追跡鶴   作:EMS-10

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※注意※
暴力的表現及び、若干のシリアス有り



※中の人繋がりで、大鳳にス○サハ師匠の台詞を言わせたいけど、ネタバレになる為、使うか否か悩んでます。
 コメント欄ですと、利用規約違反になる為、「活動報告の質問箱」に意見をお願いします。

※○カサハ師匠のボイスは「一切使用しておりません」
 安心してご覧下さい。

 


第4章・狂乱編
第71話・言葉で語り合ってください


 

side 大鳳

 

 

──第603鎮守府、正門前──

 

 

瑞鶴と出会う数十分前。

 

 

「それじゃあ、提督の所に案内するから、着いてきて?」

 

「はいっ!」

 案内役の艦娘──千歳と名乗った女性に促され、執務室に向かう事になった。

 彼──渡良瀬くんに会える。これから毎日、顔を合わせ、お話することが出来る。

 さっきまで不安と緊張に包まれていたけど、今は嬉しい気持ちで一杯。

 

(しっかりしなさい。遊びに来たわけじゃ無いのよ?)

 今の私は艦娘。仕事中なのよ?浮ついた気持ちでいたらダメ。気持ちを切り替えなさい。

……よし、切り替えたわ。

 

 

……。

 

 

「ここが執務室よ。ちょっと待ってて」

 

「は、はいっ!」

 目の前には、木目の美しい、あまり装飾の施されていない質素な扉がある。この先に、彼が居る。

 緊張で返事が上ずってしまった。しっかりしなさい。

 

(て、手汗ががががが……)

 決して気温のせいではない。緊張で手汗が出てベトベトになっている。手だけじゃない。背中も。いいえ、身体中汗まみれになっている。

 

(に、臭いとか、大丈夫かしら?)

 昔から汗っかきだから、制汗スプレーを使ったけど、不安になる。

 

「……」

 

(……あっ、千歳さんが扉を開けている!)

 臭わないか不安になっていたら、何時の間にか千歳さんが執務室の扉を開き、目で入室を促している。

……ええい、ままよっ!

 覚悟を決めて執務室に入室。

 

(結構狭いのね)

 呉鎮守府の執務室と比べると、半分以下の広さで、書類を入れる棚の数が少ない。

 無理もない。此処(第603鎮守府)は少し前まで小規模鎮守府だった。それだから、言葉は悪いけど仕事──書類の数が大規模鎮守府と比べて少なく、執務室の面積が小さいのでしょう。

 

「大鳳さん、自己紹介して?」

 

「……へっ?あっ!はいっ!」

 千歳さんが自己紹介をするよう、小声で耳打ちしてきた。

 いけない。考え事をしていたせいで、自己紹介をするのを忘れていたわ。しっかりしなさい!

 

「自分は、本日付で呉鎮守府より、第603鎮守府へ異動して参りました、大鳳型装甲空母一番艦、大鳳と申します!宜しくお願いします!」

 大きな声でハキハキと自己紹介。これで良し。

……あら?彼の様子がおかしいわね。何で気圧されたような顔をしているのかしら?まぁいいわ。

 演習などで他所の提督に挨拶する度、気圧されたような顔をされるから、気にしない。

 

「お、おぅ……自己紹介、ありがとう。俺は第603鎮守府を運営する、渡良瀬準少佐だ。よろしく頼む、大鳳」

 

「こちらこそ、宜しくお願いします!」

 

 

……。

 

 

「何かあったら、遠慮なく連絡して?それじゃあね」

 

旅行(案内)、ありがとうございました!」

 執務室で提督に挨拶をした後、私に割り当てられた部屋に荷物を置き、千歳さんに鎮守府を案内してもらった。その後、連絡先を交換し、自室で待機するよう言われた。

 

 呉鎮守府に長く居たから、第603鎮守府はとても小さく感じる。

 これじゃあ、鎮守府外周を走っても満足出来そうにない。幸いと言うべきか、此処には崖があるから、駆け上って(・ ・ ・ ・ ・)距離を補いましょう。

 

(自室待機、と言われたけど、じっとしていられないわ)

 トレーニングルームがあるから、利用しようと思ったけど、いつ提督に呼び出されるか分からない。

 筋トレをすれば汗をかく。どんなに素早くシャワーを浴びて、身支度を整えても時間がかかる。

 

(我慢しましょう)

 部屋に戻って、持参したダンベルで、呼び出されるまで時間を潰そう。

 頭の中でこの後の予定を決め、自室に向かおうとした時だった。

 

「……あっ、千歳さん!」

 

「ッ!」

 鼓膜に、野○伊織さんに似た声が響いてきた。

 この声は……まさか!?

