黄金の日々   作:官兵衛
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死の抱擁

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 暗い。

 

 暗い。

 

 暗い。

 

 眼の前が真っ暗だ。

 

 ……あれ? 寝ていたのか?

 

 暗いのは当たり前だ。(まぶた)を閉じていたのだから。

 

 おかしいな……ここは何処だ?

 

 寝ていた訳ではないのに意識が混濁する。

 ここは……先程まで居た建物の一室だということに気づく。

 

 確か、魔導国の使節団のアルベド団長と話していて……それから彼女の目が怪しく光って?

 

 あれ?体が動かない。そして少し痺れている。

 声も出な「ふがーふがー」少し出た。猿ぐつわ?をされているようだ。

 

「うふふふ 気がつきましたかしら? まさかあの様な低位魅了(チャーム)で完全魅了されて言いなりになるとは思わなかったのですわ」

「ふがっふがー」

「こんな形でプレイヤーが見つかるとは思わなかったものですから、準備不足で失礼致しました」

「ぶふーぶふー」

「お優しいアインズ様ならお止めになられるかも知れません。もしくはお気に病むこともあられるでしょう。やはりここは妻たる私が手を汚すべきかと思うのです」

 

 凄いな……これっぽっちも話を聞いてくれない。

 俺は大きな机の上に寝かされて手足を縛りつけられているようだ。

 

「まあ隣国の王子を消したことがバレれば戦争が起こるかも知れませんが……幸い会場の人々には貴方が私を誘ったところを見せておりますので、最悪でも無理矢理襲われたから正当防衛で撥ね除けただけなのに言いがかりをつけるとは何事か?とでも言って、不満を国ごと踏み潰せば良いだけですし」

 

 あれ? 突然、俺と国の危機!?

 こんなに、ぬるっと一国が滅ぶことがあるのだろうか?

 

「ぶかっふが────!?」

 

 俺は必死で抵抗をする。しかし手も足も動かない。

 

「まあ その前に色々とお聞きしたい事も御座いますので……」

 

 ご、拷問!?

 

「ブレインイーターに脳みそを食べてもらうとしましょうか。ちょうど良いのを呼んであるのよ?」

 

 拷問でお願いします!なんでも喋りますから!やだ!俺は豚であって猿じゃないんだ!

 

「────アルベド殿」

 

 突然、新しい声が聞こえた。誰だろう?

 

「────あら、パンドラズ・アクター?」

「いやはや、アルベド殿から御報告を頂き、過去に彼のことを調べた資料などを漁ったのですが……もし仮に、彼が本当にプレイヤーだったとしてもアインズ様の障害とは成りえない存在ですぞ?まずはアインズ様に御裁可を頂くべきではないかと」

「うふふ。でもいつか、そうなるかも知れないわ?例え小さな石ころでも、それに(つまず)く可能性があるのでしたら排除すべく動くのが妻としての努め──」

「その様な石ころに躓くアインズ様ではありますまい……夫を信じるのも妻の務めでは?」

「あらイヤだわ?パンドラズ・アクターったら!くふふ」

 

 バシンバシーン!と丸太が岩に当たるような大きなツッコミ音が聞こえる。

 すげえなあアルベドさん。あんな顔してゴリラみたいなパワーだ。

 

「ふはは ちょっと痛いですぞぉ?アルベド殿ぉ……ところでアルベド殿、ギンヌンガガプは持ってきておられぬのですか?」

「持ってきてないわ。アレはギルドの秘宝の一つよ?必要とされる場面でもない限りは大切にしまってあるわ。早くタブラ・スマラグディナ様に変身し……」

 

「なるほど。安心いたしました。『──────だ、そうです』」

 

 

 

 

 

 

 

  さんがしゃしょくずー

 

 

 

 

 

 

 遠くで、昔見た青い猫型ロボットのセリフのように、随分と間の抜けた言い方で、そんな言葉が聞こえた。

 

 

 

「……これに囚われるということはワールドアイテムは持ってないようだな」

 

 突然響いた新たな声に体がビクリとする。

 

