追跡鶴   作:EMS-10

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※お知らせ※
 突然ですが、作者のリアルの都合で、今後暫く不定期更新になります。
 その為、更新頻度が大幅に下がります。予め、ご了承下さい。
 活動報告で「次話の完成度」を公開し、どれほど完成したのか、お知らせしようと思っております。
 
※注意※
グロテスクな描写が含まれています
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ


※この小説内の季節は、8月下旬頃となっています。

※前話の次回予告の内容を、一部修正しました。



第93話・ドジッ娘なんて、言わせません!

 

side 提督

 

 

──第603鎮守府、提督私室──

 

 

翔鶴の暴走から数日後。

21:30。

 

 

「この場合、どのような陣形が一番効果的か答えよ、か……」

 敵艦隊と味方艦の艦種と配置を見るに、この場合は──

 

(大規模反攻作戦が近いが、それが終わってすぐに、提督免許の更新をしなきゃならない)

 昨日、大本営から免許更新の書類が届いた。のんびりしている暇は無い。

 胃が痛いから、とか。精神的に弱っているから、とか。泣き言を言ってる場合じゃないぞ。

……まぁ、簡単な問題ばかり(俺基準)だから、そこまで苦戦しないで済みそうだけど。

 

 医務室で翔鶴に襲われ、あと少しで卒業(・ ・)しかけた事件から数日が経った。

 幸い、卒業(・ ・)する直前。入渠していた筈の翔鶴が脱走した事に気付き、半ギレ(・ ・ ・)状態になった魔王(千歳さん)が降臨し、助けてくれたから事なきを得た。

 魔王本人が「マジギレはしていなかった。アレは半ギレに入るか入らないか」って言っていたけど、アレ、絶対マジギレしてたでしょ。もしマジギレしたら、どうなるんだ?

……やめよう。思い出すだけで、身体が震えてきた。

 

 そうそう。身体で思い出したけど、翔鶴に襲われた日。朝から身体が熱く、調子が悪かったが、翌朝になると、胃潰瘍以外は元の体調に戻ってくれた。もしかしたら、熱中症になったのかもしれない。

 一応、皆に水分補給を小まめに摂り、時々身体を冷やすよう、注意しておいた。

 

 話が脱線したな。戻すぞ。

 

(翔鶴は正気に戻ってくれたのか、あれ以降、ぶっとんだ言動を取らなくなった)

 魔王によるお仕置き(制裁)を受けた翔鶴は、以前のお淑やかな淑女に戻ってくれた。

 

……お仕置きの内容を聞きたい?

 魔王が高笑いしながら艦載機格納庫で、翔鶴を打楽器(ボッコボコ)にした、とだけ言っておく。

 それ以上は思い出すだけで胃が痛むから、勘弁してくれ。

 

……また脱線させちまった。話を戻す。

 翔鶴は淑女に戻ってくれた。しかし、

 

(時々幼児退行するようになった)

 仕事中、ぶっ飛んだ言動は一切取らなくなった。

 俺を見ても、アブナイ(・ ・ ・ ・)笑顔ではなく。ハイライトも消えず。普通に微笑んで挨拶するだけで、ナニ(・ ・)もしてこない。

 けど、仕事が終わると、俺の所へ来て甘えるようになった。

 

 最初は無言で俺に抱き着いて、徐々に言動が幼児退行していく。

 幼児退行すると、「頭なでなでして?」と、おねだりしてきたり。

 「一緒に寝て?」と懇願してきたり。

 「身体洗って?」と満面の笑顔で頼んできたり。

 

(断りたかったけど、断ると泣くんだよなぁ……)

 それも、結構大きな声で。だから、全部叶えてあげた。

……流石に風呂は水着を着用させたが。勿論、俺も水着を着用した。

 さっきも一緒に風呂に入り、翔鶴を自室──瑞鶴と翔鶴の私室に帰した。

 勿論、瑞鶴や俺に好意を寄せてくれている娘達に説明し、黙認してもらっているぞ。

 

……何度も話を脱線させているな。すまねぇ。元に戻す。

 唯一の救い……と言って良いのか分からんが、頭を撫でてあげたり。一緒に寝てあげたり。身体を洗ってあげている間、ナニ(・ ・)も仕掛てこない。ずっと大人しくしてくれている。

