追跡鶴   作:EMS-10

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※警告※
暴力的、及びグロテスクな表現があるっぽい。
ご覧の際は、ご注意くださいっぽい!



第38話・お前が正気に戻るまで、殴るのをやめない

 

side 提督

 

 

─第8492離島鎮守府、談話室─

 

夕方。

 

 

「…………」

 

「…大丈夫ですか?」

目の前で真っ白になっている小嶋提督へ声をかける。

霞に案内され、工廠を見学していると、小嶋提督が逃げ込んできた。そして、その後ろから例の5人が追っかけてきた。

 

『明石くん!助けてくれたら、研究費3倍に増やします!!!』

 

『お任せ下さい!!!』

 

そして、明石に研究費を増やすと言い、助けを求めた。明石は二つ返事で了承し、何処からかN○XTを召喚、妖精さん達がそれに乗り込み、あっさり制圧してしまった。

5人を拘束し、特製の檻に閉じ込めた後、俺は小嶋提督に誘われ、談話室に来た。

 

「…駆逐艦娘愛でたいです」

 

「白目剥いたまま言わないでください」

大丈夫そうですね。

 

「…山風くんを愛でたい」

 

「呼んだ?」

 

緑色の髪の艦娘─海風と似た制服を着ている─が小嶋提督の呟きに反応し、やって来た。

 

「山風くん…」

 

「提督、お疲れ様」

 

「あぁ〜…」

 

いい歳した大人が、幼女に頭撫でられてアへ顔してる。犯罪臭がします。

 

「…あなたは?」

 

山風と呼ばれた艦娘が、警戒するような目で俺を見ながら聞いてきた。

 

「俺は第603鎮守府の渡良瀬だ」

警戒させないよう、微笑みながら自己紹介した。

 

「…そう。あたし、白露型駆逐艦の山風」

 

山風は警戒したまま自己紹介してくれた。どうやら相当警戒心が強い娘みたいだ。あまり強引に接すると嫌われそうだから、必要以上に話しかけない方が良さそうだな。

 

「山風くん。彼、渡良瀬提督は信頼出来る人です。だから、警戒しなくても大丈夫ですよ」

 

「…提督がそう言うなら」

 

(相当懐かれているな)

小嶋提督と山風の様子を見ながらそう思った。ここまでの信頼関係を築くのに、どれ程の時間がかかったのだろう。気になったが、詮索しないでおこう。

 

「提督、困った事があったら、あたしに言って?すぐに助けるよ?」

 

「ありがとう、山風くん。その気持ちだけで充分ですよ」

 

「……そう」

 

(ハイライト、山風のハイライト消えてますよ、小嶋提督!)

何で気付いていないの?

 

「提督の為なら、あたし、何でもするよ?」

 

あ、ハイライト戻った。

 

「はっはっは!嬉しい事を言ってくれますね。本当にありがとう、山風くん」

 

「んっ♪」

 

山風、頭撫でられて嬉しそうに目を細めてる。

 

「あぁ…癒される…駆逐艦娘はいい…」

 

「うっとりした顔でなんて事言ってんですか」

憲兵さん案件ですよ?そう思った時だった。山風が俺の目をジッと見てきた。その目は、

 

(だから、何でハイライト消えてるの)

怖いよ。まさかとは思うけど、君まで病んでる、なんてオチじゃないよね?山風じゃなくて病ま風ですか?

 

「いいじゃないですか。普段苦労しているんです。駆逐艦娘を愛でて癒されてもいいじゃないですか!」

 

「あー…そう、ですね」

毎日あんな目に遭っているなら、仕方ないかな。

 

「提督、他の駆逐艦娘じゃなくて、あたしだけを愛でて?」

 

「ん〜…それもいいんですが、やはり、駆逐艦娘全員を愛でたいから、少し難しいですねぇ。はっはっは!」

 

「…………」

 

小嶋提督、山風の目を見て!ヤバいですよ!あと顔も!能面みたいな顔してハイライト消えてますよ!何で気付かないの!?

