御都合主義有り
こまけぇこたぁいいんだよ!
頭を空っぽにしてご覧下さい
この小説はフィクションです。
実在の人物、団体、施設などとは関係ありません。
予め、ご了承下さい。
side 提督
──第603鎮守府、執務室──
14:05。
「──はい。では、明日の09:00に、そちらに伺います。……はい。よろしくお願いします。……はぁ」
無事、予約を取る事が出来た。
「どうでした?」
「幸い、予約が1件キャンセルされたから、明日見てくれるそうだ」
海風が声をかけてきたので、予約が取れた事を話した。すると、
「そうですか。良かったです」
安堵したのか、胸に手を当てて、ホッと息を吐いた。
もし予約がキャンセルされてなかったら、何時診断してもらえるか、分からなかった。それ程予約が入っている、とカウンセリング課の人に言われた。
最初は大鳳と榛名の二人を診てもらおうと思ったが、一人しか診られない、と言われた為、榛名には悪いが、重症──幼児退行した大鳳を先に診てもらう事にした。
「しかし、診断してもらう事が出来ても、治るのでしょうか?」
「先生が言うには、特殊な治療方があるから、ほぼ治るそうだ」
「ほぼ、ですか……」
海風が不安そうな顔をしている。それもそうだ。
「絶対治る」ではなく、「ほぼ治る」。つまり、治らない場合もある。
大本営、カウンセリング課の先生が言うには、今まで何度も精神崩壊した艦娘や
成功率は八割。かなり高い確率だが、二割の確率で失敗する恐れがある。
(もし、失敗したら、大鳳は
頼む、成功してくれ。思わず手を組んで祈ってしまった。
……今回ばかりは、こうなった原因を作った三人に、厳重注意しよう。でなきゃ、またやらかす恐れがある。
仕事を終わらせ、大鳳の様子を見たあと、三人を執務室に呼び出そう。
「……提督、あの、こういう時に言うのもなんですが、お仕事をしませんか?」
「……あぁ、分かった」
祈っていても、仕事は減らないし、無くならない。
今、俺がするべきこと。それは目の前の書類を捌き、仕事を片付ける事。
大鳳は大事だ。しかし、仕事を放棄していい理由にはならない。
(今は矢矧があやしてくれている)
さっさと仕事を終わらせて、大鳳の様子を見に行こう。
第603鎮守府の
あの母性。一体何処で身に付けたんだ?マジで母親のような安心感があって、思わずバブみを感じてオギャりそうになったぞ?
ちなみにだが、矢矧以外の娘達──出撃や警護が無い娘達と、原因を作った
本能的に何かを感じ取ったのかな?
(大泣きされたのを見た千歳さんの顔。ニッコリ笑っていたけど、黒いオーラが出ていたな……)
あれは怖かった。……あっ、内線が鳴った。急いで受話器を取ろうと思ったが、考え事をしていたせいで、海風が先に受話器を取った。しっかりしろよ、俺。
気持ちを切り替えて、電話対応を海風に任せ、書類を捌く。その間、海風が電話でやり取りをしてくれている。話を聞くに、工廠からの報告みたいだ。
「──了解しました。……提督、工廠の夕張さんから、20.3cm連装砲(2号)の砲身20本の製造及び、
「分かった、報告ありがとう」
かなり早いな。このペースなら、今日中に終わりそうだ。後で臨時ボーナスを夕張と妖精さん達に支給しよう。
「どういたしまして」
皆、頑張ってくれている。俺も頑張らないといけないな。
………………。
──第603鎮守府、医務室──
16:30。
「あっ、ぱぱ!」
「いい娘にしてたか?」
「うん!」
集中して書類を捌き、大急ぎで全ての仕事を終わらせ、医務室に居る大鳳の様子を見に来た。
「矢矧、大鳳の相手をしてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
俺が居ない間、大鳳がぐずったりしていないか心配だったが、矢矧が上手く対応してくれたからか、とても大人しかったそうだ。
「ぱぱ~♪」
「うおっ!?」
突然、ベッドから俺に向かって大鳳が飛びついてきた。
受け止める体制を取っていなかったから、倒れそうになる。が、足を踏ん張って、転倒を阻止。
何とか倒れずに済んだが、無理な体制で踏ん張ったからか、足首と腰を少し痛めてしまった。後で湿布貼ろう。
(精神が幼くなっているから、予測不能な行動を取ってくる!?)
