黄金の日々   作:官兵衛
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使節団

 

  

 

 

 

 父上に呼ばれて「ついに次期国王を正式に任命されるのか……」と嫌な気分で登庁したものの、内容は「アインズ・ウール・ゴウン魔導国より親善大使が来るので、国賓として出迎えよ」という内容だった。いや……それも割と気が重い。というか恐い。

 ……ついにアインズ・ウール・ゴウンと対面かと気を引き締めたが、誰か部下が来るらしい。そりゃ急に国王が来るわけは無いよね。

 アインズ・ウール・ゴウンの正体が『モモンガ』であることは分かっている。問題は中身だ。俺のようにリアルの人間なら……きっと大丈夫だと思う。世界有数の『お人好し』という民族だからな。問題はデミウルゴスやシャルティアが実体化しているらしいことから、モモンガもゲームのキャラが実体化しているだけの場合だ。その時は……やはりロールプレイの通りに『魔王』なのだろうか……?

 

 しかし……バハルス帝国が魔導国に従属を願い出たのは想定外だった。ラナーは「魔導国に帝国がこんなに早く従属するとは……なかなかの判断力と決断力の持ち主ですね。ジルクニフ陛下は」と妙な感心の仕方をしていた。

「ウチも早く従属したほうが良いんじゃないの? で、統治に代官でも置いてもらってさ、父王をリ・エスティーゼ王国のラストエンペラーとして……」と言ったら腹の肉を摘まれて()じられた。なんでこいつ最近、地味に痛くて屈辱的な技を……!?

 

「それは従属ではなく全面降伏による支配下に置かれた状態です。もちろん従属化も視野には入れておかねばならないでしょうが、まだその時ではありません。魔導国のもとで繁栄するのと、魔導国と共に繁栄するのとでは雲泥の差があります」

「そりゃそうだろうけど」

「これからはお兄様に頑張ってもらいますから」

「えっ 本当に嫌なんだけど!?」

「……」

「痛い痛い痛い!?耳たぶを無理矢理、耳の穴にねじ込もうとするな!?オマエが思っている以上に痛いし恐いから!?」

 

 精神に来るわ!?

 

 

 

 

 

 

 

 さて 約束の日より一週間。まさに今日、『魔導国』である『エ・ランテル』より使節団が到着する日だ。

 正直、数日前から緊張しすぎて食事も喉を通らない日が続いた。ここで、俺や貴族達が彼らと友好関係を築かなければ、再びカッツェ平野での悲劇が、ここ王都『リ・エスティーゼ』にて行われないとも限らないのだ。

 俺は後に居並ぶ貴族達の群れをそっと流し見る。

 うん……知らない奴が多い。特に貴族派の多くの参列者が以前と顔ぶれを一変させてしまっている。もちろん理由は先の戦いにより、多くの当主を亡くしてしまい、急遽、その息子や次男三男、甥などが有り合わせの当主となってここに参列しているからだ。さきほどから慣れない人間達の、慣れない会話のやり取りと、慣れない駆け引きの薄っぺらさが俺の体に寒気を催している。王派だって半数近くがメンツを換えてしまっている。先の戦い後に人前に出られなくなった貴族達が多いのだという。PTSDって奴だろうか。

「ザナック様……そろそろ」と侍従が促してきたので、俺は「解った」とだけ応えて、騎士団に合図を送るとリ・エスティーゼの城門から城外に出て、使節団を騎馬にて整列し待つことにした。

「……エ・ランテルだとこっち方面の門で合ってるよな?」と近くにいた騎士に聞くと「はっその通りで御座います!」と緊張気味に返答をしてくれた。

 彼の緊張も解る。俺は空を見上げる。

 辺り一面は曇天であるのに、まるで切り取ったかのように王都リ・エスティーゼの上空だけポッカリと穴が空いて青空が広がっている。

 間違いなく魔法によるものであると気象予報士が青ざめて報告してくれた。

 

「こんな大魔術を平然と使ってくる相手なんだ。そりゃ緊張もするさ」

 そう言って俺は若い騎士の肩を叩いた。

「いえっ そのっ緊張しているのは、ザナック様に直に声を掛けて頂いたからで御座います」

 え? 俺?

