若干のシリアス
ご都合主義有り
※以前、設定集を投稿すると言いましたが、データが消えてしまい、急いで作成し直しています。
読者の皆様にはご不便、ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません。
side 提督
──第603鎮守府、執務室──
21:30。
「──分かった」
夕食を摂り、入浴したあと。執務室で一人、報告書を纏めていると内線が鳴り、夕張から「榛名の入渠が終わり、医務室に運んだ」と報告が入った。
「……後でやろう」
報告書を纏めていたが、やめる。榛名の方が大事だ。
引出しに報告書を仕舞い、鍵をかける。
執務室の電気を消し、扉に鍵をかけて……これで良し。榛名の様子を見に、医務室に向かおう。
夕張によると、榛名は、両肩及び両方の股関節部分を脱臼していたらしい。
「骨や内臓には一切ダメージが入っていない、って、なんなんだよ……」
関節だけ外して無力化するって、山城さんや。どんだけ余裕があるの?君、第一次改装までしか施されていないじゃん。それなのに、第二次
山城、お前マジで何者だよ。流石サ○ヤ人──間違えた。流石、
これ、山城に第二次改装を施したら、どうなるんだろう?山城は徒手格闘が得意だから、北○神拳の使い手になるのかな?
山城の苗字は
「……考えるの、やめよう」
まぁ、山城に第二次改装を施すのは、設計図やらパーツやらが届いていないし、届く気配も無い。
山城が改二になるのは、
フラグとか言った奴。
………………。
──第603鎮守府、医務室──
「……
医務室のドアをノックして、中に居る榛名に声を掛ける。
もしかしたら、寝ているかもしれない。返事が無かったら、明日にしよう 。
そう思っていたら、榛名の声が聞こえてきた。
『提督?はい、起きています』
「そうか。入渠上がりですまんが、話したいことがある。今、大丈夫か?」
『はい、榛名は大丈夫です!』
声を聞く限り、本当に大丈夫そうだ。しかし、無理をしている恐れがある。
様子を見て辛そうだったら、すぐに切上げて休ませてあげよう。
ゆっくりと医務室のドアを開けて、入室。それと同時に、薬品独特の匂いが鼻腔を刺激してきた。
何度嗅いでも、この匂いは慣れないな。……おっと、今は余計なことを考えるな。榛名のことだけを考えろ。
ベッドに視線を向けると、艦娘の装束を纏った榛名が上半身を起こしてこちらを見ている。但し、電探カチューシャだけは外されている。
何故、艦娘の装束を纏っているのかって?
艦娘の装束には、治癒能力を促進させ、適性者の精神を安定させる効果があると、養成所で教わった。勿論、艦娘限定だ。
補足すると、適性艦の装束──例えば、金剛型高速戦艦三番艦、榛名の適性者なら、榛名の装束を纏わねば、効果は無い。それ以外の艦娘の装束を纏っても、効果は出ない。
更に補足。姉妹艦──例えば、榛名に金剛型高速戦艦の一番艦、金剛。同じく二番艦、比叡。同じく四番艦、霧島。
上記三つの装束を三番艦、榛名が纏っても、効果は出ない。
以上、説明終了。
「お邪魔するぞ。身体の方は大丈夫か?何処か痛かったり、違和感があったりしないか?」
榛名の顔色を見ながら、声をかけた。
妖精さんの素敵技術の一つ、入渠液及び入渠槽に不備など無いが、一応聞いた。
「はい、大丈夫です。ご心配、ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません」
「気にしなくていい」
不安を与えないよう、精一杯優しい声を出し、微笑みながら榛名に声をかける。
「……なぁ、
「……はい、分かりました」
………………。
「……良く頑張った」
優しく
その感情や光景は──
(金剛型高速戦艦三番艦、榛名が呉で見た光景……)
第二次世界大戦末期。戦況の悪化に伴い、戦艦を運用するだけの燃料が無くなり、呉の江田島に係留され、浮き砲台となる。
米軍の艦載機を止める為、
しかし、奮戦虚しく被弾。大破着底してしまう。
それでも、必死に抵抗した。
だが、広島に原爆を落とされ、街と大勢の人々を一瞬で消し飛ばされてしまう。
学校の歴史の授業や、修学旅行で広島に行き、【広島平和記念資料館】で見聞きした事しか知らないが、原爆を落とされた直後の広島は、言葉で言い表せない程の、想像を絶する物だったらしい。
