「 はぁ……」
「大丈夫?」
「……これが大丈夫そうに見えるなら、眼科に行ってこい」
「言い返す元気はあるみたいね。仕事しましょう?」
「はたらきたくないでござる」
足柄ァ、少しくらい労わってくれよ。
本当に働きたくない。肉体的にも精神的にもボロボロだよコンチクショウ。
原因は言わずもがな、瑞鶴だ。
……何があったかって?
───────
『……ん、朝……か…』
『(<⚫>)(<⚫>)』
『 』
───────
目覚まし時計のアラーム音で起きて目を開けたら、瑞鶴が目の前に居て俺の顔を見つめていたり。
───────
『ふぃ~、いい湯だなぁ……』
『身体まさぐりゲフンッお背中流しに来ました~♪』
『カエレッ!』
───────
入浴中、浴室に突撃してきたり(流石に恥ずかしいのか、バスタオルを巻いてた)。
───────
『蒼○翔太さえ居れば何とかなる』
『それな……って、うおっ!?』
『うわっと!?』
───────
瑞鶴以外の艦娘達と楽しそうに雑談していると、矢を放ってきたり。
他にも色々あるが多過ぎるので割愛。
「はぁ……」
「さっきから溜息ばかり吐いて。そんなんじゃ、幸せが逃げるわよ?」
「それで逃げる幸せなら、要らねぇよ」
「捻くれてるわね」
「うっせ」
ホントにどうにかならないかな。このままじゃ胃潰瘍になっちまう。……待てよ?
「重度の胃潰瘍になれば入院出来る。ここから離れられる!」
俺は天才だ!……なんだよ、足柄。その、可哀想な人を見るような目は。
「……瑞鶴がお見舞いに行く未来が見えるわ」
「ちきしょう!」
アイツならやりかねん。それどころか泊まり込みで看病するだろう。
狭い病室。アイツと二人っきり。……うん、無理です。
「地球滅びねぇかなぁ」
「おいコラ」
「冗談だよ」
「冗談に聴こえなかったわよ……」
諦めるか?嫌だ。絶対嫌だ。アイツの恐ろしさは俺が良く知っている。諦めて受け入れたら、またあんな目に遭うかもしれない。
これでも
「ほーら、考え事してないで仕事するわよ」
「……分かったよ」
瑞鶴の対処について考えるのは一旦やめて、仕事しよう。
えーと、なになに……漁船警護の依頼が来ているな。
………………。
「お疲れ様」
「あぁ。手伝ってくれてありがとう」
集中したからか、思いのほか早く仕事が片付いた。
時刻は18:43。今日の料理当番は瑞鶴か。
(アイツは意外にも、料理が得意だ)
最初はダークマターを生成していたが、猛特訓して美味しい物を作れる様になった。
アイツ曰く「旦那様に美味しいご飯を作ってあげられるよう頑張った」らしい。旦那様とは勿論俺の事だ。俺はアイツと結婚する気なんて無いのに。
「俺は書類を纏めるから、先に行ってくれ」
「分かったわ。お先に失礼します」
足柄が執務室から出て行くのを見送った後、再び書類の山に視線を戻す。
えーと、この書類は……ん?ノックする音が聴こえた。
「誰だ?」
『瑞鶴です。夕食の準備が整いました』
「分かった。すぐ行くから先に食堂に行ってくれ」
「手伝うよ?」
「入室許可していないのに勝手に入ってくんじゃねぇ!」
先に行ってくれって言ったじゃん。何で言う事聞いてくれないの?反抗期かコノヤロー。頭痛くなってきた。
「大丈夫?私のパンツ食べる?」
「食べねぇよ!」
頭抱えていたら、こちらの顔を覗き込みながらアホな事を言い出しやがった。
「脱ぎたてと洗いたて、どっちがいい?」
「どっちもいらねぇよ!!」
「あ、分かった!私を食べたいんだね?いいよ、召し上がれ♪」
「誰が食うか!服を脱ぐな!!こっち来んな!!!」
もうヤダ。誰か助けてください。
この後暫く、奴と俺の貞操をかけた攻防が繰り広げられた。幸い、俺が来るのが遅い事を不審に思った足柄が様子を見に来てくれて、事なきを得た。
………………。
「そしてズッコンバッコンした、と」
「してねぇよ……」
「瑞鶴の裸体見て興奮した?」
「……してない」
「何で間が空いたのか、お姉さん気になるわぁ~?」
「うっさい、絡むな酔っ払い」
足柄は素面なら頼れる奴なんだが、酒が入るとウザったくなる。
何で足柄と酒を飲んでいるかって?夕食後に桟橋で一人、ヤケ酒していたら足柄に見つかり、二人で飲む事になり、今に至る。
「炊事、洗濯、裁縫が上手。事務仕事も早く正確で字も綺麗。パーフェクトじゃない。超優良物件よ、あの娘。それなのに何で拒絶するの?」
「……色々あったんだよ」
「ふ~ん。話したくないなら、無理に聞かないわ」
「ありがとよ」
察してくれたのか、足柄はそれ以上追求してこなかった。
「そろそろ寝るわ。あまり飲みすぎちゃダメよ?」
「分かってる。おやすみ」
