今日も鎮守府は平和です
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ
※この小説内の季節は2月下旬頃になります。
※この小説に登場する人物は全員、特殊な訓練を受けています。決して真似しないでください。
side 木曾
──第603鎮守府、木曾私室──
22:30
「──そんじゃ、部屋に戻るわ。おやすみ」
「また飲みましょう?おやすみなさい」
「おう、また飲もう。おやすみ……あ、二人とも、部屋に戻ったら歯を磨くの忘れるなよ?それから、寝る時は暖房を弱めにしろ。じゃないと夜中に布団を蹴飛ばして風邪をひく恐れがある。それから──」
「分かってるよ、お母ちゃん」
「了解したわ、お母ちゃん」
「誰がお母ちゃんだ!」
「やべっ、お母ちゃんがキレた!」
「逃げろー!」
「夜遅いから静かにしろ……行っちまった」
俺の事を揶揄いやがって。覚えてろよ?
……さて、明日も早いから歯を磨いて寝るか。
(…………摩耶の奴、どうしたんだ?)
歯を磨きながら、摩耶の事を考える。
俺と足柄、摩耶の三人で酒を飲みながら頭の悪い会話をして盛り上がり。
飲み始めて30分ほど経った頃。氷が無くなったから冷凍庫に向かおうとした際、今にも泣き出しそうな顔をしながらグラスに入れたバーボン・ロックを
思わず硬直し、瞬きをしてもう一度摩耶の顔を見たが、普段と変わらない顔をしていた。
見間違い?いいや、一瞬だったが確かに見た。
(恐らく足柄も見ていたと思う。明日、聞いてみよう)
酔いが回ろうが常に相手の顔色を良く見るから、目撃した可能性が高い。
━━━━
──第603鎮守府、工廠・資材保管庫──
11:45
「──それで、どうする?思い切って聞いてみるか?」
「却下よ。そんな事したら、摩耶を追い詰める恐れがあるわ」
「だよな……」
摩耶は普段の言動のせいでガサツに見えるが、繊細な所がある。無理矢理問い詰めたら、心を傷付けてしまう恐れがある。
かと言って、さり気なく探ろうとするのもダメだ。そんな事をすれば、警戒されて本心を聞き出せなくなる。
魚介類を箱詰めして道具を片す際、周囲に不審に思われないよう細心の注意を払いながら足柄に相談した。
摩耶の事について話すと、俺の予想通り足柄も摩耶の顔を見ていた。
そして、内緒話をするのに適している資材保管庫に来て、サボっているフリをしながら摩耶について小声で話をしている。
俺と足柄は仕事に支障をきたさない程度にサボる事が多く、誰かに見られても“いつもの事か”と流されるから、不審に思われる心配は無い。
念の為、妖精さんに
「どうして摩耶はあんな顔をしたのかしら。心当たりある?」
「いや、無い──さて、そろそろ昼飯の時間だから食堂に行こうぜ?」
会話をしていると、妖精さんから誰かが近付いていると報告が入った。勿論それは足柄にも伝えられている。
摩耶の話を聞かれるわけにはいかないから、急いで話題を変える。
「そうね。今日の昼食当番は涼月だから、確実にカボチャ料理が出るでしょう。何が出るかしら?」
「どうせなら賭けでもしないか?俺はカボチャのそぼろ煮が出るに秘蔵のツマミを。カラスミを賭ける」
察してくれたのか、足柄は俺の話に乗ってくれた。
「へぇ?随分イイ物を賭けたわね。なら私はパンプキンスープが。甘くない奴が出るに、那智姉さんが江ノ島鎮守府に帰る前にくれた20年物の達磨を賭けるわ」
「そっちも随分イイ物を賭けるじゃないか。吐いた唾は飲み込めないぞ?」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
「良し、賭けは成立した。食堂に行こうぜ──」
『おーい、木曾!足柄!そろそろ昼飯の時間だぞ?