 

「あれ?そこに居るのは──ッ!?」

 

「あ、貴女は!」

 やっぱり。

 黒っぽい深緑色の髪をツインテールにした、紅白の装束を纏ったツリ目の女性。

 翔鶴型航空母艦の装束は、胸当てを付けるけど、目の前の女性はソレを付けていない。

 

(おおとり)……」

 

 見付けた。

 私が学生時代。クラスメイトだった彼──渡良瀬くんを傷付け、散々我儘を言って困らせ、肉体的にも精神的にもボロボロにした女。

 

「……お久しぶりです、風見瑞稀(かざみみずき)さん」

 自分でも驚く位、低い声で彼女──翔鶴型航空母艦二番艦、瑞鶴の適性を持つ女性の本名を、フルネームで呼んであげた。

 

(何よ、その顔)

 何故、申し訳なさそうな顔をしているの?

 ほら、あの時みたいに、目を血走らせ、歯を剥き出しにして暴言を吐いて来なさい!首を絞めたり、頭突きして来なさい!

 

 急いで隠しカメラとボイスレコーダーのスイッチを入れる。準備は整った。

 

(証拠を撮って(・ ・ ・)、大本営に匿名で提出してやるわ。覚悟しなさい!)

 

 

side 大鳳 out

 

 

 

───────

────

 

 

 

side 瑞鶴

 

 

(うわぁ、凄い目で睨んでる……)

 艤装の定期点検が終わったから、執務室の提督さんに報告しに行こうとしたら、千歳さんの姿が見えたから声をかけたんだけど、

 

(まさか、鳳が居たなんて)

 鳳はかなり小柄だから、千歳さんに隠れて見えなかった。そのせいで、気付かなかった。

 

(千歳さんが医務室の前に居る時点で気付くべきだった……)

 自分の危機察知能力の無さに絶望。

 

《嘆いている暇は無いわよ、瑞稀》

 

 分かってるわ。

 

《……本当に、ごめんなさい》

 

 いきなりどうしたの?

 

《こうなった原因は、私が瑞稀の感情を揺さぶって、攻撃的な言動を取らせたから……そのせいで──》

 

……もういいのよ。気にしないで?

 

《で、でも!》

 

 確かに、貴女がした事は悪いことだった。でも、貴女はちゃんと反省している。もう二度としないと約束してくれた。

 だから、気にしないで?ね?

 

《瑞稀……》

 

「……まだ、彼に迷惑をかける気なの?」

 

 鳳が声をかけてきたわ。一旦、終わりにしましょう?

 

《わ、分かった!》

 

……落ち着け、私。落ち着くのよ。今の私は、あの時みたいな、攻撃的な私じゃない。その事をしっかり伝えなさい。

 例え罵られようと、決して怒っちゃダメよ。

 一先ず、今は仕事中だから、後で話し合わないか、提案しましょう。

 

「なんとか言ったらどうなの?」

 

「……色々言いたい事はあると思うけど、今、私達は仕事中(・ ・ ・)よ?この話は、仕事が終わってからにしましょう?」

 あの時の私達は学生。でも、今は社会人(軍人)。優先すべきモノが何か、鳳も分かってる筈。

……そこ、普段の言動が社会人らしくない、とか言わない。細かいこと気にすると、ハゲるわよ? 

 

「……分かりました。後程、お話しましょう(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

「……ありがとう」

 良かった、私の言葉が届いてくれた。

 てっきり「逃げる気?」とか、「今ここで話しましょう」とか言われると思っていたんだけど。

 

瑞鶴(・ ・)さん、私は自室で待機していますので、お仕事が終わりましたら、声をかけてください」

 

「了解よ、大鳳(・ ・)

 うっわぁ、凄く冷たい目と声。正直、深海棲艦の鬼・姫級と対峙するより怖い。

 

「……はぁ」

 

「……あっ、千歳さん」

 自室に向かう大鳳を見送り、一息つくと、千歳さんがため息を吐き出した。その顔は、とても疲れたような顔をしている。

 

「……今ここでドンパチ始まるかと思って、気が気じゃなかったわ」

 

「ご、ごめんなさい」

 個人的な確執に巻き込んで、ごめんなさい。

 

