デュエル・マスターズ Another Mythology 作:モノクロらいおん
「光文明……!」
空を見上げる。暁には、あれらのクリーチャー――厳密にはその雰囲気――に見覚えがある。
最初にコルルと出会った時に戦ったクリーチャーと同じ、光文明のドラゴン。
それが、隊列を成してやってきたのだ。
「なぜ、光文明が火文明に?」
「そりゃあ、奴さん、
「だからって、こんな侵略行為をするものなのか?」
「なんとも言えないね。神話の力が失われ、調和が乱された今、各文明の秩序もバランスも崩壊している。光文明の思惑はわからないが、文明どうしの内紛も、文明間の抗争も、今や茶飯事となってしまっているのさ」
「光文明のことだからな。率先して世界の統制を名乗りだしていそうだ」
「そういう方が多いですよね、光文明は」
「そうなると荒くれ者ばっかりの火文明を真っ先に潰すってのは、まあわからんでもない思考だ」
「クッソ光文明め! 好き放題しやがって……!」
「だよねー。その好き放題がムカつくから、こうして殴り合ってるのさ」
光龍の一体が、こちら目掛けて急降下してくる。
その急襲も、一瞬。
ウルカはどこから出したのか、どうやって出したのかもわからない身の丈ほどもある金槌で、その頭を叩き潰した。
ぐしゃり、と嫌な破壊音が響き、龍は粒子となって跡形も消えていく。
「うわ……残酷……」
「まあこんくらいはするよ。あたしらだってどんだけ仲間やられてるかわかんないんだ。君らも遠慮なくあいつらぶっ殺していいから」
金槌を肩に担ぎながら、ウルカはあっけらかんと、それが当然であるかのように言う。
そして、視線で空を指し示した。
「ほら、次。来るよ」
こちらの存在に気付いたのか、はたまたこのタイミングが真に空襲する時だったのか。
空を制する光の龍たちが、町に降り、攻撃を開始する。
「……神話どうしで争った戦争ってのは、大昔に終わったって言うけどさ」
ウルカは担いだ金槌を降ろし、構える。
「戦争そのものはまだ続いてる。かつての戦火の残り火は消えていない。あの時の火消しはまだ、終わっていないんだ」
そして、それを大きく振りかぶった。
■
「はじまった……」
「そうだね。ボクらはどうしようか?」
「……状況、確認……報告は……?」
「先遣隊はやられちゃったみたいだねぇ。おかしいなぁ、前よりも戦力を1.3倍ほど増強させたはずなんだけれど」
「はぁ……どいつも、こいつも……雑魚ばっか……クソ、ゴミ……」
「そんな風に言うもんじゃないよ。結果が出せないのは遺憾ではあるけれど、彼らだって仲間じゃないか」
「ゲームみたいには……いかない……戦略ゲー……結構、得意、なんだけど……」
「想定外の事態っていうのはあるものさ。君はそういった予測がちょっと甘いね」
「じゃあ……そろそろ……」
「結局はこうなってしまうか。君は面倒くさがりのわりには自分で動きたがるよね」
「……そういうんじゃ……いいから、いこう……」
「はいはい。ではでは姫のお気に召すままに、ってね」
■
「《バトラッシュ・ナックル》召喚! クリーチャーとのバトルは《バトライオウ》が肩代わりする! さらに! 出て来て! 《コルル》!」
「おう! 任せろ!」
「ブロッカーはこじ開けた! そのまま《コルル》でダイレクトアタック!」
遊戯部総出で町に散開し、襲い来る光の軍勢を、一体、また一体と撃破していく。
撃破数をカウントするのを忘れた頃、不意に暁は思い返す。
ウルカの言葉を。
「戦争、かぁ」
彼女は言った。まだ戦争は終わっていないのだと。
これはかつての戦火の残り火だと。
「うーん……よくわかんないや」
暁自身、かつてあったという神話どうしの大戦争のことなど、さっぱりわからないのだが。
それ以前の問題として、自分がその戦争の渦中にいるという自覚もなかった。
戦争なんて、現代に生きる日本人にはおよそ無縁なもの。
それは教科書の中だけでしか知り得ていないことで、加えて暁は教科書の内容なんて頭に入っていない。
実体験と感覚が伴えば、なにかわかるのかもしれないが。
こうして戦っている今でさえも、戦争、という感覚は薄い。
「コルルと出会えたのは嬉しいし、部活は楽しいし、リュンはよくわかんないけどたぶんいい奴だし……それじゃあダメなのかなぁ。コルルはどう思う?」
「わかんね」
「だよねぇ」
なにかが引っかかる。
自分が戦う意味とは?