それから、小嶋提督と山風のイチャイチャ(?)を見せつけられた。終始、山風の目からハイライトが消えていた、とだけ言っておく。小嶋提督、そのうち、山風に襲われるんじゃね?

 

 

side 提督 out

 

 

 

───────

────

 

 

side 時雨

 

 

「ガハッ…!?」

そ、そんな…。

 

「もう、やめよう?」

 

夕立が見下ろしながらそう言った。

僕は腹部を殴られ、膝をついてしまった。

何で…何で、勝てない?

あれから、夕立と素手で殴り合った。最初は勝てると思っていた。でも、すぐにそれは間違いだと思い知らされた。

 

(あんなに、速いなんて!)

僕が殴る前に、夕立に殴られる。

隙を突いて攻撃しても、あっさり避けられるか、カウンターを喰らう。

どうして…。

 

「ま、まだ…」

 

「……」

 

「まだ、諦めない!」

夕立に一方的にボコボコにされて、既にフラフラだ。それでも、僕は諦めない。やっと、やっと見つけたんだ。僕の…

 

(理想の、男性を!)

諦めてたまるか!

歯を食いしばって立つ。視界はボヤけて良く見えない。

 

「…そう」

 

「ッ!?」

ゾッとする程冷たい声が聞こえた。次の瞬間、僕の腹部に強烈な衝撃が走った。それと同時に、乾いた音が鳴った。

 

「ごぼっ!?」

気が付くと、僕の身体は宙を舞っていた。

そして、背中に衝撃。地面に落下したみたいだ。

 

「…紗奈(時雨)の気持ちは分かるけど、渡良瀬さんに迷惑かけたらダメだよ」

 

「……」

声が、出せない。指も動かない。そん、な。

 

「ねぇ、どうして独り占めしたいの?」

 

どうしてって。それは、

 

(僕だけを見てもらいたいからだよ)

 

「独り占めしたら、渡良瀬さんに好意を寄せる人達に迷惑かけちゃうよ?」

 

(知っている)

それでも、独り占めしたいんだ。

 

「それに、無理矢理渡良瀬さんを手に入れても、虚しくなるだけだよ?」

 

(知っているよ)

 

「…ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんはいつも私に言ってたよね?他人に迷惑をかけちゃダメだよ、って」

 

「…………」

そうだ。僕達が艦娘になる前、よく夕奈(夕立)に言った。

 

「…お姉ちゃん、考え直そう?今なら、まだ間に合う。戻れるから」

 

「…………」

分かっている。間違った事をしようとしていたのは。

 

「奪われる辛さと悲しさを、お姉ちゃんは知っているでしょ?」

 

「……」

よく分かる。奪われる事の辛さと悲しさが。

 

「自分がされたら嫌な事を、なんでしようとするの?」

 

「…」

視界が暗くなってきた。瞼も重いや。

 

「私が知っているお姉ちゃんは、とっても優しくて、他人を思いやれる人だよ?」

 

「…」

 

「お姉ちゃん、少し、頭を冷やしてよく考えよう?」

 

「」

 

「…お姉ちゃん?」

 

 

………………。

…………。

…。

 

 

 

「……ぁ…」

ここ…は?入渠槽?湯気が立ち込めている。

 

「あ、気付いたっぽい?」

 

「ゅぅ…ッ!」

夕奈の声が聞こえた。

声を出そうとしたら、激痛が走った。そうだ、僕は夕奈と殴り合って、それで…

 

「暫く大人しくするっぽい。肋が4本、折れてるから大人しくして」

 

「……」

どうりで痛むわけだ。

 

「ちょっと、やり過ぎたっぽい」

 

夕奈の犬耳みたいに跳ねた髪が、垂れた。僕の髪もそうだけど、どういった原理で動いているんだろう?

