前話にて、ダズル迷彩の日本での呼称を「迷惑迷彩」と描写している箇所がありました。
正しくは、「幻惑迷彩」です。
ご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございません。
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ
頭を空っぽにして、ご覧下さい
実際の物とは異なる描写が含まれています。
予め、ご了承ください。
この小説に登場する人物達は全員、特殊な訓練を受けています。
真似をすると、大怪我を負うか、最悪、死亡する恐れがあります。
決して真似しないでください。
side 提督
──第603鎮守府、工廠──
15:10。
「これが、榛名の艤装……」
「そうだ。これから、艤装と接続して異常が無いか確認を行う。まずは改二用の装束に着替え──」
「Урааа!!!」
「榛名?榛名さん?落ち着いて?」
数分前、放送で榛名を呼び、鎮座している自分の艤装を見た瞬間、榛名は叫びながら飛び跳ねだした。こらこら、嬉しい気持ちは分かるが、飛び跳ねない。スカートが仕事放棄しているぞ?
何がとは言わんが、以前俺が選んであげた、両サイドに黒の縦縞模様が入った、白い布がモロ見えしている。
「榛名さん、こちらの装束に着替えてきてください。着替えが終わりましたら、艤装と接続して異常が無いか確認します」
「はい、了解です!」
「あ、元に戻った」
飛び跳ねていたが、夕張に声を掛けられると正気に戻り、装束を受け取って工廠内にある更衣室へ
「榛名さん、とても喜んでいましたね」
「あぁ。だが、喜ぶ気持ちは分かるが、接続中はしっかりしてもらわないと、思わぬ事故に繋がる恐れがある。接続する前に一度、注意しよう」
「そうですね。浮ついた気持ちで接続を行うと、トラブルが起きるかもしれませんし。私が注意するより、提督が注意した方がいいので、お願いしますね?」
「任せろ」
「お待たせしました!」
「早っ!?」
「はぁっ!?もう!?」
おいおい嘘だろ?一分もかかっていないぞ?早過ぎない?
こんなに早く着替えるとは思わなかったから、思わず俺と夕張は叫んじまった。
早着替えをして俺達の前に立つ榛名は──あれ?今まで着ていた装束とそっくりだぞ?本当に着替えたのか?
もう一度よく見ると……うん。今まで着ていた装束とそっくりだ。妖精さん、本当に着替えたの?目線で問いかけると、苦笑いしながら頷いてくれた。どうやら本当に着替えたようだ。
「は、榛名さん、念の為、チェックさせて頂きます!」
「えっ?あの、ちゃんと着替えましたよ?」
「夕張、頼んだ。工廠の外に居るから、終わったら声を掛けてくれ」
「了解です!」
「えっ?あ、あのっ!本当に着替えましたよ?」
背後から夕張と榛名のやり取りが聞こえた。それだけじゃない。衣擦れの音も聞こえる──聞いてんじゃねぇよ、さっさと外に出ろ。
……よし、ここでいいか。丁度日影になっているし、中も見えない。あとは終わるまでここで待機──
「まずは上から確認します!」
「へっ?あっ、夕張さ──あんっ!」
「さ、サラシ……だと!?榛名さん、ブラは!?」
「え?あの、その、激しく動くと胸が
「なん……だと……」
「…………」
君達、もう少し小さい声でやり取りしてくれませんか?工廠の外に居ても聞こえてくるんですが。……あっ、工廠の妖精さん達がニヤニヤ笑って俺を見ている。からかわないでくれ。……ん?君は、艦載機妖精さん?俺の顔を見てどうした?……行っちゃった。なんだったんだ?
「ひゃああああんっ♡」
「軽く触れただけで、この反応。なんて感度だ!じゃあ、これは!?」
「あぁんっ♡」
「おぉっ!これでも反応するの!?凄い!」
「ゆっ、夕張さん、やめっ──」
「デカい!形が良い!張りもある!そして感度が良い!最強のおっ○いじゃないですかああああああッッッ!!!」
「ひゃあああああああああんっっっ!!?」
……夕張、ふざけていないで、さっさと終わらせなさい。
……おい、妖精さん達。その手に持っている物は何だ?今、正直に言うなら、提督さん怒らないから言ってみなさい。
……小型集音器と小型ボイスレコーダー?榛名さんの嬌声を録音しました?今すぐ削除しなさい。……削除してくれた。良い子だ。
どうでもいいがこの後、約5分間。夕張の興奮したような声と、榛名の嬌声が工廠から聞こえた、とだけ言っておく。
───────
……へぇ?そうなんだ?