 周囲に先ほどとは違って、黒い障壁のようなものが張られた気がする。さっきまで居たアルベドさんたちの姿は見えない。

 代わりにローブに包まれた人物の姿が遠目に見える。その人物がパチンと指を鳴らすと、魔法なのかスルスルと俺の手枷足枷が解けていく。

 俺はアワアワと猿ぐつわを取って起き上がり、目を凝らして黒い影を見る。

 

「ふむ 間に合ってよかったな」

 

 そう呟く人物は、黒いローブに包まれて緑と赤のマスクで顔を覆い、そしてガントレットを着けていた。

 

 ────これはガゼフが言っていたアインズ・ウール・ゴウンの格好だ……それに、あのマスクどこかで……。

 

「嫉妬マスクだ!?これ!」

 

 その時、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという音とともに空間が歪んでいくのを感じた。

 

「ほう……何故このマスクの異名を知っている?」

「言ってないです」

「いや 言っただろ」

「言ったかも」

「早いな、(てのひら)返すの……」

 

 そう疲れたような声を出しながら、アインズ・ウール・ゴウンと(おぼ)しき人物は自分のマスクを手に取り、マスクに向かってブツブツと魔法を唱えた。

 マスクを取った顔は骸骨で、特徴のある顎のシルエットと近づいてハッキリした服装は、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターだったモモンガさんに間違いない。

 

「やはりな。鑑定魔法で調べたとしても、その異名は出てこないぞ?お前は一体どこでその名ま……」

 

「も、ももんがさん!?」

 

 

 妙に静寂な空気が流れる。

 

 まるでモモンガさんはあたふたとしているかの様な雰囲気を漂わす。

 そんな訳はないだろうけど。

 

「……ぇ!? あの、すみません!?お知り合いの方でしたか!? も、もしやギルメンの誰かか!」

 

 ガシッ!とモモンガさんが両手で俺の肩を掴んで揺さぶる。ん!?これは!?

 

「ぐっはあああ────!?なんか全身から力が抜けるふぅ~!?痺れるぅぅぅ!」

「ああ!? すみませんすみません!ネガティブタッチです!」

 

 申し訳なさそうにそう言いながら、モモンガさんは黒い空間からポーションを取り出す。

 

「ああ……これユグドラシルのポーションだ……懐かしい」

 

 その赤色のポーションを呑むと、すぅーっと体が回復して行くのを感じた。

 

「ふああ このポーション、こんな味だったんだ……」

「そうか……君は味が解るんだよな。羨ましい」

「え……」

 俺はモモンガさんの姿を見る。キレイな骸骨で、内臓は勿論、舌などの感覚器も持ってないようだ。

 

「で……そろそろ君が何者なのかを聞かせてもらえるか?」

「何者も何も、俺はリ・エスティーゼ王国第二王子のザナック・ヴァルレオン・イガ……」

「あー そういうのは良い」

「え、いや良いって言われても」

「……お前は、プレイヤーだな?」

「プレイヤーって何ですか? アルベドさんも言ってたけど」

「ええ……そこからか?」

「何のプレイヤーのことなんですか?」

 本当になんなんだ?

「ユグドラシル……このゲームを知っているな?」

「勿論です。毎日六時間はやり込んでましたから」

「俺と変わらないな……解る解る、面白いも……じゃなくて、前の世界……ユグドラシルでの君は何者だったんだ?ギルドは?キャラクター名は?」

「え?ユグドラシルでの俺?」

 なぜ俺のゲームでのキャラに関係が?

「ええっと、野良でタンクをやっていてー。クランは何度か入っていたかな……アレ?キャラの名前が思い出せない……」

「ん?初心者だったのか?」

「違うよ? 五年くらいやり込んでました。当然レベルも100だったし盾も良いの持ってたよ。無課金勢だけどそれなりに鍛えてたんです」

 

「レベル100?」

 

 そう言いながら俺の魅惑的なボディを見回し「どういうことだ?」と不思議そうに呟く。

 

「どういうことだはこっちのセリフですよ。なぜモモンガさんはゲームの中のキャラの姿でココに居るんですか? しかもデミウルゴスとかシャルティアも実体化しているらしいじゃないですか」

