追跡鶴   作:EMS-10

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霞ちゃんを讃えよ!



第44話・甘えん坊

 

side 提督

 

 

──第603鎮守府、母港──

 

 

夕方。

 

 

「皆、お疲れ様。各自、艤装を点検後、異常が無ければ妖精達に預けてくれ。その後は自由にしてくれて構わない。報告書は明日11:00までに俺に提出してくれ」

演習を終え、第603鎮守府に戻って来た。

幸い、深海棲艦とは遭遇しなかった為、戦闘は起きなかった。

 

「それじゃ、俺は執務室に行く。何かあったら、遠慮なく俺を呼んでくれ」

演習に参加した6人にそう声をかけて、俺は執務室に向かった。

 

 

………………。

 

 

──執務室──

 

 

「お帰りなさい」

 

「ただいま。何かあったか?」

執務室に入ると、本日の秘書艦、満潮が書類を捌いていた。

 

「いいえ、電話はアンタから戻る連絡以外鳴らなかったし、封筒も届いていないわ」

 

「そうか」

向こう(第08鎮守府)から此処(第603鎮守府)に戻る際、連絡を入れたんだった。それ以外で電話が鳴らないなんて、珍しいな。最近、電話が増えてきているのに。主に、大本営から。

 

(規模が拡大されたのだから、もっと戦果を挙げろ、って嫌味の電話が来るのがなぁ……)

嫌になるぜ。というか、そう急かすなよ。無理な出撃をすると、轟沈者──死亡者──が出るのに。

 

「はい、書類。確認して」

 

「あいよ」

頭を切り替えろ。満潮から書類を受け取り、確認。承認のハンコを押す。

 

「……ねぇ」

 

「どうした?」

一旦、書類から顔を上げて満潮を見る。

 

「向こうで荒潮に会った?」

 

「あぁ、会ったぞ?」

演習後、埠頭で海を眺めていたら、荒潮達(・ ・ ・)に話しかけられた事を思い出す。

 

「何か言ってなかった?」

 

「満潮は元気か?って聞かれた」

養成所の時に見た、歳不相応の妖艶な笑みを浮かべながら聞かれた。君、本当に1×歳なの?って言いたくなったのは秘密だ。

 

「……そう」

 

あ、嬉しそうな顔してる。

 

「……何よ」

 

「何でもない」

寂しいのか?なんて聞くとキレるから、濁すか。

そういや、あそこ(第8492離島鎮守府)に行った際、霞が満潮の事を聞いてきたな。言っておくか。

 

「そういや先日、第8492離島鎮守府に行った時、霞って艦娘から満潮が元気にやってるか聞かれた」

 

「えっ、アイツが!?」

 

目を見開いて驚いてる。その直後、苦笑いした。

 

「アイツ、霞ってあんなだけど、結構寂しがり屋で甘えん坊なのよ」

 

「へぇ…」

霞が、ねぇ。自他共に認める厳しい艦娘だ、って小嶋提督から聞かされたけど、そうなのか?

 

「……会いたいな」

 

「……」

小声だが、聞こえた。

…シフト見直すか。そう思った時だった。ス○イルプリキ○アのメロディーが流れた。

 

「〜〜ッッッ!!!」

 

あ、満潮の顔が一瞬で真っ赤になった。慌ててポケットからスマホ取り出して操作し始めた。可愛いなぁ。

 

「い、今のは間違い!そう!間違いなの!秋雲に悪ふざけで着メロ入れられたの!私が入れたんじゃないんだからね!!!」

 

うん。分かった。そういう事にしておく。

 

「少し休憩していいぞ。あとは俺がやっておくから」

朝から今まで仕事をしてくれたんだ。あの量の書類が殆ど終わってるから、あまり休憩しないで捌いてくれた筈。だから満潮にそう言った。

 

「……ありがと」

 

小声でお礼を言ってくれた。そしてスマホを弄り始めた。

 

「〜〜♪」

 

嬉しそうな顔してる。もっと見ていたかったけど、やめておこう。お仕事しますか。えっと、試作兵器の実験を行いたいと、夕張から申請が来ているな。

 

「……あの」

 