……ふふっ。私も、形や大きさ、張りだけじゃなく、感度もそこそこ良い方なのよ?
今度、準に教えてあげましょう♪
「翔鶴さん、どうかされました?」
「──あっ、扶桑さん。すみません、少し、ボーッとしてしまって……」
いけない、今私はタンカーの警護をしていたんだ。しっかり索敵しないと。
……さて。何時教えてあげようかしら?
そういえば、先日二人きりで出かける約束をしたわね。その時、さり気なく教えてあげましょう♪
うふふふ……うふふふふふふふ♪
───────
………………。
16:20。
「シンクロ率……チェック。
主機……チェック。
バランサー……チェック。
主砲……チェック。
副砲……チェック。
ギミックアーム……チェック。
……全システム、チェック完了。異常なし。艤装との接続を解除!」
夕張がチェックを終え、妖精さんに指示を出すと、榛名の艤装に接続された大量のケーブルを一つずつ解除していった。
話が前後するが、夕張が榛名の装束を確認した所、問題は無かった。
何故榛名はあんなに早く着替えられたかと言うと、榛名曰く「従来の装束とほぼ同じだった為、素早く着替える事が出来た」そうだ。
話を戻す。夕張に榛名の装束を確認してもらった後、艤装との接続を開始した。それはいいが、かなり時間がかかった。
昨日接続を行った鈴谷は、約10分程で終わったが、榛名のはなんと一時間近くかかった。
夕張や妖精さん達が言うには、艤装の情報量が非常に多かったから時間がかかったそうだ。
分かりやすくデータ容量の単位で例えるなら、鈴谷のは
「榛名さん、何処か具合が悪かったり、違和感はありませんか?」
「いいえ、今の所は大丈夫です」
「そうですか。もし、具合が悪くなったりしたら、直ぐに言ってくださいね?」
「はい!」
「……無事終わったみたいだな」
俺は少し離れた所から様子を見ていたが、大丈夫そうだ。
しかし、榛名が艤装との接続を行っている最中、榛名の様子がおかしくなった。
上手く言葉に出来ないが、とても悔しそうな。悲しそうな顔を、ほんの一瞬だけしたのを見た。
(しかし、直ぐに普段の顔に戻った)
あれは、一体なんだったんだ?
不安になり、夕張と妖精さん達に確認したが、異常は無いと言われた。
けど、少しだけ不安だから、しっかり榛名の様子を見ておこう。
「えぇ。予想より時間はかかりましたが、艤装との接続は完了しました。次は試運転をしてもらって、感覚に慣れてもらうだけです」
「分かった。榛名、演習場に向かってくれ」
「了解しました!」
………………。
──第603鎮守府、埠頭──
17:00。
「──よし、そこまで!榛名、一旦戻って来てくれ」
『了解しました!』
「……凄いな」
接続後、榛名に試運転をしてもらったが、圧巻の一言だった。
航行速度、旋回速度、主砲の装填速度及び精度。この他にも沢山あるが、あらゆる性能が従来の艤装と比べると、大幅に向上していた。
「あれ?榛名さんって、巡洋艦娘でしたっけ?」
「残念ながら、戦艦だ。正確には「高速戦艦」だが」
「うぅ……タービンをガン積みしているわけじゃないのに、私より早いって……」
「……」
あーあ。夕張が半べそかいてる。なんて声掛けたらいいんだ?
無理もない。あまり言いたくないが、夕張は軽巡洋艦娘だが、同じ軽巡洋艦娘と比べると、速度が少し遅い。
艦娘になったばかりの頃は、その事をコンプレックスにしていたが、第603鎮守府で過ごしていく間に少しずつ解消され、気にならなくなった!と本人が言っていたが。
「チキショー!チキショウメェー!!」
再発しちまったみたいだ。下手に慰めると、余計に悪化する恐れがある。マジでどう声を掛けよう?そ、そうだ!
