追跡鶴   作:EMS-10

94 / 214

※注意※
御都合主義有り
こまけぇこたぁいいんだよ!
頭を空っぽにしてご覧下さい


 この小説はフィクションです。
 実在の人物、団体、施設などとは関係ありません。
 予め、ご了承下さい。



第74話・パパって呼ばないで?

 

side 提督

 

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

14:05。

 

 

 

「──はい。では、明日の09:00に、そちらに伺います。……はい。よろしくお願いします。……はぁ」

 無事、予約を取る事が出来た。

 

「どうでした?」

 

「幸い、予約が1件キャンセルされたから、明日見てくれるそうだ」

 海風が声をかけてきたので、予約が取れた事を話した。すると、

 

「そうですか。良かったです」

 

 安堵したのか、胸に手を当てて、ホッと息を吐いた。

 もし予約がキャンセルされてなかったら、何時診断してもらえるか、分からなかった。それ程予約が入っている、とカウンセリング課の人に言われた。

 

 最初は大鳳と榛名の二人を診てもらおうと思ったが、一人しか診られない、と言われた為、榛名には悪いが、重症──幼児退行した大鳳を先に診てもらう事にした。

 

「しかし、診断してもらう事が出来ても、治るのでしょうか?」

 

「先生が言うには、特殊な治療方があるから、ほぼ治るそうだ」

 

「ほぼ、ですか……」

 

 海風が不安そうな顔をしている。それもそうだ。

「絶対治る」ではなく、「ほぼ治る」。つまり、治らない場合もある。

 

 大本営、カウンセリング課の先生が言うには、今まで何度も精神崩壊した艦娘や提督(・ ・)憲兵(・ ・)を診てきた。そして、特殊な治療を行い、重度から軽度の精神崩壊を起こした人達を元に戻したそうだ。

 成功率は八割。かなり高い確率だが、二割の確率で失敗する恐れがある。

 

(もし、失敗したら、大鳳はあのまま(幼児退行したまま)なのか……)

 頼む、成功してくれ。思わず手を組んで祈ってしまった。

……今回ばかりは、こうなった原因を作った三人に、厳重注意しよう。でなきゃ、またやらかす恐れがある。

 仕事を終わらせ、大鳳の様子を見たあと、三人を執務室に呼び出そう。

 

「……提督、あの、こういう時に言うのもなんですが、お仕事をしませんか?」

 

「……あぁ、分かった」

 祈っていても、仕事は減らないし、無くならない。

 今、俺がするべきこと。それは目の前の書類を捌き、仕事を片付ける事。

 大鳳は大事だ。しかし、仕事を放棄していい理由にはならない。

 

(今は矢矧があやしてくれている)

 さっさと仕事を終わらせて、大鳳の様子を見に行こう。

 

 第603鎮守府のオカン(ママ)こと、矢矧。彼女が謎の母性を発揮してくれたお陰で、大鳳は俺が居なくても騒がず、大人しくしている。

 あの母性。一体何処で身に付けたんだ?マジで母親のような安心感があって、思わずバブみを感じてオギャりそうになったぞ?

 

 ちなみにだが、矢矧以外の娘達──出撃や警護が無い娘達と、原因を作った三人(扶桑さん、由良、夕立)以外が大鳳の相手をしようとしたが、矢矧以外は怯えられて大泣きされてしまった。特に千歳さんを見た瞬間、発狂したかのように泣き叫び出した。

 本能的に何かを感じ取ったのかな?あの人(千歳さん)、雰囲気がちょっと怖いし。

 

(大泣きされたのを見た千歳さんの顔。ニッコリ笑っていたけど、黒いオーラが出ていたな……)

 あれは怖かった。……あっ、内線が鳴った。急いで受話器を取ろうと思ったが、考え事をしていたせいで、海風が先に受話器を取った。しっかりしろよ、俺。

 気持ちを切り替えて、電話対応を海風に任せ、書類を捌く。その間、海風が電話でやり取りをしてくれている。話を聞くに、工廠からの報告みたいだ。

 

