黄金の日々   作:官兵衛
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逢魔が時

 

 

 

 

 

 

 

『――――ということであり、病気での死亡からの蘇生は生命力を使い果たしているせいか、成功例は少なく、また、一時蘇生に成功しても数瞬で再び永久の眠りにつくことが今までの研究により明らかにされております。

 また、回復魔法などは外傷には効果が望めますが、病気に関しては殆ど効果がありません。これは病などにより歪められた状態を、身体にとっての正常(当然)な状態であるという情報が身体に刻み込まれているのではないか?いうのが現在での学会の主流で御座います。むしろ薬師による薬草などで、じっくりと療養して頂く方が効果的であるという意見が、皆の見解で御座いました。どうか陛下におかれましては、御自愛されますよう……』

 

 俺は国一番と云われる教団の回復師に出した手紙の返事を読んで丸めると、手紙をゴミ箱へと放り込む。

 

「つまり、細胞レベルで病気の情報が刻まれているから異常を異常と身体が判別しないので魔法で病魔を取り除けないってことだよな」

 まあ確かに細胞なんて新陳代謝で身体が丸ごと入れ替わるのに六年かかると言われているが、六年経ったら同時に全ての病苦から解放される訳じゃない。事故で喪失した腕や足が六年で生え替わることもなければ、体の傷が六年で消え去るわけではないからな。

 

 細胞は覚えている……か。

 

「忘れてくんねえかなあ」と愚痴り、ベッドから起きあがろうとするが力が入りにくい。

 ふうふうふう。

 ちなみに魔法使いなどは別らしい。現代風に言うと、自分の細胞の一つ一つにマナを送り込んで修復や活性化が出来るらしく、戦士などの英雄は普通に死ぬけど、魔法使いの英雄と言えるフールーダーやリグリットが250歳という年齢になっても生きているのは魔法の才能の賜物とのことだ。魔法の才能が「0」の俺にはどうしようもないな。

 

 

 

 ふう。俺が王になってから数年が経ち、意外とリ・エスティーゼ王国の状況は悪くない。だけど、断じて俺が優れていた訳ではない。これだけは確かだ。

 まずはカッツェ平野の大虐殺による貴族派を初めとした18万もの死。そして、八本指の黒粉や犯罪を大きく減らすことが出来たこと。何よりもアインズ・ウール・ゴウン魔導国との関係が全て良い具合に噛み合って今に至ったのだと言える。

 まず、あの戦いにより多くの支配者階級を削減することが出来た。もちろん同時に多くの被支配者階級も失うことになったが、それも含めて新陳代謝が強制的に図れたという言い方も出来る。つまり……これはかなり冷酷な計算であるのは理解しているが、あの戦争において「何も生み出さない」人々が実に効率よく削減された上に、我々が魔導国から穀物を格安で購入することにより、起こるであろう穀物の価格下落に伴う、農家の不況を初めから間引いて緩和させることが出来たとも言えるのだ。

 リ・エスティーゼ王国は大陸の中では本来肥沃な土地に恵まれた国として知られているが、内情を知れば無駄があまりに多く、当時のバハルス帝国の経済操作もありガタガタになっている部分が多かったが、本当に良く立て直せたと感心する。主にレエブン侯の手腕とラナーの献策によるものだが。

 

 ウチが魔導国の提案を受け入れた上に、更に国内の土地を貸し出しての大型プランテーションに取りかかると発表したときのバハルス帝国ジルクニフ陛下は、かなり懐疑的だったようだが、成功した時は「馬鹿な!?いや、まさか?そんな普通に?え?」と訝しがりながら悔しそうにしていたと聞いている。最近はすっかり、モグラ似の魔物であるクアゴアと親友になり仲良くしているという噂を聞いたのだが……大丈夫だろうか?昔から「○○と天才は紙一重」と云うからな……。

 

「お疲れですか?」

 ラナーが紅茶を入れてくれたようだ。

「ああ クライムはどうした?」

「クライムは騎士団の訓練に教官として参加しております」

「……そうか、クライムの剣は才能じゃなく努力で身につけたものだから、先生にピッタリだよな」

「それがそうとも言えないのですよ?」

 あれ そうなの?

