黄金の日々   作:官兵衛
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汚された日

 

 

 

 

 

 

 

  あの、色々あったパーティが終わり、無事にアインズ・ウール・ゴウン魔導国との国交交渉が済んだ。

 ひとまずは隣国としての体裁を整えられたハズだ。まあ、でも普通に考えれば王子が殺されそうになった大事件があったはずなのだが、それは勿論知る必要のないことだ。話が拗れて得するものは誰も居ないのだから。

 

 そして、ある日の貴族会議の時に突然父王が「ところで……バルブロが行方不明になって久しいのう。そろそろ我々も一度区切りをつけねばならないと思うのだが」と言い出した。

「もう半年ほど経ちますしね」

「さすがにいつまでも次期国王後継者を空位にしておくのも王政府としては宜しくないかと」

「いえ 私は兄上が無事に帰還されることを信じておりますぞ」

「カルネ村も魔導国に編入されましたから捜索も出来なくなりましたしね」

「私はそもそもバルブロ様に国王の荷は重いと思っておりました」

「あれ? 俺の声って誰にも聞こえないの?」

「幸い、次期候補に心当たりも御座いますし」

「うむ 最も脅威になるはずの魔導国の女大使と良い仲になるという手練手管は頼もしいですな」

「男も魔族も手当たり次第ですな……頼もしい」

「いやいや、それがハーレムを作るために娼館を潰しまくったという噂も……頼もしい」

「よし おまえら表へ出ろ。『頼もしい』と最後につければ悪口がチャラになるシステムなど無いという事を体に教えてやる」

「わ、私は切れ痔でして……どうかお許しを!?」

「私はタチですが、よろしいですかな?」

「よろしい。意見も出尽くして煮詰まったようだな……」

「父上、何処が煮詰まっていると?全く煮詰まってないですよ?まだ煮汁がドボドボですよ。あと、一人ヤベーのが居ます」

「では、正式に第二王子ザナックを、次期国王第一継承者として指名する。また、儂も老齢でありアインズ・ウール・ゴウン魔導国という古い世代では対応が困難な隣国が出来てしまった。ここは我が息子ザナックによる新しい感覚を発揮してもらうために『暫定王』として徐々に執務を取ってもらうつもりだ」

「!? 父上! わ、ワタシは!……むぐぅ!?」

 突然背後の衛兵が俺を羽交い締めにし、口を塞ぐ。そして右側の貴族が俺の右腕を、左側の貴族が俺の左腕を掴む。

「ふっむぐぅふうあー!?」

 

 なんか、最近もこんな目にあった気がするんだが!?

 

 そして父王がピラッと出した「暫定王承諾書」には、すでに俺の筆跡を真似て書かれたサインがされており、そこに「ぐぐぐっ」と俺の人差し指が近づけられていく。

 

 ぐぅおお────押してなるものかああああああ────!

 

 違う貴族が俺の親指を、ぴっとナイフで傷つけて血が流れる。

 なんだこの連携プレー!? おまえら練習しただろ!

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」俺は必死で抗う。誰か助けて下さい!今、ここで人権が潰されています!

「押ーせ!押ーせ!押ーせ!」のコールが周囲の貴族から挙がる。なんだこの貴族会議。

 

「むぐうむぐう!」

 

 ぐりぐり あっ ……血判をサインの脇に押してしまった。

 

 貴族たちは顔を見合わせてサムズアップをしあっている。父上も満足気に頷いている。

 そんな和気藹々とした歓喜の中で、唯一俺は泣きながら床に倒れ込んでいた。

 先程、俺を羽交い締めにしていた衛兵が近づいてきて

「……犬にでも噛まれたと思って忘れてください」と優しくハンカチを渡してくれた。

 

「ぐふっえふっ……ぐ、ぐれてやるう──!」

 俺はそう叫んで泣きながら会議室を飛び出す。

 ドアの脇に立っていた衛兵の一人が「殿下!?どうされたのですか!」と驚いていた。

 しかし、もう一人の衛兵が何かを知っているのか彼の肩を叩いて首を振った。

 彼の親指は赤い朱印が付いていた。……貴様が練習台か。

 

 

 

 俺は泣きながらラナーの部屋に辿り着く。

 ラナえも~ん!

「どうされたのですか!?ザナック様!?」

 クライムが心配そうに俺に駆け寄ってくる。

「クライムぅ~」と俺は泣きながらクライムを抱きしめる。

「クライムを離しなさい、駄兄(だけい)

 ラナーが後ろから俺の両耳の穴に人差し指をゴスッと突き立てる。

「はぐふっ!?」

 中国の暗殺者かなんかかオマエは!?

「なんで家庭内暴力をコンボで受けにゃならんのだ!?」

「一体何があったのですか?ザナック様。今朝は貴族会議では?」

「事件は会議室だけで起こってるんじゃない!この現場でも起こってるんだ!」

「なにを仰っているのですか? お兄様」

 ……ぐぬぬ。しれっとした顔で、この酷妹(ひどうと)め。

 

「聞いてくれ……第一継承権……次期国王に正式に指名された……しかも暫定王として執務に就き始めろって……酷いんだよ。あいつら!嫌がる俺を無理矢理……ぐすん」

 クライムとラナーはキョトンとした顔をしている。「それが?」という表情だ。

「いやいや、君たちね。あれだけ王様に成りたくないと言っていた俺が強制的に『暫定王』に就任させられたんだぞ?可哀想じゃないか!ザナックが!」

「いえ、ザナック様。バルブロ様に御不幸があられた以上、こうなるのは当然だと思います。それにザナック様は市民にも親しまれており、暫定王への就任は、きっと最近の暗い世情の中で明るいニュースとなりましょう」