 

(けど、精神が不安定だ)

 仕事中は普段通りだが、何かの拍子で完全に幼児退行する恐れがある。

 それだから、明日。カウンセリング課に連れて行って診てもらう。

 

(先日、カウンセリング課に連絡を入れて、予約を取る事が出来た)

 幸いにも空きがあったから、明日診てもらえる。

 しかも、診てくれるのは、由良や榛名。そして大鳳を診て、元に戻してくれた凄腕カウンセラー、橿原(かしわばら)先生だ。

 

(あの先生なら、大丈夫だろう)

 確実に、元に戻してくれる。

 色々アレ(・ ・)──仕事中に日本酒飲みだしたり。いきなりエグい下ネタかましてきたりするけど。

 

……ただ、元に戻っても、全てが解決するわけじゃない。

 解決するには、やっぱり、

 

(抱くしかない、よな……)

 じゃないと、また暴走する恐れがある。

 何時までも放置するわけにはいかない。放置した結果、翔鶴──静流は暴走した。

 

(……覚悟、決めるか)

 決めるか、じゃねーだろ。決めろ。

 今もずっと、待ってくれている。いい加減、腹決めろ。

 

(……やってやる。やってやるぞ!)

 何時までも待たせて、不安にさせるな!

 

(よし!抱くぞ(・ ・ ・)!)

 覚悟完了。俺は、瑞鶴──瑞稀と翔鶴──静流を抱く。そして、俺に好意を寄せてくれている娘達も、望むのなら抱く。責任を取る。

 やるぞ、俺。逃げるなよ、俺。

 

(……その前に、ゴム買っとかないと)

 あと、抱く(・ ・)のは大規模反攻作戦が終わって、残党処理をして、提督免許を更新して落ち着いてからにしよう。

 

(女性がハジメテ(・ ・ ・ ・)を経験した時って、結構身体に負担が掛かるらしいし)

 それが原因で、戦闘に支障が出て轟沈──死亡する恐れがある。だから、全てが片付いて落ち着いてからにしよう。

 

(場所はどうしよう?)

 此処(第603鎮守府)の私室は全て、妖精さん達の素敵技術で作られているから、完全防音仕様だけど、

 

(一応、そういった事(・ ・ ・ ・ ・ ・)が出来るホテルを探しておくか)

 もし、瑞稀と静流(瑞鶴と翔鶴)達が「此処以外の場所がいい」と言った時の事を考え、念には念を入れ探しておこう。

 

……とりあえず、今は試験勉強をして、終わってからネットで検索すっか。

 

 

 

──────────────

 

───────

 

──

 

 

 

──大本営、カウンセリング課──

 

 

翌日。15:00。

 

 

「渡良瀬少佐、ハッキリ言うわ。さっさと抱け(・ ・)。いいな?」

 

「アッ、ハイ」

 分かりました。抱きます。

 大規模反攻作戦が終わって、提督免許を更新してから、になりますが。

 

 翔鶴をカウンセリング課に連れて来て数時間後。

 今回は大本営を彷徨(うろつ)かず、資料室に篭って試験勉強をしていると、診察が終わったと連絡が入り、診察室に向かうと、無事元に戻せた(・ ・ ・ ・ ・)と言われた。

 しかし、完全には治っていないらしく、今は正常な思考・言動をしていても、少し経てば、また暴走する恐れがあるそうだ。

 そして、先生から幾つか説明を受け、完治させるには抱く(・ ・)しかない、と言われた。

 

「あんまり大きな声じゃ言えないけど、互いに合意の上で、きちんと避妊するなら、抱いても(・ ・ ・ ・)黙認される。これ、大本営のお偉いさんや憲兵達が言っていた。よーく覚えておきな」

 

「わ、分かりました」

 すいません、知っています。野原主任にこっそり教えてもらいました。しかし、言わない。言えない。

 もし野原主任に教えてもらったから知っている、と言ったら、機密にあたる情報だから、それを漏らした野原主任に、何かしらの処罰が下される恐れがある。勿論、それを聞いた俺にも。だから、黙っておこう。

 

