追跡鶴   作:EMS-10

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「瑞雲もいいけど、瑞鶴もねッ♪」

「おまえは何を言ってるんだ」

「言わなきゃいけない気がしたから…」

「あっそ……お、実寸大瑞雲だ。乗ってみたいなぁ」

「私は提督さんに乗りたいなぁ。具体的には、騎乗位…」

「お黙り!!」







第3話・姉妹喧嘩

side 瑞鶴

 

 

─第603鎮守府より沖合数km地点─

 

「こちら瑞鶴。現在時刻08:27。敵影なし。引き続き索敵を行います」

 

『了解よ』

 

「…ふぅ」

旗艦の足柄に報告し、通信を切る。

艦載機を扱う時は物凄く集中しなきゃならないから、すぐに疲れちゃう。正規空母は辛いわぁ。

 

「こんなに頑張っているんだから、ご褒美貰ってもいいよね」

うん。絶対貰うべきだ。帰ったら彼にお願いしよう。

それにしても、最近また彼は寝室の鍵を変えたみたい。最初は簡単で、数秒で解錠出来たけど段々鍵穴が複雑な物になってきてるから解錠するのに時間がかかるようになっちゃった。もっとピッキング技術上げなきゃ。ピッキングは乙女の嗜みよ♪

 

「寝顔眺める時間が少なくなっちゃうから、鍵変えないで!ってお願いしようかなぁ」

それか、妖精さんに頼んで忍者屋敷みたいに秘密の抜け道を作ってもらおうかしら?うん、そうしよう!

…おっと、そろそろ索敵機飛ばさなきゃ。

 

「…えっ?」

矢筒から索敵用の矢を取り出そうとした時、艤装によって強化された聴力で、微かだが爆発音を捉えた。

何処?何処から?砲撃音とは違う。それに、爆発音だけでなく、別の音も聴こえる。

 

「…彗星?」

私が愛用する聴き慣れた艦載機のエンジン音が、微かに聴こえた。

 

 

side 瑞鶴 out

 

───────

────

 

side 提督

 

「ハァ…ハァ…」

アイツ(瑞鶴)の姉と捕まったら最期の鬼ごっこを始めて数分が経過した。しかし俺には数時間続いている様に感じる。

 

「ちょこまかと…動き回らないで!」

 

ヤだよ!止まったら死ぬ!つーか生身の人間相手に艤装を使うな!瑞鶴?あいつは矢を放つだけで艦載機は決して放たない。だからセーフだ!無罪!終わり!閉廷!異論があるなら上等だ、相手になってやる!弁護士雇って徹底抗戦だ!アイツに前科なんか1つたりとも付けさせねぇ!

 

「…がっ!?」

しまった、足をもつれさせて転んじまった!

 

「っ!今よ、全機、突撃!」

 

一瞬の隙を逃さず、艦載機を突撃させてきた。チクショウ、ここまでか。

 

「……瑞稀(瑞鶴)

思わずアイツの名前を呟いちまった。何であいつの名前を呟いたんだ…何故…ああ、艦載機が爆弾を…

 

「はいだらあああああああ!!!!」

 

「ッ!」

 

突然大声が聴こえた。それと同時に俺に向かって爆撃をしようとした彗星達が撃墜されていった。

 

「あき…ぐも?」

 

「へ、へへっ…秋雲さんだって、やるときゃやるんですよぉ~」

 

目を開けると、艤装を纏った秋雲が居た。

 

「た、たすかった、秋雲…」

 

「礼を言うのは早いよ、提督」

 

いつもの巫山戯た雰囲気は一切ない、真剣な口調でそう言った。

 

「…邪魔をしないで頂けませんか?」

 

「いや~、流石にそれは無理かなぁ。ウチの提督の危機なんだから」

 

「…そうですか。なら!」

 

アイツ、また艦載機を飛ばそうとしているぞ。

 

「ッ!提督、逃げて!」

 

「けど!」

 

「早く!」

 

「くっ…すまん!」

情けないが、秋雲に任せて逃げる事にした。

 

「第二次攻撃隊、発艦!」

 

「撃ち墜すぜぇ…超撃ち墜すぜぇ!!」

 

後ろから艦載機のエンジン音と砲撃音が聴こえてくるが、振り向かずに走り続けた。すまん、秋雲…俺は無力だ…

 

(しかし、どうする。話し合いで止められそうにない。)

…いや、待てよ?確か翔鶴の奴、【第8492離島鎮守府所属】って言ってたな。なら、そこに連絡すれば!

