追跡鶴   作:EMS-10

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第26話・イケメンとギャル

 

side 提督

 

─工廠─

 

昼。

 

 

「酸素魚雷の数は?」

 

「現在、40本よ。妖精さん達に量産許可出す?」

 

「頼む」

 

「分かったわ」

 

扶桑さん襲来から2週間が過ぎた。あの時はドンパチやり合って此処が廃墟になるのを覚悟したが、時雨が上手く説得してくれて丸く収まった。その後、扶桑さんを此処に泊め、誕生日を迎えたのでお祝いにマグロの頭とマグロの切り身を使った料理で祝った。最初は皆、ぎこちなかったが、最終的には打ち解けてワイワイ騒いでいた。

だが。

 

(翔鶴の奴、どうしたんだ?)

そう。翔鶴だけは終始険しい顔をしたままだった。俺が理由を聞くと「なんでもない」と言うばかりで教えてくれなかった。扶桑さんが帰った後も、ずっと険しい顔をしたままだ。それに、時折時雨を睨むようになった。流石に気になったので強い口調で聞いたが、泣きそうな顔で「いつか必ず話す」と言われてしまった。

 

(あんな顔、初めて見た)

言いたいのに言えない。そんな顔だった。本当は追求して聞き出したかったが、待とう。無理矢理聞くと、翔鶴を追い詰める事になりかねん。

 

「ボーッとしない!」

 

「ん?あぁ、すまん」

イカンイカン。仕事中だった。集中しろ。

本日の秘書艦、満潮と資材や武器の残弾を確認する作業をしていた。この2週間、深海棲艦の侵入数が増え、対応する事が多くなった。そろそろ小嶋提督から連絡来てもいい頃なんじゃない?設備も先日、完成したから外洋出れるよ?

 

「〜♪」

 

あ、満潮が鼻歌歌ってる。この歌は…スマイルプ○キュアのOPだ。見ているんだ、プ○キュア。

 

「〜♪…ハッ!」

 

あ、鼻歌やめた。もっと聞いていたかった。

 

「い、今のは違うわよ!違うからね?」

 

顔赤くして必死に言い訳してる。

 

「別にいいよ。気にしなくていい」

艤装展開してドンパチしたり、プロレス始めたり、大乱闘艦娘シスターズ始めない限りは許すよ。

 

「わ、忘れなさい!」

 

益々顔を赤くしてる。本当に気にしなくてもいいのに。

 

「あいよ」

からかうとマジギレしかねないから、からかわない。

 

「あ、荒潮に見せられたのよ!私が自分から見たんじゃないからね!」

 

「そうか」

荒潮…あの娘、ちょっと怖かったな。年齢と性格が一致していないというか、なんというか…とにかく、怖い。戦闘になると、笑いながら瞳孔広げてガンガン的をブチ抜くから、周りの提督候補生達や艦娘候補生達が引いてたな。確か、同期の奴の所に行ってたんだっけ。久々に連絡してみるか。

それから俺と満潮は仕事を続けた。

 

 

…………。

 

 

「…さて、メールするか」

仕事を終え、夕食を摂り、自室で寛いでいた。時刻は20:15。この時間なら、メールしても大丈夫だろ。

 

「…よし、送信」

当たり障りの無い内容のメールを送る。送信先は養成所で意気投合した俺と同い歳の友人、浦樹だ。名前が某ガ○ダムの主人公と同じで、しかも声まで似てるときた。ちなみに、人参は好きだそうだ。声を聞いた時、笑いそうになった記憶がある。今思えば失礼な事してしまった。あの頃の俺は今以上にガキだったからな。今後気をつけよう。

 

「…え、通話?」

メールを送った相手、浦樹からの通話だった。どうした?とりあえず、電話に出るか。

 

「もしもし?」

 

『じ、準か!?』

 

おぉう、めっちゃ焦った声出してる。例えるなら、フルバー○アンに乗って、○の屑作戦を阻止しようと必死に戦っているコ○みたいな声だ。

 

「どうした、まるでガ○ーの核弾頭発射を阻止しようとしているような声出して」

 

『ある意味それよりもヤバいかもしれない』

 

それよりヤバいって、コロニー落としを阻止しようとしているのか?