「ん?」

満潮に声をかけられた。不安そうな顔してるな。

 

「…明後日、お休み、貰えない…かな?」

 

か細い声でお願いしてきた。少し待ってろ。えっと、シフト表…あった。ふむ。

 

「いいぞ」

予定では満潮の休みは4日後だが、弄れる。大丈夫だ。

 

「ホントッ!?」

 

「ああ。勿論だ」

とっても嬉しそうな顔してる。可愛い。

 

香澄()に、出掛けないか誘われたの!」

 

飛び跳ねながら笑顔で言ってる。珍しいな、こんなにはしゃぐなんて。

 

「良かったじゃないか。外出するなら、外出届けを書いてくれよ?」

一応言っておく。

 

「うん!」

 

満面の笑み。歳相応の笑みだ。

 

「……ハッ!」

 

あ、我に返った。さっきよりも顔が赤くなってる。耳も首も真っ赤だ。おいおい、大丈夫か?血管破裂しないでよ?

 

「い、今見た事は忘れなさい!」

 

「何を言っているんだ?俺は何も見ていないし、聞いていないぞ?」

からかいたかったが、そんな事をしたら殴られそうだからやめておこう。

 

「……そう」

 

大人しくなってくれた。安心しろ、誰にも言わない。

 

「……そういえば、此処周辺って何も無かったわね」

 

「あー、確かに」

言葉は悪いが、此処周辺に娯楽施設は殆ど無い。満潮達が楽しめるような物は無い。

 

「隣県のショッピングモールにでも行くか?駅まで送ってくぞ?」

あそこなら、娯楽施設が多い。きっと、楽しめるだろう。

 

「ホント?なら、お願いするわ」

 

「任せろ」

そうと決まれば、車にガソリン入れておかないと。

それから、はしゃぐ満潮を見ながら仕事した。

 

 

………………。

 

 

──某県某所──

 

 

二日後、昼前。

 

 

「……」

 

「あっ、ファンシーショップに入って行ったわ。追いましょう!」

 

「……はぁ」

どうも、提督です。俺は今、私服の足柄と2人で満潮と霞を尾行しています。どうしてこうなった。

昨日、秘書艦だった足柄に満潮と霞の2人が出かけると知られた結果、尾行する事になったんだっけ。

 

 

──────────────

 

 

「あら?満潮のお休みって二日後だったじゃない?」

 

「あぁ、理由があってな」

 

「理由?」

 

「妹に誘われて、出かけるんだとさ」

 

「妹…満潮の妹って…」

 

「どうした?」

 

「て、適性艦名は!?」

 

「あ、朝潮型駆逐艦十番艦、霞だ」

 

「何処所属!?」

 

「お、落ち着け!第8492離島鎮守府所属だ!」

 

「本名は!?」

 

「だから落ち着け!確か、逢坂香澄、満潮の実妹だ」

 

香澄()ちゃああああああああああああん!!!」

 

「うるせぇ!!」

 

 

──────────────

 

 

「……」

あんなにはしゃいだ足柄を見たの、初めてだよ。いや、普段からはしゃいでいるけど、比べ物にならなかった。

何故そんなにはしゃいだのか聞いたところ、昔所属していた鎮守府の仲間だったそうだ。

余談だが、足柄と霞が所属していた鎮守府は、そこを運営していた提督が色々やらかしたらしく、解体されている。

 

香澄()ちゃんはいいぞ」

 

「何度目だよ……」

一回言えば分かるからいいよ。というか、昨日から耳にタコが出来るほど聞かされてるから飽きた。

 

「……あ、到着した」

 

「……何が?」

足柄──今はプライベートだから本名で呼ぶか。杏子──がスマホを弄りながら言った。到着した、って、誰か来るのか?

 

「香澄ちゃん親衛隊の1人よ」

 

「あー、そうですか」

何も言わん。突っ込まんぞ。

 

「プ○さんのお人形見て微笑む香澄ちゃん…いい」

 

「……」

女の子()を見てグヘヘと笑う不審者がここに居る。通報しようかな?

