諦めていました。
でも、出逢う事が出来ました。
私の、白馬の王子様に。
それなのに。
それなのに、何故…。
─5年数ヶ月前─
「それじゃ、訓練を始めようか」
彼、渡良瀬提督候補生が桟橋で整列した榛名達、戦艦娘達にそう言いました。
(目を見ている)
今まで榛名が組んだ提督候補生は、チラッと胸や足を盗み見てくるのに、この人は違いました。
真っ直ぐ目を見てきました。
(いえ、航行中、見てくるでしょう)
艦娘になった事で強化された視力で確認すると、提督候補生達は双眼鏡でこっそりカラダを見てきます。警戒しておきましょう。
………………。
『今日はここまで。お疲れ様。悪いけど、的の回収を頼む』
「了解しました」
訓練が終わり、渡良瀬提督候補生から無線でそう言われました。
(見てきませんでした)
訓練をしながら、こっそり彼を盗み見ると、真剣な表情で榛名達を見ていました。その視線は、カラダではなく榛名自身─艤装や航行・砲撃時の姿勢─を見ていました。
(いいえ、きっと警戒させない為に、カラダを見なかったのでしょう)
彼と組んだのは今日が初めてです。紳士的に振舞って警戒心を解き、油断した頃に盗み見てくるのでしょう。榛名、油断しませんよ?
………………。
「お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」
あれから数週間が過ぎました。何度か渡良瀬提督候補生と組みましたが、彼は決して胸や足、カラダを見てきませんでした。
(この人は違うのかもしれません)
彼以外の提督候補生は盗み見てくるのに、彼だけは決してカラダをジロジロ見たり、盗み見てきたりしませんでした。
(それに、とても優しい人です)
提督候補生の中には怒鳴ってきたり、罵ってくる人が居るのに、渡良瀬提督候補生は決して怒鳴ったりしません。正確には、必要以上に怒鳴らない、ですが。
(この人は、もしかしたら…)
いいえ、もう少しだけ様子を見ましょう。
………………。
(最悪です)
ある日の事でした。完全休養日─丸一日、座学や実技、艦隊指揮のお勉強が無い、お休みの日─に、扶桑さんと山城さんとお買い物に行こうとした時でした。集合場所である正門へ向かう為に談話室の前を通ろうとしたら、提督候補生達の話し声が聞こえてきました。その内容は、艦娘候補生達についてでした。
誰が可愛いか。
好みの艦娘候補生は誰か。
誰と付き合いたいか。
そして。
(好きでこのようなカラダになったわけじゃないのに…)
胸の大きさや形について。
(やっぱり、男の人は怖いです)
お姉様の言う通り、男の人は狼のようです。
(…はぁ)
気が付けば、
(うぅ…)
涙が溢れてきました。今まで我慢出来ましたが、もう…無理。
(私は、何も知らなかった)
こんなにも、男性が怖い存在だったなんて。だから、お父さんは私を男性と接触させなかったのね。
(怖い。とても、怖い)
椅子に座り、俯いていると、教室の扉が開く音が聞こえました。
「ッ!?」
「ん?あれ?」
「ぁ…」
教室に入ってきたのは、渡良瀬提督候補生でした。
彼は榛名の顔を見ると、驚きました。
「あー…邪魔しちゃったかな?」
「…いえ、大丈夫です」
慌ててハンカチで涙を拭いました。
「そ、そうか」
「…あの、渡良瀬提督候補生は、何故ここに?」
本日は完全休養日。殆どの提督候補生は養成所から街に出かけるか、談話室で過ごしている筈です。
「あぁ、艦隊指揮についての勉強をしようと思って、教室に来たんだ。部屋だと、音楽聴いたりしてサボりそうだから、そうしない為に来たんだ」
「そう、ですか」
よく見ると、教科書やノート、筆記用具を持っています。勤勉な人なんですね。
「…何があったか聞かないけど、もし困った事があれば、相談に乗るよ」
「あっ…」
優しく微笑みながら、榛名の目を見てそう言いました。
(やっぱり、この人は違う)
榛名のカラダではなく、目を真っ直ぐ見てくれた。
「実は──」
気が付けば、先程聞いた事を話していました。榛名の話を聞いている間、彼は真剣な表情で榛名の目を見てくれた。決してカラダを盗み見たりしてこなかった。
(嗚呼…この人は、紳士です)
確信しました。この人は。渡良瀬提督候補生は大丈夫な人だと。チョロい?知ったこっちゃないです。
「藤原准将に、もう一度相談してみよう」
顔を険しそうに歪め、そう言いました。
「今まで気付いてやれなくて、申し訳ない」
頭を下げて謝罪されました。本当に、優しい人です。
…あら、スマホに着信が。彼を見ると、目線で出るよう促されました。ポケットから取り出し、画面を見ると、山城さんからの通話でした。
ボタンを押し、通話に出ました。
『榛名、何処に居るの?』
「あっ…」