 

(スマホは…無事だ。充電は…バッチリだ)

瑞鶴が着任した日の反省を生かし、充電を忘れない様にした。

走りながらだからか、操作し辛い。電話帳を開いて…あった!

 

(頼む…出てくれ!)

ワンコール。ツーコール。…繋がった!

 

「もっ、もしもし!」

 

『ひゃっ!』

 

大声で怒鳴ったせいか、通話相手が驚いている。謝罪したいが時間が無い。用件を言わせてもらうぞ。

 

「こちらは、第603鎮守府の提督です。大至急、救援を要請します!」

 

『えっ、えっと、いきなり何を…』

 

あぁもう、オドオドすんな!あそこ(第8492離島鎮守府)の提督は男。しかし今電話から聴こえるのは女の子の声だ。つまり、 秘書艦だ。

 

「繰り返す!大至急救援を…ぐあっ!」

凄まじい爆発音が聴こえたと同時に、背中に物凄い衝撃が走り吹っ飛ばされた。

 

「…っててて…!す、スマホは!?」

何処だ!何処にある!!…あった!

 

「…オイオイ」

すぐにスマホを見つけたが、画面に大きな亀裂が走っていた。更に画面は真っ暗。試しに電源ボタンを押したが反応無し。

 

「万事休す、か」

執務室の固定用電話は奴に吹っ飛ばされたから使えない。そして執務室以外に固定用電話は無い。

 

「うわあああああああ!!!」

 

秋雲の悲鳴!声のした方を見ると、爆撃によって吹き飛ばされる秋雲の姿が視界に入った。

 

「随分と手こずらせてくれましたね」

 

「……」

奴は俺に狙いを定めていた。

 

「それでは、死んでください」

 

今度こそ、本当に終わりか。

翔鶴が艦載機を飛ばそうとした瞬間、横から烈風が突っ込み、機銃掃射を当てるのが見えた。

 

「きゃああああ!!」

 

…ははっ、俺って悪運強いのかねぇ。そんな事を考えていたら、いつの間にかアイツが俺の前に立っていた。

 

「…静流姉(翔鶴姉)、何、してるの?」

 

みず…き…(瑞…鶴…)

 

「私の提督(大切な人)に、何、してたの?」

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 

side 瑞鶴

 

「…聴こえる!」

聴き間違いなんかじゃない。彗星のエンジン音だ。それに、爆撃している。何処かで深海棲艦と戦闘しているのかな?

 

「…違う」

海上で爆撃すれば、水しぶきの音も聴こえる。なのにそれが聴こえないって事は…

 

「陸上で爆撃している」

ここら一帯に陸上型深海棲艦は存在しない。もし新たに発見されたなら、どんなに規模が小さかろうが必ず全ての鎮守府に通達が行く。

 

(いったい、何が起こってるの?)

とにかく、音の発生場所を特定しなきゃ。

 

(やるしか、ない)

索敵用の矢を4本取り出し、2本は漁船が進む予定のルートへ。もう2本は爆発音の聴こえた方へ放った。

 

「ぐっ…うぅ…」

いつもなら負荷を抑える為、索敵用の矢は2本までしか放たないけど4本放った。お陰で目が飛び出そうなくらい頭がズキズキと痛む。漁船の進む予定のルートは異常なし。なら、爆発音の聴こえた方は…

 

(ここじゃない…ここでもない…ここも違う…えっ?)

飛ばした索敵機の1つが、ある光景を見せてきた。

その光景が見えた時、痛みを感じなくなった。

どうして…どうして…

 

(どうして静流姉が彼を攻撃しているの?)

次々に疑問が浮かぶけど、考えてる時間は無い。とにかく、足柄に報告しなきゃ。

 

(けど、何て説明すればいいの?)

迷ってる時間は無い。決断しろ、私!

 

「…足柄」

 

『なぁに?』

 

私は、包み隠さず足柄に話した。

 

『…そう』

 

「……」

今すぐ向かいたい。けど、今は警護中だ。例え1人でも離れる事は出来ない。どうする?命令違反覚悟で向かうか?