リュンや、コルル、彼らに力を貸す理由とは?
その上で、彼らの言う戦争に身を投じる意義とは?
もやもやしたものが、頭と、身体を巡って気持ち悪い。
この不快感をどうにかしたい。だから、
「……ま、いっか」
暁は、考えることをやめた。
頭が悪い自覚はある。考えることが苦手だと自認はしている。
難しい話になったら、シンプルに、思うままになるのが一番なのだ。
暁はウルカに貰った服に視線を落とす。
燃えるように赤いジャケット。シンプルでストレートなデザインだが、そのぶん情熱的で直情的で、暁好みではあった。
「この服カッコイイし、困ってるならお礼くらいはしないとね!」
物を貰った礼という義理。
困っているから助けるという人情。
戦争だなんだと難しく考えるのはやめだ。自分が動く理由はシンプルでいい。
火を点ければ炎が燃え上がる。それくらい、単純で当たり前の理屈でいいのだ。
気持ちを切り替えると同時に天を仰ぐ。すると、
「ん? なに?」
中天の空が煌めく。
太陽の光ではない。なにかが反射したような光。
一瞬、翳る。
空から、なにかが、降って来た。
ジャラジャラジャラ!
金属音を掻き鳴らしながら、それは地上へと降り立つ。
天より伸びる鎖を標として、それを伝い、滑り降りた。
スッ、と地に足を付けた衝撃で、長い髪が舞い上がる。
左右に広がる色素の抜けたまっ白な髪は、さながら、人ならざるものの翼のようであった。
「天使だ……」
思わずそんな言葉が口を突いて出て来てしまうほどに、その姿は美麗であった。
地上に舞い降りた天使。
今の彼女の姿は、正しくその形容が相応しい。
「い、いや……女の子……?」
もっとも、広げられたのは純白の翼ではなく色味が失われた髪であり。
本当に天使というわけではなかったが。
「……可愛い」
ぼそりと、暁は呟く。
わなわなと震え、その少女をまっすぐに見据える。否、その少女しか、眼に入らなかった。
「ち、ちっこ可愛い……! お人形さんみたい! 肌もまっしろできれいだし……え? なにこの子? すごい! か、可愛い……!」
真白の髪も、透き通るような肌も、水晶の如き眼も、小さな矮躯も、整った双眸も、すべてが儚く、可憐な少女。
ただし、表情は無。人間らしからぬ、機械的で、感情がまるで籠もっていない、無表情。
その非人間性が、より彼女を人ならざる天上の存在のように見せかける。
「……人間?」
「うっわ声もきれいじゃん! わぁ、いいなぁ……ナンバー1美少女はこのみさんだと思ってたけど、ちょっと揺らいできたかも。あ、でもおっぱいは全然ない……そこだけはちょっと残念かも」
「…………」
少女の視線がやや冷たい。
いや、視線だけではなく、澄み渡るようなその声も、無機質で、冷淡だ。
「おい、暁……」
「やっぱりコルルもあの子、可愛いって思う?」
「違ぇよ! あいつ、人間だぞ。それに上にいる奴――語り手だ」
「ん?」
コルルに言われてはじめて、暁は上からなにかが降ってきていることに気付く。
じゃらじゃらと鎖を巻き取るように回収しながら現れたのは、二頭身にデフォルメされた、今度こそはそれらしい天使。どこか赤子のようなフォルムで、まるでキューピッドのようだ。
明らかなクリーチャー。そしてコルルが言うには、少女は人間で、天使は語り手。つまり、
「私たちと、同じ……?」
「…………」
語り手を連れた人間。
それは暁や、遊戯部の面々と同じ、リュンに導かれた人間と同類。
暁の顔が、晴れやかに綻ぶ。
