追跡鶴   作:EMS-10

167 / 214

 今日は何の日?ママの日だよッ!!

 会社に社畜化改修を施され、去年よりも社畜度が上がった為更新頻度が低下しますが、許してください!なんでも島風!(挨拶)


※警告※
考えるな、感じろ
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ


※この小説に登場する人物達は全員、特殊な訓練を受けています。決して真似しないで下さい。

※この小説内の季節は、12月中旬頃となっています。



第147話・狂行策

 

side 提督

 

 

──第603鎮守府、執務室──

漁(・)開始87日目。

09:00。

 

 

「──了解しました。周囲を警戒しつつ、帰還してください」

 加賀さんから、漁(・)を終えて帰還すると無線が入った。

 加賀さん達は現在__海域に居るから、此処(第603鎮守府)に帰還するのは約二時間後になる。

 

(報告によると、負傷者が何名か居るから、入渠の用意。それから、艤装の修理の準備を整えておくよう、工廠に伝えなければ)

 それに、もうそろそろ時雨の艤装のパーツと資材が届くから、受領しなきゃ。

 

……時雨で思い出したけど、今朝。朝食前に、昨日襲(・)っ(・)た(・)娘達に誠心誠意謝罪して、許してもらった後。

 時雨を執務室に呼び出して、お(・)話(・)をしたら、めっちゃハイテンションになっていたなぁ。

 

……今は余計な事を考えている暇は無いぞ。やるべき事が多いから、仕事関連以外の事を思考するのは後にしよう。

 

 えーと……受領したら、手続きをして。それが終わったら、直ぐに時雨を呼び出して工廠に向かわせて、調整をしてもらって、それから──あ、内線だ。

……大本営から時雨の艤装と、資材を載せたトラックが来た、か。急いで対応しないと──

 

「私が工廠に連絡を入れて、その後、入渠の準備を整えます。提督は受領手続きをお願いします」

 

「──分かった」

 やる事が多く、軽くパニックになるかけていると、内線のやり取りを聞いていた本日の秘書艦、海(・)風(・)が俺の代わりに、工廠に連絡を入れてくれた。

 ありがとう、海風。ここは君に任せて、俺は受領手続きをしてくる。

 

 

──

 

 

11:00。

 

 

(……イカン、集中力が切れてきた)

 受領手続きやら、資材と艤装の搬入。

 その他にも色々あるが、それらを終えて執務室に戻り、書類仕事を再開して暫く経った頃。集中力が切れてきたのか、書類を捌く速度が低下してきた。

 一旦万年筆を置き、軽く手を揉む。すると、

 

「お疲れ様です。お(・)茶(・)をどうぞ♪」

 

「ありがとう」

 海風が緑茶の入った湯呑みを机に置いてくれた。何時の間に用意したの?

……まぁいいや。

 

(恐らく、俺の集中力が切れてきた事に気付いて、こうしてお茶を用意してくれたのかもしれない)

 海風はとても気配りが上手だからなぁ。とりあえず、温かいうちに飲もう。

……少(・)し(・)苦(・)い(・)な。まぁいいや。

 

「どういたしまして♪」

 

 お礼を言うと、海風は嬉しそうに微笑んできた。

 おーおー、良い笑顔だ。可愛い。癒される。

 

……ゾンビ騒動の際、ヤ(・)ベ(・)ー(・)奴(・)に分類されている事が判明したけど、やっぱり何かの間違いだな。

 海風は今まで、俺の胃袋と精神にダメージが入るような事を、一(・)度(・)た(・)り(・)と(・)も(・)や(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 寧ろ、俺を癒し続けてくれている。

 

(矢(・)矧(・)も、やらかす素振りが一切無いし……)