「──了解しました。……提督、工廠の夕張さんから、20.3cm連装砲(2号)の砲身20本の製造及び、例の砲弾(・ ・ ・ ・)5発の製造が完了した、との報告が入りました。尚、10cm連装高角砲の砲身は現在、17本まで。特殊弾薬は徹甲弾・三式弾共に86発まで製造が完了した、とのことです」

 

「分かった、報告ありがとう」

 かなり早いな。このペースなら、今日中に終わりそうだ。後で臨時ボーナスを夕張と妖精さん達に支給しよう。

 

「どういたしまして」

 

 皆、頑張ってくれている。俺も頑張らないといけないな。

 

 

 

………………。

 

 

 

──第603鎮守府、医務室──

 

 

16:30。

 

 

「あっ、ぱぱ!」

 

「いい娘にしてたか?」

 

「うん!」

 

 集中して書類を捌き、大急ぎで全ての仕事を終わらせ、医務室に居る大鳳の様子を見に来た。

 

「矢矧、大鳳の相手をしてくれて、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 俺が居ない間、大鳳がぐずったりしていないか心配だったが、矢矧が上手く対応してくれたからか、とても大人しかったそうだ。

 

「ぱぱ~♪」

 

「うおっ!?」

 突然、ベッドから俺に向かって大鳳が飛びついてきた。

 受け止める体制を取っていなかったから、倒れそうになる。が、足を踏ん張って、転倒を阻止。

 何とか倒れずに済んだが、無理な体制で踏ん張ったからか、足首と腰を少し痛めてしまった。後で湿布貼ろう。

 

(精神が幼くなっているから、予測不能な行動を取ってくる!?)

 いきなり飛びついてくるとは思わなかった。

 肉体は子どものモノではなく、成長したモノだから、言葉は悪いが重い。それに、大鳳──(おおとり)は、かなり鍛えているらしく、筋肉が相当ついている。

 その為、小柄な見た目からは想像出来ないほど重い。まぁ、女性の平均体重よりも少し重いだけで、()(かか)えられない重さではない。

 

「提督、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だ」

 本当は足首と腰が痛いが、強がる。情けない姿は見せられない。

 

「……ぱぱ、くさい」

 

「ごほっ!?」

 俺に抱き着き、胸に顔を(うず)めていた大鳳が顔を上げると、精神的ダメージを受ける言葉を放ってきた。

 ごめんよ?執務室と医務室を行き来したから、汗かいちゃったんだ。そのせいで、臭っているみたいだ。

 落ち込んでいると、抱きついていた大鳳は俺から離れて距離を取り、

 

「ぱぱ、ばっちい」

 

「ぐほっ!?」

 再び精神にクる言葉を放ってきた。うん。結構精神にクるね。

 世間のお父さんやお母さん達は、子育てをする時、こんな気持ちを味わうのか。子育てをしているお父さん及びお母さん達、頑張っているんだなぁ。そんな事を考えていると、

 

「て、提督、目。目からハイライト消えているわよ?」

 

 矢矧が心配そうに声をかけてきた。

 ハイライト消えているんだ。急いで目を元に戻さなきゃ。けど、どうやって戻すんだ?

 

「ぱぱ、お目目こわい!こないで!」

 

「」

 

「てっ、提督!?口!口から泡吹いてる!」

 

「あっ、ぱぱ、カニさんになった!あはははっ♪」

 

 矢矧、あとは任せていいかな?言葉が出ないから、目で問いかけると、察してくれたのか、矢矧は同情するような顔をして、無言で頷いてくれた。

 

 さて、このまま此処(医務室)に居ると、俺が精神崩壊起こしそうだから、退室しよう。

 二人に背を向けて、医務室のドアに向かって歩くと、

 

「あっ、ぱぱ、どこにいくの?」

 

「提──パパ、ちょっと疲れてるみたいだから、お休みするみたい」

 

「そうなの?」

 

 後ろから、大鳳と矢矧の会話が聞こえてきた。

 なんか、矢矧がママっぽい。流石、第603鎮守府のオカン(母親)。謎の安心感がある。俺が精神崩壊──幼児退行したら、彼女に甘えよう。

……いや、待て。確実に醜態晒してドン引きされる恐れがある。幼児退行したら、瑞鶴に甘えよう。瑞鶴なら、俺が醜態晒しても笑顔で甘やかしてくれそう。

 