そうでした。扶桑さんと山城さんのお二人とお出かけする約束をしていたのでした。
「す、すみません!すぐに行きます!」
『慌てなくて大丈夫よ?』
一言二言、言葉を交わし通話を切りました。
「気を付けて出かけてきて」
「は、はい!」
通話を終えると、彼がそう言って微笑んでくれました。
(嬉しいです)
カラダではなく榛名の目を見てくれている。
この人は、本当に…。
(とてもいい人です)
「…あっ」
頭を撫でられました。
「さっきも言ったけど、困った事があれば、相談してれ。力になるから」
「…はい♪」
暖かい。
「…いけね、癖で頭撫でちゃった」
「?」
癖で頭を撫でた?少し疑問に思いましたが、嬉しさが上回り、気になりませんでした。
「と、とりあえず、待ち合わせしてるみたいだから、行ってきたら?」
「はい!行ってきます♪」
彼に見送られ、教室を後にしました。
こんなに、晴れやかな気持ちになれるなんて。
「来たわね」
「待ってたわ」
「お待たせして申し訳ございません」
早歩きで正門へ向かうと、私服の扶桑さんと山城さんが待っていました。
「気にしないで、今来たところですから」
「ほら、行きましょう?」
「はい!」
──────────────
「……」
やっちまった。アイツにやったように、頭を撫でてしまった。
「気を付けねーと」
アイツが言ってたっけ。女性は頭を撫でられるのを嫌がる、って。
「似ていたな」
榛名の悲しそうな顔が、数ヶ月前まで付き合っていたアイツの顔とそっくりだった。
「…忘れよう」
逃げる為にここに来た。未練は無い。なのに。
(なんで、時々アイツの顔がチラつくんだろうな)
俺はアイツの暴力と束縛に嫌気が差したから別れたんだ。引き摺るな。
「…勉強しよう」
──────────────
「嬉しそうね、陽菜」
「えっ?」
街へ出かけ、お買い物を終わらせたあと、近くのカフェに入ると、山城さん─今はプライベートですから、お名前で呼びましょう。梓さん─がそう言ってきました。
「最近、思い詰めたような顔をしていたから、心配していたの」
扶桑さん─梓さんの実姉、桔梗さん─に言われました。思い詰めた顔。恐らく、提督候補生にカラダを見られて不快に思っていたから、それが顔に出てしまったのでしょう。
「す、すみません」
心配をかけてしまった。気を付けないと。
「謝らなくていいわ。それより、どうしてそんなに嬉しそうなの?」
「えっと…」
梓さんに聞かれたので、正直に答えることにしました。
「アイツか…」
「あらあら」
渡良瀬提督候補生に慰められ、元気が出た事。気になっている事。全て話すと、お二人は納得した様なお顔をしました。
「確かに、アイツは良い奴よ。悔しいけど、認めているわ」
「梓、そんな言い方しないの」
すると、お二人も嬉しそうな─頬を赤らめながら─顔をしました。もしかして。
「お二人も、彼の事が気になるのですか?」
思い切って聞いてみました。
「…えぇ、少し」
「はい♪」
梓さんは恥じらいながら。桔梗さんは嬉しそうに即答しました。
(まさか、ライバルが居たとは)
これは、マズいかもしれません。下手したら、お二人に彼を取られてしまうかもしれません。
「アイツは、ネガティブな私としっかり向き合ってくれた。どんなに暴言を吐いても、暴力を振るっても、見捨てたら呆れたりせず接してくれる。だから、その…気になっているわ」
「私は、彼に何度も救われたの。優しくしてくれた。私が怪我をした時も、下心ではなく、純粋に心配して傷の手当をしてくれた。他にも沢山あるけれど、彼の優しさと誠実さに惚れたわ」
「……」
マズい。マズいです。お二人も彼を狙っています。負けたくない!
「ねぇ、陽菜」
「…なんでしょう?」
「…ドスの効いた声出さないで」
「…すみません」
いけない、声が。梓さんに敵意の篭った声を出してしまいました。
「…回りくどい事は言わないわ。私は、私と姉様は、彼にアプローチをかけるわ」
「!?」
あの梓さんが。お姉様一筋の梓さんが。男性になんて興味が無いと豪語していた梓さんが。そんなことを言うなんて。
「恋と戦争にはあらゆる方法が許される、と言われているけど、陽菜、あなたとはフェアに戦いたいの。だから、宣言します。私と梓は、明日から彼にアプローチをかけようと思っています」
「桔梗さん…」
どうやら冗談ではないようです。なら、
「陽菜も、全力で彼にアプローチをかけます!」
私も、お二人に宣言してやりました。
………………。
翌日。
「あの、渡良瀬提督候補生!」
「ん?どうした?」
「あっ、あの…その…は、榛名と…」
「渡良瀬提督候補生、話がある。指導室に来い」
「はっ、はい!…すまん、後で」
「あっ…」
勇気を出して彼に声をかけたら、藤原准将が彼を連れて行ってしまいました。
(諦めません!)
