黄金の日々   作:官兵衛
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ハチミツ王ザナック

 

 

 

 

 ふうふうふう。流石にこんな時間まで仕事をしていたら目が(かす)むな。

 

 首をゆっくりと回すと「グキゴキゴキ」という有り得ない音が首と肩から聞こえてきた。

「くそっ 白人は肩が凝らないから『肩こり』を現す言葉が無いって聞いたことあるけど、すっごい凝ってるじゃないか……」

 

 おかしいな……父上も勿論多忙ではあったけど、こんなに忙しい感じじゃなかったぞ?

 しかも俺には名宰相のレエブン侯が付いているというのに……?

 

 あれからも時々アインズさんが来て、お互い愚痴り合うんだけど、アインズさんも「俺はアンデッドだから大丈夫だけど、世間の支配者ってこんな重労働とストレスを続けてたら早死にすると思うんだが?」と不思議そうに言っていた。本当にそうだ。そもそも儀式的な物に日中の多くの時間を取られすぎだろ。誰々が就任するというと挨拶、辞めるというと挨拶、他国からの使者に挨拶、大商人に挨拶、教団関係者にも挨拶……挨拶!挨拶!挨拶!うるせえ!1日に何回「うむ、大儀である。これからも宜しく頼むぞ」と言えば良いんだよ!?こちとら部下が働いているのに自分だけ仕事をサボるとか出来ない質なんだよ!伸びゆく労働時間に、本当に労働基準監督署を作るべきじゃないだろうか?と真面目に考えてしまうが……間違いなく一番始めに摘発されるのは王政府で、俺だな……なんだそのギロチンを発明した人みたいなオチ。

 

 もー 疲れた。しかし、こりゃ確かにラナーに王をやらせなくて良かったなあとも思う。あんまり不眠とストレスでクマと吹き出物顔のラナーとか見たくないものな。

 

「父上も60歳にしては老けているなと思っていたが……ごめんよ。そりゃボロボロになるわ」

 

 

 リ・エスティーゼ王国は魔導国との国交を結び交易を始めた。といってもまずは民間と貴族個人を主体としたやり取りだ。

 

 そして、レエブン候の元であらゆる改革を進めて、各国が魔導国の動きに注視している間にリ・エスティーゼ王国はスリム化されて腐敗した部分の除去にゆっくりとではあるが成功しつつある。本当にレエブン候にお願いして良かった。一度「俺の代わりに冠を被ってみては?」と尋ねたが、「家臣が成り上がると、せっかく鳴りを潜めた野心家共を起こしてしまいます」「これ以上忙しくなったら子供と遊べません」「魔導王と会いたくないですし、リーたんが将来骸骨の生贄になるかと思うと……」という3つの理由で断られた。

 そして遂に、ラナーとレエブン候とも相談した上で父ランポッサ王に禅譲してもらい、暫定王が外れる時が来た。

 

 まさか、俺が王になる日が来るなんてなあ。本当になるのか?嫌だなあ……ラナー代わってくんないかなあ……代わってくれないよなあ。暫定王の時点で辟易しているのだが……。

 どうしても嫌ならペスペア候(彼は王の娘婿なので継承権がある)とかに譲る方法もなくはないのだが……魔導国と上手くやっていかねばならないことを考えたら、きっと俺が王になり、アインズさんとの同郷であることを存分に利用して、その慈悲に預かるのが一番いいのだろう。少なくともラナーは俺がデミウルゴスの名前を呟いて、俺がアインズさんと同世界人の可能性を疑った時からそのルートも選択肢に入れていたのだろうな。これは(てい)の良い生贄ではないだろうか?

 

 戴冠式を終え、正式なリ・エスティーゼ王となった俺の最初の仕事はアインズ・ウール・ゴウン魔導国との強固な同盟だった。

 交易に関する税の軽減と、交流に関する利便性の向上。そして何よりもアンデッドによるプランテーション計画に必要な領土の貸し出しと軍事同盟の締結をした。

 後世には「国土を他国に売り渡した愚王」とのそしりを受けるかも知れない。しかし相手は国の1つや2つ鼻息一つで滅ぼせる力を持っている隣国なのだということを考慮して頂きたいものだな。