「夕張、まだギミックアームのテストが完全じゃない。誰かに頼んで演習をしてもらって、データを採取しよう」
肝心のギミックアームのデータ収集が終わっていない。
さっき榛名に主砲やら副砲やら撃ってもらった後、ギミックアームを作動させて振り回してもらった。
問題なく動いたが、動かせただけだ。
敵の主砲を防げるのか。演習で艦娘や、実戦で深海棲艦を殴打しても問題が無いのか。それらが分からない。だから、誰かに頼んで演習をしてもらおう。
「──ッ!?そうでした!まだ、ギミックアームのデータが取れていません!提督、早く誰かに頼んでください!」
「わ、分かった」
おぉう、急に元気になった。何とかなった……のか?
いや、もしかしたら、今この瞬間だけ元気になっても、後々落ち込む恐れがある。暫く様子を見よう。
とりあえず、今から誰かに頼んで演習をしてもらおう。
現在、第603鎮守府に所属している艦娘は全部で23名。
内、出撃で6名──旗艦・瑞鶴、千歳さん、摩耶、足柄、阿武隈、涼月。
タンカー警護に6名──旗艦・翔鶴、葛城、扶桑さん、木曾、満潮、時雨。
計12名は不在。
余裕があるのは、山城、鈴谷、秋雲、早霜、初霜、海風。そして、由良の7名だ。
矢矧と夕立は買い出しがあるから除外。
夕張はデータ収集と解析を行う為、除外。
榛名は言わずもがな。
……俺?バカ言うんじゃねぇよ。
俺、やだよ?まだ死にたくない!まだ瑞鶴と……その……【ピー】してないし……あー!この話終わり!閉廷!
……頭を仕事モードに切り替えろ。
……よし、仕事モードになったぞ。
「同じ戦艦同士で
「戦艦にとっての殴り合いって、本来、損傷覚悟での砲撃の応酬のことなんだけどなぁ……」
これから始まるのは、砲撃の応酬ではなく、拳と拳──山城は生身の拳。榛名は艤装の拳だが──の応酬が繰り広げられる。
想像してみる。……うん。ただのキャットファイトだね。
余談になるが、我が第603鎮守府において、徒手格闘では山城の右に出る者は居ない。
徒手格闘限定になるが、あの薩人大和撫子化した扶桑さんや、瑞鶴(裏瑞鶴含む)、翔鶴、夕立、由良、デンジャラス・ラブ・ゾンビ化した涼月にすら勝てるのだ!
……千歳さんは分からん。山城曰く、まだ殺り合っていないから、未知数とのこと。
山城、やめとけ。その人──千歳さんは
「まぁまぁ、細かいことは置いときましょう。急がないと、日が暮れちゃいます」
「そうだな。放送で呼んでくる」
幾ら夏──日が長いとはいえ、モタモタして良い理由にはならない。急ごう。
「提督さん、由良に
「」
「」
「……ふふっ♪」
「」
「……
「ついさっきです♪後ろから提督さんを視姦ゴホン観察していました♪」
「今、視姦って言おうとしたよね?」
咳をして誤魔化そうとしたが、聞こえたぞ?あーあ、夕張が白目剥いて硬直しているよ。
執務室に向かおうとしたら、背後から由良が声を掛けてきた。全然気付かなかったぞ。気配消すの上手だねぇ。
「」
「夕張、しっかりしろ」
「──はっ!?」
「大丈夫か?」
「提督が、ハイライトの消えた目をした榛名さんに、ギミックアームで抱き締めらて、断末魔をあげる光景が見えました」
「何それ怖い」
マジで有り得そうなんですが。
……落ち着け、大丈夫だ。榛名はもう大丈夫になったんだ。
以前のサキュバスな榛名から、大丈夫な榛名になってくれたんだ。そんな事、起こるわけがない。
「……あー、由良、何故、榛名と演習をしたいんだ?」
気持ちを切り替え、由良に聞いた。すると、先程まで微笑んでいた由良は表情を引き締め、真剣な顔になった。
「理由は2つあります。1つは、由良は戦艦と戦った事は何度もありますが、
「続けてくれ」
