黄金の日々   作:官兵衛
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昔、見た(景色)

 

 

 

 

 

 

 ……ユグドラシルで見たゲヘナの炎みたいだな。

 

 俺はラキュース達から、例の炎の細かい報告を受けた時に「害は無い」などの話を聞いてから、ぼおーっとそんな事を考えてた。

 ゲームでは確かアーチデヴィル(最上級悪魔)のスキルか何かで、主に目眩ましだったり、広範囲バフやデバフとしての効果も合った記憶がある。まあ、王都に出現した炎よりは小規模だったと思うけど。……キャラクターの対魔法力が高いと、少し透化されて炎の壁の中が見えるのでNPCやモンスター以外で使う人は余り居なかったかな。

 

 ……それに似た炎が王都の一角を囲んでいる。その中には多くの市民や国庫がある。

 八本指の討伐は順調だったハズなのに、とんだ大物が釣れてしまったらしい。

 

 作戦はラナーがテキパキと決定した。エ・ランテルの英雄であるアダマンタイトチームのモモンを先頭にしてゲヘナの炎を突破して、中に湧いているという低級悪魔たちの群れを切り開いて侵入。それを陽動としつつ炎の中に居るであろう人々を救出。

 そして今回の騒動の元となったヤルダバオトという悪魔をモモン氏が討伐するという物だ。

 一介の人間が悪魔に勝てるのか?という疑念と不安は蒼の薔薇が言うには「モモン様と悪魔ヤルダバオトの戦いを見たが、有利に戦いを進めていたので、十分に可能性はある」とのことらしい。ひたすら応援するしかない。

 

 ただ、実は先程から非常に気になっていることが2つある。

 

 まず、一つ。俺は誰にも……あの炎の壁のことを「ゲヘナの炎」に似ているだとか、そんな話を一度もしていない。そんな事を言ってしまえば「ゲヘナの炎ってなんですか?」という質問が飛んでくるに決っているからだ。それに対して「俺の前世でやっていたゲームの中の魔法でさあ」などと答えられるわけがない。柔らかい壁の部屋に閉じ込められたり、鉄仮面を被せられて地下牢に閉じ込められたらどうするんだ!?

 なのに作戦会議中に何人かが、あの炎のことを「ゲヘナの炎」と呼んでいたんだけど、どういう事だ?

 『ゲヘナの炎』というのはあくまでユグドラシルの中のスキルの名前であり、この世界では聞いたことがないのだけど?

 ラナーに言葉の出所(でどころ)を聞いたら「物知りのイビルアイがそう呼んでたから」と答えたのでイビルアイに聞いたら「ももん様がそう仰っていたのだ!」と言われた。あと、なんか興奮してた。

 そう。レエブン侯の「もう一手」とはエ・ランテルの英雄であるアダマンタイト級冒険者『漆黒』のことだった。リーダーのモモンは、なんでもイビルアイ達が八本指の館を捜索中に出会った呪符使いのモンスターに出会い、退治出来そうな瞬間に現れた今回の敵である首魁ヤルダバオトが現れて苦戦しているところに、空から降ってきて彼女たちを助けたと聞いている。ヤルダバオトを追い払える強者。彼のお陰でこの作戦は成り立つのだ。

 その噂のモモン氏が遠くで一瞬ヘルムを取っている姿を拝見した。南国風……どこか東洋人っぽい顔立ちの中年だった。俺は自己紹介の後「あの炎の壁をゲヘナの炎って名付けたのはモモン殿らしいですけど、ゲヘナという言葉はどこから出てきたんですか?」と尋ねた。

 

「ん、あ、ああアレ?ですか……」

 

 ……なぜだろう? 隣の黒髪ロングの超絶美人がすっごい俺を睨んでいるんだが?

 やめて、本当に癖になるから。癖になるから!

 

「昔、似たような炎を他の悪魔が使用しているときに「ゲヘナの炎」だと言っていた事があったのです。デ、ヤルダバオトを退却させた後に現れた炎なので、思わず「ゲヘナの炎だ」と呟いてしまったのが広まってしまって……。本当にゲヘナの炎かどうかの確信がある訳ではありません。申し訳ない」と威圧感のある見かけと違い、営業職のサラリーマンの様な口調で、妙に丁寧に謝られてしまった。

「そうなのですか?非常に修羅場を潜っておられるのですね!?凄いなあ」

 と、感心と賞賛をして別れた。

 

