追跡鶴   作:EMS-10

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 心理描写等を詳しく書く為、物語の進みが遅いですが許してください(土下座)

※警告※
勢いしか無い
こまけぇこたぁいいんだよ!
頭を空っぽにしてご覧下さい
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ


※この小説に登場する人物達は全員、特殊な訓練を受けています。決して真似しないで下さい。

※この小説内の季節は、12月中旬頃となっています。



第148話・オカン、辞めます

 

side 加賀

 

 

──第603鎮守府、工廠──

漁(・)開始87日目。

13:10。

 

 

「──っと。良し!修理完了!」

 

「ありがとうございます」

 野原主任が額に浮かんだ汗を首に掛けたタオルで拭い、やり遂げたような顔をしながらそう言った。

 

 今朝の漁(・)で主機を酷使したせいで、大分痛めてしまった。

 けれど、今は野原主任の手で修理された事で、完全に元通りになっている。

 大本営に居た頃、何度もお世話になったから知っているけど、相変わらず良い腕ね。

 

「どういたしまして。しっかし、珍しいですねぇ。加賀さんがここまで主機を酷使するなんて」

 

「皆を護る為、少々無理をしたもので……申し訳ありません。主機に過負荷を掛けてしまって」

 普段ならここまで酷使しないけれど、ズ(・)ワ(・)イ(・)ガ(・)ニ(・)に囲まれた娘達を助ける為囮になり、オーバーヒート寸前まで主機の出力を上げ、海上を疾走し続けたから、エンジンやオイルが大変な事になってしまった。

 

 自分で言うのもなんですが、私がフォローに回り続けたからか、今朝の漁(・)では負傷者や、艤装を破損させた娘は、私を除いて一人も出ていない。

 結構。いいえ。かなり頑張りました。

 

「いえいえ、謝らないでください。私(・)は技術者。直すのが仕事です」

『死なれるよりかは、艤装をぶっ壊される方が遥かにマシです』

 

「……ありがとうございます」

 野原主任の思(・)考(・)がハ(・)ッ(・)キ(・)リ(・)と(・)流(・)れ(・)込(・)ん(・)で(・)来(・)た(・)。ノ(・)イ(・)ズ(・)は(・)一(・)切(・)混(・)じ(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 

「それでは、最終確認をするので少々お待ち下さい」

『ケーブル繋いで、端末に接続して……良し!さぁて、集中してやるぞ!』

 

「……分かりました」

 再び、ハ(・)ッ(・)キ(・)リ(・)と(・)流(・)れ(・)込(・)ん(・)で(・)来(・)た(・)。完(・)全(・)に(・)目(・)覚(・)め(・)て(・)い(・)る(・)

 今までは時々聞(・)こ(・)え(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)けど、提督──準(・)に抱(・)か(・)れ(・)て(・)からは、安(・)定(・)し(・)て(・)読(・)み(・)取(・)れ(・)る(・)ようになった。

 

……お陰で、知(・)り(・)た(・)く(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)事(・)を知る羽目になってしまったけど。

 どんな事か。それは、

 

(ま(・)と(・)も(・)だと思っていた娘が、ヤ(・)ベ(・)ー(・)奴(・)だったとはね……)

 まさか、矢(・)矧(・)さ(・)ん(・)と海(・)風(・)さ(・)ん(・)があ(・)ん(・)な(・)事(・)を(・)考(・)え(・)て(・)い(・)た(・)とは、思いもしなかったわ。

 

 ただ、矢矧さんは、海風さんと比べればと(・)て(・)も(・)平(・)和(・)。

 彼女は色(・)々(・)計(・)画(・)を(・)立(・)て(・)て(・)い(・)る(・)みたいだけど、内容はとても健(・)気(・)で(・)可(・)愛(・)ら(・)し(・)い(・)内(・)容(・)だった。

 

……少し前までは色(・)々(・)危(・)な(・)い(・)計(・)画(・)を立てていたけど、最近準(・)の精神的疲労が半端ないのを見て、理性を働かせて考えを改め。

 更に、一昨日。提督を連れて逃走した際、準(・)に頼(・)ら(・)れ(・)た(・)事で今(・)の(・)計(・)画(・)に切り替えたみたい。

 