「しっかし、少佐。あんた、真面目だねぇ」

 

「真面目、ですか?」

 そうですか?俺、結構ふざけるし、真面目じゃないと思うんですが。

 

「あぁ。言葉は悪いけど、提督になれた男って、結構荒みやすい。勿論、艦娘になれた女も。大抵、提督と艦娘がそこそこ仲良し(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)になったら、どちらからともなく、手を出す(・ ・ ・ ・)モンなんだ。

 けど、少佐は真面目だから、艦娘と仲が良くても、一切手を出していない。……まぁ、それが原因で、少佐の(鎮守府)の翔鶴がああなったんだけど」

 

「……」

 

「とにかく、解決するには抱く(・ ・)しかない。少佐に好意を寄せる艦娘は多いんだ。結構アピールされているんだろ?翔鶴から聞かされたよ」

 

「さ、されています……」

 言葉だけでなく、行動でもアピールされています。あと翔鶴、何言ってくれてんの。ウチ(第603鎮守府)の内情バラさないで?

 

「さっさとケリを付けないと、手遅れになる。具体的に言うと、少佐の同期の提督、加藤浦樹(かとううらき)中佐みたいな事になる」

 

「浦樹……加藤中佐みたいな事になる、ですか?」

 いけね、思わず名前で言っちゃった。今は一応仕事中だ。役職名で呼ばないと。

 

「そうさ。艦娘達が何度アピールしても、何時まで経っても手を出してくれない。そのせいで加藤中佐の所の艦娘達が精神的に不安定になって、加藤中佐を襲い、第08鎮守府の地下にある営倉に監禁した」

 

「マジっすか」

 知っています。野原主任と、浦樹本人から教えてもらいました。けど、言わない。だから、わざと驚いたフリをする。

 

「しかも、聞いた話じゃ、加藤中佐は艦娘達に結構ボッコボコにされたらしい。具体的には、主砲を──勿論、演習用の弾だけど。撃ち込まれたり。大発動艇で轢かれたり。艤装の一部で殴られたり。そして、筋弛緩剤を注射されたり。ちなみに、全治三日程度の軽傷で済んだ」

 

 浦樹……お前、大変な目に遭ったんだな。今度メシ奢ってやる。というか、そんな目に遭ってもよく無事だったな。全治三日程度って……身体頑丈過ぎない?お前、もしかして俺みたいに艦娘と人間のハーフか?

……まぁ、何時か聞けばいいか。今は橿原先生の忠告を聞く事に集中しろ。

 

「少佐も同じ目に遭いたくないだろ?」

 

「はい」

 絶対遭いたくないです。

 ウチの場合、主砲や大発動艇、艦載機だけでなく、瑞雲ラリアットや彗星ラリアット。ポン刀(日本刀)で仕留めに掛かってきそう。

……あっ、それから、究極生命体(涼月)殴殺サキュバス(榛名)に殴られ、抱き締められ、全身の骨という骨を砕かれそうだね。モザイク処理必須の外見になっちゃうね。

 

「なら、さっさとケリ付けな」

 

「……分かりました」

 

「よし。んじゃ、今日はこれで終わりだ。何かあったら、また連絡してくれ」

 

「はい。ありがとうございました」

 さて、翔鶴を連れて帰ろう。

 

 この後、別室で待機していた翔鶴と合流し、電車に乗って鎮守府へ帰った。

 行く時もそうだったけど、翔鶴は終始無言だった。何度か話しかけたけど、申し訳なさそうな顔をするばかりで、会話が続かなかった。

 

 このままじゃ、ダメだ。鎮守府に戻ったら、瑞鶴と翔鶴を俺の部屋に呼んで、大規模反攻作戦が終わって一段落したら、その……二人を。俺に好意を寄せてくれている娘達を抱く(・ ・)事を話そう。

 

(覚悟は決まった)

 俺はもう、逃げない。絶対に、逃げない。

 責任を取る。必ず、取る。

 だから、

 

(あと少し。本当に、あと少しだけ我慢してくれ)

 

 

──────────────

 

 

「……はぁ」

 頭痛くなってきた。酒は飲んでいないのに。

 原因は知っている。さっき診察した艦娘──翔鶴が所属する鎮守府の提督、渡良瀬少佐が原因だ。

 