 うーん 俺は魔術の才能がなかったから学ばせてもらえなかったし、身近の便利な魔法の数々はユグドラシルには無かったものばかりだから気づかなかったけど……なんだか最近、冒険者などに触れ合うと『ユグドラシル』時代に聞いたことのある様な魔法とかスキルを耳にするんだよね。どんな魔法だとか判断付くから便利で良いんだけどさ。まあ武技なんてのはユグドラシルには無かったけど、王国ではマジックキャスターの地位が低いから周りに居なくて詳しい魔術の知識がないのが痛いな……今度、イビルアイに話を聞いてみよう。

 

 もう一つの気になる点は、クライムを強者であるモモンが居る主力兼陽動部隊ではなく、俺やレエブン候と一緒の安全な治安部隊でもなく、父上やガゼフ戦士長との掃討部隊でもなく、単独行動で低級悪魔を潜り抜けながらの市民救出部隊に任命したこと。クライム大好きっ子のラナーが、クライムにそんな危険な任務を与えたのは何故だ?しかも少人数でのチームで望むという。

 先程レエブン侯と問いただしたら「ここでクライムに栄誉と名声を稼がせておきたいのです。たとえ死んでもラキュースが復活させてくれますし、その場合レイズデッドで蘇生して生命力を失ったボロボロのクライムを、私が介抱してイチャイチャしても誰も文句を言えないでしょう?」みたいな言い訳を言っていた。正直、すごく違和感がある。レエブン侯は「わあ……やはり変態……」という感じで納得させられていたが、俺を舐めるんじゃない。この答えで納得させるための伏線で、あの時はああ答えただけじゃないのか?

 まあ、実に手段はラナーらしいのだが、そもそもクライムがやられれば炎の中の市民や財はどうなるのだろうか?蒼の薔薇に頼んであるのか?

 

 

 さて、もう一つの疑問を晴らしにラナーの元へ行こう。

 ラナーの部屋に入ると、ラナーは外で待機しているクライム、彼と同行することにしたブレイン(ガゼフ戦士長との決勝の相手だったんだって!?)とロックマイヤーと供に戦いの前にスープなどの炊き出しを口にしているのを心配そうに見ている。

 

「やはり心配なのか?」

 

「お兄様の持ち場はここではなくてよ?」

 

 俺はレエブン侯と共に、ゲヘナの壁から悪魔達が外に出ないか見張りつつ、出たときに一般兵で対処することになっている。本当はクライムについていきたい気持ちもあったが、一兵卒と変わらない強さの俺ではどう考えてもクライムの脚を引っ張るだろう。

 

「なあ 本当に俺が見回る必要あるのか?あんまり……いや、全然役に立てんぞ?」

「王子が自ら民に姿をさらしつつ歩くことで安心する民草は多いと思います。王はガゼフ戦士長と共に前線に出てしまいますし、第一継承権の王子は城の奥に籠もっておられますしね」

「それは仕方ないだろう。俺と一緒で役に立たないだろうし、籠もっていてもらわないと守るのが大変だしな」

「ええ 今は少しの兵でも死兵にする余裕はありませんしね」

「なあ オマエやっぱり何か隠してない?」

「……例え隠してあったとしたら、それは不必要な事なのでお伝えしていないだけだと兄上なら解って下さるのでは?」

 

 不必要なことだから言ってない。それは何を為すために不必要なんだ?逆に言うと、必要だから隠している?ということだよな。俺たちが知らない方が良い何かを知っている。知ってしまうと計画が狂うほどの何かを?

 ……ラナーは俺がラナー(自分)とクライムが結ばれるのを願っている事を知っているハズだ。その俺ですら知らない方が良いこと――――。

 

「そうかラナーは優しく……悪い子だな」

「……何を?」

 言ってしまうことで巻き込んでしまうということだ。それを知った俺が何らかの行動を取るだろうという事が予想出来て、なおかつ、その行動で俺やラナーやクライムに取って良くない結果が起こると予想しているのだ。

 

「大きなヒントだよな。不必要だから隠しているということは、逆に言うと何か目的があって、それを成し遂げるためには「隠すこと」が必要ということだ。この悪魔退治に関係があることなのか?いや、俺は街で治安活動をするだけだ。隠していることはもっと大きな枠組みに関わることだ。もちろんクライムを含めた自分の未来図に影響のあるような……やはり最近のオマエは何らかの目標……結末に向かって行動しているな? 最近だ。恐らくそれまでは俺も感じていた様に、ゆったりとしたペースで悪くないシナリオが進んでいたはずなんだ」

「……」

 

 ラナーは胡乱(うろん)な顔で沈黙している。

 

「最近……ナニかに出会った……と言ってたな。なんだそれは?」

「……」

「沈黙はこの場合答えだよ。そのナニかは今までの悪くなかった……このまま行けば俺とオマエが望んでいた物語の結末をぶち壊すようなナニかにオマエは出会ったんだな?」

 

 俺の中で色んな可能性が渦巻く。

 バルブロに脅迫された?

