本日組む提督候補生の名前は、渡良瀬準という男の子だった。
他の子達のように、欲に負けて何かやらかすと思っていた。
勿論、中にはしっかりしている子も居た。
けれど、何処か危うい。
私が指摘したら、少しだけ嫌そうな顔をされた。
でも、彼は違った。
芯のある子だった。
少し危うい所もあり、私が指摘したら素直に聞いてくれた。
へぇ、いい子ね。
それから、何度か彼と組んで訓練を行いました。
気が付けば、彼の事を目で追うようになっていました。
──5年数ヶ月前──
「渡良瀬準だ。よろしく」
「扶桑型戦艦一番艦、扶桑です。よろしくお願いします」
集合場所の埠頭へ行くと、既に提督候補生が待っていました。
年齢は18歳。昨日、端末で確認した情報を思い出す。
確か、提督候補生の最年少が18歳でしたね。やんちゃ盛りな歳頃ね。何かやらかさなければいいのだけど。
………………。
『次、砲撃訓練に移る。各員、所定の位置に就いて準備を整えてくれ』
「了解」
あら、真面目な子ね。私のこと、ジロジロ見て来なかったわ。それに、指示も的確。まぁ、少し危うい所もあったけど、精進すれば輝きそうね。さて、指示通り、砲撃の準備をしましょう。
………………。
『本日の訓練はここまで。皆、お疲れ様』
「お疲れ様です」
ふぅ。終わった。なんだかあっという間だったわね。
さて、的を片しましょう。
訓練で使用した的を回収し、桟橋へ向かう。今日もしっかり当てられた。この調子で頑張りましょう。
(それにしても)
渡良瀬提督候補生。彼、結構しっかりしているわね。もっとやんちゃなのかと思ったけど。
途中、彼が間違った指示を出したから指摘したけど、素直に聞いてくれた。
(他の子達と比べて、少しだけ危うい所もあるけど、一生懸命ね)
何人か一生懸命で真面目な子も居るけど、どこか勢いに任せてしまうきらいがある。けど、彼は違った。冷静に周りを見ている。
(いい子ね)
第一印象は普通だったけど、認識を変える必要がありそうね。
──────────────
「お疲れ様です、扶桑さん」
「お疲れ様」
あれから何度か彼と組み、訓練を行った。
暫く様子を見ていたけど、結構まともな子だと分かった。
全員が全員ではないけど、やんちゃで己の欲に素直な子ばかり。彼は真面目で気配りも出来る。それに、芯が強い。勢いに任せたりしない。
(まだまだ危ういところもあるけど、許容範囲ね)
私に指摘されても、素直に聞いてきれる。嫌な顔を一切しない。指摘されたらメモを取り、次以降は指摘されたミスをしない。素晴らしいわ。
(良い子ね)
そうそう、私が年齢を教えたら、物凄い驚いていたわね。
余談だけど、提督候補生達は艦娘の年齢を知らない。端末にも記されない。女性の年齢は一種のパン○ラボックス……じゃなかった、パンドラの箱。開けたら最期。悲惨な目に遭うわ。いいえ、遭わせてやります。
……いけない、脱線してしまったわね。
私の年齢を教えたら、同い歳だと思っていたと言われ、タメ口から敬語になった。あらあら、嬉しいわね。もう××歳なのに、18歳だと思ってくれたなんて。
………………。
「古武術を習っていたのですか?」
「えぇ。私の祖父に、幼い頃から教わっていたわ」
訓練が終わり、私から話しかけて雑談をしていたら、「何か武術でも習っていたのですか?」と聞かれた。どうやら私の動きを見てそう思ったそうだ。
でも、何故気付いたのかしら?彼に質問をすると、
「自分の祖父は武術を習っていたらしく、その動き──身体捌きが似ていたので、武術を習っているのかな、と思って……」
「そうなの」
へぇ、だからそう思って聞いてきたのね。
それにしても、
(もっと気さくに接して欲しいわ)
何故だか悲しくなるわ。
……どうして悲しくなるのかしら?
少しだけ、疑問に思った。
………………。
「こんにちは、扶桑さん」
「あら、こんにちは」
座学を終え、昼休憩の時間になり食堂で席を探していると、彼に声をかけられました。
「席を探しているのですか?」
「えぇ。けど、混んでいて……」
丁度座学が終わった直後だから、食堂は混雑しています。皆さん、素早く食べていますが、暫く待つ必要がありそうね。
「俺、さっき席を確保したので、よければ相席しませんか?」
「本当?」
「えぇ」
「ありがとう、相席させてもらうわ」
良かった。席が空くのを待たなくて済みそう。
その後、彼と一緒に昼食を摂りました。お喋りしたかったけど、席が空くのを待っている人が多かったから、少ししか話せなかった。
少し、残念ね。
……何故残念だと思ったの?