「え 何故?」

「クライムは自分に才能が無いのを解っております。それを全て努力で克服した訳ですが……よく考えて下さいお兄様。『努力で全てを克服するほどの努力』という物を、普通の人間が出来るとお思いでしょうか?」

「あ……そうか」

「はい 努力が出来ること自体が、一つの恵まれた才能で御座います。なぜなら努力をし続けるにはその者の環境が大きく関わってくるからです」

「そうだな……頑張りたくても、やる気があってもどうしようもない場合もあるものな」

「はい。毎日1日15時間剣を振り続ければ到達出来る極地があったとして、家の都合や仕事のせいで時間が取れない者もおります。取れたとしても15時間剣を振り続けるだけの体を持たない場合も多いでしょう。そして何よりも一途に思い続けるためのモチベーションを保ち続けられる環境という物もあるでしょう」

「……クライムはオマエのために頑張ってきた」

「お兄様のためでもありますわ」

「……クライムに爵位を持たせるとしたら、どの辺りまで許されるかな?」

「……そうですわね。今の状態でしたら騎士爵は当然として男爵ならスグにでも成れますわね。手柄もありますし、無理をすれば子爵までならなんとか」

「子爵か」

 

 爵位は上から大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵という順だ。大雑把に言えばだが。

『大公』は王の伯父や王の分家などだが、今のウチには居ない。

『公爵』は王の兄弟がなることが多いが、アイツ死んでるからこれもうちには居ない。

『侯爵』は辺境伯とも言うのだが、本来は他国に接する国境地帯であるために軍事権や内政権を有している大貴族で、ウチは六大貴族としてボウロロープ侯やレエブン侯などがこれに当たる存在だったが、今は四大貴族に減っている。

『伯爵』は王と共に政治を為したりする者達で、ウチの大臣達もコレにあたる。王の直轄地などに派遣される場合も多い。

『子爵』は伯爵の補佐官で、レエブン侯が見出した多くの若い官僚達の各部門のリーダーや、大臣の補佐などが子爵に任命されている。

『男爵』は俺も前世で何度か聞いたことのある地位だが、要するに「領地を持つが家格が低い者」であり、現代風に言うと規模的にはある程度の独裁権を持つ町長さんだと思って欲しい。

 ちなみに宮中男爵という爵位もあり、これは先程の平の官僚達に与えられる爵位で、一代限りの爵位となる場合が多い。

『騎士爵』は読んで時の如く騎士のことだ。ただ騎士を名乗り馬に乗り武器を持つことを許可されたサラリーマンの様な物で、誰に仕えるかで随分と待遇は違ってくるようだ。

 

 ……王妹の降嫁には少し足りないな。

 王の妹だとか娘は普通は侯爵レベルじゃないと婚姻できないが……たまに有能な伯爵と結婚することもある。

 まあ いざとなったら強引に推し進めてやるさ。

 ラナーがクライムと結婚してしまえば、立場上はペスペア侯の所に嫁いでいる姉と同じ継承位になり妹の分、格落ちするからな。ラナーは王にならなくて済むはずなんだ。

「最低限の夢は守れるハズだ」

「誰の最低限の夢ですの?」

 あ 口に出してた。

「お兄様。私の夢は私の物ですし、雲のように移ろい行くものです。私の夢は私の力で叶えますわ」

「そうか……頑張れよ」

 

 ラナーは昔と変わらぬ蜂蜜色の髪を煌めかせて、目を閉じて少し笑っていた。

 

 相変わらず体調は頗る悪い。

 

 余程ラナーも気になったのか、一月ほど前から何度か「私の計算間違いでした。ここまで『王』という職業が兄さんを縛り殺すかのごとく苦しめるとは思っても見なかったのです。お兄様は、もっと自由で無責任な方では無かったのですか?……私が王を代わりましょう。どうか解放されて下さい」と真剣な顔で言ってきたことがある。

 

 しかし……王になってみて解ったが、王になんてなるもんじゃない。

 プレッシャーとか、ストレスとかで過労がとんでもない仕事だぞコレ。

 まあ……仕事というか地位だけど。

 幸いラナーは女だから、俺が生きている限りは暫定王などに任じられることは無いはずだ。俺が動けるウチにクライムと結婚させて……そうすると王位継承権はペスペア侯に移るはずなんだ。

 もう少しだ。

 もう少しだけなんだ。

 俺が生きている間はラナーは自由だ。

 

 

 ……だから、うん お兄ちゃんは頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









病死の場合は蘇生魔法では生き返らないと捏造設定。



みすた様 鎮東大将軍様 物数寄のほね様 誤字脱字の修正を有難うございました







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