 

「あと十数分で完治するから、我慢して?」

 

「……」

普通なら数ヶ月かかるのに、艦娘になった事で大怪我を負っても直ぐに治る。でも、痛覚は感じるから、気が狂いそうになる。

 

「久々の姉妹喧嘩は、私の初白星っぽい」

 

「……」

まさか、負けるとは思わなかった。改二になったから強くなったと思ったけど、そんな事はなかった。やっぱり、鍛錬しなくちゃダメだね。

 

「色々言いたい事があると思うけど、それは完治してからにしましょ?」

 

「……」

無言で頷く。と同時に激痛が走った。動かない方がいいみたい。

それから、夕奈が一方的に話しかけて、僕は無言でそれを聞いていた。

 

 

………………。

 

 

「…よし、大丈夫みたいだ」

十数分後、試しに身体を動かしたら違和感や痛みが無くなった。

 

「それじゃ、出よう?」

 

夕奈はそう言って勢いよく入渠槽から出て行った。

 

(大きいなぁ)

僕より歳下なのに、胸とお尻が大きい。羨ましい。

 

(なんで、大きくないんだろう…)

思わず自分の胸を触る。決して小さいわけじゃない。しかし、夕奈と比べると小ぶりだ。

 

「…はぁ」

自信無くなるなぁ。

 

「紗奈〜、早く上がるっぽい!のぼせちゃうよ〜?」

 

「今行くよ」

夕奈に急かされてしまった。ゆっくりと入渠槽から出て脱衣所へ向かい、身体を拭いて服を纏った。

 

 

………………。

 

 

「…で、何があったか説明してくれる?」

 

「……」

僕と夕立は、執務室に来ている。理由は簡単だ。僕と夕立が殴り合いをした所を海風に見られ、瑞鶴さんに報告され知られてしまったからだ。

 

(何て説明すればいいんだろう?)

提督に会いに行こうとしたら、夕立に止められ殴り合いに発展した、なんて話せない。話したら、怒られてしまう。それだけじゃない。警戒され提督と接する事が出来なくなる恐れがある。

 

(嫌だ。そんなの、嫌だ!)

身体が震える。どう説明すればいい?

 

「力試しをしてたっぽい」

 

「…えっ?」

僕が瑞鶴さんに何て言おうか考えていると、夕立がそう言った。

 

「力試し?」

 

瑞鶴さんが聞き返してきた。

 

「うん。どっちが強いか決める為、殴り合ったっぽい!」

 

「あんたねぇ…」

 

瑞鶴さんが呆れている。

 

「最初はお互い加減していたけど、ヒートアップしてガチの殴り合いになって、時雨の肋折っちゃった♪」

 

夕立、嬉しそうな顔をしながら言わないで。

 

「全く。夕立、あんたはもう少し冷静になりなさい」

 

「ごめんなさいっぽい…」

 

今度は申し訳なさそうな顔をしている。もしかして、僕を庇ってくれているの?

 

「…もう。こんな事、二度としないで?いいわね?」

 

「ぽい〜…」

 

「……ごめんなさい」

一応、申し訳なさそうに謝罪をしておこう。

 

「反省しているのなら、これ以上言わないわ」

 

「…えっ?」

もっと叱られると思っていたら、瑞鶴さんがそう言った。何で?疑問に思っていると、瑞鶴さんは苦笑いを浮かべながら言った。

 

「準…提督さんから教わったの。相手がちゃんと反省しているのなら、それ以上追求しない、って。だから、これ以上言わないわ。ちゃんと反省しているみたいだし」

 

「……」

そう、なんだ。提督らしい考えだね。

 

「さて、あんた達は部屋に戻りなさい。私はやらなくちゃいけない事が沢山あるから」

 

そう言って瑞鶴さんに退室を促された。

 

 

…………。

 

 

「…」

 

「…貸し、だからね?」

 

「…うん」

執務室を出て部屋に向かっていると、夕立がそう言った。夕立が庇ってくれたお陰で、大事にはならなかった。感謝しよう。

 