……待てよ?これ、チャンスじゃないか?相棒の周りにはメイドと化した初霜やプリンツ・オイゲン、時雨が常にと言って良いほど張り付いている。
今ならそいつらに聞かれずに相談出来る。
「ねぇ、木曾。提督に摩耶のこと話さない?」
「俺も同じこと考えてた」
相棒はプリンツ・オイゲンが覚醒者になった事で大本営や、艦娘を保有する外国のお偉いさん達に注目されて精神的負担が増えている。
そこに摩耶の事を話すと更に負担を増やしてしまうが、頑張ってもらうしかない。
side 木曾 out
───────
────
─
side 提督
──第603鎮守府、執務室──
14:00
<そこらの政治家とは鍛え方が違う!
<ぐあッ!
<一緒にされちゃ困るな!
<がはッ!?
<俺がその気になれば、大統領だってブッ飛ばせる!
<あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!゙!゙
<上院議員なめんじゃねぇ!!
<ごはぁ!?
「…………」
このシーン、本人達は大真面目に戦っているんだろうけどシュールだなぁ。だが、このシュールさがいい。俺は好きだ。
「……提督、何をしているんですか?」
「息抜きに雷○とアームス○ロングの戦闘シーンを見ています待って見るのやめます!スマホ仕舞います!だから艦載機格納庫を構えないで!?」
「休憩している暇はありませんよ?さっきから何度も
「す、すいません……」
千歳さんの仰る通りです。本当に申し訳ないです。
……どうして幼児退行するのかって?理由は1つ。プリンツが覚醒者になった事で大本営や外国のお偉いさん達から注目されるようになり、ほぼ毎日大本営や外国から電話とか書類が来るからだ。お陰で精神的疲労がハンパない。
先日、長門さん達がそれぞれの鎮守府に戻り、それに伴いトラブルが多少減って平和な時を過ごせると思ってたのに……。
余談になるが、外国のお偉いさんから送られて来る書類や電話は、妖精さん特製の翻訳機を使っているから言葉の壁に苦労する事は無い。
閑話休題。
(書類はまだいい。提出する前に添削出来るから精神的負担はそこまで無い。それに引き換え、電話はなぁ……)
書類と違い、やり直しが効かない。電話中はずっと声のトーンだったり、言葉に詰まらないように話さなきゃならないから、書類の数百倍以上気を遣って対応する必要がある。
お陰で今じゃ、電話が鳴る度に胃痛に襲われるわ、幼児退行するようになるわ、口から胃袋を吐き出すようになるわ、セルフノーザンライトボムをブチかますようになっちまった。
まぁ、これはホテルでプリンツに覚醒者の兆候が見られた瞬間にこうなると予想していたから、この程度で済んでいる。覚悟決めてなかったら、今頃失踪してる。
閑話休題。
ただでさえギリギリなのに、そこに今日の昼頃。俺の精神にダメージを与える案件が1つ、舞い込んできた。
その案件とは何か。摩耶の事だ。
昼食の時間になっても木曾と足柄の姿が見えなかったから、仕事でずっと座りっぱで凝り固まった身体を解す為、他の娘達に代わって二人を探したんだが……まさか、あんな事を相談されるとは思わなかった。
『昨夜、俺の部屋で足柄と摩耶の三人で飲んでいた際、今にも泣き出しそうな顔をしていたのを見たんだ』
(摩耶の奴、何を抱えているんだ?)
あの摩耶が、今にも泣き出しそうな顔をしていた?見間違いなんかじゃないか?
二人の話を聞いた時そう思ったが、すぐにその可能性を捨てた。摩耶はああ見えて繊細な所があり、悩み事とかを表に出さない。今までの付き合いで知っている──
「提督」
「ッ!す、すいません!」
やっべ、思考していたから手が止まっていた。それだから千歳さんに声を掛けられてしまった。シバかれちまう!