 

「普段はツンツンして自他共に厳しい香澄ちゃんが微笑む姿は尊い。そう思わないかね?」

 

「帰っていいかな」

というか、帰る。

一応、瑞鶴達に買い出しと言って出掛けているからのんびり出来るが、今すぐ買い出しして帰りたい。

 

「百合の花が咲く所を見ずに帰るなんて勿体ない」

 

「全くです」

 

「うおっ!?」

知らない声が聞こえて思わず変な声が出た。誰だ!?

 

「あら、もう着いたの?」

 

「えぇ。一分一秒が惜しいので階段を駆け上ってきました」

 

「流石ね」

 

杏子(足柄)が親しそうに、眼鏡をかけた黒髪ロングヘアーの私服の女性と会話している。えーと、どなた?

 

「申し遅れました。私、清水杏子(足柄)の元同僚、笹川と申します」

 

「え、あ、あぁ…どうも…渡良瀬です」

元同僚(・ ・ ・)、って事は……

 

「昔居た鎮守府の同僚。艦娘よ」

 

「そ、そうか」

杏子が小声で耳打ちして教えてくれた。

 

「ちなみに、適性艦は大淀よ」

 

マジかよ。大淀の適性持ってるって、防空駆逐艦程じゃないが、かなり貴重だぞ?

 

「ヘイズ1。ターゲットが移動を開始しました」

 

「良し。ヘイズ2、ヘイズ5、私に続け」

 

「何だよヘイズって」

ヘイズ…Haze…あぁ、そういう事ね。「かすみ」は英語でHazeだからか。……待て、何で5なんだ?

 

「霞ちゃん親衛隊。通称ヘイズ隊は4人いるの。だから、あなたは5番目だからヘイズ5なの。私はヘイズ1、亜由美(大淀)はヘイズ2よ」

 

そうですか。というか、杏子と笹川(大淀)さん以外にも親衛隊居るんだ。あと、勝手にヘイズ隊(霞ちゃん親衛隊)に入隊させないでください。

 

「ヘイズ1、目標、フードコートに入りました」

 

「人が多いから、上手く紛れて視姦おほん見守りましょう」

 

「おい」

視姦言うな。というか、そんな言葉使うな。

…あ、霞が満潮の背中に抱き着いた。何か言い合ってる。けど、距離があって、更に人が多いから聞こえない。

 

「……会話が聞き取れないですね」

 

「これを使いましょう」

 

杏子、それ、妖精さん達が開発した超小型集音器じゃん。鎮守府の外に持ち出すなよ。武器じゃないから見逃すけど。えっと、付属のワイヤレスイヤホンを付けて…これで良し。

……え、何でそんなことするかって?気になるから。

 

『引っ付くな!』

 

『え〜、いいじゃない』

 

あ、満潮──美波──と香澄の会話が聞こえる。

 

『フレンチクルーラァ、奢ってよォ。お姉ちゃんでしょ?』

 

『誰がフレンチクルーラーよ!』

 

『お姉ちゃんの髪型の事よ』

 

『ふざけんなっ!』

 

フレンチクルーラー?あぁ、美波(満潮)の髪型の事か。てっきりフレンチクルーラー奢ってくれ、って香澄が言ったのかと思ったよ。

 

「……」

「……」

 

おい、杏子、笹川さん、目を閉じて無言で合掌すんな。周りの人に変な目で見られてんぞ。

 

『ね〜え〜、お姉ちゃんでしょ?奢ってよォ?』

 

『自分で買いなさい!お金持ってんでしょ!?』

 

『お姉ちゃんに甘えたいのにぃ〜』

 

『だ〜!引っ付くな!』

 

「……」

「……」

 

お二人さん(杏子と笹川さん)、顔に手を当てて天を仰ぐな。

離れとこう。同じ仲間だと思われたくない。

 

『あーもう、こんのバカ妹!分かったから離れなさい!』

 

『ホント?じゃあ海鮮丼食べたい!』

 

『よりにもよって高い奴選ぶんじゃないわよ!』

 

「……」

仲良さそうだな。

…あ、警備員さんが杏子達に声掛けてる。放置しておこう。とりあえず、買い出しするか。あとで連絡すればいいよな。

俺はワイヤレスイヤホンを外し、ポケットに入れて食料品売り場へ向かった。

 

 

 

………………。

 

