追跡鶴   作:EMS-10

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※注意※

 この小説はフィクションです。
 実在の人物、団体、施設などとは関係ありません。
 一部、実際とは異なる描写が含まれています。
 予め、ご了承ください。



第63話・休養その17

 

side 提督

 

 

 

──休養状態14日目、某県某所──

 

 

 

現在時刻11:30、気温38℃。室温46℃(・ ・ ・ ・)

 

 

 

 

「新刊3冊くださ───えっ?渡良瀬……くん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場では、何が起こるか分からない。

 

 以前、由良が俺に教えてくれた言葉だ。

 本当にそう思うよ。 

 

 

 戦場──コ○ケ。正式名称、コ○ックマーケット。

 頭に変態が付く、紳士・淑女達がそう呼ぶ場所に、俺は居る。正確には秋雲──璃奈(あきな)と夕張──佳代(かよ)、俺、そして矢矧(・ ・)──香苗(かなえ)の三人だから、俺達だが。

 さて、何故俺と璃奈と佳代と香苗はコ○ケに来ているのか説明もとい、回想しよう。あれは今から──

 

 

 

「あなた、渡良瀬くんでしょ?」

 

 

 

 説明しようとしたら、再び目の前の女性が俺の名前を呼んできた。くそっ、説明を邪魔された。えぇい、俺達がコ○ケ会場に居る理由の説明は後回しだ。一先ず、目の前の女性の対応をしよう。

 

 目の前に居る女性は、混濁の一切無い、能○麻美子さんのような、特徴的な声で俺に話し掛けてきた。

 この声の持ち主は、俺の中では一人しか該当しない。

 

(おおとり)……なのか?」

 俺が高校生の時、三年間同じクラスになり、唯一俺の友人で居てくれた人。その人が、目の前に居る。

 

「えぇ、そうよ!覚えていてくれたのね!」

 

 俺が彼女の名前を言うと、とても嬉しそうに微笑みながらそう言った。マジかぁ……久々の再会で嬉しいけど、恥ずかしい。

 だって俺、売り子をしているから。しかも、R18の薄い本。おまけに、薄い本の製作者(璃奈)と、コスプレ売り子(・ ・ ・ ・ ・ ・)として同行してくれた佳代と香苗は離席中。うっわぁ、絶対勘違いされた。俺が描いた奴だと思われた。璃奈(作者様)ァ!早く帰ってきてェ!

 

「まさか、こんな所で再会出来るとは思っていなかったわ」

 

「そ、そうだな」

 俺もそう思う。再会出来たのは嬉しいけど、時と場所が少し。いや、かなりマズい。

……さて、そろそろ回想に入っても大丈夫かな?

 よし、回想に入ろう。あれは、今から2日前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

──2日前、第603鎮守府──

 

 

 

18:30。

 

 

 

「ふぅ、無事帰って来れた」

 プールから鎮守府に戻り、車から荷物を降ろしてパラソルとブルーシートを点検し、それが終わって片付けた俺は、額の汗を手で拭いながら呟いた。

 平和に……とは言えないが、プールで楽しむ事が出来た。

 三日間連続で行ったから、少しだけ疲れた。けど、楽しかった。良い思い出になりそうだ。

 

(理性が何度も崩壊しそうになったがな)

 肉体的接触が多くて、欲望の赴くまま襲いそうになった。しっかりしなくては。

 さて、軽くシャワーを浴びて食堂に行って飯を食おう。今夜の担当は摩耶だ。メニューは何だろう?

 

「あっ、提督!」

 

「ん?」

 夕飯のメニューが何か想像していたら、私服姿の秋雲が声を掛けてきた。

 

「どうした?」

 焦った顔をしているが、何かあったのか?