(落とされた直後の光景と、人々の感情が流れ込んできた……か)
「とても……とても、怖かったです。初めて艤装と接続した際、艤装からそれらの光景や感情が流れ込んできました。ですが、提督。貴方を見た途端、それらの光景や感情が流れ込まなくなったんです。代わりに、貴方を護りたい。そんな感情が強く流れ込んできました」
「……」
「そして、試運転をしている最中や、由良さんと演習をしている間は何とも無かったのですが、終わって埠頭に戻った途端、「護りたい」という気持ちが溢れ、自分を制御出来なくなってしまって……気が付けば、提督を抱きしめたい衝動に駆られ、追いかけ回していました」
「……そうか」
「グラウンドに逃げた提督と鈴谷さんを追い、鈴谷さんを……その、ギミックアームで締め落とした直後、一気に記憶や感情が流れ込んで……流れ……うぅ……」
「
流れ込んできた時の事を思い出したのか、顔を青ざめて震え出した。
それを見た俺は、彼女をそっと抱きしめた。
「怖かっただろ。辛かっただろ。本当に、良く頑張った」
さっきよりも
最初は戸惑っていたが、やがて俺の服に強くしがみつき──
「うぅ……怖かったよぉ……怖かったよぉぉぉぉ!!」
抑えていた感情が堰を切ったように溢れ、橙色の瞳から大粒の涙を零し、まるで子どものように彼女は泣き出した。
俺は抱きしめたまま、彼女の頭を撫で続けてあげた。
………………。
「スゥ……スゥ……」
どれ程時間が経ったのだろう。
気が付けば
艤装から流れ込んできた光景や感情について話している時は、とても辛そうにしていた。
しかし、今俺の腕の中で眠る彼女は、とても穏やかな顔をしている。
(今の所、大丈夫そうだな)
しかし、油断は出来ない。何時また艤装から記憶や感情が流れ込み、苦しむか分からない。
そういえば、どうして山城達が来た途端、元に戻ったのだろう?
今度、
あと、何故こんなことが起きたのか、大本営に確認しよう。そうと決まれば、執務室に戻って申請の書類を作成しなければ。
そう思い、彼女をベッドに寝かせようとしたが──
(剥がれそうにないな)
俺の服をしっかり掴んでいる。引き剥がそうとしたが、離れそうにない。
「うぅぅ……」
引き剥がそうとしたら、彼女の穏やかそうな顔が苦しそうに歪み、呻き声を出した。
引き剥がすのをやめると、再び穏やかな顔に戻った。
無理に引き剥がさない方が良さそうだな。
「……傍に居てやるよ」
今日は彼女の傍に居て、一緒に寝てあげよう。
えっと、部屋の電気を消すリモコンは……あった。
リモコンを操作して部屋の電気を消す。
幸い、医務室のベッドは大きめに作られているから、二人で寝ても余裕がある。
彼女を抱きしめたまま、ゆっくりベッドに乗ると、スプリングが軋む音を立てる。
枕は……邪魔になるから要らねぇや。腕枕してあげよう。……う~ん。普段、布団で寝ているから、なんか慣れないな。
「スゥ……スゥ……」
「……」
静寂。圧倒的静寂。正確には、クーラーが稼働する音と、隣で眠っている
……今更だけど、色々マズいね。
まず、俺と
しかし、密着しているせいか、彼女の柔らかい胸が俺の身体に直撃していて、理性がゴリゴリ削られる。
(かれこれ数ヶ月、発散していねぇから辛い……)
自室で発散しようにも、瑞鶴や翔鶴が盗聴器や隠しカメラを設置しているから、出来ないんだよ。
何度も捜したが、見付からない。
設置をやめてくれと頼んだが……二人の目から光が消えた。
こりゃあ、無理に頼んだり、撤去したら部屋に忍び込まれて、起きたらパパになってた!なんて事になりかねん。だから、諦める事にした。
話を戻そう。一度発散しようとしたら、土星エンジン全開のヅ○も真っ青な速さで部屋に突撃してきたから、我慢している。
(落ち着け。落ち着くんだ、俺)
幾ら好意を向けてくれていても、手を出すのはダメだ。
まだケッコンカッコカリもしていないのに、そういう事をするのはダメだ。
それに──
(初めては
だから、手を出すんじゃねぇぞ。
「ぅぅ……」
「?」
悶々としていると、
少しだけ離れて呼吸を楽にしてあげたが、それでも苦しそうな声を出している。まさか、また記憶や感情が流れ込んできたのか!?