「昨日出撃し、装甲空母姫及び護衛艦隊と戦闘をした際、勘が鈍っている事に気付きました。2週間、出撃や艤装を纏って鍛錬をしなかったから、鈍ってしまったみたいです。なので、勘を取り戻す為。これが、2つ目の理由です」
「成程」
まともな理由だ。そういう事なら許可しよう。
山城との
「夕張、いいよな?」
「はい、大丈夫ですよ!」
「ありがとう。──榛名、聞こえるか?」
無線で榛名に呼びかける。数秒後、軽くノイズが走ったあと、榛名の声が聞こえてきた。
『こちら榛名。はい、聞こえます』
「試運転をして疲れているかもしれないが、これから、ギミックアームの性能テストを兼ねた演習をしてもらいたい。頼めるか?」
『演習、ですか?はい、榛名は大丈夫です。お相手は
「由良だ」
『由良……さん……』
あれ?榛名の様子がおかしいぞ?……あっ、そういや少し前、榛名は由良と演習をしたんだった。それで、言葉は悪いが一方的にやられた。その時のことを思い出して、トラウマが再発してしまったのかもしれない。
(もしそうなら、由良には申し訳ないが、我慢してもらおう)
演習相手を由良から、山城に変更しよう。そう思っていると、
『提督、是非とも
「んんっ!?」
あれ?急に元気な声になったぞ?
『先日、由良さんに負けたので、リベンジを果たしたいです!』
「そ、そうか。分かった。それじゃあ、一旦戻って来てくれ。さっきの試運転で、燃料や弾薬を消費したから、補給を行う。補給が終わり次第、演習をしてもらうぞ」
やる気満々みたいだ。声を聞く限り、大丈夫そうだ。
『了解です!』
「……というわけだ。由良、準備をしてくれ」
「了解しました」
さて、どうなる事やら。
side 提督 out
───────
────
─
side 榛名
(由良さんと演習……)
一方的に嬲られ、ボロ負けしたあの日のことを思い出す。
油断せずに戦ったけど、負けてしまった。
でも、もう私は負けない。
今の私は、由良さんと同じ、第二次改装を施された存在。
まだ数時間しか稼働させていないけれど、やってやります!負けるわけにはいきません!
(負けてしまったら、失ってしまいますから……)
艤装との接続を行った際、艤装から、艦だった
空を覆い尽くす程の、敵の艦載機が飛ぶ光景。
対空機銃で必死に撃ち墜とそうとする軍人達。
敵艦載機の攻撃で被弾し、ボロボロになる榛名。
奮戦虚しく、軍港で大破着底する榛名。
何も出来なくなり、漂うだけの榛名。
そして、天高く上がるキノコ雲。
(……とても、悲しかった)
艤装から様々な負の感情と、想像を絶する光景が私の中に流れ込んできて、心が壊れそうになった。けれど、
(提督が。渡良瀬さんが、見守ってくれていた)
閉じていた目を薄く開くと、彼が私を見守っている姿が見えました。
それを見た瞬間、私の中に流れ込んでいた、怒り、絶望、憎しみ、悲しみといった負の感情が止まりました。
そして、今度は「護りたい」という強い感情が流れ込んできました。
(止まらない。溢れそう)
試運転を行っている間も、「護りたい」という感情が流れ続けてきました。
その感情は、彼から燃料と弾薬を補給するよう指示を受け、埠頭に向かっている今も続いています。寧ろ、どんどん強くなってきています。
(絶対、負けるわけにはいきません!)
負ければ、失ってしまう。失いたくない。失ってたまるか!
「……いけない、血が出ちゃった」
強く拳を握り締めたせいで、爪が皮膚を突破って出血してしまいました。ですが、大丈夫です!
艦娘の力と艤装の加護のお陰で細胞が活性化され、みるみる修復されていきます。……ほら、元通りです♪
「さぁ、
気合いは充分。
ふふふっ。
side 榛名 out
───────
────
─
side 由良
「……」
気温、35℃超え。湿度は70%前後って所かしら?