「蛙の子は蛙、って奴なのかねぇ……」

 (さとる)のような無口じゃないけど、性格というか、考え方が凄く似ている。

 

「少佐、あんたは未だ間に合う。だから、逃げないでくれよ?」

 未だ、あんたの親父()みたいな事にはなっていない。

 頼むから、逃げないでくれ。

 

 

──────────────

 

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

 

翔鶴の診察から数日後。

08:30。

 

 

 

「はい、確認して」

 

「ああ」

 どれどれ?……記載漏れ、誤字・脱字、無し。大丈夫だ。それにしても、達筆だな。

 

「……どう?」

  

「大丈夫だ。ありがとう、山城」

 

「そう、良かった」

 

 あっ、微笑んだ。可愛い……見とれている場合じゃない。仕事しよう。

 

 翔鶴をカンセリング課に連れて行き、診察してもらって数日が経った。

 橿原先生のお陰で、今の所翔鶴は暴走していない。それに、

 

(一昨日、全てが片付いて落ち着いたら、抱く(・ ・)事を話したお陰か、非常に落ち着いている)

 そう。カウンセリングを受け、鎮守府に戻り、全ての業務を終えた後。瑞鶴と翔鶴を俺の部屋に呼び、大規模反攻作戦が終わり、落ち着いたら二人を抱く(・ ・)事を話した。

 最初、二人は俺の言った事が理解出来ず、呆然としていたけど、やがて理解出来たのか、恥ずかしさと嬉しさの混じった顔をしながら、笑顔で「楽しみに待っている」と言ってくれた。

 

(瑞鶴と翔鶴だけでなく、俺に好意を寄せてくれている娘達にも、話した)

 予想では、反対する娘が出ると思っていたけど、そんな事は無く、皆受け入れてくれた。

……まぁ、ほんの少しだけ騒ぎになったけど、ドンパチ始まる程ではなかったから、割愛する。

 そして、瑞鶴と翔鶴のように、笑顔で「待っています」と言ってくれた。

 

(これで、やっぱ無しで!なんて言えなくなった)

 いや、言うつもりなんて、これっぽっちも無いけど。

 覚悟は決まっている。決めた。だから、もう逃げない。待たせない。

 今まで散々逃げ回り、待たせて、不安な思いをさせてしまったんだ。しっかり責任を取らなきゃならない。

 

「……手が止まっているわよ」

 

「……すまん」

 いかん、山城がジト目で睨んでいる。今は仕事中だ。考え事をするのはやめよう。

 

 そうそう。山城で思い出したんだけど、やっぱりこの娘、良識人だったわ。ヤベー奴だと思っていたけど、大間違いだった。

 

(一週間前に、小嶋提督から緊急出動を受け、出撃。その際レ級を素手でシバキ倒し(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)、大怪我を負っていたのに入渠せず。ボロボロの状態で執務室にやって来て、お持ち帰りしてきたレ級の目玉を見せ付けてきたけど──)

 入渠し、傷が完全に癒えると、山城は再び俺の所にやってきて、号泣しながら土下座して謝罪してきた。

 山城が言うには、「死にかけた時、俺の声を聞き、ランナーズハイな状態になって、気が付けばレ級を倒し、目玉を持ち帰っていた」そうだ。

 

(最初は疑っていたけど、山城は心の底から自分のした事を反省し、謝罪してきた。もう二度と、深海棲艦の身体の一部(・ ・ ・ ・ ・)を持ち帰らないと、誓ってくれた)

 だから、俺は山城を信じる事にして、許した。

 ここ数日様子を見てきたが、今の所、レ級と戦闘した時のような、ヤベー状態──薩人鬼(・ ・ ・)には一度もなっていない。

 

 以前よりも、俺に対して毒を吐かなくなったけど、昔の山城──俺の精神と身体に負担をかけない、良識人に戻ってくれた。

 

……ジロジロ見ていないで、仕事に集中しろ。……ノック?