「落ち着いて?怒ってるんじゃないの。急に真剣な顔をしていたから、気になって声を掛けたの」
「そ、そうですか……」
シバき倒されると思い身体を強ばらせていると、心配するような顔をして優しい声色で問い掛けてきた。
どうやら摩耶の事を考えている時に真剣な顔をしていたようだ。やっちまった、顔に出ていたか。
「何か、悩み事?」
「ッ!?」
「その顔と反応、当たりみたいね」
「…………えぇ、そうです。ちょっと悩み事がありまして……」
流石、千歳さん。俺の表情と反応で悩み事があると見抜いてきた。相変わらず鋭い。
どうする?話すか?いや、話そう。千歳さんなら大丈夫だ。真剣な話なら口が堅いし、言いふらしたりしない。
「実は──」
━━━━
──第603鎮守府、工廠・休憩室──
09:00
「──こちらが、摩耶さんのバイタルデータです。過去のデータと比較しましたが、約1ヶ月ほど前。正確には今月に入った辺りから極僅かですが乱れが見られます。断言は出来ませんが、何か抱えていますね」
「そう……ですか……」
数日前。千歳さんに相談した際、“野原主任の力を借りたら?(意訳)“とアドバイスを貰い。
その日のうちに、他の娘達に悟られないよう野原主任に頼み。
今朝ようやくデータを纏め終えたと伝えられ、こうして受け取って確認しているが、本当に極僅かだが乱れている事が判明した。
その差は、こんな例え方をするのはアレだがサ○ゼリヤの間違い探しと同じくらい微妙な差で判りづらい。
(今更だけど、野原主任は扶桑さんの艤装に第二次特殊改装を行っていた。忙しい合間を縫ってデータを用意してもらったんだ、後でお礼しなきゃ)
「先日データを頼んできた時も聞きましたが、本当に心当たりは無いんですね?」
「えぇ、ありません。自分で言うのもなんですが、ちゃんとコミュニケーション取ってましたし……」
思い返しても、心当たりが無い。もしかしたら、俺が気付かない間に何かやらかしている恐れが──L○NEの通知音が鳴った。誰からだ?
……本日の秘書艦・
「すみません、野原主任。電話が来たみたいで……」
「あー……お疲れ様です。この話はまた後でしましょう」
「はい。今更ですが、忙しい合間を縫って用意して頂き、ありがとうございます」
「お気になさらないでください……あ、そうだ。少佐、一応言っておきますけど、逃げないでくださいよ?」
「逃げませんよ。しっかり受け止めてケアします」
━━━
──第603鎮守府、執務室──
「──えぇ……はい……はい……勿論大丈夫ですよ、歓迎します。……あ、冗談ですか。ははは!……了解しました。それでは失礼します」
あ"ー、終わった。今回も無事、電話対応出来た。胃は……うん。あまり痛くない。
相手は
(アメリカのお偉いさんは他の国のお偉いさんと比べて、めっちゃ優しいから好き)
今まで何回か通話したけど、常にこちらを気遣ってくれるし、時折ジョークを交えて話してくれる。
あと、オタク文化に明るい人なのか、アニメや漫画・ゲーム。果ては、VT○berの話題で盛り上がったりする。
閑話休題。
そういや、電話を切る直前辺りに「日本に俺の
(冗談だと言われたけど、声が割とガチトーンだったぞ。まさか、派遣されたりしないよね)
ただでさえプリンツの事とかでてんやわんやなのに、そこにアメリカから艦娘が派遣されたら俺はガチで幼児退行するぞ──
「提督、電話終わりましたか?」
「──ん?あぁ、終わったぞ」
退室していた阿武隈が、話し声が聞こえなくなり通話を終えたと判断し、入室してきた。
アメリカのお偉いさんの言葉が気になるけど、冗談だと言ったんだ。あまり深く受け止めず、流そう。
さて、仕事を再開すっか。山のように書類があるから、集中してさっさと片さないと徹夜コースになっちまう。
……摩耶の事が気になるが、今は目の前の仕事を片す事に集中しろ。素早く終わらせて、空いた時間を作ってケアしよう。
えーと、これは……今月の光熱費と食費、消費した資材についての書類。これは榊原大将からだ……榊原大将から?何だろう?見たところ、そこまで機密性は高くないみたいだ。
(これなら阿武隈を退室させる必要は無さそうだ)
一先ず光熱費とかの書類は阿武隈に任せて、俺は榊原大将からの書類を確認しよう。
どれどれ?……年始頃に話した、艦娘の異動について?
