「さあ……クライム。脱いでくれ」
俺は期待に満ちた目でクライムの体を見つめる。
「はい……ザナック様の御意志なれば」
クライムの表情からは緊張と恥じらいが感じられる。
続けて服の擦れる音が微かに聞こえる。
「……触っても……良いか?」
「は、はい」
俺とクライムの仲でも、こういう機会は余り無い。
「ふふ……凄いな」
俺は指先をクライムの肌に這わせる。
「っ……く、くすぐったいです……ザナック様」
……はあはあはあはあ。
「おおう 流石クライム。こんなに成っているとはなあ」
「ザナック様……恥ずかしゅう御座います……」
……フーフーフーフーフー。
そういって顔を羞恥に染めるクライムを俺は可愛いと思ってしまった。
っていうか、
「そのドアの隙間から覗いているのは誰だ!」
そう言って隙間の空いたドアを一気に開けると、ラナーが「はあはあはあはあっ」と荒い息を立てながら凄い顔をして鼻血を出していた。
……なんて顔をしてるんだ、ウチの黄金は……黄金なのか?
「ラ、ラナー様!?」
恥ずかしそうに叫んだクライムは、俺に見せてくれていた鍛え上げられた腹筋を隠すために、シャツを一気に下ろすと向こうを向いてボタンを填め始めた。
残念な妹を見ると「尊い……」と言いながら何かメモを取っていた。
「どうしたんだ?
「ふうふうふう……。 これはお兄様。奇遇ですね」
「え!ここ、俺の部屋なんだけど!?」
「二人が私を置いて男同士で結ばれる……なんでしょう。この
やめろ。なんだその業の深い眼は。
「なんだろう。こいつ、もう手遅れなんじゃないかな……」
「いけません……ザナック様」
クライムは哀しみに溢れた眼で俺の肩を掴む。
「で、どうしたんだラナー?」
鼻血を拭き終えたラナーは、歪んだ顔をクライムに見せないようにしながらムニムニと自分で顔の皮膚を弄ってクライム達の前用の『輝ける黄金の姫』モードへと移行する。毎回思うが本当に器用だなコイツ。
「どうしたのではありません。お兄様、その顔の傷は何ですか?……バルブロお兄様とケンカを為されたとお聞きしましたが本当なのですか?」
ラナーは耳が早いな……まあ、ケンカというか一方的に殴り倒されたんだけどな。そう言うと直情的なところもあるクライムが憤ってバルブロを襲うかも知れんから、一応「兄弟ケンカをしただけだ」と言ってある。鬼のような鍛錬を続けるクライムは、すでにバルブロよりも強い。
「いや、あの馬鹿なんだけどさ」
「はい。バルブロ兄様がどうされたのですか?」
「……いや、あの知性と教養を全て母親の体に忘れて生まれてきた残念すぎる奴の事なんだけどさ」
「はい。バルブロ兄様がどうされたのですか?」
「よし、うん……バルブロが俺とオマエが仲が良いのを妬いているのか、自分が王になったらとっととオマエをボウロロープの息子の跡継ぎあたりに嫁に出すとかって言ってたので文句言ったら殴られた」
「……へえ。オフザケが過ぎるようですわね」
「だろ? 全くあの馬鹿兄貴は」
「私がお兄様と仲が良いとか本当に勘弁していただきたいものです」
「えっそこ!? やべえなんか泣きそう……」
「まあ王族の婚姻なんてそんなものでしょうが、それでも……ですね」
「すまんな。俺に力があったら、オマエとクライムを何とかくっつけてあげたいんだけどな」
「そっそんな!? 畏れ多いことで御座います!」
と、突然話を振られたクライムが顔を真っ赤にして首を振る。
「まあ、どこへ嫁いだとしても、
「あれ? 今、クライムをペットみたいに言った?」
「言ってません」
「むしろオマエが
「お兄様ったら……うふふ」
痛い痛い痛い。クライムから絶妙に見えない角度で足を踏むな。
「ところでラナー。少し気になることがあるんだが」
俺は会議でのあらましをラナーに聞いてもらった。色んな選択肢の中で『戦士団』の派遣に妙に貴族派が拘っていたこと。不自然な装備への注文。彼ら賊は何者なのか?
