追跡鶴   作:EMS-10

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※注意※
いつもの頭の悪い内容
お前らの嫁だろ、早くなんとかしろよ
一部、実際の物と異なる描写が含まれています
予め、ご了承下さい


 


第73話・ここは鎮守府ですか?いいえ、魔境です

 

「ぱぱ~♪」

 

「」

 

「あはははっ♪あはははははははははっ♪」

 

 なんということでしょう。俺は、大鳳──(おおとり)のパパになってしまったようです。

……現実逃避はこの辺にして、目の前の現実をしっかり受け止めろ。

 

()、俺が誰か分かるか?」

 

「ぱぱ!」

 

「うん、違います」

 俺は君のパパじゃないよ?君の提督だよ?

 しかし、()に俺の声は届いていない。

 一旦、医務室の外に出て、この原因を作った娘達に注意しよう。

 

「ぱぱ!行っちゃヤダ!」

 

「大丈夫だよ、飲み物を。()の好きなジンジャーエールを買いに行くだけだから、すぐに戻ってくるよ」

 泣きそうな顔で袖を掴まれてしまった。振り払ったら、号泣する恐れがある。だから、飲み物を買ってくると言って落ち着かせた。

 

「ほんと?」

 

「ホントだよ。提督、嘘つかない」

 

「ていとく?なにそれ?」

 

「……とにかく、すぐに戻るから、いい娘にしてくれ。いいな?」

 

「分かった!いいこにしてる!」

 

……よし、大人しくなってくれた。今のうちに外に出よう。

 大鳳に不安を与えないよう、ゆっくり医務室を出る。

 ドアを開けると、()が幼児退行した原因を作った薩人大和撫子(扶桑さん)狂乱ピンク(由良)狂犬(夕立)の三人が申し訳なさそうな顔をして立っていた。

……落ち着け。大声を出さずに叱ろう。

 

「オメーらが調子に乗ってドンパチやったから、()が大変なことになっちゃったじゃないか!どうしてくれんの!?」

 

「も、申し訳ございません!」

「ちょっと、やり過ぎてしまいました……」

「深く反省しているっぽい──反省しています」

 

 俺が叱ると、三人は謝罪してきた。

 

「……はぁ」

 どうすりゃいいんだよ……。

 

 

 何故、()が幼児退行したのか。俺は、こうなった原因を思い出すことにした。

 

 

 

 

───────

 

────

 

 

 

 

 

 

side 提督

 

 

大鳳が精神崩壊する数時間前。

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

08:00。

 

 

「大鳳のメンタル、フィジカル。共に異常なし、と」

 妖精さんに調べてもらったが、両方とも異常なし、と診断された。

 

「大鳳さん、大変な目に遭われましたね……」

 

「一時はどうなるかと思ったよ……」

 本日の秘書艦、海風が苦笑しながらそう言った。

 昨日、ゾンビ化した涼月と演習し、精神崩壊しかけた大鳳だったが、俺や、涼月以外の艦娘達によるメンタルケアにより、復活。若干怯えているが、普段の凛々しい大鳳に戻ってくれた。

 

此処(第603鎮守府)に所属する娘達は、ヤベー奴ばっかなのを、すっかり忘れていたよ……」

 慣れ過ぎて、普通の事だと認識していたが故に起きた事故。今後、このような事故が再発しないよう、認識を改めねば。

 

「あ、あはははは……」

 

「……そういや、海風も、此処に来たばかりの頃は、ヤベー奴の動きや戦い方を見て、寝込んだっけ」

 誰とは言わないけど、イイ笑顔で高笑いしながら、格上相手(重巡洋艦や戦艦、空母)を軽々と捻り潰す狂乱ピンク(由良)狂犬(夕立)を見て、卒倒したんだよなぁ。すぐに復活してくれたけど。

 

「はい。最初は信じられなくて、思考が追い付かなくなって、寝込んでしまいましたが、今は慣れたので大丈夫ですよ?」

 

「……ごめんよ、辛い目に遭わせて」

 

「い、いえ!お気になさらないで下さい!」

 

 花の咲くような笑顔を見せてくれた。可愛い。

 