(確か、
予定ではバレンタインデーの翌日辺りに来る筈だったが、何で遅れたんだろう?それについては……書かれてあるな。
これについては後で見よう。まずは異動して来る艦娘を確認だ。
…………。
…………。
…………うん、聞いた通りのメンツだ。
向こうからは、朝潮型駆逐艦十番艦、霞。
夕雲型駆逐艦十六番艦、朝霜。
同じく十九艦、清霜。
大本営事務課から、大淀型軽巡洋艦一番艦、大淀。
以上の4名が3月上旬頃に異動して来る。正式な通達は今月中に届くとの事。
そういや、霞と大淀さんとは会った事があるな。久々の再会になる……今は余計な事を考えないで、書類を読もう。
閑話休題。
次に、異動が遅れた理由。
書類によると、
次に、俺の昇進について。こちらは3月上旬頃、確実に昇進についての書類が届くと書かれてあった。やっとか。
「嬉しそうな顔してどうしました?」
「悪いが機密の関係で今は教えられん」
顔に出ていたのか、阿武隈は疑問に思い質問してきた。
これ、正式な通達じゃないから教えられないんだ。
「分かりました、聞きません」
察してくれたのか、阿武隈はそれ以上聞いてこなかった。ありがとよ。
さて、他に何か書かれてないかな?
……ははっ、最後の方に激励の言葉が書かれてらァ。ありがとうございます、榊原大将──電話が鳴った。うわぁい、幼児退行しそう。今回は何処からだろう?
(ナンバーディスプレイは……ドイツからだ)
良かった。ドイツのお偉いさんはアメリカ程じゃないが優しいから精神的負担は少ない。思考してないで電話取らないと。
━━
「──終わったァ!」
手が痛い。後で湿布貼ろう。じゃないと明日辺り痛みでまともに万年筆を握れなくなる。
「うぅ、疲れました……」
「お疲れさん。時間は……夕食までまだあるな。部屋に戻るなり、好きにしな」
「あ、はい。そうします……」
「……もし良ければ、俺と雑談しないか?」
阿武隈が少しだけ寂しそうな顔をした。
そういやここ数日、阿武隈とは事務的な会話しかしていなかったな。
空いた時間で摩耶に会ってさり気なく様子を見ようと考えていたが、予定変更。阿武隈を構ってあげよう。ただ、そこまで長くは構えない。許してくれ、阿武隈。
「……!はい、喜んで!」
嬉しそうな顔と声で快諾してくれた。やっぱり寂しかったんだな。すまねぇ、もっと構ってあげなきゃ。
阿武隈だけじゃない、他の娘達も最近あまり構ってやれていないから、夕食後に摩耶の様子を見てからコミュニケーション取らないと。
それから、俺は阿武隈と雑談した。
雑談の内容は、最近流行りの服やスイーツについてだった。
「そういえば提督。1つ相談したいことがあるんだけど……」
「相談?いいぞ、遠慮なく言いな」
暫く雑談をしていると、話題が尽きたのか阿武隈は相談があると言ってきた。
今の俺はメンタルに余裕があるから、幼児退行したり奇行に走らずしっかり聞いてやれるぞ。多分。
時間は……まだあるな。この相談を聞いたら、摩耶を探そう。
「実は、摩耶さんの様子がおかしいんです」
「…………続けてくれ」
マジか。摩耶の話か。一瞬、口から胃袋を吐き出しそうになったが気合と根性で堪えた。
阿武隈によると、今月上旬頃。バレンタインデーに向けてチョコの試作をしていた際、摩耶が一瞬だけ苦しそうな顔をしたとの事。
その時は見間違いと思ったが、翌日。仕事中に偶然摩耶が思い詰めたような表情で溜息を吐いたのを見てしまった。
これは何か抱えている。しかし、無理に聞き出すと摩耶の性格上、正直に話してくれない。そう判断し、その日からこっそり様子を見る事にした。
「暫くはそういった表情とかは見せなかったんですけど、ここ数日は溜息を吐いたり悲しそうな表情をする頻度が増えて……」
「…………そう、か。話してくれてありがとう」
