追跡鶴   作:EMS-10

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俺が艦娘になったきっかけは、子どもの頃、親に連れられ艦娘の総合火力演習を見た事だった。
華麗に舞う様に、海上を走る姿。
狙いを外さず、的を撃ち抜く姿。
今でも覚えている。
身体に電流が走ったような衝撃を受けたのを。


Page:KISO
憧れ


 

──第603鎮守府、鍛錬場──

 

「……っ…はっ…」

 

「……っ…っ……」

 

「おら、どうした相棒!書類仕事ばっかで、身体が鈍ったのか?」

 

「はっ、言ってろ!」

 

 

………………。

 

 

「……ふぅ」

 

「ほい、スポドリ」

 

「おっ、有難い!」

 

最近暑くなってきたから、しっかり水分補給をしないと、死ぬからな。水分だけでなく、糖分や塩分も摂れよ?

 

「ぬるいな……」

 

「キンキンに冷えた物を飲むと、身体。正確には内臓に負担がかかるからな。だから、あまり冷やしていないんだ」

 

「相変わらずだなぁ……」

 

「さて、少し休憩したら、また走り込みだ!」

最近、相棒の奴、書類仕事ばかりで身体を動かしていない、って言っていたから、こうして一緒にトレーニングをしている。それにしても、

 

「俺のペースに付いてこられるとは。流石だな」

準備運動をした後ランニングをしたら、相棒(提督)は俺にしっかり付いてきた。ちょっとばかし本気を出したんだが……。

 

「あそこでも、お前と葛城の3人でよく自主トレしたなぁ」

 

「そうだったな」

 

懐かしいな。あれから、もう5年以上経つのか。時の流れは早い。

 

 

【Page:KISO】

 

 

──15年前、某所──

 

 

夏。

 

 

「あ"っ"ち"〜」

「アイス食べたい〜」

「裸になろうかな〜」

「だらしないですよ」

 

「姉ちゃん達……」

目の前には、一人を除いて暑さに参ってダウンしている三人の姉ちゃん達の姿があった。

 

「蘭〜、ちょっくらコンビニにひとっ走りしてアイス買ってこい」

「お前の金で」

「アタシ、ガ○ガリ君ソーダ味でよろしく〜」

「姉さん達!末妹をパシらせない!」

 

長女と次女、三女がアイスを買ってくるよう言ってきたが、四女が注意してくれた。

 

「姉ちゃんの命令は絶対。逆らう奴はベアハッグしてやる!!」

「なら、私は引っ掻く」

「んぁ〜、そんじゃ、あたしゃ蹴っ飛ばす」

「いい加減にしなさい!」

 

「……」

今日も姉達は四女を除いてだらけている。この程度の暑さで根を上げていたんじゃ、先が思いやられる。

本日の気温、28℃。湿度は60%を超えている。これでもまだ涼しい方だ。日によっては35℃を越す事だってある。

 

「お母さんに言いつけますよ!」

 

「アイスは姉ちゃんが買ってこよう」

「いやいや、私が」

「まぁまぁ、ここはあたしが……」

 

四女の一言で、姉ちゃん達の態度が一変した。

うちの母ちゃんは怖い。とにかく怖い。父ちゃんですら、怒った母ちゃんの前では泣きながら土下座するレベルだ。それほど怖い。

 

「いいよ、姉ちゃん達。買ってくる」

暑さに強い自分が行けばいい。それに、世話を焼くのが好きだ。だから買いに行くと言った。

 

「いやいやいや、お前はここに居ろ」

「姉ちゃんの言う事は素直に聞いておくべき」

「そうそう。母さんにぶっ飛ばされたくないから行かなくていいよ」

 

しかし、姉ちゃん達はそう言って行かせてくれなかった。本当に気にしなくていいのに。

 

 

………………。

 

 

「総合火力演習?」

 

ある日、母ちゃんが私達に、近くの鎮守府で開催されるイベントに行かないか?と誘われた。

夏休みの宿題、日記のネタになるかもしれない。自分は二つ返事で行くと返事をした。

ちなみに、姉達は自分と四女を除いて不参加だった。理由は暑いから出掛けたくない、という物だった。それを言った姉達は母ちゃんに軽くシバかれた。

 

 

………………。

 

 

「はぐれるとマズいから、しっかり手を繋ぎましょう」

 

「分かった」

四女にそう言われ、素直に手を繋ぐ。

自分達は今、近くの鎮守府に来ていた。

艦娘。

今から約60年前に現れた化け物、深海棲艦に対抗出来る唯一の存在。艦娘達のお陰で、平和に暮らすことが出来る。学校でそう習った。

普段はニュース位でしか艦娘を見れないけど、今日は違う。生の艦娘を見ることが出来る。

 