「や……ま……しろ……さん……」
「山城?」
何故、山城の名を口にしたんだ?疑問に思っていると──
「腕は……そっちには……曲が……りません……」
なんか、とんでもない事を言い出したぞ?
「太股……触っちゃ……足……広げ……ない……で……」
「……」
「股裂き……ぬぐぁぁぁ……」
どうやら、山城にシバかれた時の事を思い出しているみたいだ。
良かった。艤装から記憶や感情が流れ込んで苦しんでいるわけじゃ、無いみたいで。
……今、「股裂き」って物騒なワードが彼女の口から出てきたんだけど。山城、お前、アレをやったのか?やめろよ。昔──俺が学生時代に一度、
「ぁぁぁぁ……やだぁ……逆エビ固めぇぇぇぇ……」
「……」
山城、やり過ぎだ。明日、注意しよう。
……睡魔が襲ってきた。明日も仕事があるんだ。何も考えるな。
………………。
──第603鎮守府、執務室──
翌日。09:30。
「そういえば提督。榛名さんで童○を卒業した?」
「卒業していません。いきなり何を言い出すんですか……」
「そうなの?気になっちゃって」
「何も起きていません」
「手で
「してもらっていません」
「もしかして、お口で──」
「はい、そこまで」
「ふと思ったんだけど、手や口でしてもらった場合は、卒業に含まれるのかしら?」
「そこまでにしてください」
「【自主規制】の【自主規制】を【自主規制】された場合は──」
「お黙りッ!」
仕事中に下ネタかまさないでくださいッ!
「え~?だって、医務室のベッドで榛名さんと一夜を明かしたんでしょ?」
「服を掴まれていて、剥がそうとすれば辛そうな顔をするから一緒に寝たんですよ」
最初は俺の理性が色々マズかったが、すぐに睡魔が襲ってきて眠りに就いた。勿論、手は全く出していない。
そして05:20頃目を覚まし、書き置きをして医務室を出て自室に向かって身支度を整えた。
幸い、俺が起きた時、
しかし、医務室から出る所を千歳さんに見られ、からかわれた。
余談になるが、
話が前後するが、
何故暴走したのか説明すると、足柄が挙手をし、質問してきた。
『第二次改装を施されると、皆、榛名みたいになるの?』
俺はどう答えればいいか分からなかった。
全て知っているわけじゃない。憶測でしかない部分が多いから、ちゃんと説明出来ない。だから、分からないと答えた。
こんなんじゃ、不信感を持たれる。そう思った時だった。
『艤装との同調率が高いと、稀に起きるわ』
千歳さんが説明をしてくれた。
説明してくれた内容を話すと、非常に長くなるから割愛させてもらうが、千歳さんのお陰で皆は落ち着いてくれた。
……益々大本営に聞く事が増えたな。おい大本営、しっかり説明してもらうぞ?覚悟しとけよ?