「いや……私としてはむしろそれがスタンダードな状態なのだが」

「俺はどうやらゲーム中に発作か何かで死んだみたいでさ。それで気づいたらこの世界でザナックって名付けられた赤ん坊で……転生って言うんでしたっけ?生まれ変わり?なんかそういうのでこの世界に居たんだけど、モモンガさんたちは何でゲームの中のキャラで……こっちに?」

「えっ ザナックさんって現実(リアル)で死んだの?」

「はい 多分」

「そうか……俺とは違う形でこっちに来たんだな」

「モモンガさんは?」

「俺は……ユグドラシルがサービス終了になって、その最後をナザリックの皆と迎えたんだが、何故かそのまま終了と共にこっちの世界に飛ばされていたな。ナザリックの周りの毒沼が無くなっていてビックリしたよ」

「ナザリックごと!?あと、ユグドラシル終了したの!?」

「え、あ、うん はい」

「あ、たっちみーさんとかも来てるんですか?」

 

 そう尋ねるとモモンガさんは寂しそうな顔をして「……いいや、私だけさ」と答えた。

 

「ところで、何故、ウチのデミウルゴスやシャルティアのことを知っているんだ?私の名前もだ」

「ええ……いや、モモンガさんたちって、自分たちがどれだけ有名人だったのか分かってないんじゃないですか?」

「えっ そうですかね?」

「ファンサイトも沢山あったし、大体どこの攻略wikiも運営の用意したラスボスじゃなくて、アインズ・ウール・ゴウンのことを『公式非公認ラスボス』として取り上げてましたよ。ワールドチャンピオンのたっちみーさんも所属していましたしね」

 

「ああ、いやあ」

 

 モモンガさんはポリポリと恥ずかしそうに頭を掻いている。この骸骨、照れてる?

 

「しかし……そんな不思議なことがあるんですねえ」

 ゲームの世界……あくまで電子のデーターが異世界で実体化している?訳わからんな。

「あなたも大概ですけどね」

 そうかな……転生と転移なら、転生の方が生まれ変わり論なんて昔の宗教の常套手段だから歴史は古いと思うんだけどな。

 

「しかし、NPC達までが転移して実体化するとは……なんなんでしょうね?でも、仲間が居るってことは寂しくないとも言えますよ。NPCは、ちゃんと配下という扱いなんですか?」

 

 俺はキラキラした眼でモモンガさんを見た。するとモモンガさんは複雑な顔をした。

 

「いや まあ……一人じゃない頼もしさは確かにあるのだがな……」

「ええ しかもアインズ・ウール・ゴウン製だから高レベルで強いんでしょ?」

「それが問題なんですよね」

「え?」

「強すぎるんですよ……あの子たち」

「強すぎる? でもレベル100のNPCってプレイヤーのレベル100と互角くらいでしょ?この世で英雄級と言われるレベル100の人間たちが立ち上がれば……」

「英雄級がレベル100?」

 

 モモンガさんは不思議そうな顔をする。

 

「えっ 確かモモンガさんと戦ったガゼフ戦士長などは冒険者組合からも「難度100相当の英雄級」と指定されていたと思うのですが」

「違うんですよ……難度100とユグドラシルのレベルは全く別物です」

「えっ ユグドラシルレベルと、この世界の難易度とは違うんですか!?」

「うーん ……今言った、そのガゼフが居るじゃないですか。いやもう居ないんだけどね。私が殺したので」

「はあ」

 

  今の……ジョークのつもりだろうか?

 

「彼がフル装備したら一応大陸最強と言われていたのですが」

「はい」

「……あれが ユグドラシルレベルで30ちょっと」

「はあ!? あんなに強かったのに!?」

「うん なんか、ごめん」

「レベル30なんてユグドラシルで、やる気になれば一週間くらいで到達出来ますよ!?」

「うん でね、ナザリックではワールドアイテムなどでギルドに作れるNPCの限度を上げているわけで。デミウルゴスなどの階層守護者だけでなくてね……六大神って知ってる?」

「はい 伝説の神話ですよね? この世界の」

 