 閑話休題。

 

 その内容は、準(・)から他(・)の(・)誰(・)よ(・)り(・)も(・)頼(・)ら(・)れ(・)る(・)存(・)在(・)になる為、優(・)等(・)生(・)の(・)フ(・)リ(・)を(・)し(・)続(・)け(・)て(・)接する。

 そして、不(・)自(・)然(・)に(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)程(・)度(・)に(・)甘(・)や(・)か(・)し(・)、(・)癒(・)し(・)て(・)あ(・)げ(・)る(・)、という物。

 

 ただ、本(・)当(・)の(・)矢(・)矧(・)さ(・)ん(・)は真(・)面(・)目(・)で(・)規(・)律(・)に(・)厳(・)し(・)い(・)性(・)格(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。

 読(・)み(・)取(・)っ(・)た(・)内容を纏めると、本(・)当(・)の(・)矢(・)矧(・)さ(・)ん(・)は悪(・)ふ(・)ざ(・)け(・)が(・)大(・)好(・)き(・)で、ア(・)グ(・)レ(・)ッ(・)シ(・)ブ(・)な性格をしているらしい。

 

 しかし、艦(・)娘(・)に(・)な(・)る(・)前(・)。学生時代にその性格が災いし、色(・)々(・)あ(・)っ(・)た(・)せいで今(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)性(・)格(・)になってしまった。

 

 そのせいで、本(・)当(・)の(・)自(・)分(・)を出す事が出来ず、相(・)当(・)ス(・)ト(・)レ(・)ス(・)が(・)溜(・)ま(・)っ(・)て(・)い(・)て(・)いる。

 だから、時々キ(・)ツ(・)イ(・)言(・)動(・)で準(・)に接してしまう。

 そして、その度にも(・)っ(・)と(・)優(・)し(・)く(・)接(・)す(・)れ(・)ば(・)良(・)か(・)っ(・)た(・)と後悔し、更にストレスが溜まり……と、悪循環を繰り返している。

 他にも色々あるけれど、割愛するわ。

 

 とにかく、矢矧さんの本(・)当(・)の(・)気(・)持(・)ち(・)を準(・)に伝えられるよう、私がさり気なくフォローしてあげましょう。

 

 最近色々溜め込み過ぎて暴(・)走(・)寸(・)前(・)だから、早急に対処しないと。

 現に、漁(・)の時、色々思い詰めていた。そして帰還し、後片付けを終えたら、体調が優れないと言って休んでいる。

 

(駄犬(時雨さん)と早霜さんが、凄まじい顔をしていた、と言っていたから、そ(・)ろ(・)そ(・)ろ(・)限(・)界(・)なのかもしれない)

 野原主任の作業が終わって、稼働データを提督に提出したら、様子を見に行きましょう。

 

 次に、海風さんだけど……正直言って、どうすれば良いか分からない。

 

(普段の言動と違って、腹の中は驚く程真っ黒。このままだと準(・)だけでなく、私(・)達(・)も(・)危(・)な(・)い(・)目(・)に(・)遭(・)う(・)恐れがある)

 矢矧さんと違って海風さんは、私や瑞稀ちゃん達(瑞鶴達)を排(・)除(・)す(・)る(・)事も辞さない、と考(・)え(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 しかも、私達だけでなく、準(・)が自分を選ばなかったら壊(・)す(・)、なんて考えている。

 

(薬を使用してまで手にしたいなんて……危険だわ)

 現に、今日の秘書艦を務める際、薬──媚薬を一服盛って軽く仕掛ける、なんて考(・)え(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 けれど、今朝。漁(・)に行く前に、海風さんの部屋に気配を消して侵入し、媚薬を似(・)た(・)よ(・)う(・)な(・)容(・)器(・)に(・)入(・)れ(・)た(・)水(・)とす(・)り(・)替(・)え(・)て(・)お(・)い(・)た(・)。

 

 そして、昼食時に再びす(・)り(・)替(・)え(・)て(・)お(・)い(・)た(・)容器を回収し、媚薬を持たせた。

 海風さんの思(・)考(・)を読(・)み(・)取(・)っ(・)た(・)所、気付かれていない。

 

