奪わせない。
奪われてたまるか。
奪おうとするのなら、容赦しません。
もし、奪われるのなら────
─5年数ヶ月前─
「これより、筆記試験及び実技試験を行う。分かっていると思うが、一定以上の成績を収められなかった者は、落第となる。覚悟して挑め!」
藤原准将が壇上から、艦娘候補生達へそう言いました。
渡良瀬提督候補生と共に過ごして1ヶ月が経ちました。
彼の指導のお陰で、涼月は自信を持てるようになり、どんどん実力を身に付け、今やトップクラスの成績を収めています。
そして、今日。ついにその時が来ました。今まで教わってきた事を出し切る時が。
(落ち着きなさい、涼月。今まで彼から。渡良瀬提督候補生から教わった事を、そのままやればいいのです)
心臓が早鐘を打つ。緊張しています。しかし、不思議と不安はありません。
「では、筆記試験から始める。艦種ごとに別れ、それぞれ指定された会場へ向かえ」
(…行きましょう)
駆逐艦娘が受ける会場へ向かう。
中に入ると、机と椅子がありました。えっと、涼月の席は──ありました、ここですね。
指定された席に座り、待機します。周りを盗み見ると、皆さん緊張した面持ちをしていました。
暫くすると、試験監督役の提督が1人と艦娘が2人、妖精さんが複数人(人?でいいのでしょうか?)入室してきました。
「これより、筆記用具を配る」
不正を防ぐ為、試験監督側が用意した筆記用具を配られました。
全員に行き渡ったのを確認すると、次に解答用紙と問題用紙が配られました。
「制限時間は2時間。不正行為防止の為、妖精さん達が巡回する。もし、何かあれば無言で挙手をしろ」
試験監督からそう説明されました。
「では、始め!」
………………。
「よし、揃っているな。これから、実技試験を行う。諸君、落ち着いて挑め!慌てず、焦らず、諦めず、迅速に!」
筆記試験を終え、続いて実技試験を行う時間が来ました。試験監督は、長門教官です。この人、とても凛々しくカッコイイのですが、駆逐艦娘達からは怖がられています。厳しいから、ではなく、別の理由により怖がられています。その理由とは、
「フヒッ…駆逐艦娘がいっぱいだァ…ここは天国だ。ウヒヒヒ…ジュルッ」
…聞こえていますよ、長門教官。周りの娘達、ドン引きしています。
そう。この
(周りの駆逐艦娘より、背丈が高いのは自覚していますが、酷いです)
初めて長門教官とお顔を合わせた時のやり取りを思い出しました。
『ん?ここは駆逐艦娘の集合場所だぞ?軽巡洋艦娘は向こうだ』
…はぁ。こんな人ですが、とても優秀だからタチが悪いです。
…あ、陸奥教官が、女性がしちゃいけない顔をしながら、長門教官の後ろに忍び寄っています。肩を叩いて…長門教官、振り向くまではだらしない顔をしていましたが、一瞬で真顔になりました。
「ま、待て、陸奥、私は決して邪な事など考えていないぞ!そうだともこの長門駆逐艦娘達を愛でたいなぁとかhshsしたいなぁなどと不埒な事は考えていないぞうむだから何も問題ないだから落ち着いてくれ落ち着いてください陸奥あの陸奥さん待って待ってくださいお待ちください陸奥さんア"ッ"〜〜〜!!!」
陸奥教官、長門教官に無言のアイアンクロー。長門教官、断末魔の悲鳴をあげる。
(日本、大丈夫でしょうか?)
不安になりました。
いつもの光景に、緊張に包まれていた空気が解れました。
「ごめんなさいね、長門教官、頭蓋骨マッサージ受けたいみたいだから、少しだけ待ってね?」
「ま、マッサージなら、駆逐艦娘達のちっちゃなお手手でしてもらいた──ヴェアアアアアアアア!!!」
………………。
ロリコン教官と陸奥教官は戦艦なのに、何故、駆逐艦娘の実技試験を見てくれたのでしょう?戦艦娘の実技の試験監督を行わなくて大丈夫なのでしょうか。涼月の疑問に陸奥教官は、
『戦艦娘は、艦隊指揮を執る事が多いから、筆記試験だけでなく指揮能力試験も行うの。あと、空母艦娘もね。それだから、手の空いている私と
そう教えてくれました。どうやら駆逐艦娘達や軽巡・重巡洋艦娘と違い、戦艦娘と空母艦娘は試験が一つ多いそうです。
(長門教官の頭が、ジャガイモみたいに凸凹になっていましたが、大丈夫でしょうか?)
