追跡鶴   作:EMS-10

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※前回のあらすじ※
・提督、皆を抱く覚悟を決める
・翔鶴、カウンセリングを受けて復活
・夕張、錯乱


※注意※
ゆるゆりガチ百合、始まるよ
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ
今日も鎮守府は平和です


※この小説内の季節は、8月下旬頃となっています。



第94話・受難

 

 嗚呼、平和だ。

 とても平和だ。

 俺の心は今、とても穏やかだ。

 執務室の窓から海を眺めながら、胃薬を白湯で流し込む。

……うん、美味い(・ ・ ・)。段々、胃薬が美味しい(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)と思えるようになってきた。味覚が大人に近付いたのかな?

 

「あ、あの、渡良瀬司令官」

 

「なんだい、吹雪(・ ・ )?」

 昨日(・ ・)、横須賀鎮守府から派遣されてきた吹雪が、心配そうな顔をしながら、俺に声をかけてきた。

 

「その、えーと……」

 

「?」

 どうした?顔を引き攣らせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目と鼻と口から大量に血を流しています。今すぐ医務室に行った方が良いのでは……」

 

「大丈夫だよ」

 ニッコリと微笑みながら、俺は吹雪に穏やかな声で返答した。

 俺なら大丈夫だ。これは、余分な血液を排出する為に、目と鼻と口から血を流しているだけだから。

 決して、外から聞こえる夕張と五月雨のやり取りを聞いて、出血しているわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴女の産道を通ってきた気がするんです!』

 

 

『ごめんちょっと何言ってるのか分からない』

 

 

 ごめん、嘘言いました。外で夕張を追い回す、五月雨のブッ飛んだ発言を聞いたせいで、出血しています。

 うん。俺も五月雨が、何言ってるのか分からない。夕張に同意するよ。

 

 

『5分程度でいいので、夕張さんの胎内に還らせてください!!』

 

 

『NO!絶対に、NO!!』

 

 

「五月雨は元気がいいなぁ」

……あっ、五月雨が夕張を押し倒して、スカートを奪った。見ちゃダメだ。目を逸らそう。

……夕張の悲鳴と、タイツが破かれる音が聞こえてきた。これ以上はマズいな。横須賀鎮守府で、五月雨のストッパー役だった吹雪に頼んで、止めてもらおう。

 

「吹雪、大至急五月雨を止めてくれ。やり方は吹雪に任せ──お゙お゙お゙ぼ゙ぼ゙ぼ゙ゔゔぅ゙ぅ゙っ゙っ゙っ゙!゙!゙?゙」

 

「渡良瀬司令官ッ!?」

 

 いけね、吐血しちゃった。そのせいで、真っ白の提督服が真っ赤に染まってしまった。また汚しちゃった。今月で何着目だ?クリーニングに出さなきゃ。

 あと、派手に吐血したせいで血液不足に陥ったからか、ふらついちゃった。あっ、これ、倒れるね。

……と思ったけど、吹雪が慌てて俺を抱きかかえて支えてくれた。

 お陰で倒れずに済んだけど、吹雪の装束に俺の血がかかり、赤く染めてしまった。ごめんよ。

 

「医務室に運びます!気をしっかり持って下さい!!」

 

 あー……視界がぼやけてきた。

 そもそも、どうしてこうなったんだっけ?

 そうだ。五月雨達が派遣されてきて、一日が経って、夕張と五月雨が知り合い──幼馴染という事が判明して、それで……ダメだ、思考が……まと……も……に……。

 

 

 

──────────────

 

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side 提督

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

派遣の知らせが届いて数日後。

大規模反攻作戦開始まで、あと4日。

08:10。

 

 

「……提督、涼月さんから内線です。夕張さんが再び脱走しようとしたみたいです」

 

「そうか……夕張は今、何処に居る?」

 本日の秘書艦、榛名が受話器から耳を離し、そう言ってきた。

 

「現在、早霜さんと涼月さん、時雨さんが拘束し、全身を縛って工廠のクレーンに吊るしたみたいです」

 

「……分かった。直ぐに行くと伝えてくれ。悪いがその間、執務を頼む」

 急いで工廠に行って、夕張を説得しよう。

 

「了解しました」

 

 艦娘の異動──正確には派遣だけど、知らせが届いて数日が経った。ついに、今日の14:00に派遣される。

 