 何故、そんな面倒な事をしたのか。

 以前、中(・)身(・)を(・)誰(・)か(・)に(・)す(・)り(・)替(・)え(・)ら(・)れ(・)た(・)事があるらしく、それ以降警戒して肌身離さず持ち歩き、時々自分で服用して効果を確認しているみたいだから、警戒されない為にやりました。

 

……大本営に居た頃、龍(・)驤(・)姐(・)さ(・)ん(・)に仕(・)込(・)ま(・)れ(・)た(・)事が、役立つ日が来るとは思わなかった。

 

 閑話休題。

 

 何故、海風さんは準(・)に対してそこまで好(・)意(・)を(・)寄(・)せ(・)て(・)い(・)る(・)のか。

 思(・)考(・)によると、どうやら彼女は昔。艦(・)娘(・)に(・)な(・)る(・)前(・)に(・)準(・)と(・)会(・)っ(・)た(・)事(・)が(・)あ(・)り(・)、その時に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっはははは♪』

 

 

『来るなッ!来るなァ!!』

 

 

──誰(・)か(・)の楽(・)し(・)そ(・)う(・)な(・)笑い声と、準(・)の悲鳴にも似た懇願が聞こえてきた。

 それと同時に、艦娘の力で強化された聴力が、走る足音を捉えた。

 

(笑い声の方は、今まで聞いた事が無い声ね)

 サキュバス(榛名)……の声ではない。駄(・)犬(・)の声でもない。瑞稀ちゃん達の声でもない。誰なの?

 思(・)考(・)を(・)読(・)み(・)取(・)ろ(・)う(・)と思ったけれど、範(・)囲(・)外(・)に居るからか、読(・)み(・)取(・)る(・)事が出来ない。

 

「……加賀さん。今、渡良瀬少佐の悲鳴が聞こえたんですけど、気の所為──」

 

「じゃないわ。確実に提(・)督(・)が悲鳴をあげているわ」

 私がそう言うと、野原主任は苦笑いをした。

 準(・)の悲鳴は聞(・)き(・)慣(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)から、聞き間違えようがない。

 抱(・)か(・)れ(・)る(・)前まで、私は毎日のようにやらかして、その度に聞いたから分かる。

……今後二度と、やらかさないようにしましょう。

 

「あ、やっぱり?けど、笑い声の方は今(・)ま(・)で(・)聞(・)い(・)た(・)事(・)無(・)い(・)声(・)だから、誰なのか分からないなぁ。誰だろ?」

『瑞鶴さん達や(・)ら(・)か(・)す(・)組(・)の誰かが、今まで出さなかった声を出したのかな?それか、考えたくないけど、新(・)た(・)に(・)誰(・)か(・)が(・)や(・)ら(・)か(・)す(・)ようになったのかな?』

 

「誰でもいいわ。提(・)督(・)を助けに行きます」

 確かに、気になる。けど、今準(・)は追い掛けられている。

 声の主が誰なのか考えるより、助ける事の方が大事よ。

 急いで準(・)の元へ向かおうとした瞬間、

 

 

「加賀さん!助けてくださいっ!淫(・)乱(・)ブ(・)ル(・)ー(・)がッッッ!!!」

 

 

 夕張さんが助けを求めてきた。顔を見ると、ガチ泣きしている。

 淫(・)乱(・)ブ(・)ル(・)ー(・)。つまり、さ(・)淫(・)れ(・)さんに襲われているみたい。

 ストッパー役の吹雪さんは漁(・)に。千歳さんは、哨戒に行ってしまった。

 

……仕方ない。準(・)を助けに行きたいけれど、頼られた以上、見捨てる訳にはいきません。

 準(・)は追い込まれると凄まじい力を発揮するから、恐らく暫くは持つ。

 けれど、夕張さんはそうでもない。先に夕張さんを助けてから、準(・)の所に行きましょう。

 

 

「ゆっうばっりさぁ〜ん!私の遺(・)伝(・)子(・)を注(・)ぎ(・)込(・)ま(・)せ(・)て(・)くださ〜い!」

 

 

……来たわね。

 さっさと沈(・)め(・)て(・)、準(・)の所に行かないと。

 艤装──は調整中だから、使用出来ない。なら、己の肉体で対処しましょう。

 

