追跡鶴   作:EMS-10

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第46話・歳上の妹

 

side 扶桑

 

 

「首を置いてけえええええぇぇぇぇぇええええ!!!」

 

 

深海棲艦、コロスベシ。慈悲は無い。

艤装の出力を限界1歩手前まで上げて、突撃。護衛艦隊の深海棲艦達が機銃や主砲を撃ってきたけど、焦っているのか当たらない。たまに直撃コースの弾が飛んでくるけど、日本刀で斬り落とす。

艦娘になったことで、動体視力が上がったから問題なく目で追える。けれど、視力に頼らなくても斬れる。

何故か?それはね。

 

(……そこね)

直感で分かるから。

昔、御祖父様に古武術を教わってから開花した。

自分が「ここだ」と思った所に、攻撃が来る。それが何故だか分かる。

だから、目を閉じていても攻撃を避けることが出来る。けれど、今は駄目ね。後ろには翔鶴さん達が居る。避けずに斬りましょう。

敵護衛艦隊が主砲や副砲を構えた。

それを見た直後、素早く刀を振る。

深海棲艦達が撃ってから刀を振るのではない。撃つ直前に、自分が「ここだ」と思った所に刀を振る。すると、まるで吸い込まれるかのように刀身に弾が当たり、斬り落とす。

無理な動きを一切していないから、刀身と私の身体に負担は全く掛からない。

艦娘のパワーで素早く刀を振る。

斬る。

振る。

斬る。

……うん、全部切り落とせたみたいね。

 

 

「〜〜〜〜〜!!!」

 

 

あら、空母ヲ級改flagshipが何か叫んでいるわね。

あらあら、艦載機を飛ばしましたか。

主砲や副砲、機銃で撃ち落としましょうか?

……いいえ、無駄弾(・ ・ ・)を撃つ必要はありません。

昨夜、山城から教えてもらった。最近、あそこ(第603鎮守府)は資材の消費が増え、少しだけカツカツ──燃料と鋼材は余裕があるけど、弾薬とボーキサイトが心許ない──の状態になっている、と。

自分は戦艦。しかも、第二次改装を施されている。撃てば、かなりの資材を消費してしまう。

なら、向こうでやっていたアレ(・ ・)で墜としましょう。

 

「邪魔だ……どけええええぇぇぇぇぇえええ!!!

 

深海棲艦達を威嚇するのと、自分に気合を入れる為、叫びながら刀を振る。音速を超えて振った刀から、風船が破裂するような乾いた音が鳴るのと同時に、衝撃波となって敵艦載機に向かって行った。

直撃。

タコ焼きのような形をした艦載機が真っ二つになる。

爆散。

爆散した破片が他のタコ焼きのエンジン部分──口の様な形をしている──に吸い込まれ、連鎖的に爆散していく。

 

(まるで、ぷ○ぷよね)

何連鎖出来たかしら?爆散する艦載機を見るのは気持ちいいわ。

……おっと、ぼんやりしている暇は無いわ。

何が起きたか理解出来ないのか、深海棲艦達は呆然としている。今がチャンス!

戦速を一杯にして、突撃。すれ違いざまに敵護衛艦隊6()の首を斬り落とす。

手応えアリ。

首からオイルのようなドス黒い血が吹き出し、私の真っ白な和服──艦娘の装束──に降り掛かる。

汚れなぞ気にするな。今は首狩りの時間よ。

次、空母棲姫!

数十m先に居る獲物を見る。

……嗚呼、笑いが止まらない。

おや?驚いた顔をしていますね。ふふっ、いい顔よ。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

「相変わらず、深海棲艦の悲鳴はみっともないですね。何度聴いても不快です」

向こう(佐世保鎮守府)で鬼・姫級を狩る時、何度も聴いた。けれど、未だ慣れない。ホント、不快な声ね。

 

(さっさと終わらせましょう)

ジュウコンカッコカリの条件を満たす為には、一定数の鬼・姫級を狩らなければならない。浅田准将から教えてもらった事を思い出す。

そういえば、私が向こうで狩った数はカウントされないのかしら?今度、浅田准将に聞いてみましょう。

さて、頭を切り替えなさい。

空母棲姫の目を見る。明らかに怯えている。

 

(嗚呼……空母棲姫が甲種勲章に見えてきました)

欲しい。

欲しい。

欲しい。

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。

 

 

 

寄越せ。

 

 

 

気が付けば、空母棲姫に肉薄していた。

右手で刀を左下から右上へ斬り上げる。しかし、咄嗟に艤装を盾にされ、首を狩ることは出来なかった。

 

(それなら!)