無風。お陰で波は穏やか。
空は雲一つない快晴。日が傾きかけている。
「上手く使えば、目眩しが出来そうね」
艤装──毎日手入れをして磨いている
「第二次改装を施された高速戦艦の性能。一体、どんな物なのかしら?」
提督さんと夕張には言ったけど、戦艦との戦闘経験は数え切れない程あるけど、高速戦艦との戦闘回数は非常に少ない。
「しっかり身体に叩き込まなくちゃ」
情報は非常に大事。戦場では、情報の有無で生死を分ける。
『こちら、榛名。配置に就きました』
『了解だ。……由良、そっちはどうだ?』
「こちら由良。配置に就きました。
考え事はここまで。さぁ、気持ちを切り替えなさい、
(
『では、演習を開始する。──始めッ!』
彼の演習開始を告げる声が、無線から私の鼓膜に響いた。
さぁ、
いつも通り、
加減?必要無い。
慈悲?与えない。
油断?
「
さぁ、行くわよ!
戦速一杯。推定35ノット。一気に直進。
無風だから、前回のように波を利用してフェイントはかけられない。
なら、小細工無しで勝負を挑むのみ。
「──ッ!」
撃ってきた。
勘を頼りに、スラロームしながら進む。
途中、戦速を一杯から第二戦速に変更。速度が落ちる。
風切り音。
艦娘の力で強化された視力で、砲弾を複数確認。
あの砲弾の数。どうやら斉射してきたみたい。
演習開始前にチラ見した所、主砲の砲塔は、片側2基4門。計4基8門。
斉射すれば、最大8発の弾を同時に飛ばせる。
弾の数は8。間違いなく斉射だ。
……約17m前方に弾着。
夾叉ではない。
行ける。いや、行く。
今回は榛名さんのギミックアームのテストが主目的だから、前回の演習より、開始時の互いの距離が近い。だから、届いた。
「──ッッッ!!?」
再び風切り音。
音のした方を見ると、砲弾が8つ、こちらに向かって飛んできている。
再び斉射!?装填速度が早い!
素早く戦速を一杯に変更。
……約9m後方に弾着。
(
しかし、従来の物と形状が少しだけ異なっていた。
微妙な違いだったが、確かに異なっていた。
この連射速度。間違いない。
「試製35.6cm
従来の35.6cm
「厄介ね」
手数の多さで仕掛けられたら、こちらが接近する前に仕留められる恐れがある。
しかし、接近してこちらの射程圏内に入っても、試製35.6cm
瑞雲ラリアットを仕掛けようにも、ギミックアームを搭載しているから、対応されてしまう。
(それでも、突破口を見つけてみせる!)
やる前から諦めたら、勝負はそこで着いてしまう。
気持ちだけは決して負けるな。
(それにしても、あの迷彩──)
厄介ね。かなり目立つ迷彩だけど、そのせいで感覚が狂って、獲物との距離、速度、進行方向が把握し辛い。
確か、ダズル迷彩という名前だったかしら?日本名では「幻惑迷彩」と呼称されているけど、
「幻惑迷彩じゃなくて、
あまり、見ない方が良さそう。
『榛名、全力で参ります!』
「……来た」
戸惑っている間に、かなり接近されてしまった。
「この距離なら!」
正確な距離は分からないけど、今まで身体に慣らした感覚から、主砲の射程圏内に入ったのが分かる。
獲物との距離感が狂っているけど、行ける!そこっ!
数え切れない程やってきた、主砲の発砲。
自分で言うのもなんだけど、流れるような動作で素早く構え、発砲出来た。
単装砲から放たれた砲弾は、狙い通り、獲物の脚部目がけて飛び──
「──はぁっ!」
予想通り、ギミックアームによって弾かれた。
可動範囲が中々広い。
へぇ、面白いじゃない。
再び発砲。
弾かれる。
もう一度発砲し、同時に魚雷も撃つ。
さっき撃った弾は、魚雷の方へ誘導する為の囮。
けど、ダメだった。
砲弾を弾かれ、更にギミックアームが魚雷を防いだ。
(砲雷撃戦は不利。なら!)