「いえ、どういたしまして。……それにしても、どうして摩耶さんはあんな顔をするようになったんだろ。提督は何か心当たりはありませんか?」
「うーん……無いな……」
何が原因なんだ?俺が気付かないうちに摩耶に失礼なことを言ったのか?けど、木曾と足柄から相談された日から何度も思い返しているが、何一つ心当たりが無い──
「…………あっ!」
「どうした?」
「えーと、その……もしかしたらなんですけど、心当たり……あります」
「言ってくれ」
「……バレンタインデーに向けてチョコの試作をしていた際、摩耶さんが食堂にやって来て“チョコの作り方を教えてくれ”と頼まれて。驚いたけど、断る理由が無かったので快諾して教えていたんです。
その際にアタシ、摩耶さんに失礼な事を言ってしまったんです」
「失礼な事?何を言ったんだ?」
「…………あの摩耶さんがチョコを作りたいだなんて、驚きました。そう言っちゃったんです。勿論、他意はありません。
摩耶さんって何時も“甘い物は苦手だ”とか、“料理はともかく、お菓子作りのような女子力の高いことはしたくない”と言っているから、純粋に疑問に思って……」
「そう、か……」
阿武隈の気持ちは分からないでもない。もし俺がその場に居たら同じ事を言っていた。
「もしかしたら、アタシのせいで摩耶さんは心に傷を負って思い詰めたような表情をしたりするようになったんじゃ──」
『おーい、提督!阿武隈!晩飯がそろそろ出来るぞー!』
「ひゃんっ!?」
噂をすればなんとやら。摩耶が夕食が出来たことを知らせてきた。その為、阿武隈は驚いて変な声を出して椅子から転がり落ちた。
時計を見ると、夕食の時間になっていた。阿武隈の相談を聞いているうちに、結構時間が経っていたようだ。
『んー?いま阿武隈の嬌声が聞こえたぞ?もしかして、お楽しみ中かぁ?』
「んなことしてねーよ。知らせてくれてありがとよ、今行く──」
「おっ開いてんじゃーん」
「開けたんだよなぁ……じゃなくて。せめてノックしてから開けろ」
ニヤニヤしながら摩耶が入室してきた。声のトーンや表情を普段通りにして振舞え。キョドったりしたら、不審に思われる。
「あいよ、次からはノックしてから開けるわ。……イカ臭くねぇな。それに服が乱れてない。なんだ、ヤってたんじゃないのかよ」
「オメーは何を期待していたんだ……」
ツッコミを入れながら、さり気なく摩耶を観察。顔と声を見聞きするも、普段通りだ。
「提督と阿武隈が執務室でズッ婚バッ婚──」
「するわけねーだろ」
んな事したら、変態達が編隊を組んで突撃して来てドッタンバッタン大騒ぎ!になって俺のメンタルが死ぬわ。
この後、椅子から転がり落ちた阿武隈を立たせ、摩耶と一緒に食堂へ向かった。
食事中もさり気なく様子を見ていたが、特に何かを抱えているようには見えない。
けど、木曾と足柄、阿武隈が様子がおかしいと言ったんだ。絶対に放置してはならない。
摩耶。例えお前が何を抱えていようが、絶対に見捨てたりしない。しっかり受け止めてやる。
━━━
勘付かれた。
晩飯が出来るから呼びに行ったら、提督と阿武隈が何やら真剣な声で会話しているのが聞こえた。
普段なら、特に気にならなかった。
けど、この時のあたしは何故か気になって、艦娘の力で聴力を強化して盗み聞きをした。
絶対にやっちゃならない事だと分かっていたけど、止められなかった。
罪悪感に苛まれながら盗み聞きをすると、あたしの様子がおかしいという会話が聞こえてきた。
阿武隈が、自分の何気ない一言であたしを傷付けてしまったと言っていたが、あたしは全く気にしていない。
「………………」
────最近、
渡良瀬に迷惑を掛けたくない。
だから、この想いは封じる。そう決めていた。
けど、日に日に苦しくなってきた。
決意が揺らいでいる。
想いを告げたい。
我慢せず、解き放つか?