 

「あ、あのさ……実は──」

 

 

 

…………。

 

 

 

「よし、今から行こう!」

 そういう事なら、早い方がいい。

 

「うえぇ!マジで!?いいの!?」

 

「明日でも大丈夫かもしれんが、料金が更に増す。それに、試作してもらって誤字脱字、落丁等が無いか確認する時間があった方がいいだろ」

 

「う、うん……」

 

 よし、皆に事情を説明して、車を出そう。

 

 秋雲に何を言われたかって?夏○ミの原稿が完成し、明日の朝一で印刷会社に行って製本してもらう為、俺に外出届を貰いに来たそうだ。

 夏コ○は明後日開催。今年は手伝ってやれなかったから、かなりギリギリに完成したみたいだ。もっと構ってやれば良かったと後悔。

 

 話が脱線したな。製本は明日でも大丈夫だが、割増料金が発生する。今日中に行けば、明日製本してもらうより、安く済む。まぁ、それでも通常より料金がかかるが。あと、さっき説明したが、落丁等していないか確認出来る時間が増える。

 だから、今から行こうと提案した。幸い、車の鍵はポケットの中にある。

 

「原稿を持って来い。3分間待ってやる」

 ニヤリと笑いながら、秋雲に某大佐の名言を言ってやった。それを聞いた秋雲は、

 

「40秒で支度してくる!」

 

 某空賊の名言で返してきた。そんなに急がなくても大丈夫だぞ。そう言おうとしたが、秋雲は既に走って行ってしまった。

 

「今のうちに連絡しておくか」

 スマホを取り出し、第603鎮守府で一番察しの良い、足柄に電話を掛けた。

 ワンコール。……出た。早いな。スマホを弄っていたのか?

 

『もしもし、どうしたの?』

 

「足柄、すまんが俺は秋雲と印刷会社に(・ ・ ・ ・ ・)行ってくる(・ ・ ・ ・ ・)。皆に──」

 

『コ○ケの原稿の製本ね?オッケー、皆に伝えておくわ。気を付けて行ってらっしゃい』

 

「ありがとう。夕飯は先に食べてくれ」

 流石足柄。印刷会社というワードだけで、察してくれた。通話を切り、秋雲が来るのを待つ。

 

「おっ、お待たせぇ〜!」

 

「早いな。ちゃんと全ページ入っているか?」

 40秒もかかっていない。そんなに急いだら、原稿を何ページか忘れていそうだ。大丈夫なのか?

 

「原稿は夕方頃、全部確認して封筒に入れたから、大丈夫だよ!」

 

「一応、確認しよう」

 しかし、万が一がある。俺は秋雲が持ってきた、原稿の入っている封筒を開いた。そして一枚一枚確認をした。

……うん。全ページあるな。封筒に仕舞う。

 確認を終え、俺達は車に乗り、印刷会社へ向かった。

 片道約一時間だ。暇だからラジオでも付けるか。

 

 

 

………………。

 

 

 

「では、よろしくお願いします」

 

「お願いします」

 

「お任せ下さい」

 

 車を走らせ、約一時間後。目的地の印刷会社に到着し、職員さんに製本の依頼をした。

 コ○ケ2日前の製本だから割増料金が発生したが、仕方ない。それよりも、こんなギリギリに依頼してすみません。

 

 俺達が依頼した時、印刷会社の職員さん達は笑顔で、優しい声で対応して下さったけど。

 

(全員目が死んでいて、目元に深い隈が出来ている……)

 それに、頬がゲッソリとしている。なんか、申し訳ございません。

 依頼した原稿の試作品が完成する間、暇なのでチラッと印刷機を見ると、全機フル稼働。俺達以外の人が依頼した原稿が製本されていた。

 

「ふふっ……毎年、この時期と年末になるとこうなります。ある意味、風物詩です……くくく……」

 

「は、はぁ……」

 俺が印刷機を見ていると、男性職員さんが虚ろな目をしながら。乾いた笑い声を出しながらそう言ってきた。ほ、本当に、申し訳ございません……。

 

 今まで秋雲は余裕を持って原稿を仕上げていたから、こんなギリギリに依頼しなかった。だから、ボロボロになっている職員さんを見るのは初めてだ。

 