「第08鎮守府に所属していた時、瑞鳳さんや荒潮さんが色々やっていたのを見たので、耐性が付きました。ですが、由良さんや夕奈(ゆうな)──夕立姉さん達の戦闘法を目の当たりにしたら、想像を遥かに超えていて……卒倒してしまいました」

 

「お、おぅ……」

 海風、苦労かけてすまない。

 あっ、結構前に説明したと思うが、海風と時雨、夕立は従姉妹同士だ。だから、時雨と夕立の事を「姉さん」と呼んでいる。

 

「私も、夕立姉さんのような戦い方が出来るようになりたいなぁ……」

 

「やめてください」

 やめて?お願いしますから、やめてください。

 海風、君は第603鎮守府の数少ない癒し枠なんだ。頼むから、バーサーカーにならないでください。なったら、俺の精神が崩壊しちゃう。

 現在残っている癒し枠は、海風だけだ。

……初霜?以前、休養状態の時──プールでやらかしたから、除外している。

 満潮?彼女は癒し枠と言うより、矢矧のような叱咤激励してくれる存在だから、除外。

 木曾?彼女は悪友の様な存在だから、除外。

 鈴谷は、下ネタを結構な頻度で言うから除外。下ネタ言わなけりゃ、間違いなく癒し枠に入るんだが……。

 

「だ、ダメですか?」

 

「海風、君は君のままで居てくれ」

 俺より歳下なのにしっかりしていて、花の咲くような笑顔を見せて癒してくれる。まるで姉。いや、母親の様な安心感を与えてくれる。

 そんな娘が、夕立みたいにイイ笑顔を浮かべ、「ヒッャッハハハハハ!」って高笑いしながら変態軌道で海上を銃皇無尽(じゅうおうむじん)──間違えた、縦横無尽に駆け、深海棲艦を。鬼・姫級を軽々と屠る姿は見たくない。見たら、確実に精神崩壊する自信がある。

 

 だから、

 

「頼む、海風。変わらないでくれ。俺は今の海風が(・ ・ ・)大好きだ(・ ・ ・ ・)

 心の底から思っている事を、彼女に言った。

……あれ?今の、告白じゃね?確実に告白じゃね?

 この場合の好きは「恋愛的な意味」の好きじゃなくて、「部下として」「癒し枠として」好き、という意味だ。

 しかし、海風が「異性として好き」という意味で捉え、告白された、と勘違いする恐れがある。言い直そう。

 

「(<⚫>)(<⚫>)」

 

「ッ!?」

 誤解されないよう、「部下として好き」と言おうとしたら、海風がお目目をかっ広げて俺を見つめていた。

 

(お、おいおい、嘘……だよね?)

 瑞鶴達がよくするお目目→(<⚫>)(<⚫>)で、海風が俺を見ている。

 

「今、好きって、言いました!?

(<⚫>)(<⚫>)」

 

 ヤメテェ!そんなお目目→(<⚫>)(<⚫>)しないで!?

 何故!?何故そんな目をするんだよ!?

……あっ、分かった。きっと、「提督の事は上司として好きだけど、異性としては眼中に無い」。だから、「告白されて驚き、嫌悪感が込み上げ、思わず目をおっ広げて」しまったんだろう。

 待ってな、すぐに誤解を解くから。

 

「あぁ。但し、部下として好き、って意味だ」

 よーし、言ったぞ。これで誤解を解け──

 

「……」

 

(──あ、あれ?)

 お目目は元に戻ってくれたけど、今度は真顔になった。

 きっと、安堵して真顔になったんだろう。そうに違いない。

 

「……そう、でしたか」

 

 ほら、声が低い。きっと、「驚かせやがって」とイラついて、声が低くなったんだろう。

 

「……提督、こちら、今月の光熱費及び食費を纏めた書類になります」

 

「お、おう」

 真顔で低い声。うん、怒ってるね。間違いなく怒ってる。「眼中に無い奴に告白されて、ムカつく」と思っているんだろうね。本当にごめんなさい。

 

(セクハラにならない……よね?)

