黄金の日々   作:官兵衛
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事件の勃発

 

 

 

 

 

「そのような不確かな情報で動くことが、そもそも陛下の威信を損なうというのに、更に国宝である装備を着用していくなど!」

 でっぷりと太り年老いたイブル侯爵は唾を飛ばしながら、国境付近で出没する賊の掃討を願い出た『戦士団』の戦士長を激しく糾弾する。この議場に本人は居ないが、議題に載せた陛下をも批判しているように聞こえる。

 

「それの何がいけないのだ? あれは私が戦士長に与えた物であり、彼は国の剣である。彼に危害が及ぶことがないよう国宝の装備をして赴いてもらうべきであろう」

 白髪に白髭……齢60を越えたリ・エスティーゼ王国の国王である、父・ランポッサ三世の擁護は真っ当な物であるように聞こえるが、貴族派の者にとってはそうではないらしい。言外に「平民に国宝を預けた王への無配慮」を責め、そして王が庇えば庇うほど、今度は王派から「御自身が見出した平民への偏愛」が目に付くと思わせるように議論を誘導している。

 

 だが、そもそもはエ・ランテル周辺区域での賊か何者かによる村落への連続襲撃事件への対策が問題なのであり、『戦士団』の派遣と、その軍備についてのみ焦点が当てられて議論されるのはおかしくないだろうか?

 

「父上。発言を御許可頂きたいのですが」

 

「おお ザナックよ。発言を許可しよう」

 

 俺は普段、この様な席では殆ど発言をしない。父上や進行役から意見を尋ねられたときに応える程度だ。そんな珍しい俺の挙手に父が戸惑いながらも発言を促してくれた。

 

「場所が気になりますね。カッツェ平野からエ・ランテル周辺の村が襲われているという話ですが……バハルス帝国とスレイン法国との接地面であります故、ただの賊ではなく、かの国からの威力偵察や挑発行為である可能性も低くはないかと思われます。イブル侯爵はそんな挑発などに乗って国益を損ずることを危惧されているのではないかと」

 

「そ、その通りです! いやあザナック殿下は良く解ってらっしゃる」

 

「今回は魔物ではないためにエ・ランテルの冒険者組合に動いてもらうわけにはいけませんが……エ・ランテルが駄目なら、近隣のエ・ペスペルや、エ・レェブルから兵を出して頂くわけにはいかないのでしょうか?エ・ランテルは重要な都市です。その近隣の村が荒らされるのを手をこまねいて見ていては王政府へ疑念が増えるばかりでしょう。そうなるとただでさえ苦労しているパナソレイ殿が身も細る思いをすることになるでしょう」

 

 議場の貴族達は「ぷひーぷひー」と言いながら汗だくになっている丸々と太ったパナソレイを思い浮かべて「はははは」と笑い声が広がった。

 

「どうでしょうか?もともとあの辺りは、我々が平民に開発を丸投げをしてしまった開拓村たちです。人手が足らない上に危険な区域でもあります。こういう時くらいは王政府として彼らを保護するべく兵を出し、村を要塞化し連絡網を構築致しましょう。そうすれば今回だけでなく永続的に賊や魔物から村を防ぐ手助けになり、村の発展に貢献する事が出来るでしょう」

 

「しかし……ザナック様、平民のためにそこまでしてやる必要がありましょうか?」

 

「なんなら兵士から希望者を募って、期間限定で屯田兵として村の負担にならない人数の兵士を駐屯させてみては如何でしょうか? 兵士には村落の農家の次男三男が多く()りますし、農業は手慣れたものでしょう。彼らに村の周囲に堀をめぐらし、柵を作り、急を報せるための狼煙台(のろしだい)などを設営し、そして賊に襲われたときは籠城しつつ粘り強く戦い、狼煙で周囲の村に駐在する屯田兵に知らせて救援に集合して包囲させれば内と外からの挟撃になりますので撃退するのも可能かと。屯田兵の居る間に村の開拓事業も進むでしょうし、ひいては税金として国家の利益に繋がりますしね。我々にとっては微々たる徴収でも民が受ける恩恵は多いのではない……」

 

「お前は!一体何の話をしているんだ!!」

 

「え?」

 俺が話している最中に、急に怒鳴り声が聞こえた。

 

 公衆の面前でどやしつけられるというのは前世を含めて初めての出来事だったので、俺は心底驚いて呆然とした顔で怒鳴った相手──バルブロを見た。

 