 いや、ラナーなら脅し返すな。

 メイド辺りに裏の顔を知られた?

 いや ラナーなら完全犯罪で始末するな。

 父上がラナーの婚姻相手を決めた?

 いや、ラナーなら相手貴族を(おとし)めて婚姻を反故に出来るな。

 ラナーの婚姻相手がバハルスやスレイン法国など、他国の大人物なら?

 いや、ラナーならいくらでも対処できるだろう。

 

 ラナーは天才だ。

 

 しかし俺がラナー(こいつ)を『悪魔』的だと恐れているのは、その心の闇から導き出される容赦のない手段にある。目的のために(その目的自体も歪んでいる場合が多いが)シンプルで有効な手管(てくだ)を使うことに何の躊躇(ちゅうちょ)もないのだ。くそっ悪魔の子(ラナー)め!俺の実の妹だが!

 

 ……まて、つまり悪魔的頭脳を持つラナー(悪魔)(それはただの悪魔だが)が計画の修正も出来ずに、ラナーにとっても優しい時間だったはずの今を壊してでも強引で性急な行動を取らざるを得ないほど追い込まれたのだとしたら……それは……その相手は……。

 

「悪魔の所業(しわざ)か……?」

 

「……」

 

 今、俺が呟いた言葉に対してのラナーの反応はどういうことだ?

 いつもなら「馬鹿なの?死ぬの?」と良い顔で口撃してくる場面じゃないのか?

 何故、ポーカーフェイスを崩さないんだ?それでは、まるで……まるで……俺の言った事が正解みたいじゃないか……。

 悪魔……悪魔の仕業。今、王都を襲っているのは……悪魔ヤルダバオト。

 出会いは必ずしも幸福を生むばかりでは無い。不幸な出会いも普通にある。それはまるで交通事故のように突然逃れようもなく……。

 

「ヤルダバオトに……お前は会ったのか?」

 

「……」

 

 ラナーの不思議な色に輝く瞳は正解だとも不正解だとも伝えてくれない。

 

 何かが激しく頭の中でフラッシュのように弾け続ける。

 

 外を見る。輝く火の壁は『ゲヘナの炎』だと名付けられた。俺の記憶もアレは『ゲヘナの炎』に似ていると訴えている。

 

『ゲヘナの炎』は『ユグドラシル』での『アーチデヴィル』達のスキルだ。

 

 突然現れた『アインズ・ウール・ゴウン』というユグドラシル世界固有の名称。

 

 アインズ・ウール・ゴウンの拠点ナザリックの攻略Wikiにも載っていて、俺も戦った中ボスの中にアーチデヴィルが……居た……確か第七階層守護者……。

 

「……デミウルゴス」

 

「っ!?」

 

 ラナーが声にならない悲鳴を挙げたのと、出発の合図の鐘が同時に部屋内に響いた。

 

「……さて そろそろ持ち場に行くか」

「行くのですか? 私と悪魔の茶番に付き合わなくても良いのですよ」

「いや オマエはオマエが思っているより優しいよ」

「……なにを?」

「少なくとも……人を数値としてしか見れないが故に、オマエは感情に左右されず効率的に小を殺して大を生かしていくのだろう。それはある意味において優しい結果を世界にもたらせてくれる事もあるのだと思う。俺は……クライムを何故危険な任務に就かせたのかを聞きたかったんだけど、その顔からすると悪魔と何らかの取引をしたのだろう。きっとクライムは安全なんだ。だからオマエはクライムを死地にやるんだ」

 

「お兄様……」

 

「そしてきっと俺もな。……俺も、ですよね? さあ続きはまた今度な。この茶番をシッカリとやり遂げなくては……オマエの望む最低限の未来すら手にすることが出来ないだろう?」

 

 俺は、この荒唐無稽な連想ゲームは何なんだと考えながら辿り着いた言葉で叫ぶラナーにショックを受けた。

 デミウルゴスだと?なんだ?偶々なのか?偶々、ユグドラシルで知ったアーチデヴィルの名前と、こちらのヤルダバオトの正体が同じ『デミウルゴス』という名前だったと? 理解できない不思議な状況の整理が追いつかないままだった。ただ、これ以上ここで妹を追いつめるのも苦しめるのは兄失格だ。それだけは確かだ。