 

 

「裏切り者を発見」

 

「処します」

 

「やめてください」

フードコートを出て、俺一人で買い出しをすると杏子にメールを送り、食料品売り場へ向かっていたら二人に捕まった。

 

 

「危うく香澄ちゃん達に見つかる所だったわ」

 

「でも、いい物が見れました」

 

顔がツヤツヤしてらぁ。関わりたくねぇ…。

 

「俺は食料品買うから、二人は香澄達を見ていていいぞ?」

本音はこの二人と関わりたくないです。だから別行動を提案した。

 

「それなら、お言葉に甘えて」

 

「ウキウキウォッチングしてきます」

 

「……行ってらっしゃい」

ウキウキウォッチングって…捕まらないでくださいよ、笹川さん。杏子は別に捕まってもいいや。

そう思っている間に、二人は早歩きで行ってしまった。元気だなぁ。

 

「さて、買い物しますか」

肉を多めに買ってきてくれ、って頼まれたんだったな。あと、非常食用の乾パンも。

それから俺は一人で買い出しを行った。そして買い出しを終え車のトランクに詰め込んでいると、杏子からメールが来た。どうやら香澄に見つかり、シバかれたそうだ。何やってんの。

とりあえず、杏子を連れて帰るか。

妖精さんの素敵技術で作られたボックスに、肉等の生鮮食品を入れる。これで腐敗することは無い。

トランクを閉じ、鍵をかけ、メールで合流する場所を送った。

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 

 

side 満潮

 

 

「へぇ、VRねぇ…」

 

「面白そうじゃない」

フードコートで妹に海鮮丼を奢ったあと、ショッピングモールを彷徨いていたら、最近出来たVR体験が出来るエリアを見付けた。夕張さんと秋雲がVRゲームを持っていて何度か遊んだ事があるけど、凄かったわね。

 

「体験してみましょう?」

 

「えぇ」

せっかくだから、体験してみよう。チケット制なのね。券売機にお金を入れてチケットを購入。えっと、逆バンジーにジェットコースター、ガ○ダムの掌に乗ってザ○Ⅱに襲われるダ○バ強襲。他にも沢山ある。どれにしよう?

 

「あっ、アレなんてどう?」

 

香澄が笑いを堪える様な声で言ってきた。嫌な予感がする。

 

「どれ……よ……」

香澄が指さす先にあったのは、

 

【CR○EPING TERROR】

 

不気味な文字でそう書かれた「ホラー体験」VRだった。

ちょっと待ちなさい。私、ホラー苦手なのよ!?やめてよね?冗談でしょ?

 

「行きましょう?」

 

「NO。絶対に、NO」

いやいやいや、ホントにやめて、無理。おいこら、腕を掴むな!

 

「2名、お願いします」

 

クルルアアァァアアアアッッッ!!!勝手に決めるなああああああ!!!

パニクりすぎて巻舌になっちゃった。

 

「お姉ちゃんでしょ?しっかりしなさい♪」

 

香澄、鎮守府に戻ったらぶっ飛ばす。絶対ぶっ飛ばす。ニヤニヤすんな!ムカつく!

 

「ああもう、やってやろうじゃない!」

ここで逃げたら、絶対ネタにされて弄られる。なら、今だけ我慢しよう。

係の人に案内され、薄暗いシアター──暗幕が張られている──の中に入り、ギミックチェアに腰掛ける。

 

「……そういえば、アンタもホラー苦手だったんじゃない?」

係の人に手渡されたVRゴーグルを付ける前に、香澄に聞く。私ほどじゃないけど、コイツもホラーが苦手だった筈。

 

「……毎日、あそこ(第8492離島鎮守府)でホラー映画よりも怖い目に遭ってるから、多分平気よ」

 

「あっそ」

目が虚ろだ。どんな目に遭っているのかしら?帰ったら聞いてみましょう。

 

「だから、お姉ちゃんがみっともなく泣き叫ぶのを期待しているわ」

 

「ぶっ飛ばすわよ?」

ニヤニヤ笑うな。

 

「あ、あの、VRゴーグルを…」

 

「あっ、すみません!」

いけない、係の人が困ってる。急いでVRゴーグルを装着。次にヘッドフォンを付ける。

そして、ゴーグルやヘッドフォンに異常が無いか確認される。異常無し。

 

『では、行ってらっしゃい』

 

係の人がそう言った直後、ゴーグルに映像が映る。同時に不気味な唸り声がヘッドフォンから鼓膜に響く。

……や、ヤバい。これ、想像以上にヤバい!バ○オハザードよりヤバそう!