 

side 加賀 out

 

 

───────

────

─

 

 

side 矢矧

 

 

──第603鎮守府、医務室──

12:30。

 

 

 頭痛が酷い。

 

 耳鳴りが酷い。

 

 鼓動が早い。

 

 身体が熱い。

 

 視(・)界(・)が(・)紅(・)い(・)。

 

(……気持ち悪い)

 安静にしているけど、一向に良くならない。それどころか、段々悪化している気がする。

 

 

 

 

 数時間前。執務室を覗(・)い(・)た(・)際に見た光景がショックだったのか、私は体調を崩してしまった。

 

 見た瞬間、身体中の血液が沸騰したかのように熱くなり、頭痛や耳鳴りがして、呼吸が荒くなったのを覚えている。

 それだけじゃない。視(・)界(・)が(・)紅(・)く(・)染(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 比喩ではなく、文字通り紅(・)く(・)染(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

 そして、気が付けば執務室の扉をブ(・)チ(・)破(・)っ(・)て(・)、渡(・)良(・)瀬(・)を襲(・)っ(・)て(・)や(・)ろ(・)う(・)!と考え、実行に移そうとしていた。

 

(普(・)段(・)の(・)私(・)な(・)ら(・)、決(・)し(・)て(・)考(・)え(・)よ(・)う(・)と(・)す(・)ら(・)し(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)のに……)

 何故、そんな事をしようとしたのか、自(・)分(・)で(・)も(・)分(・)か(・)ら(・)な(・)い(・)。

 

 幸い、寸(・)前(・)で(・)理性が働いていたから、未遂に終わった。

 そんな事をすれば、渡(・)良(・)瀬(・)に嫌(・)わ(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。

 それに、何時までも扉の前に居たら、不審に思われる。

 

 だから、直ぐにその場から離れようとしたけれど、ふらついて倒れ、扉に身体をぶつけてしまった。

 

 そのせいで、執務室に居た渡(・)良(・)瀬(・)と海風に気付かれてしまった。

 急いでその場から逃げようとしたけど、身体が思うように動かず、結果、廊下に蹲る私を見られてしまった。

 

(日(・)頃(・)の(・)行(・)い(・)のお陰か、不審に思われなかったのが幸いだった……)

 や(・)ら(・)か(・)す(・)人(・)達(・)だったら、執務室に侵入しようとしていたのでは?と渡(・)良(・)瀬(・)や海風に思われていただろうけど、私だったから、不審に思われなかった。

 逆に、心配された。

 

(……温かかったなぁ)

 蹲っている私を見た渡(・)良(・)瀬(・)は、私が荒い息を吐いていたのを見聞きして、直ぐに医務室に運んでくれた。

 

 その時の私は全身ずぶ濡れの状態だったのに、渡(・)良(・)瀬(・)は一切躊躇せず、私を抱きかかえてくれた。

 そのせいで提督服が濡れ、汚れてしまったのに、全く気にしていなかった──ノックされた。誰かしら?

 

『矢矧、起きているか?』

 

……渡(・)良(・)瀬(・)だ。心做しか、心配そうな声をしている。

 一旦、先程の出来事を思い出すのをやめましょう。

 起きていると返事をし、入室しても良いか?と聞いてきたから、承諾して入室を促す。

 

「具合はどうだ?」

 

 医務室に入ると、心配そうな顔をしながら私(・)の(・)目(・)を見て、そう聞いてきた。

……何故、海風に頭を撫でられていたのか聞きたかったけど、それをすれば覗き見をしていた事がバレてしまう。我慢よ。

 

「……大丈夫よ。心配を掛けて、ごめんなさい」

 本当はあんまり大丈夫じゃない。さっきから頭痛と耳鳴りがして、鼓動が早く、身体が熱い。

 それに、視(・)界(・)が(・)紅(・)い(・)ま(・)ま(・)だ。本当、どうしてしまったの?

 

(何故、視(・)界(・)が(・)紅(・)い(・)の?)