「……瑞鶴さん、お願いだから、肉体言語で語り合わないでね?」

 

「えっ?あっ、はい」

 し、しませんよ!……まぁ、鳳が先に手を出してきた場合は別だけど。

 

「……執務室に行きましょう?提督に報告があるんでしょう?」

 

「は、はいっ!」

 そうだった。さっき定期点検をしてもらったら、艤装の一部──右側の主機が歪んでいて、修理に時間がかかりそうだと報告しようとしていたんだ。

 

 これは私の艤装だから、千歳さんに任せず、私自身が直接執務室に行って報告したい。

 

(報告が終わったら、弓の鍛錬をしよう)

 頭の中で予定を立てる。……よし、急いで執務室に行って報告しちゃおう。

 

(ついでに、鳳の事について相談しよう)

 確執を取り除いて仲良くしたいし。

……出来るかなぁ?ちょっと。いいえ、かなり不安。

 

 

 

───────

 

 

「執務室に入った!?」

 部屋に向かうフリをして、隠れて様子を見ていると、彼女と千歳さんは執務室に入った。

 まさか、彼に何かする気?

 もしそうなら、止めないと!

 

(千歳さんは、止める気配が無い)

 もしかしたら、瑞稀さんが彼に暴力を振るうのを黙認しているのかもしれない。

 

「させない!」

 あの時は、完全に止められなかった。

 でも、今は力がある。

 絶対、助けるわ!

 艤装は……やめておきましょう。執務室でドンパチやったら、彼に被害が出る恐れがある。それに、建物と書類にも被害が出てしまう。

 

武蔵(・ ・)さんから教わった技を使いましょう!」

 使うのは、己の肉体のみ。

 さぁ、行くわよ!

 

 

 

───────

 

 

 

 

side 瑞鶴

 

 

 

───────

────

 

 

 

side 提督

 

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

 

「──分かった。報告、ご苦労」

 千歳さんと瑞鶴が入室してきて、瑞鶴から点検の結果報告を受けた。どうやら艤装の一部──右側の主機──が歪み、修理に時間がかかるらしい。

 その他は問題が無いそうだ。

 ちなみに、現在点検を受けている秋雲と時雨は、今の所問題は無く、そろそろ終わる、とのこと。

 

「それじゃ、私はこれで失礼するわ」

 

「分かった。……そうだ、瑞鶴。秋雲と時雨、妖精さん達に、熱中症や脱水症状に注意するよう、伝えておいてくれ」

 暑い日が続いている。油断すれば、倒れる恐れがあるからな。

 

「了解よ。何時も気を遣ってくれて、ありがとう♪」

 

「どういたしまして」

 微笑みながらウィンクしてきた。可愛い。

 

「それじゃ、私は弓の鍛錬をするから、何かあったら呼んで?」

 

「あぁ」

 そう言って、瑞鶴は執務室の扉に手をかけ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶべらっ!?」

 

「瑞鶴ゥゥゥゥ!!?」

──ようとした瞬間、扉が物凄い勢いで開き、瑞鶴の顔面に直撃ィィ!!!

 瑞鶴選手、吹っ飛んだァァァァァァ!!!

 そして、頭から執務室の床に着地!ゴスッ!と鈍い音が執務室に響く!そして、うつ伏せに倒れたァァァ!!!

 右手は足の方に。左手は何故か人差し指だけを立て、頭上側に伸ばして倒れている。

 これ、見た事ある。アレだ、「止まるんじゃねぇぞ……」のポーズだ。

 

 ちなみに、何がとは言わんが、鉄壁スカートだった為、色は不明。

 

 

<~~~~~~♪

 

 

 隣──秘書艦用の机が置いてある方から、フ○ージアが流れてきた。

 顔を向けると、

 

「……てへっ♪」

 

 千歳さん、スマホ弄ってフリー○ア流さないでください。というか、千歳さん、オル○ェンズ知ってるの?もしそうなら、語りません?

……じゃなくて。今は瑞鶴を助け起こそう。

 

渡良瀬くん(・ ・ ・ ・ ・)!大丈夫!?」

 

 椅子から立ち上がり、瑞鶴に近寄ろうとしたら、大鳳が慌てた様子で入室してきた。

 もしかして、大鳳が扉を開けたのが原因か?

 その前に。

 

「今は仕事中だ。「提督」と呼べ、大鳳」

 再会出来て嬉しいのは分かるが、公私混同しちゃイカンぞ?