……とりあえず、今は仕事をしよう。終わったら、千歳さんを退室させて申請書類を作成して、電話でアポを取ろう。
艤装に関してはトップシークレットだから、無理に聞けば俺が大本営に何かされるかもしれんが、知ったこっちゃねぇ。部下が危険な目に遭ったんだ。
「……提督」
「どうしました?」
さっきまでニヤニヤ笑いながら俺をからかっていた千歳さんが、とても真剣な顔をして俺を見ていた。
「もしかして、艤装について、大本営に聞くつもり?」
「……そうです」
ありゃ、バレてた。 隠そうと思ったけど、千歳さんに隠し事は通用しないから、正直に答えよう。
「やめなさい」
「……何故?」
「艤装については、トップシークレット。無理に明かそうとすれば、大本営の連中に何をされるか分からないわ?」
「承知の上です」
「あのねぇ……
「……」
「そうなったら、瑞鶴さん達は。あなたに好意を寄せる娘達はどうなると思う?」
「……」
「だから」
「?」
さっきまで真剣な顔をしていたが、突然、イタズラっぽさそうに微笑み、優しい声を出した。
「お姉さんに任せなさい♪」
「……」
「言葉は悪いけど、君の階級は少佐。最近、中規模の鎮守府になったけど、元は小規模な鎮守府を運営していた、後ろ盾が全く無い提督。戦果も、世間から英雄と呼ばれるほど挙げていない。影響力が全くと言って良い程無いわ。そんな提督が大本営にケンカを売ったら、あっさり潰されるわ」
悔しいが、千歳さんの言う通りだ。後ろ盾──コネは無い。
戦果も、最近、鬼・姫級をガンガン狩っているけど、大規模な鎮守府の戦果と比べて、そこまで目立つモノじゃない。
そんな提督が、権力の塊みたいな大本営に喧嘩を売ればどうなるかは、火を見るより明らかだ。
「だから、お姉さん任せなさい♪」
「……」
しかし、千歳さんなら。
昔、日本に侵攻してきた深海棲艦達を殲滅し、前線を上げ、平和にした千歳さんなら。
日本を救ったと言っても過言ではない千歳さんなら、発言力がある。
「……お願い、出来ませんか?」
情けないが、お願いしよう。
「うふふっ♪任せて♪」
「……」
花の咲くような、満面の笑顔でそう言ってくれた。
……思わず見とれてしまった。それ程、素敵な笑顔だ。
「あらあら、そんな顔してどうしたの?」
「──ッ!?な、何でもありません!」
イカン、見とれてた。しっかりしろ。
「ふふっ。私の顔を見て、どうしたの?」
「ぬあぁぁぁ……」
やめてください。からかわないでください。頬を突っつかないでください。
……あのぉ、後ろに回って何を──ンゴォ!?胸!押し付けてきやがったァ!?ヤメテェ!あなた、めっちゃ立派な物をお持ちなんだから、ヤベぇんですよ!柔らかいだけじゃない、張りもある。ヤベぇ。めっちゃヤベぇ。語彙力が低下してヤベぇしか表現出来ない。
「あははっ!」
「!?」
突然笑い出してどうしたの!?……あっ、離れてくれた。
「本当にそっくりね」
「そっくり?」
何がそっくりなの?