 

『…分かったわ。こっちは任せて、行きなさい』

 

「…え?」

 

『あなたのお姉さんが居るんでしょ?なら、あなたに任せるわ。こっちは上手く誤魔化しておくから。だから、行きなさい!』

 

「…はい!」

艤装の主機を蒸かし、船速を一杯にする。

 

(間に合え…間に合え!)

限界までタービンを回し続けているせいか、主機が悲鳴をあげる。お願い、持ち堪えて!

少しずつ、少しずつ鎮守府に近付いていく。そして、建物が見えた時だった。

 

「…そん、な」

強化された視力が、傷だらけの彼に向かって艦載機を飛ばそうとする姉の姿を捉えた。

…させるか!

矢筒から戦闘機用の矢を取り出し、弓を引き絞り、放つ。そして矢は烈風へと姿を変え、姉目掛けて機銃掃射を行わせた。

 

「きゃああああ!!」

 

姉が悲鳴をあげてるけど、何とも思わない。

急いで港に上がり、傷だらけの彼の前に立つ。

 

「…静流姉(翔鶴姉)、何、してるの?」

あまりの怒りに低い声が出た。

 

みず…き…(瑞…鶴…)

 

私を見た姉は、怯えていた。何故だろう。そう思った直後、私の目と鼻から生暖かい液体がこぼれるのを感じた。

…あぁ、やっぱりか。さっき無理して索敵機を沢山飛ばしたから、出血しちゃった。けど、今はどうでもいい。

 

「私の提督(大切な人)に、何、してたの?」

返答次第では、許さない。

 

「……から」

 

「聴こえないよ」

 

「……羨ましかったから」

 

「何が羨ましいの?」

 

「…この男が、あなたの心を手にしているのが羨ましかったの」

 

…何を、言っているの?

 

「私がどれだけ頑張っても、あなたは私を見てくれなかった。それなのに。それなのにこの男は!」

 

…何よ、それ。

 

「私はいつも静流姉の事、見てたよ」

 

「嘘よ!その男と出会ってからあなたは笑顔を見せる様になった。明るくなった。お洒落をする様になった。勉強もする様になった。私がどれだけ頑張っても出来なかった事を、塞ぎ込んでいたあなたを変えようとしたのに、私には出来なかった。それを、あの男は簡単に変えた!」

 

静流姉…私の事、ちゃんと見てくれてたんだ…

 

「…ねぇ、静流姉。1つ、聞いていもいい?」

 

「…なぁに、瑞稀?」

 

「静流姉は私の事、どう思ってるの?」

 

「瑞稀は私の大切な妹よ。それ以外の答えは無いわ」

 

「…ありがとう」

こんなにも私を大切に想ってくれているのに気付けないなんて…私はバカだ。

 

「…お願いよ瑞稀。あそこ(第8492離島鎮守府)に戻ってきて?」

 

「なんでよ…」

 

「…」

 

「…私は、戻る気は無いわ」

 

「そんな…」

 

どうやら納得出来ないみたい。それなら…

 

「ねぇ、静流姉。私と1:1で戦おう」

 

「な、なんで!」

 

「これ以上話し合っても納得出来ないでしょ?それなら手っ取り早く勝負して決めようよ。私が負けたら、静流姉の所に戻る。私が勝ったら、ここに残る」

 

「…えぇ、いいわ」

 

「口約束でも法的に有効だから、後で口約束だから無し、なんて事は出来ないよ?」

 

「お姉ちゃんが約束破った事、あったかしら?」

 

「無いわ」

 

……。

 

「……」

「……」

 

互いに無言で海上に移動する。

 

「瑞鶴…」

 

彼が声をかけてくれた。大丈夫、心配しないで。

 

「大丈夫よ、提督さん。瑞鶴(瑞稀)に任せて♪」

振り向かずに軽く手を振った。今の私は目と鼻から出血してるから、こんな顔は見せられない。

 

「そんなに出血してるけど、大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ、問題ないわ。それに、ハンデよハンデ。こんな状態でも翔鶴姉に勝てるんだから。それより、翔鶴姉の方こそ大丈夫なの?さっき機銃掃射受けてたけど」

 

「こんなの小破未満(カスダメ)よ。問題ないわ」

 

そこから先は言葉は不要。無言で矢筒から矢を取り出し、構える。

大丈夫。いつも通りやればいい。

 

「認めさせてやる。(瑞稀)という存在を。肉薄する!くたばれッッ!!!」

瑞鶴航空隊、発艦ッッッ!!!!!