(楽しみだ)

強くて、カッコイイ。姉ちゃん達はプ○キュアみたいな存在だ、とか言っていた。だから、興味がある。

母ちゃんが、鎮守府の門の前に立っている、変な色の服を着た男の人達と話をしている。どうやらチケットを見せて確認されているようだ。そして、暫くすると中に入れた。

 

「人が多いから、はぐれないようにしな」

 

母ちゃんにそう言われた。周りを見ると、人だらけ。町の夏祭りより多いかもしれない。

はぐれないよう、しっかり付いて歩く。

 

「艦娘達が演習をするのはお昼過ぎだから、それまで鎮守府を見て回るよ」

 

「分かった」

どうやら、艦娘を見れるのはまだ先みたいだ。

それから、母ちゃんと四女の三人で鎮守府を見て回った。お昼に食べたご飯と、デザートのアイス入り最中(モナカ)が美味しかったのを覚えている。

 

 

………………。

 

 

『艦隊、この長門に続け!』

 

『『『『『了解!!!』』』』』

 

 

お昼を食べたあと、艦娘達の演習が始まる時間になり、指定された席に着いていると、スピーカーから凛々しい女性の声が聞こえた。そして、艦娘達が現れ、海上を滑るように走って行った。

 

(凄い)

最初にそう思った。

人間が海上に浮いている。ぎそう?という物を付けているから浮けるらしい。学校で習った。

スクリーンに映されている艦娘達を夢中になって見ていると、長門という艦娘が再び指示を出した。

 

『砲撃、用意────撃てッ!!!』

 

「ッッッ!!?」

轟音。

それと同時に、離れた所に設置されていた複数の的が粉々に砕けた。

 

(カッコイイ!)

あれだけ離れた所から当てられるなんて。

学校の休み時間に、輪ゴム鉄砲で的を撃つ遊びをした事があるから分かる。いい腕をしている。

 

(あの長門って艦娘。カッコイイな……)

凛々しく、美しく、勇ましい。

 

(……なりたいな)

長門みたいな艦娘に。

これが、きっかけだった。

 

 

 

──7年数ヶ月前──

 

 

「だから、艦娘になりたいんだよ!」

 

「何度言えば分かるんだ!ダメだ!!」

 

あれから数年が過ぎた。

俺はあの時、母ちゃん達と見た演習がきっかけで、艦娘になる事を決意した。

その事を母ちゃんに話したら、「なりたいなら、なればいい」と言ってくれたが、父ちゃんは認めてくれなかった。

 

「艦娘はな、命懸けで戦う職業なんだぞ。それに、適性が無ければなれない。お前には無理だ」

 

「決め付けんなよ!」

 

「ともかく、ダメな物はダメだ!」

 

そう言うと、父ちゃんは部屋に戻ってしまった。

 

「くそっ!」

どれだけ頼んでも、親父は首を縦に降ってくれなかった。

流石の母ちゃんも、こればかりは力尽で父ちゃんを説得してはくれなかった。

 

「蘭」

 

「……母ちゃん」

項垂れていると、母ちゃんが声をかけてきた。

 

「あんた、そんなに艦娘になりたいのか?」

 

「……なりたい」

 

「どうしてだい?」

 

俺は、正直に話した。

母ちゃん達と見た総合火力演習がきっかけで、艦娘に憧れたこと。

艦娘になって、深海棲艦から人々を守りたい事。

俺が話している間、母ちゃんは真剣な顔で聞いてくれた。

 

「……そうか」

 

「……」

 

「アンタは、昔っから正義感強かったからね」

 

そう。俺は、自分が言うのもなんだが、正義感が強い。

困っている人を見かけると、迷わず声をかけ助けようとする。

 

「それに、世話焼きでもある」

 

言葉は悪いが、ぐうたらな姉達──四女を除く──を見ていると、世話を焼きたくなる。そのせいか、学校の友達の世話をよく焼いている。学校の通信簿にも「面倒見が良い」と先生から評価されている。

 

「艦娘ってのは、厳しい職業だよ?」

 

「知っている」

命懸けで深海棲艦と戦ったり、タンカーや漁船等を警護したり、体を張る事が多いと学校やニュースで知った。

 

「毎日厳しい訓練があるよ?」

 

「上等だ」

体力が無いと、やっていけない。これも学校等で知った。

 

「どんな事があっても、挫けちゃいけない」

 

「俺は簡単に挫けたりしない」

常に死と隣り合わせ。だから、精神的に辛くなる場面がきっとある。

 

「本当に艦娘になりたいのかい?」

 

「なりたい!」

決意は揺るがない。俺は、絶対艦娘になる!なりたいんだ!