 また、軍事同盟に関しては、基本的に現在のリ・エスティーゼ王国は攻められることはあっても攻めることは殆どない国なのだ。理由は現時点がすでに目一杯に手を広げきった状態で、これ以上の支配力がウチには無い事が挙げられる。土地が肥沃で広大であるのに比べて軍隊が数を頼みにするしかないほど脆弱なんだよな。まあ肥沃で豊かだからこそ兵が弱くなるのかも知れないが、この辺りは地政学の分野になるのかな?まあ、この軍事同盟は攻めるときは手伝わないけど攻められたら助けに行くね?という同盟なので、普通に考えて魔導国が攻められることは考えにくい。得体が知れなさすぎるのと王が計り知れない強さであることだけが喧伝されているためだ。そして魔導国がどこかに攻めても手伝う必要はない。王国がどこかに攻める予定はないが、攻められる可能性がある。

 攻められた場合は魔導国が守ってくれると考えれば有り難すぎる盟約だ。まあ、魔導国としてはリ・エスティーゼ王国が売られた喧嘩を買った上で、売りもとを襲う大義名分が出来るくらいに考えているのかも知れない。アインズさんがではなく、その下僕達が。

 ……もちろん魔導国の王がアンデッドである。という事を理由にスレイン法国やアーグランド評議国などから何らかのアクションが起こる可能性はある。状況によっては条約の改正や、むしろ魔導国に従属させてもらって、魔導国が万が一負けた場合に帝国と一緒に「あいつらがやれって言ったんです」とか「あいつらが無理矢理……」という言い訳を取れるようにしなければならないかもな。……バハルス帝国はそれもあって、始めは魔導国の宗主国扱いだったのに彼らの下に潜り込んだのかも知れないな。凄く気持ちが解るよ。

 

 明くる日の朝、朝から「ふう……」と疲れて溜め息を吐く俺に

「お疲れさまです。ザナック様」と優しくクライムが紅茶を出してくれる。

 

 ああ クライムは俺を癒してくれるなあ……将来的には騎士団長か戦士団の戦士長に成ってもらうかも知れないな。すでに城兵の中では抜きんでた強さだと聞いている。

 

「お兄様にしては良く頑張っておられますよね。あら、王様と呼んだ方が良ろしいでしょうか?」

 

 そう言うとラナーは小悪魔のように悪戯っぽく笑う。その笑顔の可愛さにクライムは顔を赤くするが……騙されるな、そいつの本当の笑顔は性根の悪さが浮き出た大悪魔みたいな笑顔だ。

 

「王なんて呼ぶなよ。王なんて誰でも成れるが、オマエのお兄ちゃんは俺しか成れないだからな」

「いえ 王もそうそう成れませんよ……ザナック様」とクライムが困ったような顔をする。

「そうだな……オマエらが結婚して生まれた子供を王にしよう。そうしよう。早く結婚しろよ」

「まあ お兄様ったら!……式はいつにしますか?クライム」

「え!?いや、その……私がラナー様に相応しいとは……」

「まだそんなこと言ってるのか?オマエは! じゃあいつになったらラナーに相応しいと思えるようになるんだ?騎士団長か?伯爵か?王様特権で何でも叶えてやるぞ!」

「まあ お兄様、いつになく頼もしい……」

「…………です」

「ん? どうしたクライム?」

「ガゼフ戦士長の意志を継ぎ、仇を討てればです!」

 クライムは断固とした決意を秘めた顔で言う。

 なるほど。俺はラナーと顔を見合わせる。

「今の時代、結婚なんて形式だけの物だと思うんだよ、ラナー」

「そうね 形に縛られず、まずは同居して……子供が出来てから難しいことは考えましょうか?クライム」

 

 ……クライムが露骨に「この二人はやはり似ている……」という複雑な顔をした。やめろ、傷つくから。

 

「ところでお兄様……何故か国内の養蜂業が盛んになっているとの事ですが」

「ああ……まあ、理由は解っているんだ」

 あからさまに話を変えたラナーに乗って俺はそう言うと数枚の書類をラナーとクライムに見せる。

「上納目録……ですか?」

「ああ 俺への貢ぎ物に食品がやたら多いんだよな……父上の時代に比べると。特に目立つのが……」

「……ハチミツ……ですわね」

「どうも市井では俺はかなりのハチミツ好きということになっているらしい」

 無論、嫌いではないが好物という程でもないのだが、なぜだ?