 最初は眼球に何か異常が起きているのでは?と思い、医療妖精さんに診てもらったけど、結果は異常なし。

 現に、眼球に痛みは無いし、視力も低下していない。

 

 次に、頭痛や耳鳴り、鼓動が早い理由だけど、こちらは医療妖精さん曰く、「精神的疲労やストレスが原因」との事。

 

……こっちは心当たりが沢山あるから、納得出来る。

 今までずっと本(・)当(・)の(・)自(・)分(・)を(・)殺(・)し(・)、真(・)面(・)目(・)な(・)フ(・)リ(・)をしてきた。

 

(以前居た舞鶴鎮守府では、時々発散する事が出来たけど、此処(第603鎮守府)に来てからは、全くと言って良い程、発散出来ていない)

 更に、計(・)画(・)が(・)思(・)い(・)通(・)り(・)に(・)行(・)か(・)な(・)い(・)せいで、相当ストレスが溜まっている。

 そのせいで、限界を迎えてしまったのかもしれない。

 

……訂正。何度か発散は出来た。

 渡(・)良(・)瀬(・)達と一緒に、プールに行ったり。夏○ミに参加したり。

 こっそり妖精さんにナ○ティプを見せて、A(・)装(・)備(・)を造(・)ら(・)せ(・)た(・)り(・)。

 

 でも、その程度では発散し切れなかった。

 だから、あの光景を見た事でトドメを刺され、こうして医務室に──

 

 

「…………矢矧。いや、香(・)苗(・)」

 

「──提(・)督(・)。今は仕(・)事(・)中(・)よ?名(・)前(・)ではなく、艦(・)名(・)で呼びなさい?」

 思考していると、渡(・)良(・)瀬(・)が真剣な顔をしながら、私の名(・)前(・)を呼んできた。

 

 本音を言えば、とても嬉しい。もっと私の名(・)前(・)を呼んで欲しい。

 でも、今は仕事中。だから、名前(香苗)ではなく艦名(矢矧)で呼ぶよう注意をした。

 しかし、

 

「……今、俺は提(・)督(・)と(・)し(・)て(・)ではなく、一人の男──渡(・)良(・)瀬(・)準(・)として、香(・)苗(・)。お前に聞きたい事がある」

 

「……何かしら?」

 注意しても、渡(・)良(・)瀬(・)は私を香(・)苗(・)と呼んできた。

 普段なら「公私混同してはダメよ?」と注意していたけど、今は精神的に余裕が無い為、出来なかった。

 そして、

 

「単刀直入に聞く。香(・)苗(・)、無(・)理(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)か(・)?」

 

「──ッ!?」

 私の心を揺さぶる言葉を放ってきた。

 無(・)理(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)か(・)。渡(・)良(・)瀬(・)が言った通り、私は無(・)理(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 本(・)当(・)の(・)自(・)分(・)を(・)殺(・)し(・)、真(・)面(・)目(・)で(・)優(・)等(・)生(・)の(・)フ(・)リ(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 

(もしかして、バレた?)

 ここ最近、色々あったせいで、自分でも気付かない間に化(・)け(・)の(・)皮(・)が(・)剥(・)が(・)れ(・)て(・)、真(・)面(・)目(・)で(・)優(・)等(・)生(・)の(・)フ(・)リ(・)を(・)し(・)て(・)い(・)る(・)と気付かれてしまったの?

 

……落ち着きなさい、私。まだそうと決まったわけじゃない。

 恐らく、医務室で休む事が初めてだから、心配して「無(・)理(・)し(・)て(・)い(・)な(・)い(・)か(・)?」と聞いてきたのでしょう。

 

……能代姉さんが、本(・)当(・)の(・)私(・)をバラした可能性を考えたけど、昔、シ(・)バ(・)き(・)倒(・)し(・)て(・)口外しないと誓(・)わ(・)せ(・)た(・)から、それは無い。

 

「……その顔。やっぱり無理をしていたんだな」

 

 自分ではポーカーフェイスを保っていたつもりだったけど、顔に出てしまったみたい。

 ここで変に慌てたりすると、不審に思われてしまう。

 

「……そう、ね。最近、色々あったせいで、少し疲れてしまったみたい」

 だから、軽く溜息を吐き、軽く顔を顰めながら「疲れてしまった」と答える。

 渡(・)良(・)瀬(・)の中で、私は苦労人ポジションに居ると認識されているから、こうすれば誤魔化せるかもしれない。

 

「……すまない、苦労をかけて。そして、気付いてやれなくて」

 

「気にしなくていいわ」

 良し!誤魔化せた!普段の行いのお陰で、疑われていない!

