アカム武器なめんな。 作:糸遊
覇道を行くあなたに、覇道のクエストを。
『得意なモンスター』というのは、それなりのレベルのハンターなら1匹や2匹いることだろう。
自分の武器、スタイル、戦い方がカチリと噛み合う相手。そんなのが大抵1匹はいる。
私の場合、それに当てはまるのは『ウカムルバス』
それまでは無敗でハンター街道を突き進んでいた私が初めて敗北を喫した相手。
初めて負けた相手は自分にとって、いつの間にか特別な存在となるらしい。
『もう絶対に負けない』『そっちの攻撃は喰らわない』なんて考えて相手をする内に、戦うのが少し楽しくなっていた。
いつのまにか私は『雪姫』なんていう大層な通り名で呼ばれ、ウカムルバスの相手なら右に出るものは無いなんて呼ばれるようになった。
他のハンターにとっては十二分に危険な相手だけど、私にとっては楽しい相手。
ウカムルバスは私の『得意なモンスター』となっていた。
そして、あのアホにも『得意なモンスター』というものはある。
得意になった理由を聞いたら、どこか私に似ていてイラッとした。
と、まぁアイツも同じような感じで『覇王』だなんて大層な通り名を持つようになった。
………ただ『得意なモンスター』にも例外はある。
偶にだけど、普通だと考えにくいような強さを誇る個体が現れたりする。
制限時間ギリギリまで攻撃し続けても、生半可な攻撃だと決して倒れることのないタフネスを持つ個体。
G級の最前線での使用に耐えうる防具を以ってしても、一撃でハンターをベースキャンプ送りにし得るような圧倒的攻撃力の個体。
そして………。
何があったのかは知らないけど、常に怒り状態の個体なんかもいたりする。
◆◇◆◇◆◇
「……ッ! 粉塵ありがとッ!」
「来るぞ!」
いつもみたいに無駄口を叩いてる余裕がない。
すぐさま私とカルムはその場から離脱。間髪入れずに、赤黒い巨体がその場を凄い勢いで走り去った。
身に纏った防具からはシュウ、と白い煙が上がり、悲鳴を上げている。
……ちょっとヤバいかもね。
「なぁ。勝てる見込みとかついてる?」
「………全く」
「あーチクショウ!心強い返答ありがとよッ!」
珍しく少し弱気なカルム。身に纏った防具からは、私と同じく白い煙が上がっている。
酒場のマスターから依頼されたアカムトルムの狩猟。
通常より遥かに強力で異常な個体だってのは聞いてたけど、まさかこんなにヤバいやつだとは思ってなかった。
あらゆる攻撃が重い。 回復なしなら2発程貰えば即ネコタクだろう。
体力だっていつものアカムとは比べ物にならない。かれこれ40分近く戦っているけど、全く倒れる気配がない。
また、何故か常に怒り状態となっているらしく、酸性の唾液が私達の防具の防御力を著しく下げる。そうなったら、もともと重い攻撃がさらに重く…それこそ一撃でBC送りレベルに。
長期戦となっているから、忍耐の種も切れてしまった。
そして…なぜか溶岩の噴出が尋常じゃない頻度で行われる。アカムトルムに溶岩を操ったりする能力は無いはずなんだけれど…。
「クソ…また潜りやがった! 場所は……あっちだ!走るぞ!」
「また遠くに…! 溶岩の噴出だってバカにならないのに…!」
潜ったアカムトルムを地響きの音を頼りに追う。
地面からの溶岩噴出に気をつけながら、走り続ける。
既に私達は2回力尽きている。あと1回でも力尽きたらクエスト失敗。それだけはなんとしてでも避けたい。
「あそこだ! 顔面にブチ込むぞ!」
カルムの指差した先では、アカムトルムが地面から現れていた。
走れば頭に一撃入れれそうな距離。牙も一本は砕け、残りの片方もヒビが入っているように見える。
「溜め斬りいくわ! 合わせて!」
「あいよ!」
アカムトルムの頭部へと近づく私達。
溜め斬りを1発ブチ込むだけの余裕はありそうだ。
カルムはアカム大剣を腰だめに構えて力を込める。私も同じように体を捻りつつ、アトラル・カの大剣を握る手に力を込める。
「1…2の…さっ、えっ!?」
「ふぁっ!?」
力を溜めきり、いざ解放…しようとした瞬間、足下から溶岩が勢いよく噴出された。
私とカルムは仲良く空中へと打ち上げられる。
………ヤバい。
………ヤバいヤバい!