 海風同様、ヤ(・)ベ(・)ー(・)奴(・)らしいが、瑞鶴達のように奇(・)行(・)に走ったり、ア(・)ブ(・)ナ(・)イ(・)発言をしない。

 矢矧は相変わらず厳しく、オ(・)カ(・)ン(・)になって俺や他のだらしない連中を叱ってくる。

 ただ、最近。正確には一昨日からだが、俺にだけは妙(・)に(・)優(・)し(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)。

 

(それに、なんつーか……冗談を言うようになった)

 言葉は悪いが、今までは真面目が服を着たような堅物だった。

 しかし、此処に来てからは少しずつ融通が利くようになり、言動が柔らかくなった。

 

 そして、一昨日。時雨が発情犬と化し、襲われ、矢矧が助けてくれて営倉に逃げ込み、色々会話をしてからは、お茶目な感じ……と言えばいいのか?そんな感じになった。

 語彙力が無いからアレな事になっているが、気にしないでくれ。

 

 閑話休題。

 

(海風と矢矧が、瑞鶴達みたいにや(・)ら(・)か(・)す(・)ようになったら、洒落抜きで俺、精神崩壊する自信がある)

 この二人だけは、俺の精神を癒し続けてくれた支柱のような存在だ。

 頼むから、ヤ(・)ベ(・)ー(・)奴(・)ら(・)みたいにや(・)ら(・)か(・)さ(・)な(・)い(・)でください。本当にお願いします──

 

「提督、加賀さん達が帰還して来ています」

 

「──ん?」

 思考していると、窓の外に視線を向けながら、海風がそう言った。

 釣られて俺も窓の外を見るが、加賀さん達の姿は見えない。

 どうやら艦娘の力を使い、視力を強化しているから海風は加賀さん達の姿を捉えられたのだろう。相変わらず艦娘の力は凄いなぁ。

 

(……のんびりしている暇は無いぞ)

 もう少しでお昼になるが、まだ時間がある。それまで、書類を捌こう。

 えーと、これは──

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

─

 

 

side 矢矧

 

 

──第603鎮守府、母港──

11:50。

 

 

「──これで、良し!」

 飛び散った魚介類の破片や体液の掃除、完了。

 何処にも破片や体液は残っていない。

 

「矢矧さん、こちらは終わりました。そちらは?」

 

「こちらも終わりました」

 掃除を終えると、箱詰め作業をしていた加賀さんが声を掛けてきた。どうやら加賀さん達、箱詰め班も終わったみたい。

 

「そう。お疲れ様」

 

 淡々とした声で。しかし、加賀さんは微笑みながら、労いの言葉を掛けてくれた。

 

「加賀さんも、お疲れ様です」

 

「まだ作業が。箱詰めにした魚介類を、引き取りに来た業者さんに渡す作業が残っているわ。頑張りましょう」

 

「はい!」

 漁(・)や解(・)体(・)作(・)業(・)、後(・)片(・)付(・)け(・)で体力を消耗しているけど、まだまだ動ける。

 さぁ、もうひと頑張りよ!

 

 

──

 

 

「……矢矧さん、大丈夫ですか?」

 

「……少し、疲れたわ」

 解(・)体(・)道(・)具(・)を仕舞う為、工廠に運んでいると、早霜が心配そうな顔をしながら声を掛けてきた。

 

 漁(・)や解(・)体(・)作(・)業(・)、後片付け、業者さんへ箱詰めした魚介類を引渡し、そして、榛(・)名(・)の(・)狂(・)行(・)を止める為に動き回ったせいで、大分疲れてしまった。

 精神的に疲れたから、さっきより身体が重く感じる。

 

(……全く。油断も隙も無い)

 引渡しを終え、業者さんを見送っている間に仕掛けるとは思わなかったわ。

 幸い、直ぐに気付き、執務室の窓から侵入しようとしていたのを止める事が出来た。

 

(……にしても、相変わらず加賀さんは容赦無いわね)

