side 提督
──第603鎮守府、執務室──
漁開始143日目。
09:30。
本日の天気、前が見えない程の大雪。
気温、マイナス4℃。風速14m/s。
予報だと午前中は曇で、風も穏やかだと言っていたのに。まぁ、予報だから仕方ない。
(まるで、ついさっきまでの俺の心境みたいだ)
いや、そのものと言うべきだな。
昨日に引き続き、今朝も食堂で短期交換派遣でやって来た娘達──秋津洲さんとグラーフさん。
そして、オイゲンさんが賑やかにしてくれて。
そのせいで、俺の心境は現在の天気のような荒れた状態に陥っていた。
……賑やかにしてくれた、と言ったけど、勿論悪い意味だぞ。
何が起きたか簡潔に説明すると、
秋津洲さんは昨日。来て早々、野原主任と鬼ごっこして。
今朝は、食堂で椅子に座ったまま犯気マシマシの視線を野原主任に送り続け、その視線を浴び続けた野原主任が軽く幼児退行しかけ。
グラーフさんは昨日、ウチに来て案内された後。体調を崩してしまい、医務室に行き、その際医務室で瑞鶴と鉢合わせし、エンゲージ。
今朝も、エンゲージする気満々の視線を瑞鶴に浴びせ続け、瑞鶴が今にも死にそうな顔をしていた。
それから、オイゲンさんは……あは…………あはははははは──落ち着け。落ち着くんだ。思い出すな。
本日の秘書艦・海風が励ましてくれて。
励まされた事で多少まともになれたが、俺の精神状態が未だ未だアレだった為、リラックス効果のあるハーブティーを用意してくれて。
それを飲んだお陰で、ついさっき──数分前にやっと精神が落ち着いたんだ。やめよう。
……オイゲンさんに何をされたか教えろ?やだ。説明したら幼児退行しちまう──分かったよ。少しだけ教えてやる。
詳細については省くが、以下の通り。
・オイゲンさん、着任後すぐドイツ式のアプローチを俺にかけてくる
・俺、理性を破壊されかける
・食堂でもドイツ式のアプローチをかけてくる
・それを見たウチのヤベー奴ら、半ギレ
・何時ものドッタンバッタン大騒ぎ!になる
・ビスマルクさん、オイゲンさんを説得(物理)する
・俺も、一部のまともな娘達と協力して、ヤベー奴らを説得(物理)してその場を治める
・今朝も食堂で、オイゲンさんにドイツ式のアプローチをされ、昨夜と同じ事をして何とかした
以上。
……これ以上は説明したくない。したら幼児退行しかねん。許してくれ。
……にしても、ドイツの人って……なんつーか、凄いね。積極的過ぎる。
何故、あそこまで積極的なのか。
大惨事大戦が勃発しかけ、一段落した後。ビスマルクさんが、
『ドイツの恋愛は日本と違って、告白してから付き合うのではなく、デートをして、キスやアレをして、暫くして話し合いをしてから、告白して恋人になるの』
と教えてくれた。
成程。だからあんなに積極的だったんだね。
とりあえず、一言。此処は日本です。ドイツではありません。ドイツ式じゃなくて日本式のアプローチをして下さい。
好意を口で告げる前に、行為で好意を示さないでください。
提督さんびっくりだよ。カルチャーショック受けちゃったよ。もっと外国文化とかについて勉強しなきゃ。
というか、何故オイゲンさんは俺に好意を抱いているの?ドタバタしていたせいで聞いていない。今度時間を作って聞いてみよう。
閑話休題。