「ここ数日、機械をフル稼働させているから、そろそろ休めないとマズいなぁ……あっ、そうだ、モ○エナ(緑)飲ませてあげよう。きっと喜んでくれる……」

 

「」

 

「」

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

──第603鎮守府、秋雲私室──

 

 

23:30。

 

 

 

「……お品書き、用意出来たぞ」

 

「……ありがと。そこに入れておいて」

 

 印刷会社で原稿を試作してもらい、誤字脱字、落丁等が無いか確認し、問題が無かったので50部(・ ・)、製本してもらった。

 料金を払い、完成した薄い本を受け取る際、

 

 

『出来たてホカホカの、元気なお子さんですよ♪』

 

 

 目のハイライトが消えた男性職員さんが、完成した薄い本の入った段ボールを、微笑みながら俺に差し出し、そう言ってきた。

 もうね、とっても怖かった。優しい声で微笑んでいたけど、目が死んでいた。

 

「……今後、原稿は余裕を持って完成させます」

 

「……そうしよう」

 職員さん達のあんな姿を見たせいか、俺と秋雲は今後、原稿は余裕を持って作ると心に誓った。

 完成した薄い本を受け取り、車に積み、鎮守府に戻った。

 到着したのは23:00。夕食を摂っていないが、ショッキングな光景を見たことで、食欲は完全に喪失してしまった。 

 

「……よし、続きは明日やろう。俺は部屋に戻る。しっかり休めよ?」

 

「うん、分かったよ〜。本当にありがとう、提督」

 

「どういたしまして。それじゃ、おやすみ」

 

「おやすみ〜」

 

 俺は秋雲の部屋を出て、自室に向かった。うおっ、暑い!秋雲の部屋はクーラーがついていたから快適だったが、外は暑いし、湿気が凄い。

 さっさと部屋に戻って、シャワー浴びて寝よう。

 

 

 

………………。

 

 

 

「──あっちぃ」

 お湯を使わないで、冷水でシャワー浴びた方がいいかもしれない。

 シャワーを浴び、部屋に戻ってクーラーをつける。おおおお……涼しい……。

 

「──はぁ」

 シャワーを浴びる前に敷いておいた布団に寝転がる。

 あ〜、疲れた。三日連続でプールはキツかったなぁ。

 そこまで泳がなかったが、精神的に疲れる事が起きたから、思っていたより疲れてしまった。

 

(……寝よう)

 色々思う事があるが、今は寝よう。

 明日は秋雲のコミケの準備を手伝って、明後日。休養状態最終日に、コ○ケにサークル参加。

 

(なんか、慌ただしいなぁ)

 休養状態なのに、めっちゃ疲労が溜まるような事しかしていない気がするんですが……。

 

(だから、考え事するな。寝ろ)

 もう日付が変わる。さっさと寝ないと、明日に響く。

 目を閉じ、無心になる。やがて睡魔が襲ってきて、眠りについた。

 

 

 

 余談になるが、俺が眠りについた後、寝込みを襲おうとした娘達(・ ・)が居たと、コミケが終わったあとに知った。

 これについては、気が向いたら話そう。

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

──休養状態13日目、第603鎮守府、提督私室──

 

 

 

08:00。

 

 

 

 

「……んん?」

 カーテンの隙間から、日差しが差し込んできている。もう朝か。

 えっと、今は何時だ?……08:00か。普段より2時間以上起きるのが遅いな。

 

「……顔洗おう」

 

 

 

………………。

 

 

 

──第603鎮守府、食堂──

 

 

08:25。

 

 

 

「──あっ、提督さん、おはよっ♪」

 

「あら、おはよう、提督。朝食なら、ラップして冷蔵庫に仕舞ってあるわ。──はい」

 

「おはよう。──矢矧、ありがとう」

 顔を洗い、身支度を整えて朝食を摂りに食堂へ行くと、瑞鶴が麦茶を飲んでいた。矢矧は、冷蔵庫から朝食を取り出して手渡してくれた。

 今朝はスクランブルエッグとベーコンに食パンか。皿を電子レンジに。食パンをトースターに入れて加熱。……こんなんでいいだろ。

 温めた朝食を取り出し、ラップを剥がしてトーストしたパンを皿に乗せ、コップに麦茶を入れて、瑞鶴の隣に座る。

 

「昨晩はどうしたの?足柄が「提督と秋雲は大切な用事があるから出かけた」って言ってたんだけど……」

 

「あ〜……実は、コ○ケの原稿を印刷会社に持って行って、製本してもらったんだ」

 瑞鶴に昨夜、なにがあったのか説明した。

……ん?瑞鶴の頬に、小さい青痣(あおあざ)が出来ている。どうしたんだ?