 

「し、失礼しました!」

 見事な敬礼。数十分前、執務室に来て自己紹介してきた時も思ったけど、この娘、体育会系の()があるな。別に悪いことじゃない。寧ろ、軍人らしくていいんだけど。

 

(……じゃなくて、今は瑞鶴だ)

 顔面に物凄い勢いで扉がぶつかったから、鼻を骨折している恐れがある。

 助け起こそうと瑞鶴に──

 

「提督、危ないわ!」

 

──近付こうとしたら、大鳳に止められた。何故?

 

「そいつ──瑞鶴さんは危ない奴よ!近寄ったら、暴力を振るわれるわよ!」

 

「……へっ?」

 暴力を振るわれる?どゆこと?

……あっ、そっか。今の瑞鶴──瑞稀は無害である事を……正確には俺をパパにしようとしたり、ちょっとだけ(・ ・ ・ ・ ・ ・)有害だけど、一応無害だ。日本語がおかしい?気のせいだ。

 話を戻す。あの頃──学生時代のような危険な存在ではない事を、大鳳──鳳は知らないんだ。

 

「大鳳、大丈夫だ」

 

「いいえ!危険よ!」

 

「危険じゃないよ、大丈夫だ」

 

「何を言っているの!?あなた、彼女に何をされたか、忘れたわけじゃないでしょ!」

 

 うーん、話を聞いてくれそうにない。

……仕方ない。無害であると実演する必要があるな。

 

「おーい、瑞鶴、起きろ」

 

「なっ!?」

 

 瑞鶴に起きるよう声をかけると、大鳳は慌てて俺の腕を掴み、執務室の外に連れ出した。うおっ!?暑い!執務室はクーラーが効いているから快適だが、外は灼熱地獄だ。

 

「何やってるのよ!危ないわ!」

 

「大鳳。いいや、鳳」

 

「えっ?な、何──きゃっ!?」

 

 彼女の両肩を掴み、顔を近付け、目を(しっか)り見る。

 さっきメリハリ付けなきゃダメと言ったが、今は彼女の誤解を解く必要がある。だから、艦娘の名前ではなく、本名で呼んだ。

 

「落ち着いて聞いてくれ、鳳」

 

「あっ、あのっ、渡良瀬くんっ!顔!近いっ!」

 

「鳳、俺の目を見ろ」

 恥ずかしいが、我慢。

 

「いいか、鳳。瑞鶴──瑞稀は、以前の。学生時代の瑞稀みたいに、暴れたり、癇癪を起こしたりしない、普通の人間になった」

 色々批判を受けそうなことを言ったが、一先ず置いといてくれ。

 

「そ、そんなの、信じられないわ!」

 

 まぁ、そうなるな。そう思われても仕方ない事を、瑞稀はした。しかし、今は違う。それを鳳に伝えなければならない。

 

「ま、まさか……脅されているのね?そうでしょ!」

 

 あー……やっぱりそう思っちゃう?

 

「渡良瀬くん、もう、いいのよ?私が貴方を、必ず護るわ!私だけは、何があっても貴方の味方よ!だから、本当の事を言って!!」

 

 うん。俺の事を心配してくれてる。ありがとう、鳳。けどね、本当に大丈夫だよ?

 

「……鳳、よく見ていろ」

 だから、今から実演する。瑞稀は無害になった事を。

 鳳の両肩から手を離し、再び執務室の中に入──

 

「だ、ダメよっ!」

 

──ろうとしたら、俺の腰に腕を回してしがみつき、引き止めてきた。

 おーい、離して?離してくださ──

 

「いででででででっ!?」

 鳳!手!痛い!しがみつく力強い!強過ぎ!緩めて!

 

「ダメっ!行っちゃダメ!」

 

「~~~ッッ!!」

 鳳!手!手ェ離して!呼吸出来ない!やめっ!強くしがみつかれているから、声を出せない!

 

「絶対、行かせないっ!」

 

「~~ッ!~~……~ッ!!」

 鳳さん!手!マジで一旦離して!死ぬ!窒息死しちゃう!苦しい!!

 必死に身を捩り、拘束から逃れようとしたが、鳳は勘違いしたのか、益々強くしがみついてきた。

 

「何があっても、行かせないわ!」

 

 執務室じゃなくて、あの世に逝きそうなんですが!

