追跡鶴   作:EMS-10

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第1章・再会編
第1話・再会


 

 今日、ついに正規空母が着任する。昨日は緊張とワクワクで眠れなかった。

 

「…そろそろだな」

 

 現在時刻、08:55。到着は09:00だと書類に書かれている。

 本日の秘書艦、涼月に外で出迎えてここに連れて来るよう頼んでいる。

 ソワソワしながら待っていると、執務室の扉がノックされた。来た!

 

『涼月です。本日着任される瑞鶴さんをお連れしました』

 

「入れ」

 

 さてさて、ご対面と行こうか。

 どんな娘なのだろう?

 

 横須賀鎮守府に所属する瑞鶴は、金髪ロングヘアーでお淑やかな性格だった。

 佐世保鎮守府に所属する瑞鶴は、赤髪ショートヘアの寡黙で冷静な性格だった。

 

 適性を持つ人間がそれぞれ異なる為、例え同じ艦名でも外見や性格が異なる。

 

「失礼します」

 

 ドアを開け、涼月が入室してきた。そして涼月の後ろに紅白の道着を着た女性が──

 

(あれ?どこかで見た事ある顔だな……)

 髪の色は黒っぽい深緑色。

 髪型はツインテール。

……いやいやいや、アイツに似てるだけだ。よく言うだろ?世界には自分とそっくりな人が3人居るって。きっとその内の1人だよ、うん。

 

「本日付で第603鎮守府に配属となりました、翔鶴型航空母艦二番艦、瑞鶴です。よろしくお願いします」

 

 敬礼をしながら彼女は言った。すげぇな、外見だけでなく声までそっくりだ。

 

「あ、あぁ。こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

 若干声が震えてしまったが、何とか言い切った。

 大丈夫だ、声と外見が似てるだけで、アイツじゃないんだ。

 

「……ふふっ」

 

「ッ!」

 ニヤッ、と瑞鶴が笑った。

 ははははっ、笑い方までそっくりとはビックリだ。こりゃすげぇわ。ははははは。

 

「あの、提督?お身体の具合が悪いのでしょうか?」

 

「えっ?」

 涼月に言われて気付いた。顔中汗だくになっていた。

 

「少し、失礼しますね」

 

(ん?ポケットからハンカチを取り出して何を──ってオイオイオイ、汗を拭いてくれてるよ)

 涼月は優しいなぁ。料理上手で気配り出来る。更に裁縫も得意。惚れそう──

 

「──ッッ!!?」

 何だ、殺気!?

 

「………」

 

「──ッ!!」

 殺気を感じた方を見ると、瞳孔を広げて俺を見つめる瑞鶴がいた。誰か、叫ばなかった俺を褒めてくれ。

 

「提督、大丈夫ですか?」

 

 おぉっと、涼月が心配してくれてる。癒されるわぁ~……じゃない!

 もしかしたら、この瑞鶴の元になった娘、俺の知ってるアイツかもしれない。そうだ、履歴書を見よう。ただ、本人の目の前で確認する勇気は無いから、涼月に瑞鶴を連れて鎮守府の案内をさせてその間に見よう。

 

「涼月、瑞鶴を連れて鎮守府を案内してやってくれ。案内が終わったら、今日は警護も無いから自由にしてくれて構わない」

 

「了解しました」

 

 うん。涼月は素直でいい娘だ。

 執務室から涼月と瑞鶴が退室し、扉が閉まるのと同時に溜息を吐いた。全身汗でベトベトだ。

 

「……そういや正規空母が着任する!って浮かれてて瑞鶴の履歴書を見ていなかったな」

 確か履歴書には艦娘になる前の本名や住所、年齢等が書かれているハズだ。どれどれ?

 

 

………。

 

 

「……はは」

 もう笑うしかない。

 履歴書を見た結果、本名住所年齢全て、俺の知ってるアイツと全く同じだった。

 

「頭痛くなってきた…」

 比喩じゃなく本当に痛くなってきたぞ。もう、何も考えたくない。

 ソファーに横たわり、ボーッとしていたら眠気が襲い掛かってきた。

 そういや昨日、殆ど寝てなかった……な…

 

 

 

───────

────

 

 

『ほら、早く早く』

 

『引っ張るなって』

 

『早くしないと、映画始まっちゃうよ!』

 

『上映まで、まだ1時間以上もあるんだが……』

 

『え?ホントだ』

 

『お前、ホントにそそっかしいな…』

 

『だってだって、準とのデートなんだよ?楽しみにしてたから……』

 

『落ち込むなよ。まだ時間に余裕あるから、何処かで時間潰そうぜ』

 

『そうだねっ♪』

 

 

───────

────

 

 

「……」

……夢、か。アイツと付き合う事になって初めてのデートで、映画を見たんだっけ。

 あの頃はそこまで束縛がキツくなかったから楽しかったけど。何でああなってしまったんだ。

 とりあえず起きよう。今何時だ?

 壁に掛けられた時計を見るも寝起きだからか、視界がぼやけててよく見えん。

 何度か瞬きすると、少しずつ視界がクリアになっていく。えっと、時間は──

 

「11:04よ、提督さん」

 

「お、そうか。ありがとう」

 どうやら2時間近く眠ってしまった様だ。しかし、お陰で眠気は無く頭がスッキリしている。

 仕事をするか。書類を確認しなきゃ……じゃない!