 知らせが届いて直ぐに放送を入れ、会議室に皆を集めて説明したら、多少騒ぎになったけど、直ぐに落ち着きを取り戻し、迎え入れる準備を整えた。

 寝具──布団や枕、食器を購入したり。食糧を買い揃えたり。多少時間は掛かったが、迎え入れる準備は整っている。

 幸いと言って良いのか分からんが、空き部屋は幾つもあるから、派遣される娘達にはそこを使ってもらおう。

 

 余談だけど、新たに購入した寝具等の費用は、使用した金額を書類に記載して大本営に提出すれば、鎮守府の運営資金に上乗せして、支給してくれるそうだ。先日届いた派遣の知らせの書類に、そう書かれていた。

 

 話を戻すぞ。

 派遣される艦娘達を迎え入れる準備を整え、大規模反攻作戦に向けて備えている間、深海棲艦の侵攻は全く無かった。おまけに、哨戒しても駆逐イ級すら見かけなかった。

 嵐の前の静けさ、って感じがして不気味に思えて仕方が無い。

 皆も不気味に思っているらしく、表情が暗かった。

 ただ、直ぐに気持ちを切り替えてくれたのか、今は暗い顔をしなくなった。

 

……そうそう。話は変わるが、派遣の知らせが届いてから、夕張がおかしくなった。

……夕張は元からおかしいだろ、って?気の所為だ。

 

(知らせが届いてから、何度も脱走していたなぁ……)

 何故そんなに脱走しようとするのか、夕張に聞くと、

 

『五月雨の適性者に犯される!』

 

 と、ガチ泣きしながらそう言われた。

 詳しく話を聞こうとしたが、五月雨の名前を言う度に、震えたり。泣き出したり。新兵器を開発しようとしたり。脱走したり。

 とにかく、奇行に走る為、聞き出せなかった。

 

……おっと、工廠に着いた。考え事をするのは、一旦やめよう。

 えっと、夕張達は──居た。

 

 

「あの娘に処○膜ブチ破られる位なら、今から自分で自分の処○膜ブチ破ってやる!」

 

 

……荒れているなぁ。

 漫画やアニメのように、全身を妖精さん特製ロープでグルグル巻きにされ、クレーンに吊るされた夕張がガチ泣きしながら、とんでもない事を叫んでいる。

 

 なんか、既視感があるな。……あっ、これ、山城と榛名が異動して来るのを知った時の俺と同じだ。

 あの時は瑞鶴と翔鶴、涼月、由良にとっ捕まって、吊るされたんだよなぁ。

 

(あの頃は、今と比べると平和だった……)

 山城と榛名が来てから、かなり賑やかになった記憶がある。

 サキュバスと化した榛名に、毎日襲われたり。

 ゾンビ化した涼月に、毎日追い回されたり。

 扶桑さんが、佐世保からカチコミして来たり。

 それから、葛城達や鈴谷達、阿武隈が異動して来て、どんどん人数が増えて賑やかになって。

 千歳さんが異動して来る事を知って、瑞鶴を無理矢理拉致ってバイクで実家まで逃走したり。

……懐かしいなぁ。

……懐かしんでいる場合じゃないぞ。夕張と話をして、落ち着かせないと。

 

「……あら、司令官」

「提督!」

「早かったね」

 

 工廠へ来た俺に気付いた早霜と涼月、そして時雨が声をかけてきた。少しだけ疲れた顔をしているが、俺を見ると、微笑んでくれた。

 

「夕張を捕まえてくれて、ありがとう」

 まずはお礼を言おう。

 今回は早霜と涼月、時雨の三人が捕まえてくれたが、派遣の知らせが届いてから毎日、第603鎮守府に所属する皆が、夕張が脱走する度に追いかけて捕まえてくれている。

 大規模反攻作戦後、残党狩りをして落ち着いたら、何処かに連れて行って、美味しい物をご馳走してあげよう。

 そうそう。以前鈴谷に、資○堂のパフェをご馳走する、って約束したな。この時に約束を果たそう。

 それから、千歳さん。

 

(千歳さんにはご馳走するだけでなく、高いお酒と、おつまみをプレゼントしてあげよう)

 最近、冗談抜きで死にそうな顔をしているし。

 具体的に言うと、深い隈が出来て、顔がやつれ、目が死んでいる。常時ハイライトオフになっている。

 あと、夕張以上に奇行に走ったりしている。

 