……ビスマルクさんから、ドイツの人達の恋愛云々について説明を聞いて気付いたんだけど、ウチのヤベー奴ら、ドイツ式のアプローチをかけて来てない?いや、かけて来てる。
つまり、ヤベー奴らは全員、日本人じゃなくてドイツ人だったのか──はい、やめ。思い出すな。身体がガタガタ震え始めているぞ。
この震えは、寒さによる震えじゃない。本能的恐怖を感じた事による震えだ。
マジでこれ以上思い出したら、オギャ良瀬モードに突入するのは確定的に明らかだ。
せっかく海風に頭を撫でられたり、言葉で励まされた事で落ち着いたんだ。
昨夜と今朝の出来事を思い出すのはやめよう。はい、終わり。閉廷。解散。
……さて。頭を切り替えて、仕事モードに突入しよう。
閑話休題。
(こんな悪天候の中、漁や出撃、哨戒に出てくれる艦娘達には頭が上がらない)
ただでさえ気温が低く、大雪が降り、更に強風が吹いている。そんな悪天候の中を出てくれる。本当に感謝しかない。
何時だか言ったと思うけど、風速が1m/s増す毎に体感温度は1℃下がる。
現在、風速は14m/s。つまり、体感温度はマイナス18℃にもなる。市販されている冷凍庫の中に居るようなもんだ。
幾ら妖精さんの加護と艦娘の力のお陰で寒さを和らげる事が可能とはいえ、全く寒さを感じないわけじゃない。
帰ってきたら、直ぐに入渠出来るよう準備を整えておこう。あと、何か温かい飲み物も用意しないと。
閑話休題。
(……にしても、すげぇな。流石、妖精さん特製の窓ガラスだ)
こんなにも強風が吹いているのに、擬音で例えるなら“カタカタ”という小さな音しか鳴らない。
コレが人間が造ったモノなら、もっと大きな音が。擬音で例えるなら、“ガタガタ”と耳障りな音が大きく鳴っていただろう──
(──感心していないで、仕事しろ)
今日も仕事は山のようにある。ボーッとしていたら、徹夜するハメになる。
ただでさえ海風に励まされて再起動するのに、一時間近く掛かったんだ。遅れを取り戻さないと。
(えーと、これは……昨日消費した資材と、消耗した艤装パーツについてか)
相変わらず弾薬の消費が少ない。もう慣れたから何とも思わないけど。
はい、次。艤装パーツについてだな。
……主砲や副砲の砲身、魚雷発射管、艦載機等はそこまで消耗していないが、主機の消耗が激しい。
ここ暫く、荒れた天気が続いている。その為、当たり前だが晴天時と比べて波が荒れる。
それだから、航行時に必要以上に負荷が掛かってしまい、消耗しているのだろう。ストックが大分減っているから、大本営にパーツを申請しよう。
次は──わーい、大本営から届いた封筒だァ!見たくねぇ。今度はどんなトラブルのお報せだ?
もうね、大本営から届いた封筒=トラブルのお報せ、という図式が俺の中で出来上がっている。開けずにシュレッダーにかけたい。
(……ボヤいていないで、さっさと開封して中身を確認しよう)
確認しなかったら、後々面倒な事になる。諦めて開けよう。
胸ポケットからペーパーナイフを取り出して、封筒を開けて、書類を取り出して……まず、一枚目。どれどれ?
(……西日本側の海域から、異常に巨大化した魚介類が出現しなくなったのか。めでたいな)
良いニュースだ。詳細については語ると長くなりそうだから、割愛する。
ちなみに、東日本側の海域──俺達が担当する海域も含まれている──には、未だ異常に巨大化した魚介類が普通に出現する。さっさと居なくなってくれないかな?