 私が榛名に、艤装──飛行甲板のギミックを作動させ、それを回し蹴りで側頭部にぶちかまして怯ませたら、すかさず榛名に投げっぱなしジャーマンスープレックスを──やめましょう。これ以上思い出すと、頭が痛くなってくる。

 

「急いで解(・)体(・)道(・)具(・)を片付けて、シャワーを浴びましょう?」

 思考を放棄して、早霜に提案をする。

 漁(・)で海水を被ったせいで全身が濡れて、装束が身体に張り付いているから、気持ち悪い。

 艦娘になってから数え切れない程経験しているけど、慣れそうにないわ。

 

……冬に全身ずぶ濡れになって、風邪をひかないのか?そこは妖精さんの加護が働いているから、心配ない、と言っておくわ。

 

「はい。……あら?時雨さんと、夕張さんが居ます」

 

 早霜の言葉を聞き、視線の先を見ると、艤装を纏った時雨と、端末を操作する夕張が視界に入ってきた。

 どうやら、まだ調整が完了していないみたいね。

 恐らく、今までの稼働データを艤装に送り込んでいるから、時間が掛かっているのかもしれない。

 

(……ボーッとしていないで、片付けましょう)

 気になるけど、今、私がやるべき事を。解(・)体(・)道(・)具(・)を仕舞いましょう。

 

「私はチェーンソーとかを仕舞うから、早霜は防護服をお願い」

 

「了解しました」

 

 早霜に指示を出し、分担して作業を開始。コンテナの鍵を開け、素早く解(・)体(・)道(・)具(・)を仕舞う。

 

(チェーンソーはここ。フェイスガードマスクはここ。それから、グローブはここで──良し)

 それぞれの場所に、全ての解(・)体(・)道(・)具(・)を仕舞い、確認。

 

「矢矧さん、防護服……仕舞い終わりました」

 

「お疲れ様」

 私が仕舞い終えると、早霜も防護服を仕舞い終わったみたい。

 念の為、防護服を確認すると、きちんと畳まれて仕舞われてあった。これなら大丈夫ね。

 

 コンテナから出て、扉を閉めて、鍵をかけて、きちんと施錠されているか確認。

……確認完了。

 

「さて、それじゃあシャワーを浴びに行きましょう」

 

「はい」

 

(シャワーを浴びたら、着替えて昼食を摂って、報告書を書いて提出して、その後は……能代姉さんと演習。……やりたくない)

 この後の予定を頭の中で立てていると、少しだけテンションが下がる。

 いえ、能代姉さんと演習をすること事態は別に嫌じゃないけど、その……能代姉さんは、先日言った事を。私の羞(・)恥(・)心(・)を捨てさせる為、ス(・)カ(・)ー(・)ト(・)を(・)狙(・)っ(・)て(・)来(・)る(・)。

 

(確実に実行してくるから、何が何でも死守しなきゃ……)

 姉さんの言う事──戦場で羞(・)恥(・)心(・)は不要、というのは理解出来る。出来るけど、流石に姉さんのように捨て切る事は出来ない。

 

(以前の。艦(・)娘(・)に(・)な(・)る(・)前(・)の私なら、出来たのかもしれないけど……)

 今は無理。どうしてそうなってしまったのか。原因なら分かっている。

 提督。いいえ、渡(・)良(・)瀬(・)と出会った事で、私は羞(・)恥(・)心(・)が強くなってしまった。

 

 養成所で渡(・)良(・)瀬(・)と会話をしていくうちに、人柄に惹かれ、気が付けば異(・)性(・)と(・)し(・)て(・)意(・)識(・)するようになってしまった。

 

 最初は、何処にでも居る普通の男性。少しだらしない人だ、と思っていた。

 けど、ある日。渡(・)良(・)瀬(・)から、自(・)分(・)に(・)は(・)両(・)親(・)が(・)居(・)な(・)い(・)事を聞かされた事で──

 

「──矢矧さん?どうかされました?」

 