いきなり飛びついてくるとは思わなかった。
肉体は子どものモノではなく、成長したモノだから、言葉は悪いが重い。それに、大鳳──
その為、小柄な見た目からは想像出来ないほど重い。まぁ、女性の平均体重よりも少し重いだけで、
「提督、大丈夫?」
「だ、大丈夫だ」
本当は足首と腰が痛いが、強がる。情けない姿は見せられない。
「……ぱぱ、くさい」
「ごほっ!?」
俺に抱き着き、胸に顔を
ごめんよ?執務室と医務室を行き来したから、汗かいちゃったんだ。そのせいで、臭っているみたいだ。
落ち込んでいると、抱きついていた大鳳は俺から離れて距離を取り、
「ぱぱ、ばっちい」
「ぐほっ!?」
再び精神にクる言葉を放ってきた。うん。結構精神にクるね。
世間のお父さんやお母さん達は、子育てをする時、こんな気持ちを味わうのか。子育てをしているお父さん及びお母さん達、頑張っているんだなぁ。そんな事を考えていると、
「て、提督、目。目からハイライト消えているわよ?」
矢矧が心配そうに声をかけてきた。
ハイライト消えているんだ。急いで目を元に戻さなきゃ。けど、どうやって戻すんだ?
「ぱぱ、お目目こわい!こないで!」
「」
「てっ、提督!?口!口から泡吹いてる!」
「あっ、ぱぱ、カニさんになった!あはははっ♪」
矢矧、あとは任せていいかな?言葉が出ないから、目で問いかけると、察してくれたのか、矢矧は同情するような顔をして、無言で頷いてくれた。
さて、このまま
二人に背を向けて、医務室のドアに向かって歩くと、
「あっ、ぱぱ、どこにいくの?」
「提──パパ、ちょっと疲れてるみたいだから、お休みするみたい」
「そうなの?」
後ろから、大鳳と矢矧の会話が聞こえてきた。
なんか、矢矧がママっぽい。流石、第603鎮守府の
……いや、待て。確実に醜態晒してドン引きされる恐れがある。幼児退行したら、瑞鶴に甘えよう。瑞鶴なら、俺が醜態晒しても笑顔で甘やかしてくれそう。
(アホな事考えてんじゃねぇ。しっかりしろ)
艦娘を取り纏める提督が、精神崩壊なんてするんじゃねぇ。俺よりも、艦娘の皆の方が辛い思いをしているんだ。甘えるな。逆に、甘えさせてやれ。
内心で己に喝を入れる。
……よし、気持ちを切り替えたぞ。
(時刻は17:12か)
夕食まで、あと40分ちょい。三人を呼び出すのは、夕食後にしよう。
そうだ、明日大鳳を連れて大本営のカウンセリング課に行く事を、皆に伝えておこう。大本営まで、結構距離があるから、明日一日、俺と大鳳は不在になる。提督代理を誰かに頼もう。
(以前、重婚する事を宣言して逃げた際、瑞鶴に任せたから、また瑞鶴に頼むか)
…………。
──第603鎮守府、執務室──
19:30。
「……何故呼ばれたか、分かるな?」
食堂で食事を摂る前に、大鳳が幼児退行した原因を作った三人に「夕食後、19:30に執務室に来い」と言い、俺は大急ぎで夕食を摂り、歯を磨き、執務室に向かいクーラーを付け、準備をした。
そして19:25。指定した時間の5分前に集まってくれた。
三人を執務室内のソファーに座らせ、向き合う。三人とも、表情が暗い。
「……大鳳さんの件、ですね?」
「そうだ」
扶桑さんが三人を代表して、そう言った。
「まさか、
「軽率な行動を取ってしまい、誠に申し訳ございません」
「深く反省します……」
三人──扶桑さん、由良、夕立が申し訳なさそうな顔をしながら、頭を下げて謝罪してきた。
「謝罪は俺に、ではなく、大鳳に。メンタルが回復してから、彼女にしろ」
「は、はい!」
「了解しました!」
「分かったっぽい──分かりました!」
良い返事だ。さて、
「……何故、あんなことをしたんだ?他にやり方は無かったのか?」
大鳳を追い回した理由を聞こう。
大鳳がああなった原因は、
しかも、大鳳は昨日の演習の出来事を思い出し、怯えていた。怯え過ぎて、腰が抜けてまともに逃げられない。そんな状態で、三人に真顔・無言で武器を構えて追いかけられた。
そのせいで、昨日、涼月との演習で精神的ダメージを負っていた大鳳のメンタルにトドメを刺し、精神崩壊させてしまった。
「「「…………」」」
「黙っていたんじゃ、何も分からん。答えてくれ」
「大鳳さんは呉鎮守府に所属していた時、様々な武勲を挙げていたと聞いたので、どれ程の物か調べる為、あのような事をしてしまいました」
「由良──自分は、大鳳さんのメンタルがどれ程強いか調べる為、追い回しました」