 もしセクハラ認定されたら、憲兵さんのお世話になっちまう。それだけは避けたい。

 

 

 

 

───────

 

 

 告白された。そう思ったら、嬉しさのあまり、瞳孔を開いて彼を凝視してしまった。それに、思わず凝視してしまった自分を内心で責めていたら、低い声を出してしまった。

 幸い、彼は勘違いをしてくれたので、私の本当の気持ちに気付かれる事は無かったけど──

 

(まだ、バレるわけにはいきません)

 彼の周囲には、好意を寄せる方達ばかり。その方達は堂々と「好き」とアピールし、積極的に攻めています。

 そして、彼はそれに対し、やや引き気味になって受け止めています。

 

(彼は優しいから、アプローチをかけている方達を面と向かって「嫌だ」とは言いませんが、「鬱陶しい」と思っている筈)

 私は、ガツガツ攻めない。着実に外堀を埋めていき、精神的に弱った時に軽くアプローチをかけて、私という存在を彼の心に刻む。それを何度も繰り返し、そして──

 

「海風、どうした?」

 

「──へっ?」

 い、いけない!彼が不審がっている!誤魔化さなきゃ!

 

「あ、そ、その……少し、頭がぼんやりとしてしまいまして……」

 

「そうか。今、飲み物を用意してくる。水分不足が原因かもしれん」

 

「えっ?あっ……」

 彼が席を立ち、飲み物を用意しに行ってしまいました。

 

(……上手く誤魔化せた、よね?)

 少し。いいえ。かなり危うかった。まだ。まだ知られるわけにはいかない。

 

 

 遅効性の毒のように、じわじわと。そして、確実に。

 私という存在しか考えられないようにしてあげます。

 

 

「……ふふふふ」

 覚悟してくださいね?渡良瀬さん。

 

 

 

───────

 

 

 

 

11:00。

 

 

「──はい。……はい。了解しました!──いえ、こちらこそ。はい。……ありがとうございます。……では、失礼致します!」

……ふぅ。何時になっても電話は緊張する。

 

「どうかされましたか?」

 

「ん?あぁ、例の件(・ ・ ・)でな……」

 

「成程」

 

 例の件──レ級の大量出現に関する事──と言うと、海風はそれ以上聞いてこなかった。

 

(レ級の数が、少しずつ増えている)

 さっき、第8492離島鎮守府を運営する小嶋提督から連絡が入った。

 話によると、第8492離島鎮守府から東に約500km先の海域に、深海棲艦の大部隊が集結しつつあるそうだ。

 その中には、通常種──駆逐イ級から戦艦ル級までの、通常種と呼称される深海棲艦──だけでなく、

 鬼・姫級──主に(・ ・)装甲空母鬼、空母棲姫──までも確認されているそうだ。

 それだけじゃない。その中にレ級も居る。その数、確認されただけでも50隻以上。約二週間前は20隻前後だったのが、二倍以上に増えた。

 

(ヤバいなんてレベルじゃない)

 あのレ級が。一隻居るだけで、並の艦娘だと全く歯が立たない、あのレ級が、少なくとも30隻居る。まともにやり合ったら負ける。

 

(大本営には知らせて、他所の鎮守府に応援を要請したそうだが、他の海域の対応で手一杯)

 小嶋提督が言うには、横須賀や江ノ島鎮守府。その他の鎮守府が受け持つ海域に、深海棲艦の大部隊が確認され、その対応で手一杯で、俺達の所に増援を回す余裕が無いそうだ。

 

(マズいぞ。あのレ級だけでなく、鬼・姫級や通常種も居る。一気に攻め込まれたら、物量差で潰される)

 小嶋提督の受け持つ海域に、今の所深海棲艦の大群は押し寄せていないが、何時来てもおかしくない。

 

(装備も、今現在大急ぎで手配している)

 工廠の妖精さん達から、砲身が摩耗して不足している、と報告を受け、機械をフル稼働させて増産している。

 他にも、爆雷や艦載機、特殊弾薬──徹甲弾や三式弾なども用意させている。

……一応、最終手段用に、以前、横須賀鎮守府から支給された、磯風カレー入り砲弾(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)も用意している。

 これを使うと、冗談抜きでバイオハザードが発生する代物だから、本当にどうしようもなくなった時に使わせよう。

 

(しかし、いくら武器・弾薬を用意しても、艦娘が少ない)

 大鳳が着任してくれたから、現在24名の艦娘が居るが、大群を相手するには人数が足りない。

 しかも、現在榛名は不調で、出撃させるわけにはいかない。どうすりゃいい?……待てよ?