「──えっ?」

 思考していると、早霜が心配そうな顔をし、これまた心配そうな声で私にそう言ってきた。

 

「突然悲しそうな顔をして、溜息を吐いていたので……その……」

 

「……あー、ごめんなさい。少し、考え事をしていたの」

 どうやら自分でも気が付かない間に、顔に出ていたみたい。

 今まで私(・)の(・)本(・)性(・)を周りに悟られないよう、隠(・)し(・)て(・)き(・)た(・)。

 けど、最近は。正確には、とんでもない事──瑞鶴達が、他(・)者(・)の(・)思(・)考(・)を(・)読(・)み(・)取(・)れ(・)る(・)力を得た事を知ってからは、表情や態度に現れるようになってしまった。

 

……瑞鶴達で思い出したけど、計(・)画(・)の事や渡(・)良(・)瀬(・)関連の事を思(・)考(・)しないよう意識しているけど、気が付けばさっきみたいに思(・)考(・)している。

 

 今は未だハ(・)ッ(・)キ(・)リ(・)と(・)読(・)み(・)取(・)れ(・)な(・)い(・)ようだけど、近日中には読(・)み(・)取(・)れ(・)る(・)ようになる。

 もし、読(・)み(・)取(・)ら(・)れ(・)た(・)ら(・)、確実に妨害される。

 それだけでなく、渡(・)良(・)瀬(・)に告げ口され、距離を取られてしまう恐れがある。

 そうなったら、私は……私は……──

 

 

 

 

「矢矧さん、早霜、こんな所で立ち止まってどうしたの?」

 

「──時雨?」

 軽くパニックになりかけていると、背後から声を掛けられた。

 振り返ると、そこには端末を持った時雨が立っていた。

 心做しか、嬉しそうな顔をしている。

 

「……少し、考(・)え(・)事(・)をしていたの。時雨はどうしてここに?艤装の調整は済んだの?」

 とりあえず、誤魔化しましょう。

 内心で自分に落ち着くよう言い聞かせ、バレない程度に深呼吸をして、時雨に質問した。

 

「そうだったんだ。艤装の調整は、ついさっき終わったから、データを提督に提出しに行く所さ」

 

「そう……お疲れ様。その端末は、時雨の艤装データが入った物かしら?」

 話を聞く限り、間違いなくそうでしょうけど、念の為聞いてみた。

 

「ありがとう。うん、そうだよ?」

 

「そう。じゃあ、それは私が預かるわ」

 

「な、何でッ!?」

 

「何で、って。それは時雨だからよ。あなた、提督の所に行ったら襲うでしょ?だから私が預かって、代わりに提出するわ」

 だから、ソレを渡しなさい。

 

「嫌だよ!かれこれ2時間47分19秒も提督の顔を見ていないし声を聞いていないから提督成分が欠如して辛いんだだから今すぐにでも提督成分を摂取しないと頭がどうにかなっちゃうというかどうにかなりかけているちなみにお前は既にどうにかなっているだろというツッコミは一切受け付けないッ!」

 

 何この娘、怖い。瞳孔をカッ広げて、息継ぎ無しで一気に早口で捲し立てるように喋らないで?

 隣に居る早霜も、少し引いているのか顔が引き攣っているし……。

 

「とにかく、コレは僕が提督に届ける!」

 

「ダメよ、渡しなさい」

 色々あったせいで、渡(・)良(・)瀬(・)は精神的に参っている。少しでも負担を軽減してあげないと、また昨日みたいに暴(・)走(・)しかねない。

 

……昨日、か。

 提督が。渡(・)良(・)瀬(・)が暴(・)走(・)した際、手当たり次第に近くに居た人達を襲っていたっけ。

 

(私も居たのに、私(・)だ(・)け(・)は(・)襲(・)っ(・)て(・)く(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)……)

 何故?私、渡(・)良(・)瀬(・)になら手(・)を(・)出(・)さ(・)れ(・)て(・)も(・)良(・)い(・)のに。

……もしかしなくても、今までの行い──厳しく接したせいで、手(・)を(・)出(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)のかもしれない。

 

……もっと、優しく接しておけば良かった。

 もっと、素(・)直(・)に(・)な(・)れ(・)ば(・)良かった。

 けど、後悔しても遅い。

 

 先日から優(・)し(・)く(・)接(・)す(・)る(・)ようにしたけど、遅過ぎた──だから、余(・)計(・)な(・)事(・)を考えるな!