「そうですね……何処かの村に餌を用意して敵を誘き寄せ、村人を蹂躙しだしたら村ごと燃やせば済む話です」
「一字一句ぅ!?」
「はい?」
「いや……さすがラナーさんは鬼だなと」
「冗談です。そんな穴だらけの作戦が上手く行く訳ないじゃありませんか」
冗談なのは、きっと村人ごと皆殺しのことじゃないんだろうな……。
「ええっとだなあ……そもそもただの賊なのか? 執拗に村を燃やしているところなど、妙な箇所がいくつかあるんだ。
「そうですわね……賊ではないのではないでしょうか。お兄様。思い出せる範囲で誰が、どう発言したのかを教えて下さいますか?」
「あ、ああ」
俺は思い出せる限り一から話した。
一通り聞き終えたラナーは「はあ」とため息混じりにつまらなさそうな顔をした。
「リステニア政務官はブルムラシュー侯の犬です。そしてブルムラシュー侯はバハルス帝国と繋がって居るわけですが、バハルス帝国側の利益を考えれば、彼のこの発言はおかしいですね。むしろスレイン法国が絡んでいるのではないでしょうか」
「えっえっ、ちょっと待って……ああ、うん、ごめん続けてくれ」
俺が話の腰を折った瞬間ラナーさんが面倒臭そうな顔を見せた。ここは先を進めてもらおう。ブルムラシュー侯がバハルスに通じていると云うショッキングな発言は大いに気になるが。
「貴族派の多数はスレイン法国と繋がっております。スレイン法国は大国であり、かの国を後ろ盾にしたい貴族派にとっては当然のことでしょう」
「法国のメリットは?あそこは特殊な国で俗な理由では動かないと思うのだが」
ええ……その話も気になること山のごとしなのだが、俺はラナーのやる気を削がないように話を流す。
「はい。法国は六大神が作った国で、ある一方において未だに行動理念が昔と変わっておりません。それは『人類の守護者たらん』というものです。少なくとも表向きには。しかし今は『人類悪の除去』という名目で、異形種などに対しての迫害だけではなく、人類を滅亡へと導く可能性がある物に対しても陰で動いている節があります。彼らからすればリ・エスティーゼ王国とは腐敗の進んだ『人類の病巣』の様な存在でしょう。ここでガゼフという王の切り札を殺せば、貴族派の台頭に繋がりますし、そうなれば均衡が崩れ、王国の崩壊の手助けになります」
俺は呆然とラナーを見た。そんな剣呑な状況なのか!?
「貴族派にとっては王の切り札が死んで万々歳という訳です。自分たちが王の代わりに指導者の立場になりたいだけでしょうし、スレイン法国は麻薬の蔓延しつつある王国を見捨てつつあり、スレイン法国に巨大な借りのある新政府が出来れば、これから色々と自分たちの動きが楽になるでしょうしね」
黒粉とか黒薬という麻薬が裏社会に広まっているとは聞いていたが、そんなに酷い状態なのか……貴族の間では縁がないせいか実感していなかったな。くそっ。
「……今からレエブン侯に兵を出すように頼めないだろうか」
「朝議で決まったことを無視して勝手に大貴族に兵を出されるように指示する……ペスペア侯など王位第三、第四継承者達の喜ぶ顔が浮かびますね」
「下手すりゃ反逆罪に問われるか……せめてガゼフに助言だけでも」
「ガゼフ戦士長と戦士団は、もう昨日出立されました……」
クライムが苦しい顔で俺に報告する。
「くそっ、スレイン法国の罠の可能性が高いということは、ガゼフを待ち伏せているのはスレイン法国の兵ということになるな」
「はい あそこは恐ろしく強い特殊部隊をいくつも抱えておりますので、そのどれかが出てくると厳しいでしょうね」
「それでも、ガゼフ様は経験豊かな歴戦の戦士であり、近隣国最強の剣士であります! 何とか無事にお帰り下さるはずです」
クライムは悲壮な顔で哀しげに訴えた。ラナーは「そうね……クライム。共に祈りましょう」とか言ってクライムの手を取った。いやオマエ、戦士長のことなんて微塵も思ってないだろ。なに自然にクライムと手を繋いで、見えない角度で「でへへ」とダラしない顔をしているんだよ。