(アホな事考えてんじゃねぇ。しっかりしろ)

 艦娘を取り纏める提督が、精神崩壊なんてするんじゃねぇ。俺よりも、艦娘の皆の方が辛い思いをしているんだ。甘えるな。逆に、甘えさせてやれ。

 内心で己に喝を入れる。

……よし、気持ちを切り替えたぞ。

 

(時刻は17:12か)

 夕食まで、あと40分ちょい。三人を呼び出すのは、夕食後にしよう。

 そうだ、明日大鳳を連れて大本営のカウンセリング課に行く事を、皆に伝えておこう。大本営まで、結構距離があるから、明日一日、俺と大鳳は不在になる。提督代理を誰かに頼もう。

 

(以前、重婚する事を宣言して逃げた際、瑞鶴に任せたから、また瑞鶴に頼むか)

 

 

 

…………。

 

 

 

──第603鎮守府、執務室──

 

 

19:30。

 

 

「……何故呼ばれたか、分かるな?」

 食堂で食事を摂る前に、大鳳が幼児退行した原因を作った三人に「夕食後、19:30に執務室に来い」と言い、俺は大急ぎで夕食を摂り、歯を磨き、執務室に向かいクーラーを付け、準備をした。

 そして19:25。指定した時間の5分前に集まってくれた。

 三人を執務室内のソファーに座らせ、向き合う。三人とも、表情が暗い。

 

「……大鳳さんの件、ですね?」

 

「そうだ」

 扶桑さんが三人を代表して、そう言った。

 

「まさか、ああなる(幼児退行する)とは思っていませんでした。己の浅はかな行為を深く反省致します」

「軽率な行動を取ってしまい、誠に申し訳ございません」

「深く反省します……」

 

 三人──扶桑さん、由良、夕立が申し訳なさそうな顔をしながら、頭を下げて謝罪してきた。

 

「謝罪は俺に、ではなく、大鳳に。メンタルが回復してから、彼女にしろ」

 

「は、はい!」

「了解しました!」

「分かったっぽい──分かりました!」

 

 良い返事だ。さて、

 

「……何故、あんなことをしたんだ?他にやり方は無かったのか?」

 大鳳を追い回した理由を聞こう。

 

 大鳳がああなった原因は、ウチ(第603鎮守府)の戦い方を教える為、追いかけ回されたから、らしい。

 しかも、大鳳は昨日の演習の出来事を思い出し、怯えていた。怯え過ぎて、腰が抜けてまともに逃げられない。そんな状態で、三人に真顔・無言で武器を構えて追いかけられた。

 そのせいで、昨日、涼月との演習で精神的ダメージを負っていた大鳳のメンタルにトドメを刺し、精神崩壊させてしまった。

 

「「「…………」」」

 

「黙っていたんじゃ、何も分からん。答えてくれ」

 

「大鳳さんは呉鎮守府に所属していた時、様々な武勲を挙げていたと聞いたので、どれ程の物か調べる為、あのような事をしてしまいました」

「由良──自分は、大鳳さんのメンタルがどれ程強いか調べる為、追い回しました」

「夕立──私は、実戦中にメンタルをやられても大丈夫なよう、鍛える為に追っかけ──追い回したっぽい──追い回しました」

 

「……」

 三人から理由を聞き、目を閉じて無言になる。

 理由は分かった。やり方はアレだが、三人とも大鳳を思ってあのような事をしたみたいだ。

 

「三人の言い分は理解した。理解したが、昨日、涼月と大鳳が演習をして、大鳳が怯えていたのを、知らなかったわけじゃないだろ?」

 

「「「…………」」」

 

 今朝、会議室で朝礼をした際に話した。だから、「知らなかった」は通用しない。

 

「……もう二度としないと、誓うか?」

 出来るだけ低く声を出し、三人を睨む。

 

「「「誓います」」」

 

 三人は俯いていた顔を上げ、真剣な顔で返事をした。

 

「これでもし、また同じような事をしたら、地下にある営倉に入れ、その後、厳罰を与える。よく覚えておけ」

 今まで一度も使ったことがないが、何時でも使えるよう、妖精さん達に頼んで清掃・整備してもらっている。

 頼むから、営倉を使わせないでくれ。

 

「……さて、話は終わりだ。各自、部屋に戻っていいぞ」

 深く反省している。なら、それを信じよう。だから、俺はこれ以上叱らず、部屋に戻るよう促した。

 すると、三人は驚き目を見開いた。それもそうか。もっと叱られると思ったら、部屋に戻れ、と言われたのだから。

 

「あ、あの、提督!」

 

「なんですか、扶桑さん?」

 

「そ、その、もっと叱らないのですか?」

 

 あ、やっぱりそう思う?