 

「誰だ?」

 書類を捌こうとしたら、執務室の扉がノックされた。

 

『夕張です。先程、大本営から封筒が届きました』

 

「入ってくれ」

 大本営から封筒?なんだろう?まぁ、見れば分かるか。

 入室を促すと、夕張が執務室に入ってきた。

 

「はい、提督」

 

「おう、ありがとう」

 夕張から封筒を受け取る。そこそこ分厚いな。中身は何だろう?

 先日届いた、反艦娘団体についての事かな?それか、大規模反攻作戦についてか?

 ペーパーナイフで封を開け、書類を取り出して──

 

「提督!?突然机に頭を叩き付けて、どうしました!?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「だいっ、だいじょ……大丈夫だ」

 いかん。予想外の書類だったから、思わず執務机に頭を叩き付けちまった。

 そのせいで、夕張と山城が心配そうに声をかけてきた。

 

「いや、そんな顔で言われても、説得力無いわよ……」

 

 あっ、やっぱり?今、少しだけ胃が痛んだせいで、顔を顰めているからな。そのせいで、山城が不安そうな顔をしながら、そう言ってきた。

……執務机に頭を叩き付けて、痛くないのかって?大丈夫だ、毎日カルシウムをしっかり摂取しているから。あと、そっちよりも、胃の方が痛いから何ともない。

 

「提督、何が書かれていたんですか?」

 

「……まだ全部見ていないから、少しだけ待ってくれ」

 一枚目の書類。それも、一番上に書かれた文字しか見ていないから、全容までは分からない。

 

……落ち着け。冷静になれ。色々言いたい事が山ほどあるが、今は書類を読もう。言うのはそれからだ。

 えっと、まずは──あっ、やっぱり見間違えじゃない。

 

「艦娘異動のお知らせ……って、ええっ!?」

 

 俺の隣で書類を覗き込んでいた夕張が悲鳴をあげた。俺も悲鳴をあげていいかな?

 

「何で異動してくるの?」

 

「まぁ、待て。今読む」

 だから、山城。少しだけ大人しくしてくれ。

 えっと、何々──

 

(第8492離島鎮守府から受けた報告──深海棲艦の出現数が、他所の鎮守府が担当する海域と比べて、非常に多く、当鎮守府。つまり、第603鎮守府に所属する艦娘の数では、対処し切れない恐れがある。その為、有明鎮守府、江ノ島鎮守府、横須賀鎮守府。この三つの鎮守府から、計八名の艦娘を派遣(・ ・)させる。

 尚、大規模反攻作戦に参加する一部の鎮守府にも、戦力に余裕のある鎮守府から艦娘を一時的に派遣させ、戦力を拡充させる、か……)

 良かった、一時的な派遣か。てっきり、異動してきてそのまま此処(第603鎮守府)の所属になるのかと思ったよ。

 

「なんだ、一時的な派遣か」

 

「てっきり、此処に所属するのかと思ったわ」

 

 書類を覗き込みながら、夕張と山城がそう言い、安堵のため息を吐いた。

 

 ウチの娘達の戦闘力は、何故かべらぼうに高い(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。高いが、先日の戦闘(緊急出動)では、結構な被害を受けてしまった。

 幾ら質が高くても、全国の中規模鎮守府と比べると、ウチに所属する艦娘の人数は少ない。いや、少な過ぎる。

 深海棲艦に物量で攻められ、消耗戦に持ち込まれたら、対処し切れなくなり、やがて潰される。

 

……色々言いたい事はあるけど、後にしよう。まだ、全部読んでいないからな。

 

「えっと、派遣される艦娘は──」

 別の書類に書かれているみたいだな。どれどれ?

 まず、有明鎮守府から派遣される艦娘は二名か。

 

(どちらも軽巡洋艦娘だな)

 一人は、長良型軽巡洋艦三番艦、名取。

 二人目は、阿賀野型軽巡洋艦二番艦、能代。

 

 それぞれの艦娘の履歴書を見ると、どちらも艦娘歴6年以上。鬼・姫級及び、レ級を多数撃破している。

 かなりの実績を持っている。しかも、

 

(この能代の適性者、ウチ(第603鎮守府)の矢矧のお姉さんじゃん)

 以前、矢矧が写真を見せてくれたから、知っている。矢矧に教えてあげたら、きっと喜ぶだろう。

 