 

「コ○ケ?コ○ケって、コ○ックマーケットの事?」

 

「あぁ、そうだ」

 気になるが、後で聞こう。

 

「へぇ、参加するんだ。あっ、私も行きたい!」

 

「……ダメだ」

 

「どうして?」

 

「瑞鶴はコ○ケに参加した事はあるか?」

 

「無いよ?」

 

「小規模な同人イベント等に参加した事はあるか?」

 

「一度も無いわ」

 

「……やめておけ、死ぬぞ」

 初心者が、例えサークル参加でも行かない方がいい。

 しかも、同人イベントに一度も参加した事が無いと来た。

 俺は何度か秋雲と夕張の三人で小規模な同人イベントに参加して感覚を掴んだ後、コ○ケに参戦(・ ・)した。

 初めてコ○ケに参戦(・ ・)した時の衝撃は、今でも忘れられない。なので、小規模な同人イベントすら参加した事の無い瑞鶴がコ○ケに参加したら、確実に殉職(・ ・)するだろう。

 

「あははは、そんな大袈裟な──」

 

「大袈裟なんかじゃない。事実だ」

 マジトーン、マジ顔で言ってやった。

 俺の真剣な声と顔を見聞きし、笑っていた瑞鶴は真顔になった。

 

「……そんなにヤバいの?」

 

「ヤバいの数十倍。いや、数百倍のヤバさだ」

 決して誇張表現ではない。日本語がおかしいが、気にしないでくれ。

 

「け、けど……」

 

「もし瑞鶴に何か起きても、助けられないかもしれん」

 

「そ、そんなに?」

 

「えぇ、ヤバイわ」

 

「「!?」」

 えっ、矢矧?いつの間に隣に居たの?

 俺が瑞鶴に、コ○ケのヤバさを説明していたら、矢矧が会話に参加してきた。

 

「コ○ックマーケット通称○ミケ年に二度夏と冬に三日間開催されるお祭りよ一日で約15万人前後の人が集まるわとてもじゃないけど同人イベントに一度も参加した事の無い初心者は行かない方が良いわよ?」

 

「「…………」」

 めっちゃ真剣そうな顔で。早口でコミ○について説明してくれた。あのぉ、矢矧さん、もしかして、その口ぶりからすると……いや、よそう。俺の勝手な予想で読者を混乱させたくない。

 

「……はっ!?」

 

 あっ、矢矧が正気に戻った。白いお顔が茹でダコみたいに赤くなっている。

 

「ねぇ、矢矧。その口振りからすると──」

 

「い、言わないで!」

 

「○ミケに参加──」

 

「アー!アー!」

 

 矢矧選手、叫んで瑞鶴選手の言葉を遮りました。

 

「……」

 

「……」

 

 おっと、両者沈黙。さぁ、どうなる?

 

「矢矧は○ミケに参──」

 

「アー!アー!」

 

 瑞鶴選手、再び発言。しかし、矢矧選手がすかさず叫んで遮りました。

 

「……」

 

「……」

 

 再び沈黙。面白そうだから、暫く様子を見よう。

 

「……コミ──」

 

「アアアアア!!!」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙。そろそろ止めよう。

 

「なぁ矢矧、落ち着──」

 

「アアアアアアアアア!!!」

 

 叫ぶな。……この様子だと、矢矧はコ○ケに参加した事があるな。

 

「矢矧、落ち着け」

 

「……はい」

 

「参加した事があるな?」

 単刀直入に聞いてみた。

 

「」

 

「沈黙は肯定とみなすぞ」

 

「……はい、あります」

 

 蚊の鳴くような声で答えてくれた。

 正直に言おう。信じられん。

 あの矢矧が。

 養成所で「オタ文化は苦手」と言っていた矢矧が。

 

 

(コ○ケに参加した事があるなんて……)

 一体、どんな心境の変化があったんだ?