「まあ あれってどうやらここに転移してきたプレイヤーのことみたいなんだけど」

「えっ そうなんですか!?」

「で、六人で世界を救えるくらい強い訳だが……ウチ、そのレベル100のNPCがゴロゴロいるわけで……」

「はい」

「あのね この姿と種族に引っ張られているせいか人間の心は結構薄れてきてるけど基本的な性格とか価値観ってそんなに変わってないんだよな」

「はい」

「あの世界で道徳教育と情操教育を受けて立派な大人になったザナックさんが、周りはみんなゴミみたいな弱い人ばかりの世界に行ったとして「ひゃっはー 皆殺しだあー!」ってなります?」

「いえ なりません」

「うん だよな 俺だってそうなんだよ。そりゃあアンデッドに引っ張られているから人間を殺すことに対して躊躇はしないんだけど」

「しないんだ……」

「ふふ すまないな……バケモノだよな」

 モモンガさんは寂しそうに自嘲気味に笑った。

「いえ 仕方ないですよ……人には立場もあればその時の状況もあると思います」

「ふふ まあ、それでも人間を殺す事を楽しんだり喜んだり望んでしたいかって言うと……まったくしたくないんだよな。別に残虐になった訳ではないから。カッツェ平野の時に凄いことになっちゃった私が言うのもなんだけど」

 

「はい」いや 本当にね。

 

「でね 彼らNPCってのは心底自分たちを作ってくれた我々ギルドメンバーのことを慕い盲信し狂愛しているわけだ。一体だけでも大変なのにかなりの数のレベル100の彼らに囲まれて彼らの望む支配者ロールプレイをやりながら、自分の身を守るために自分よりも賢く優れた部下に囲まれてさ……なんというか、こう……あくまで一般人だったハズなのに、突然、核爆弾を抱えて頭脳も残忍さも含めて世界を滅ぼせそうなのがウロウロしている狂信者を抱える新興宗教の教祖様みたいな立場に突然放り込まれたんだよ……正直逃げたい気持ちもあったんだ。でもナザリックが暴走したら確実に世界は滅ぶだろうし。実際、先日部下が「我々がきっと宝石箱をアインズ様に捧げます!」とか言うわけだが……その宝石箱がこの世界のことらしいんだよな。言っておくけど、そんなの欲しがったことないんだよね……勘違いと思い込みが、ただただ積み重なり続けていくんだよ……」

 

 あれ? この骸骨、愚痴りながら泣いてる?

 

「俺はさ。大好きだった仲間が残してくれたナザリックや子供達を守れればそれで良かったはずなのに、なんでこんなことになったんだろうなあ……」

 

 そう言うと骸骨が座り込んで頭を抱えだした。

 

 うん なんか、こう……。

 

「モモンガさんも……大変なんだな……」

 と呟いて、ぽんと彼の肩を叩い……うっぎゃあああああ――――!?

 

「あー もー 勉強しろよ!?」

「はあはあはあ 死ぬかと思った」

「君は俺が絶望のオーラⅠを出すだけで死にそうなくらい弱いんだから気をつけないと駄目だぞ?」

「え モモンガさんはレベル100なのに?俺はユグドラシルレベルでどれくらいなの?」

 

 モモンガさんは少し離れてブツブツと魔法を詠唱しているようだ。

 

「……………え?」

 

 えって何!?

 

「…………Level4…ゴミかな?」

 モモンガさんは耐えきれずに笑っているようだ。

「ええ!?今まで一生懸命鍛錬してきたのに……」

 俺はショックで涙目になる。

 

「あ、ええと……冒険とか実戦をしてないからじゃないかな?逆にトレーニングだけでレベル4とは凄いんじゃないか?うん、大したもんだ。チュートリアルだけでレベル4だぞ?スゴくないか?」

 

 この骸骨……すごく慰めてくれるな。

 

「まあ立場上、それは難しかったんです……あとチュートリアルをやり込みすぎですよね……俺」

「おい、目が死んでいるぞ。で、ザナックは……ユグドラシルではなく現実社会ではどうだったんだ?」

「そうですね……ユグドラシルをやっているという事は同時期の世界の住人だと思いますが、アーコロジー……54-は-6生活区域に住んでいました」

「えっ アーコロジー内か?いいなあー。俺は外暮らしだったよ」

 

 ……それはまたなんとも苦しい環境だったのだなあ。

 