「夕立──私は、実戦中にメンタルをやられても大丈夫なよう、鍛える為に追っかけ──追い回したっぽい──追い回しました」
「……」
三人から理由を聞き、目を閉じて無言になる。
理由は分かった。やり方はアレだが、三人とも大鳳を思ってあのような事をしたみたいだ。
「三人の言い分は理解した。理解したが、昨日、涼月と大鳳が演習をして、大鳳が怯えていたのを、知らなかったわけじゃないだろ?」
「「「…………」」」
今朝、会議室で朝礼をした際に話した。だから、「知らなかった」は通用しない。
「……もう二度としないと、誓うか?」
出来るだけ低く声を出し、三人を睨む。
「「「誓います」」」
三人は俯いていた顔を上げ、真剣な顔で返事をした。
「これでもし、また同じような事をしたら、地下にある営倉に入れ、その後、厳罰を与える。よく覚えておけ」
今まで一度も使ったことがないが、何時でも使えるよう、妖精さん達に頼んで清掃・整備してもらっている。
頼むから、営倉を使わせないでくれ。
「……さて、話は終わりだ。各自、部屋に戻っていいぞ」
深く反省している。なら、それを信じよう。だから、俺はこれ以上叱らず、部屋に戻るよう促した。
すると、三人は驚き目を見開いた。それもそうか。もっと叱られると思ったら、部屋に戻れ、と言われたのだから。
「あ、あの、提督!」
「なんですか、扶桑さん?」
「そ、その、もっと叱らないのですか?」
あ、やっぱりそう思う?
「もっと叱って欲しいのですか?」
「い、いえ、その……私が。私達がやらかした事は、到底許されざる行為です。それなのに──」
「確かに、扶桑さん達がした事は、許される行為ではありません」
「……」
「ですが、扶桑さん達は、自分のした事を深く反省し、二度としないと誓ってくれました。だから、俺はそれを信じます」
俺がガキの頃、爺ちゃんに教わった事──相手がやらかし、それに対し深く反省しているなら、それ以上追求せず、許せ。そして、信じろ。信じずに深く追求すれば、反省している相手を余計に追い込む。そして、再犯する可能性が高くなる。
話が変わるが、足柄が此処に異動してきたばかりの頃は、俺に対し暴言を吐いたり、暴力を振ってきた。
話すと長くなるから割愛するが、足柄を信じ続けた結果、彼女は大人しくなり、暴言・暴力行為を働かなくなった。代わりにはっちゃけ、下ネタを連発するようになったが。
俺が何故、もっと叱らないのか。理由を話すと、
「「「…………」」」
三人とも呆然としている。ほら、口を開けてポカーンとしていないで、部屋に戻った。明日も仕事があるんだから、しっかり休んでメンタル・フィジカルを万全にしてくれ。
「提督、ありがとうございます!」
「今後、二度としないと誓います!」
「提督さんを失望させたり、周りに迷惑をかけないと約束するっぽい──約束します!」
「……分かった」
扶桑さん、由良、夕立が約束してくれた。
三人を退室させ、執務室に残った俺は、明日クーラーを消し、電気を消して扉に鍵をかけ、自室に向かった。
……。
(明日は06:00に此処を出て、大本営に向かう)
自室に戻り、シャワーを浴びて布団に横になって、明日の予定を立てる。
此処から大本営まで、車で片道約2時間以上かかる。
電車ならもっと早く着くが、今回は車で行く事にする。理由は、大鳳だ。彼女は今、幼児退行している。その為、電車内で騒ぎ、周囲から白い目で見られる恐れがある。
(周りに、俺という存在がどう思われようが構わないが、大鳳まで変人だと思われるのはダメだ)
元に戻った時、周囲から変なモノを見るような目で見られたら、精神にダメージを負ってしまう。それを防ぐ為、車で向かう事にする。
(道が混んでたり、何かトラブルに巻き込まれても、余裕を持って到着出来るよう、早めに出よう)
車にはナビが付いているから、迷う事は無いと思うが、念の為、早めに起きて出発しよう。
そうと決まれば、さっさと寝よう。
………………。
──大本営、カウンセリング課──
翌日。08:50。
「……」
「ぱぱ~、建物、おっきいね!」
「……うん、そうだね」
「……ぱぱ、元気ないよ?どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ?建物が大きくて、ビックリしていたんだ」
「そうなんだ!」
ははは。可愛いぜ。
<パパって呼ばせているよ……
<どんな特殊性癖の持ち主なのかしら?