……あっ、視界が霞んできやがった。

 

「あの時の私は無力だった。でも、今は違う!あの時、いつも私を救ってくれた!だから、今度は私が救うわ!」

 

 おお……と……り……さん……手……緩……め……

 

 

……い………し…き……が……

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だらっしゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァッッッ!!!」

 

 

「ひでぶっ!?」

 

 

「~~~ッ!!ゴホッ!?」

 な、何が起きた!?

 酸素不足で意識が薄れ、瞼が重くなってきたと思ったら、急に酸素が入り込み、再覚醒した。

 倒れそうになるが、踏ん張って(こら)えた。

 

「提督さんに抱き着くとは、なんてうらやまけしからん!」

 

 瑞鶴の声だ。俺の隣に立っている。

 鳳は……あ、廊下の床に頭がめり込んでる。もしかして、瑞鶴が助けてくれたのか?

 ちなみに、大鳳はスパッツを穿いているから、何色かは分からない。

 

「準、大丈夫!?」

 

「あ、あぁ……大丈夫だ、問題ない」

 危うく窒息死しかけたが、言わないでおこう。それよりも、

 

瑞稀(・ ・)の方こそ、大丈夫か?」

 顔面に執務室の扉が、物凄い勢いで直撃したんだ。鼻とか、顔の骨とかヒビが入ったり、折れたりしてない?

 

「私は大丈夫。妖精さんの「物理的衝撃を和らげる加護」のお陰で、骨にヒビが入ったり、折れたりしていないわ」

 

「そうか」

 顔を見ると、ドアの跡がくっきりと付いているが、それ以外は本当に大丈夫そうだ。

 あれだけの勢いでぶつけたから、鼻血が出ていると思ったんだが、全く出ていない。良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本性を現したわね……」

 

 

 

 

 

 

 

 キャーーー!!鳳さんがァ!地獄の底から響くようなァ!とっても低いィ!ドスの効いた声を出しながらァ!めり込んだ頭を床から引っこ抜いてェ!ユラユラ(・ ・ ・ ・)由良(・ ・)……間違えた。揺れながらァ!立ち上がってェ!

 

 

 

 

 

(<⚫>)(<⚫>)

 

 

 

 

 

 凄い顔してこっち見てますよおおおォォォ!!?

 正確には、瞳孔おっ広げて見つめてくる、だけど。

 

「あ~……準を助ける為、咄嗟にノーザンライトボムぶちかましたから、怒っているわね」

 

 どうやら、瑞稀は鳳にノーザンライトボムをぶちかましたようだ。緊急事態だから仕方ない……よね?

 

「倍返ししてやる!」

 

「鳳、落ち着いてくれ」

 

「大丈夫よ、渡良瀬くん。私、とっても落ち着いているわ」

 

 身体中の関節をボキボキ鳴らしながら、イイ笑顔(・ ・ ・ ・)で構えている時点で、明らかに落ち着いていないと思うんですが。あと、髪の毛に木屑が大量に乗っかってるよ?

 

「鳳!お願いだから、話を聞いて!」

 

 瑞稀が言葉で(・ ・ ・)説得を始めた。しかし、

 

「瑞稀さん。いっぺん、死んでみる?」

 

 どこぞの地獄少女みたいな事を言って、瑞稀を睨んでいる。あと声が怖いです。さっきまでの可愛らしい声は何処に行ったの?ねぇ?

 いつも思うんだけど、ウチの鎮守府に所属する娘達って、声優みたいに声の演技上手くね?提督さんびっくりだよ。艦娘辞めて、声優になったら?きっと、人気声優になれるよ?

 

「何?やる気?」

 

 瑞稀、臨戦態勢にならないで?

 

「なぁ、お前ら。色々思う所があるかもしれんが、ここは穏便に、話し合ってくれないか(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)?」

 暴力は何も産まないよ?だから、話し合おう(・ ・ ・ ・ ・)

 

「わかったわ、渡良瀬くん」

「了解よ、準」

 

 おっ、分かってくれた。良かった良かった。

 

「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」

「ノーザンライトボムをぶちかましてあげるわ」

 

「誰が肉体言語で語り合えって言った?」

 声帯を震わせて、口から言語──日本語で喋って話し合ってくれ、って言ったんだよ?

 あと大鳳。なんだよ、その構え。背筋を伸ばして脚閉じて、両手を水平に広げて……何する気?何処ぞの聖帝と同じ技を使う気じゃないよね?鳳繋がりですか?