渡良瀬なら、しっかり受け止めてくれる。
────何故、我慢する必要がある?
そうだ。我慢する必要なんて無い。
渡良瀬の負担になる?拗らせて心配を掛けるよりかはマシだ。
あたしの想いを叩き付けてやる。
きっと驚くだろうな。んでもってメンタルに負担を掛けるだろうな。
なら、あたしがしっかり支えてやって負担を無くしてやればいい。
あたしはこう見えて、尽くすタイプだ。
けど、怖い。
────何時まで過去に縛られているんだ?
確かに。相手はあの渡良瀬だ。普段はおちゃらけていて、ヘタレな所もある。
けど、根は真面目で誠実な男だ。あたしを裏切ったりしない。
────なら、やるべき事は一つ
あぁ、やるべき事は一つ。
怖気付かずに、堂々とあたしの想いを渡良瀬に伝える。
けど、今は流石にダメだ。プリンツが覚醒者になった事で、仕事が増えていっぱいいっぱいになっている。
様子を見て、仕事が落ち着いてきたら告げよう。
覚悟は決まった。
あたしは、渡良瀬が1人の異性として好きなんだ。
驚かれるだろうけど、きっと受け止めてくれる。
大丈夫。大丈夫だ。
絶対、
あたしが心の底から好きになった人を。渡良瀬を信じろ。
……にしても、さっきから
何かの病気か?最近飲酒量が増えたから、その影響か?あとで医療妖精さんに診てもらうか。
━━━
side 提督 out
───────
────
─
side 扶桑
──第603鎮守府、演習海域──
15:40
────まだ振り回されている
現在の航行速度、35ノット。今まで使用してきた艤装では、追い風を利用しても
それが現在使用している艤装なら、向かい風だろうと軽々と叩き出せる。
これだけでも充分凄いのに、この艤装は瞬間的にだけど80ノットも出せるというのだから驚きだ。
(艤装が軽過ぎる。吹き飛んでしまいそう……っ!)
危うく転倒しそうになった。けど、素早く
試運転をする前に野原主任から“今までと同じ感覚で航行しないでください”と言われたのに、気が付くと無意識のうちに以前の艤装と同じ感覚で航行してしまう。
(頭では分かっているのに、以前の艤装の感覚が身体に染み付いているせいで……っとと、危なかったわ)
また転倒しそうになった。しっかりしなさい!
今朝、ようやく私の艤装に第二次特殊改装が施され、試運転を行っている。
今まで使用してきた艤装とは別物と言って良いほどに変わった事で、最初はまともに航行出来ずに何度も転倒しそうになってしまった。
そして、それは試運転を開始して一時間以上経った今も続いている。
一刻も早く安定して航行、艤装と
『扶桑さん、燃料の残りが僅かなので一旦埠頭に戻ってください』
「……了解しました」
提督から無線が入った。どうやら気付かないうちに主機を過剰に回し燃料を消費してしまったみたい。情けない。
「お疲れ様です。どこか不調はありませんか?」
「ふふっ、私は大丈夫ですよ」
埠頭に戻ると、渡良瀬さんが微笑みながら優しい声色で労わってくださった。しかし、その顔と声からは疲れが見える。
無理もない。ただでさえ仕事が増えた事でお疲れなのに、そこに追撃するかのようにここ数日、深海棲艦の出現頻度が増えた。
昨夜も日付が変わる頃に出現したせいで対応に追われ、渡良瀬少佐はまともに休んでいない。
(おのれ、深海棲艦。渡良瀬さんに迷惑を掛けるなんて、絶対に許さない)
今すぐにでも出撃して、
しかし、新型艤装に慣れていないせいで刀を振ることは勿論、航行しながら砲撃するのもままならないから、今行ってもまともに戦えない──警報!?