<憲兵さんに通報した方がいいんじゃない?
<けど、さっき憲兵さんに声かけられていたよ?
……周りの職員──大本営に勤務している人達からの視線と言葉が冷てぇや。
俺と大鳳は現在、大本営のカウンセリング課に向かって歩いている。その間、廊下で職員さん達とすれ違う度に冷たい視線だけでなく、言葉の暴力も喰らっている。
(学生時代を思い出すなぁ……)
瑞鶴──瑞稀が色々やらかすから、彼氏兼保護者的ポジションの俺は、先生や生徒達に冷たい目で見られたり、ヒソヒソ言われたり──
「パパ、お目目こわい!」
「……ごめんよ、
──しっかりしろ。今は
此処に来るまで、色々あったなぁ。
05:50頃、寝惚け
後部座席に大鳳を乗せてシートベルトを締めていたら、大鳳が目を覚まして大騒ぎされたり。
『パパが居るなら、ママも居ないとダメよね?私がママになるわ!』
見送りに来てくれた翔鶴が、わけのわからん事を言い出して同行しようとしたり。
『提督に迷惑をかける悪い鶴は』
『焼鳥にしてやりますね?ねっ?』
『最っ高に素敵なパーティー、始めましょう?』
同行しようとした翔鶴を、扶桑さん、由良、夕立の三人がボコって止めたり。
『失礼。少し、お話を伺っても宜しいでしょうか?』
渋滞に巻き込まれ、予定より少し遅めに──それでも、診察時間まで余裕はある──大本営に到着し、大鳳が建物内を見たいと愚図ったから手を引いて案内していたら、憲兵さんに声をかけられたり。
(事情を説明したら、同情されたなぁ……)
戦闘で精神にダメージを負い、幼児退行してしまった、と説明したら、声をかけてきた憲兵さんは、大鳳と似た症状を発症した艦娘を見た事があったのか、納得してくれた。
一応、カウンセリング課に連絡。確認をしてもらって、無実──如何わしい事は何も無いと証明され、建物内を時間まで彷徨いたり。
(俺もカウンセリング受けたくなってきた)
周りの視線と言葉がキツいっス。
……しっかりしろ。この程度で提督である俺が壊れてどうする?