飛行甲板を水平に構え、瑞雲をセット。
……準備は整った。あとは、叩き込むタイミングを見計らうだけ。
互いの距離は、恐らく100m前後。
「──殺ってやる」
己の中で抑えていた、殺気を一気に放出。
狙うは、金剛型高速戦艦三番艦、榛名。只、それだけ。
機関出力を限界一歩手前まで上昇させ、突撃。
何度かフェイントをかけて、隙を晒したら一気に叩き込む!
距離、約50m。何故か獲物は主砲と副砲を撃ってこなかった。
……勿体ない。撃てば当たっていたのに。
心の中で少し。ほんの少しだけ気を抜いてしまった。
「はああああああああああッッッ!!!」
「なっ!?」
予想を遥かに超える速度で、獲物が突撃してきた。
推定速度、35ノットオーバー。
マズい、あの速度で接近されたら、叩き込むタイミングが。……いいえ。諦めるのは、まだ早い。
逆に、あの速度を利用して叩き込めば──
「今です!」
「何!?──ごあっ!?」
「捕らえました!」
「ぐ……うぅ……」
やられた。まさか、急加速するとは。
一瞬だけだったけど、
獲物が急加速し、ギミックアームに掴まれ押し倒されてしまった。
かなり大きなアームだから、包まれるように掴まれている。これは……逃げられない!
必死にもがいたけど、ビクともしない。
「由良さん」
「な、何……かしら?」
あらあら、
演習で良かったわね?
この「
「あの時。以前、演習をした際、榛名の顔に瑞雲ラリアットをぶち込みましたよね?」
「え、えぇ……」
どうやら根に持っていたみたい。あーあ。派手にシバかれるわね。
「お礼に、ぎゅ〜っとして差し上げます♪」
「どうせなら、提督さんにしてもらいたいなぁ?」
段々締め付けが強くなってきた。これ、複雑骨折と内臓破裂するわね。
……冷静に分析しているけど、正直、物凄く怖い。
まぁ、入渠すれば治るからいいんだけど。
……そうだ!入渠後に、提督さんの所に行って、甘えましょう!
理由は、怖かったとか、痛かったとか、適当に言えば何とかなる。
ふふっ、これぞまさに、怪我の功名ね?ねっ?
「ふふっ。
ダメです♪」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ゛!゛!゛!゛」
痛い!痛い痛い!!やっぱり痛い!!!意識……が…くそっ……くそがァ!覚え…て…ろ………榛…名………次…は……ぶ……ち……殺…………。
………………。
…………。
……。
side 由良 out
───────
────
─
side 提督
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛っ゛!゛!゛!゛』
端末から、由良の断末魔が聞こえる。
嘘だろ?あの由良が。数え切れない程の修羅場を潜ってきた由良が、こうもアッサリ負けるなんて。
「提督、早く止めましょう」
「お、おう。榛名!そこまでだ!演習終了!」
夕張にそう言われ、慌てて無線に向かって演習終了だと叫ぶ。
『はい、了解しました!』
「……はぁ」
幸い、榛名はすぐに聞き入れて、ギミックアームの力を緩めて由良を解放してくれた。
……あーあ、気絶してる。
榛名と由良の艤装に宿る妖精さん達が撮影している映像が、俺と夕張が持つ端末に映し出されている。その映像を見ると、由良が口から泡を吐き、白目剥いて気絶している。
内臓破裂や、複雑骨折しているかと思ったが、由良は吐血していないし、骨の砕ける音は聞こえなかった。
どうやら、榛名は絶妙な力加減で由良を締め上げ、気絶させたようだ。
ギミックアームを使いこなせるようになるまで、時間がかかると思っていたんだが、もうそこまで扱えるようるようになったのかと、感心したと同時に恐怖した。
「……榛名、由良を連れて戻ってきてくれ」
さて、演習は終わった。この後は演習の内容を記録し、それを報告書に纏めよう。しかし、まだ提出はしない。
理由は、技術課から「ある程度、稼働データを取ってから送ってくれ」と指示されているから。
まだまだデータが足りない。明日、誰かに頼んで演習してもらおう。……あっ、そういや明日、
『了解です!』
あんらまぁ、とっても
端末に映された榛名の笑顔を見て、そう思った。
これ、戻ってきたら
「……提督、私は工廠でデータの解析を行うので、榛名さんの対応をお願いします」
「お願いします夕張さん、俺を一人にしないでください」
なんか、あの榛名怖いです!