 

「いや、けど──」

 

「私が気にしなくていい、って言っているのだから、気にしなくていいわ」

 敢えてキツめの口調で返答。こうすれば、普(・)段(・)の(・)口(・)煩(・)い(・)矢(・)矧(・)と思われて、これ以上追求されずに済む。

 本当は優しい口調で「心配しなくても大丈夫」と言いたかったけど、それをしたら不審に思われる。我慢よ。

 

「──そう、か。分かった。ただ、本当に無理はしないでくれ。無理だと思ったら、遠慮なく言ってくれ」

 

「了解よ」

 相変わらず優しいわね。

……その優しさを、私(・)だ(・)け(・)に(・)向(・)け(・)て(・)欲(・)し(・)い(・)なぁ。

 

 今までは瑞鶴達を排(・)除(・)して手にしよう、と考えていた。

 でも、今は違う。そんな事をすれば、渡(・)良(・)瀬(・)が悲しむ。

 だから、正(・)攻(・)法(・)で挑んで、渡(・)良(・)瀬(・)の心(・)を(・)私(・)に(・)向(・)け(・)て(・)み(・)せ(・)る(・)。

 どんなに時間が掛かろうと、必ず手にしてみせる。

 

 本当は今すぐにでも仕掛けたいけど、今はダメ。

 色々あったせいで、渡(・)良(・)瀬(・)の精神が弱っている。

 今仕掛けると、渡(・)良(・)瀬(・)の精神に甚大な被害を与えて、逆に距離を取られる恐れがある。

 

 だから、今は我慢よ。

 

 

 

…………そう思っていたけど、

 

 

「──さて。俺はそろそろ仕事に戻る。矢(・)矧(・)はこの後も此処(医務室)で休め。いいな?」

 

 暫く渡(・)良(・)瀬(・)と会話をしていたら、抑(・)え(・)ら(・)れ(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。

 

……もっと、お話したい。

 

 二人きりで、過ごしたい。

 

「……矢(・)矧(・)?」

 

 気が付けば、医務室から去ろうとする渡(・)良(・)瀬(・)の手を掴んでいた。

 

……離さなきゃ。じゃないと、渡(・)良(・)瀬(・)は仕事に戻れない。

 

 しかし、手を離す事は出来なかった。

 

「どうした?」

 

 渡(・)良(・)瀬(・)が、微笑みながら優しい声でそう言ってきた。

 

 顔や声を見聞きするに、鬱陶しがってはいない。

 

 無性に、襲(・)い(・)た(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)き(・)た(・)。

 

……何バカな事を考えているの?そんな事をすれば、嫌われるわよ?

 

 内心で自分を叱責。

 

 しかし、抑えられず、襲(・)い(・)た(・)い(・)衝(・)動(・)が膨らんできてしまった。

 

「お、お〜い?矢(・)矧(・)?どうした〜?」

 

 渡(・)良(・)瀬(・)の戸惑うような声が聞こえる。

 

 嗚呼。襲(・)い(・)た(・)い(・)。

 

「ちょっ!?おまっ!?」

 

 気が付けば、渡(・)良(・)瀬(・)の手を引き、抱き寄せていた。

 

 うふふっ。可(・)愛(・)い(・)顔(・)ね。

 

 さっきまでは襲(・)い(・)た(・)い(・)と思ったけど、今は甘(・)や(・)か(・)し(・)た(・)い(・)衝動に駆られている。

 

「矢(・)矧(・)……さん?あの……何をしていらっしゃるのでございましょうか?」

 

 渡(・)良(・)瀬(・)が何(・)か(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 でも、今はど(・)う(・)で(・)も(・)い(・)い(・)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘(・)や(・)か(・)さ(・)な(・)き(・)ゃ(・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、矢矧?ねぇ、聞いてる?あの、何でそんなイ(・)イ(・)笑(・)顔(・)をしているの?提督さんに教えて──あっ、ちょっ!?マズい!この体勢マズいですよッ!?ねぇ、マジでどうしたの──待って!?何でベルトに手を掛けているのッ!?やめてッ?お願いしますやめてくださいッ!!」

 

 

 暴れないで?ほら、もっと顔を私の胸(・)に(・)埋(・)め(・)な(・)さ(・)い(・)?甘(・)え(・)な(・)さ(・)い(・)?