空母棲姫の艤装──砲塔と飛行甲板──を斬り上げで真っ二つにし、勢いに任せ、左足を軸に時計回りに一回転しながら、今度は刀を両手で持って再び斬り上げる。

 

(チッ……避けられた)

首を狙ったのに、空母棲姫は咄嗟に身を引いて回避した。

 

 

「〜〜〜〜〜!!?」

 

 

あらあら、また不快な声を出して。やめてください。耳障りです。

それに、

 

「分かりませんねぇ。何を仰っているのか、さっぱり分かりません。日本語を話してください。日本語を話せないのなら……」

向こうで駆逐艦娘の娘に見せてもらったマンガを思い出す。確か、ド○フターズでしたね。あのマンガは中々面白い。

山城の影響で少女マンガを読むようになってから、色々なジャンルのマンガを読むようになりました。

マンガは素晴らしい。沢山の事を教えてくれる。

……考え事をしている場合じゃないわ。しっかりしなさい。

 

 

「死ぬがよい」

 

 

今は甲種勲章……じゃない。空母棲姫の首を取ることに集中しなさい。

甲種勲章(空母棲姫 )が砲撃してきた。

刀を振る。

砲弾を斬る。

接近。

刀を振る。

砲塔全てを斬り落とす。

刀を振る。

両腕を斬り落とす。

肉が裂け、骨が砕ける音が聞こえる。

血が吹き出した。

顔面に掛かる。

気にしない。

空母棲姫が悲鳴をあげる。

うるさい。黙れ。

甲種勲章……じゃない。首だ。首を寄越しなさい。

刀を鞘に納め、居合切りで仕留めようとした時だった。

 

「素敵な断末魔、あげて頂戴♪」

 

艤装の後ろに何かを括り付けた夕立ちゃんが、魚雷を両手の指に挟んで突っ込んで来た。

マズいわね。このままだと巻き込まれてしまう。一旦離れましょう。

 

「ヒィィィィハアアアァァァアアアア!!!」

 

(何処ぞのお笑い芸人みたいな雄叫びあげてるわね)

それに、犬歯を剥き出しにしながら笑っている。殺る気満々ね。

夕立ちゃんは素敵な笑顔のまま、空母棲姫に魚雷を叩き付けた。

ちょっと待ちなさい、そんな至近距離で起爆したら、死ぬわよ!?

直後、大爆発。

夕立ちゃん!?

……あっ、無傷。一体何故?

 

「流石フラル改(ル級改flagship)。とっても頑丈ね♪」

 

あらあら、私が斬ったフラル改の死体を盾にしたのね。

 

 

 

「……〜……〜〜…………」

 

 

 

「まだ生きてるっぽい?」

 

零距離酸素魚雷×8本を叩き込まれたのに、まだ生きているのね。此処の海域の甲種勲章(・ ・ ・ ・)は頑丈なのね。

 

「……敵護衛艦隊、全滅。空母棲姫、扶桑さんの斬撃と、夕立ちゃんの零距離魚雷斉射で大破しました」

 

旗艦の翔鶴さんが渡良瀬少佐に無線で報告している。

 

『……全員無事か?』

 

「……はい。全員無傷(・ ・ ・ ・)です」

 

無線から、渡良瀬少佐の心配そうな声が聞こえてきました。翔鶴さんはその問いに、全員無傷だと報告しました。返り血を浴びてしまいましたが、それ以外は無傷です。

さて、さっさと狩って帰りましょう。

 

「ねぇ、あなた、大将首なんでしょう?」

左手の親指で鍔を押し、右手で日本刀の柄を握る。そして、居合斬りの構えをとる。

準備は出来た。

夕立ちゃんは私を見て何をするのか察してくれたのか、離れてくれた。うん、それ位離れてくれれば安全よ。

 

「大将首なら……寄越しなさい」

そして、一気に日本刀を振り抜いた。

数秒後、空母棲姫の首がゆっくりと、胴体から海面へ落ちた。

 

 

side 扶桑 out

 

 

───────

────

 

 

side 提督

 

 

 

『……扶桑さんが居合斬りで、空母棲姫の首を撥ねました』

 

「」

無線から、翔鶴の声が聞こえた。

空母棲姫の首を撥ねました。

そう言ってきた。

……やりやがったよ。扶桑さん、やりやがったよ!怖いよ!