「まあ コロニー内の最下層でしたけどね。名ばかり公務員で中・上流階級の下僕みたいなものです。両親や自分の仕事を鑑みると、随分と機械の歯車みたいな生活をしていましたね。結局、上の人達にとって我々はアーコロジー外に排除したいけど、すると不便になるから置いてやってる……という感じでしたね」

「……お互い、前の世界のリアルの話をすると心が荒むので、もう止めようか」

「はい 止めましょう」

 

 俺たちは二人で死んだ目で床を見つめていた。モモンガさん……赤い眼光でレイプ目になれるとか、流石ただ者じゃないな……。

 

「そういえば、俺、ナザリックに入ったことあるんですよ」

「え!そうなのか?」

 モモンガさんは非常に驚いたようだ。

「あの……どこかのギルドが主催したイベントで1500人のプレイヤーでナザリックに攻め込んだことがありまして」

「あー!初めて八階層まで突破された例の奴かあ。懐かしい」

「はい それで攻略wikiとかを読み込んでいたので、シャルティアとかデミウルゴスとかも覚えていたんですよ」

「なるほど。ふふふ」

「前々からアインズ・ウール・ゴウンには憧れていたけど、入会資格なかったし」

「え?」

「だから、参加すれば皆さんに会えるかな……と思いまして」

「や、その……そうだったんですか」

 ……やはり照れてる?

「実際に八階で生モモンガさんに会えて嬉しかったですけど……」

「いやあ ははは」

「でも、あの八階層のギミックは反則ですよぉ!」

「いやいや あの後、色んな所から叩かれて大変だったんです。運営にも報告メールが沢山いったみたいでヒヤヒヤしてましたから」

「あれは一体どういうことだったのですか?俺、タンクで最前列だったんですけど視野がブラックアウトして動けなくなりましたけど」

「ははははは まあまあ良いじゃないか。そこはそれ、防衛上の機密事項という事で」

「ちいっ 口を滑らせてくれたら、次の攻略の時に楽になると思ったのにぃ」

「……ふふふふふ」

 

 モモンガさんは何とも言えない顔をしてから、嬉しそうに穏やかに「────待ってますよ。楽しみにしながら、待っていますからね」と静かに呟いた。

 

 

「それよりも、部下達が君をプレイヤーだとして殺そうとするのを止めるの大変だったんだからな……」と愚痴られる。

 

 アルベドさんはモモンガさんの邪魔を排除するために、この世界のプレイヤーを片っ端から抹殺しようとしたらしい。だが、おれは正しい意味でのプレイヤーではあったが、この世界で言うところの神様と同義語で使うような存在ではない。過去の話を聞く限りは、ユグドラシルプレイヤーがチーム単位でこの世界の時間帯で100年ごとに飛ばされているらしい。中には俺のように明らかに向こうの世界の知識を持ちながら、何の力も無い者もそれなりに存在したらしい。そういえば、ラナーから聞いた時に気になったから調べてみたけど……ロミオとジュリエットやマクベスなどのシェイクスピア作品だった物が「ハイデルケン」という作者の物語として書籍化されてベストセラーになっている。誰かがこちらの世界に飛ばされて、本にして稼いだのかも知れない。しまった!俺も何か芸があれば一儲け出来たかも知れないのに!

 

「ところでモモンガさん」

「……いや、今はアインズ・ウール・ゴウンと名乗っているので『アインズ』と呼んで欲しい」

「解りました。アインズさん……王都で行方不明になった1万の国民を返して欲しいというのは駄目ですかね?今も生きていればですけど」

「駄目だな。私は部下に不要な虐殺は不快だと伝えてある。彼らはそれを忠実に実行しているはずなんだ。中には人が食糧である種族も居るのに、だ。一万人という人数を何に使っているのか、全部を知っている訳ではない。でも、彼らが私を信じてくれているように、私も彼らを信じているのだ。きっと我らナザリックにとって必要な犠牲なのだろう」

「そうか……子供だけでも何とかならないかな?子供だけ行方不明になった母親が可哀想なんだ」

「ふむ……いや現時点では駄目だな。実は我々は子どもたちは安全を確保した上で学校を作り教育を施そうという計画がある。しかし子供たちが……」

 