……おっと、今は書類を見る事に集中だ。

 二人の備考欄に、第一次特殊改装(・ ・ ・ ・)済、と書かれているけど、見なかった事にしよう。

 

 さて、次は江ノ島鎮守府。藤原大将の所から派遣される艦娘を確認しよう。

 

(江ノ島鎮守府からは、三名派遣される。内、二名は重巡洋艦娘。一名は駆逐艦娘か)

 派遣されるのは、妙高型重巡洋艦二番艦、那智。

 最上型重巡洋艦四番艦、熊野。

 そして、睦月型駆逐艦七番艦、文月。

 

 この三名も、有明鎮守府から派遣される艦娘と、同等以上の実績がある。おまけに、三人とも第二次特殊改装(・ ・ ・ ・)を施されている。うん。何も言わないよ?

 

(この艦娘──熊野って娘、鈴谷の妹だな)

 時々、鈴谷が写真を俺に見せながら、話してくれた。

 「お嬢様キャラを作っているけど、実際はとんでもない、おてんば娘だ!」って。

 

……はい、次行くぞ。今は仕事中だ。考え事をしないで、履歴書を見る事に集中だ。

 最後は──

 

(横須賀鎮守府。あの提督の所から、か……)

 横須賀鎮守府の提督。軍人家系の出身で、28歳にして大将の階級を持つ、榊原光(さかきばらひかる)大将。正直、あまり良い印象は無い。

 

 元横須賀鎮守府所属の夕立から聞かされた(愚痴られた)が、艦娘に対してあまり友好的に接しようとしない。ただ、「役割を果たせ」としか言わないそうだ。

 

(以前、夕立が此処に異動してきた際、書類に色々嫌味を書いてきた事、忘れていねーぞ)

……思い出したら腹が立ってきた。けど、今は怒るのをやめろ。ムカつくけど、艦娘を派遣してくれるんだ。私情を挟むな、冷静になれ。

 

(……えっと、派遣される艦娘は──)

 戦艦娘一名に、駆逐艦娘二名か。

 まずは戦艦娘から見よう。……えっ?嘘?マジ?なんの冗談?これ、本当?

 

(おいおい、マジかよ!)

 やっべぇ。マジやっべぇよ。まさか、まさかの長門教官が派遣されるとは。この大規模反攻作戦、勝ったな(確信)

 

「嬉しそうな顔して、どうしたの?」

 

「長門教官が派遣される」

 山城が聞いてきたので答えると、目を丸くし、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

 それもそうだ。養成所時代、山城は長門教官に付きっきりで色々教えてもらっていたからな。

 

「マジ!?あのロリコン教官ゲフン!長門教官が!?」

 

「夕張。それ、本人が派遣されてから言っちゃダメだぞ。本当の事だけど、絶対言うなよ?いいな?」

 言ったら長門教官は、確実に拗ねる。拗ねて部屋に引きこもっちゃう。だから言うなよ?

 ちなみに、駆逐艦娘達に「ロリコン教官」と言われると、逆に興奮してやる気出すんだよね、あの人。不思議だ。

 

「アッハイ」

 

……さて、気を取り直して、お次は駆逐艦娘を見よう。

 一人目の駆逐艦娘は、吹雪型駆逐艦一番艦、吹雪か。艦娘歴は7年。実績は……おいおいおい、とんでもねぇスコアじゃねぇか。なんだよ、これ。ウチの夕立と同等か、それ以上だ。

 何この、鬼・姫級の撃破数。しかも、半分以上、吹雪単独で撃破している。おまけに、レ級の撃破数もヤベー。それだけじゃない。艦載機の撃墜数もとんでもない。ウチの涼月並の対空戦闘能力持ってんじゃないの?

 なんか、とんでもなく凄い娘が来るみたいだ。

 

(……さぁ、次だ。えっと、二人目の駆逐艦娘は──)

 俺の精神と胃に負担が掛かるから、これ以上考えるのはやめよう。

 気を取り直して、横須賀鎮守府から派遣される二人目の駆逐艦娘の履歴書を見ると、真っ先に顔写真。正確には、髪の色に目が行った。とても綺麗な、透明感のある青い髪をしている。

 

(綺麗な色だ。まるで海のよう──)

──ん?揺れている。地震か?いや、違う。俺の左側しか揺れていない。なんだ?