(独占したいなぁ)

正直言って、我慢出来そうにない。彼を独り占めしたい欲がある。でも、また行動を起こそうとすれば、夕立に止められる恐れがある。

さっき殴り合って、ハッキリ分かった。今の僕じゃ、夕立に勝てない。

 

(鍛えなくちゃ)

毎日鍛錬をしているけど、それだけじゃ夕立に勝てない。

 

「また変なこと考えてるっぽい?」

 

「ッ!?」

いつの間にか夕立の顔が目の前にあった。その目は黒く濁っていた。

 

「また、渡良瀬さんに迷惑かけようとしてるっぽい?」

 

犬歯を剥き出しにしながら夕立は笑っている。

本能的恐怖を感じ、思わず後退りしてしまった。何だ、この殺気は!?

 

「お姉ちゃんが悪いことするなら、何度でも止めるよ?」

 

…嗚呼、駄目だ。ハッキリ分かった。分からされた。

実力行使は無理だ。

 

(諦めたくないのに…)

 

「…どうして独占したいの?皆と仲良く共有しようと思わないの?」

 

「どうして、って…僕以外の娘に優しくする所を見たくないんだ」

 

「なら、見なければいいじゃない」

 

「…確かに。でも、僕以外の娘を愛でる事には変わりない」

 

「なら、その分沢山甘えたり、愛でて貰えばいいじゃない」

 

「…」

 

「紗奈は少し、難しく考え過ぎよ」

 

「…」

夕奈が口癖(ぽい)を言わない。つまり、真面目モードだ。

 

「独占するんじゃなくて、誰よりも渡良瀬さんに甘えて、愛でられまくればいいじゃない」

 

「…」

そんな事、出来るの?

 

「紗奈は心の何処かでブレーキをかけちゃってる。だから、甘え方が下手くそなのよ」

 

「うぅ…」

仰る通り。僕なんかが甘えていいのか、と考えて思い切り提督に甘えられない。

 

「改二になって、犬っぽい見た目になった。だから、犬みたいに擦り寄って甘えればいいのよ」

 

「犬っぽい…」

確かに。改二になって、髪の毛が犬耳みたいに跳ねた。頭を洗っても、すぐに跳ねる。それに、どういう原理か分からないけど、僕の感情に反応してピコピコ動いたり、垂れたりする。

 

ブレーキ(理性)を壊して、(欲望)を解き放てばいいのよ」

 

「…いい、のかな?」

 

「いいのよ」

 

「…そう」

なら、解き放とう。彼──提督──に嫌われない程度にブレーキを壊して心を解き放とう。

 

「とりあえず、今は大人しくお留守番しましょう?番犬の如く、此処(第603鎮守府)を護って、提督さんに褒めてもらうっぽい!」

 

「…そう、だね」

今までもそうだった。僕が頑張れば、提督は褒めてくれた。

 

(それに、癒しキャラを求めている)

癒しキャラだった涼月が覚醒してから、彼は心労が重なって胃潰瘍になった。なら、その心労を癒せるよう、振舞ってみよう。

 

「瑞鶴さんと翔鶴さん以上に、僕を求める様にすればいい」

 

「何か言った?」

 

「ううん、独り言」

決めた。僕は、癒しキャラになる。そして、振り向かせてみせる。

 

(…扶桑は、どうしよう?)

…………。

何も思い付かない。

 

(後で考えよう)

…そういえば、何で僕は扶桑を呼び捨てにしてい(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)るんだろう?

少し前までは、さん付けで呼んでいたのに。

 

(…分からない)

どうしてだろう?