 そこまで話したアインズさんは「ガクッ」と顎を目一杯に開いて、驚愕の顔を見せてくれた。

 

「まて……そもそも我々と王都の事件の関係を何故知っている?」

「まあ、それはそれ、一身上の機密事項って奴で……ちなみに妹は関係ないぞ?むしろ妹に教えたのが俺だ」

「ふむ……」

 

 モモ……アインズさんは何かを考えているようだ。そもそも俺は、ラナーが彼らとどういう形で繋がっていて、どんな約束があるのかを知らない。

 

「すまんが……少しだけ記憶を見せてもらっても良いか?」

「え?そんなこと出来るんですか!?」

「ああ」

「ユグドラシルにそんな魔法有りましたっけ?」

「あるぞ……タンクだからって魔法を知らなさ過ぎるだろ?私はユグドラシルの魔法の殆どを網羅しているぞ?」

 

 へ、変態だ!変態が居る!? ユグドラシルの魔法って800とか1000とかそれくらいあったはずだぞ!……これが世界レベルのギルド長か。

 

「解りました。どうぞ覗いて下さい」

「うむ すまないな」

 

 魔法を詠唱しだしたアインズさんは、しばらく「むう」だの「ええ……」だのと呟きながら俺の記憶を覗いている。

 その間の俺はボンヤリとした状態で、どれくらいの時間が経ったのかは分からなかったが、アインズさんは「うむ 有難う。もう終わったぞ」と言った。

 

 アインズさんは何とも言えない顔で俺を見続ける。

 あれ? 何かヤバイ物でも見つかった?

 

「これがシスコンか……」

「誰がシスコンだ」

 

 俺は骸骨の胸骨に厳しくツッコミを入れる。バシッ ぎゃあああああ────

 

「……いや 本当に学べよ!?」「はいはい、ネガティブタッチ切ったぞ」 

 

 やれやれとため息をついたアインズさんは、俺の正面に立つと

 

 

「はあ──────」

「え?」

「ああああ――――居た」

「ん?」

「はははははは――――――居たなあ!」

「?」

 

 すると俺に近づいて肩を叩こうとした。思わず条件反射で俺はビクッとする。

「大丈夫だ。ネガティブタッチは切ってある」

 

 そういうと 何度も何度も両手で俺の両肩をパンパンパンパンと叩き続けた。

 まるで俺がここに存在しているのを確かめるかのように。

 

 

 そしてアインズさんは俺を確保しつつアルベドさんから守るために展開していたというワールドアイテム「山河社稷図」を収納する。

 すると先程までの異空間が嘘のように、元居た一室が広がる。そこにはアインズさんに五体投地で謝罪するアルベドさんと、それを困ったように見ている軍服を来た埴輪が立っていた。

 アインズさんはポリポリと顎を掻くと「もう良いアルベド。頭を挙げよ」と告げる。

「いえ!今回は私の独断専行のせいで、いと尊き御身に態々お出まし頂くなど守護者統括としてあるまじき失態!」

「よい。お前の全てを許そうアルベド」

「なんという勿体無いお言葉を!?されども、慈悲なるアインズ様の御心を煩わせたのは事実!であれば信賞必罰のお言葉通りにどうか私に罰をお与え下さいませ!」

 

 悲痛な声で美人が泣き叫ぶ……凄い迫力あるなあ。

 

「ンナインズ様ァ!アルベド様の想いを知り共に動いていたワタクシにも罰をお与え下さい!」

 

 突然、軍服埴輪もアインズさんに土下座をする。……この人、なんか今、発音が変だったような?

 

 君たち二人は気づいてないようだがアインズさんはずっとゲッソリした顔をしている……凄いな、骸骨なのに更にゲッソリ感を出すとか……流石アインズさん。只者ではない。

 

「……確かに独断専行の罪は重い……組織において報・連・相は何よりも大事だからだ」

 

 本当にその通りだ。ウチのラナー()何一つ報告も連絡も相談もしてくれんが。

 ……信頼されてないのかな?カナ?