「今は緊急事態なんだぞ!! 何が屯田兵だ! この愚か者が!」

 

「いえ、しかし賊の次の襲撃が本当にまだ続くのか、続くとしたら、いつ、どこに来るのかも分からない状況ですし、それならばいつ襲われても大丈夫な状態を作り出しつつ、民にも国にも恩恵がある方法を愚考致したまでですが」

 

「そんな時間はないと言っている!」

 

 ? なんだコイツ? まるで賊とやらが、すぐ来るのを知っている(・・・・・)みたいなことを言うじゃないか。

 

「ならばすぐに近隣のペスペア候とレエブン候に兵を出してもらいましょう。それほど賊の襲撃が近いのでしたら、手弁当で良さそうですので兵站の心配もなさそうですし」

 

「駄目だ。軍隊行動は会戦への呼び水になりかねない。ここは『戦士団』に動いてもらおう」

 

 もちろん『戦士団』は王国最強と言っていい部隊であり、小規模で機動力を活かせば国の損害も少ないうちに賊を追えるだろうし、なにより金がかからない。しかしそれは王派閥の都合でしかない。貴族派(彼ら)の狙いはなんだ?

 

「さよう ここは『戦士団』の出番かと思います。ただし見た目は軍事行動と思われないように、平服で、そして少人数で動いてもらうべきです」

 

「それに敵地近くでの争いですし、何かの拍子に国宝である装備が敵に渡るのを阻止したいですな」

 

 その時は我が国の宝である戦士が死ぬということじゃないのか? 装備があれば格段に生存率が高くなると思うのだけど。

 こいつらの狙いが分からん……権力を握ろうとする予定の国を弱体化してどうするんだ? バルブロは第一継承者で黙っていても王座が転がってくるのに、王権に揺さぶりをかける必要があるのだろうか?

 

 

 

 結局『戦士団』の派遣が決定された。『戦士長』が望み。陛下がお認めに成り。反王派の妙な横槍はあったが予定通りと云える。ただし戦士長は平服に近い装備しか許されず、剣も国宝レイザーエッジの帯刀は許されなかった。

 会議が終わり、俺はイの一番に議場から外に出て、廊下を歩き出した。先程の俺の発言は頓珍漢な物だったらしく、あの後は一度も意見を求められなかった。

 

「むう恥ずかしい……」

 勇気を出して発言したのに見事にから回ってしまった。

 でも、それでも……俺は遣る瀬無い思いを、床を睨みつけて歩きながら呟く。

「……平民の利益と我々の利益がイコールで繋がっているのが理想の国家なのではないだろうか? 平民が苦労すればするほど、貴族(上に立つ者)が得をするという国家の在り方は絶対に歪みがでてくる。それじゃ、あの世界と一緒だ。そして、その歪みはいつか国の崩壊へと繋がるのでないだろうか?……まあ王政なんてどのみち長続きしないだろうしなーあああっ!?」

 

 顔をあげると目を見開いて驚愕しているガゼフ戦士長が俺を凝視して立っていた。

 そうか!戦士長の身分では今日の貴族会議への参加はおろか、出席も認められてはいない。しかし、市井の出である彼が、無辜なる民を助けたいという思いから父上に出撃を願い出たという話は聞いている。恐らく会議の行方をやきもきしながら議場の外──廊下をウロウロとしていたのだろう。そこをブツブツと物騒なことを言いながら王子が歩いてきた訳だ……そりゃ驚くよね。

 

「えーと……聞こえた?」

 

 ガゼフはしどろもどろという言葉を全身で表現しつつ、「う、あ、そ、その……あの」と言葉を喉から出すことに失敗していた。

 

 あーうん 聞いてたね。よしよしうんうん。反応がさあ……。

 

「ふう────おや!? ガゼフ戦士長じゃないかっ!? いつも俺のクライムがお世話になっております!」

 

 突然の俺のセールスマンの様な口調による仕切り直しに「えっ」と一瞬戸惑ったあと彼は武人らしい立て直しを見せてくれた。

 

「いえっとんでもありません!彼の手ほどきは趣味でやらせて頂いているだけです。あの様な若者の成長を手助けることほど楽しいことはありませんからな」

 

「ああ……クライムは可愛いからな。解るよ」

 

「……やはり噂は」

 