(今は大人しくなったけど、暴走していた時の翔鶴の対応を、裏でずっとしてくれたらしいから、ストレス溜まっているんだろうな……)

 これは先日、千歳さん本人が教えてくれた。正確には、愚痴ってきた、だけど。

 とにかく、千歳さんのメンタルが冗談抜きで死にかけている。

 翔鶴が大人しくなり、やっと平和が訪れたというのに、夕張の脱走が新たに加わり、対応に追われ、千歳さんの精神が崩壊一歩手前の所まで来ている。

 

 ちなみに、千歳さんの奇行の内容だが、

 夜中に桟橋で号泣しながらヤケ酒したり。

 破棄する艤装パーツを、高笑いしながら素手で粉々に砕いたり。

 談話室で「ポ○ーテールの四十」をデスボイスで歌ったり(途中、初霜が乱入して一緒にシャウトしていた)。

 酒の空き瓶を装備して、演習用の的目掛けてブン投げたり。

 これ以外にも、まだまだあるが割愛する。

 

……うん。とにかくマズい状態に陥っている。これ以上トラブルが起きたら、千歳さんが壊れちゃう。ついでに、俺の胃と精神も。

 

「さて、後は俺が説得する。皆は持ち場に戻ってくれ」

 今日まで何度も説得してきたけど、上手くいっていない。それでも、諦める訳にはいかない。

 部下のケアは、上司の仕事の一つ。夕張と千歳さん。そして、俺の胃と精神を守る為、頑張ろう。

 

「「「了解!」」」

 

 三人を見送ると、工廠は静寂に包まれた。

 正確には、夕張の啜り泣く声と、クレーンに吊るされたロープが軋む音が聞こえるので、完全な静寂ではないが。

 

「……提督」

 

「なんだ?夕張」

 頼むから、死にそうな声を出さないでくれ。捕まえて説得する度にそんな声を聞かされてきたけど、何度聞いても心に()る。

 

「提督の主砲(・ ・)で、私の処○膜をブチ破ってください」

 

「うん。落ち着いて?」

 そんな事したら、俺、瑞鶴達に殺されちゃう。する気も無いけど。

 

 

………………。 

 

 

13:30。

 

 

「あと30分か……」

 夕張を説得し、なんとか落ち着かせ、自室に待機させる事に成功したが、何時(いつ)脱走するか分からない。なので、涼月達に監視役を頼み、俺は執務室で派遣される娘達を待つ事にした。

 

(結局、夕張から五月雨の適性者との関係について聞き出せなかった)

 それに、五月雨はどんな娘なのか知る事が出来なかった。

 なので、元横須賀鎮守府所属の夕立に話を聞いたら、五月雨の名前を出した途端、ニコニコ顔から一変。真顔になって「ヤベー奴」と教えてくれた。残念ながら、「何がどうヤベーのか」までは教えてくれなかった。

 

 おいおいおい、冗談だろ?あの「狂犬」の二つ名を持つ夕立が、真顔で「ヤベー奴」って言うなんて。あと、口癖の「ぽい」を一切言わなかった。どんだけヤベー奴なの?

……うっ、考えたら胃が痛んできた。

 

「提督、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ、気にしないでくれ。悪いが、白湯を用意してくれないか?」

 

「わ、分かりました!直ぐにご用意致します!」

 

 胃が痛み、思わず顔を(しか)めたら、榛名に心配されてしまった。

 しっかりしろ。こんなんじゃ、派遣されて来る娘達に不安を与えてしまう。さっさと胃薬飲んで、調子を整えよう。

 

 

……。

 

 

「……誰だ?」

 榛名が用意してくれた白湯で胃薬を飲み、胃痛が治まったから書類を捌いていると、執務室の扉がノックされた。

 急いで時計を見ると、14:00を指している。派遣された娘達が来たのかな?