 

『……付近に敵影ありません』

 

「……」

 

『……提督?』

 

「……あ、あぁ。分かった。付近を警戒しつつ、帰投せよ」

 

『了解しまし……ふ、扶桑さん!?何を!?』

 

『何、って、甲種勲章……じゃなかった、空母棲姫の首を持ち帰るのですよ。ちゃんと狩ったと証明する為に♪』

 

「」

やめてください。ポイしてください。今すぐ海にポイしなさい。しかし、声が出なかった。

 

『大本営がごねたら、コレ(空母棲姫の生首)を送ればいい。だから、お持ち帰りします♪』

 

「……ゴフッ」

妖精さん特製胃薬飲んでるのに、吐血しちゃったよ。提督の胃袋、一発大破しちゃったよ。あーあ、提督服とズボンが汚れちゃったよ。クリーニング出さないと。その前に胃薬飲もう。めっちゃ胃が痛い。

 

「……提督、マジで大丈夫か?」

 

「……胃薬飲めば治る」

摩耶が心配そうに見てきたから、強がる。

数十分後、翔鶴達出撃組が戻って来た。そして入渠させた後、旗艦を務めた翔鶴が報告に来たんだが、報告をしてくれている間に空母棲姫の生首を持った扶桑さんが執務室に来やがった。

 

「渡良瀬少佐、見てください!甲種勲章……じゃなかった。空母棲姫の首です♪」

 

「やめてぇ!!」

子どもみたいに無邪気に微笑みながら見せ付けないで!

俺、グロ耐性無いの!摩耶の奴も顔面蒼白になって震えてるよ!

 

「ほぉらよく見てくださいこの怯えた顔姫と呼称されている強い深海棲艦なのに怯えているんですよ滑稽ですよね本当滑稽です強者ならもっと堂々としているべきですそう思いませんか渡良瀬少佐?」

 

「マ"マ"ーーーーーーーーーッ!!!」

 

「キャアッ!?」

 

思わず翔鶴に抱き着いてしまった。決して性的な目的で抱き着いたわけじゃない。怖さを紛らわす為に抱き着いたんです。怖い。怖いよ!助けて翔鶴!!

 

「あらあら、翔鶴さんに抱き着いてどうしたんです?怖いなら私がぎゅ〜ってしてあげますよ?ほら、おいで?」

 

「ぜったいやだ!ぼくしょうかくがいい!!」

ほんとうに、やめて。ふそうさん、こわい。なまくび、もったまま、りょうて、ひろげないでください。

 

「ふふっ。よしよし、大丈夫よ?」

 

あ〜、翔鶴によしよしされてるぅ。ダメ人間になるぅ〜。……あっ、幼児退行してたけど、元に戻れた。

 

「可哀想な提督。意地悪なオバサン(・ ・ ・ ・)に虐められて、心を傷付けられてしまうなんて……」

 

……あの、翔鶴、さん?今、何て言ったの?意地悪なオバサン?もしかして、それ、扶桑さんに言ったんじゃないよね?

 

「……今、なんつった?」

 

「」

扶桑さん、髪の毛!髪の毛逆立ってる!オマケにドス黒いオーラみたいなのが身体中から噴き出してますよ!?

……ちょっと待って、空母棲姫の頭がミシミシ言ってる。えっ、ちょっ、生首の目と鼻から血が、オイルみたいに黒い血が出てる!待て待て待て!指!食い込んでるよ!そのまま力込めたら、空母棲姫の生首がパーンしちゃうよ!そしたら俺、確実に精神崩壊する自信があるよ!?

 

「あら、耳が遠いのかしら?オバサンだから仕方ないわね」

 

「調子に乗るな、女狐」

 

だから、力込めるのやめよう?あああああ!!メキメキ、パキパキ言ってる!血が大量に出てる!!!