 

『と、とにかく助けてくれ!このままじゃ、やられる!』

 

「…何があった」

浦樹の声は真剣そのものだ。流石にこれ以上ふざけられない。真剣な声で浦樹に問いかける。

 

『瑞鳳達に追われているんだ!』

 

「…は?」

追われている?瑞鳳達に?何で?何かやらかし…いや、浦樹は何かやらかすような奴じゃない。

 

『マジで助けてくれ、このままじゃ本当に…』

 

「た、助けるったって、お前、今何処に居るんだ?」

 

『僕の鎮守府だ。今すぐ助けてくれ!』

 

「いや、助けたいが、距離的に今すぐは無理だ」

確か、浦樹は此処(第603鎮守府)から100km近く離れた、中規模の第08鎮守府に着任している。車で飛ばしても、数時間はかかる。

 

「とにかく、何があったか説明してくれないか?」

もしかしたら、俺のアドバイスで何とかなるかもしれない。

 

『いいか、落ち着いて聞いてくれ』

 

「分かった」

スマホを握る手が汗ばむ。一体、何があったんだ?

 

『今日、僕の所にケッコンカッコカリの書類と指輪が届いたんだ』

 

「…は?」

ケッコンカッコカリって、あの、ケッコンカッコカリ?

 

『それで、それを瑞鳳と荒潮に見られたんだ!そしたら、彼女達、僕を襲ってきて…』

 

あー、はいはいはい。修羅場って奴ですね、分かります。

 

『昼間は秘書艦の祥鳳が助けてくれたんだが、今は瑞鳳に九九艦爆ラリアット喰らわされて、気絶しているんだ』

 

「九九艦爆ラリアット」

瑞鳳って軽空母でしょ?なんでプロレス技習得してるの?ウチも正規空母なのに習得してるのが2人居るけど。

 

『今、自室で篭城しているんだけど、時間の問題なんだ!』

 

「車かバイクに乗って逃げろ」

 

『無理だ!荒潮が笑顔でタイヤを素手で全部ぶっこ抜いた!』

 

「タイヤを素手でぶっこ抜く」

艦娘ってバイオレンスな事するんだね。提督ビックリだ。

 

『くそっ、こんな事なら提督になるんじゃなかった!』

 

「とにかく落ち着け。話し合いをすれば…」

 

『無理だ!瑞鳳も荒潮も、聞く耳持ってくれない!』

 

「そ、そうなのか?」

 

『特に瑞鳳!アイツはヤバい…』

 

「どうしてヤバいんだ?」

第08鎮守府に行った時に会ったが、とってもいい娘だったぞ?浦樹を見る目が結構怖かったが。

 

『瑞鳳は、僕の幼馴染なんだ!』

 

「へぇ…」

幼馴染の異性が居る提督、多くね?俺でしょ、小嶋提督でしょ?そして浦樹。他にも、養成所に何人か居たな。まぁ、今の日本、男女比が4:6だから、仕方ない…のか?

 

『日に日に目付きが怪しくなって、僕が17の時、瑞鳳に襲われそうになったんだ!性的な意味で!』

 

あるぇ〜、どっかで聞いたことがあるぞぉ〜?

 

『お互い成人するまで待ってくれって言っても聞いてくれない。怖くなった僕は、高校を卒業後、逃げる為に提督の適性検査をこっそり受け、適性があると判明したから提督になったんだ!それなのに…それなのに!』

 

うん、何も言わない。何も言わないよ、俺。

…あ、ドアを叩く音がスマホから聞こえる。

 

『ヒィッ!?じ、準!本当に、マジで頼む、助けてくれ!僕は、僕はまだ、死にたくない!』

 

「いや、死にはしないだろ」

精神的な意味で死ぬだけだ。安心しろ。受け入れちまえ。

 

『死ぬよ!瑞鳳と荒潮の奴、180mmキャノン持ってるんだぞ!?』

 

「耀き撃ちされる前に走って逃げろ!というか、他の艦娘に助け求めろ!」

鎮守府の名前が第08鎮守府だからか?遊び心ありすぎだろ。誰が作ったんだ?