「恐らく私に就いていたメイド達から噂が広がったのではないでしょうか? 例えば皆それなりの家のお嬢様だったりしますから、「王宮務めをされていたお宅のお嬢様に、ザナック王への贈り物のアドバイスを……」などと話が行けばハチミツに関しての逸話がいくつかありますしね」

「なるほど」

 

 ふむ……つまりラナーが悪いと。

 

「ザナック様……上納された多くの御馳走を片っ端から御食べに為られているようですが、体に障りますので程ほどにして欲しいと典医が申しておりました」

「確かに前よりも丸くなられましたね。お兄様」

「そ、そうかな?」

 

 俺はドキドキしながら自分の体を見渡す。

 

「はい。それに最近は忙しくて以前のような鍛錬は出来なくなり運動不足にもなっております。どうか御自愛下さい」

「お兄様……いっそ運動を兼ねて街道周辺の魔物退治を護衛の元オリハルコンの方々と一緒にされればどうでしょうか?」

「元・冒険者とか?うーん」

 レエブン侯の奨めもあって、俺も護衛の兵に元・オリハルコンの冒険者チームを傭ったのだ。これにならってか、金のある貴族の中には元・冒険者を護衛に雇う者達が増え、はからずも「オリハルコンまで登れば貴族に高給で雇って貰えるぞ!」と冒険者の中でモチベーションがアップしている要因になっているらしい。

 正直、ユグドラシルのプレイヤーだった俺には魅力的な言葉だ。しかし俺は弱いぞお?王としては危険なことに身を晒すのはなあ……。

 

「クライムも着いていってあげなさいな。なるべく弱い敵を相手にすれば、元・オリハルコンがバックアップに着いて下さっているのですから安全ですわよ」

「はい!私がお守り致します」

「……解ったよ。確かに良い運動になるだろうしな」

 

 昔の将軍も鷹狩りとかしてたって云うもんな。しかし、どうやって空高く飛んでいる鷹を狩ったんだろうな?……銃だな。うん。もう火縄銃が伝来していたものな。

 

 そして元・オリハルコンの護衛にお願いして「初めての冒険」という栞を作ってもらい、俺はユグドラシルで慣れたタンクとして大盾を持って魔物の攻撃を防ぎながらシールドで殴る「シールドバッシュ」を使いつつ、俺の背後からクライムが飛び出して攻撃し仕留めるという方法で弱い魔物を中心に狩りをした。確かにストレスの発散にもなるし運動にもなる。なによりも、やはり冒険は楽しい。

 ユグドラシル時代の様にミッションだとか未知を求める探究心は刺激されないものの、実践である緊張感と、現実であることの生々しい匂いはそれ以上の充足感が体と心を満たしてくれたのだ。

 

 

 

 

 

「いやあ……良いものですね。冒険ってのは」

「ふふふ そうだな。解るよ」

 

 俺は定期的に開かれるアインズさんとの秘密の会合で冒険について熱く語っていた。

 

「アインズさんもこちらで冒険を?」

「ああ 冒険者となって暴れたものだ。ギガントバジリスクとかは中々歯応えがあったな」

 

 ……あれ?凄腕のマジックキャスターの冒険者の噂なんて聞いたことあったかな?

 

「そうなんですか?」

「ただ、サクサク倒せすぎてつまらないけどな」

「……いえ、すっごく大変なんですけど」

「あ ごめんごめんレベル4だもんな!はははは」

「良いんですよ……ゲームは序盤が一番面白いんです」

 

 悔し紛れに言った言葉だったが、アインズさんは「確かにな!」と何度も頷いてくれた。

 

「ところでザナック、渡したいものがあるのだが」

 

 そう言うと、アインズさんはボックスを開いて、大きな板の様な物を取り出し……!?

 

「こ、これは!」

「以前に聞いた名前でパンドラズアクターに捜させたらすぐに見つかってな」

 

 アインズさんが渡してくれたのは、俺がナザリックに攻め込み、返り討ちにあった時にドロップしてしまっていた愛盾『ヨルトゥムの嘆き』という名のタワー・シールドだ。色は灰色に白枠という地味な色彩で、形も高さ100㎝・幅80㎝で長方形で特になんて事のない長方形の形の大楯だが、俺は本当に気に入っていた。あるボスキャラを倒したときに、そのボスを守っていた騎士からドロップしたアイテムで実は割とレアな盾だったりする。

 

「わあ……これは本当に嬉しいよ!アインズさん!」

「ふふふ そうだろそうだろ」

 

 俺は喜んで『ヨルトゥム』を構えてみ……る?ん?アレ?