………………。
「うぅ……」
油断したわ。無様ね。
今日の演習相手──教官から一目置かれている駆逐艦娘、夕立という少女と戦ったのだけど、足の速さを生かし撹乱され、足に雷撃を受けてしまった。
まだ妖精さんの加護が完全ではない為、物凄く痛む。立つのがやっと。
「扶桑さん、しっかり!」
「渡良瀬提督候補生……」
本日組んだ娘達に心配されながら、なんとか桟橋に戻ると彼に声をかけられました。ごめんなさい、無様な姿を見せて。
痛っ!陸に上がり、艤装を格納したら、鈍い痛みが走りました。この感じ、ヒビが入っているわね。
「ほら、乗って」
「……えっ?」
彼が私に背を向け、しゃがみました。あ、あの、私なら大丈夫よ。自分で歩いて医務室に行けるわ。そう言ったけど、彼は首を縦に振りませんでした。
結局、彼に背負われ医務室に向かいました。
(……暖かい)
彼の背中、逞しい。なんだか、落ち着く。
……何を考えているの?
………………。
「あっ!」
演習中、被弾してしまい、御祖父様から頂いた髪飾りが外れ、海面に落ちてしまった。慌てて拾い上げる。
壊れてる。
髪留めの部分が劣化していたのか、外れてしまったみたい。そんな、大切な髪飾りなのに。
「……はぁ」
演習後、陸に上がり、艤装を格納すると、彼に声をかけられた。
「あの、どうかされました?」
「実は……」
彼に髪飾りの事を話しました。すると、
「申し訳ありません。俺のせいで……もっと、的確に指示を出していれば、扶桑さんが被弾する事も、髪飾りが壊れる事も無かったのに……」
嗚呼、そんな悲しそうな顔をしないで。あなたのせいじゃないわ。気にしないで?しかし、彼は申し訳なさそうな顔をしたままだった。
「あの、良ければ明日、完全休養日なので髪飾りを買いに行きませんか?お詫び、って訳じゃないですけど、俺、プレゼントしますよ!」
……なら、お言葉に甘えようかしら?
───────
「姉様が、男とお出かけ!?なっ、なんてうらやまけしからんっ!!!」
艦娘の力を使い、姉様とあの男の会話を盗み聞きしていたら、とんでもない事が聞こえた。
ふざけるな。姉様を誑かそうとするなど。
あの、
「万死に値する!」
『やっ、山城!?』
「……えっ?」
砲弾が目の前に浮いている。
大きいわね。
あっ、戦艦娘の砲弾だ。
今日の演習相手、戦艦娘は榛名ね。
あれ、これ、マズいんじゃない?
顔面直撃よ、これ?
さて、このあとの展開を予想しましょう。
1…頭の良い素敵な山城ちゃんは天才的閃きにより、この窮地を脱する
2…美しく凛々しい桔梗姉様が颯爽と助けに現れてくれる
3…現実は非常なり。私の顔面に砲弾が直撃する。
さぁ、どれ?きっと2ね。桔梗姉様は私が困った時、ピンチの時、必ず助けてくれる。だから3にはならない。絶対ならな────
「ヌゴォ!?」
『山城オオオォォォォォ!!!』
……ふっ。ふふふっ。不幸だわ。加藤提督候補生の悲鳴にも似た声が無線から聞こえた気がするけど、気のせいね。嗚呼、空。青い…わ……ね…………。
私、山城は丸一日、医務室で過ごす事になりました。
くそっ、止められなかった。
艤装の加護が未だ完璧じゃないから、こうなったらしい。うぅ……不幸だわ。
そうそう、入渠したお陰で、顔に傷は付かなかったわ。
さて。復活したら、あの男。渡良瀬提督候補生をシバく。慈悲も容赦も無い。処す。
───────
「〜〜♪」
うふふ。うふふふっ。何故でしょう。気分が良い。
彼に誘われ髪飾りを買いに行き、1つの髪飾りを選んで買ってくれた。
(桔梗の花をモチーフにした髪飾り…)
私の名前と同じ花。それを買ってくれた。
そこそこ良い値段がしたのに、買ってくれた。
(可愛かったわね)
男の人に可愛い、と言うのはアレだけど、本当に可愛かった。私より歳下なのに、沢山気を遣ってエスコートしてくれた。その姿が可愛く見えた。
(……気持ちを切り替えなさい)
これから訓練なのよ。いつまでも浮かれていてはダメ。
己を叱責し、集合場所へ向かう。その時だった。
「姉様を誑かす、悪い提督候補生は居ねぇかぁ!!!」
「……えっ?」
身体の芯まで響くような大声が聞こえた。この声は、山城?一体何が?