鋼のムーンサルト……間違えた。鋼の精神で、この程度の誹謗中傷、耐えて見せろ。
「──おっと、着いた」
考え事をしながら歩いていたから、危うく通り過ぎる所だった。
「すみません、昨日予約をした、第603鎮守府の渡良瀬準少佐です」
カウンセリング課の受付に向かい、受付嬢に声をかける。
「第603鎮守府の渡良瀬少佐ですね?恐れ入りますが、身分証明書のご提示をお願いします。……確認致しました。こちら、お返しします。只今、予約された内容を確認致します。少々お待ちください。……お待たせしました。受診者は、大鳳型装甲空母一番艦、大鳳の適性者。本名は
「はい、間違いないです」
「畏まりました。101号室へお進みいただき、入り口でお待ちください」
「分かりました。ありがとうございます」
101号室か。確か、以前由良と榛名がカウンセリングを受けた時も、101号室だったな。また、あの先生じゃなきゃいいんだが……。
「ぱぱ、ここ、どこ?」
「ここはね、
「わたし、げんきだよ?」
「……もっと元気にしてくれる所なんだ」
「ホント?」
「ホントだよ。パパ、嘘つかない」
あながち間違っていない……筈。
『渡良瀬~。渡良瀬準少佐~。入ってくれ』
「あっ、はい!鳳、行くぞ」
「うん!」
入口前に設置されている椅子に座り、鳳と会話をしていると、101号室から入室を促す声が聞こえてきた。この声、間違いない。
(由良と榛名を診てくれた先生の声だ)
以前、カウンセリング結果を告げられた後、とんでもない事を言われたんだよなぁ。今度は何を言われるのやら。
「失礼します」
「しつれいしま~す!」
「いらっしゃい。そこに座って」
先生に促され、鳳を椅子に座らせる。
「よぉ、渡良瀬少佐。数ヶ月ぶりだねぇ」
「ど、どうも……」
先生は俺を見ると、ニヤニヤ笑いながら声をかけてきた。
「ぱぱ、このおばちゃんと知り合いなの?」
「おばちゃんとパパはね、熱い一晩を共に過した仲なんだよ?」
「おい」
嘘を言わないでください。あと、下ネタぶっ込まないでください。
「あつい、ひとばん?」
「あっはっはっは!冗談だよ、冗談」
「???」
幼児退行しているからか、鳳は言葉の意味を理解出来なかったようだ。
「ぱぱ~、【あついひとばん】って、なぁに?」
「パパ、おバカだから分からないや~」
鳳、頼むからそれ以上聞いてこないで?
「熱い一晩ってのはね?おセッ──」
「余計な事教えないで、診察してください」
「わーったよ。真面目にやるよ」
この人、本当に大丈夫なのか?
不安になるが、調べた所、今まで数え切れない程の艦娘や提督、憲兵さん達のメンタルを回復させたベテランカウンセラーらしい。腕は確かなので、信じよう。
「んじゃ、診察するから、暫く私とこの娘の二人きりにしてくれ。終わるまで時間かかりそうだから、適当にそこら辺を彷徨いて時間潰して?終わったら連絡すっから」
「分かりました。よろしくお願いします」
「あいよ」
「えっ?ぱぱは?」
「パパはちょっと、お仕事があるから、行かなきゃならないんだ。いい娘にしてくれるか?」
本当は仕事なんて無いが、嘘をつかせてもらう。
昨日も、「お仕事がある」と鳳に言うと、大人しくしてくれた。
「うん!わかった!いいこにしてる!」
「よ~し、それじゃあ鳳ちゃん、おばちゃんとお話しようか?」
「うん!」
先程までのふざけた雰囲気から一変。先生はニヤニヤしていた顔を。幼児退行した鳳に不安を与えない程度に、真面目な顔をして診察を開始した。
……大丈夫そうだな。俺は先生に言われた通り、診察室から出て、カウンセリング課の待合室に向かう。
椅子に座って時間を潰そうと思ったが、満席だった。
仕方ない。大本営内を不審がられない程度に彷徨いて、時間を潰そう。
…………。
(……来ちまった)
診察室を出て十数分後。俺は技術課の建物の前に来ていた。何故此処──変態技術者達の巣窟に立ち寄ったんだろう。
……まぁいい。今すぐ此処から離れよう。
技術課の建物から離れようと、踵を返──
「あっれぇ?見て行かないの?」
「どぅわっはぁっ!?」
──したら、目の前に男性が立っていて、声をかけてきた。び、ビックリした。ビックリして変な声出しちゃったよ。