「なんでだよ。俺なんてきっと君よりも弱いし、君よりも度胸も無く、君より丸い」

「確かにその様な噂は聞いております。でも、私は王都での悪魔が襲ってきたときに王都の中を駆けずり回る殿下のお姿を拝謁致しました。強くなくて、度胸も無いと御自身でも言われている御方が、あの状況で市民や兵卒を励ましながら戦い続けるのに、どれほどの大きな勇気を発揮されていたのかと感激致しまして……」

 ……まあ、戦ってないんだけどね。あと、丸いに関しては放置か。

「感激されるような事じゃないさ。ただ、その時は俺がそれをやる番だったってだけだ。地位や立場ももちろん関係在るけど、君も君のやるべき時が来たら、きっとやり遂げられることが出来るだろうさ」

 そう言って肩をポンと叩いて「なんか良いこと言った風」に仕上げることに成功をした。

 

「――――王子」

 突然、城門の上に立っている衛兵から声がかかった。

 ――――来たか。

「よし、最終確認だ。他国の国賓と変わらぬ応対をせよ。例えドロドロに溶けた魔物が現れても、丁寧に出迎えるのだ」

「はっ」

「相手が気分を害したら、最悪『カッツェ平野の悲劇』に『リ・エスティーゼの悲劇』が歴史に加わるのだと覚悟しておけよ」

「解りました!」

 カッツェ平野の噂を聞いている騎士達は身震いと共に「ゴクリ」と唾を飲み込んだ。

 

 そして使節団の先触れが現れた。

 赤い眼が煌々と輝く漆黒の一角獣に跨った、黒い鎧の騎士だ。もちろん中身は人ではないだろう。体から溢れてくる濃厚な気配が陽炎のように揺らめき、「死」という言葉が自然と脳裏に浮かび続ける。

 俺の愛馬がびくりと震え上がる。

「馬上より失礼!我らはアインズ・ウール・ゴウン魔導国が使節団である!」

 彼らはそう高らかに宣言をした。声は枯れたバイオリンのようなハスキーさと甲高さを奏でていた。

「リ・エスティーゼ王国第二王子ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフである!貴殿らを王宮まで案内するよう陛下より命じられている。我らの後についてきていただきたい!」

「確かに承った。では貴殿らの案内に従おう。我には名はないので種族名であるデス・キャバリエ死の騎兵と名乗らせて頂こう!」

「解りました。ではキャバリエ殿、この場にて使節団団長の方に挨拶をさせて頂いても?私が今回の団長殿の王宮内での行動の責任者ですので、私のことを覚えておいて頂きたいのです」

「承った!団長殿にお聞きしよう」

「感謝する」

 

 ……ふう。緊張した。そもそも魔物と話すのが人生で初めてだ。

 俺は奥へと戻っていく先触れの背中を見ながら、ぱちぱちと顔を手で叩いて気合いを入れ直した。

 

 しばらくするとデス・キャバリエが再び現れる。

「お待たせした。アインズ・ウール・ゴウン魔導国の団長にして魔導国の片腕であらせられるアルベド様がお会いされるとのことです。ザナック殿、どうぞこちらへ」

 俺は騎士達にココで待つようにと手で合図をすると馬から降りてデス・キャバリエの後を着いていった。

 これでも一応王族として厳しい礼儀作法や指導を受けてきた。言葉使いや姿勢など全ての知識と経験を総動員して失礼の無いようにしなければ。

「それでは、使節団団長、アルベド様です」

 

 そうキャバリエに哨戒されながら馬車よりら出てくる影があった。

 人ではありえない頭より生える二本の角。

 人ではありえない腰より生える黒い翼。

 そしてなによりも、人とは思えないほどの美しさ。

 

 ……これは参った。正直、美人などラナーで見慣れているつもりだったが、こういう妖艶さと清楚さを併せ持つ美しさもあるのだな。

 俺は感服して片膝を突いて「ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフで御座います。今回のあなた方達の王都内での責任を持つ者です」と挨拶をした。

「あら お顔を上げてくださいますか」

 美しい声が頭上で生まれた。

「はっ」

「アインズ・ウール・ゴウン魔道国の使者として参りましたアルベドです。数日という僅かな間ですがよろしくお願いします」

 

 こうしてアインズ・ウール・ゴウン魔道国の使節団は王都リ・エスティーゼに入城した。

 

 

 

 

「ようこそ、アルベド殿」

 父王ランポッサ三世が席から立ち上がりアルベド殿を出迎える。

「陛下、お招きいただきありがとうございます」

 

 王家主催の立食パーティの始めに交わされたやり取り。これが今日の目的とも言える。楽団から優雅な音が鳴り響く。非公式な場で顔をちゃんと繋ぐというのは重要なことだ。

 後はただの立食パーティだ。いや「ただの」であることが必要なのだ。

 アルベド殿は侯爵などの偉いさんと挨拶を交わしたあとは一息ついて休憩をしている様だ。

 辺りを見ると男女問わずに多くの貴族達が彼女に注目をしていた。凄まじい美人だが人間ではない姿と、彼女の背後に居る国を警戒して近づかない人間が殆どだ、すると一人の若い貴族が彼女に話しかけだした。ん?初めて見る顔だ……。そこそこの地位なら俺や父に挨拶に来るはずだから、そんなに地位は高くない奴だと思うんだが……国賓に馴れ馴れしく話しかけるとは凄いハートの持ち主だな。まさかナンパしてたりしないよね?