 

『無理だ!さっき自室に逃げ込む時に、瑞鳳に膝を卵焼きで強打されて、上手く走れない!それに、他の艦娘は瑞鳳達の味方をしている!』

 

卵焼きをなんて事に使うの、瑞鳳。食べ物を粗末に扱うんじゃありません!というか、どうやれば卵焼きで膝にダメージ与えられるんだよ!?どんだけ硬い卵焼きなんだよ!?それに膝を狙うって、機動力を奪って確実に仕留める気満々じゃないですか、怖い。

 

『てーとくぅ…ここを、開けて?』

『あらあら、酷いじゃない、提督…』

 

『うわあああああああ!!!』

 

スマホから瑞鳳と荒潮の声、そして浦樹の悲鳴が聞こえた。ダメみたいですね。仕方ない、とっておきのアドバイスをしてやるか。

 

「おい、浦樹」

 

『な、なんだ、準』

 

「俺の言う通りにしろ。…ウ○キ中尉、吶喊します!って言って瑞鳳達に吶喊(意味深)しちまえ」

 

『できるか!』

 

「お前のデン○ロビウムの砲身を、瑞鳳達の格納庫とかに吶喊(意味深)するんだ!覚悟を決めろ!」

下ネタ言ってごめんなさい。でも、言わなきゃいけない気がしたんだ。

 

『ふざけるな!ふざけるな!バカヤロー!お前の所に満潮と海風と葛城を送ったんだぞ!?その恩を返してくれ!』

 

「いや、確かに有難いと思っているし、この恩を返したいと思っているよ?けど、瑞鳳達の恋路を邪魔したくないし…」

あ、木製のドアが壊れる音が聞こえた。

 

『ほ、砲身で木製のドアを壊そうとしてる!ああっ!?』

 

「どうした?」

砲撃されなかっただけ、良かったんじゃない?

 

『Here is ZUIHOU♪』

『Here is ARASHIO♪』

『ぎゃああああああああああ!顔!瑞鳳と荒潮の顔が!僕の立て篭る部屋のドアを砲身で壊して!その隙間から顔覗かせてるうううう!!!』

 

「実況する余裕はあるのね」

というか、壊したドアから顔覗かせて「瑞鳳(荒潮)だよ♪」って、どこのジャッ○・トランスだよ。シャ○ニングの再現ですか?斧じゃなくて180mmキャノンの砲身で壊したから、完全再現じゃないけど。

 

『ぁ…ぁぁぁ…もうダメだ…おしまいだぁ…』

 

浦樹の呆然とした声が聞こえた。相手はブ○リーじゃない、艦娘だ。勝てるよ。多分。

 

「覚悟決めて、吶喊(意味深)しろ」

 

『準、貴様ァ!覚えてろよ!!!』

 

「御祝儀は10万位、用意しとくよ」

友人の為なら安い安い。

 

『あらあら、楽しそうにお話していたのね。じゃあ、今度は私達とお話しましょう?』

『嫌だ!嫌だ!うわあああああああああ!!!』

 

浦樹は3号機のビー○ライフルを乱射した時のような悲鳴をあげた。頑張れよ、浦樹。

 

『…もしもし?』

 

お、瑞鳳の声だ。浦樹のスマホを拾って話しかけてきた。

 

「もしもし?」

 

『あぁ、その声、渡良瀬さんですか。お久しぶりです』

 

「どうも、お久しぶりです」

相変わらず、甘ったるい可愛らしい声だな。

 

『騒がしくてごめんね?』

 

「いや、大丈夫。気にしないで」

本当に気にしていないよ?

 

『本当?ありがとう。…あぁ、そうそう、今のやり取りだけど』

 

「誰にも言わないから安心してくれ。お幸せに」

人の恋路を邪魔する気は無いよ。

 

『ホント?良かったぁ。もしバラすなんて言ったらコンクリ詰めにして太平洋に沈める所だったよ

 

瑞鳳さん、聞こえてる。聞こえてますよ?