「胸を押し当てた時の反応、君のお父さんにそっくりよ?」
「親父と……」
以前も、下ネタ言われた時の反応が同じだと言われたが、マジで?というか親父。アンタも苦労したんだな……。
顔も声も知らないが、今も何処かで生きている親父に、ほんの少しだけ同情した。
「……あっ、いけない!そろそろ異動してくる娘を迎えに行かなきゃ!」
「本当だ。千歳さん、案内お願いします」
「了解よ」
時計を見ると、09:50を指していた。
少し早歩きで退室する千歳さんを見送り、再び書類と向き合う。
迎えや対応は秘書艦以外の娘に任せればいいって?それがな、今日は出撃に6名。タンカー警護に6名。そして、漁船警護に6名。計18名に出てもらっているから、人数が少ないんだ。
更に、残ってもらっている5名──榛名と千歳さんは除く──は、艤装の定期点検を行ってもらっている。
今は瑞鶴、秋雲、時雨の3名が受けている。
それだから、秘書艦の千歳さんに迎えを頼んだ。
(今朝、艤装の事で騒ぎになったのに、出撃や警護に向かってくれた)
不気味な物だと知ったのに、皆は億さず身に纏って向かってくれた。頭が下がるよ。
(千歳さんの説明のお陰だな)
あの人が納得のいく説明をしてくれなかったら、全員拒絶反応を示して身に纏わなかっただろう。本当に、ありがとうございます。
電話越しだったけど、初めて会話した時や、着任後、時々怖いとか魔王だとか思ってごめんなさい。
今度、何かお礼しよう。
side 提督 out
───────
────
─
side 千歳
(……ふふっ、相変わらず優しい子ね)
頭の中に彼の思考と感情が流れ込んできた。どれも感謝の念ばかり。あと、謝罪──反省の念も流れてきた。
(「魔王」は当たっているわよ、準くん)
大本営が勝手に付けた二つ名。最初は何故知っているのか。誰かから聞いたのかと思ったけど、私の声と雰囲気でそう判断したみたい。
(もっと早く、この力を手にしたかったなぁ……)
そうすれば、妹と彼の思考を読んで駆け落ちするのを阻止出来た。しかし、手にしたのは二人が駆け落ちした後だった。
(……何処に居るのよ)
権力やコネを使って二人の居場所を捜しているけど、未だ見つからない。
海外に行ったのでは?そう思って調べたけど、結果はハズレだった。
深海棲艦が出現する前は、パスポートを取得すれば一般人でも海外を行き来する事が出来たけど、今は余程の理由が無ければ渡航する事は不可能。それに、特別な許可を得なければ乗船出来ない。
(身分を詐称すれば、すぐに捕まる)
乗船する時に、妖精さん達に様々な検査を受けるから、詐称すればその場でお縄につく。
船に忍び込んでも、船内には妖精さんたちが居るから、どんなに上手く隠れていても見つかる。
(……諦めないわ)
必ず見つけ出してみせる。見つけたら……どうしましょう?
(……今はお仕事をしましょう)
最近、考え事をする時間が増えちゃった。メリハリ持たなきゃ。
えっと、今は09:55。もうそろそろ来る頃ね。
……暑い。日陰に入っているのに、気温が高いせいであまり意味が無い。
昔はこんなに暑くなかったのに。テレビやニュースでここ十数年、平均気温が上がってきている。温暖化が進んでいるって言ってたけど──
(──あっ、来たみたい)
鎮守府の近くにタクシーが止まり、そこから一人の女性が降りてきた。既に艦娘の装束を纏っているわね。
トランクからボストンバッグを取り出し、こちらに向かって歩いてきた。
気持ちを切り替えましょう。
……小柄ね。けど、かなり鍛えている。歩き方や姿勢からそう判断した。
(大分、緊張しているみたい)
頭の中に彼女の感情が流れ込んできた。
「期待」「不安」「喜び」
割合は3:4:3って所ね。……あらあら。うふふっ。
今度は思考が流れ込んできた。これは──準くん、苦労しそうね。
さーて、思考や感情を読むのはお終い。異動してきた娘の対応をしましょう?