「なーんだ! ってことは仲間じゃん! ねぇ君、名前は――」
ひゅんっ、と空を裂く音。
直後、暁の頬に、一筋の赤い線が走る。
「……え?」
じゃらじゃらと、鎖が金属音を鳴らしながら伸びている。
つぅ、となにかが頬を伝う。
触れると、赤い雫が、指先を紅に染めていた。
「なんか……かんちがい、してるし……」
「そうだねー。ここが戦場だって自覚がないのかな?」
少女は呆れたように言葉を発した。
「……めんどくさ……」
「え? え?」
「手を取り合えるのは素晴らしいことさ。でも、もう少し筋道立ててものを考えなよ」
言葉数が少ない少女に、困惑する暁。
傍らの天使が、陽気に、残酷に告げる。
「ボクらは平和的で秩序だった世界を目指している。けれど君ら火文明はそれに反発するじゃないか。果たして君らは、ボクらの手を取れるのかい? この鎖に縛られることを、よしとするのかい?」
「んなもん無理に決まってるだろ!」
「そう、つまりそういうことさ。ボクらは君らを一方的に縛り付ける。そうでもしなければ、君ら蛮族は火種にしかならないからね」
「ま、待ってよ! 君らは私たちの仲間じゃないの? リュンに呼ばれて来たんじゃ……」
「そんなこと……言って、ないし……なに、この、かんちがい女……」
言葉の端々から、そして雰囲気から、さしもの暁もなんとなく察した。
彼女らは、きっと――光文明の手の者。
つまり、今この状況では、敵。
「ってことは、仲良くできない感じかな……?」
「無理だ! こいつムカつくぞ暁!」
「なかよくとか……そういう、つもりで来てない、から……」
少女はぼんやりとした無機質な眼で暁を見つめる。
「とりあえず……邪魔……うざい……うせろ……」
「はぁ!?」
儚げで、超然とした雰囲気からはかけ離れた、毒の強い言葉。
可愛い可愛いなどと絶賛していた暁も、その強い言葉に逆上する。
「口悪っ! なにそれ! こっちは別になんもしてないじゃん!」
「邪魔なものは、邪魔……私たちの、やること……妨害、してる、から」
「先にけしかけてきたのはそっちじゃないの!?」
「…………」
「せめてなんか言いなよ!」
「ははは!」
表情がひとつも変わらない少女に対し、天使は朗らかに、表情豊かに笑う。
「口数の少ない主人でごめんね。まあそりゃあ、仕掛けたのはこっちかもしれないけどね。でも統治を放棄している者たちを導き統制するのは必要なことだ。それを拒むというのなら、相応の対応を取らなくてはならないのさ。まあこれも愛、慈しみってことで、どうかひとつ」
「なーにが愛だ慈しみだ! ふざけんな! お前らの堅苦しい統治なんてまっぴらごめんだぜ! 法だ秩序だとお小言垂れてる連中の空は、さぞ狭いだろうからな! そんな狭っ苦しい場所で飛びたい奴なんて一人だっていねーよ!」
「……そうか!」
天使は笑う。破顔し、口元を綻ばせ、快活に笑っている。
――眼以外は。
「ラヴァー、指示をくれ。君の言葉ひとつで、ボクは彼らを縛り首にしてこよう」
そして天使は、少女に向く。
「ラヴァー? それ、君の名前?」
「…………」
少女は答えない。
どこを見ているのかも定かではない。ぼんやりと、暁か、コルルか、天使か、虚空か、あるいはもっと遠くのなにかを見つめている。
少女は、ゆっくりと、口を開いた。
「……やろう……キュプリス」
刹那、戦場が開かれる。
人間の少女と、語り手のクリーチャー。
火と、光。
かつては手を取り合っただろう秩序と、今に相反する自由が、衝突する――
ラヴァー登場。この名前も懐かしいです。