 

『大鳳です。本日派遣された方達をお連れしました』

 

「入ってくれ」

 来たか。

 一旦書類から目を離し、万年筆を置いて入室を促すと、執務室の扉が開かれ、女性達が入室してきた。

 全員が入室したのを確認し、大鳳が扉を閉めた。さて、挨拶をしないと。

 椅子から立ち、派遣されてきた娘達の前に立つ。

 

(やべっ、緊張してきた)

……落ち着け。落ち着くんだ。軽く深呼吸して、心を落ちつけろ。

 バレないよう、深呼吸。……よし、大丈夫だ。しっかりやれよ、俺。挨拶をする際、噛んだりしたら、「頼りない提督」と認識され、不信感を抱かれるぞ。

 

「遠路遥々ようこそ。第603鎮守府を運営する、渡良瀬準少佐です」

 噛まずに言えた。

 

「早速ですが、自己紹介を頼みます」

 履歴書を頭に叩き込んであるから、顔を見れば誰が誰なのか知っているが、一応自己紹介をしてもらう。

 俺が自己紹介をするよう言うと、派遣された8名は目配せをし、俺から見て左側──有明鎮守府から派遣された名取さんと能代さんが無言で頷き、自己紹介をしてくれた。

 

「じ、自分は、有明鎮守府より第603鎮守府に参りました、長良型軽巡洋艦三番艦、名取と言います。ご迷惑をおかけしないように、が、頑張ります!」

 

 自己紹介のトップバッターは、有明鎮守府から派遣された、茶髪ショートボブヘアーに、白いカチューシャを付けた女性、名取さんだ。

 履歴書の備考欄に書かれていたが、人見知りが激しく、緊張しやすい性格らしい。その為か、少しだけ噛んでしまったみたいだ。

……あっ、噛んだ事を気にしたのか、顔を真っ赤にして俯いちゃった。

 

「同じく、有明鎮守府より第603鎮守府へ参りました、阿賀野型軽巡洋艦二番艦、能代です。よろしくどうぞ!」

 

 名取さんに声をかけ、フォローしようか悩んでいると、赤みがかった茶髪で、太い三つ編みを左右に作っておさげにした女性、能代さんが自己紹介をしてきた。

 

(堂々としていて、ハキハキと自己紹介をしてくれた)

 まるで矢矧みたいだ。

 けど、言葉は悪いが、なんというか……矢矧ほど堅物では無さそうだ。上手く言えないけど、矢矧より穏やかな雰囲気がする。

 

「ふむ。では、次は我々が。私は、江ノ島鎮守府より第603鎮守府に派遣されてきた、妙高型重巡洋艦二番艦、那智だ。宜しく頼む」

 

 能代さんが自己紹介を終えると、長い黒髪をサイドテールにした女性。那智さんが自己紹介をしてくれた。

 

(この人。那智さんは、ウチの足柄の実姉なんだよな……)

 先日、派遣される娘達の履歴書を見せた時、足柄に教えてもらった。

 それにしても、凛々しい女性だな。真面目モードの足柄以上に凛々しい。

 余談だけど、足柄の纏っている妙高型重巡洋艦娘の装束と、那智さんの纏っている装束が全然違う。

 第二次改装を施されると、こんな感じの装束になるのか。とてもイイ。何時になるか分からないが、足柄に第二次改装を施して着させてやりたい。

 

「同じく、江ノ島鎮守府より派遣されて参りました、最上型重巡洋艦四番艦、熊野ですわ。宜しくお願いします」

 

……おっと。那智さんの凛々しさと、装束に見惚れている場合じゃない。しっかりしろ。

 続いて、栗色の髪をポニーテールにした女性、熊野さんが自己紹介をしてくれた。

 その際、カーテシーをしてくれたけど、とても優雅で、お嬢様みたいだ。けど、

 

(鈴谷が言ってたっけ。「熊野はお嬢様キャラを作っているけど、本当はお転婆娘だ!」って)

 事前に鈴谷からキャラを作っている、って教えてもらわなかったら、何処ぞの令嬢か?と思っていたよ。

 

「ん〜と、江ノ島鎮守府から参りました、睦月型駆逐艦七番艦、文月です。よろしく〜」

 

 熊野さんの次に自己紹介をしてくれたのは、長い茶髪をポニーテール状に纏めたょぅι゛ょゲフン。女の子、文月だ。

 この声、聞いた事がある。確か、木曾と鈴谷がウチに異動して来たた日に、江ノ島鎮守府に電話をかけた際、出てくれた娘だ。

 

(可愛い。癒される)

 とっても可愛らしいロリボイス声だ。声だけじゃない、容姿も可愛らしい。見た所、10代前半位だ。年齢も、履歴書には1×歳と書かれてある。

 

「フヒッ……フヘヘヘ……」

 

(……おーい、長門教官。顔。顔がヤバい事になっていますよ?)