説明されている間も、陸奥教官はアイアンクローをしていました。長門教官の頭は骨の軋む音と共にどんどん凹んでいきました。
(戦艦娘だから、大丈夫でしょう)
頑丈さが取り柄だ!と長門教官は言っていましたし、気にしなくていいでしょう。
試験を全て終えたので、試験で使用した的を回収し、倉庫へ向かいました。
全力を出した。
失敗は、殆どしていない。
大丈夫。
(結果発表が待ち遠しいです)
倉庫に的を仕舞い、部屋へ向かいました。
結果は明日、発表される。早く明日にならないでしょうか。
───────
────
─
─5年前、第603鎮守府─
「さて、今日からここで過ごす事になる。よろしくな」
「うん。よろしくね、渡良瀬提督」
「よろしく、お願いします……ふふっ…」
「よろしくね、提督。艤装の整備なら、任せてください!」
「よろしくお願いします、渡良瀬提督!」
あれから数カ月が経ちました。涼月の成績は、総合3位でした。
1位は勿論、白露型駆逐艦四番艦、夕立さんでした。
2位は、初春型駆逐艦四番艦、初霜さん。
未だに信じられません。少し前まで涼月は落第候補生だったのに、トップクラスの成績を収められたなんて。
「さて、摩耶と秋雲が来るまで、この鎮守府を掃除しようか」
藤原准将が言うには、最近建てられた鎮守府らしいのですが、渡良瀬提督は掃除する事を提案しました。
これからお世話になる建物です。綺麗にしてお礼をしましょう。
摩耶さんと秋雲さん。養成所で渡良瀬提督や涼月達と共に過ごした艦娘候補生──いえ、今は立派な艦娘ですね。彼女達は艤装のトラブルにより、ここ、第603鎮守府に少し遅れて着任するそうです。
「えーと、掃除用具は…何処だ?」
「提督、まずはこの鎮守府を皆で回って建物内の形を把握しよう?」
「それもそうだな」
掃除用具が見つからなくて焦る提督に、時雨さんが提案しました。
(うふふ。楽しみです♪)
これから、渡良瀬提督と皆さんと過ごせる。そう思うと、楽しくなってきました。
(夕立さんや初霜さん、海風さん、満潮さんも一緒にここに着任してほしかった)
残念ながら、涼月と仲良くして下さった方達全員と一緒になれませんでしたが、二度と会えないわけではありません。
(いつか、また、皆さんと一緒に過ごしたいです)
養成所で共に過ごした木曾さん、矢矧さん、鈴谷さん、榛名さん、扶桑さん、山城さん、葛城さん。皆さん、とても良い人達でした。
(この人達は、決して涼月を見下さなかった。見放さなかった。それどころか、心配して気にかけてくれました)
しかし、精神的に追い詰められていた涼月は、一度突き放してしまった。それでも、変わらず接してくれた。
(絶対、この恩は返します)
返しますが、渡良瀬提督は、絶対に渡しません。譲りません!
───────
────
─
─第603鎮守府、現在─
「大丈夫です!天井のシミを数えていれば、すぐに終わりますから!」
「それ、男が言うセリフ!というか、絶対すぐに終わらないと思う!」
「そんな…涼月と沢山愛し合いたいと言うのですか!?涼月、嬉しいです♪」
「違うから!」
「それでは、拙いですが、精一杯ご奉仕させて頂きますね♪」
「アッー!困ります、涼月さん!アッー!困ります!アッー!」
「提督さんに何しとんじゃー!」
「瑞鶴!」
「チッ、邪魔が入りましたか」
せっかく良い雰囲気でしたのに。知っていますか、瑞鶴さん。人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られるんですよ?最も、馬ではなく涼月に蹴られますが。
「提督との【バキューン】を邪魔した罪、償って頂きます!」
──────────────
「提督、書類の確認をお願いします」
「…おう」
涼月が提督を襲撃してから数日が経ちました。結局、涼月は瑞鶴さんに負けて提督と【ドッギャーン】出来ませんでした。しかし、諦めていません。本日の秘書艦は涼月です。
艦娘と提督。男と女。執務室。二人きり。何も起きないはずがなく───
「…なぁ、涼月。そんなに見られると、集中出来ないんですけど」
「(<⚫>)(<⚫>)」
気になさらないでください。涼月の事は監視カメラだと思ってください。
「─よし、問題ない。書類は終わったから、工廠に行って資材の残りや艤装の確認をしよう」
「了解しました」
ナニも起きませんでした。いえ、起こそうと思ったのですが、提督の好感度が下がりそうなので自重しました。
…………。
「そういえば、提督。今更なのですが、お聞きしたいことがあります」
「ん〜?なんだ?」