「……あ、あのっ!」
「こんにちは」
私に気付いて声をかけてくれた。
「自分は、本日付で呉鎮守府より、第603鎮守府に異動して参りました、大鳳型装甲空母一番艦、大鳳と申します!こちら、証明書類になります!」
「ありがとう。確認させてもらうわ」
思考を読んだから、彼女が本日此処に着任する艦娘だと知っているけど、そんな事、彼女は知らない。
口に出さず差し出された書類を確認。……うん。大本営と、呉鎮守府の提督のサインが入っているわね。
書類から顔を上げ、彼女に証明書類を返す。
「ようこそ、大鳳さん。私は第603鎮守府所属、千歳型航空母艦一番艦、千歳よ。よろしくね?」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」
見事な敬礼に、ハキハキと大声で返答。体育会系の
「それじゃあ、提督の所に案内するから、着いてきて?」
「はいっ!」
…………。
「ここが執務室よ。ちょっと待ってて」
「は、はいっ!」
大鳳さんを連れて、執務室の前に到着。ノックをして入室しましょう。扉を3回、手でノックして──これで良し。
『誰だ?』
「千歳です。本日着任された方をお連れしました」
『入ってくれ』
「行きましょう?」
提督が入室を促してきたから、大鳳さんに声をかけ、執務室の扉を開けると、涼しい風が吹いてきた。
それもそうね。執務室はクーラーをつけているのだから。
「失礼します」
涼しい。外は暑いから、生き返るわ。
……いけない。今は案内をしていたんだ。しっかりしなきゃ。
目で大鳳さんに入室を促し、自己紹介をさせた。
……うん。大きな声でハキハキ喋っている。その為か、彼、気圧されているわね。
…………。
「──ここが、医務室よ。なるべくなら、お世話にならないで欲しいわ」
「はいっ!」
……この娘、中々笑ってくれないわね。
荷物を
(緊張しているみたいだから、解してあげようと思って冗談を言ってあげたんだけど……)
全く笑わない。それどころか、真に受けている。
まぁ、2、3日経てば此処に馴染んでふざけるようになるでしょう。
その前に、
(瑞鶴さんと翔鶴さんとの確執を取り除かないと)
さっきから、思考が流れ込んでくるんだけど、どれも物騒なものばかり。
『
どうやら彼女達は学生時代、色々あって犬猿の仲みたい。
もしドンパチ始めたら、暫く様子を見ましょう。下手に止めたら余計に拗れる恐れがある。
『それか、瑞稀さん。または静流さんの部屋に押し入って、ボウガンで零距離威嚇射撃して、「ノックをするべきだったかしら?」って言ってやる!』
大鳳さん、零距離で撃ったら威嚇射撃にならないわよ?あと、コ○ラの名言・名シーンを再現しようとしないで?
『チビだの童顔だの、散々バカにされた。この恨みはらさでおくべきか!』
……瑞鶴さん、あなた、そんな事言ったの?他にも色々言ったみたいだけど。
「あの、どうかされました?」
「……え?」
「その、辛そうなお顔をされていたので……」
「あぁ。ううん、大丈夫よ、気にしないで?」
いけない、思考を読んでいたから、気付かないうちに顔に出てたみたい。
「昨日、お酒を飲みすぎちゃって……あはは」
「そ、そうですか……」
上手く誤魔化せたみたい。
『この人、大丈夫かしら?』
……不安に思われている。しっかりしなきゃ。
「それじゃあ、最後は工廠──に案内してあげたいんだけど、今、色々やっているから、後で案内してあげるわ」
本当は案内しても大丈夫だけど、工廠では瑞鶴さん達が艤装の定期点検を受けている。
今、工廠に行けば、大鳳さんと瑞鶴さんが鉢合わせして、ドンパチ始まり、工廠の機械やら資材やら……色々な物に被害が出る恐れがある。
「はい、ありがとうございます!」
「これで一通り案内したから、部屋に戻って待機してね?」
「了解しました!」
「私は執務室に戻るわ。……あっそうだ!連絡先を交換しましょう?」
スマホを取り出し、互いに連絡先を交換して……これで良し。
「何かあったら、遠慮なく連絡して?それじゃあね」
ふぅ。無事終わった。急いで執務室に戻って、お仕事しなきゃ。
「……あっ、千歳さん!」
……神様、どうして。どうして、このタイミングなのよ。はぁ。
「あれ?そこに居るのは──ッ!?」
「あ、貴女は!」
……あーあ、出会っちゃったわね。
「
瑞鶴さん、驚いているわね。それに、とても気まずそうな感情が流れ込んできたわ。
それに対して、大鳳さんは──
「……お久しぶりです、
……大鳳さん、何処からそんな声出しているの?さっきまでの可愛らしい声は何処に行ったの?