「やめてえええええええぇぇぇぇ!!!」
「渡良瀬提督候補生?」
更に、彼の声──というより、悲鳴が聞こえてきた。
嫌な予感がして声の聞こえた方へ向かうと、そこには。
「なっ!?」
演習用の弾丸が入れられた木箱を大量に担ぎ、それを渡良瀬提督候補生に向かって1つずつ投げ付ける妹の姿が視界に入りました。えっ?えぇっ!?
一体何が?そう思っている間にも、妹は彼に木箱を投げ続けていました。
明らかに戦艦娘の力を使っている。当たれば大怪我をしてしまう。止めないと。しかし、
(見事な身体捌きね)
彼の動きに見惚れてしまいました。あの動き。一見、無駄に見えるけど、無駄がない。無駄に洗練された、無駄のない、無駄な動き…じゃない。何を考えているの?早く止めないと!
(……あっ、上手い)
しかし、回避する動きを見てしまう。古武術を習ってきたから分かる。あの動き。
(御祖父様と似てる)
春画が見つかり、御祖母様に日本刀を振られ、それを必死に避ける御祖父様を連想させる動き。本当に似ている。
「……何考えているのよ」
だから、変な事を考えていないで止めなさい!
そう思った時だった。榛名さんが妹に声をかけました。その為、妹は箱を投げるのをやめ、榛名さんと会話を始めた。その隙に彼は逃げ出しました。
(あっ……)
行ってしまいました。その後を妹は追いましたが、陸奥教官に止められ、この騒動は終わりました。
この後、山城は教官に厳重注意を受け、叱られました。
私も、妹を止められなかった事を謝罪し、深く反省しました。
「何故あんな事をしたの?」
「姉様を誑かすあの男が許せなくて、制裁を加えようとしました」
「あなたね……」
そんな理由であんな事をしたの?全く、落ち着きなさい。私を大切に思ってくれるのは嬉しいけど、やり過ぎよ?もっと落ち着きを持ちなさい。
───────
「……」
あの事件から1ヶ月が過ぎました。最近、妹の様子がおかしい。だから、こっそり後をつけていたら、聞いてしまった。
彼に好意を寄せる発言を。
(あなた、彼を嫌っていたじゃない)
何故?ねぇ、何故?彼は私のモノよ?少しだけ苛つく。
(……モノって何よ)
私は何を考えているの?それに、何故こんな気持ちになるの?
……正直になりなさい、私。
誤魔化すのはやめなさい。
彼の事が気になっているのでしょう?
きっかけは、なんだったかしら?
(……あれ?)
心当たりが多過ぎて、分からない。ただ、彼の事が気になる、という事は確かだ。
(負けたくない)
例え、妹でも。
───────
「これから1ヶ月、よろしく頼む」
「はい、こちらこそ♪」
彼の事が気になる。自覚してから何度も行動を起こそうと思いました。けれど、心の何処かでブレーキをかけてしまい、私の想いを言葉に出すことは出来ませんでした。
そして、ある日のことでした。藤原准将から告げられました。
希望する提督候補生と共に1ヶ月間過ごせ。
(これは、チャンスです)
先日、完全休養日に妹と榛名さんの3人で出かけた時、彼女達も彼に好意を寄せている事が判明した。
2人は、彼と同い歳。しかし、私は彼より歳上。私は恋愛について詳しくないけど、選ぶなら同い歳の方がいいでしょう。
このままでは負けてしまう。嫌だ。負けたくない。負けたくない!けれど、
(こんな私を、選んでくれるのかしら?)
昔からの癖で、殺気を出してしまう。砲撃時、それが顕著に出てしまう。
しかし、彼はそれを見ても、普段通り。今までと変わらず接してくれる。でも、内心怖がっているかもしれない。そう思うと、攻めることが出来ない。
(……はぁ)
空はあんなにも青いのに。
でも。
(陸奥教官が仰っていました)
希望する提督候補生と共に過ごすと、ほぼ間違いなく同じ鎮守府に着任出来る、と。
それなら、今は攻めず、甲斐甲斐しさと歳上のお姉さん的包容力を見せて、少しずつ心を私に向ければいい。
何時如何なる時も、冷静に。
冷静になれば、失敗しない。今までそうでした。
なら、落ち着いて過ごしてアピールしていけばいい。
時間ならある。
(ふふっ。楽しくなってきたわ♪)
さて、どうアピールしようかしら?
