デュエル・マスターズ Another Mythology   作:モノクロらいおん

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 正直まだほぼ導入みたいな話なんですが、やっぱり書いてると色々懐かしい……


第6節 未だ戦争の残火

「光文明……!」

 

 空を見上げる。暁には、あれらのクリーチャー――厳密にはその雰囲気――に見覚えがある。

 最初にコルルと出会った時に戦ったクリーチャーと同じ、光文明のドラゴン。

 それが、隊列を成してやってきたのだ。

 

「なぜ、光文明が火文明に?」

「そりゃあ、奴さん、火文明(あたしら)のこと嫌いだし、こっちも頭でっかちなあいつら嫌いだし?」

「だからって、こんな侵略行為をするものなのか?」

「なんとも言えないね。神話の力が失われ、調和が乱された今、各文明の秩序もバランスも崩壊している。光文明の思惑はわからないが、文明どうしの内紛も、文明間の抗争も、今や茶飯事となってしまっているのさ」

「光文明のことだからな。率先して世界の統制を名乗りだしていそうだ」

「そういう方が多いですよね、光文明は」

「そうなると荒くれ者ばっかりの火文明を真っ先に潰すってのは、まあわからんでもない思考だ」

「クッソ光文明め! 好き放題しやがって……!」

「だよねー。その好き放題がムカつくから、こうして殴り合ってるのさ」

 

 光龍の一体が、こちら目掛けて急降下してくる。

 その急襲も、一瞬。

 ウルカはどこから出したのか、どうやって出したのかもわからない身の丈ほどもある金槌で、その頭を叩き潰した。

 ぐしゃり、と嫌な破壊音が響き、龍は粒子となって跡形も消えていく。

 

「うわ……残酷……」

「まあこんくらいはするよ。あたしらだってどんだけ仲間やられてるかわかんないんだ。君らも遠慮なくあいつらぶっ殺していいから」

 

 金槌を肩に担ぎながら、ウルカはあっけらかんと、それが当然であるかのように言う。

 そして、視線で空を指し示した。

 

「ほら、次。来るよ」

 

 こちらの存在に気付いたのか、はたまたこのタイミングが真に空襲する時だったのか。

 空を制する光の龍たちが、町に降り、攻撃を開始する。

 

「……神話どうしで争った戦争ってのは、大昔に終わったって言うけどさ」

 

 ウルカは担いだ金槌を降ろし、構える。

 

「戦争そのものはまだ続いてる。かつての戦火の残り火は消えていない。あの時の火消しはまだ、終わっていないんだ」

 

 そして、それを大きく振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじまった……」

「そうだね。ボクらはどうしようか?」

「……状況、確認……報告は……?」

「先遣隊はやられちゃったみたいだねぇ。おかしいなぁ、前よりも戦力を1.3倍ほど増強させたはずなんだけれど」

「はぁ……どいつも、こいつも……雑魚ばっか……クソ、ゴミ……」

「そんな風に言うもんじゃないよ。結果が出せないのは遺憾ではあるけれど、彼らだって仲間じゃないか」

「ゲームみたいには……いかない……戦略ゲー……結構、得意、なんだけど……」

「想定外の事態っていうのはあるものさ。君はそういった予測がちょっと甘いね」

「じゃあ……そろそろ……」

「結局はこうなってしまうか。君は面倒くさがりのわりには自分で動きたがるよね」

「……そういうんじゃ……いいから、いこう……」

「はいはい。ではでは姫のお気に召すままに、ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《バトラッシュ・ナックル》召喚! クリーチャーとのバトルは《バトライオウ》が肩代わりする! さらに! 出て来て! 《コルル》!」

「おう! 任せろ!」

「ブロッカーはこじ開けた! そのまま《コルル》でダイレクトアタック!」

 

 遊戯部総出で町に散開し、襲い来る光の軍勢を、一体、また一体と撃破していく。

 撃破数をカウントするのを忘れた頃、不意に暁は思い返す。

 ウルカの言葉を。

 

「戦争、かぁ」

 

 彼女は言った。まだ戦争は終わっていないのだと。

 これはかつての戦火の残り火だと。

 

「うーん……よくわかんないや」

 