 

「もっと叱って欲しいのですか?」

 

「い、いえ、その……私が。私達がやらかした事は、到底許されざる行為です。それなのに──」

 

「確かに、扶桑さん達がした事は、許される行為ではありません」

 

「……」

 

「ですが、扶桑さん達は、自分のした事を深く反省し、二度としないと誓ってくれました。だから、俺はそれを信じます」

 俺がガキの頃、爺ちゃんに教わった事──相手がやらかし、それに対し深く反省しているなら、それ以上追求せず、許せ。そして、信じろ。信じずに深く追求すれば、反省している相手を余計に追い込む。そして、再犯する可能性が高くなる。

 

 話が変わるが、足柄が此処に異動してきたばかりの頃は、俺に対し暴言を吐いたり、暴力を振ってきた。

 話すと長くなるから割愛するが、足柄を信じ続けた結果、彼女は大人しくなり、暴言・暴力行為を働かなくなった。代わりにはっちゃけ、下ネタを連発するようになったが。

 

 俺が何故、もっと叱らないのか。理由を話すと、

 

「「「…………」」」

 

 三人とも呆然としている。ほら、口を開けてポカーンとしていないで、部屋に戻った。明日も仕事があるんだから、しっかり休んでメンタル・フィジカルを万全にしてくれ。

 

「提督、ありがとうございます!」

「今後、二度としないと誓います!」

「提督さんを失望させたり、周りに迷惑をかけないと約束するっぽい──約束します!」

 

「……分かった」

 扶桑さん、由良、夕立が約束してくれた。

 三人を退室させ、執務室に残った俺は、明日クーラーを消し、電気を消して扉に鍵をかけ、自室に向かった。

 

 

……。

 

 

(明日は06:00に此処を出て、大本営に向かう)

 自室に戻り、シャワーを浴びて布団に横になって、明日の予定を立てる。

 此処から大本営まで、車で片道約2時間以上かかる。

 電車ならもっと早く着くが、今回は車で行く事にする。理由は、大鳳だ。彼女は今、幼児退行している。その為、電車内で騒ぎ、周囲から白い目で見られる恐れがある。

 

(周りに、俺という存在がどう思われようが構わないが、大鳳まで変人だと思われるのはダメだ)

 元に戻った時、周囲から変なモノを見るような目で見られたら、精神にダメージを負ってしまう。それを防ぐ為、車で向かう事にする。

 

(道が混んでたり、何かトラブルに巻き込まれても、余裕を持って到着出来るよう、早めに出よう)

 車にはナビが付いているから、迷う事は無いと思うが、念の為、早めに起きて出発しよう。

 そうと決まれば、さっさと寝よう。

 

 

 

………………。

 

 

 

──大本営、カウンセリング課──

 

 

 翌日。08:50。

 

 

「……」

 

「ぱぱ~、建物、おっきいね!」

 

「……うん、そうだね」

 

「……ぱぱ、元気ないよ?どうしたの?」

 

「ううん、なんでもないよ?建物が大きくて、ビックリしていたんだ」

 

「そうなんだ!」

 

 ははは。可愛いぜ。

 

 

<パパって呼ばせているよ……

<どんな特殊性癖の持ち主なのかしら?

<憲兵さんに通報した方がいいんじゃない?

<けど、さっき憲兵さんに声かけられていたよ?