アカムトルムは今、地面から現れた。
これは、ある大技を放つ前の前兆。
溜め斬りを当てて怯ませるはずだったのが、溶岩噴出のせいでおじゃんとなってしまった。
頭から地面に打ち付けられる私とカルム。
すぐには体勢を立て直すことができない。
「うっ……くぁ……」
「がふっ…」
なんとか体勢を立て直す。早く回避の準備をしなきゃ…!
「ソニックブラスト来るわ!早く!」
カルムにそう一言かけ、再びアカムトルムの方を見る。
アカムトルムは大口を開け、既に私達に狙いを定めていた。
「あ……」
世界が少しずつ歪み始め、アカムトルムが溜めた力を解放する。
「………クソッ!」
次の瞬間、世界が振動と圧力に包まれる。
驚異的な威力を持った音波を喰らいながらも理解出来たのは、私の体と意識があまりにあっけなく吹き飛ばされたこと。
それと、カルムが私を守るように掴んでいてくれたことだけだった。
◆◇◆◇◆◇
「お疲れ様。まぁ…今回は相手が悪かったと思って? こっちで出来るだけ対処はしてみるから」
「……すみません」
「大丈夫よ、謝らないの」
クエストを失敗したというのに私を労ってくれる酒場のマスター。
そんなマスターに一言謝罪を述べ、私は酒場を後にした。
カルムは先に自分のマイハウスへと戻っている。私より疲れたらしい。まぁ…最後とか庇ってくれたし…。
クエスト失敗とか、いつ以来だろう…。
ここ最近は失敗とは無縁だったから、かなりショックを受けていると自分でもわかる。
「ハァ…。私も帰ろう…」
切り替えないといけないのはわかっている。
だけど、どうにもそんな気分にはなれない。
帰ったらまず眠ろう、と考えながら、トボトボと歩く私だった。
「おっ、帰ったか。久々のクエスト失敗はどうだった?」
「いや……なんでいるのよ……」
肩を落としながらもなんとかマイハウスへと到着した。
だけど、ドアを開けるとそこには見知った顔のハンター…ルファールがいた。
長い銀髪をたなびかせ、身に纏うのは暗めの銀色に輝く防具。たしか…最近各地に現れるようになったバルファルクとかいう古龍の防具らしい。たぶん外装だけそれにしているんだろうけど…。
「なんでって言われてもなぁ…。 偶然龍識船を訪れたら、マスターからお前達がクエスト失敗したと聞いてさ。慰めに来てあげたってわけだ」
「……自分のパーティはどうしたのよ」
「先に帰ってもらった。なに、私とお前達のことならわかってくれてるさ」
「……そう」
椅子に座っていたルファールの前を素通りし、ベッドへと飛び込む。
気を使ってくれているのか、私に声はかけないでいてくれた。
「………アンタ達にちょっと助太刀頼むかもしれないわ、ちょっと悔しいけれど」
「気にするなよ。あのクソ師匠も言ってたろう?困ったら協力するのが1番手っ取り早いさ。
麻痺ガンでも閃光フィーバーでもなんでも任せとけ!」
「流石にそういうのは嫌だけど…」
麻痺ガンはちょっと勘弁願いたい…。アレはハンターとしての腕が鈍る。
以前やってもらった時はまぁ…楽なのだけど釈然としない部分も多かった。カルムもちょっと不機嫌な様子だったし。
「それに…そろそろウチの操虫棍使いも紹介したいと思ってたところさ。彼ならガチンコバトルでも相当な腕があるし、力になってくれると思うよ?」
「まぁ…期待しておくわ。ごめん、今日は疲れたから寝ることにする」
「うん、ゆっくり休め。次のクエストでは呼んでくれるのを期待してるよ〜」
軽口を叩きながらルファールは出て行った。
……今回ばかりは力を貸してもらうしかなさそうだ。流石にあのアカムを2人だけで相手にするのはしんどい。
……操虫棍使いか。どんな人なんだろう。案外冴えない感じだったりして。
くだらない考え事をしながら、私はベッドの上で目を閉じた。
次回、友情出演…?
月1ペースでのんびり更新予定です。
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