幸い、周りに人が居なかったから、怪訝な目で見られることは無い。
「あっ、驚いた?ごめんごめん。癖なんだよね、気配殺して人の背後に立つの」
「──えっ、は、はぁ?」
何この人。ニヤニヤ笑っている。どうでもいいが、声が藤○啓治さんに似ている。
……アホな事考えている場合じゃない。人の背後に気配を殺して立つのが癖と言った。不審者?いや、違う。目の前の男性は、作業着を着ている。しかも、その作業着は只の作業着じゃない。左胸に大本営のロゴタイプ──刺繍が施されている。
大本営のロゴタイプが付いた作業着。つまり、この人は──
「技術課所属……」
「正解!……あっ、自己紹介まだだったね。自分は、大本営技術課所属、主任の野原と申します!」
先程までニヤニヤ笑っていた男性は表情を引き締め、自己紹介をしてきた。なんか調子狂うな。しかし、自己紹介をしてくれたんだ。俺も自己紹介しなければ。挨拶は大事。古事記にも書かれている。
「自分は、第603鎮守府の──」
「渡良瀬準少佐、でしょ?」
自己紹介しようとしたら、俺の名前と階級を言われた。何故知っているんだ?言葉は悪いが、俺はそこまで有名になるような事をしていない。
「何故知っているんだ?って顔してるよ?」
「……」
顔に出てたか。
「まぁまぁ、そんな不審者を見るような目をしないで。ボク、不審者ジャナイヨ~?」
「……」
不審者だ。憲兵呼ぼう。
「ちょ~い待ちィ!憲兵=サンを召喚するのは、やめてくれ。何故、渡良瀬少佐の事を知っているのか、ちゃんと説明するからさぁ!だから、右手に持ってるスマホを、ポッケに仕舞って?ね?ね?」
「……」
「……オホン。話をしよう。あれは、今から36万……いや、1万4000年前の──」
「あっ、もしもし?憲兵さん?」
「セイセイセイッ!」
くそっ、スマホを奪われちまった!
「緊張しているみたいだから、解そうとジョークを言っただけなのにぃ……」
「は、はぁ……」
マジでなんなの、この人。あっ、スマホ返してくれた。
「……さて、今度こそ大真面目に話すよ。何故、渡良瀬少佐の事を知っているか。それは──」
「それは?」
「君の鎮守府に所属する、金剛型高速戦艦三番艦、榛名の第二次
アンタが、あのトンデモギミックを作った元凶かい!
「現在、
「……成程」
「疑問は解けたかな?」
「えぇ、一応」
「特殊改装をして、テストをしてくれたみたいだけど……トラブルが起きたみたいだね。報告書、見させてもらったよ」
「……」
「……少佐。もし、宜しければ、何故トラブルが起きてしまったのか、お話しましょうか?俺──いえ、自分は原因に心当たりがあります」
「!?」
何だと?
「……どうでしょう?」
「……お聞かせ願えませんか?」
俺は知りたい。何故、
「分かりました。此処では誰かに聞かれるかもしれません。恐れ入りますが、技術課の応接室でお話したいと思います」
「……分かりました」
「では、付いて来てください」
少しでも早く、俺は知りたい。艤装が艦娘に与える影響を。そして、艤装の秘密を。
だから、俺は野原と名乗った男の提案に乗った。
(鬼が出るか、蛇が出るか)
例えどんな事だろうと、しっかり受け止めてやる。
side 提督 out
次回予告
技術課へようこそ、渡良瀬少佐。さて、騙して悪いが、貴様には此処で死んでもらう!
……あっ、驚いた?ごめんごめん、緊張を解そうと、アー○ード・コア・ジョークを言っただけだから、身構えないで?本当に殺したりしないよ?
……あ、あのぉ、少佐殿?無言で迫って来て何を──ちょ、抱き着かれた!ボク、そっちの趣味は無──あっ、これ、もしかして、ノーザンライトボム?北○晶さんのファンだから、分かっちゃった!
あっ、あっ、待って!ごめんって!本当にごめんって!だからノーザンライトボムはやめてくだ──ぐぼあぁぁぁ!!?
第75話・衝撃の事実
「渡良瀬じゃなくて、パパ良瀬に改名したら?ギャハハハハ!!!」
【補足的なナニか】
・アーマード・コア…フロムが作ったゲームで、渾身の問題作(褒め言葉)の一つ。
・北斗晶…元プロレスラー。女性。
・技術課主任…「慣れない事は、するもんじゃないね……」
気配を殺して人の背後に立つのが癖になっている男。
艤装の秘密を知っているらしい。
以上、補足終了。