………………。
更に翌日。
「わ、渡良瀬提督候補生…」
「女は胸だけが全てじゃないわ!」
「男にそういう事言うなって…」
「え〜?いいじゃない。それに、こんな事言うの、あなただけよ?」
「あーはいはい、そうですか」
「もう、信じていないわね?」
「……」
あの娘。確か、正規空母の葛城という適性を持つ女性でしたね。彼と楽しそうにお話している。
(邪魔をして嫌われたくありません。また後でアプローチをかけましょう)
………………。
数日後。
「ぽい〜♪」
「ゆ、夕立、ダメだよ」
「ははは、元気があっていいじゃないか」
「渡良瀬さんもこう言っているんだし、大丈夫っぽい!」
「大丈夫じゃないよ!夕立、降りるんだ!」
「時雨ったら、お堅いっぽい〜」
(……)
駆逐艦の娘達とじゃれあっている。父性のある男性。いいですね。将来、榛名が彼との子を産んでも、優しく接してくれそうです。
………………。
更に数日後。
「秋雲さん的に、ノ○スとシ○ーの一騎打ちは神」
「分かる」
「第08小隊は、泥臭さがたまらない」
「「それな」」
「……」
彼と、加藤提督候補生。そして、秋雲という適性を持つ少女の3人が何やら盛り上がっています。こっそり話を聞くに、アニメの話みたいです。
(全くついていけません…)
会話に参加しても、気を遣わせてしまって、盛り下がってしまいます。大人しく、彼を観察して我慢しましょう。
………………。
「……」
話しかけられない。彼と。渡良瀬提督候補生と組んで1ヶ月、共に過ごせる様になったのに、事務的な会話以外、まともにお話が出来ない。扶桑さんと山城さんもあまりお話が出来ていないそうです。
(大丈夫。チャンスはある!)
試験に合格し、彼が着任する鎮守府へ共に行けば、きっとチャンスはある!
───────
───
─
─5年前、佐世保鎮守府─
「……」
「……」
「……」
「私は佐世保鎮守府の提督、浅田よ。よろしくね。いやぁ、戦艦娘が少なかったから、助かるわぁ」
「……」
「……」
「……」
「…あの〜、すみません、ハイライトが消えた目で見つめないで頂けないでしょうか…」
榛名です。私と扶桑さん、山城さんは今、佐世保鎮守府に居ます。
(((どうしてこうなった)))
榛名と扶桑さん、山城さんの考えが一致しました。
張り切り過ぎてトップの成績─総合1位は扶桑さん、2位は榛名、3位は山城さん─を収めたのがマズかったのでしょうか?渡良瀬提督候補生─いえ、正確には渡良瀬提督ですね─が着任した第603鎮守府ではなく、佐世保鎮守府に着任する事になりました。
佐世保鎮守府の提督は女性で、階級は大佐。
(あの時、犯しておけば良かったです)
榛名達の着任先が彼の所ではないと知った時、榛名の中で何かが弾けました。そして、本能のまま渡良瀬提督を襲いました。
養成所を卒業するまでの数日間、ずっと彼を追い回した記憶があります。最終的には長門教官に止められ最後まで致せませんでしたが。
(うふふ…うふふふふふ…)
榛名、諦めません。必ず。いつか、必ず、渡良瀬提督の所へ行ってみせます。
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Last Page「サキュバス 榛名」
榛名、全力で犯します!参ります!
※アンケートを実施しています。よろしければ、ご協力お願いします。
Q:チョロい娘ばっかじゃね?
A:すまぬ…こんな展開しか思いつかなかったんや…
Q:大丈夫な榛名じゃん
A:次から全然大丈夫じゃなくなる。安心してください。
Q:扶桑と山城のアプローチ内容が書かれていないぞ?
A:扶桑と山城の過去編で書くので、許してくださいなんでもしまかぜ
Q:榛名は提督にナニをしたんだ?
A:次話で明らかにされます。お楽しみに(ゲス顔)
※過去編についてですが、基本、これ位の短い(薄っぺらい)内容になります。ただ、一部の艦娘は、べらぼうに長くなりそう(特に由良と瑞鶴と翔鶴)。
…あ、次話は下ネタ連発と勢いしかないギャグ回です。
扶桑、山城、榛名の暴走っぷりをお楽しみに。そして浅田提督の苦労する様子をご覧下さい。