 

 

……周りの職員──大本営に勤務している人達からの視線と言葉が冷てぇや。

 俺と大鳳は現在、大本営のカウンセリング課に向かって歩いている。その間、廊下で職員さん達とすれ違う度に冷たい視線だけでなく、言葉の暴力も喰らっている。

 

(学生時代を思い出すなぁ……)

 瑞鶴──瑞稀が色々やらかすから、彼氏兼保護者的ポジションの俺は、先生や生徒達に冷たい目で見られたり、ヒソヒソ言われたり──

 

「パパ、お目目こわい!」

 

「……ごめんよ、()

──しっかりしろ。今は学生時代()の事を思い出している場合じゃない。大鳳をカウンセリング課に連れて行かなきゃならないんだ。 

 

 此処に来るまで、色々あったなぁ。

 05:50頃、寝惚け(まなこ)の大鳳を抱きかかえて車に乗せていたら、見送りに来たくれた瑞鶴に「幼児誘拐犯みたい」と言われたり。

 

 後部座席に大鳳を乗せてシートベルトを締めていたら、大鳳が目を覚まして大騒ぎされたり。

 

『パパが居るなら、ママも居ないとダメよね?私がママになるわ!』

 

 見送りに来てくれた翔鶴が、わけのわからん事を言い出して同行しようとしたり。

 

『提督に迷惑をかける悪い鶴は』

『焼鳥にしてやりますね?ねっ?』

『最っ高に素敵なパーティー、始めましょう?』

 

 同行しようとした翔鶴を、扶桑さん、由良、夕立の三人がボコって止めたり。

 

『失礼。少し、お話を伺っても宜しいでしょうか?』

 

 渋滞に巻き込まれ、予定より少し遅めに──それでも、診察時間まで余裕はある──大本営に到着し、大鳳が建物内を見たいと愚図ったから手を引いて案内していたら、憲兵さんに声をかけられたり。

 

(事情を説明したら、同情されたなぁ……)

 戦闘で精神にダメージを負い、幼児退行してしまった、と説明したら、声をかけてきた憲兵さんは、大鳳と似た症状を発症した艦娘を見た事があったのか、納得してくれた。

 一応、カウンセリング課に連絡。確認をしてもらって、無実──如何わしい事は何も無いと証明され、建物内を時間まで彷徨いたり。

 

(俺もカウンセリング受けたくなってきた)

 周りの視線と言葉がキツいっス。

……しっかりしろ。この程度で提督である俺が壊れてどうする?

 鋼のムーンサルト……間違えた。鋼の精神で、この程度の誹謗中傷、耐えて見せろ。

 

「──おっと、着いた」

 考え事をしながら歩いていたから、危うく通り過ぎる所だった。

 

「すみません、昨日予約をした、第603鎮守府の渡良瀬準少佐です」

 カウンセリング課の受付に向かい、受付嬢に声をかける。

 

「第603鎮守府の渡良瀬少佐ですね?恐れ入りますが、身分証明書のご提示をお願いします。……確認致しました。こちら、お返しします。只今、予約された内容を確認致します。少々お待ちください。……お待たせしました。受診者は、大鳳型装甲空母一番艦、大鳳の適性者。本名は鳳綾(おおとりあや)さんでお間違いないでしょうか?」

 

「はい、間違いないです」

 

「畏まりました。101号室へお進みいただき、入り口でお待ちください」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 101号室か。確か、以前由良と榛名がカウンセリングを受けた時も、101号室だったな。また、あの先生じゃなきゃいいんだが……。

 

「ぱぱ、ここ、どこ?」

 

「ここはね、()を元気にしてくれる所だよ」

 

「わたし、げんきだよ?」

 

「……もっと元気にしてくれる所なんだ」

 

「ホント?」

 

「ホントだよ。パパ、嘘つかない」

 あながち間違っていない……筈。

 

『渡良瀬~。渡良瀬準少佐~。入ってくれ』

 

「あっ、はい!鳳、行くぞ」

 

「うん!」

 

 入口前に設置されている椅子に座り、鳳と会話をしていると、101号室から入室を促す声が聞こえてきた。この声、間違いない。

 

(由良と榛名を診てくれた先生の声だ)

 以前、カウンセリング結果を告げられた後、とんでもない事を言われたんだよなぁ。今度は何を言われるのやら。

 

「失礼します」

 

「しつれいしま~す!」

 

「いらっしゃい。そこに座って」

 

 先生に促され、鳳を椅子に座らせる。

 

「よぉ、渡良瀬少佐。数ヶ月ぶりだねぇ」

 