 

「うふふっ。いい歳なんですから、落ち着いた方がいいですよ?オ・バ・サ・ン?」

 

「黙れ」

 

あっ……あっ……あっ……空母棲姫の頭が、頭がああああああ!!!

 

 

パァン

 

 

「」

俺は見た。見てしまった。

空母棲姫の頭が、扶桑さんによって握り潰される瞬間を。

……嗚呼……嗚呼…………。

意識が少しずつ薄れていく……。

 

 

───────

 

 

「……提督?」

 

「渡良瀬少佐?」

 

「大変!提督が息をしていないわ!」

 

「そ、そんな!?あなたが強く抱き締めたせいで窒息したのよ!」

 

「そんなわけないわ!あなたが怖いからこうなってしまったのよ!」

 

「ふざけた事を言わないで!渡良瀬少佐はあなたのせいで……」

 

「と、ともかく、医務室へ!」

 

「そ、そうね。今は言い争っている場合じゃないわ」

 

「あっ、摩耶さんが泡吹いて倒れています」

 

「ほっときなさい。後で入渠槽に叩き込めば治るわ」

 

「それもそうね」

 

 

───────

 

 

………………。

 

…………。

 

…。

 

 

 

「……はっ!?」

ここは誰?俺は何処!?……じゃない、ここは何処だ?俺は誰だ?だろ?

……よし、冷静になれ。こういう時は冷静になるんだ。

周りを見ると、薬品の入った戸棚が見え、消毒用アルコールの臭いが鼻を刺激した。

 

(医務室みたいだな)

目を覚ますと医務室に居る。ゲームやドラマみたいな展開だな。えっと、どうして俺は医務室に居るんだ?

 

(確か、執務室で扶桑さんが……)

思い出そうとしたら、頭に鈍い痛みが走った。痛い痛い。思い出すのはやめよう。何か、とんでもなく恐ろしい事が起きた気がする。

とりあえず、頭痛が酷いから頭痛薬飲もう。半分が優しさで出来た奴がいいな。

ベッドからゆっくり起き上がり、戸棚の前に立つ。えっと、バ○ァリンはどこだ……あった。

 

「水が無い」

仕方ない、食堂にでも行くか。

 

 

………………。

 

 

「……あっ」

 

「おっ?」

食堂へ行くと、由良が麦茶を飲んでいた。俺を見る前は穏やかな顔をしていたが、今は心配そうな顔をしている。……そんな顔しないでくれ。

 

「提督さん、さっき倒れたって……」

 

「ん?あぁ、もう大丈夫だ」

笑いながらコ○ンビアポーズをとる。少し頭が痛いが、言わない。余計に心配をかけてしまう。

 

「で、でも……」

 

「提督ってのは、艦娘達を取り纏める存在だぞ?その提督が貧者だと鎮守府運営なんて出来ない。だから大丈夫だ」

 

「……」

 

しかし、納得していないのか、由良の表情は変わらない。

 

「……あっ」

 

「俺なら本当に大丈夫だ」

由良の隣に座り、頭を撫でる。

最初は驚いていたが、次第に笑顔になってくれた。

戦う時の、殺意と怒りを込めた笑みではなく、純粋な喜びと安心が込められた笑みを。

 

「……本当は()がしてあげるべきなのに」

 

由良(・ ・)ではなく、()と言った。つまり、艦娘として、ではなく、一人の人間、東雪乃(・ ・ ・)として言っているみたいだ。

 

「いつも由良……雪乃に世話になっているからな。たまには俺が世話したいんだ」

久しぶりに彼女の名前を呼んであげた。何時ぶりだろう?あの時(・ ・ ・)以来な気がする。

 

「……ふふっ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

おっ、また笑ってくれた。

 

「歳下の()に甘えるなんて。歳上失格ね」

 

「そういった事、気にせず甘えていいんだぞ?というか、」

俺が想像出来ないほどの地獄に居て、沢山辛い思いをした。誰かに甘えることなんて出来なかった。だから。

 

「甘えろ。甘えてくれ」

雪乃(・ ・)の目を見て言ってやった。

 

「……本当に、いいの?」

 

不安そうな顔をしている。構わないさ。

 

「勿論だ。どんどん甘えろ」

本当に甘えさせてやりたい。

彼女は今まで沢山辛い目に遭ってきた。だから、それ以上に幸せを与えて喜ばせてやりたい。

 