「養成所で涼月と初めて組んで頂いた時、涼月は上手く航行出来ませんでした。それを、僅かな時間で的確な指示を与えてくれました。そのお陰で涼月は落第を免れたのですが…何故、あそこまで的確に指示を与えられたのでしょうか?」
「あぁ、その事か。それはな───」
涼月が疑問に思っていた事を、提督は説明してくれました。
涼月の実技のデータを見て、艤装の扱い方を他の艦娘と違う方法で運用してみようと思った事。
他の駆逐艦娘の艤装より、涼月の艤装は重心が高いことに気付いた事。
艤装は、使用者。つまり艦娘の精神状態の影響を受ける──教本に書かれている当たり前な事ですが──のを知っていた為、必要以上に叱責せず、励まし、自信を持たせた事。
そして。
「ガキの頃から爺ちゃんに、観察眼を鍛えさせられたから、何処が悪いのか、気付けたんだ」
「……」
そう、だったのですか。
「他にも色々あるが────」
それから、提督に色々教えて頂きました。
──────────────
「─さて、今日の仕事終わり、っと。お疲れ様、涼月」
「お疲れ様でした」
本日の業務を全て終えると、提督に労いの言葉をかけて頂きました。嗚呼、もっと一緒に居たい。
「…涼月、その目、怖いです」
「(<⚫>)(<⚫>)」
…あら、いけない。気付かないうちに、瞳孔を開いていました。
「女の子がそんな目しちゃダメだぞ」
「…はい」
提督に注意されてしまいました。
「どうしてそんな風になっちゃったんだか…」
確かに。瑞鶴さんが着任されるまで、涼月は大人しく提督を見つめ、甲斐甲斐しくお世話させて頂きました。ただ、瑞鶴さんが着任されてから、涼月は提督を取られたくないから必死にアピールをするようになっただけなんです。
「もしかして、瑞鶴さんが着任される以前の涼月がお好みでしたか?」
「……」
「目を逸らさないでください」
そうですか。それなら、
「以前の涼月に戻りますね」
「…えっ?」
「それなら、提督の心を涼月に向けられるかもしれません」
「涼月…」
「はい、何でしょうか、提督♪」
以前の涼月になりました。さぁ、提督、涼月を見てください♪
「逆に不気味に感じちゃうから、今まで通りのデンジャラスなゾンビのままがいい」
「……」
…。
……。
…………。
「あの、涼月?無言で近寄らないで頂けないでしょうか?涼月?涼月さん?」
…………。
「涼月ぃ?涼月ちゃん?涼月様?」
「お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙っ゙っ゙っ゙!!!」
「ぎゃああああああああああ!!!」
そんなにデンジャラスで貴方にラブを向けるゾンビな涼月をお望みなら、沢山堪能させてあげます♪
「ごめんなさい!ごめんなさい!やっぱり、以前の涼月がいいなぁ〜!だからお願い!大人しくなってくれえええええぇぇぇぇ〜!!!」
「W゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙!!!」
涼月の魂の叫びを聞いてください!
「どっからそんな声出してんだよおおおおお!!!」
心からです♪
【Page:SUZUTSUKI_fin】
うふふっ♪
あはははは♪
提督♪
※以上で、涼月の過去編は終わりです。色々疑問に思う事があると思いますが、それらは本編や、提督及び他の艦娘の過去編で少しずつ明かしていきます。ご了承ください。
※現在、アンケートを行っています。宜しければご協力お願いします。
Q:涼月の成績が悪い時、涼月にちょっかい(いじめ)かけていた艦娘候補生の中に、第603鎮守府のメンバー及び扶桑は含まれている?
A:いいえ、含まれていません。第603鎮守府に所属している艦娘以外の娘が行っていた、という設定です。
【唐突な本編、第36話の嘘予告】
本性を現す艦娘!
恋する乙女は、ブレーキの壊れたダンプカー!
「○名、全力で犯します!」
高速戦艦Hさんが、ついに本気を出した!
襲われる提督。
もはや、これまでか。
その時だった。
もう一人。ただでさえ、鎮守府をカオスに陥れていた奴が、
《DANGER!DANGER!GENOCIDE!》
《Death The Crysis!》
《Dangerous Love Zombie!!!》
「W゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙o゙!!!」
ピンチの提督の元へ、奴は現れた。
雄叫びをあげながら、壁を素手でブチ抜いて
奴の名は!
「自慢の対空砲火で撃ち落としたい、
果たして、提督の運命は如何に!?
追跡鶴第36話・ブレーキの壊れた恋する乙女、近日公開!
※予告内容と本編は、異なる場合がございます。ご了承ください