 

『それじゃ、また機会があったら会いましょう?』

 

「式場と日時が決まったら教えてくれ」

 

『うん!それじゃあね』

 

通話を切る。

…浦樹、頑張れ。

 

「…ケッコンカッコカリ、か」

ウチは小規模だから、届かないかもしれない。もっと勉強しておけば良かった。そうすれば、俺は中規模以上の鎮守府に配属されていたかもしれない。

養成所では、ペーパーテストや艦隊指揮能力、体力測定の成績で配属できる鎮守府の規模が変わる。自分で言うのもなんだが、俺は中の上の成績を出した。浦樹も俺と同じ位の成績だった。何で成績が分かったのかって?壁に張り出されるんだよ、成績が!

話を戻そう。しかし、俺は何故か艦娘候補生達に好かれ過ぎて、それを見たお偉いさん達に「艦娘を誑かすクズ」と認識され、小規模な此処に配属させられてしまった。別に、今は気にしちゃいないが。もし、上位の成績を出していれば…

 

「…寝るか」

嫌な事思い出しそうになったから、少し早いが寝る事にした。たまには夜更かししないで寝よう。電気を消し、布団に横になった。

 

 

side 提督 out

 

───────

────

 

 

side 翔鶴

 

「ケッコンカッコカリ、か…」

法的効力のある、婚姻届。艦娘達の間ではそう認識されている。

 

「早く、ウェディングドレス、着たいなぁ…」

彼と腕を組んで、真っ赤なバージンロードを歩きたい。

ドレスは何色にしようかしら?私の髪、色が白いから、薄いピンク色にしようかしら?

 

「…まだまだ先の事になりそうだけど」

諦めない。絶対に。

 

「…あはっ♪」

想像するだけで悦びで身体が震える。

早く、実現させたいなぁ。

 

「…その為にも、あいつをしっかり警戒しなくちゃ」

時雨の計画なんて、叩き潰してやる。私は、10年以上前から彼の事を想っているんだ。邪魔なんてさせない。

 

「…あ、コレ、いいわね」

例のスマホゲームの翔鶴の台詞。これ、真似てみよう。

 

「少しずつ、キャラを作っていきましょう」

違和感が無いよう、少しずつ、少しずつ、変わっていこう。彼はどんな反応をしてくれるのかしら?楽しみね。

 

「お姉ちゃん特権です♪なんてね」

 

 

side 翔鶴 out

 

───────

────

 

 

side 提督

 

 

─提督私室─

 

 

朝。

 

 

「だから、悪かったって」

 

『絶対に許さん。絶対に、だ』

 

浦樹との通話から一夜が明けた。起床し、提督服を着ていると、浦樹から通話が来た。どうやら、お楽しみにはならなかったそうだ。代わりに、2人とジュウコンカッコカリする事を決められたらしい。

 

『…准将までの道程が遠すぎる』

 

「コツコツやって行くしか無いな」

浦樹は数ヶ月前、中佐になったばかりだ。俺より階級が上だから、敬語を使うべきだって?浦樹曰く、プライベートの時(スマホでのやり取り)は今まで通りタメ口、暴言上等との事。だから。こうしてタメ口で会話している。

 

『…おっと、そろそろ執務室に行かないと』

 

「だな。また、一緒に遊びに行こうぜ?」

 

『ああ、いいよ。それじゃ、またな』

 

通話を切る。さぁて、お仕事しますか。

 

 

…………。

 

 

「…流星改が不足している、か」

 

「設計図や資材はあるけど、妖精さんが手こずってるみたいよ?」

 

「こればかりは時間をかけるしかない」

本日の秘書艦、葛城と艦載機について話し合っていた。

爆撃機は豊富だけど、雷撃機が少ないんだよなぁ。

 

「…ん?これは?」

書類を捌いていると、見慣れた封筒が視界に入った。

 

「あぁ、それ?今朝、大本営から届いたわ」

 

「そうか」

ペーパーナイフで封を開け、書類を確認する。おお!あいつらが来るのか!