 俺は王子様失格だとしても、ラナーのお兄ちゃん失格には成りたくなかったんだ。

 

 城の庭に出るとチーム『漆黒』を含めた多くの冒険者達とレエブン候の兵士たち。ガゼフ戦士長は……居ないのか?まあ父や兄の護り手として命じられたのだろう。

 良く考えたら戦争にも出たことのない俺にとっては初めての戦いだ。ラナーの計算ではどうやら俺も安全らしいが……それでも緊張はする。

 愛馬に跨がらせてもらいレエブン候の所に向かうと俺以上に緊張した兵士たちの顔が見える。低級とはいえ悪魔の群れが炎の壁の向こうに居て、彼らと対峙しなければならないだと考えれば当然のことだろう。

 

 立場的には本来俺が演説みたいなことをしなければいけなさそうな雰囲気だったが、それはあくまで作戦指揮官であり、素晴らしいカリスマに溢れたラナー()にお願いすると「ここが兄上の唯一の見せ場なのに、なにを言ってるのですか」と言われながら足をグリグリと踏まれた。俺はもうそろそろ安全靴を履いたほうが良さそうだ。仕方ないので冒険者たちを中心とした突入部隊のリーダー的存在である蒼薔薇のラキュースにお願いした。安全な地に居るものが死地に飛び込む者を奮い立たせられるほど、俺はカリスマ性に溢れていない。カエルっぽさには溢れているらしいが……。こういう形で種族を超越したくなかった。

 

 遠くでラキュースが突入部隊に作戦と各種バフ魔法をかけ終えると「ウオオオ──!!」と雄叫びを上げて気勢を挙げている。

 

 黒く立派な鎧が見える。『漆黒』のモモンだ。ラナーの言葉からは出来レースであるかのようだったが、彼は実際には悪魔ヤルダバオト……もしくはデミウルゴスには勝てないままあしらわれるのだろうか?それともまさか殺される?ラナーの計算で導き出された必要最低限の犠牲者としてモモン氏は生贄として捧げられる運命なのだろうか。蒼薔薇は?他の冒険者は?そう考えると俺は居た堪れない気持ちになり、順々にゲヘナの炎に飛び込んでいく人たちにひたすら頭を下げ、無事を祈り続けた。

 彼らが居なくなり、これからレエブン候と共にリ・エスティーゼの見回りを始める。特にゲヘナの壁から出てくる可能性がある悪魔に瞬時に対応出来るようにしておかなければ。

 

「いくぞ!」とレエブン候が兵士に告げて、俺はレエブン候と(くつわ)を並べて馬を進める。

 

 夜の中で月と星とゲヘナの炎だけが明るい街だ。住み慣れたはずの王都だ。

 馬を進めると恐怖に顔をひきつらせた市民が家の明かりを消して恐恐(こわごわ)とゲヘナを見つめている。俺は市民が集まっている場所を見つけては馬上から「大丈夫だ!安心して欲しい。ただしあの燃え盛る壁から低級魔族が突入部隊に蹴散らされて逃げてくる可能性もあるので、その時は我々が対処するので知らせてほしい。そして、いつでも逃げられる用意を!」と告げて廻った。

 しばらくすると遠くの方で「うわあ!?魔物だ!魔物が現れたぞ!?」という悲鳴が聞こえた。俺はレエブン候と顔を見合わせて頷くと、兵たちとともに向かった。

 市民たちが「あそこあそこ!」と指す場所へと向かうと傷ついた一匹の低級悪魔がフラフラと道を歩きながら「ぐるあわああ」と声を挙げていた。大きさは130㎝ほどだろうか?

「弓を射よ!魔物がひるんだ瞬間に魔法武器隊が突撃し止めをさせ!」

 レエブン候の指示通りに弓隊が至近距離で一斉射撃をし、悪魔が苦しそうに鳴いた瞬間に魔法処理を施した槍や刀剣を手にした兵たちが突入しめった刺しにする。……思ったよりも楽な作業だけど、なんか、こう、心に来るんだが……。

 その、なんだか一匹を集団で嬲り殺しにするという心苦しい作業を数回繰り返していると、市民から「ザナック王子!ありがとう!」という声が挙がった。いやいや気にすんなと手を振る。というか大変なのは市民に見える俺じゃなくて、ゲヘナの炎の向こうの奴らだからな……頑張れよ。