……ダメだ、このままだと肉体言語で語り合いを始めちまう。

 

「なぁ、鳳。……いや、大鳳(・ ・)瑞鶴(・ ・)。俺の話を聞け(・ ・)

 真剣な表情で、出来るだけ低い声を出して、大鳳(・ ・)瑞鶴(・ ・)に声をかける。

 

「……了解しました、提督(・ ・)

「……了解よ、提督さん(・ ・ ・ ・)

 

 よし、言葉が届いた(・ ・ ・ ・ ・ ・)

 お陰で、二人とも構えを解いて、気をつけの姿勢になってくれた。

 

 

 

……………。

 

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

15:00。

 

 

 

「お疲れ様」

 

「疲れた……」

 どうにか鳳を納得させられた。

 しかし、完全に納得していない。こりゃ、時間がかかりそうだ。

 あと、出撃で不在の翔鶴──静流とも話合わせないといけない。やる事が多いな。

 

「ほら、もう少しで終わるから、頑張りましょう?」

 

「あーい」

 俺が鳳を説得している間、千歳さんが仕事をしてくれたから、残りの書類は僅かだ。さっさと終わらせて頭を休めたい。

 

 そうそう。執務室の前で、鳳と瑞稀がドンパチ始めそうになった時、千歳さんは止めに入らなかった。

 理由を聞くと、「下手に介入すると、余計に拗れると思い、様子を見ることにした」らしい。うん。正解だと思う。

 ただ、俺が大鳳にしがみつかれ、呼吸困難に陥った時は助けて欲しかった。そう言ったら、

 

『助けようとしたら、瑞鶴さんが行動を起こしていたの』

 

 と、苦笑いされた。助けようとしてくれたんだ。ありがとうございます。

 

……さて、何があったか説明しよう。

 執務室前で一種即発になったが、俺がやめるよう命令した(・ ・ ・ ・)

 あまりキツい口調で注意したくなかったが、そうしなければドンパチ始まっていた恐れがある。

 

 話が脱線したな。その後どうなったか説明するぞ。

 あのまま廊下で話すと、熱中症や脱水症状を起こす恐れがあったので、場所をクーラーのある談話室に移し、()瑞稀(・ ・)は無害であると、瑞稀を交えて説明をした。

 最初は瑞稀が混じる事に対して、鳳は拒絶していたが、瑞稀が、

 

『私の全身を拘束して?』

 

 そう提案してきた。

 全身を拘束された状態なら、暴れられない。

 鳳は渋々認め、同席するのを許可してくれた。

 大本営から支給された、妖精さん特製の拘束具を全身に付けられた状態で、瑞稀と鳳、俺の三人は談話室で話をした。

 何でそんな物があるかは、機会があれば(・ ・ ・ ・ ・ ・)する。

 

 説明中、鳳は無言で聞いてくれたが、納得していないのか、終始しかめっ面をしていた。

 どうすれば納得してくれるんだ?そう思った時、

 

『言葉で信用してくれないのなら、行動で示すわ。時間を頂戴?もし、少しでも不審に思ったら、「第603鎮守府所属、翔鶴型航空母艦二番艦、瑞鶴の適性者、風見瑞稀は提督に対し、度重なる暴力行為を働いている」と、大本営に匿名で垂れ込んでいいわ』

 

 瑞稀が真剣な表情で、鳳の目を見ながらそう言った。

 この発言に、鳳は目を丸くして驚いていた。

 それもそうだ。鳳の知る風見瑞稀(・ ・ ・ ・)は、自分勝手で、他人の気持ちなど理解しようとしない。まして、自分の不利になることを、例え演技でも決して口にしない、我儘な人間なのだから。

 

『そこまで言うのなら、様子を見させてもらうわ』

 

 流石の鳳も、猶予を与えてくれた。

 その後、俺は仕事がある為、執務室に戻り、今に至る。

 

 ちなみに、鳳と瑞稀は今も談話室でお話(・ ・)をしている。

 ドンパチやるんじゃないのか。不安に思ったが、二人に「決して肉体言語で語り合わない」と、真剣な顔で言われたから、それを信じ二人きりにした。

 

……そうだ、まだ、鳳に話していない事があったんだ。

 

(彼女──瑞稀を助けた存在は、どう説明しよう?)