 

「嬉しそうな顔しちゃって。まるで新しいおもちゃを買ってもらった子どもみたいよ、あなた」

 

「実際、嬉しいからな」

おもちゃではないが、新しい艦娘が来る。しかも、

 

「キャプテンと鈴谷が来る」

 

「えっ、嘘?本当!?」

 

俺の言葉に、葛城は驚き、そのあと喜んだ。

キャプテンとは、養成所で一緒に過ごした球磨型軽巡洋艦五番艦、木曾の事だ。何でキャプテンと呼んでいるかって?木曾は常にポジティブで、演習の時、どんなに劣勢でも味方を励まし奮い立たせ、何度も逆転勝利へと導いた。それから、畏怖と尊敬の念を込めてキャプテンと呼ばれるようになった。本人も満更でもないのか、その渾名を気に入っている。

 

「それに、鈴谷。あいつが来てくれるのは有難い」

鈴谷も木曾のように常にポジティブな性格の娘だ。今時の女子高生みたいなノリで、ムードメーカーだ。

俺が落ち込んでいる時、励ましてくれた。矢矧の励まし方を厳しい言葉で喝を入れる激励とするなら、鈴谷のは悩んでいる事が馬鹿らしくなるような、上手く言葉に出来ないが、とにかく元気を与える励まし方をしてくれる。

 

「ある意味、癒し枠だ」

初霜とは別のベクトルだが、俺を癒してくれる。本当に有難い。

 

「まぁた女の子が増えるのね」

 

「拗ねない」

頬膨らませながら言わないの。

 

「私に胸があれば、あなたを落とせたかもしれないのに…」

 

あの、葛城?俺は見た目で選ばないよ?だからそんな事言わない。

 

「何度でも言うが、俺は見た目で選ばないぞ?」

男だから胸とか見て思わず反応してしまう時もあるけど。

 

「…そうだったわね」

 

あら、嬉しそうな顔してる。

 

「さて、仕事するぞ」

 

「えぇ!」

 

 

 

──────────────

 

 

数日後。

 

 

「そろそろだな」

木曾と鈴谷が異動して来る事を知ってから数日が過ぎた。色々あったが、大きなトラブルは発生していない。

ゾンビがディー○ストライカーを破壊しようとして、それを見た満潮が頭突きしてゾンビを撃退したり。

サキュバスが俺のズボンを脱がせようとして、山城が由良仕込みの瑞雲ラリアットかまして撃退したり。

葛城が瑞鶴を挑発して彗星ラリアットぶちかまされて、泣きながら俺に抱きついてきて、それを見た翔鶴にス○ナーKの電撃で俺ごとシバかれたり。

色々あったが、平和だ。

 

 

<手に入らないのなら、壊すまでです!

<提督は、この初霜が護ります!

 

 

…俺の膝を鉄血ペンチで破壊しようとする涼月を、初霜が猛獣用麻酔ビー○マグナムで蜂の巣にしているけど、平和だ。

 

「平和だな」

 

「へ、平和なのでしょうか?」

 

「平和です」

窓からゾンビ退治をする初霜を見て、海風が怯えた声でそう言う。誰が何と言おうが、平和だ。平和なんです。

 

 

<キェァァァェェェェァァァァァァァァァァ!!!

<墜ちてください、ゾンビ!

 

 

涼月が、何処から出してるのか分からん声で叫んだのは、気のせいです。

初霜がついに、涼月さん、ではなくゾンビと呼ぶようになったのは、気のせいです。

 

 

<ふっ…ふふふっ…涼月を怒らせたわね…

<この…分からず屋ァ!!!

