて何をする気ですか?装束のせいで、丑の刻参りする人みたいですよ?
「ふふっ……ふふふふふ……
首狩りの時間です♪」
……あっ、スイッチ入った。
「」
「」
「」
「」
……皆、固まっているわ。
(……あっ、爆発音)
酸素魚雷が当たったみたいね。結構派手な爆発が二箇所から起きた。けど、反応は消えていない。まだ沈まないの?しぶといわね。
「摩耶さん、時雨、対空戦闘の用意をお願い」
「「りょ、了解!」」
姉様、皆の士気が下がっています。どうしてくれるんです?
(──ッ!?エンジン音!)
微かにだけど、敵艦載機のエンジン音が聞こえた。だいぶ近付いて来ている。
『探照灯、照射!』
姉様は何時の間にか私達から結構離れた所──目測、約200m先に居て、探照灯を照射し始めた。あの、姉様、一体どうやって僅かな時間でそこまで移動したのですか?アレですか?御爺様から教わっていた縮地を使ったのですか?
……敵艦載機が、姉様に向かって殺到し始めた。かなりの数ね。目測、100機以上。普段なら絶望していた。けど、なんだろう。姉様が被弾するビジョンが見えない。謎の安心感がある。
「……敵艦載機、発見。対空戦闘、用意」
呆然としていると、摩耶が震えた声でそう言った。
色々言いたい事があるけど、今はやめておこう。
『私は此処だァ!!!』
見ちゃった。見てしまった。
新月のように口を吊り上げ、瞳孔をかっ広げて
……あっ、斬撃で艦載機と爆弾を斬り割いた。
(怖いです、姉様)
佐世保に居た時よりも怖いです。……ボーッとしている場合じゃないわよ。皆に指示を出さなきゃ
「……摩耶、時雨、固まっていないで、対空戦闘を開始して?」
「……お、おう」
「わ、分かった」
良し、対空射撃を開始してくれた。
照明弾は──装填完了。急いで撃とう。射角を調整して──
「第二主砲、照明弾、用意──撃て!」
上空目がけて発砲。これで良し。あとは──
(──発砲炎?)
私の視界の左端が光った。思わず光の見えた方を向くと──
「───???!」
「「山城さんッ!!?」」
……あ、私、吹っ飛んでる。宙に浮いている。
同時に、顔の左半分に激痛が走った。何が起きたの?
「───ガッ!?ゴボッ!!?」
頭が状況を把握する前に、顔面から海に突っ込んでしまった。痛い!苦しい!
「──ぶはっ!?」
慌てて起き上がる。うぇっ、しょっぱい。痛い。
「山城さん、大丈夫ですか!?」
木曾の焦った声が聞こえてきた。……あれ?左耳が聞こえない。それに、左目が見えない。おまけに、左手が動かない。動かそうとすると激痛が走り、とても熱い。これ、折れているわね。
「山城さん!しっかりして!」
「み……ち……しお……なに、が……?」
起きたの?そう言いたかったけど、言えなかった。
(歯が、無い!?)
左半分の歯が殆ど無くなっている。その事に驚き、言葉が出なくなってしまった。
……明るくなった。照明弾が炸裂したのね。
(血塗れだ……)
照明弾のお陰で、自分の身体が見えるようになった。
まず、装束を見ると、白い着物が真っ赤に染っていた。これ、血?
(い、痛い!!)
再び激痛が襲ってきた。痛む箇所──顔の左側に手を当てると、ぬるりとした、感触が。……かなり出血している。
(もしかして──)
「レ級が砲撃して、それが山城さんの顔に直撃しました!」
(嗚呼、やっぱり)
木曾が教えてくれた。うわぁ、顔面直撃かぁ。ふふふふ……不幸だわ……。
「こちら第二艦隊、木曾だ!提督!山城さんがレ級の砲撃で負傷した!」
『何ッ!?
「大破だ!顔に直撃して、左目が潰れ、左腕が折れている!」
『──ッッッ!!?』
(うぅ、ふらつく……)
木曾が無線で
(……今はそれどころじゃないでしょ!)