(……はい、次。えーと、これは……お!扶桑さんの艤装に特殊改装を施す許可が下りた)
やったぜ。これで扶桑さんの望みを叶えてあげられる。教えたら、きっと喜んでくれる筈。
哨戒から戻ってきたら、教えてあげよう。
どんな特殊改装になるんだろう?扶桑さんの事だから、どんなギミックが仕込まれていようが、きっとヤベー奴らみたいに悪用しない……と思う。
余談になるが、何度か俺から大本営に頼んでみたが、案の定全部断られた。
予測済みだったから、先日榊原大将に頼んだら、あら不思議。少し時間は掛かったけど、こうして許可が降りました。
流石、榊原大将。俺に出来ない事を平然とやってのける。そこに痺れる憧れる。マジでありがとうございます。
ちなみに、頼んだ際にめっちゃ毒を吐かれたけど、必要経費だと割り切って受け入れている。
どうでもいい事かもしれないが、電話中に赤城さんに襲撃されたらしく、凄まじい悲鳴をあげていた──おっと。これ以上は榊原大将の名誉に関わるから、言わないでおこう。
……はい、次。最後だ。さっさと確認しよう。
(何時ものパターンなら、次の書類には悪い報せが書かれてあるな)
俺は詳しいんだ。今までそうだったし──あ、良い報せだ。
おかしいな?何時ものパターンなら、俺の胃袋と精神に被害が及ぶような事が書かれてあるのに……思考していないで、さっさと詳細を確認しろ。
(んーと……北方海域に出現した新型深海棲艦の侵攻を食い止める事に成功。艦娘側に大分被害が出ているが、幸いにも轟沈者は出ていない、か)
こりゃ、めでたい。侵攻を食い止めてくれた艦娘達や指揮してくれた提督。物資等を用意された方々。その他、作戦に従事された方々、本当にありがとうございます。そして、お疲れ様です。
(良い事続きで気分がいい)
てっきり、胃袋と精神を破壊されるお知らせが交ざっていると思っていた。けど、それが一切無かった。
嗚呼、胃袋と精神の調子が良くなってきた。身体が軽い。もう、何も怖くない──
「提督、とても嬉しそうなお顔をされていますが、何が書かれてあったのですか?」
──秘書艦の海風が、恐る恐るといった風に声を掛けてきた。
いけね。良い報せばかりだったから、顔に出ていたみたいだ。
「いや、なに。良い報せばかりだったから、思わず嬉しそうな顔をしちまった。はい」
口で説明したいけど、長くなりそうだから書類を海風に手渡す。
悪いけど、自分で確認してくれ。
「ありがとうございます」
俺が書類を手渡すと、海風は真剣な顔で書類を読み始めた。
(……なんか、イイ)
海風の横顔を盗み見しながら、そう思った。
艤装に第二次特殊改装を施された影響で、海風の外見はかなり変わった。
具体的には、元々大人びた顔付きをしていたが、何処か幼さがあった。
しかし、今は幼さは消え、大人の女性の顔付きになっている。
顔付きだけでなく、身体の方も大きく成長した。
背丈は勿論、何処とは言わないが、元々大きかった果実が更に大きくなり、尻も俺好みの大きさと形に──やめろ。邪な事を考えるな。
閑話休題。
そのせいで、以前──第二次特殊改装を受ける前よりも……なんつーか……こう、えーと……その……うん。正直に言う。
以前は、例えるなら娘を愛でる父親。または孫を愛でる祖父。もしくは歳下の妹の面倒を見る兄的な心境で接していたけど、最近は、
異性として意識するようになった
……はい、思考中止。これ以上考えたら、読み取れる組に読み取られて大惨事大戦が勃発しちまう。
現に、今日は読み取れる組の中でヤベー奴ランキングトップ3に君臨するサキュバスもとい、榛名が待機組としてウチに居る。
(最近、榛名の読み取れる範囲が拡大していて、壁越しだろうが的確に読み取れるように──はい、やめ。考えるな。大惨事大戦が勃発するぞ──)
「──督。──督?提督?」
「──ん?どうした?」
「いえ、その……書類を読み終わったのでお返ししようとしたら、提督が白目を剥いて唸っていたので……」
「あー……すまん」
いけね。やっちまった。しっかりしろ。
気持ちを切り替えて、海風から書類を受け取る。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ」
おーい、海風。心配してくれるのは有難いんだけど、距離がちょっと……いや、かなり近いよ?離れて?そんなに顔を近付けて、覗き込むように俺の顔を見ないで?