 

「ねぇ、時雨。提督さんの写真集見せて?まだ他にもあるんでしょう?」

 

「…うん、いいよ」

何故呼び捨てになったんだろう…ちょっと待って、

 

「夕立、今なんて言った?」

考え事をしながらだったけど、聞こえた。

 

提督の写真集を見せて、と。

 

「ん?だから、提督さんの写真集を見せて、って言ったの」

 

「…なんの事かな?」

お、落ち着くんだ。夕立の冗談だ。きっとそうだ。

 

「下着を入れるタンス、二重底」

 

「」

おおおおおっおっおちちつくんだ、僕。きっと、カマをかけているだけだ。冷や汗なんて出ていない。

 

「黒い箱、ダイヤルは紗奈の誕生日、写真集の表紙に『提督日誌』」

 

「」

あ、ダメだ。バレてる。

 

「…提督さんが知ったら、どんな反応するかしら?」

 

「」

 

「貸し二つね」

 

「…はい」

ううっ…バレた。二番目にバレて欲しくない相手にバレた。一番は勿論、提督だ。

それから、夕立にからかわれながら部屋に向かった。

…隠し場所、変えよう。

 

「紗奈は単純だから、何処に隠そうが、すぐに見つけてやるっぽい♪」

 

「やめてくださいお願いします」

何で僕の考えている事が分かったのだろう?

隠すのが無理なら、金庫買おうかな。

 

「金庫買っても無駄っぽい。ぶっ壊してこじ開けるっぽい」

 

「」

この妹、もうやだ…。

 

 

side 時雨 out

 

 

───────

────

 

 

side 提督

 

 

─第8492離島鎮守府、提督私室─

 

 

夜。

 

 

 

「ここはよく、空母棲姫と装甲空母鬼が出現します」

 

夕食をご馳走になり、入浴を済ませた後、小嶋提督に呼ばれ彼の私室に来ていた。

そして、海図を広げ、鬼・姫級の出現する海域と種類について教えてもらっている。

 

「対空性能を高め、空母には艦攻・艦爆より、戦闘機を多めに積んで戦わせるといいでしょう」

 

「成程」

メモを取りたいが、機密情報に含まれる為、頭にしっかり叩き込む。

 

「さて、他に聞きたい事はございますか?」

 

「いいえ、ありません」

 

「分かりました。渡良瀬提督の所の艦娘達なら、充分殲滅が可能です。それでも、油断してはいけませんよ?」

 

「はい!」

色々アドバイスを貰えた。向こうに帰ったら、編成や武装について、もう一度よく考えよう。

 

「…さて、まだ時間に余裕があります。もし、渡良瀬提督が良ければ、雑談でもしませんか?」

 

「喜んで」

断る理由が無い。というか、ただでさえ迷惑かけてるのに、断る勇気は俺には無い。

 

「…おっと、誘っておいてアレですが、テレビを付けますね」

 

「え、あっ、はい」

壁に掛けられた時計を見ると、小嶋提督はそう言った。見たいテレビでもあるのかな?

リモコンを取り、電源ボタンを押してチャンネルを回した。

テレビの画面には、今流行りのアイドル達が映っている。

 

「始まった所ですね」

 

嬉しそうな顔してる。小嶋提督、アイドルに興味あるのかな?意外だ。

 

「那珂ちゃんがテレビに出るんですよ」

 

「マジですか」

俺の顔を見て考えている事を察し、そう言った。俺も、相手の顔見て考えている事が分かるようになりたいな。夕張にでも頼んで、相手が考えている事が分かる機械でも作ってもらおうかな?

 

 

<みんな〜!艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ〜!

 

 

「お、那珂ちゃんだ」

横須賀鎮守府所属、日本海軍公認のアイドル艦娘、那珂ちゃんが笑顔で観客に手を振っている姿が映った。

那珂ちゃん本人曰く、 「ちゃん付けで呼んでくれないと、拗ねちゃうゾ☆」と、トップアイドルになってインタビューされた時に言ったらしく、それ以降、皆ちゃん付けで呼ぶようになった。噂だと、大本営のお偉いさん方も、ちゃん付けで呼んでいるらしい。

 

「歌って踊って戦うアイドル。それも、トップクラスの実力を持っている。とても遠い存在になってしまいました…」

 