何時までも立ち止まっていたら、狙い撃ちにされる。急いで動こうと思ったけど、ふらついて上手く動けない。
自分の
どうやら第一艦隊を私達の所に向かわせようとしたけど、向こうが相手しているレ級が生命の危機を感じたのか、ノーマルクラスから
(艤装は……大破している。けど、無線は辛うじて無事ね)
妖精さん達に確認してもらったところ、全部の主砲──砲身がひしゃげていて、発砲出来ないと言われた。これじゃあ、戦えないわね。
幸い、機関には深刻なダメージが入っていないから一応航行出来るけど、10ノットも出せない。
(くそっ。くそっ!くそぉ!!!)
何故あの時。視界に光が見えた時、その方向を見た?あれは発砲炎だった。なのに、私は回避行動も、防御姿勢もとらなかった。その結果がコレよ!
(情けない──雷跡!?)
辛うじて見える右目が、私達目がけて向かってくる魚雷を捉えた。しかも、量が多い。重雷装巡洋艦娘である木曾並──いいえ、それ以上の数の魚雷が、扇状に広がって接近。しかも、複数回に分けて放たれている。まるで、魚の群れのようね。
「ぎょら……よ!にげ……!」
くそっ!声が出ない!!
「ッ!?木曾さん!」
「分かってる!」
私の視線の先を見て、何が起きたのか理解し、満潮と木曾は魚雷目掛けて発砲し始めた。どうやら衝撃を与えて爆発させる気みたい。けど、数が多い上に、レ級が主砲と副砲を放ってくるから、狙いを定められない。
満潮が姉様に無線を入れ、援護を求めたけど、距離があり、更にレ級の放った艦載機と空母棲姫を同時に相手しているから、間に合いそうに無い。
木曾が摩耶と時雨に援護を要請しようとしたけど、二人は尋常ではない数の敵艦載機を相手にしていて、とてもじゃないけど要請出来そうにない。
(木曾と満潮の機動力なら逃げられる。今なら間に合うから、私を放って逃げなさい!)
そう言おうとしたけど、声が出ない。
私、足手纏いになっている。
(いっその事、楽になろうかしら?)
血を流し過ぎたせいで、視界が暗い。それに、激痛が襲ってきて辛い。もう、楽になりたい。そうだ、あの魚雷に当たれば、楽になれる……。
「くそっ、数が多過ぎる!」
「ああもうっ!キリがないっ!」
木曾、満潮、もういいわ。もう、いい。逃げて。
けど、今から逃げても間に合いそうにない。……そうだ。私が盾になればいいんだ。そうだ、そうしよう。
(動け。動きなさい。動けって言ってんでしょうが!)
己の身体に鞭を打つも、ピクリとも動かない。そんな……。
私、
『山城!諦めるな!』
……あら、
(……何を考えているのよ)
バカじゃないの?
『死ぬな、山城!頼む!死なないでくれ!!』
(あーあ。そんな泣きそうな声を出さないで。男でしょ?)
……ったく、だらしないわよ?キ○タマ付いてるでしょ?
もし、私が死んだら、
(ははは。想像したら笑えてきたわ)
顔をくしゃくしゃに歪めて泣いている姿を想像したら、笑えてきた。
……死にたく、ないなぁ。死にたく、ない。
死んで、たまるか。
死んだら、皆が悲しむ。
死んだら、御父様達が悲しむ。
死んだら、姉様が悲しむ。
死んだら──
(──
それはダメ。絶対にダメ。
生きろ。
生きなさい。
生きる為に──
(──抗え)
その術を、私は持っている。
けど、身体が痛い。とても痛い。
歯が折れている。
左目が潰れている。
左腕が折れている。
とても痛い。痛いけど──
(──私は未だ、生きている)
何時だったか。私が幼い頃、御祖母様が教えてくれた言葉がある。
『──!──城!山城ッッッ!!!』
「……きこ……えてる、わ……」
だから、そんな泣きそうな声を出さないで、
「──ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ゙ッ゙ッ゙!゙!゙!゙」
『やっ、山城!?』
はいはい、山城よ。あー、叫んだせいで喉が痛い。
「……ッ」
痛い。けど、気にするな。この程度の痛みで、根を上げるな。
歯を食いしばり、痛みに耐えながら立ち上がり、素早く飛行甲板を外し、迫ってくる魚雷目がけて投げる!