そうだ、書類仕事をお手伝いしましょう。自慢じゃないけど、書類仕事、早いのよ?
うふっ。うふふふ。うふふふふふ♪
──────────────
──5年前、佐世保鎮守府──
「……」
ここは、何処?彼の着任した鎮守府は、第603鎮守府よ?
「私は佐世保鎮守府の提督、浅田よ。よろしくね。いやぁ、戦艦娘が少なかったから、助かるわぁ」
佐世保鎮守府?おかしいですね。私は第603鎮守府に着任した筈ですよ?何を言っているの?おかしいわね?
隣に立つ妹と榛名さんも何か言って?
「……」
「……」
あらあらあら。目から、はいらいと?が消えていますね。目薬指しなさい?そんな濁った目をしていては、渡良瀬提督のお顔がぼやけて見えてしまうわ?
「…あの〜、すみません、ハイライトが消えた目で見つめないで頂けないでしょうか…」
「……」
「……」
「……」
おかしいわね、女性の声が聴こえるわ?渡良瀬提督は男性だったでしょう?杉○智和さんみたいな声なのに、今聴こえたのは沢○みゆきさんに似た声。もしかして、変声機を使って私をからかっているのかしら?うふふ、お茶目なんですね、渡良瀬提督♪可愛い♪
……現実逃避するのはやめなさい。
落ち着いて確認しましょう。
私は扶桑型戦艦一番艦、扶桑の適性を持つ艦娘。
本名、神谷桔梗。
年齢は××歳。
趣味は鍛錬と渡良瀬提督を視姦する事。
好きな物は日本刀と渡良瀬提督。
好きな四文字熟語は切磋琢磨と
好きな音楽は特上塩ボー○サイト980円(IOS○S)。
好きな──
………………
…………
…。
こうして、私は第603鎮守府に着任しました♪
あはっ♪
あははははっ♪
…………。
真面目になりなさい。
今、私が居るのは佐世保鎮守府。
提督の名前は浅田凛大佐。
海軍では珍しい、女性の提督。
つまり、私は彼と離れ離れになってしまった。
私と妹、榛名さんは佐世保鎮守府。
矢矧さんと初霜さんは舞鶴鎮守府。
満潮さんと海風さん、葛城さんは第08鎮守府。
木曾さんと鈴谷さんは江ノ島鎮守府。
夕立さんは横須賀鎮守府。
そして、涼月さん、時雨さん、早霜さん、秋雲さん、夕張さん、摩耶さんは、彼と同じ第603鎮守府に着任。
着任先が判明した日、私は荒れた。
陸奥教官から煙管を借り、吸ってしまった。噎せた。
ハンカチで渡良瀬提督を模した人形を作った。可愛い。
山城を脅し、彼に迫り拉致させようとした。
榛名さんは勝手に暴走し、彼を追いかけ回していた。
私はそれを見ていた。
だって、危ない女だと思われたくなかったから。
「……さて」
私を佐世保鎮守府に着任させた、神様。仏様。
「ふっ、扶桑、頼まれてた日本刀、出来たにゃ」
「……ふふっ、ありがとうございます♪」
緑色の髪をした小柄な女性、明石さんが声をかけてきました。
ありがとうございます。嗚呼、日本刀だ。
あはっ♪
これで。
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Last Page「妖怪首置いてけ 扶桑」
何処?首は……首は何処だッ!!!
※次話、ついに覚醒。究極完全体、妖怪首置いてけ薩人大和撫子が誕生する瞬間を見逃すな!(ステマ)
Q:山城、そんな事(箱を投げる)したら、強制的に艦娘辞めさせられるんじゃね?
A:現実ならそうですが、これはギャグ小説です。だから問題ない。細かい事気にしちゃダメ。
Q:大本営とか提督候補生とか、無能なのが多くね?
A:現実ならね。でもこれ、ギャグ小説だから細かい事気にしちゃ(ry
作者の描写が下手だから、こうなった。とりあえず、全部作者のせいにしといて。
Q:過去編ばっかで本編進んでない。本編書いて
A:今書いてる!暫く待って!
Q:妖精さん達の加護が完全じゃないって、危なくね?
A:危ないです。勿論、その事は既に座学で教えられています。
例えるなら、艦娘候補生は産まれたての雛のような存在。加護が完全では無い為、養成所を卒業した艦娘と比べると防御力が低いです(という設定)。
その他、疑問に思った気があれば、気軽にコメントしてやってください。