端末に映された榛名の顔は、ハイライトの消えた目で、アルカイックスマイル。とっても怖かった。
なんか、嫌な予感がする。だから、夕張に傍に居てもらおうと思ったんだけど……。
「それじゃ、頑張ってください!」
「夕張ィ!夕張ィィィィ〜!!!」
待って、置いてかないで!……早いな、アイツ。
端末を持って、今まで見たことのない速さで夕張は工廠に向かって走って行ってしまった。
……しゃーねぇ。対応してやらァ!
最近、榛名は大丈夫だったんだ。だから、大丈夫だろう。
そう思っていた。
───────
「提督!何故逃げるのです!」
「デッカイお手手広げながら追われれば逃げるわバッキャロー!」
そして、67話の冒頭に繋がります。
「榛名はただ、提督に褒めてもらいたいだけなんです!」
「よぉし!良くやった榛名!最高だ!素晴らしい動きだった!数時間足らずで艤装を使いこなせるなんて、凄いぞ榛名!」
「ありがとうございます!嬉しいので、ぎゅ〜っと抱きしめてください!」
「おっきいお手手を仕舞ってくれないと、ぎゅ〜ってしたくないなぁ!」
「えへへっ♪恥ずかしがり屋さんなんですね!代わりに、愛情をたっぷり込めて、
「おおっとぉ!日本語が通じていない!」
ここは日本だ。日本語理解して?
「護りたい気持ちがァ!高まるゥ!溢れるゥ!」
「やめろ榛名!それ以上気を高めるな!」
伝説の超野菜人になっちゃうよ!くそっ、距離が縮まってきている。
助けを求めようにも、榛名に対抗出来そうな娘は出撃や警護で不在だ。
「俺を救ってくれる娘は居ないのかよ!」
思わず愚痴る。最近大人しくなったから、大丈夫だと思っていたのに!
そう思った時だった。
「えっ!?」
頭上──鎮守府の屋根から声が聞こえてきた。誰だ!?太陽の光が眩しくて、よく見えない。
「だ、誰ですか!?」
「
声の主はそう言うと、綺麗に月面宙返りをしながら飛び降りてきた。
それと同時に、機械の唸るような音が鼓膜に響いた。
この独特の音は─────チェーンソーの音だ!
チェーンソー。つまり、この声の主は────
「鈴谷のチェーンソーは、岩をも砕くチェーンソーだあああああああああッッッ!!!」
「鈴谷ァ!」
ギミック付き主砲──ラ○サーを右手に持った鈴谷が、榛名目がけてチェーンソーを振り下ろした。
しかし、榛名は左側のギミックアームで受け止めた。
金属同士が擦れる音が響き、それと同時に激しい火花が散る!
おぉっ!なんかカッケェ!ギ○ーズ・オブ・ウォーのチェーンソーデュエルみたいですっげぇカッコイイ!
こんな時に言うのはどうなんだ?と思われそうだが、鈴谷が屋根から飛び下りてきた際、スカートが捲れて逆三角形の形をしたエメラルドグリーンの何かが見えた、と言っておく。
「うっそぉ〜ん……」
効果が無い事に気付き、榛名の右側のギミックアームで掴まれる前に急いで離れた鈴谷が、呆然としている。
無傷の戦艦棲姫すら、艤装ごと
おーい技術課、本当に鈴谷が持っているチェーンソーは、戦艦棲姫を切断出来るスペックを持っているんだよな?
「なんなんだァ?今のはァ?」
「覚醒しちゃってるよ」
あっ、だから切断出来なかったのね?納得。
……納得してる場合じゃないよ。どうする?