……はぁ。大鳳さんから、怒りの感情が流れ込んできたわ。勘弁して頂戴。
side 千歳 out
───────
────
─
side 提督
「……大丈夫かな」
大鳳──鳳と、瑞鶴──瑞稀が鉢合わせしていないといいんだが。
まぁ、そこは千歳さんの事だ。上手くやってくれる。
瑞稀と静流には、事前に鳳が異動してくると伝えてあるが、不安だ。
昔は色々やらかしていたが、今は違う。その事をしっかり鳳に伝え、誤解を解かないといけない。
「……あっ、やっちまった」
書き間違えた。しっかりしろ。
今は仕事に集中だ。さっさと終わらせて、鳳としっかり話し合わなきゃ。
──────────────
……勘弁してくれ。
ただでさえ色々厄介な事が起きているのに。
何でこんなにトラブルが続出するの?
俺って、不幸体質なのか?
鎮守府の人間関係も、なんかギクシャクしていて気まずい。
それだけじゃない。艤装の事で、皆のメンタルにダメージが入っている。
そうそう、艤装で思い出したんだが、千歳さんが大本営に
……まさか、艤装にあんな秘密があったとは。
だから、皆あんなことをしたんだ。
……はぁ。癒しが欲しい。
しかし、この鎮守府に癒しは無い。
俺が癒し枠だと思っていたあの娘が、
女性は怖い。身を以て知るハメになったよ。
……誰か、助けて。胃袋を吐き出しそうだ。
──追跡鶴 第3章・修羅場編 完──
【唐突に始まる、第4章の非常に頭の悪い嘘予告】
「艦娘の力が高まると、ニュータ○プみたいになってしまうわ!」
Ω ΩΩ<な、なんだってぇ~!!?
衝撃の事実!艦娘は皆、ニュー○イプだった!?
「艤装の技術を伝えた「キャット」と名乗る妖精さんは、現在行方不明だ」
艤装の秘密を知りたくても、全てを知る妖精さんは行方不明。
「「キャット」以外の妖精さんは、艤装の整備・製造法を知るのみで、根幹である「
捜せェ!地べた這いずり回って、泥水啜ってでも、草の根かき分けて、「キャット」を捜し出せェ!
「渡良瀬少佐、大本営から改装設計図とパーツをお届けに参りました」
ラスボス……じゃなかった、眼鏡が素敵な大淀さんだぁ!しかし、何か黒い笑みを浮かべているぞ?嫌な予感がする。
「ご覧下さい!涼月さんの第一次改装設計図とパーツです!」
おぉっ!ついに、涼月に第一次改装が施されるのか!?
長かった。5年以上、未改装状態だったから、涼月はきっと喜んでくれる筈。
「大淀さん、あの、設計図の一枚目に、とんでもない文字が書かれているんですが」
一体何が書かれていると言うんだ、渡良瀬提督?
【秋月型防空駆逐艦三番艦、涼月の第一次改装設計図】
あれ?普通じゃね?……あっ、
【AGPモデル】
ぶるるるっるるあああああああああああッッッ!!!
赤文字で、とんでもねぇ6文字が書かれてるうぅぅ!?
ヤベーよ!ヤベーって!
「……」
あっ、涼月に第一次
渡良瀬提督、逃ゲルルォッッ!!!……遅かった。
「涼月さんに追われていますね」
……海風、傍観している場合じゃないでしょ。助けてあげて?
「ふふっ。提督が戻ってきたら、部屋に連れ込んで、この飲み物を飲ませてましょう」
そうだった。この娘もヤベー側だったんだ。
渡良瀬提督に救いは無いの?
「オカンポジはもう終わりにしましょう」
……あっ、矢矧さん。
「……ふふふ」
……頑張れ、渡良瀬提督。
「……」
……君は提督に迫ったりしない、大丈夫な娘だったね。
後で渡良瀬提督を労ってあげて?
「……くふふっ♪」
ッ!?な、なんだよ、その笑みは!ま、まさか!?