 

「どうしたんだ?ザナック?」

「おかしいな……荷物として持っている時は大丈夫なんだけど、盾として持ってみると決定的にバランスが取れない……これじゃ力が入らないし実戦で使えないよ!?」

「ふむ……ちょっと待て」

 

 アインズさんは何かの魔法を使い盾をじっと見ている。

 

「あ 解った」

「なんなの?」

「この盾、防具レベル68で、プレイヤーレベルが50以上無いと装備出来ない設定だわ」

「設定!?設定!そんなのあるんですか!?この世界にも!?」

「いや、ユグドラシルからキャラクター設定のまま直接来た我々と違って、君の場合は記憶以外は原住民と変わらないはずだ。恐らくバランスを取ったりが非常に難しい盾で、現時点では、その盾を扱う熟練度や力が足りないということなのだろう」

「くっ残念です……」

「まあ そのうち装備できるようになるかも知れないし飾っておきなさい」

「そうですね。国宝にしますよ……あ、何かお礼とかしたいんですが……ってウチにある物でアインズさんが欲しい物なんて無いですよね?」

「ううむ……ガゼフのレイザーエッジとかはコレクターとしては欲しい気もするが、同盟国の国宝をもらう訳にもいかないからな」

「食べ物もアインズさん要らないですしね……美味い物ばかりなんですけどねえ。御賞味頂けないのが残念です」

「……」

 アインズさんは「おまえ、食い過ぎじゃね?」という責める目で俺の腹を見てくる。

「ああ そうだ……従属国も出来たし、ドワーフの国とも国交を開いた。なかなか統治というものは難しいのだ。もちろんデミウルゴス達は良くやってくれているし不満は無いんだが……なんというか、こう……な。何か支配者としてのアドバイス的なものとかないか?」

「ナザリックの支配者が凡人に何を言ってるんですか?」

「いや オマエも生まれながらの王子様だろうが!?帝王学とかちゃんと受けて育ったんだろう?本当はジルクニフにそういう事を聞きたかったのに、あいつの俺への距離の取り方が凄いんだよ……」

 

 まあ、大量の核兵器を抱えた死神が「仲良くしようよ」とフレンドリーにハグしてきたら、普通の人はそうなるよな……。

 

「まあ、帝王学と言っても大したことはないのですが……そうですねえ。あ、リアルの世界でのテレビ番組で『水戸黄門』ってあったじゃないですか」

「ああ、うん。老人向けらしいから見たこと無かったけど、あったね。もう20代目くらいの黄門様なんだったっけ?」

「はい、あの黄門様のモデルになった水戸光圀公の言葉で「年貢を取るときは女とするようにし、少年とするようにしてはならない。女との場合は双方とも気持ちいいが、男との場合は一方が喜んでも相手は苦痛なのだ」という名言がありまして。俺は為政者という者は、例え偽善者でも良いから、支配されている人々が快く義務を果たしてくれる環境を作り……どうしたんですか?変な顔をして?」

「いや……情報は本当だったのか……いやいや俺は差別なんてしないぞ、うん」

 

 アインズさんは何やらブツブツ呟いている。

 

「アインズさん?」

「……うちにダークエルフの子供が居るのだが」

「え?あ、はい……ナザリックの中ボス……階層守護者でしたっけ?ダークエルフの双子ですよね」

 

 アインズさんが指先をパチリと鳴らすと目の前に1メートルほどの円形のモニターの様な映像が現れる。

 映像には、昔、戦ったことがある気がするダークエルフの双子が映っている。

 

「どうだ?」

 

 ……どうだ?ってどういう意味だろう?ナザリックの子らを可愛がっているアインズさんによる子供自慢なのかな?ふふふ、レエブン侯のところで子供自慢には慣れているのですよ?アインズさん。

 

「そうですね……お二人とも非常に可愛いと思います」

 

「その……どちらが好みだ?」

 

 好み? ……あ、もしかしてアインズさんも俺が男色家だとかいうゴシップを信じて……全くもう。根も葉もない噂だというのに。

 

「勿論、このスカートの娘……タレ目垂れ耳でとてもキュートですね。なんとお可愛らしいことか!大きくなったらお嫁さんに欲しいくらいです」

「」

「アインズさん?」

「……さすがに見る目がありますなあ……ザナック殿は。あとウチの子はあげませんので」

 

「……何故、急に敬語で?」

 

 アインズさんはローブで自分の骨身を隠しながら少し震えていた。

 

 

 

 

 それから、アインズさんと会話する時に距離が少し離れた気がする。主に肉体的な意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 




残りは一気読みして頂きたいため、まとめて、もしくは連続の投稿になります。
お読みになる時は、話数にお気をつけ下さい。
次の題名は『もえる聖王国』です。目次の確認を宜しくお願いいたします。




高間様 ぽん吉様 対艦ヘリ骸龍様 誤字脱字の修正を有難うございます







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