 

 今ならサ(・)ー(・)ビ(・)ス(・)してあげるわ?

 

……あっ、コラ!暴れないで!?逃げるなッ!!

 

……逃げられちゃった。

 

……ふふっ。恥ずかしがり屋なのね?

 

……笑っていないで、追(・)い(・)掛(・)け(・)な(・)き(・)ゃ(・)。

 

 追(・)い(・)掛(・)け(・)て(・)、とっ捕まえて、甘(・)や(・)か(・)し(・)て(・)あ(・)げ(・)な(・)き(・)ゃ(・)ッッッッ!!!

 

 格納領域(空きスロット)に仕舞っておいた、20mmマシンガン型麻酔銃を取り出す。

 

 当たっても痛くないよう、威力を抑えて──良し。

 

「待っていなさい、渡(・)良(・)瀬(・)♪」

 すぐにとっ捕まえてあげる♪

 

 嗚呼……視(・)界(・)が(・)真(・)っ(・)赤(・)だ。

 

 嗚呼……気(・)分(・)が(・)と(・)て(・)も(・)高(・)揚(・)し(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 嗚呼……身(・)体(・)が(・)軽(・)い(・)。

 

 

 

 うふふっ。うふふふふっ。あはははははっ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっははははは!!あははははははははははははッッッ!!!」

 

 

 

side 矢矧 out

 

 

───────

────

─

 

 

side 提督

 

 

──第603鎮守府、母港──

13:05。

 

 

「何で……何でだ……!」

 あの、オ(・)カ(・)ン(・)と呼ばれている矢矧が。

 あの、真面目が服を着ている矢矧が。

 あの、一切やらかさない矢矧が。

 

「何であんなイ(・)イ(・)笑(・)顔(・)をしたんだあああああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 あの笑顔、何度も見た事があるから分かる。

 瑞鶴達が、俺(・)を(・)襲(・)う(・)際に見せる笑顔だ。

 瑞鶴達なら、イ(・)イ(・)笑(・)顔(・)を見てきても、「何時もの事だな」と流せる。

 けど、さっきそのイ(・)イ(・)笑(・)顔(・)をしたのは、矢矧だ。

 

 大事なことだから、もう一度言うぞ。

 

 オ(・)カ(・)ン(・)と呼ばれ!

 真面目が服を着ている!

 今まで一度たりともやらかしていない矢矧が!

 

 

 イ(・)イ(・)笑(・)顔(・)で俺を抱き寄せ、ズボンのベルトを外そうとしやがったッッッ!!!

 

 

 

 百歩譲って、抱き寄せるだけなら許せた。

 けど!ベルトッ!!何故外そうとしたッッ!!

 

「畜生ッ!畜生ッ!!信じていたのにッッッ!!!」

 矢矧は決してヤ(・)ら(・)か(・)さ(・)な(・)い(・)と心の底から信じていたのにッ!!

 

 くそっ。ただでさえ色々あってSAN値ピンチ状態なのに、さっきの出来事のせいでSAN値直葬されそうだよッ!!

 今すぐにでも発狂して、オ(・)ギ(・)ャ(・)良(・)瀬(・)モードをすっ飛ばしてバ(・)ブ(・)良(・)瀬(・)モードに突入しちまいそうだ!

 今なら、母性ランキング暫定一位の夕立を見た途端、バ(・)ブ(・)良(・)瀬(・)モードになって泣き付いて一瞬で赤(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)になれる自信があるッッッ!!!

 プライドなんか全部投げ捨てて、全力でバ(・)ブ(・)っ(・)て(・)や(・)る(・)ッッッ!!!今の俺は大(・)き(・)な(・)赤(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)だ!助けてママーーーーーーッッッ!!!