「俺だ、何が起きた──なんだと!?」
「少佐、どうされました?」
「妖精さんの監視用レーダーが深海棲艦を。
「なんだって?何故そこまで接近されるまで気付かなかったんだ!?こんな事言うのもなんですが、出撃や哨戒していた娘達は何をしていたんだ?」
「どうやらレーダーがギリギリ反応しない微速以下で海底を移動して、ここまで接近したらしい!」
「…………」
渡良瀬少佐と野原主任のやり取りを聞き、私は思考する。
私が佐世保鎮守府に居た頃、何度か経験したことがある。
ソナーからの探知を逃れる為に艤装の動力を完全に止め、波に任せて海底を何十日もかけて移動して鎮守府や沿岸に接近する。通常種では不可能だけど、鬼・姫級なら可能だ。
この方法を取られると、例え
「一番近くに居る哨戒組に連絡したが、到着するのに30分近く掛かる。間に合わねぇな。
いま此処に居るのは新人の娘達と、秘書艦の早霜、秋津洲さん。それから、扶桑さんだけ。
新人の娘達は艤装を整備中だから出せない。早霜と秋津洲さんの二人で時間稼ぎをしてもらうか──」
「渡良瀬少佐、発言の許可を!」
「許可します。なんでしょうか?」
「私も出撃させてください!完全静止状態での砲撃なら、出来ます!」
「しかし……」
「少佐、発言の許可を」
「……許可します」
「私は、扶桑さんの意見に賛成します。確かに扶桑さんは新型艤装に振り回されていますが、データを見たところ完全静止状態からの砲撃なら安定して行えています。
早霜さんと秋津洲なら撹乱は出来ても、姫級──軽巡棲姫に有効打は与えられません。装甲を生かし、二人の攻撃を受けながら強引に此処を攻撃される恐れがあります。
しかし、扶桑さんの砲撃なら有効打を与えられます」
「…………分かりました。扶桑さん、頼めますか?」
「はい!お任せ下さい!!」
ありがとうごさいます、渡良瀬少佐。
さて。許可を頂けたから、急いで艤装の確認をしましょう。
燃料を補充して、演習用弾を実弾に換装。それから……念の為、
砲撃のみをするから必要は無いけど、何故か装備した方が良いと私の勘が告げている。
━━━
───見ツケタ
───
───絶対ニ、逃ガサナイ。覚悟シロ。
━━━
side 扶桑 out
───────
────
─
次回予告
Q:第603鎮守府所属の扶桑を怒らせると、どうなる?
A:知らんのか?
第192話・
※予定より長くなった為、分割しました
【補足的なナニか】
・雷電…「メタルギア」シリーズに登場する人物の一人。中の人は「堀内賢雄」さんが演じている。
・アームストロング…気に入らねぇ奴は、ぶん殴るッ!「メタルギアライジング・リベンジェンス」に登場する人物。中の人は「石塚運昇」さんが演じている。
ネタバレが含まれるため、詳細については割愛。
・サイゼリヤの間違い探し…めっちゃ難しい。絶対子供向けじゃねぇぞ、コレ。気になった人は遊んでみよう(ダイマ)
ちなみに、よく「サイゼリ
・木曾と足柄の賭けの結果…カボチャのコロッケが出た為、賭けは無効となった模様。
・扶桑の新型艤装……次話で解説される(多分)
以上、補足終了
活動報告で経過報告をしましたが、その際に皆様から沢山の励ましの言葉を頂き、勇気付けられました。本当にありがとうごさいます。
また、経過報告をした際に心配をお掛けしてしまい、申し訳ございません。
ケジメ案件なので、ちょっくらゴルシにドロップキックをブチかまされてきます
現在は無事快復し、元気に過ごしています。
私がこうして生きているのも、当小説を執筆出来ているのも、偏に皆様のお陰です。
重ね重ねになりますが、この場をお借りしてお礼申し上げます。
皆様に多大なる迷惑と心配を掛けた作者ですが、宜しければ今後ともお付き合い頂ければと思います。