 今すぐにでも話したいが、まだ鳳は瑞稀の事を信用していない。もし、今話したら、余計に拗れる恐れがある。

 

(静流とも話し合って、二人(瑞稀と静流)を信用してくれるようになってからにしよう)

 

「ほーら、ボーッとしてないで、お仕事しましょう?」

 

「……分かりました」

 考え事をするのは、一旦やめだ。今は目の前の書類を捌くことに集中しよう。

 

 

 

 

side 提督 out

 

 

 

───────

────

 

 

 

 

side 大鳳

 

 

──第603鎮守府、談話室──

 

 

「──それで?どういう心境の変化?」

 渡良瀬くんから説明を受け、仕事があると言って執務室に向かうのを見送った後、疑問に思ったことを瑞稀さんに聞いてみることにした。

 

 私の知る風見瑞稀さんは、例え演技でも、自分の不利になることを言わない。

 一体、どのような心境の変化があったのかしら?

 

「どう、とは?」

 

「私の知る貴女は、例え演技でも、自分の不利になるようなことを言わないわ」

 

「……私ね、準の事が好きなの」

 

「……は?」

 いきなり、何を言い出すの?

 拘束具を付けられた状態で椅子に座る瑞稀さんを見る。

 その顔は、とても優しい表情をしている。

 学生時代。彼女はいつも、焦燥に駆られたような顔をしていた。

……こんな顔、見た事無い。まるで、憑き物が落ちたようね。

 

「ううん、心の底から愛しているの」

 

「……」

 顔だけじゃない。声も、とても穏やかな物だ。

 

あの頃(学生時代)の私は、とにかく我儘だった。いつも彼が取られないか焦っていたの」

 

「……」

 

「だから、準に私以外の異性が近付くのを見る度、排除しようと暴力を振るったりした。そのせいで、私は……彼に。彼と、周りの人達に沢山迷惑をかけてしまった」

 

「……」

 

「卒業間近に、彼から別れを告げられ、置いていかれて……それで、ようやく気付いたの。私は、なんて馬鹿な事をしてしまったのだろう、と」

 

 何故だろう。嘘を言っているようには聞こえない。

 それほど、彼女の言葉に重みがあるように感じた。

 

「私は、謝りたかった。だから、学校の先生や、彼のお爺さんに、彼は何処に行ったのか、何度も土下座して頼んで、教えてもらったわ。そして、提督になったと知った」

 

「……それで、艦娘になった、と」

 

「えぇ。幸い、瑞鶴の適性があったから、こうして此処(第603鎮守府)に居るの」

 

「……」

 

「色々あったけど、ようやく此処(第603鎮守府)に着任出来て、彼に謝罪したわ」

 

 それから、瑞稀さんから話を聞き、色んな事を知ることが出来た。

 

 艦娘になれたが、着任先は此処では無かった事。

 約半年前、此処に異動出来た事。

 彼に謝罪した事。

 最初は拒絶された事。

 

 そして、

 

「信じられない……」

 和解し、再び付き合う事にした。それだけでも、私を驚かせたけど、もっと驚く事があった。それは──

 

「静流さんとも付き合う事になったなんて……」

 どうやら、静流さんも彼に好意を寄せていて、二人で付き合っている、と言われた。

 最初は信じられなかった。けど、何故だろう。嘘を言っているようには見えなかった。聞こえなかった。

 上手く言葉に出来ないけど、瑞稀さんから感情が伝わって(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)きて、本当の事を言っているのだと理解出来た。

 

……自分でも何を言っているのか、分からない。けど、今の彼女は信じられる。何故だかそう思えた。

 

「驚いた?」

 

「驚きの連続で、思考が追いつかないわ……」

 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、彼女が見つめてくる。

……この人、こんな顔出来るのね。

 初めて見た表情。学生時代、彼女は常に焦った顔をしていたから、とても新鮮。

 

「ねぇ、()

 

「……何かしら、瑞稀(・ ・)さん?」

 先程までとは違い、真剣な顔をしている。何を言うのかしら?

 

「一つだけ、お願いがあるの」

 

「お願い?」

 何かしら?思わず身構えてしまった。

 

私の事(・ ・ ・)は、信じなくていい(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)。けど、()の事だけは、信じてあげて?」

 

「!?」

 身構えていると、再び信じられない事を言い出した。

 

 

私の事は、信じなくていい

 

 

(嘘……でしょ!?)