海風の事だから、きっと無意識のうちに顔を近付けているのだろう。この娘、若干天然入っているし。
……海風から、ほんのりと良い香りがする。
この香り──甘酸っぱさの中に、果実のフルーティーな甘みのある独特の香りは……アプリコットかな?いや、アプリコットだ。間違いない。
一時期、狂ったように食べていたし、香りを嗅いだから鼻が覚えている。
今まで何度か、海風から漂う香りを嗅いだ事があるけど、シトラス系の香りのする香水……?オーデコロン?どっちだ?とにかく、決まってソレの香りだった。
しかし、俺の記憶が確かなら、アプリコットの香りの香水、またはオーデコロンは今まで一度も使っていない。
もしかしたら、今まで同じ香りばかり使ってきたから、飽きて変えたのかな──だから、やめろ。
さっきから変態みたいな……いや、思っきし変態的思考をしてんぞ。ドーモ、憲兵=デス案件待った無しだぞ。自重しろ。
「ですが……」
「本当に大丈夫だ。心配掛けてすまん。さて、仕事をしようか」
とにかく、離れてもらおう。
かなり強引だが、仕事を口実にすれば真面目な海風は言う事を聞いてくれる筈。
「……了解しました」
良し良し。予想通り、素直に言う事を聞いてくれた。これで憲兵=サン案件は回避出来た……と思う。
「…………」
……海風、そんな悲しそうな顔をしないで。
ウチに来てから今まで、そんなに悲しそうな顔を見た事が無いから焦る──ちょっと待て。なんか、既視感があるぞ?
(海風の悲しそうな顔が、昔出会った少女がした悲しそうな顔と似ている)
9年近く前の事だけど、記憶にある少女とそっくりだ。
瑞鶴──瑞稀が日に日に狂っていって。
ある日。瑞稀の我儘に嫌気が差して、放置して公園に行ったら、ベンチに座って黄昏ている小学生の高学年から中学生位の少女を見掛けて。
最初見掛けた時。言い方はアレだけど、今にも自殺しそうな雰囲気を醸し出していたから、通報されるのを覚悟で声を掛けて。
最初は警戒されたけど、話していくうちに打ち解けて。
何度か会って話しているうちに、俺の事を渡良瀬おにーさんと呼んでくれるようになる程仲良くなって。
ある日。瑞稀の狂いっぷりに辟易して、気分転換に学校の図書館で、何となく目に留まった花言葉の図鑑を読んでいたら、アプリコットの花に“不屈の精神”という意味が込められている事を知り。
それ以来、瑞稀に振り回されても心が折れないよう、願掛けというか暗示というか……とにかく、アプリコットを。干し杏を食べるようになり。
ある日、通学路の途中にあるアクセサリー屋に、アプリコットの花を加工したネックレスを売っているのを見掛け、二つ購入して。
一つは俺が身に着け、もう一つを出会った少女にプレゼントした。
話が前後するが、出会った少女は話を聞くに、両親や親戚。学校の先生やクラスメイト達からあまり良い扱いを受けていない。
だから、励ます意味を込めてアプリコットの花言葉を教え、プレゼントした。
プレゼントした時、とても喜んでくれたっけ。
「──督」
あの時出会った少女と他愛無い会話をしている時は、なんつーか、穏やかな気持ちで居られた。
どんどん狂っていく瑞稀に振り回されても、少女のお陰で自暴自棄にならず、正気を保つ事が出来た。
もっと沢山話をしたかったが、程なく少女は親の都合で引越してしまった。
「──督?」
今でも覚えている。“引越しをするから、もう会えない”と言ってきた時、とても悲しそうな顔をしていたのを。
その少女が見せた悲しそうな顔と、先程海風が見せた悲しそうな顔が、何故か重なった。
(…………あの少女は、左の目元に泣きボクロがあって、薄い青色の髪をしていた)
海風も、左の目元に泣きボクロがあり、薄い青色の髪をしている。
………………。
少女と出会った時、少女は10歳だと教えてくれた。
海風は現在、1×歳。あれから9年近く経つから、年齢が一致している。
………………。
少女の名前は、“かおり”だと教えてくれた。
海風の本名は、白河“香織”。
………………。
同じだ。
………………。