 

 

……嘆いている場合じゃない。アホな事考えている場合じゃない。

 今はとにかく逃げよう。そして、誰かに助けを求めよう。

 

(現在、鎮守府に残っているマ(・)マ(・)……じゃねーよ!なんだよ!残っているマ(・)マ(・)って!艦娘だろ!!)

 しっかりしろ!

……気を取り直して。

 

(現在、鎮守府に残っている艦娘は、加賀さん、足柄、鈴谷、熊野さん、夕張、五月雨、時雨、海風。そして、能代さん──ッッ!?)

 母港を全力疾走し、誰に助けを求めるか考えていると、背後からねっとりとした視線を感じた。

……ものすっっっごく嫌な予感しかしない。

 振り返りたくない。けど、振り返らないといけない気がする。

 

(……一瞬だけ振り返ろう)

 よーし、やるぞ。覚悟決めろ。せーの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(<⚫>)(<⚫>)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(<(((⚫)))><(((⚫)))>)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 矢矧さんだァ!矢矧さんが足(・)音(・)を(・)一(・)切(・)立(・)て(・)ず(・)、綺麗なフォームで走って追っ掛けて来てるゥ!

 うわぁい!すんごいお目目でこっち見てますよー!

 俺と目が合ったら、更に瞳孔をカッ広げやがりましたァ!

 あはははっ!悪(・)寒(・)が走ってきちゃったよ!オ(・)カ(・)ン(・)に追っ掛けられているからかなァ?

 

……ふざけてる場合じゃねーよ!アホッ!逃げろッッッ!!!

 

 あと、矢矧さん!右手に持っている物はなんですか?俺にはマシンガンにしか見えないんですけど──撃ってきやがったァァァッ!!危ねぇぇぇェェェッッ!?

 

 

 

「あっはははは♪」

 

 

「来るなッ!来るなァ!!」

 何でッ!?何で撃ってきたのッッッ!!?

 

 

「私は面倒が嫌いなのよ。だから──

 

 

大人しくしなさい」

 

 

「やだよッッッ!!!」

 大人しくしたら、襲うでしょッ!?なら、大人しくしないッッッ!!!

 あと、面倒なのが嫌い、って言ったから気付いたけど、君が持っているマシンガン、ヴィ○センが装備している奴とそっくりだね?何時造ってもらったの?提督さんに教えて──撃つなッッッ!!!

 

 あぁ、もう!

 

 

「何故だああああああああぁぁぁぁぁ!!?」

 何故、矢矧は俺を襲うんだああああああああああああああ!!?

 

 

side 提督 out

 

 

───────

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─

 





次回予告


……矢矧が、あんなはっちゃけた性格をしているとは思わなかったよ。摩耶様ビックリだ。
 能代さんと提督が上手く説得して落ち着かせたけど、矢矧はやらかした事で落ち込んでいる。提督やアタシ達は気にしていないんだけどなぁ。
……お!提督、お疲れさん──どうしたんだ?そんな顔して。何か、またトラブルでも起きたのか?
……近日中に、新人が此処に配属される?そっかー、新人が来るのかー。可愛がってやらーねーと……はぁ!?
 

第149話・一難去ったと思ったら、十難位来た


「全て家(・)族(・)にしてしまえば、片が付くわ!だから、提督。

 今日から皆、家(・)族(・)だッッ!!の精神で居れば、何とかなるわッッッ!!!」


※どんどん頭の悪い内容になっていますが、仕様です。
 予め、ご了承下さい。


【補足的なナニか】

・ヴィクセン…「アーマード・コア」シリーズに登場する機体を指す。
 搭乗者は「面倒な事が嫌いな人」こと「スティンガー(CV.速水奨)」。
 武装の一つに、20mmマシンガンがある。

・母性ランキング…第603鎮守府を運営する、渡良瀬準少佐が勝手に作ったランキング(らしい)。
 渡良瀬少佐曰く、一位は白露型駆逐艦四番艦、夕立との事。
 二位以降について聞こうとしたが、嫁さん達に襲われた諸(・)事(・)情(・)により聞く事が出来なかった為、不明。
 もしかしたら、今後明らかになるかもしれない。

以上、補足終了。
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