 信じられない事の連続が続いていたのに、更に信じられない事が起きた。

 彼女が。瑞稀さんが、「私の事は信じなくていい」と言った。

 さっきも言ったけど、彼女は演技でも、決して自分の不利になることを言わない。

 本当に、何が起きたの!?この人、本当に風見瑞稀さん?そっくりさんじゃないの?

 

「ふふっ、そんな顔しないで」

 

 微笑みながら、瑞稀さんに言われ気付いた。今の私、アホみたいに口を開けて呆然としている。

 

「……本当に、何があったのよ」

 ここまで素直だと、逆に怪しい。

 

「何も無いわ。ただ、自分がしてきた事を反省して、同じ過ちを繰り返さないようにしているだけ、よ」

 

「……」

 あまり考えたくないけど、彼と別れて心が壊れてしまい、人格が変わってしまったのかもしれない。

 それか、演技をしているか。

 もしくは、本当に反省して、あの頃のような言動を取らなくなったか。

……分からない。分からないから、

 

(暫く様子を見ましょう)

 その為に、猶予を与えた。

 常に隠しカメラとボイスレコーダーを持ち歩いて、不審なことをしないか、しっかり見張りましょう。

 

 

side 大鳳 out

 

 

 

───────

────

 

 

Another side

 

 

──大本営、技術課──

 

 

 

「主任、確認をお願いします!」

 

「ん~?どれどれ?……ダメダメぇ!こんなんじゃ、ダメだよ!」

 

「マジっすか!?」

 

「マジです(迫真」

 

「で、ですが、この仕様だと、被弾率が……」

 

「あ、そうなんだ?で?それが何か問題?」

 

「……」

 

「データだと、彼女、ゾンビ(・ ・ ・)並の耐久性持ってるから、大丈夫だよ?」

 

「は、はぁ……」

 

「それに、彼女の反応速度なら、全回避余裕っしょ!」

 

「わ、分かりました」

 

「んじゃ、こっちはよろしく!」

 

「はいっ!」

 

「……」

 こんなの、普通の艦娘じゃ扱えない。それどころか、下手すれば死ぬ。だが、あの艦娘なら扱える。

 

「全く、とんでもないスペックだよ、ゾンビ(・ ・ ・)ちゃん」

……さっさと作って、テストしよう。

 

 

「よ~し!おじさん、頑張っちゃうよ~?ギャハハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

Another side out

 

 

───────

────

 





次回予告


 異動してきたの、提督の学生時代のクラスメイトなんだって?しかも、好意を寄せているときた。
 頼むから、これ以上甘い空気を作らないでくれよ?摩耶様は甘い空気と甘いモンが苦手なんだ。
……おっ、噂をすればなんとやら、だ。お~い大鳳!ちょっと頼みがあるんだ。アタシの演習相手になってくれねぇか?対空戦闘の訓練をしたいんだ。
……えっ?涼月と演習するから無理!?
 てっ、提督!メンタルケアの準備をしろ!早くッ!



第72話・これは駆逐艦ですか?いいえ、ゾンビです



「渡良瀬くん、異動してもいいかしら?」



【補足的なナニか】


・野水伊織…声優。いつも素敵な声をありがとうございます。

・止まるんじゃねぇぞ…元ネタは「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ」に登場する、「オルガ・イツカ」が取ったポーズ。

・フリージア…上記の「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ」2期のエンディング曲。

・いっぺん死んでみる?…「地獄少女」に登場する「閻魔あい」の台詞が元ネタ。言われた相手は地獄に堕ちる。
 CVは、大鳳の中の人と同じ、「能登麻美子」さん。

・退かぬ!媚びぬ!省みぬ!…元ネタは「北斗の拳」に登場する「聖帝サウザー」の台詞。
 奥義は、背筋を伸ばして、足を閉じ、両手を水平に広げる構えから放たれる「天翔十字鳳(てんしょうじゅうじほう)

・大本営、技術課…変態技術者達の巣窟。
 その技術力と発想は常にぶっ飛んでいて、外国の技術者達や、外国艦娘達から
「HENTAI JAPAN」「CRAZY JAPAN」と認識される原因を作っている。

・技術課主任…「愛しているんだ、君たちを。ハハハッ!!!」
 大本営、技術課に所属する男。声が「藤原啓治」さんに激似らしい。

・武蔵…呉鎮守府所属、大和型戦艦二番艦、武蔵を指す。第603鎮守府に異動した大鳳とは仲良し。
 何やら、大鳳に色々教えたらしい……。


以上、補足終了。
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