 

「」

 

「……おーい、夕張。白目剥いてガタガタ震えて、どうした?」

 地震かと思ったら、俺の左側に居る夕張が震えて揺れを発生させていた。

 

「あばばばばばばば……」

 

 おいおい、どうしたよ?そんな、頭抱えてこの世の終わりみたいな顔して。

 

「うううっ、ううう嘘だ嘘だ嘘だ嘘だだだだ……」

 

……マジでどうした?

 尋常ではないくらいに怯えている。何故?もしかして、

 

「この艦娘──えっと……五月雨の適性者か。この娘を知っているのか?」

 適性艦名を見て、夕張に尋ねると──

 

「私の貞操が喪われる……」

 

「いきなり何言い出すの!?」

 知っているのかと聞いたら、「私の貞操が喪われる」って言い出したぞ。穏やかじゃないな。

 

「……いや、まだだ。まだ、策はある!」

 

「お、おいっ!?」

 突然、五月雨の履歴書を手に持って、何をする気だ……って、オイ!シュレッダーにかけようとするな!

 

「提督ッ!その手を絶対離してください!離さなかったら、私の貞操が無くなると思ってください!!お願ァい!!!」

 

「落ち着け!」

 離したら、五月雨って娘の履歴書をシュレッダーにかけられちまう!そうしたら、派遣されてきた時、色々確認やら手続きやらが出来なくなる!だから、離さん!

 

「えぇ、落ち着いています!落ち着いて、シュレッダーにかけようとしています!」

 

「全然落ち着いていねぇよ!……あっ、コラ!やめなさい!やめっ……ヤメロォ!」

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 





次回予告


 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああああ〜!!!
 何であの娘が艦娘になってるのよォ!このままじゃ、襲われる!提督っ!新兵器開発の許可を!
……えっ?ダメ?そこをなんとか!このままだと、私、
処○膜ブチ破られちゃう!!


第94話・受難


「貴女の産道を通ってきた気がするんです!!!」



【補足的なナニか】

・橿原先生…大本営カウンセリング課に所属する女性。
 言動が色々アレだが、凄腕のカウンセラー。
 名前の読み方は「かしわばら」。声が大坪由佳さんに激似らしい。
 昔、艦娘をやっていたが、とある理由でカウンセラーになった。

・加藤浦樹中佐…中規模の第08鎮守府を運営する提督。渡良瀬準少佐とは同期で、親友。
 好意を寄せる艦娘達に何度も迫られるも、決して手を出さなかった。その結果、襲われる。
 首謀者は、祥鳳型航空母艦二番艦、瑞鳳との事。
 襲われた加藤中佐は、逃げようとしたものの、艦娘達に捕まり、鎮守府の地下にある営倉に監禁されてしまったらしい。
 加藤中佐は逃走する際、「瑞鳳に180mmキャノン砲で足を撃ち抜かれ、転倒した所を荒潮に大発動艇で轢かれ、ふらつきながら逃げようとしたら、村雨に錨で後頭部を殴られ、身動きが取れなくなった所を、祥鳳に筋弛緩剤を注射された!」と証言。
 
・艦娘と人間のハーフ…艦娘だった女性と、男性の間で生まれた子を指す。
 普通の人間同士で結ばれ生まれた子と比べ、艦娘だった女性と人間で結ばれ生まれた子は、身体能力が高く、また、身体が頑丈。
 更に、ハーフの子が艦娘や提督になると、普通の人よりも戦闘力や判断力が高い、という研究結果が出ている。
 近年、艦娘と人間のハーフの子の数が増えてきている。

・長門教官…横須賀鎮守府所属、長門型戦艦一番艦、長門の適性者を指す。艦娘歴15年以上のベテラン艦娘。
 渡良瀬準少佐が提督候補生だった頃、教官役として指導してくれた艦娘の一人。
 凛々しく、勇ましい女性で、ファンも多い。……が、ロリコン。しょっちゅう憲兵さんのお世話になったり、実妹にシバかれている。
 ちなみに、長門の適性者の実妹は、陸奥の適性者。


以上、補足終了。


※タグに「ガールズラブ」を追加します。
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