「ど、どうも……」

 先生は俺を見ると、ニヤニヤ笑いながら声をかけてきた。

 

「ぱぱ、このおばちゃんと知り合いなの?」

 

「おばちゃんとパパはね、熱い一晩を共に過した仲なんだよ?」

 

「おい」

 嘘を言わないでください。あと、下ネタぶっ込まないでください。

 

「あつい、ひとばん?」

 

「あっはっはっは!冗談だよ、冗談」

 

「???」

 

 幼児退行しているからか、鳳は言葉の意味を理解出来なかったようだ。

 

「ぱぱ~、【あついひとばん】って、なぁに?」

 

「パパ、おバカだから分からないや~」

 鳳、頼むからそれ以上聞いてこないで?

 

「熱い一晩ってのはね?おセッ──」

 

「余計な事教えないで、診察してください」

 

「わーったよ。真面目にやるよ」

 

 この人、本当に大丈夫なのか?

 不安になるが、調べた所、今まで数え切れない程の艦娘や提督、憲兵さん達のメンタルを回復させたベテランカウンセラーらしい。腕は確かなので、信じよう。

 

「んじゃ、診察するから、暫く私とこの娘の二人きりにしてくれ。終わるまで時間かかりそうだから、適当にそこら辺を彷徨いて時間潰して?終わったら連絡すっから」

 

「分かりました。よろしくお願いします」

 

「あいよ」

 

「えっ?ぱぱは?」

 

「パパはちょっと、お仕事があるから、行かなきゃならないんだ。いい娘にしてくれるか?」

 本当は仕事なんて無いが、嘘をつかせてもらう。

 昨日も、「お仕事がある」と鳳に言うと、大人しくしてくれた。

 

「うん!わかった!いいこにしてる!」

 

「よ~し、それじゃあ鳳ちゃん、おばちゃんとお話しようか?」

 

「うん!」

 

 先程までのふざけた雰囲気から一変。先生はニヤニヤしていた顔を。幼児退行した鳳に不安を与えない程度に、真面目な顔をして診察を開始した。

……大丈夫そうだな。俺は先生に言われた通り、診察室から出て、カウンセリング課の待合室に向かう。

 椅子に座って時間を潰そうと思ったが、満席だった。

 仕方ない。大本営内を不審がられない程度に彷徨いて、時間を潰そう。

 

 

…………。

 

 

(……来ちまった)

 診察室を出て十数分後。俺は技術課の建物の前に来ていた。何故此処──変態技術者達の巣窟に立ち寄ったんだろう。

……まぁいい。今すぐ此処から離れよう。

 技術課の建物から離れようと、踵を返──

 

 

「あっれぇ?見て行かないの?」

 

 

「どぅわっはぁっ!?」

──したら、目の前に男性が立っていて、声をかけてきた。び、ビックリした。ビックリして変な声出しちゃったよ。

 幸い、周りに人が居なかったから、怪訝な目で見られることは無い。

 

「あっ、驚いた?ごめんごめん。癖なんだよね、気配殺して人の背後に立つの」

 

「──えっ、は、はぁ?」

 何この人。ニヤニヤ笑っている。どうでもいいが、声が藤○啓治さんに似ている。

 

……アホな事考えている場合じゃない。人の背後に気配を殺して立つのが癖と言った。不審者?いや、違う。目の前の男性は、作業着を着ている。しかも、その作業着は只の作業着じゃない。左胸に大本営のロゴタイプ──刺繍が施されている。

 大本営のロゴタイプが付いた作業着。つまり、この人は──

 

「技術課所属……」

 

「正解!……あっ、自己紹介まだだったね。自分は、大本営技術課所属、主任の野原と申します!」

 

 先程までニヤニヤ笑っていた男性は表情を引き締め、自己紹介をしてきた。なんか調子狂うな。しかし、自己紹介をしてくれたんだ。俺も自己紹介しなければ。挨拶は大事。古事記にも書かれている。

 

「自分は、第603鎮守府の──」

 

「渡良瀬準少佐、でしょ?」

 

 自己紹介しようとしたら、俺の名前と階級を言われた。何故知っているんだ?言葉は悪いが、俺はそこまで有名になるような事をしていない。

 