 

<ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!

 

「「ギャアァァァァ━━━━━━!!!」」

ゾンビ!ゾンビみたいなのがいきなり目の前に飛び出してきた!

3Dだから迫力が凄まじい。あと、ギミックチェアが物凄い揺れて恐怖が倍増する。おまけにミストや風がかかってきた。血飛沫や吐息を感じさせる演出みたいね?

というか、隣に座る香澄の叫び声がうるさい。おかしいわね、ヘッドフォンしてるのに。どんだけデカい声で叫んでるのよ!というか、

 

(涼子(涼月)みたいな唸り声出すんじゃないわよ!)

ゴーグルに映るゾンビに対して悪態をつく。

……待てよ?ゾンビじゃなくて涼月だと思えばいいんじゃない?

目の前に居るのは涼子。目の前に居るのは涼子。目の前に居るのは涼子。

…あ、怖くなくなった。

 

<ゥ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!

 

「イヤ━━━━━!!!」

 

うわぁ、香澄がめっちゃ叫んでる。あ、今度はチェーンソー持ったゾンビ(涼月)が出てきた。

 

 

「や゙め゙で━━━━━━━━━!!!」

 

香澄、そんなに叫ぶと、喉を痛めるわよ?

それからホラーVRが終わるまで、香澄の絶叫がシアター内に響き続けた。

私?飛び出してくるゾンビみたいのを涼月だと思うようにしたら、途中から何とも思わなくなったわ。

 

 

………………。

 

 

「」

 

「…大丈夫?」

香澄の髪がボサボサで、目が虚ろになってる。

終わった後、係の人に物凄い心配されてたわよ?

 

「……」

 

「ちょっ!?」

いきなり抱き着いてきた。…震えてる。ったく。

 

「もう大丈夫よ」

優しく頭を撫でてあげた。全く、世話の焼ける妹ね。

 

「お゙姉゙ぢゃ゙ん゙、怖゙がっ゙だよ゙ォ゙ォ゙ォ゙〜!!!」

 

「鼻水垂らすな!」

あぁもう!こんのバカ妹!

 

「…ん?」

視線を感じる。誰?

 

「……」

「……」

 

「……」

視線を感じる先を見ると、足柄さんと眼鏡をかけた女性が鼻血を垂らしながら私を見ていた。

 

「足…杏子さん?」

あっぶな、艦娘名を言う所だった。一般人に艦娘だとバレると、色々厄介なことになるのよね。特に、反艦娘団体の人間とかに知られたら、大騒ぎになる。

というか、何で杏子さんがココに?そう思った時だった。私が杏子さんの名前を言った直後、香澄が弾かれたように離れた。

 

「……見たわね?」

 

香澄の奴、さっき叫び過ぎて声が掠れているけど、ドスが効いてる。キレているわね。

 

「「……香澄ちゃんはいいぞ」」

 

あの、杏子さんと眼鏡をかけた女性は何を言っているの?あっ、逃げ出した。

 

「こんの、クズがァ!!!」

 

「ちょっ!?」

追いかけて行っちゃった。……はぁ。元気がいいわね。

 

(元気そうで安心したわ)

香澄が昔所属していた鎮守府は、そこを運営する提督が屑で酷い目に遭って、一時期塞ぎ込んでた。でも、小嶋准将の所(第8492離島鎮守府)に異動してからは、少しずつ昔みたいに元気な香澄に戻ってくれた。感謝しないと。

 

(……追いかけよう)

普段は真面目だけど、キレると暴走するから、心配ね。

苦笑いを浮かべながら、私は香澄達のあとを追った。

 

 

side 満潮 out

 

 

───────

────

 

 

side 提督

 

 

──車内──

 

 