 俺が緊張を和らげるために、ローストビーフとローストチキンと2杯目のワインを飲み干した頃、俺の服の右腕の部分を見知った老貴族が掴む。ん?どうした?

「侯爵……どうされました?」

「殿下……あの無礼者は我が家が面倒を見ている傍流の貴族の倅でございます……」

 震える手と赤い顔が怒りを現している。

「なかなか勇気のある若者ですな」

「あれは無謀であり国賓に対する無礼で御座います!王に申し訳が立ちませぬ……」

「そうか……解った。ちょっと止めてくる。若造の名は?」

「フィリップで御座います」

 俺は少しふらつきながらも、するすると会場の客を抜けてフィリップの元へと向かう。彼を遠巻きに見る貴族達は皆、眉を潜ませて怪訝な顔をしている。こいつ、これだけの視線の中で「我が舞踏会に……」とか宣えるとか本当に凄いな。

 アルベド殿が俺に気づいて「アラ?」という顔をする。なんという可憐さか……。俺はフィリップの背後に回ると、彼の膝裏に狙いを定めて、彼に前世での格闘技術の総決算である通称「膝かっくん」を喰らわせた。

 

 カクンッ

 

「あふぁあぁ!?」

 なんとも間抜けな悲鳴を挙げてフィリップは床へとしゃがみ込む。

「誰だ貴様あっ!」

「すまんがフィリップ君。私がアルベド殿と話があってな。ちょっと失礼するぞ」

「ぐっ あ……王子?」

 そう言い捨てて俺はアルベド殿を会場の隅にある比較的空いているソファーが置かれている箇所へとエスコートをする。

「申し訳ありませんね。ウチの馬鹿が失礼を致しました」

「ふふ 女であれば殿方に焦がれられるのは決して悪い気ではないのですけれど――ただ、我が身も心も唯一人のために捧げたものですので……少々困っておりました。お助け頂き有り難うございます」

「ええ 勿論ですとも。では、こちらで御休憩下さい」

「あら? 行かれますの?」

 

 ……まあ、用事なんて無いしな。ダイナマイトに火が点いてないからと言って、それでお手玉をする趣味は無いんでね。

 

「はい」

「私に御用がお有りなのではなかったのですか?」

 

 ……用事が無いことは解っているだろうに……何か話した方が良いのかな?

 

「ええっと……ではアルベド殿は使節団の団長として来られており、これはなかなかに重要なお役目だと思うのですが魔導国においては、どの様な地位や立場に就かれておいでなのでしょうか?」

 本来は隣国の地位とかは知っていないと駄目なんだが、何の情報も流れてこないからな……。

 

「この身は不遜ながらも、アインズ・ウール・ゴウン魔導国における階層守護者および領域守護者、全統括という地位を頂いております」

「えっ?」

「解りにくかったですわね……そうですね。アインズ様――ゴウン魔導王陛下の次席たる、守護者統括という地位に就かせて頂いているというべきかしら?」

「なるほど、そうでしたか」

 

 おいおい と云う事はデミウルゴスとかシャルティアよりもお偉いさんじゃないか!? 

 ゲームで見たこと無かったから少し気を抜いていたようだ。

 

「はい」

 

 にっこりとアルベド殿が微笑む。

 月夜の様な神秘的な美しさがすぐ近くで爆発する。

 

 ――――だから俺は、口を滑らしてしまったのだ。

 

「そ、そうですか、魔導国の次席とは凄い地位であられるのですね」

 

「ふふ (あるじ)の足手まといにないようにするので精一杯で御座います」

 

(あるじ)――――モモンガさんは御健勝であらせられますか?」

 

「――――ええ 御健勝であらせられますわ」

 

 その時、目の前の美しい人の金色の眼の瞳孔が縦に広がり俺を捉えた。

 そして、どこから出しているのか解らない低い声で俺の眼を覗き込みながら問う。

 

 

 

「――――ところで………何故、オマエは、そのいと尊き御名前を知っている?」

 

 

 

 ダイナマイトに火を点けたのは俺だった。

 

 

 

 白い美女は下から上目遣いで、先程までとは違う狂気の笑みを見せながら、俺を指さして呟いた。

 

 

 

 

 

「見つけた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――暗転――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












団栗504号様 誤字の修正を有難うございます







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