「小嶋提督…」

どこか寂しそうな目をしている。

そうそう、今テレビに映っている那珂ちゃんは、川内と神通の実妹だ。小嶋提督とも面識がある。昔から歌や踊りが好きだったらしく、まさかトップアイドルになるとは思わなかったと、以前、小嶋提督が言ってたっけ。

 

 

<それじゃ、行っくよ〜!恋の2-○-11♪

 

 

那珂ちゃんがそう言うと、アップテンポな曲が流れ出した。新曲だ。

 

「彼女の歌声は、いつ聴いても元気が出ます」

 

「俺もそう思います」

それから、黙って那珂ちゃんの歌を聴いた。

 

 

<みんな〜、あっりがとぉ〜☆

 

 

「…那珂ちゃん、いいですね」

 

「…那珂ちゃん、いい」

多くは語らない。CD買おう。

 

 

<今日の歌はぁ〜、那珂ちゃんが大好きな人に想いを伝える為に作った歌で〜す☆

 

 

「…えっ?」

余韻に浸っていると、那珂ちゃんがそう言った。会場は騒然としている。

 

 

<な、那珂ちゃん、その、大好きな人って…

 

 

グラサンをかけた名物司会者、タ○リさんがめっちゃ焦りながらインタビューしてる。

 

 

<それはぁ〜…もっちろん、那珂ちゃんを応援してくれる、みんなだよぉ〜☆

 

 

「……」

なんだ、ファンの人達に伝える為か。騒がしかった会場から、安堵のため息が聞こえた。そして、那珂ちゃんは舞台裏へ向かって去って行った。

…あれ、小嶋提督、どうしました?顔面蒼白で冷や汗垂らしてますよ?大丈夫ですか?そう思っていると、小嶋提督のスマホが鳴った。どうやらメールのようだ。

スマホを弄る小嶋提督。そして、真っ青だった顔色が土気色になった。

 

「ど、どうしたんですか?」

恐る恐る声をかけた。すると、無言でスマホを差し出してきた。え、見ろって?

えーと、メールだ。なになに…差出人は、長瀬紬。あのー、もしかして…。

 

「……那珂ちゃんからのメールです」

 

うん。予想的中。メールの差出人は、那珂ちゃん─本名、長瀬紬─だった。内容は、要約すると、

 

 

・小嶋提督を想って作詞・作曲した

・今度、二人きりで一緒に出かけよう?

 

 

というものだ。

 

 

「……」

俺、無言でスマホを小嶋提督に返す。小嶋提督、項垂れたまま受け取る。おぉう、目のハイライトが消えてるよ。

 

「…渡良瀬提督、すみませんが、1人にして頂けないでしょうか?」

 

「わ、分かりました」

俺はそっと部屋を出た。本当に、その、なんて言いますか、お疲れ様です。

 

「…寝よう」

どっと疲れた。

 

「…あ」

 

「…ん?」

部屋に向かっていると、山風と遭遇。パジャマ姿で、枕を持っている。

 

「……」

 

一瞬だけ目が合うと、無言で俺の横を走って行ってしまった。あ、あれ?山風が向かった所、小嶋提督の私室…。

 

「…見なかったことにしよう」

俺は何も見ていない。

色々あり過ぎて疲れた。何も考えずに寝よう。来客用の部屋のドアを開け、室内に入った。

電気を消し、布団に横になる。

 

(…明日、どうすっかな)

とりあえず、今は寝よう。考えるのは朝になってからにしよう。瞼を閉じ、俺は意識を手放した。

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 





次回予告


迫れば逃げる。捕まえても逃げる。まるで猫みたいですね、ねっ。
なら、下手に迫るより、向こうからこちらに来るようにすればいい。でも、どうすればいいのかしら?ネットで調べましょう。
…母性?オギャリティ?最近は、女性に甘えたい男性が増えている?
…これだ!
うふふ。本気、出しちゃおう♪


第39話・母性


「バブみを感じてオギャってください♪」
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