「おやすみなさい」
俺は足柄を見送り、姿が見えなくなったのを確認し、一人、呟いた。
「どうして、ああなってしまったんだろうな……」
俺はただ、アイツに手を差し伸べた。ただ、それだけなのに。
「……考えたって仕方ない。寝よう」
酒瓶とグラスを持ち、寝室へ向かった。
───────
────
─
Another side
「………」
彼の服にこっそり取り付けた盗聴器から、彼の独り言を聴いた。
私がこうなった理由?それはね、いつも否定され続けていた私を。姉と比べられてきた私を。貴方は認めてくれた。私という存在を受け入れてくれた。だから…
「だから、私は……」
恩返しがしたい。だから彼に尽くす。
毎回やり過ぎて後悔するけど、貴方を見ると自分を抑えることが出来なくなってしまう。
「……嫌われたく、ないよぉ…」
あの日、貴方に置いて行かれた時。私、とても悲しかった。私の何がダメなのか、必死に考えた。何度も何度も考えたけど、分からなかった。
貴方の理想の女になろうと、お料理出来るよう頑張った。
家庭的な女になろうと、お裁縫も覚えた。
バカな女だと嫌われるかもしれないから、必死に勉強した。
流行を知る為に、音楽を沢山聴いた。
お洒落のセンスを磨く為に、ファッション誌を沢山読んだ。
どこに行っても、貴方に恥をかかせない女になるから。私、頑張るから。だから。だから──
「もう……私を、置いて行かないで……」
Another side out
───────
────
─
「今日も一日頑張るぞい、っと」
「社畜アニメの話はやめろ。それは俺に効く」
「え~、いいじゃん。女性だけの会社でキャッキャウフフしながら仕事するだけのお話なんだからさぁ」
「なお現実」
「やめろおおぉぉ~!!!」
「さっさと仕事終わらせれば、溜め録りしたアニメ消化する時間得られるぞ」
「おっしゃあ!秋雲さんガンバっちゃう!」
今日の秘書艦は、我が第603鎮守府が誇るムードメーカー、秋雲だ。
余談だが俺はこいつの影響でオタクになった。お陰で金の消費が増えたが……。
さて、張り切って仕事するぞ!なんてったって、瑞鶴が居ない。漁船警護で瑞鶴が居ない!大事なことなので2回言いました。
「……ん?誰だ?」
ノックする音が聴こえた。
今日は漁船警護の仕事で秋雲と摩耶、夕張以外、この鎮守府に居ない。しかも摩耶と夕張はつい先程買出しに出かけたばかりだ。一体、誰だ?
『こちら、第8492離島鎮守府所属、翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴と申します。第603鎮守府提督宛に極秘文書をお持ちしました』
「何?」
機密性が高いから、郵送ではなく艦娘が直接持ってくる、あの極秘文書だと?
届けられたのは今回が初めてだ。それをこんな小規模な鎮守府に持ってくるとは。どんな内容なのだろう。
「ど、どうぞ」
突然の出来事に動揺したせいか、声が裏返っちまった。
扉を開け、1人の女性が入室してきた。
(嘘……だろ…)
「……」
俺はこの女を知っている。
コイツは…コイツは…
「提督、どったの?顔面蒼白でメッチャ震えてるよ?」
秋雲が声をかけてくるが、返答する余裕は無い。
目の前に立つ女。
腰まで届く白髪。
胡桃色の瞳。
穏やかそうな印象を与える垂れ目。しかし、今は俺の事を射殺さんばかりに睨んでいる。
(コイツは……コイツは!)
「……先程、極秘文書をお持ちしましたと言いましたが──」
アイツの。瑞鶴の姉で──
「……アレは嘘です」
そして──
「騙して悪いですが……」
────超シスコン女!!!
「ここで死ねッッ!!!」
「ウオオオオオアアアーーーッ!!!!!」
「提督ーーーー!!!!」
目の前の女は、一瞬で艤装を展開したかと思ったら、迷わず俺目掛けて爆撃してきやがった!
咄嗟に避けたから、俺にではなく執務室の壁に当たり大穴が開いていた。
「……チッ、外したか」
ヤバい、再装填してる。今のうちに逃げなきゃ殺される!
「待て!!」
奴も俺の後を追いかけてきた。どうしてこうなった。俺が何をしたって言うんだ!?というか、
「お前まで……お前まで艦娘になってたのかよぉぉぉォォォ!!!」
俺、今日死ぬんじゃね?逃げ切れる気がしないんですけど!!!
次回予告
いやー、まさか目の前で「こんにちは、死ね!」を見れるとはねぇ……なんて言ってる場合じゃない!提督を助けなきゃ!
……けど、秋雲さん、対空戦闘苦手なのよねぇ。でも、やらなきゃ提督が死んじゃうかもしれない。
……あぁもう、覚悟を決めろ、秋雲!
第3話・姉妹喧嘩
「認めさせてやる。私という存在を。肉薄する!くたばれッッ!!!」