「そろそろ、仕掛ける時が来たみたい」
嘘……だろ……。
「あははははっ!ヒャッーハッハッハッハ!!!」
渡良瀬提督ゥ!今すぐ提督辞めて逃げろォォォ!!!
「うわぁ……提督、涼月に追われてる。可哀想」
あ、秋雲……君は、君までそっち側じゃないよね?
「ッシャァ!提督、今助けてあげる!化け物退治にゃ、ショットガンと相場が決まってるのよねぇ~!!」
大丈夫そうだ。
「提督、大本営から封筒が届きましたよ!」
日時と所が変わって執務室。秘書艦の
……今度は何だよ。これ以上トラブルが起きたら、渡良瀬提督の精神が崩壊しちゃうよ?
「───ゴボッッッ!!?」
渡良瀬ェェェェェ~!!!胃袋吐き出したァァァァァァァァ~!!?何があったあああああああァァァァァァ~~ッッッ!!?
追跡鶴 第4章・狂乱編
近日公開
「くたばれ!
「いっぺん、死んでみる?
……。
「初霜、デスメタルかけてくれ。とびきり強烈なのを頼む」
「はいっ!お任せ下さい!」
……渡良瀬提督、初霜。現実逃避しないで、向き合おう?
※予告内容と本編は、【一部を除いて】異なる場合がございます。
予め、ご了承ください。
次回予告
まさか、艤装にあんな秘密があったなんて。
……うん。僕は大丈夫だよ?
千歳さんが説明してくれたから、納得している。
ただ、本音を言うと、完全には納得していない……かな。
それでも、これが。艤装が無きゃ、何も出来ない。彼の。提督の傍に居られなくなる。
……あれ?何だか騒がしいね。
……あっ、瑞鶴さん。……と、見たことない小柄な女性が、言い争ってる。
……うわぁ、瑞鶴さんが、小柄な女性にノーザンライトボムをぶちかました。これは……止めた方が良さそうだね。
追跡鶴 第4章・狂乱編
第71話・言葉で語り合ってください
「誰が肉体言語で語り合えって言った?」
【補足的なナニか】
・流石サイヤ人と~…元ネタは「ドラゴンボール」に登場する「ブロリー」の台詞、「流石サイヤ人と褒めてやりたい所だ」
・北斗神拳…元ネタは「北斗の拳」に登場する拳法、「北斗神拳」。主人公、「北斗ケンシロウ」の声優は「神谷明」さん。
この小説に登場する、第603鎮守府所属、山城の適性を持つ女性の苗字は「神谷」。
ここから導き出される答え。それは……。
・ノックをするべきだったかしら?…元ネタは「スペース・コブラ」の「コブラ」が言い放った名言、「ノックをするべきだったかな?」
この台詞を言われた相手は「いいさ、オレときさまの仲だ」と返しましょう。
・タクシー…艦娘が利用すれば一般人であるタクシーのドライバーに気付かれるのでは?
ご安心ください。事前に大本営がタクシー会社に連絡し、そこそこ多めの諭吉さんを握らせて黙らせているから問題ありません。
もし喋ったら、大本営本部に所属している、おっかねぇ艦娘が始末しに行くから、問題ない。
……おっかねぇ艦娘は誰かって?
・千歳…第603鎮守府所属、千歳型航空母艦一番艦、千歳を指す。適性者の本名は、「
艤装の秘密を知っているらしい。
第603鎮守府のメンバーに、艤装に秘められた力について説明したが、【肝心な部分だけは、意図的に】話していない。
・榛名…第603鎮守府所属、金剛型高速戦艦三番艦、榛名を指す。適性者の本名は、「
艤装から記憶や感情が流れ込んできた為、暴走。
しかし、とある艦娘が提督に顔を近付けたのを見た為、嫉妬。余りにも強い榛名の「嫉妬」という感情が、艤装から流れ込んできた記憶や感情を弾き、正気に戻った(という設定)。
・AGP涼月改…
※AGP涼月改は、2018年8月現在、未発売です。
※その為、オリジナルの内容になります。
予め、ご了承ください。
以上、補足終了。