 

(言葉は悪いが、千歳さんという最終兵器が居るから、大丈夫かもしれな──楽観視するな!)

 幾ら昔、深海棲艦の大群をたった一人で殲滅した事があると言っても、今回も殲滅出来るとは限らない。

 

(考えろ。考えるんだ)

 少人数でも大群を相手出来る方法を考えろ。

……ん?ノック?

 

「誰だ?」

 

『ふ、扶桑です』

 

 扶桑さん?声が焦っている。どうしたんだ?

 

「入ってください」

 話を聞けば分かるか。入室を促す。

 

「し、失礼します」

 

「何かあったんですか?」

 声だけでなく、顔も焦った感じのモノだ。

 確か、実戦を想定した訓練──演習を、大鳳とする、って言ってたな。……嫌な予感がする。

 

「あの……その……」

 

「……どうしました?」

 もしかして、大鳳に何かあったのかな?

 

「……大鳳さんが」

 

「大鳳が、どうしました?」 

 予想通り、大鳳に何かあったようだ。

 まさかとは思うけど、昨日のゾンビ・ショックみたいな事が起きたんじゃないよね?

 

「……幼児退行してしまいました」

 

「……は?」

 

 

side 提督 out

 

 

───────

────

 

 

 

side 大鳳

 

 

09:50。

 

 

──第603鎮守府、埠頭──

 

 

「──チェック完了。異常なし」

 艤装を纏い、異常が無いか確認。……よし、出ましょう。

 埠頭に設けられている階段を降り、海上に立つ。

 両足は沈むこと無く、地面のように海面を踏む。

……さぁ、やるわよ!

 

「大鳳さん、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします、扶桑さん」

 腰まで届く、濡れ羽色の美しい黒髪を風で靡かせ、どこか恐ろしさを感じさせる程に美しい顔で、微笑みながら私に挨拶してくれた扶桑さんに、挨拶を返す。

 

 元佐世保鎮守府所属。扶桑型戦艦もとい、扶桑型航空戦艦一番艦、扶桑の適性者。

 呉鎮守府に居た頃、様々な噂を耳にした。

 

 曰く、単独で佐世保鎮守府近海の深海棲艦を殲滅した。

 曰く、単独で敵棲地を壊滅させた。

 曰く、驚異的身体能力の持ち主。

 そして──

 

(日本刀で次々に深海棲艦の首を斬り落とした艦娘)

 常人──普通の艦娘では、決して出来ないことを軽々とやってのけた、怪物。

 それにより、西日本側の鎮守府に所属する艦娘達と提督達から、畏怖を込めて、こう呼ばれている。

 

 

佐世保の薩人(・ ・)大和撫子(・ ・ ・ ・)

 

 

 そんな、文字通り化け物のような艦娘が、言葉は悪いけど、何故片田舎の此処(第603鎮守府)に居るのかしら?

……まぁいいわ。きっと、理由があって、此処に異動したのでしょう。

 

(上の決定は絶対。疑問を持たず、私は私に与えられた役割を果たしましょう)

 軽く(かぶり)を振って余計な思考を飛ばす。

 今日は対戦艦を想定した戦闘訓練を(おこな)う。私の我儘に、扶桑さんは付き合ってくださった。だから、余計なことを考えず、訓練に集中しないと。

 

「では、所定の位置に就きましたら、無線で知らせてください」

 

「はいっ!」

 

 

……。

 

 

 

「こちら、大鳳。所定の位置に就きました」

 

『こちら、扶桑。私も所定の位置に就いたわ。何時でも始められるわ』

 

「では、よろしくお願いします!」

 

『はい。よろしくお願いします』

 

 準備は整った。

 素早くボウガンに、艦載機が内蔵されているマガジンを装填。風向きと波、太陽の位置を確認し、ボウガンを構え──

 

「第一次攻撃隊、全機発艦!」

 トリガーを引き、艦爆隊を発艦。

 ボウガンから放たれた矢は、炎を纏って飛び、やがて艦載機に姿を変えた。

 すかさず、マガジンを装填し、艦攻隊を発艦。

 

(さて、どう出るかしら?)