 暁自身、かつてあったという神話どうしの大戦争のことなど、さっぱりわからないのだが。

 それ以前の問題として、自分がその戦争の渦中にいるという自覚もなかった。

 戦争なんて、現代に生きる日本人にはおよそ無縁なもの。

 それは教科書の中だけでしか知り得ていないことで、加えて暁は教科書の内容なんて頭に入っていない。

 実体験と感覚が伴えば、なにかわかるのかもしれないが。

 こうして戦っている今でさえも、戦争、という感覚は薄い。

 

「コルルと出会えたのは嬉しいし、部活は楽しいし、リュンはよくわかんないけどたぶんいい奴だし……それじゃあダメなのかなぁ。コルルはどう思う?」

「わかんね」

「だよねぇ」

 

 なにかが引っかかる。

 自分が戦う意味とは?

 リュンや、コルル、彼らに力を貸す理由とは?

 その上で、彼らの言う戦争に身を投じる意義とは?

 もやもやしたものが、頭と、身体を巡って気持ち悪い。

 この不快感をどうにかしたい。だから、

 

「……ま、いっか」

 

 暁は、考えることをやめた。

 頭が悪い自覚はある。考えることが苦手だと自認はしている。

 難しい話になったら、シンプルに、思うままになるのが一番なのだ。

 暁はウルカに貰った服に視線を落とす。

 燃えるように赤いジャケット。シンプルでストレートなデザインだが、そのぶん情熱的で直情的で、暁好みではあった。

 

「この服カッコイイし、困ってるならお礼くらいはしないとね!」

 

 物を貰った礼という義理。

 困っているから助けるという人情。

 戦争だなんだと難しく考えるのはやめだ。自分が動く理由はシンプルでいい。

 火を点ければ炎が燃え上がる。それくらい、単純で当たり前の理屈でいいのだ。

 気持ちを切り替えると同時に天を仰ぐ。すると、

 

「ん? なに?」

 

 中天の空が煌めく。

 太陽の光ではない。なにかが反射したような光。

 一瞬、翳る。

 空から、なにかが、降って来た。

 

ジャラジャラジャラ!

 

 金属音を掻き鳴らしながら、それは地上へと降り立つ。

 天より伸びる鎖を標として、それを伝い、滑り降りた。

 スッ、と地に足を付けた衝撃で、長い髪が舞い上がる。

 左右に広がる色素の抜けたまっ白な髪は、さながら、人ならざるものの翼のようであった。

 

「天使だ……」

 

 思わずそんな言葉が口を突いて出て来てしまうほどに、その姿は美麗であった。

 地上に舞い降りた天使。

 今の彼女の姿は、正しくその形容が相応しい。

 

「い、いや……女の子……?」

 

 もっとも、広げられたのは純白の翼ではなく色味が失われた髪であり。

 本当に天使というわけではなかったが。

 

「……可愛い」

 

 ぼそりと、暁は呟く。

 わなわなと震え、その少女をまっすぐに見据える。否、その少女しか、眼に入らなかった。

 

「ち、ちっこ可愛い……! お人形さんみたい! 肌もまっしろできれいだし……え? なにこの子? すごい! か、可愛い……!」

 

 真白の髪も、透き通るような肌も、水晶の如き眼も、小さな矮躯も、整った双眸も、すべてが儚く、可憐な少女。

 ただし、表情は無。人間らしからぬ、機械的で、感情がまるで籠もっていない、無表情。

 その非人間性が、より彼女を人ならざる天上の存在のように見せかける。

 

「……人間?」

「うっわ声もきれいじゃん! わぁ、いいなぁ……ナンバー1美少女はこのみさんだと思ってたけど、ちょっと揺らいできたかも。あ、でもおっぱいは全然ない……そこだけはちょっと残念かも」

「…………」

 

 少女の視線がやや冷たい。

 いや、視線だけではなく、澄み渡るようなその声も、無機質で、冷淡だ。

 

「おい、暁……」

「やっぱりコルルもあの子、可愛いって思う?」

「違ぇよ! あいつ、人間だぞ。それに上にいる奴――語り手だ」

「ん?」

 

 コルルに言われてはじめて、暁は上からなにかが降ってきていることに気付く。

 じゃらじゃらと鎖を巻き取るように回収しながら現れたのは、二頭身にデフォルメされた、今度こそはそれらしい天使。どこか赤子のようなフォルムで、まるでキューピッドのようだ。