 

「死ぬ覚悟はあるか?」

 

「無い!」

 

「ほぅ?何でだい?」

 

「死ぬ覚悟を決めて物事に当たるってのは、ハナっから諦める事と同じだからだ!」

俺はそう思っている。決して、死ぬ覚悟を決めるという事をバカにしているわけじゃない。

 

「……」

 

「……」

無言。

母ちゃんが睨むように俺を見てくる。目を逸らさず、睨み返す。

 

「……合格だ」

 

「……は?」

母ちゃんは突然、ニヤリと笑いながらそう言った。

 

「もし、死ぬ覚悟はある!なんて言ったら、お前が艦娘になるのを止めてた」

 

「……試したのか?」

 

「あぁ」

 

「……」

 

「今度、近くで適性検査が行われる。受けてきな。父ちゃんは、あたしが説得する」

 

「……ありがとう」

 

「礼を言うのは、艦娘になってからにしな」

 

「……あぁ!」

 

 

 

………………。

 

 

数日後。

 

 

「……で、何故姉貴達まで居るんだ?」

適性検査を受けに来たら、姉貴達も付いてきた。

 

「いや、母ちゃんに無理矢理……」

「同じく」

「断ったら、ぶっ飛ばされそうだったから仕方なく」

「蘭が心配だから、私も受けに来たのよ」

 

「姉貴達……」

四女以外、理由が酷かった。

 

「……おっ、あたし達の番みたい」

 

受付から、俺達の名前が呼ばれた。

そして、5人で適性検査を受けた。その結果は……。

 

 

 

………………。

 

 

「はっはっはっ!まさか、全員適性持ちとはねぇ!」

 

リビングに母ちゃんの笑い声が響く。対して父ちゃんは、顔面蒼白になって顔を俯かせていた。

 

「流石、自慢の娘達だ!」

 

再び豪快に笑う母ちゃん。言葉は悪いけど、俺の母ちゃんはワイルドというか、言動が男っぽい。どこぞの空賊の母みたいな性格をしている。

 

(前向きというか、豪快な所がいい)

そんな母ちゃんに憧れて、一人称を俺にして、立ち振舞いも母ちゃんに似せている。最初は姉貴達にやめるよう注意されたが、やめなかった。

 

(今更、女性らしい立ち振舞いをする気は無い)

俺はこのままで居たい。だから、やめない。

 

(まぁ、そのせいで同性によく告白されるんだが……)

母ちゃんの言動を真似するようになってから、周りから兄貴姉貴と呼ばれるようになった。更に、男っぽい顔のせいか、学校で同性によく声をかけられる。

 

「さて、今夜は宴だ!あんた、買い出しに行くよ!」

 

「どうしてこうなった……」

 

「男がウダウダしてんじゃないよ!」

 

「いだだだだだ!耳!引っ張らないでくれ!ダ○ボになっちまう!」

 

父ちゃんは母ちゃんに耳を引っ張られ、買い出しに行ってしまった。

 

「……適性持っていたなんて、信じられない」

「現実を受け止めるしかない」

「働きたくないでござる」

「シャキッとしなさい!」

 

「……」

母ちゃん達が居なくなると、姉貴達が次々に愚痴り始めた。なんか、ごめん。

 

「まぁ、なっちまったもんはしょうがない」

「やる時はやる」

「まぁ、気楽に行きましょ〜?」

「大丈夫かしら……」

 

四女だけ、不安そうだった。

 

(なれた。なれたぞ!)

憧れだった。その夢が、叶った。

テンション上がってきた!

そういや、養成所で訓練を受けるんだったな。検査を受けた後、軍の人にそう説明されたのを思い出す。

 

(楽しみだ)

何が起ころうが、乗り越えてみせる。絶対に!

拳を強く握りながら、そう思った。

 

 

───────

────

 

 





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俺が全て背負ってやる。道なら幾らでも作ってやる。お前ら、行くぞ!俺に続け!!!


※というわけで、キャプテン・キソーの過去編開始です。
木曾の過去編では、鈴谷編で明かされなかった事を補足します(但し、全部ではない)。


※現在、活動報告にてアンケートを実施しています。よろしければご協力お願いします。


Q:木曾の姉達は、球磨型軽巡洋艦の適性持ち?
A:そうです。

Q:この時の木曾は、眼帯しているの?
A:していません。何故、眼帯を付けるのかは次話で明らかになります。

Q:四女って、大井の適性持ち?
A:そうです。

Q:本編第16話で、初霜が言っていた大井と、木曾の姉(四女)は同一人物?
A:同一人物です(迫真)

Q:総合火力演習で、木曾の母親と会話していた男性って、誰?
A:憲兵です。


その他、疑問に思った事がありましたら、活動報告の質問箱にコメントしてやってください。
お答え出来る内容でしたら、お答えします。
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