 艦載機を操る妖精さんの視界とリンクし、射程圏外の上空から扶桑さんを確認しながら、頭の中で作戦を練る。

 

 相手は、あの薩人大和撫子(・ ・ ・ ・ ・ ・)。生半可な攻撃では、大破判定どころか、ダメージすら与えられない。

 どう攻めるか考えていた時だった。

 

 

 

『敵艦載機、確認』

 

 

 

「ッッッ!!?」

 何よ!この声!?

 演習開始前に聞いた、穏やかな扶桑さんの声が、今は地獄の底から響くような低い声になっている。どこからそんな声出してるのよ!?

 思わず無線機を殴りそうになってしまった。

 

『この高さでは、対空射撃を行っても届きませんね』

 

 再び無線機から扶桑さんの声が聞こえてきた。今度は、普通の声だった。

 

(聞き間違い──いいえ、確かに聞いたわ)

 思わず動揺してしまった。しっかりしなさい!今は演習中よ?

 気を引き締め、妖精さん達に指示を出し、攻撃体制に入るよう、指示を出す。

 

 艦載機は編隊を組み、一気に高度を落とし、目標(扶桑さん)目がけて突撃。

 艦攻隊は一部を除いて上空に待機させ、残りを目標の背後に回らせ、雷撃体制に入らせる。

 

 真上から艦爆隊。主砲・副砲では射角が足りない。

 背後から艦攻隊。回避しようとすれば、爆撃される。

 お世辞にも、扶桑さんの航行速度は早くない。ハッキリ言うと、遅い。

 さぁ、どう対処するのかしら?

 

『あらあら、囲まれてしまいましたね』

 

 穏やかな声。何故そんなに落ち着いていられるの?

 幾ら第二次改装を施された戦艦でも、直撃すれば大ダメージは免れない。何か策があるのかしら?

 そう思った時だった。

 突然、扶桑さんは両足を開き、左足を後ろに。右足を前にし、腰を落として左腰に装備した日本刀に手をかけた。

 

「──えっ?」

 何をする気なの?

 思わず困惑してしまった。しかし、すぐに気持ちを切り替え、艦載機の操作に集中。

 

 

 

『墜ちろ』

 

 

 

「ッッッ!!?」

 再び、地獄の底から響くような声が聞こえた。

 次の瞬間、扶桑さんに向かっていた艦載機が、撃墜された。

 それだけじゃない。上空に待機させた艦載機まで、撃墜されてしまった。

 爆発。

 それにより、爆炎が扶桑さんを包み、彼女の姿が見えなくなってしまった。

 

「──は?」

 思わず間抜けな声が出た。何!?何が起きたの!?

 まさか、日本刀で斬り墜としたの!?

 困惑し、呆然と立ち尽くしていると、再び無線から扶桑さんの声が聞こえてきた。

 

『中々良い動きですね。素晴らしいです。感動的です。

 

 

 

だが、無意味だ』

 

 

「」

 

『ふふふふ……大鳳さん、お代わりを要求します』

 

「」

 

『……お代わりは無しですか?なら……

 

 

こちらから行きます♪』

 

 

 次の瞬間、扶桑さんが抜き身の日本刀を右肩に担いで、私に向かって海上を全力疾走(・ ・ ・ ・)し始めた。

 

「────!!?」

 ちょ、はぁ!?速い!貴女、低速艦でしょ!?何でそんなに速いのよ!?

 驚いている間に、私と扶桑さんとの距離がどんどん縮まってきている。に、逃げなきゃ!?い、いいえ、艦載機に余裕はある。急いで迎撃を──

 

 

 

(<⚫>)(<⚫>)

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!!」

 無理無理無理!迎撃なんて無理!

 普段の私なら、逆にやる気を出して迎撃していたけど、昨日ゾンビ(涼月さん)に襲われたトラウマが蘇り、本能的に逃げる事を選択してしまった。

 

 距離が縮まったせいで、扶桑さんの顔が見えた。

 距離、約10.000m。普通なら顔なんて見えないけど、艦娘の力で視力を強化しているから、見えた。見てしまった。

 

 

 三日月のように口角を上げて微笑み。

 瞳孔を限界まで広げ。

 血走った目で私を見つめる、扶桑さんの顔が。

 

 

 

「やってられっかあああああああああああああああ!!!」

 バカヤロウ!私は逃げるわ!全力で逃げるわよ!!