 

 数刻たって漏れ出てくる悪魔退治に慣れた頃、突然それはやってきた。さっきまでの低級ではなく中級とも言うべき強者の雰囲気を纏った大人の人間と変わらない大きさの悪魔が、傷ついた腕を抑えながら「ぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぅぅぅうう!」と低い唸り声を挙げながら地に臥せっていたのだ。

 そして先程までと同じ様に弓隊が急いで弓をつがえようとするが、それよりも早く、俺に向かって槍を振り上げながら突っ込んできたのだ。

 俺は慌ててグイッと手綱を引き馬の腹を蹴る。間に合わないと俺も諦め、周囲の兵達も、見物人の市民も思っただろうが、俺の愛馬は突然「ぴょん」と右へ飛び跳ねて正面から突進してきた悪魔を避けたのだ。周囲からは「なんという神業だ!?」と歓声が挙がった。いや違うんだ……俺の馬術の昔からの癖なんだ。

 しかし、俺が避けたことにより俺の後ろの兵士たちに悪魔が突っ込んで彼らを「ああぁぐぁああ」と叫びながら力任せに蹴散らしていく。

 

 どうする!?距離を取って弓を……いや、周囲の兵に当たるから撃てない。せっかく悪魔の背後を取っているが、剣で斬りかかるか?何の才能も無いから役に立てんな……。

 

 「実戦経験はないが……」そう呟くと俺は急いで馬を降りる。レエブン候は「王子!?」と驚きの声をあげる。

 

 俺は周りの兵士を見渡して一番大きなタワーシールドを持った兵士から盾を借りると悪魔に向かって盾を構える。

 『ユグドラシル』でひたすら構え続けたタワーシールドを何故か慣れた手つきで構えると悪魔に向かってゆっくりと近づく。

 周囲から「王子!?危ないです!?」という制止の声が聞こえる。

「大丈夫だ!俺は一流のタンクだ!」と俺が叫ぶと悪魔が俺に気づいて「ぐぅあきゃあ!」と雄叫びを挙げて突っ込んできた。そして俺は構える盾に奴の体が当たる直前に「ここだ!」と全体重を盾に預けて悪魔に向かって盾を叩きつける。相手が本来の打点よりも距離を縮めることで体当たりの効果を減らし、そしてカウンターでの盾によるアタック!ゲームなら盾使いの基本である「パリィ」が発動して敵は動きを止めるはずだ……俺は瞑りたい目を見開いて悪魔を見ると、悪魔は盾に弾かれて驚いたような顔で体のバランスを崩していた。

 

「今だ!切り込めえええ!」

 俺が叫ぶと兵士たちは「ハッ」としたように我に返り、持っている武器が魔法武器でなかろうと一斉に隙きを見せた悪魔に叩き込んでいく。

 多勢に無勢。悪魔はボロボロになり地面に倒れ込んだ。そして今日一番の危機を乗り越えた兵士たちは「うおおおおお────!」と喚声が自然と挙がり、見物人からも大歓声があがる。「ザナック王子万歳!」という声も聞こえる。俺は震える手で盾を持ったまま固まってしまった左手の指を一本一本外して、盾を兵士に返す。「ザナック様が強者という話はついぞ聞いておりませんでしたが……」とレエブン候が感心した顔で話しかけてきた。俺は「なあに……盾をちょっとな」ユグドラシルで5、6年ほどね。と答えた。

 ……パリィは使えなかった。左肩も脱臼しているかもしれない。右肘も痛みが酷い。これが、この世界での俺の現実だ。

 

 

 そして戦いは終わった。遠くから雄叫びの様な歓声が聞こえる。

 

 ヤルダバオト討伐対被害人数55人、そして、ゲヘナの炎の中で国の倉庫に避難していたはずの市民の行方不明者が一万にものぼると云う……。これが人間を数値でしか見れないラナーだからこそ算出できた、もっとも少ない被害の理論値だったのだろう。そう俺は信じるしか無かった。

 

 それはきっと為政者として、どこまでも正しく、そして残酷な数字だった。

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 





・「ゲヘナの炎」をアーチデヴィルの専用スキルだとザナックは認識しております(本当はどうなんでしょうか?)
・討伐隊の被害人数55人と仮設定

・重要な場面過ぎて、書き直しをし過ぎて読みづらい文章になっております。忝なし。


髙間様 Sheeena様 黄金拍車様 グリン様 誤字脱字の修正を有難うございます







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