「──えっ?」
「──は?」
木曾と満潮が驚き、振り返ってきた。それもそうだ。突然背後から高速で何かが飛んできたのだから。
(飛行甲板は──当たった)
戦艦のパワーで投げた飛行甲板は、迫り来る魚雷の一つに直撃。爆発を起こした。その爆発が連鎖し、次々に魚雷が爆発。ふふっ、やったわ。
(まだ来るわね)
複数回に分けて放たれたからか、まだまだ魚雷が迫って来ている。なら──
「こいつ、で──どうだッ!」
右手で、ひしゃげた砲身を一本掴み、引っこ抜き、それを投げ付ける。
直撃。爆発。
再び魚雷が迫って来た。
もう一度砲身を掴み、引っこ抜き、投げる。
直撃。爆発。
まだ、来る。
それから、魚雷目がけてひしゃげた砲身を投げ付け、処理をした。被害は──無い。
……疲れるわね。それに、痛い。
(……まだよ。まだ、終わっていない)
レ級が、まだ健在だ。倒れるのは今じゃない。あのムカつく笑みを浮かべる化け物が、まだ生きている。
(ムカついてきた)
私の左目を潰しやがったお礼をしないといけないわね。まぁ、入渠すれば治るけど、痛みは完治するまで続く。
(ふっ……ふふっ……うふふふ……あははははは……)
嗚呼。ムカついてきた。こんな目に遭わせておいて、ヘラヘラ笑っている。ふざけるな。
「くふふふふ……くふふふふふふふふふ……」
そうだ。奴の目ん玉を、ほじくってやりましょう。そうすれば、私がどんなに痛い思いをしているか分からせる事が出来る。あははっ!!
……照明弾が消えた。あーあ。これじゃあ何処にいるか分からないわね。まぁいいわ。必ず見つけ出して、目ん玉をほじくってやる。
艤装の機関、出力全開。……えっ?無理?全開にしたら、爆発する?知るか。いいからやりなさい、妖精さん達。……やれ。従え。命令。しばくぞ。
……よし。これで追いかけられる。
「ふふふふふふふふふふふふふふ……何処だ……何処に居る?出てこい……出てきなさい……出てこいよ……レ級ぅ……出てきなさい?出ろ。出ろっつってんだろ……
戦艦レ級出ておいで〜♪出ないと目玉をほじくるぞォォォォオオォォ!!!」
side 山城 out
───────
────
─
次回予告
第二艦隊の皆さん、大丈夫ですか?
……扶桑さんは、空母棲姫の首を撥ねた。何時も通りね。
摩耶さん、木曾さん、時雨ちゃん、満潮ちゃん達は無事みたい。良かった。
……あら?山城さんがレ級を追い回している。
──あっ、レ級を押し倒した。あらあら、レ級の左目をほじくっているわ。とっても楽しそう。……じゃなくて、援護しなきゃ。
ほら、艦載機の皆さん、殺っちゃってください♪うふふっ♪
第89話・SAN値直葬
「見て見て、提督!これ、レ級のお目目!とってもキモイわ♪うふふっ♪うふふふふふふっ♪」
【補足的なナニか】
・How do you like Firework?…直訳すると、「花火はお好きですか?」
この小説の初霜は
初霜「きたねぇ花火だ」
・瑞雲ラリアット…第603鎮守府所属、長良型軽巡洋艦四番艦、由良が使用する奥義の一つ。
由良本人によると、横須賀鎮守府に所属する、瑞雲を愛してやまない、とある航空戦艦に無理矢理教えられたらしい。
・宝生永夢ゥ!何故君が(ry…元ネタは「仮面ライダーエグゼイド」で、「
・痛いのを、ぶっ喰らわせてやれ!!…元ネタは、映画「バトルシップ」に登場する、熟練見張員戦艦ミズーリの元搭乗員のおじいちゃんが言い放った台詞。
チキンブリトーはいいぞ。
以上、補足終了。