「ほっぺたにもみじ出来てるが、大丈夫か?」

赤信号になったから、一時停止した後、助手席に座る杏子に声をかけた。

 

「我々の業界ではご褒美です」

 

「あっそ」

メールで合流場所を指定し、そこに向かうと、頬に張り手された跡(もみじ)が出来た杏子と笹川さん、そして美波と香澄の4人が既に待っていた。香澄は不機嫌そうな顔をしていて、俺の顔を見た途端、驚いた顔をした。

 

『あんたまでストーカーしに来たの?』

 

いや、俺はただ買い出しに来ただけです。変態(杏子と笹川さん)と同じ事しに来たわけじゃないです。

しかし、信じてくれなかったのか、ずっと睨まれた。

その後、俺と杏子は帰る事にした。

 

『ま、まだ香澄ちゃんと美波ちゃんのキャッキャウフフを見たいのにぃ!!』

 

駄々っ子の様に騒ぐ杏子を連れて帰るのは大変だった。

時間はかかったが、何とか説得し、連れ帰る事に成功した。

 

『では、機会がありましたら、またお会いしましょう』

 

笹川さんも、これ以上は迷惑になると思ったのか、大人しく帰る事にしたそうだ。

 

『私達はもう少しだけ遊ぶわ』

 

美波と香澄は、もう少しだけショッピングモールで過ごすと言った。せっかくの休み。しかも中々一緒になれない姉妹と過ごすんだ。「あまり遅くならないように」とだけ言って、俺達はその場を後にした。

 

「香澄ちゃんが元気そうで安心したわ。これで明日も戦える!」

 

「栄養ドリンクか何かかよ」

 

「心の癒しよ」

 

ドヤ顔で言うな。まぁ、癒されたのならいいか。……いや、良くないだろ。香澄と美波に迷惑かけちまったんだ。今度、お詫びしよう。

それから、杏子が香澄について熱く語ってきたが、殆ど聞き流した。

 

 

──────────────

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

数日後、朝。

 

 

「プロテクター、良し。ス○ィールスーツ、良し。逃走経路、良し」

 

「何故、執務室に物騒な物置くのよ……」

 

「だって、扶桑さんが来るんだよ?」

鬼・姫級の首を持って帰る、薩人マシーンが来るんだよ?もしかしたら、俺も首を狩り取られるかもしれないんだよ?保険だよ、保険!

 

「備えあれば、嬉しいなって奴だ」

 

「憂い無し、ね」

 

知ってるよ。わざと間違えたんだよ。

本日の秘書艦、千歳さんが呆れた顔で溜息吐いてる。

 

「まぁ、ドンパチ始まりそうになったら、私が止めてあげるから、安心して?」

 

「マジで頼みます」

そういや、千歳さんはインファイト得意だったな。出撃すると、ボーキサイト節約の為に、タンスみたいな艦載機格納庫を担いで深海棲艦を叩き潰す、って瑞鶴達が言ってたっけ。

 

「ほら、着任まで時間はあるから、お仕事しましょう?」

 

「あいよ」

気は乗らないが、やるか。書類の山から1枚ずつ手に取り、内容を確認。えっと、タンカー警護の依頼が来ているな。誰を就かせよう?

 

「……ふふっ」

 

「どうした?」

突然、千歳さんが笑い出した。何か、おかしい事でもあったか?

 

「似てるなぁ、と思って笑っちゃった」

 

「似てる?」

何に似てるんだ?疑問に思っていると、千歳さんが教えてくれた。

 

「書類を見て考え込む時の仕草が、悟……ううん、君のお父さんとそっくりだなぁ、って」

 

「……そうなのか?」

 

「えぇ。そっくりで驚いちゃった♪」

 

「……」

そういや、親父の事、殆ど知らないな。あと、お袋の事も。聞きたい。でも、相手は千歳さんだ。気付かないうちに地雷を踏み抜く恐れがある。聞きたいけど、怖いから聞けない。

 

「お父さんの事、知りたい?」

 

本音を言えば知りたいです。けど、さっきも思ったけど地雷を踏み抜きそうだから聞けない。

 

「君のお父さんはね、無口な人だったわ」

 

勝手に喋り出した。よし、適当に相槌打つだけにしよう。

 