「何故知っているんだ?って顔してるよ?」

 

「……」

 顔に出てたか。

 

「まぁまぁ、そんな不審者を見るような目をしないで。ボク、不審者ジャナイヨ~?」

 

「……」

 不審者だ。憲兵呼ぼう。

 

「ちょ~い待ちィ!憲兵=サンを召喚するのは、やめてくれ。何故、渡良瀬少佐の事を知っているのか、ちゃんと説明するからさぁ!だから、右手に持ってるスマホを、ポッケに仕舞って?ね?ね?」

 

「……」

 

「……オホン。話をしよう。あれは、今から36万……いや、1万4000年前の──」

 

「あっ、もしもし?憲兵さん?」

 

「セイセイセイッ!」

 

 くそっ、スマホを奪われちまった!

 

「緊張しているみたいだから、解そうとジョークを言っただけなのにぃ……」

 

「は、はぁ……」

 マジでなんなの、この人。あっ、スマホ返してくれた。

 

「……さて、今度こそ大真面目に話すよ。何故、渡良瀬少佐の事を知っているか。それは──」

 

「それは?」

 

「君の鎮守府に所属する、金剛型高速戦艦三番艦、榛名の第二次特殊改装(・ ・ ・ ・)の艤装パーツと設計図を用意したからさ!」

 

 アンタが、あのトンデモギミックを作った元凶かい!

 

「現在、榛名(・ ・)の艤装に第二次特殊改装(・ ・ ・ ・)を施しているのは、大湊警備府(・ ・ ・ ・ ・)と第603鎮守府に所属している二名のみ。それだから、印象に残ってて、君のことを知っていたんだ」

 

「……成程」

 

「疑問は解けたかな?」

 

「えぇ、一応」

 

「特殊改装をして、テストをしてくれたみたいだけど……トラブルが起きたみたいだね。報告書、見させてもらったよ」

 

「……」

 

「……少佐。もし、宜しければ、何故トラブルが起きてしまったのか、お話しましょうか?俺──いえ、自分は原因に心当たりがあります」

 

「!?」

 何だと?

 

「……どうでしょう?」

 

「……お聞かせ願えませんか?」

 俺は知りたい。何故、榛名(・ ・)の艤装から、陽菜(・ ・)に記憶や感情が流れ込んだのか。

 

「分かりました。此処では誰かに聞かれるかもしれません。恐れ入りますが、技術課の応接室でお話したいと思います」

 

「……分かりました」

 陽菜(・ ・)に記憶や感情が流れ込んだ原因を、千歳さんに頼んで調べてもらっているが、情報を得られない可能性がある。

 

「では、付いて来てください」

 

 少しでも早く、俺は知りたい。艤装が艦娘に与える影響を。そして、艤装の秘密を。

 だから、俺は野原と名乗った男の提案に乗った。

 

(鬼が出るか、蛇が出るか)

 例えどんな事だろうと、しっかり受け止めてやる。

 

 

 

 

 

side 提督 out

 





次回予告


 技術課へようこそ、渡良瀬少佐。さて、騙して悪いが、貴様には此処で死んでもらう!
……あっ、驚いた?ごめんごめん、緊張を解そうと、アー○ード・コア・ジョークを言っただけだから、身構えないで?本当に殺したりしないよ?
……あ、あのぉ、少佐殿?無言で迫って来て何を──ちょ、抱き着かれた!ボク、そっちの趣味は無──あっ、これ、もしかして、ノーザンライトボム?北○晶さんのファンだから、分かっちゃった!
 あっ、あっ、待って!ごめんって!本当にごめんって!だからノーザンライトボムはやめてくだ──ぐぼあぁぁぁ!!?



第75話・衝撃の事実



「渡良瀬じゃなくて、パパ良瀬に改名したら?ギャハハハハ!!!」



【補足的なナニか】


・アーマード・コア…フロムが作ったゲームで、渾身の問題作(褒め言葉)の一つ。

・北斗晶…元プロレスラー。女性。

・技術課主任…「慣れない事は、するもんじゃないね……」
 気配を殺して人の背後に立つのが癖になっている男。
 艤装の秘密を知っているらしい。


以上、補足終了。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。