 

「……舞鶴の提督に、色々布教されて、気が付いたらハマっていたのよ……」

 

「マジか」

 舞鶴鎮守府で何があったんだ?めっちゃ気になる。けど、本人は話したくなさそうだし……。

 

「正確には再燃した、だけど。……昔、私が幼い頃、父さんと母さん、姉さん達が読んでいた少女漫画や、オタク系の漫画・アニメとかを見て、興味を持っていた時期があったの。けれど、その……」

 

 なんか語り出した。とりあえず聞こう。

 

「自分で言うのもなんだけど、周りから「凛々しい」だの「カッコイイ」だの言われるようになって。周りの人達の、私のイメージを壊したくなかったから、そういった趣味を捨てたの……」

 

 おぉう。予想より重い理由。

 

「……笑わないの?」

 

「笑うかよ」

 

「同じく」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

 

──秋雲私室──

 

 

 

11:00。

 

 

「秋雲、これは、こっちでいいのか?」

 

「うん、そっちでお願い」

 

「分かった。瑞鶴、それはこっちだ」

 

「あっ、そうなんだ」

 

 食堂で衝撃の事実を知ってから数時間後。俺と矢矧と瑞鶴は秋雲の部屋で、明日の準備をしていた。

 瑞鶴と俺に隠れオタだとカミングアウトしてくれた矢矧は、吹っ切れたのか普段の矢矧に戻ってくれた。そして、準備が終わっていないと俺が話したら、矢矧と瑞鶴は手伝いを名乗り出てくれた。

 

 

 

 四人で作業をしているから、予定より早く終わりそうだ。

 

「……よし、後は飲み物、タオル等を用意しよう。そろそろ夕張が帰ってくる」

 

「クーラーボックスの用意しとかないとマズいね。提督、頼める?」

 

「任せろ、秋雲」

 タオルは鎮守府から持っていけばいい。飲み物は現在、夕張が買いに行ってくれている。

 

「んじゃ、クーラーボックスの用意してくる」

 

「あいよ〜」

 

「分かったわ」

 

「気を付けて行ってきてね、提督さん」

 

 三人にそう言われ、俺は秋雲の部屋を出て物置小屋へ向かった。

 

「あっついなぁ」

 日差しが強い。予報だと明日は今日よりも気温が上がるとテレビでやってた。

 コミ○は室内で行われ、人が大勢来る。それにより、気温や湿度が外より高くなる。気を付けないと倒れちまう。

 

(プールに行った時以上に、注意しないとな)

 下手したら、倒れる。救護室のお世話にならないよう、充分気を付けよう。

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

──休養状態14日目、某県某所、某駅──

 

 

 

 

現在時刻07:00、気温33℃。

 

 

「「ビッ○サイトよ、私は帰ってきた!」」

 

「やっぱり言いやがった」

 特徴的な形をした建物を見た秋雲と夕張……おっと、今はオフだから艦名ではなく、本名で言わないと。

 璃奈(秋雲)佳代(夕張)が、某ソロモンの悪夢の名台詞をアレンジして叫んだ。ぽいぽい言う狂犬(夕立)の方じゃないぞ?ジ○ンの少佐の方だぞ?