 

「はっ」

「申し訳ございません」

「罰は(のち)に与えよう。もし明確な指示がなければ罰が無いのが罰だと思うが良い」

「はっ謹んでお受けいたします」

 

 ……わあ……ふんわりと誤魔化したなあアインズさん。

 

 なんでも、過激派のアルベドさんと志を共にしつつも「アインズ様の意こそ大義である」と考えていたパンドラズ・アクター(軍服の埴輪の人)はアルベドさんの暴発を防ぐために敢えて同志となり動いていたらしい。そして今回ようやく見つけたプレイヤー()を始末しようとしたところを俺の事を洗い直して、殺さねばならない危険性はないと判断したパンドラズ・アクターがアインズさんに相談し俺を救ってくれたというのが事の顛末らしい。

 

「では我が名に於いて宣言する。このザナックは私の知人である。これよりは作戦などに微調整を加えて、彼を害することのないように」

「し、しかしアインズ様……」

「私は彼の記憶を覗かせてもらったが、彼に嘘はなく、彼が我々の脅威になることはないし、これまでの事件にも関与はしていない。解ったな?」

「ははっ」

「その……出来れば我が国への迫害も止めていただければ……」

「ふむ。確か、これ以降にリ・エスティーゼ王国をどうにかするという予定は別に無い……ハズ。ただ八本指はこちらで握らせてもらうが、まあそう無茶なことはさせない様にしよう」

「えっ あいつら壊滅してないの?」

「壊滅したのは一部の支所と実働部隊だけだ。首脳陣は完全に掌握している」

「黒粉の流通だけでも何とかしてほしいんですが」

「ふむ まあアレは人を滅ぼし国を腐らせるからな……我々としては別にリ・エスティーゼが滅びるよりは良き交易相手になってくれる方が嬉しい。無論、王子様は色々と便宜を図ってくれるんだろう?ふふふ」

 

 そう言ってアインズさんは不敵に笑った。

 

「くそう 悪の首領が板についてるじゃないか」

「ふははは! では後はアルベドに任せるぞ。ゆくぞパンドラズ・アクター!」

 

 アインズさんは黒い穴の様なものを空中に開くと、その穴に入っていった。……あっ!今の転移魔法のゲートか!

 

 ……ふう、なに気にこの世界で一番命の危機に晒された瞬間だったな。

 

 ……そして前の世界の同郷人に会えた。

 

 俺は隣で「あともう少しだったパンドラ潰すあともう少しだったパンドラ殺す……」とブツブツと呟き続けているアルベドさんを横目に見つつ、絶対に無いだろうと思っていた、前の世界の仲間に出会えたことに身悶えするほどに歓喜して顔を紅潮させ、ホッと肺から息を吐いた。

 

 気づいたら一時間近く、主賓と主催者ナンバー2がパーティから姿を消している状態だったので、俺は険しい目で床を睨み続けるアルベドさんを促し、二人で会場にコソコソと戻った。

 しかし、主賓が長時間も姿を消すというのは流石に大きな事態であったらしく、会場は異様な雰囲気に包まれており、そして移動しているところを先程のフィリップとかいう馬鹿が「あっ アルベド殿ぉ!?王子と二人っきりで何を!?」と素っ頓狂な声をあげてくれたお陰で衆人環視の中に晒されてしまった。

 そしてそれは思った以上に大きな波紋を起こすこととなった。

 

「おいおい……ハーレム王子が魔導国の使節団団長とお楽しみだったようだぜ」

 

 ……え?

 

「王子の権力で他国の使者を……下衆王子め!なんてヒドイことを!」

 

 ……ええー

 

「えっ衆道王子って両刀使いだったの!?」

 

 おい 最後の、おい。

 

 隣から煙るような殺気が立ち込め、アルベドさんが金色の瞳を赤褐色にしつつ真っ赤な顔で「……殺す。絶対に殺す。お前を殺してから皆殺しにする。もしくはこいつら全員を死刑にしなさい。そしてオマエも死ね。どちらかを選びなさい下等生物」と怒りに震えながら尋ねてきた。

 

 

 

 ええ……なにその斬新な二択(ルート)。行き着く先が一緒(バッドエンド)ですよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
    




 
 
みそかつ様 粘土a様 くろにゃな様 asis様 消音様 誤字脱字の修正を有難うございます







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