「とても気難しい人なのかと思ったけど、本当は人見知りで、何を話せばいいか分からないから無口だったの」

 

「へぇ」

驚くフリをする。既に爺ちゃんから聞かされました。けど、言わない。聞き専になれ。

 

「それを知った時は、可愛い人だなぁ、って思ったわ」

 

「可愛いって……」

うっとりした顔してるよ。

 

「思わず可愛い、って言ったら微妙な顔されちゃったなぁ」

 

「まぁ、女性に可愛いって言われると、悲しくなる」

男女の認識の違いなんだろうけど、そう言われると「嬉しい」と思うより、「悲しい」、もしくは「微妙」だと思う。あくまで俺個人の考えでは、だけど。

 

「そうなんだ?貶したり、バカにしたつもりじゃ無かったんだけど……」

 

それから、千歳さんは親父の事を話した。その間は、仕事出来なかったと言っておく。だって、書類捌きながら聞いてると「話を聞け!」ってキレられる恐れがあるから。

 

「……あら、もうこんな時間」

 

「あ、ホントだ」

時計を見ると、11:45だった。いつの間に数時間経ったんだ?

 

「あっ、ごめんなさい!仕事の邪魔しちゃって」

 

「いや、大丈夫」

本当は大丈夫じゃない。けど、言わない。言えない。

まぁ、午後から巻き返せばいいか。……あっ、扶桑さんが来るんでしたっけ。待てよ?仕事が忙しいと言って相手にしなければいいか。

 

 

………………。

 

 

「……」

現在時刻、14:50。扶桑さん着任は、15:00頃。

緊張してて、殆ど昼飯食えなかった。

 

「顔色悪いわよ?」

 

仕方ないだろ?扶桑さんが来るんだぞ?

 

「男でしょ?ち○ちん付いてるでしょ?しっかりしなさい」

 

「女性がそういう事言っちゃいけません!」

何で恥じらいもなく堂々と言えるの?

 

「ぷっ……あはははは!」

 

「!?」

いきなり笑い出しだ。どうした!?

 

「あはははは!もう、本当にそっくりね」

 

「そっくり?」

 

「えぇ。君のお父さんも、私が卑猥な事言うと、「そういう事言っちゃいけません!」って顔を赤くしながら注意してきたわ」

 

そうなんだ。

 

「もう、そっくりね。流石親子」

 

「は、はぁ……」

親父も苦労したんだな。……あ、ノックされた。逃げたい。

 

『涼月です。本日着任される扶桑さんをお連れしました』

 

「帰ゴホン……入ってくれ」

あっぶね、帰ってくれ、って言いそうになった。もし言ったら、薩人マシーン(扶桑さん)に首狩られてただろうな。

さて、覚悟を決めよう。

扉がゆっくり開くと、涼月が入室。その後に、和服を纏った濡れ羽色の長髪の女性──扶桑さん──が入室してきた。

 

(うわぁい、扶桑さん、すんげぇイイ笑顔してるよ)

提督、逃げたい。けど、逃げたら確実に追いかけられるだろう。

 

「本日付で佐世保鎮守府より、第603鎮守府に異動して参りました。扶桑型戦艦一番艦、扶桑です。よろしくお願いします、渡良瀬少佐♪」

 

「こ、こちらこそ、よ、よろしく……お願いします

声が裏返った。最後らへん、小声になった。でも、仕方ない。目の前に扶桑さんが居るから、仕方ない。

 

「ふふふっ……うふふふふふふっ♪」

 

「」

あっ、獲物を見つけた蛇みたいな目してる。瑞鶴が此処に着任してきた日を思い出す。

……胃が痛くなってきた。

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────





次回予告


私のせいで、執務が滞っちゃったわね。代わりにやっとくから、休んでて?
さて、お仕事しましょう。…あら、扶桑さん、早速仕掛けているわね。
…昔を思い出すわね。私も、あんな風に悟を追いかけ回したっけ。
……おっと、昔を思い出すのは後にして、彼を助けましょう。


第45話・薩人大和撫子


「分かりませんねぇ。何を仰っているのか、さっぱり分かりません。日本語を話してください。日本語を話せないのなら……」

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