……あっ、そういや瑞鶴に「何故青痣が出来ていたのか」聞くのを忘れてた。帰ったら聞こう。

 

「ビッグ○イトに来たら、これを言わなきゃねぇ〜」

 

「同意するわ」

 

 璃奈の言葉を聞き、矢矧──香苗(かなえ)が微笑みながらそう言った。

 俺も言いたかったが、璃奈(あきな)佳代(夕張)に先に言われちまった。

 言うまでもないが、俺達全員、私服姿だ。提督服や艦娘の装束を纏って参加なんかしたら、注目を浴びてしまう。

 勿論、コミ○に参加する人達の中には、提督服や、艦娘の装束を模したコスプレをする人も居るが、流石に本物の装束を纏って参加はしたくない。つーか、そんな事したら大本営にバレる。

 

 何故、本物の艦娘が装束を纏うと艦娘だとバレるかって?はい、ここから解説入ります。

 

 東京ビッ○サイトの近くに、本物の提督や艦娘達が居る、有明鎮守府があるからです。

 もし本物の艦娘が装束を纏えば、妖精さん達に察知されてしまう。過去に一度、本物の艦娘が装束を纏って参加した事があるらしく、処罰されたそうだ。

 

 幸い、ソレ(・ ・)をした艦娘は、周りの人達──一般人達に本物の艦娘だとバレなかったが、有明鎮守府の妖精さん達に、艦娘の装束から発せられる特殊なエネルギーを察知、大本営に報告され、後日、艦娘とその艦娘が所属している鎮守府の提督が処罰されたそうだ。

 

 その艦娘と提督はどうなったから分からない。

……えっ?本物の提督が、大本営から支給されている提督服を着たらどうなるって?知らん。試した奴が居ないから分からん。試そうとも思わん。

 

 話は変わるが、実はこのビッグ○イト、一度破壊されたことがある。破壊した輩は誰か、って?深海棲艦です。

 コ○ケ運営委員会が公式ホームページで公開しているが、今から約70年前、跡形も無く破壊されたそうだ。

 ちなみに、日本で初めて深海棲艦と艦娘の戦闘が行われたのが此処、有明と言われている。

 これは話すと長くなるから、機会があれば、いつかまた話してやる。

 

「ほら、設営するから、早く行きましょう?」

 

「引っ張らないでくれ。痛む」

 

「あっ、ごめんなさい」

 

「くそぉ……ゾンビ(涼月)腹黒鶴(翔鶴)戦闘狂(由良)の奴らェ……」

 香苗に手を引かれたが、昨日、コミケに同行出来ないと知ったアイツらにプロレス技をかまされた。

 涼月からはボディスラム。翔鶴には浴びせ蹴り。由良にはウェスタンラリアットされた。お陰で身体が痛い。

 

 

『涼月も!○ミケに!参加します!』

『お姉ちゃんも、お手伝いします!』

『戦場なら、由良に任せて!』

 

 

 昨日の夕方、談話室で皆に「コ○ケに行くから留守番よろしく」と話したら、同行したいと言ってきた。

 勿論、断った。だって、皆、同人イベントやコミ○に行った事が無いから。

 

 

 誤解のないように言っておくが、今まで一度も同人イベントに参加した事が無い人でも、○ミケに参加するのは構わない。寧ろ、どんどん参加してください。

 ただ、初めて○ミケに参加される人は、想像の数十倍〜数百倍は辛い目に遭うと覚悟しておいてくれ。

 ちなみにだが、お昼過ぎ頃から参加すれば、比較的平和だ。ヤバいのは開始直後~午前中だ。

 しかし、昼過ぎ頃から参加すると、同人誌(通称・薄い本)やグッズ等が売り切れている場合がある。それでも良い人──コ○ケの雰囲気を味わいたい人は、昼過ぎ頃に行く事をオススメする。

 もう一度言う。ヤバいのは開始直後〜午前中だ。

 

 

 話を戻そう。

 第603鎮守府の皆は、一部を除いて同人イベントに一度も参加した事が無い初心者ばかり。倒れる恐れがある。

 俺の。俺達の都合で振り回したくない。辛い思いをさせたくない、という配慮から参加を断った。

 しかし。

 

 

『普段戦場に身を置いてドンパチしていますから、大丈夫です♪』

『一般人より身体を鍛えているから、大丈夫よ♪』

『地獄なら、他の誰よりも経験しています♪』

 

 