「それに父上も、もう60を越えて御高齢であらせられますし、いつまでも第一線で働いてもらうのではなく、そろそろ安養の時を暮らして頂くのが子としての忠孝の道ではありませんか?」

「ラナーに人の道を説かれるとか……ぷっ」

「……」

 ラナーは自己紹介で「犬をハンマーで殴り殺すのが趣味です!あは!」と言いそうな転校生の眼で俺を見る。おかしいな……ここに犬は居ないはずなのに。ある意味、『炎の転校生』よりも『炎の転校生』だよオマエは……。

 俺は、いつラナーが『国電パンチ』を放っても大丈夫なように本棚を移動する。

「どうしたんですか?ザナック様」

「いや……踏ん張りが利かないようにな……」

「この兄はまた変なことを……ふう、クライム。お兄様は混乱してお疲れのようです。紅茶の用意をしてあげて下さい」

「はっ 解りましたラナー様。ではザナック様。お気を確かに……」

 クライムは自ら紅茶を入れてくれるために部屋を出て行く。

「……」

「……」

「お兄様……アルベド様がお怒りでしたが何をされたのですか?」

「えっ アルベドさんと会ったの?」

「はい パーティの後に」

「うわはあ 悪巧みですか。悪巧みですね」

 俺はジト目でラナーを見た。

「どうしたのですか?私の靴を煮詰めて呑みたそうな顔をして」

「してないよ!妹の靴を柔らかくして飲み干すという最新の性癖を備えた記憶はねえよ」

「まあ 二人きりで居たことを仲良くしていたと勘違いされて不愉快ということでしたが」

「あれはどう考えても俺のせいじゃないよ。というかそもそも俺を攫ったのアルベドさんだぞ!?ひどいな!」

「ふふ どうもお兄様がアインズ様と仲良くされていたことへの嫉妬も含まれているのではないかと」

「えっ ……おまえ一体どこまで知っているんだ?」

「まあ 憶測が多いのですけどね。ヘタに探ろうとして、あの方達に勘ぐられでもしたら台無しですし」

「アインズさん会ったことは?」

「ありませんよ? アルベド様にお会いしたのも今回が初めてでしたし」

「そうか……アインズさん、触れると死にかけるから気をつけるんだぞ?」

「……なるべくお会いしないままでいたいですわね。その御様子ですと異世界人同士で(よしみ)を結べたようですね」

「異世界人か……それは少し違うと思うんだけどな。俺は(いち)からザナックをやってるつもりなんだけどな」

「彼らは、体ごと異界から来たのですね?」

「……少なくとも、以前に俺がオマエに言った推測は大体合ってたよ。なんでそうなったのかは彼らにも解ってないようだったけど」

「なるほど……ではアルベド様からお預かりした魔法道具をお渡し致します」

「え?」

 ラナーは、引き出しから高さ20㎝くらいの変わった形のハンドベルのようなアイテムを取り出した。

「これは2個で一組のアイテムで、もう片方はアインズ様がお持ちです。片方を鳴らすと相手のベルが光るというだけのアイテムなのですが、他にも色々と使い方はあるみたいです」

「ふむ……で、どうしろと?」

「アインズ様がお兄様に御用の際に光るので、準備が出来ればこちらのベルを鳴らし返せとの事です。後はお兄様がアインズ様に御用の際に使用すると来て下さるとか?」

「ふーむ」

「この様な特別なアイテムを下賜されたので、よりアルベド様が悋気(りんき)されあそばれたのではないでしょうか」

「流れ弾じゃないか……おっとお茶が入ったようだな」

 ドアをノックしてからクライムがティーセットをワゴンに乗せて部屋に入ってくる。

「まあ 有難う。クライム」

「いえ 美味しく入っていれば宜しいのですが……」

「最近、クライムの紅茶の腕がめきめき上がっていてな」

「そんな事ありませんよ、ザナック様」

 俺たちはクライムの紅茶を頂く。今日はアカシアのハチミツだ。美味い。

 

「ふふふ でもお兄様、パーティではアルベド様のお美しさに貴族の方々も呆然自失とされておられたとのことですが」

「まあ、確かに美人だったな。白いドレスが良く映えて……色気が……もう」

「お兄様もアルベド様を嫌らしい目で見惚れていたと、参列者の中でもっぱらの噂でしたわよ?」

「ああ いやオマエくらいに可愛い人が他にも居るんだなってビックリしただけだよ」

「はい?……え!?」

「まあ タイプは随分違うけどな。オマエが太陽の様な眩しさだとしたらアルベドさんは月の様なシットリとした感じで……」

「ちょっ……、あの……その」

「どうしたんだ?」

 ラナーの顔が赤くなっている。いかん、攻撃色だ!

「ちょっと待て。大丈夫だ。いくら綺麗だからってアルベドさんに心奪われて傀儡政権などにならんさ。オマエのお陰で美人には慣れてるんだ」

 俺は言い訳をしながら。ラナーとの距離を取る。

「~~~もう! ちょっと!クライムったら何をクスクスと笑っているんですの!」

「あははは! ラナー様、そんなに御自分の手の平でパタパタと顔を扇がれても効果がないのではないでしょうか?わたくしが扇子を持って参りましょうか!」

「まあ!クライムったら意地悪ね!誰に似たのかしら?」と俺を可愛く睨む。

「オマエだよ」と俺は「ドーン」と指でラナーを指した。

 

 

「……お二人です」クライムが真顔で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 




Sheeena様 誤字脱字修正を有難うございます







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