 もし瑞鶴達が近くに居たら、読(・)み(・)取(・)ら(・)れ(・)る(・)恐れがある。考えるな。

 

「絶対に渡さない!僕はもう、襲わないって心に決めた!だから、僕が手渡す!」

 

「時雨さん……説得力、無いです……」

 

 早霜がツッコミを入れている。それに対し、時雨は──

 

「確かに、説得力は無い。けど!今度は本当だよ!僕はもう、襲わない!そう心に決めた!だって──」

 

 私の理(・)性(・)を(・)壊(・)す(・)切っ掛けとなる事を、言い放った。

 

「提督は、僕(・)を(・)受(・)け(・)入(・)れ(・)る(・)と言ってくれたんだ!」

 

「──受け入れる?」

……どういう事?言葉の意味は理解出来る。けど、何故渡(・)良(・)瀬(・)は受け入れると言ったのか。それが分からない。

 早霜も、疑問に思ったのか首を傾げている。

 

 今まで散々襲い、その度に渡(・)良(・)瀬(・)は精神的ダメージを受けていた。

 精神だけでなく、肉体──主に、胃袋にもダメージを受けた。

 それなのに、時雨を受(・)け(・)入(・)れ(・)る(・)?お人好しにも程があるわよ

 

「そう!今朝、提督は言ってくれたんだ。僕が本気で提督を求(・)め(・)る(・)なら、受(・)け(・)入(・)れ(・)る(・)って!僕と一緒に、二(・)人(・)き(・)り(・)でお(・)出(・)か(・)け(・)して、望(・)み(・)を(・)叶(・)え(・)て(・)や(・)る(・)って!」

 

「──ッ!?」

 どういう……事……?

 二(・)人(・)き(・)り(・)でお(・)出(・)か(・)け(・)して、望(・)み(・)を(・)叶(・)え(・)て(・)や(・)る(・)?

 

 時雨の言った事が理解出来ず──いいえ。違うわ。理(・)解(・)す(・)る(・)事(・)を拒んでいると、早霜が疑問に思ったのか、時雨に質問をした。

 

「それは、つまり、瑞(・)鶴(・)さ(・)ん(・)達(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)司令官とデートして、そ(・)う(・)い(・)う(・)事(・)をする、という意味でしょうか?」

 

「うん、そうだよ?」

 

……何よ、それ。

 今まで散々や(・)ら(・)か(・)し(・)て(・)きたというのに、何故?

 

 瑞鶴達も散々提督に対し、や(・)ら(・)か(・)し(・)て(・)きた。

 

 それなのに、時雨のように渡(・)良(・)瀬(・)は受(・)け(・)入(・)れ(・)た(・)。

 

 そして、望(・)み(・)を(・)叶(・)え(・)て(・)あげた。

 

 私は今まで本(・)性(・)を隠し、、真面目に過ごしてきた。

 

 常に渡(・)良(・)瀬(・)を支えてきた。

 

 それなのに、何故?

 

 何故、や(・)ら(・)か(・)し(・)て(・)迷惑を掛けている人達ばかり、望(・)み(・)を(・)叶(・)え(・)ら(・)れ(・)る(・)の?