 

 

涼月のキャラが崩壊したのは気のせいです。

初霜がバ○ージくんみたいになっているのも、気のせいです。

 

「あの、提督…」

 

「気のせいです」

 

「…気のせい、ですね」

 

海風が認めてくれた。よし。今日も平和だ。第603鎮守府は今日も平和です。海風、なんでそんなゲンナリとした顔してるの?平和なんだから、笑顔になろうよ。あはははは。

 

「…あ、来たみたいです」

 

「だな」

執務室の扉がノックされた。

 

『早霜です。本日着任された方達を、お連れしました』

 

「入れ」

俺が入室を促すと、早霜が扉を開けて入室。それに続き、女性が2人、入ってきた。

 

「ようこそ、第603鎮守府へ。俺はここの提督、渡良瀬だ。…久しぶりだな」

2人の顔を見る。元気そうだ。…ん?あれ?木曾の格好が養成所の時と違うぞ?書類には第一次改装までしか施されていない、って書いてあったんだが。書類の表記ミスか?後で確認しよう。鈴谷は…うん。第一次改装までの様だ。養成所の時と同じ服装だ。

 

「最上型重巡洋艦三番艦、鈴谷だよ。久しぶり!」

 

「久しぶりだな」

笑顔で鈴谷がそう言った。もっと話したいが、もう1人いる為、それ以上会話はしなかった。

 

「さて、次は俺の番だな」

 

うわぁい!イケボ!女性に対してイケボって失礼だけど、イケボ!

 

「球磨型軽巡洋艦五番艦木曾改め、重雷装巡洋艦、木曾だ!」

 

…はい?じゅう…らいそう…じゅんようかん?重雷装?え、嘘?それって…

 

「今の俺は、軽巡の頃と違って、魚雷の搭載数が桁違いだ」

 

重雷装巡洋艦か。養成所で教わったな。驚異的魚雷搭載数を誇り、戦艦だろうが軽々と沈める力を秘めている、って。改装するには莫大な資材と特殊な艤装パーツと設計図が必要って言われているのに。

 

「魚雷の押し売りに来たぜ、相棒!」

 

「あ、あぁ…」

気になる事は多いが、一先ず彼女達を歓迎しよう。

 

「なんだぁ、そんな気の抜けた返事して。具合でも悪いのか?」

 

木曾に心配かけてしまった。

 

「いや、大丈夫だ。木曾が軽巡から重雷装巡洋艦になっていて、驚いたんだ」

正直に理由を話す。

 

「あぁ、その事か。なぁに、向こうの提督の指示で、第二次改装を受けたんだ」

 

「マジかよ…」

向こうの提督。確か、江ノ島鎮守府って…

 

「最近、ここ、第603鎮守府の規模を拡大する、って知ったおやっさん…藤原大将が俺を改装してから送り出してくれたんだ」

 

「そう、なのか…」

藤原剛大将。今年で55歳になるベテラン提督。唯一、養成所で俺の事を気にかけてくれた提督だ。とても厳しい人だが、決して理不尽な怒り方をしない、男気溢れた方だ。艦隊指揮について何度も教えてくれた。本当にあの人には頭が上がらない。でも、何でここまでしてくれるんだ?電話して聞いてみよう。

 

「と、とりあえず、荷物を部屋に置いてきてくれ。その後は自由にしてくれて構わない。早霜、彼女達を案内してやってくれ」

 

「了解しました」

 

早霜は敬礼をすると、木曾と鈴谷を連れて執務室から退室した。

 

「木曾さんも鈴谷さんも、お変わりなくて安心しました」

 

「だな」

ゾンビみたいに覚醒してなくてよかった。もし覚醒していたら、冗談抜きで泣き叫んでた。というか、あの2人は覚醒なんてしない。信じている。

 

「…さて、仕事を終わらせるか」

 

「はい!」

 

それから、俺と海風は仕事を続けた。

 

(…あと少しで仕事は終わる。そしたら、海風を退室させて藤原大将に電話してみよう)

 

 

side 提督 out

 

───────

────





次回予告


ははっ!こう言っちゃ不謹慎だが、ここは田舎だなぁ。けど、悪くない。鈴谷は遊ぶ所が無くて不満そうだがな。…ん?あれは…涼月?何やってるんだ?…おい、相棒に何してやがる!?…はぁ?なんだそりゃ。とりあえず、相棒にいらん負担をかけるなら、ここでお仕置きだ。かかってきな、遊んでやる!


第27話・キャプテン


「この一撃は痛いぞ…死ぬ程なッッッ!!!」
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