 主機の出力を限界一歩手前まで上げ、戦速一杯にして逃走。

 しかし、徐々に距離が詰まり始めた。

 おかしいでしょ!?私、約33ノットも出しているのに、何で低速艦に追い付かれているのよ!?

 

 

『何処へ行こうと言うのですかァ?』

 

 

「ひいいいいぃぃッ!?」

 嫌ァ!嫌ァァァァ!!!

 頭おかしい!絶対頭おかしい!!この鎮守府、頭おかしい人ばっかなの!!?

 

「──あっ!?」

 し、しまった!慌てて航行していたから、波に足を取られ、転倒してしまった。

 そのせいで、一気に距離を詰められてしまった。

 

「ぁ……ぁぁぁ……」

 来る。

 日本刀を右肩に担ぎ。

 マジ○チスマイルを浮かべ。

 私を殺しに薩人大和撫子が、来る!

 

「助けて!渡良瀬くん(・ ・ ・ ・ ・)!殺されちゃう!!!」

 思わず、彼の名を叫び、助けを求めてしまった。

 

 薩人大和撫子との距離、約500m。

 走る速度は一切落ちていない。

 嗚呼。短い人生だったわね。

 走馬灯が見えた。

……ここまで、なのね──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハハハハハ♪」

 

「ごほぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「────へ?」

 と思ったら、突然扶桑さんが吹っ飛び、海面を転がった。

 な、何が起きたの!?

 

「扶桑さん、やり過ぎっぽい」

 

 いつの間にか、私の前に艤装を纏った夕立さんが背を向けて立っていた。た、助けたくれたの?

 

「大鳳さん、大丈夫ですか?」

 

「──えっ?あっ……」

 今度は、艤装を纏った由良さんが私に声をかけ、手を差し伸べてくれている。

 迷わずその手を掴み、立とうとしたけど、腰が抜けて立てない。

 

「あらあら。随分こっぴどくやられちゃったみたいですね?ねっ?」

 

 苦笑いしながら、由良さんが言った。

 

「大鳳さん、ちょっとだらしないっぽい」

 

「うぐ……」

 夕立さんが、呆れた顔でそう言ってきた。し、仕方ないじゃない!あんなの見たら(薩人大和撫子に追いかけられたら)、こうなるわよ!

 

「夕立さん、何故邪魔をしたのですか?」

 

 あっ、薩人大和撫子が復活した。日本刀は既に納刀している。

 

「いきなりマジキ○スマイル浮かべて追っかけたら、大鳳さんビビって精神崩壊しちゃうっぽい」

 

「ですが、此処のやり方に慣れてもらうには、アレが一番手っ取り早いと思うのだけど……」

 

 夕立さんの提案に、扶桑さんは難色を示す。

 慣れたくないです。

 

「最初は、無言・真顔で得物(武器)構えて追っかけ回して、ある程度慣れてからマジ○チスマイル浮かべ、高笑いしながら追っかけるっぽい」

 

「確かに。いきなりはダメですね?ねっ?」

 

……なんか、マズイことになりそう。

 さっき逃げたから、埠頭までの距離は近い。急いで逃げた方が良さそうね。

 立たなきゃ。

 けど、腰が抜けて立てない。

 

「では、20ノット以内で追いかけて慣らしましょう?ね?ねっ?」

「分かりました、そうしましょう」

「了解っぽい」

 

 あっ、ヤバい。死ぬ。殺されちゃう。

 

「大鳳さん。辛いと思いますが、この先、第603鎮守府で生き残る為です」

「頑張ってくださいね?ねっ?」

「大丈夫!皆、最初は精神崩壊して寝込むけど、すぐに復活して慣れるっぽい!」

 

「」

 

「では、」

「逃げる準備をしてくださいね?ねっ?」

「グルルルル……♪」

 

「べ、別の日にお願い出来ないかしら?」

 

「「「ダメです(迫真」」」

 

「」

 

 

 このあと、私はキ○ガイ三人に追われた。

 腰が抜けていたから、這って逃げた。

 やがて、私の中で何かが壊れる音がした。

 

 

(あは……あははははっ♪あははははははははははっ♪)

 あはっ♪

……あれ?わたし、なにをしているんだろう?