「でも、私、()に迷惑を……」

 

「そう思って遠慮される方が迷惑だ」

最後まで言わせず、言葉を被せた。

 

「頭で考えるな。心に思った事をそのまま言葉にして吐き出せ」

(思考)というフィルターにかけず、心で思った事、感じた事を言葉に出せば、己が本当に望む正しい答えが出る。昔、爺ちゃんから教わった事を思い出す。

ただ、その結果、周囲とぶつかり合い、相手を傷付けてしまう危険もあると教えられた。それを充分理解した上で発言しないと、ダメだ。だが、今は違う。俺は、彼女の正直な言葉を聞きたい。例えそれがどんな答えだろうと、しっかり受け止めてやる。

 

艦娘(由良)ではなく、一人の人間(東雪乃)としてどうなりたい?」

もう一度、しっかり目を見て聞いた。その目は、不安そうに揺れている。

 

「……わ、私…は……

 

 

 

 

 

幸せが欲しい」

 

 

「……」

 

「幸せになりたい!けど……」

 

「心に思った事を、そのまま吐き出せ」

心から思っている事を、頭というフィルターにかけるな。思った事をそのまま吐き出すんだ。

 

「……幸せになりたい。君のお嫁さんになりたい。甘えたい。ぎゅっと抱き締めて頭を撫でて欲しい!」

 

「他には無いのか?」

遠慮なんてするな。全力で叶えてやる。

 

「……一緒にお出かけしたい」

 

「いいぞ」

 

「……一緒に、色んな景色を見たい」

 

「好きな所に連れて行ってやるよ」

 

「……君が産まれ育った場所に行きたい」

 

「温泉街と世界遺産があるから、そこそこ楽しめると思う」

 

「……今は、これくらい、かな」

 

「どうした?本当に遠慮しなくていいんだぞ?」

ちゃんと受け止めてやる。叶えてやる。だから、言ってくれ。

 

「……え、えっと…その…」

 

顔が真っ赤だ。どうした?

 

「……欲しいです」

 

「……ん?何て言った?」

声が小さくて聞き取れなかった。聞き返すと、ますます顔を赤くした。おいおい、そんな赤くして、血管とか大丈夫か?

 

「ず、瑞鶴さん達の、後でいい…から……君との赤ちゃんが……欲しい…です……

 

「……ど、努力します」

うん。マジで努力します。その前に榛名と扶桑さん、山城を説得しないと。死ぬ気で説得しろよ、俺。

……あ、扶桑さん。思い出した。思い出しちゃったよ。

フラッシュバックのように、脳内で映像が再生される。

空母棲姫。軋む生首。パァン。

……忘れよう。

 

「……どうしたの?」

 

「あー、喉が渇いた」

やべぇ、気持ち悪い。また頭痛してきた。頭痛が痛い(・ ・ ・ ・ ・)です。

 

「……」

 

あの、雪乃さん、どうしました?さっきまで飲んでいたコップを見て。

 

「うふっ♪」

 

わーい、とっても妖艶な笑みを浮かべてる。「いいこと思い付いた」みたいな顔してるよ?

 

「よろしければ、どうぞ♪」

 

あははは、コップを差し出してきた。中身は八割以上残ってる。飲みたい。けど、それは……

 

「間接キスして欲しいなぁ♪」

 

「」

マジっすか。いや、決して嫌なわけじゃない。ただ、恥ずかしい。

 

「ふふっ、冗談ですよ♪」

 

あっ、冗談だったのね。ビックリしたよ。全く、お茶目なんだから。

 

「……えいっ」

 

「うおっ!?」

いきなり胸に飛び込んできた。突然の出来事で思わず変な声を出しちまったけど、しっかり受け止めた。

 

「えへへへ♪」

 

「……ははっ」

本当に嬉しそうな顔してる。

 

「……私は、今まで色々やってきた」

 

「……」

彼女が話し出した。黙って聞こう。

 

「数え切れないほど、深海棲艦を殺してきた」

 

「……」

 

「時には、海賊行為(・ ・ ・ ・)をする人間を、上からの命令で……殺したりもした」

 

「……」

 

「私がした事は、私が死ぬまで。ううん。死んでも残る」

 

「……」

 

「忘れてはならない。忘れない」

 

「……」

 