 涼月と翔鶴、由良はそう言ってきた。

 うん、まぁ、そうだね。けど、勝手が違う。幾ら身体を鍛えていても、慣れていないと倒れる。だから、断った。

 結果、キレた彼女達にプロレス技をぶちかまされ、身体を痛めました。

 

 

(彼女が止めてくれなかったら、もっと大騒ぎになっていたな……)

 香苗(矢矧)が止めてくれたお陰で、その場は収まった。ちなみに、香苗が隠れオタだという事は、話していない。

 何故彼女が同行するのか聞かれた際、「監視役兼お手伝いをする為」と言った。一部は納得していなかったが、渋々認めてくれた。

 

「そろそろガツンと言ってあげたら?「俺は暴力的な女は嫌いだ!」って」

 

「……考えておく」

 

 

………………。

 

 

 

──ビッグ○イト、サークル参加入口──

 

 

07:40。

 

 

「サクチケと身分証をお願いします」

 

「はい」

 

「……ありがとうございます。どうぞ」

 

 駅からビッ○サイトに向かい、サークル参加者用の出入口に待機していたコ○ケスタッフにサクチケ──サークルチケット。サークル参加を証明するチケットと身分証を見せ、中に入った。

 

 周りを見ると、俺達以外のサークル参加した人達が設営──薄い本やグッズ、お品書きやポスターを設置していた。カタログでも見たが、今年は例年より参加サークルが多いな。

 

「んじゃ、璃奈(秋雲)さんはポスターの設置するから、らっせー(渡良瀬)さんは薄い本を並べて」

 

「あいよ」

 

佳代(夕張)さんと香苗(矢矧)さんは着替えてきて」

 

「はーい」

 

「分かったわ。すぐに着替えて戻るわ」

 

「ゆっくりでいいよ〜」

 

 今回は佳代と香苗がコスプレして売り子を手伝ってくれる。どんな格好をするのだろう。

 二人を見送り、俺と璃奈は設営を開始した。おっと、設営を開始する前に……。

 

「おはようございます。本日はよろしくお願いします」

 

「おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 両隣のサークルの人達に挨拶をした。挨拶は大事だ。古事記にも書かれている。

 挨拶を終え、設営開始。前日、○ミケスタッフさん達が設置してくれたテーブルに、薄い本とお品書きを並べる。

 

(相変わらず、絵が上手い)

 段ボールから薄い本を取り出し、表紙に描かれた絵を見ながらそう思った。どうやれば、こんなに上手く絵を描けるようになるのだろう?

 

「らっせーさん、手が止まってるよ〜?」

 

「……わりぃ」

 表紙を見ていたから、作業の手が止まってしまった。今は設営に集中しよう。

 

 俺が今、テーブルに並べている薄い本は、最近流行りの深夜アニメ、「デストロイヤー・ウィンド=クラウド」に登場する主人公だ。ちなみに、R18モノだ。

 アニメの内容は、ほのぼのとした日常系……だったが、3話から主人公の親友が、主人公に喰い殺されるという衝撃の展開になり──

 

「お〜い、手が止まってるよ〜」

 

「……すまん」

 アニメの内容を思い出していたから、また手が止まってしまった。しっかりしろ。

 頬を軽く叩き、気持ちを切り替え、設営作業を(おこな)った。集中して行ったから、予定より早く終わらせる事が出来た。これで良し。あとは着替えに行った佳代(夕張)香苗(矢矧)が戻って来るのを待つだけだ。

 

「あっ、私、ちょっと知り合いのサークルに挨拶してくるね」

 

「分かった、俺はここで待っているよ」

 俺は璃奈(秋雲)を見送り、設営を終えたサークル内のパイプ椅子に腰掛ける。……隣のサークルさん、設営に手こずっているな。手伝おう。

 

「お手伝いしますよ?」

 

「えっ?あっ、すみません」

 

「いえいえ。困った時はお互い様です」

 助け合い精神は大事だ。古事記にも……書かれていたっけ?まぁいいや。

 

 

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 

 





次回予告


 始まったわね。それにしても、私がサークル参加するとはね。それに、提督達に隠れオタだとバレてしまった。
 けれど、笑われたり、否定されなかった。
……ふふっ。やっぱり彼、優しいわね。それだから、あんなに人気があるのでしょう。
……さて、楽しみましょう。今日の為にこっそり作ってきた衣装、自分で言うのもなんだけど、会心の出来なの。彼が見たら、どんな反応をしてくれるのかしら?
……あら、サークルの前に誰か居る。……えっ、彼の知り合いなの?高校の時の友人?