 あっ、うみの、うえにうかんでる!

 うみにおよぎに、きたのかな?

 あはははっ♪たのしい♪

 あれ?おねえちゃんたち、だれ?

 

 

 

 

side 大鳳 out

 

 

 

 

───────

────

 

 

 

Another side

 

 

 

──大本営、技術課──

 

 

「おいおい。おいおいおい、マジかよ!?」

 

「あ、あの……」

 

「……あっ、これ、やり直しね?」

 スペックが全然足りないよ!

 

「わ、分かりました!」

 

「……」

 俺達技術屋は、武器を作る事しか出来ない。

 作った武器で前線()に出て、戦えない。

 代わりに、艦娘達が戦ってくれている。

 だから、俺達に出来ること──最高の武器を用意し、使ってもらう。

 半端な物は渡せない。

 

「……やるからには、全力で」

 じゃないと、艦娘達に申し訳が立たない。

 

「……よぉし!新人くん、お金あげるから、モ○エナ(緑)全員分買ってきて?余ったお金は懐に入れるなり、好きにしていいから」

 財布から諭吉さんを五枚取り出して、今年配属してきた新人くんに声をかける。

 

「へっ?あ、あの、主任、これだと、三万円以上余るのですが……」

 

「ん?そうだね。余るね。余ったら、新人くんにお釣り含めて全部あげるよ?」

 

「し、しかし!」

 

「いーの、いーの。ほら、早く買ってきて?」

 

「りょ、了解しました!」

 

……よし、行ってくれた。

 若いのを育てるのは、先輩や上司の仕事。フィジカルだけでなく、メンタルもケアしないとダメだ。

 

「……よぉし、おじさん、すんごく頑張っちゃうぞぉ~!」

 気持ちを仕事モードに切り替えろ。でないと、良い結果を出せない。

 

「無理言って納期を伸ばしてもらったんだ。最高の武器を作り上げてやる!」

 

 

 

Another side out

 

 

 

───────

────

 





次回予告


 鳳さんが幼児退行してしまいましたね。
 私も幼児退行していいかしら?
……ダメ?ちぇ。私も幼児退行して、準に甘えたいのになぁ?
 たまにはお姉ちゃんの事、甘やかして欲しいなぁ?
……そんな歳じゃないだろ?
……ふっ。ふふふっ。
 なら、貴女の妹になるわ。準おにいちゃ~ん♪
……歳を考えろ?……ぶち犯すわよ?



第74話・パパって呼ばないで?


「パパが居るなら、ママも居ないとダメよね?私がママになるわ!」


【補足的なナニか】

・大鳳…第603鎮守府所属の艦娘達に洗礼を受け、精神崩壊。
 果たして、彼女の精神は元に戻るのか?戻ったとしても、まともなままで居られるのか?

・扶桑…普段は大和撫子の様な女性。
 戦闘になると、「首を置いて逝け」と、日本刀を振り回す薩人大和撫子と化す。
 今日も元気にマジ○チスマイルを浮かべ、日本刀で立ち塞がる存在を斬り裂く。

・夕立…狂犬。普段は愛玩犬の様な癒しを与えてくれる可愛い娘。
 しかし、戦闘になると豹変する。
 今日も元気に高笑いしながら格上の敵を屠る。

・由良…戦闘狂。普段はお淑やかだが、戦闘になると過激になる。戦争にやり過ぎは無いのだよ!

・技術課主任…「まぁ、やるんなら、本気でやろうか!」
 決して妥協を許さない。しかし、部下を労う優しい心を持っている。その為、部下からの人望は非常に厚い。

・磯風カレー入り砲弾…横須賀鎮守府所属、陽炎型駆逐十二艦番艦、磯風の適性を持つ少女が作ったバイオ兵器カレー。それを砲弾に入れた物を指す。
 件の磯風が作ったカレーは劇物以上の存在で、試しに横須賀鎮守府の空母艦娘が、爆弾に詰めて離島棲鬼に攻撃した所、離島棲鬼はゾンビ化。僅か数分で艤装ごと溶けて消滅してしまった、と報告している。
 大量に磯風カレーが余っていた為、横須賀鎮守府の提督が、他所の鎮守府にプレゼントした(という設定)。


以上、補足終了。
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