待て待て待て。落ち着け。冷静になれ。決め付けるな。
俺が海風と出会ったのは、今から約6年前。養成所で合同訓練を行った時だった。
もし、あの時出会った少女と海風が同一人物なら、約3年ぶりの再会になる。
「──督!」
3年程度なら、そこまで外見とか変わらない筈だから、気付く。
しかし、当時の俺には少女と海風が重ならなかった。
理由は二つある。
一つ目は、顔付き。
少女の顔付きは、なんというか、世の中に絶望しきったような顔付きをしていた。
俺と出会い、会話をしていくうちに少しずつマシになってくれたが、やはり何処か絶望したような顔付きをしていた。
それは、別れる時まで変わらなかった。
しかし、海風は違った。
挨拶をした際、とても穏やかな微笑みを浮かべていて、希望に満ちた顔付きをしていた。語彙力無いからこうとしか言えん。
「──督!!」
とにかく、顔付き……いや、面影と言うべきか?あの少女の面影が全く無かった。
次に、二つ目。髪型だ。
少女の髪型は、前下がりショート──左の前髪だけ目元を軽く隠す髪型をしていて、前髪以外は短く、耳元が隠れていなかった。
対して、海風の髪は少女と違い、前髪は眉にかかるか、かからないか位の長さで。
足首まで届きそうな長さの一本の三つ編みにしていて。
髪は耳を隠す程の長さをしていた。
三つ編みで。しかも、足首まで届きそうな長さまで髪を伸ばすには、3年程度じゃ不可能だ。
カツラを被れば可能だけど、海風の髪の毛はカツラではなく、自毛だった。
以上の理由により、少女と海風が重ならなかった──
「──提督ッ!!」
「──うおッ!?な、なんだ!?どうした?海風。突然大声出して」
なんだ?緊急事態発生か?
「す、すみません!突然大声を出して……」
「いや、気にしなくていいよ。んで、どうした?」
あれま。申し訳なさそうな顔をしている──似ている。あの時出会った少女に。
「えーと、この書類の確認をして頂きたくて声を掛けたのですが、反応がなかったので、つい大声を出してしまいました……」
先日、艤装に第二次特殊改装を施された影響で、海風の外見は大きく変わった。
同年代の女性にしては高めだった背は、更に伸び。
女性の象徴でもある、二つの果実と……その……お尻も大きくなって。
それから、髪型も若干変わった。
時雨や夕立みたいに、頭頂部の髪が犬耳のような形に撥ねて。
全体の髪の長さは殆ど変わらず……訂正。前髪の左側だけ、目元に掛かる程の長さになった。
(前髪だけ、あの少女と同じ髪型だ)
似ている。いや、記憶にある少女の髪型とそっくりだ。
それだけじゃない。少女が悲しそうな顔や申し訳なさそうな顔をする際、両眉が“ハの字”のように下がったのを覚えている。
海風も、それらの顔をする際、“ハの字”のように両眉が下がる。
(…………そっくり過ぎる)
今までに何度か、海風が両眉を“ハの字”のように下げた所を見た事がある。
しかし、少女の髪型とは違ったせいで、重ならなかった。
今の海風は、あの少女と同じ前髪をしている。
だから、少女と海風が重なった──
「……提督?」
「──ん?」
いかん。また思考していて海風の話を聞き流してしまった。しっかりしろ──ッ!?
「具合でも悪いのですか?」
あ、あの、海風さん?お顔。近過ぎです。数cmまで接近していますよ?恋人とかの距離だよ?離れよう?
……あ、海風の吐息から、アプリコットの香りがすんごいする。やべぇ、頭がクラクラしてきた。
……しっかりしろ。早く離れてもらわなきゃ。
いや、ここは俺から離れるべきだ。
「──ぁ」
椅子を引いて……これで良し。
目測、凡そ30cm位かな?とにかく離れる事が出来た。
気のせいかもしれないが、椅子を引いて離れた際、海風が残念そうな顔をしながら、これまた残念そうな声を出したような気がするけど、気の所為だろう。
……未だ頭がクラクラする。それに、鼓動が早い。さっきまでは普通だったのに。どうしちまったんだ?
異性──海風との距離が近くて、ドキドキしたのか?そこまで純情じゃないだろ?