 

……何時だか、渡(・)良(・)瀬(・)が言っていた。

 

『俺は覚悟を決めた。自惚れかもしれないが、俺に対して好(・)意(・)を(・)抱(・)い(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)娘が居るのなら、受(・)け(・)入(・)れ(・)る(・)。そして、責(・)任(・)を(・)取(・)る(・)』

 

 と。

 それなら、私も渡(・)良(・)瀬(・)に頼めば良い。

 

 渡(・)良(・)瀬(・)の事だから、恐らく驚くと思う。

 

 けど、真剣に頼めば、きっと受(・)け(・)入(・)れ(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)。

 

 でも、出来ない。

 

 仮に、受(・)け(・)入(・)れ(・)て(・)もらってお(・)出(・)か(・)け(・)したら、テ(・)ン(・)シ(・)ョ(・)ン(・)が(・)上(・)が(・)り(・)過(・)ぎ(・)て(・)抑(・)え(・)て(・)き(・)た(・)本(・)性(・)を現してしまう。

 

 私(・)の(・)本(・)性(・)を知ったら、きっと引く。

 

 ただ、渡(・)良(・)瀬(・)の事だから、幻滅したり軽蔑したりはしない。

 

 でも、今までの関係が。渡(・)良(・)瀬(・)が持つ私のイメージが壊れる。

 

 瑞鶴達のように、ヤ(・)ベ(・)ー(・)奴(・)扱いを受けてしまう。

 

 表向きは普通に接してくれても、内心ではヤ(・)ベ(・)ー(・)奴(・)だと認識され続ける。

 

 そんなの、嫌だ。

 

 それだから、こうして一歩を踏み出せずにいる。

 

……どうすれば良いの?誰か、教えて?

 

「──もう提督を襲ったりしない。過剰なアプローチを掛けない。だから、提督の所に行かせてよ!」

 

 時雨が喚いている。

 

 この娘は、怖くないの?

 

 時雨に限らず、瑞鶴達も、色々やらかして渡(・)良(・)瀬(・)からヤ(・)ベ(・)ー(・)奴(・)だと認識される事に対して、恐怖を感じないの?

 

「……矢矧さん、大丈夫ですか?」

 

「や、矢矧さん?」

 

 早霜と時雨が、心配そうな顔をしながら声を掛けてきた。

 普段なら「大丈夫、何でもない」と答えていたけど、今の私にはそう答える余裕は無かった。

 

「あっ、あのっ、矢矧さん?」

 

「ど、何処に行くの?」

 

 二人が何か言っている。けど、答える余裕は無い。

 

 今はとにかく、一人になりたい。

 

 幸い、二人は追い掛けて来ていない。

 

 部屋……は能代姉さんが居るだろうから、除外。

 

 談話室……は、待機組の人達が居るかもしれない。

 

 埠頭……寒いから除外。

 

 何処か、一人になれる場所は無いかしら?

 

 そんな事を考えながら彷徨いていると、何時の間にか執務室の扉の前に立っていた。

 

……何故、執務室の前に来ているのよ。

 

 恐らく、無意識の内に渡(・)良(・)瀬(・)を求(・)め(・)て(・)し(・)ま(・)い(・)、こうして執務室の前に来てしまったのかもしれない。

 

 周囲に人は居ない。気配も無い。

 

 気が付けば、私は扉の鍵穴から、執務室の中を覗いていた。

 

 普段の自分なら、決してしない行為。覗き行為をしている。

 

 何をやっているの?自分でも、理解出来ない。

 

 直ぐにやめなさい。誰かに見られたら、確実に変な目で見られる。

 

 けど、やめる事は出来なかった。

 

(話し声が聞こえるから、まだ渡(・)良(・)瀬(・)は中に居るみたい)

 もうそろそろ昼食の時間になるから、食堂に行っていて不在なのでは?と思ったけど、まだ執務室に居た。

 もしかして、ギリギリまで執務をする気なのかしら?