「……それでも、私は……幸せになりたい」

 

「……俺が幸せを与えてやる」

誰がなんと言おうが、俺が守ってやる。支えてやる。

 

「……私、結構甘えるかもしれない」

 

「思い切り甘えろ」

 

「我儘言うかもしれない」

 

「叶えてやるよ」

 

「……本当?」

 

「行動で示してやる」

口ではなく、行動で示せ。これも幼い頃から爺ちゃんに教えられた。時間はかかるかもしれない。それでも、示してやる。

優しく、彼女を抱き締めて頭を撫でてあげた。

 

「ぁ……♪」

 

目を細めて俺の胸に頭を押し付けてくる。猫みたいだな。そう思っていると、雪乃が顔を上げて悪戯っぽい微笑みを浮かべながら言った。

 

「お兄ちゃんみたいです。甘えていいですよね?ねっ?」

 

「……はい?」

お兄ちゃん?何故?疑問に思っていると、再び微笑みながら雪乃は言った。

 

「我侭を言っているのに、それを叶えようとしてくれる。しっかり支えようとしてくれる。だから、お兄ちゃんみたいだなぁ、って……」

 

「……」

えっと、確か雪乃の家族って、両親と雪乃の3人家族だったよな。以前、雪乃本人が教えてくれた事を思い出す。なら、なんでお兄ちゃんみたいだ、って言ったんだ?

 

「秋雲さんに教わったんです。頼り甲斐があって、辛い時は必ず支えてくれる、そんな存在をお兄ちゃんと呼ぶ、って」

 

「ちょっくら秋雲とお話してくる」

抱き着いている雪乃から離れ、椅子から立つ。

嘘知識を植え付けるな。あまり知られていないが、雪乃は天然なんだぞ?戦闘以外の事なら、簡単に信じちゃうんだぞ?あと、雪乃は俺より歳上だ。何歳上かって?ノーコメント。女性の年齢や、スリーサイズはパンドラの箱です。決して開けちゃダメですよ?俺との約束だぞ?

 

「あっ、待って、お兄ちゃん」

 

「お兄ちゃん呼ばないで」

すまん、流石に恥ずかしい……悲しそうな顔しないで。罪悪感がががが。

 

「……呼んじゃ、ダメ?」

 

潤んだ目で上目遣いしてきた。可愛い。

 

「……仕事中でなければ、好きに呼べばいい」

 

「本当?やったぁ♪」

 

うん、めっちゃ喜んでる。さて、秋雲の所に行くか。

食堂の扉を開いて……

 

 

「(<⚫>)(<⚫>)」

「(<⚫>)(<⚫>)」

 

 

「」

薩人大和撫子(扶桑さん)腹黒鶴(翔鶴)が瞳孔をおっ広げ、血走った目で俺を見つめています。

 

「こんにちは、お兄ちゃん」

 

「医務室から居なくなって心配しましたよ、お兄ちゃん」

 

「」

何故お兄ちゃん呼び?もしかして、聞いてました?

 

「えぇ、しっかりと聞かせていただきましたよ、お兄ちゃん 」

 

「ボイスレコーダーで録音済みよ、お兄ちゃん」

 

「お兄ちゃん、頭痛くなってきたからお部屋に帰るね?ねっ?」

そういえば、頭痛薬を飲みに食堂に来たんだっけ。でもいいや。部屋の冷蔵庫に緑茶があるし。飲み薬を服用する時は、お茶やスポドリ、ジュースだと効果が薄れたり、過剰に効果が出る危険があるから水がいいんだけど、選ばれた緑茶(綾○)なら大丈夫でしょう。だからお部屋に帰るね?あの、あのあのあの、そんな顔しながら迫らないで?お兄ちゃん怖い。お兄ちゃん泣いちゃうよ?

 

「うふふふふ……」

 

「ふふふふっ……」

 

「」

あっ、やめて、そんなおっかない顔しながら迫らないで?乱暴な妹はお兄ちゃん嫌いになっちゃうよ?