…………あ、なんか視線を。犯気マシマシのねっとりした視線を、執務机の下から感じる。気のせいなんかじゃない。
怖いけど、確認しよう。さぁ、覚悟を決めて見るぞ。せーの──
(<⚫>)(<⚫>)
………………執務室の床を右手に持ち、床下から顔だけ出し、瞳孔をカッ広げて俺を凝視する榛名が居た。
なんか、ヘー○ルハウスのCMの最後辺りに登場する、ヘーベ○君みたいだ。目のせいで全然可愛くないけど。
「ハーイ♪」
やらんでええわ。つーか、色々勿体無い。
東○奈央さんに似た可愛らしい声で“ハーイ♪”と言われても、顔──正確には、お目々のせいで全部台無しだよ。こんなの、○ーベル君じゃない。どう足掻いてもペ○ーワイズだよ。
「ハァイ、じょーじぃ♪」
うん。似合ってる。まさしく○ニーワイズだ。狂気が込もったダミ声で言ったから、それっぽく聞こえる。ノリいいね。
……じゃなくて。側溝もとい、床下にお帰りください。いや、自室に戻ってください──やべっ、床下から這いずり出して来やがった。逃げなきゃ。
……あ、足掴まれた。振り解くにも、めっちゃ力込めて掴まれてるから無理だ。逃げられない。しゃーねぇ、抵抗するか。
この後、滅茶苦茶ペニーワ○ズに襲われ、滅茶苦茶抵抗した。
嗚呼。今日も第603鎮守府は平常運転だ。
そして、他所の鎮守府と比べてとても平和だ。
けど、俺の精神と胃袋に被害が及んでいる。癒しが欲しい。
……そういや先日、浜波がA○IAの特装版を購入した、と言ってたな。ダメ元で借りれないか頼んでみよう──
「榛名が癒してあげます!」
──もう復帰しやがった。いいから、さっさと部屋に帰れ。
あと、首を元に戻せ。180°反転してんぞ。
……まだ鼓動が早い。おまけに、身体が熱く、頭がクラクラしている。
風邪でもひいたのかな?もしそうなら、医療妖精さんに診てもらって、風邪薬を処方してもらおう──榛名、お前は部屋に戻れ。それと、さっさと首を元に戻せ。絵面が凶悪過ぎて色々ヤバいぞ。
……看病します?しなくていい。俺なら大丈夫だから、部屋に戻ってくださいお願いします。お前に任せたら、絶対ナニかされそうだから、遠慮──いや、お断りします。
side 提督 out
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side ??
──第603鎮守府、??私室──
────今度のは効いてくれた
新たに購入したお薬をハーブティーに盛ってみたけど、効果覿面だった。
今まで使ってきたお薬は、渡良瀬さんには効果が無かった。
今まで使ってきたお薬では、効きにくいのかもしれない。
だから、別のお薬を使う事にした。
今まで使用してきたモノと違い、成分や効果はやや強め。
────あと少しだったのに
新しいお薬のお陰で、渡良瀬さんは発情してくれた。
おまけに、新しいお薬と一緒に購入した媚薬効果のある香水を。アプリコットの香りの香水を付けていた事で、理性を大分削り、揺さぶれた。
────もっと、欲に素直になっていいのに
でも、渡良瀬さんは必死に欲を抑えていた。
不審に思われないよう顔を近付け、意識させた。
そこそこ揺さぶりをかけ、理性をある程度壊せたから、もう一度揺さぶろうとしたら、邪魔が入った。
────榛名さんが来なければ、上手くいっていた
本当に邪魔。消したい。
榛名さん以外にも、消したい輩が沢山居る。
でも、消したら色々マズい。
我慢よ。
……いけない、もうこんな時間。明日は出撃だから、早く寝ないと。
────どれだけ時間が掛かろうと。どれだけ邪魔が入ろうと、必ず手にしてみせる
例え今、どれだけ他の方達より遅れていようと、最終的に私が笑えればいい。
我慢する事は慣れている。
side ?? out
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