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

 

 声の主を見ると、そこに居たのは。

 

「ずい……か……く……」

 アイツが秘書艦用の机に座っていた。

 落ち着け。冷静に、KOOLになれ。違う、KOOLはタバコだ。COOLになれ。

 

「もう少し寝てても良かったのに」

 

「……いや、今日中に仕事が終わらなくなる 」

 自慢じゃないが、この仕事をかれこれ数年続けているが未だに書類仕事が苦手で時間がかかる。流石に着任当初と比べれば早くなったが。

 

「大丈夫だよ、私が終わらせたから」

 

「はぁ?」

 嘘だろ、あれだけの量の書類を?

 

「確認して?」

 

 そう言うと奴は書類を指差した。どれどれ……

 

「……ホントに終わってる」

 ミスは1つもなく、字も綺麗。完璧だ。

 

「凄いな」

 

「まぁね。第8492離島鎮守府でよく秘書艦やってたから、慣れてるのよ」

 

 コイツ、今何つった?第8492離島鎮守府だと?

 此処──第603鎮守府から数十km離れた島にある、あのエリートばかりの鎮守府で秘書艦やってただと!?

 

「……書類を片付けてくれてありがとう」

 色々聞きたい事があるが、聞かないでおこう。というか関わりたくない。

 

「どういたしまして」

 

「──ッ」

 一瞬だけドキッとした。コイツ、見た目は可愛いんだよなぁ。性格がアレ(・ ・ ・ ・ ・)だけど。

 

「他にお仕事無い?」

 

「君が書類を片付けてくれたから、無いな」

 

「そうなんだ。ここ、規模が小さいから書類の量少ないんだね」

 

「え、少ない?」

 書類だけでも数十cmの厚さを超えるんだぞ。それを少ないだと!?

 

「うん。あっちじゃ毎日高さ1m以上の書類の山が何個も出来上がるよ?」

 

 俺、ここに配属されて良かった。

 毎日そんな書類と向き合ってたら発狂するわ。あと確実に手が腱鞘炎になる。

 

「ねぇ提督さん、少し雑談しない?」

 

「雑談?」

 

「うん」

 

「構わないが……」

 何を話せばいいんだ?とりあえず当たり障りのない事を──

 

「じゃあ、私から話すね」

 

「お、おう」

 何を話すか考えていたら、先手を打たれた。頼むから、変な事を聞いてこないでくれ。

 

「ねぇ、提督さん……ううん、準」

 

「な、なんでしょう?」

 めっちゃイイ笑顔(・ ・ ・ ・)で、瑞鶴が俺の名前を呼ぶ。やべぇ、声が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何であの時、私を置いて行ったの?」

 

 

 

 

 

 

 ドスの効いた声でそう言い、笑顔のままこちらに近寄ってくる。

 アカン。逃げなければ。

 本能的恐怖を感じて身体の震えが強くなるが、動けないほどじゃない。執務室の扉まで、約1m弱。タイミングを見計らって──

 

「ねぇ、何で?答えて、準──」

 

 

 

「瑞鶴ッ!」

 

 

 

「ッッッ!!?」

 

 大声で叫ぶと、奴は驚いたのか一瞬だけ身体をビクつかせ硬直した。よし、今だ!

 扉に向かい開けよう────として気付いた。

 

 

取っ手に針金が何重にも巻かれている。

 

 

 執務室の扉位は豪華にしよう!と、両開きタイプにしたのが仇となった。

 

「アッハハハハハ!残念だったね!!こうなる事は予測済みだったから、貴方が眠っている間に仕込んどいたの!!!」

 

 チクショウ、やられた。もうダメだ、お終いだ。

……いや、まだだ、まだ終わらんよ。執務室内にはもう一つ部屋が。仮眠室がある。そこに逃げ込むか。

 

「お仕事は終わってるし、やる事も特に無い。時間も沢山ある。さぁ、いっぱいお話しましょう?」

 

「だが断る!」

 ドアに向かって走り、ドアノブを捻る。良かった、ここは細工されていない。

 急いで仮眠室に逃げ込み、ドアを閉め、鍵をかける。

 

「……はぁぁぁぁぁ」

 何とか逃げ込めた。安心したら身体の力が抜けてしまった。

 

『あ~……流石にそのドアはノーマークだったわ』

 

 そそっかしい性格で良かった。

 

 

 

───────

────

 

 

「ね~ぇ~、開~け~て~よ~」

 

 それから暫く、奴はドアを叩き続けたが、俺は無視した。そしたらなんと、艤装を展開して艦載機を発艦。爆撃してドアを吹っ飛ばしやがった。

 その後、瑞鶴に性的な意味で襲われそうになったが、騒ぎを聞き付けた摩耶達が駆け付けてくれたお陰で事なきを得た。

 これから毎日アイツと接しなきゃならない。そう思うと胃に穴が開きそうだ。

 





次回予告


 この時の俺は知らなかった。瑞鶴着任の数日後に、更なる絶望が俺に襲いかかる事を。



第2話・白い悪魔



「お前まで……お前まで艦娘になってたのかよぉぉぉォォォ!!!」


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