 明らかなクリーチャー。そしてコルルが言うには、少女は人間で、天使は語り手。つまり、

 

「私たちと、同じ……?」

「…………」

 

 語り手を連れた人間。

 それは暁や、遊戯部の面々と同じ、リュンに導かれた人間と同類。

 暁の顔が、晴れやかに綻ぶ。

 

「なーんだ! ってことは仲間じゃん! ねぇ君、名前は――」

 

 ひゅんっ、と空を裂く音。

 直後、暁の頬に、一筋の赤い線が走る。

 

「……え?」

 

 じゃらじゃらと、鎖が金属音を鳴らしながら伸びている。

 つぅ、となにかが頬を伝う。

 触れると、赤い雫が、指先を紅に染めていた。

 

「なんか……かんちがい、してるし……」

「そうだねー。ここが戦場だって自覚がないのかな?」

 

 少女は呆れたように言葉を発した。

 

「……めんどくさ……」

「え? え?」

「手を取り合えるのは素晴らしいことさ。でも、もう少し筋道立ててものを考えなよ」

 

 言葉数が少ない少女に、困惑する暁。

 傍らの天使が、陽気に、残酷に告げる。

 

「ボクらは平和的で秩序だった世界を目指している。けれど君ら火文明はそれに反発するじゃないか。果たして君らは、ボクらの手を取れるのかい? この鎖に縛られることを、よしとするのかい?」

「んなもん無理に決まってるだろ!」

「そう、つまりそういうことさ。ボクらは君らを一方的に縛り付ける。そうでもしなければ、君ら蛮族は火種にしかならないからね」

「ま、待ってよ! 君らは私たちの仲間じゃないの? リュンに呼ばれて来たんじゃ……」

「そんなこと……言って、ないし……なに、この、かんちがい女……」

 

 言葉の端々から、そして雰囲気から、さしもの暁もなんとなく察した。

 彼女らは、きっと――光文明の手の者。

 つまり、今この状況では、敵。

 

「ってことは、仲良くできない感じかな……?」

「無理だ! こいつムカつくぞ暁!」

「なかよくとか……そういう、つもりで来てない、から……」

 

 少女はぼんやりとした無機質な眼で暁を見つめる。

 

「とりあえず……邪魔……うざい……うせろ……」

「はぁ!?」

 

 儚げで、超然とした雰囲気からはかけ離れた、毒の強い言葉。

 可愛い可愛いなどと絶賛していた暁も、その強い言葉に逆上する。

 

「口悪っ! なにそれ! こっちは別になんもしてないじゃん!」

「邪魔なものは、邪魔……私たちの、やること……妨害、してる、から」

「先にけしかけてきたのはそっちじゃないの!?」

「…………」

「せめてなんか言いなよ!」

「ははは!」

 

 表情がひとつも変わらない少女に対し、天使は朗らかに、表情豊かに笑う。

 

「口数の少ない主人でごめんね。まあそりゃあ、仕掛けたのはこっちかもしれないけどね。でも統治を放棄している者たちを導き統制するのは必要なことだ。それを拒むというのなら、相応の対応を取らなくてはならないのさ。まあこれも愛、慈しみってことで、どうかひとつ」

「なーにが愛だ慈しみだ! ふざけんな! お前らの堅苦しい統治なんてまっぴらごめんだぜ! 法だ秩序だとお小言垂れてる連中の空は、さぞ狭いだろうからな! そんな狭っ苦しい場所で飛びたい奴なんて一人だっていねーよ!」

「……そうか!」

 

 天使は笑う。破顔し、口元を綻ばせ、快活に笑っている。

 ――眼以外は。

 

「ラヴァー、指示をくれ。君の言葉ひとつで、ボクは彼らを縛り首にしてこよう」

 

 そして天使は、少女に向く。

 

「ラヴァー? それ、君の名前?」

「…………」

 

 少女は答えない。

 どこを見ているのかも定かではない。ぼんやりと、暁か、コルルか、天使か、虚空か、あるいはもっと遠くのなにかを見つめている。

 少女は、ゆっくりと、口を開いた。

 

「……やろう……キュプリス」

 

 刹那、戦場が開かれる。

 人間の少女と、語り手のクリーチャー。

 火と、光。

 かつては手を取り合っただろう秩序と、今に相反する自由が、衝突する――




 ラヴァー登場。この名前も懐かしいです。
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