第64話・休養その18



「何故、あなたの鎮守府に瑞稀さんが居るの?」




※実際の印刷会社の職員さん達は、小説内のような言動は一切取りません。
 あくまで演出の為に、あのように描写しました。

※決して、印刷会社に務めている、作者の友人の気持ちを代弁しているわけではありません。

※作者はサークル参加をした事が無い為、実際とは異なる場合がございます。もし間違った描写をしていましたら、指摘してしてやってください。



【補足的なナニか】

・印刷会社…薄い本を製本してくれる所。同人誌を作ろうと考えている人は、事前に各自で調べて下さい。
 コミケや同人イベントの時期になると、修羅場になる。作者の友人曰く、奇行に走りたくなるほど忙しくなる。

・コミケ…正式名称、コミックマーケット。別名・有明の戦場。
 毎年、夏のお盆頃と冬の年末頃に、三日間に渡って、東京ビッグサイトで開催される地獄の宴お祭り。
 一日平均約15万人が参加すると言われている。
 とにかく人が多い為、室温が気温よりも高くなる。室内に雲が発生(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)したこともある(※コミケ雲)。
 生半可な覚悟で参加すると、酷い目に遭います。
 とにかく人が多い為、御手洗の行列が凄まじかったり、携帯電話の電波が届かなかったりする。

 コミケに「お客様」は存在しません。
 全員が「参加者」です。
 周りに迷惑をかけないよう、注意しましょう。

・サークル…コミケで薄い本──同人誌やグッズ等を販売する存在。
 「薄い本」は基本、500円〜1000円前後で販売している(サークルによります)。
 事前に小銭を用意しておきましょう(小銭は銀行で両替しましょう。ゲーセン等で両替するのは御法度です)

 薄い本を購入する際、五千円札や万札を出されると、あまり喜ばれないので注意しましょう。五千円札や万札出して「釣りは要らねぇ!」と言ってあげると、逆に喜ばれます。
 
・3分間待ってやる…元ネタは「天空の城ラピュタ」の登場人物、「ムスカ大佐」の名台詞。

・40秒で支度してくる!…「天空の城ラピュタ」に登場する「ドーラ船長」の名台詞、「40秒で支度しな!」が元ネタ。
 個人的にラピュタで一番好きな台詞。

・ビッグサイトよ、私は帰ってきた!…元ネタは「機動戦士ガンダム 0083 STARDUST MEMORY」より、登場人物の一人、「アナベル・ガトー」の名台詞「ソロモンよ、私は帰ってきた!」をアレンジした物。

・有明鎮守府…この小説オリジナルの鎮守府。今後、主人公達に関わってくるかは、現時点では不明。

・コミケスタッフ…非常に良く訓練された変態紳士と変態淑女だけで構成された人達コミケを盛り上げてくれるスタッフ。
 誘導から案内、果ては救護まで幅広くこなす人達。
 とても秀逸なギャグを言ってくれるので、見かけたら耳を傾けてみよう。腹筋崩壊します。

・デストロイヤー・ウィンド=クラウド…作者の頭の中で数秒で思い付いた単語を並べました。
 デストロイヤー…駆逐艦の英語名。
 ウィンド…風。
 クラウド…雲。
 決して、夕雲型駆逐艦三番艦の少女をモチーフにしたわけではない。


・鳳…新キャラ(?)。主人公の高校生時代の友人らしい。
 一体、何者なんだ……。
 

 以上で補足を終了します。
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