放った矢が艦載機に姿を変え、翔鶴姉に向かう。対する翔鶴姉も艦載機を飛ばしてきた。そして…

 

 

───────

────

 

 

「あーん」

 

「…ほらよ」

 

「んっ…美味しい♪」

静流姉との決闘から1週間が過ぎた。あの戦いはギリギリ私が勝てた。勝てたけど、脳を酷使したせいかその反動で身体を上手く動かす事が出来ない。妖精さん達によると完治するのにあと1ヶ月近くかかるみたい。

 

「ったく。無茶しやがって」

 

「貴方の傍に居られなくなるんだよ?無茶くらいするわ」

 

「…そうか」

 

「林檎、もう一個頂戴?」

 

「はいよ」

 

そうそう、あの決闘が終わってから彼が少し優しくなってくれたの。嬉しくて飛び跳ねたくなっちゃう♪

 

「そろそろ行く。あの時の報告書やら始末書やらが沢山あるんでな」

 

う~…もっと一緒に居たいのにぃ…早く治して一緒にお仕事(イチャイチャ)したいなぁ。

 

 

side 瑞鶴 out

 

 

───────

────

 

 

side 提督

 

「…やれやれ」

目の前には書類の山、山、山。勘弁してくれ。

 

「全部紙飛行機にして飛ばしてぇ…」

 

「ダメですよ、司令官。ダメです」

 

「分かってるよ」

書類を書きながら早霜が注意してくる。やるしかねぇ。

静流(翔鶴)が鎮守府を爆撃した事は、深海棲艦による襲撃だと大本営に嘘をついておいた。真実を知るのはここ(第603鎮守府)あそこ(第8492離島鎮守府)だけだ。

 

『この件の責任はこちらが全て負わせて頂きます。誠に申し訳ございません』

 

あそこの提督が上手く誤魔化してくれたからか、大本営から俺に対してお咎めは無かった。それはいいが、気になる事がある。

 

(静流はどうなるんだろう)

静流はあの時の事を猛省している。決闘の後、俺に向かって土下座して謝って来た位だ。

あそこ(第8492離島鎮守府)の提督になるべく温情をかけてくれと俺と瑞鶴の2人で土下座して頼み、相手も承諾してくれたから、そこまで重い罰が下りることは無い…と思いたい。

 

「…また、3人(俺と瑞稀と静流)で出かけたいな」

 

「何か、仰いました?」

 

「独り言だ。提督やめたいなぁ…」

 

「(<⚫>)(<⚫>)シレイカン…?」

 

「嘘です冗談です辞めません辞めませんからその目をやめて頂けないでしょうか早霜さん」

 

…フフッ、よかった…フフフ…(辞めたら何処までも追いかけます)

 

(早霜は瑞鶴とは別のベクトルで怖いんだよなぁ…)

 

「瑞鶴さんとは別ベクトルで怖い、ですか?」

 

「 」

心を読めてるんじゃないか?ってくらい考えている事を的確に言い当ててくるから怖い。

 

司令官(大好きな貴方)の事なら、何でも分かります。フフフフフフ…」

 

分からなくていいです(迫真

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 

Another side

 

「…失礼します」

 

「何故呼ばれたか、分かっていますね?」

 

「…はい」

 

「よろしい。では、翔鶴くん。今回の件について処罰が決まりました」

 

「……」

 

「この書類に内容が書かれています。ここで読んでください」

 

………。

 

「……えっ?」

 

「なお、これは決定事項です。異論は認めません」

 

「そんな…そんなっ!」

 

 

【翔鶴型航空母艦一番艦翔鶴は、○月○日付で第603鎮守府へ異動する事を命ずる】

 

 

Another side out

 

───────

────




次回予告


色々ありすぎて理解が追い付かないけど、提督が大丈夫って言うのなら大丈夫よね。それにしても最近、提督と瑞鶴の仲が良くなってきてるわね。こりゃ、近いうちに「ゆうべはお楽しみでしたね」な事になるんじゃ。そうなったらお祝いにカツを揚げてご馳走してあげましょう。他にはゴムでもプレゼントしようかしら。ふふっ。


第4話・覚醒する少女


「何でだよ…ふざけるな!ふざけるな!!バカヤローーーー!!!!」
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