 

(……良く見えない。こっちからは……見えてきた)

 覗き込む位置を調整していると、ハッキリと執務室の中を見る事が出来る位置を見付けた。

 

 鍵穴から執務室の様子を見ると、そこには──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海(・)風(・)に(・)頭(・)を(・)撫(・)で(・)ら(・)れ(・)、(・)頬(・)を(・)赤(・)ら(・)め(・)て(・)い(・)る(・)渡(・)良(・)瀬(・)の(・)姿(・)が視界に入ってきた

 

 

 

 

 

 

 

…………は?

 

 

 何、しているの?

 

 

 何故、海風に頭を撫でられているの?

 

 

 何故、そんな顔をしているの?

 

 

 何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?

 

 

 視界が、少しずつ紅(・)く(・)染(・)ま(・)り(・)出(・)し(・)た(・)。

 

 

 私の中で、何(・)か(・)が(・)壊(・)れ(・)る(・)ような音がした。

 

 

 瑞鶴達に頭を撫でられていたのなら、まだ我(・)慢(・)出(・)来(・)た(・)。

 

 

 けど、今頭を撫でているのは、海風。

 

 

 海風は今までそういった事をしなかったのに、何故?

 

 

……うふっ。

 

 

……うふふっ。

 

 

……アッハハハハハ!面白いわね。そ~いう事なら──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私からも仕掛けてもイイのかしら、ねっ?

 

 

 

 

 

side 矢矧 out

 

 

───────

────

─

 

 

Another side

 

 

──大本営本部、執務室──

 

 

(……例年より、合(・)格(・)者(・)が多いな)

 これなら、人手不足に陥っている鎮守府に満遍なく配属させられる。

 確か、リストが此処に……あった。配属要請している鎮守府の数は──ふむ。これなら、最(・)低(・)で(・)も(・)6(・)名(・)配(・)属(・)させる事が出来る。

 

(大規模反攻作戦が終わっても、人手不足の小規模・中規模鎮守府に、大規模鎮守府から派遣された艦娘達が残り続けている)

 何時までも派遣したまま、という訳にはいかない。

 早急に割り振り、配属させ、人手不足を解消させ、派遣された艦娘達を元の鎮守府に戻さねば。

 

(だが、新人達を配属させるのと同時に、派遣された艦娘達を元の鎮守府に戻すわけにはいかない)

 新人達は実戦を経験していない。

 経験を積ませるにも、先輩艦娘達が付きっきりにならなければ、轟沈(死亡)する恐れがある。

 

 しかし、人手不足に陥っている鎮守府では、育成する余裕が無い恐れがある。

 そこで、派遣された艦娘達にも教導役をさせ、ある程度経験を積ませ、実戦に耐えられるまで育てさせる──

 

(──今は思考していないで、割り振らなければ)

 仕事は山のようにある。直ぐに取り掛からねば。

 

 

Another side out

 

 

───────

────

─

 





次回予告


……ねぇ、鈴谷。矢矧の様子がおかしいんだけど、気の所為かしら?
……やっぱり、おかしいわよね?本当、どうしちゃったのかしら?声を掛けたいけど、なんと言うか……声を掛けづらい。
……こうなったら、私特製のカツを食べさせて、元気にさせてあげましょう!
 美味しいものを食べれば、きっと何とかなる──あれ?今、提督の悲鳴が聞こえた気が──あ、提督が矢矧に追(・)い(・)掛(・)け(・)ら(・)れ(・)て(・)る(・)。
……珍しいわね、矢矧が提督を追(・)い(・)掛(・)け(・)る(・)なんて。提督、何かやらかしたのかしら?
 あと、矢矧がヴィ○センの20mmマシンガンを担いでいたように見えたけど、気の所為ね、うん。


第148話・オカン、辞めます


「私は面倒が嫌いなのよ。だから──


大人しくしなさい」



【補足的なナニか】

・ヴィクセン…次話の補足で説明します。

以上、補足終了。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。