 文月のほんわかオーラ(?)に癒されていると、文月の隣に立つ女性──長門教官が変な声を出した。

 声だけじゃない。顔を見ると、アブナイ(・ ・ ・ ・)顔をして文月を見つめている。

 憲兵さん呼んだ方が良さそうだな。えっと、憲兵詰所への電話番号は──

 

「……ゴホン。私は、横須賀鎮守府より第603鎮守府に派遣されてきた、長門型戦艦一番艦、長門だ。宜しく頼むぞ」

 

 受話器を取って、憲兵詰所へ電話しようとしたら、俺の行動を見た長門教官は正気に戻り、自己紹介をしてきた。今回は見逃しますが、次やったら憲兵さんを呼びますよ。

 

(今更だけど、長門教官の装束が、養成所時代に見た物と違う)

 第二次特殊改装(・ ・ ・ ・)を施されたから、装束のデザインが変わったのだろう。

 

「同じく、横須賀鎮守府より参りました、吹雪型駆逐艦一番艦、吹雪です!宜しくお願い致します!」

 

 続いて、セミロングの黒髪を後ろに一つに纏めた純朴そうな少女、吹雪が挨拶をしてくれた。とても真面目そうな娘だ。

 夕立の話によると、吹雪は横須賀鎮守府では苦労人ポジションだったらしい。

 

(……あっ、ポケットに胃薬入れてる)

 吹雪のスカートのポケットから、太○胃散(散剤タイプ)のラベルがチラッと見えた。なんというか……苦労しているんだね……。

 

「では、最後は私が。横須賀鎮守府より第603鎮守府へ参りました、白露型駆逐艦六番艦、五月雨って言います。よろしくお願いします!」

 

 内心で吹雪に同情していると、最後の一人。透き通った青色の髪の少女、ヤベー奴もとい、五月雨が自己紹介をしてくれた。

 

(……それにしても、髪長いな。これだけ伸ばすのに、何年掛かるのだろう?)

 五月雨は髪の色だけでなく、髪の長さも凄い。初めてだよ、髪の毛でこんなに驚いたのは。

 

(髪の毛のインパクトで忘れかけたが、この娘。五月雨は、ウチの夕張が死ぬほど脅える存在なんだった)

 あと、夕立が真顔で「ヤベー奴」と言う存在。

 どんな風に「ヤベー奴」なのか、しっかり接して見極めよう。

 

 

 

 

 この時の俺は、楽観視していた。

 五月雨は、ウチ(第603鎮守府)のヤベー奴らを超える事は無いだろうと、高を括っていた。

 

 ハッキリ言う。五月雨は、言動や性癖だけでなく、戦闘力も、俺の予想を遥かに超えるヤベー奴だと、身を以て知るハメになった。

 

 お陰で、胃薬の消費量が倍に増えちまった。

 誰か……癒しを。そして、平和をください。

 

 

side 提督 out

 

 

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次回予告


 提督さん、派遣された方達が来られたみたいですね?
……あっ、長門さん。お久しぶりです。
 はい。由良は元気です。それにしても、横須賀から五月雨ちゃんが来ちゃいましたか……。何か、やらかさなければ良いのだけど。
……あっ、五月雨ちゃんが夕張さんを襲ってる!止めなきゃ!!長門さん、手伝ってください!!!
 

第95話・嘘吐き屋犯すガール


「ストーカーではありません。隠密的にすら見える献身的な後方警備です!」


【補足的なナニか】

・カーテシー…ヨーロッパの伝統的な挨拶であり、女性のみが行う。
 片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶をする。これは、ひざまずこうとする意思を示しているといわれる。
 その他、両手でスカートの裾を摘み、軽くスカートを持ち上げて行う場合もある。

・次回予告タイトル…元ネタは「Fate/GrandOrder」に登場する「清姫」の別名が元ネタ。詳細は「清姫 FGO」で検索。
 ちなみに、「清姫」と「五月雨」、「那智」、「足柄」の中の人は「種田梨沙」さんが演じている。

・吹雪…横須賀鎮守府所属、吹雪型駆逐艦一番艦、吹雪を指す。
 非常に真面目で正義感が強く、融通の利かない一面がある。
 問題児ばかりの横須賀鎮守府の艦娘達に振り回され、胃痛持ちになった。
 
・五月雨…横須賀鎮守府所属、白露型駆逐艦六番艦、五月雨を指す。
 第603鎮守府所属、白露型駆逐艦四番艦、夕立曰く、「ヤベー奴」。何がどうヤベーのかは、次話で明らかになる……と思う。


以上、補足終了。

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