「提督〜」
「どうした、鈴谷」
「此処は私に任せて、先に行けっ!」
「それ死亡フラグ!」
「これが終わったら、ミ○ストップの新作ハロハロ、奢ってね♪」
「やだよ」
○ニストップのハロハロは美味い。だがな、危険なのを承知で助けてくれた報酬がそれじゃ、俺の気が済まない。
「ちぇ、ケチ」
「資○堂の、恋○のストロベリーパフェをご馳走してやる」
だから、もっと良いモンご馳走してやる。
「提督大好き!」
「おい、バカっ!」
嬉しそうに言うんじゃない!そんなこと言ったら、サキュバスさんが──じゃなくて、榛名さんが暴走しちゃうよ。
「……」
あ、あれ?静かだ。いやいや、待て、これは所謂、嵐の前の静けさって奴──
「何ラブコメやってんですか?」
あっ、キレた。
灰色っぽい前髪が顔を覆っていて、その隙間から血走った目でこっちを見ています。怖いです。ホラーです。気温は35℃を超えているけど、涼しくなってきちゃった。
「ね〜ね〜提督」
「なんだ?」
「鈴谷、逃げていい?」
「千○屋総本店・日○橋本店のパフェもご馳走してやる」
君が逃げたら、サキュバスさんに殴殺されそうだから逃げないで?追加報酬払うから、サキュバス退治してください。
「ッシャオラ!やっちゃうよ〜!」
なんか、ごめん。物で釣ってごめん、鈴谷。
side 提督 out
───────
────
─
次回予告
第69話・殴り合いの応酬
「言葉は要らない。さぁ……殴り合おうや……」
【補足的なナニか】
・高まるゥ!溢れるゥ!…元ネタは「ドラゴンボール」に登場する「ブロリー」の台詞、「気が溢れる……高まる……」。
・いるさっ!ここにひとり!!……元ネタは「スペース・コブラ」の主人公、「コブラ」の台詞。
・ランサー…ランサーが死んだ!この人で無し!
三菱のスポーツカー……の事ではなく、後述する「ギアーズ・オブ・ウォー」というゲームに登場する武装、「ランサー」が元ネタ。
アサルトライフルにチェーンソーを搭載し、「ローカスト」と呼称される地底人の強靭な外骨格を切り裂く事が可能。
ゲームでは「当てられれば一撃必殺」だが、切り裂いている最中は無防備になり、撃たれて死亡(ゲームオーバー)する恐れがある為、使い所を見極めないといけない。
・ギアーズ・オブ・ウォー…PCまたはXbox360専用のゲーム。
重厚なストーリー。リアルな銃撃戦。カバーアクション(建物や障害物の陰に隠れる)、そして、登場人物達の会話が秀逸。
無骨なガンアクションゲームを遊びたい方は、是非やってみよう。
・チェーンソーデュエル…上述した「ギアーズ・オブ・ウォー」内で、チェーンソー(ランサー)を持った者同士がチェーンソーをぶつけ合うアクション。とてもカッコイイ。
チェーンソーデュエル時はボタンが表示され、ボタンを連打し、勝てば相手のランサーを吹っ飛ばし、切り裂く。負ければ、こちらが切り裂かれ即死(ゲームオーバー)する。
・恋姫のストロベリーパフェ…「資生堂」のパフェ。とても美味しい。
甘党の人は、一度行ってみては如何?(ダイマ)
・千疋屋総本店・日本橋本店…甘党の人や、美味しいパフェを食べたい人は、諭吉さんを握り締めて突撃しましょう。
・AGP榛名改二…大本営技術課が提唱した変態プラン、【Armor Girls Project】を施された、金剛型高速戦艦三番艦、榛名の艤装(という設定)。
近接戦闘を可能にする為、艤装本体にギミックを搭載。
金剛型高速戦艦三番艦、榛名のAGP艤装には、【殴打を可能にする】ギミックアームを搭載。
積極的に殴打をする仕様の為、衝撃で主砲や副砲等にトラブルが発生しないよう、全体の構造が非常にシンプルに作られている。
装着者(艦娘)の精神状態により、性能が向上する報告有。
装着者(艦娘)のテンションが高まり、艤装との同調率が一定値に達すると……。
最大速度、36.4ノット。装着者(艦娘)の精神状態に応じて、速度が変わる模様。
技術課によると、一瞬だけだが51.4ノットを叩き出す事が可能との事。
・Aut mors aut victoria…ラテン語の格言。読みは「アウト・モルス・アウト・ウィクトーリア」。
意味はルビに振りましたが、「死か勝利か」。
第603鎮守府に所属する、長良型軽巡洋艦四番艦、由良が戦闘を開始する際に呟く言葉。
以上、補足終了。