「ん 何か言った?」

 

「いえ ザナック様にこのようなことをお尋ねして申し訳ないのですが、エ・ランテル周辺区域への出兵の件はどうなりましたでしょうか」

 

「それは君たち『戦士団』に任せることになったよ。後に正式な辞令があるだろう」

 

「はっ望むところであります!」

 

「しかし、残念ながら装備も兵士数も充分な状態で赴かせてはあげられないようだ。父も頑張ったんだが……申し訳なく思う」

 

「いいえ大丈夫です!そういうのは慣れておりますのでね」

 そういうとガゼフは自信有り気に微笑んだ。やだ。いい男。

 

「おお……ガゼフか……」

 振り返ると父上が侍従とともに廊下に出てきた。ガゼフは「では失礼いたします」と俺に敬礼をすると父上の方へと歩いていった。

 

 俺は城の廊下を歩き続けて、途中のバルコニーに出ると、外の空気を大きく吸い込む。本当にこの世界の空気は美味い。タダで良いなんて、すごい贅沢だよなあ……。

 

「おい ザナック。おまえさっきの会議での発言は何なんだ?」

 

 突然、聞きたくない声がすぐ近くで聞こえた。半身で振り返ると我が兄バルブロが苛ついた顔で俺に詰め寄ってきた。図体がデカイのでなかなかの迫力だ。

 

「ザナック お前、なんかやたらとラナーと仲良くしてるらしいじゃねえか?あん?このシスコン野郎が!」

 

 ラナーと仲が良い……なんて怖いことを言うんだ。この兄は。

 

「なんだその妹好き(シスコン)と、あの悪魔(いもうと)と仲が良いという恐ろしいパワーワードは?」

 

 次に会うのは法廷になるぞ?

 

「なに訳わかんねえこと言ってんだ? 見てくれは良いけどあんなお人形さんみたいな奴と、良く仲良くやれるぜ」

 

「ラナーは良い子……ではないな。まあ可愛い……くもないな。でも人形なんかじゃないぞ?兄上。 むしろ色々と脳内がグルングルンに回転している面白い奴なんだ」

 

「ふん さっきのお前の小賢しい献策もラナーの押し売りだろ?」

 

 それを言うなら「受け売り」だ。

 しかしラナーが押し売りか……あながち間違ってはいないな。あいつにいつも俺の寿命や良心と引き換えに何かを売りつけられている気がする。

 

 ……それ悪魔じゃん。

 

「いや 俺の思いつきだよ。悪……ラナーならもっと良い案を出すさ」

 

 あと人道的に酷い案も出すな。何処かの村に餌を用意して敵を誘き寄せ、村人を蹂躙しだしてから村ごと燃やすとか。

 

「ハ!お優しいことだな!良いか? 王の娘なんてのは政治外交の体の良い道具でしかないからな? かと言って姫様だから下手な貴族とかに嫁がせるのも難しい。まあボウロロープ候の息子の嫁にでもとっとと出してやるのが良いだろう。王家とボウロロープ家が強く結ばれるのは良いことだからな」

 

「まてよ、ボウロロープ候の所は兄上の姻戚なので口幅ったいが、あそこの息子さんは不器量で有名じゃないか!?兄上はラナーの兄なんだから、もう少し妹のことを考えてあげてく……っ!?ぐふぅ」

 

「うるせえよ オマエ。何さっきから囀ってんだ? 俺は次期国王様だぞ?」

 

 突然バルブロに殴られた。くそう。体力だけはあるからな……コイツ。

 

「お前らが影で俺のことをバカにしてるのなんて知ってんだよ!」

 

「げふっ」

 

 倒れた俺を、バルブロは重ねて蹴り上げる。

 

「父上はもう耄碌(もうろく)されている。俺が兵権を握ったら大貴族と共に国を大きくしてやるよ。俺にいちいち逆らうんじゃねえぞ」

 

 そう言い捨てたバルブロは俺を最後にもう一度おまけの様に蹴って去って行った。

 

「あー痛え。……「鍛えといて良かったシリーズ」に、こんなのが加わるとはな」

 俺はスックと立ち上がると、服についた汚れをパンパンと払って、颯爽とザナックハウスへと立ち去った。せめてもの強がりだ。まあ、門の所で俺を待つ従者に「背中に足跡 が……」と言われてしまうのだが。

 

 

 

 

 

 

 







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