 

「お兄ちゃ……提督さんに何をしているんですか?」

 

うわぁい。後ろから底冷えするような声が聞こえた。

恐る恐る振り返ると……なっちゃってる。

 

 

「提督さんに乱暴なことをするなら……」

 

 

戦闘狂モードの由良さんが。艤装を纏い、飛行甲板に瑞雲のセットが完了してる由良さんが。

 

 

「ぶっ潰しますよ♪」

 

 

悪魔(戦闘狂)の笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

(あっ、これアカン奴や)

扶桑さんと翔鶴も艤装纏いやがった。

今ここでドンパチしたら、確実に食堂が壊れる。

食事は大事だ。士気に大きく関わる。止めよう。

 

「ここは食堂だ。今すぐ艤装を解除しろ」

少しだけキツめに言った。あっ、由良、艤装を解除してくれた。扶桑さんと翔鶴も解除した。ふぅ、何とかなった……

 

「表に出ろ、淫乱ピンク」

 

何とかなってない。扶桑さん、ドスの効いた声で何言ってんの?というか、淫乱ピンクなんて言葉、何処で覚えたの?ダメだよ、そんな下品な言葉使っちゃ。

 

「覚悟してください、淫乱ピンク」

 

翔鶴、君までそんな言葉使うんじゃありません。

 

「淫乱で結構。好きに呼べばいいわ」

 

由良ァ!!何故認めちゃったのぉ!?

……もういいや。突っ込むの疲れた。

あ、そういえば、

 

「な、なぁ、一つだけ教えてくれないか?」

演習場へ向かう扶桑さん達に声をかける。3人は立ち止まり、振り向いてくれた。……おぅふ。お顔がエラい事になってらァ。

 

「淫乱ピンクなんて言葉、何処で知ったんだ?」

 

「「「秋雲さんから教わりました」」」

 

「ありがとう。行っていいぞ。……あぁ、夕食までには戻ってこい。あと、過剰攻撃はするな。これは命令だ」

 

「「「了解」」」

 

……行っちゃった。資材、どれくらい吹っ飛ぶかなぁ。

さて。

 

「秋雲をシバくか」

今日は部屋で待機している筈だ。居なけりゃ今夜、部屋にカチコミする。

その前に、アレ(・ ・)を持っていくか。そうと決まれば、一旦工廠に寄らないといけないな。

 

 

………………。

 

 

「あいあ〜い、今開けるよ〜……って、提督じゃん。どったの?……あ、あの、どうしたの?そんな怖い顔して。えっ……あ、うん、教えました。。待って、待って、ねぇ、待って、それヤヴァイ奴じゃん。まって、待ってください、お願いします待ってくださいKA○ASAWA-MK2はマズい……やっ、やめて!それで私をカァオ!カァオ!する気でしょう!アー○ード・コアみたいに!アー○ード・コアみたいに!あっちょっ本当にやめカラサワァ!?」

 

 

………………。

 

 

 

その日、陽炎型駆逐艦十九番艦、秋雲と扶桑型戦艦一番艦、扶桑。翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴。長良型軽巡洋艦四番艦、由良。

以上4名が大破した。お陰で資材がかなり吹っ飛んだ、とだけ言っておこう。

余談になるが、扶桑さんと翔鶴、由良の3人が装甲空母鬼の首×3をお持ち帰りしてきた。

執務室でシフトを確認していたら、全身血塗れで、腕と足が曲がっちゃいけない方に曲がった3人(扶桑さん、翔鶴、由良)が、満面の笑みで「甲種勲章!甲種勲章です!」と言いながら見せ付けてきた。俺はぶっ倒れた。

提督を辞めようかな?割と本気で考えた。

 

「提督、艦娘辞めてもいいでしょうか?」

 

更に余談だが、摩耶が虚ろな目で艦娘を辞めたいと丁寧語で懇願してきた。

摩耶、気持ちは分かるが辞めないでくれ。お前が居なくなったら、俺は寂しい。あと、貴重なツッコミ要因を失いたくない。だから、辞めちゃダメだ。

 

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 





次回予告

あっ、あの、提督、先程資材の残りを確認したのですが、昨日と比べて一桁も減っています!燃料、鋼材、弾薬、ボーキサイト、全てが!
……えっ、間違いじゃないから安心しろ?で、ですが……。
…分かりました。提督がそう仰るなら。
……えっ、暫く休養状態にする?出撃は無し、ですか?了解です。
あの、提督、もしよろしければ、涼月と……


第47話・休養


「ほぉら、行こうよ?私の下着、選んでよ♪」

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