はあ……スレイン法国の特殊部隊が関わってるならマジックキャスターとか居るだろうし、俺の案が採用されたとしたら、村ごと焼かれただろうな……。危なかった。
「クライムには申し訳ないが、戦士長が駄目だったときのことを考えないとな……」
俺はガゼフという好感の持てる人物の顔が頭に浮かび、思わず手を握りしめてしまう。ああいう人は失くしたくないのに……。
しかし、その心配は無駄になった。良い方向で。
一週間ほどして、戦士団の数は大幅に減らしたものの、ガゼフ戦士長は無事に任務をやり遂げて帰ってきたのだ。その彼の御前報告には参加出来なかったが、戦士長の無事を純粋に案じていたクライムを連れて戦士団の宿舎の方に会いに行ってみた。
「これはザナック殿下!? こんな汚いところへわざわざお越しに成られてどうされたのですか?」
ガゼフは逞しい体に肌着を着ていただけだったので、俺への失礼になるかと考えたらしく「ちょっと制服を取りに部屋を出てもよろしいでしょうか……」と小声で尋ねてきた。
「戦士長……そういう儀礼的な物は無視してくれて良い。俺にとってアナタは父を守る守護神であり、国が誇る切り札なんだ。畏敬の念を抱いている相手に自分がたまたま王子という身分に生まれたというだけで、ことさらに儀礼を重んじ、しゃちほこばられても身の縮む思いだ。友人のように……とまで言うと、寧ろ無理強いになるから、せめてもう少しだけ胸襟を開いて付き合わせて欲しい」
戦士長は、「これは……過分な評価を……」と言いながら俺の言葉の真意を測るかのように戸惑っていた。しかしクライムの表情をチラッと確認して、俺がどのような人間かを判断しおえたのか、安心したように「解りました。では私のことはガゼフとお呼び下さい」と言ってくれた。
「ではガゼフと遠慮無く呼ばせてもらう。俺のこともザナックで良い。さて、この度は任務遂行、誠に
「……恐らく国家機密になると思うのですが、第二王子であるザナック様ならば、遅かれ早かれ知ることになる情報だと判断してお答えさせて頂きます。本来クライム君は下がってもらった方が宜しいのですが、ザナック様が後にクライム君に漏らされるのであれば一緒ですしね」そう言うとガゼフは髭の中の口を歪ませて男臭く、ニッと笑う。
「ああ、頼む」小気味の良い返答で助かるな。
「各地を賊が襲い回り、なかなか我々が行った先ではすでに襲われた後ばかりという体たらくでした。ようやくカルネ村にて賊に追いついたのですが、そこにはすでに賊を撃退してくれた凄腕のマジックキャスターが居ました。賊の着ていた鎧はバハルス帝国の物でしたが、どうやら中身はスレイン法国の者だったらしく、カルネ村の外でスレイン法国の『陽光聖典』という特殊部隊が私を待ち伏せていました」
やはりラナーの推理通りスレイン法国の手の者だったのか!?
「彼らは召還魔法の術者の集まりであり、残念ながら戦士団は壊滅状態に陥りました……が、カルネ村を救ったマジックキャスターが私どもを救って下さり『陽光聖典』を撃退して下さったのです。ですが、その時すでに私は安全区域に転移させられた上に意識不明の状態だったので、どのような戦いがあったのかは測り知れません」
「そうか……無事で何よりだが……スレイン法国の特殊部隊を撥ねのけるとは、凄いマジックキャスターが居たものだな」
「その方を王国で傭うとか出来ないかなあ」
「難しいでしょう。実は勝手ながら我が国に勧誘をさせて頂いたのですが、ゴウン殿に
「そうか……残念だな。……ゴウン殿?」
「はい 彼の御仁は名前を『アインズ・ウール・ゴウン』であると名乗られましたので」
……アインズ・ウール・ゴウン。
……アインズ・ウール・ゴウン……アインズ・ウール・ゴウン……だと?
そんな馬鹿な、そんな馬鹿な!?そんな馬鹿な!!
アインズ・ウール・ゴウン……を俺は知っている。
当時、不思議な名前だと思って、名前の意味を検索して調べた思い出がある。
名前に法則性はなく、創設時は、違う意味のある名前だったのを、後にドイツ語やオーストラリアの標語などを組み合わせて作られた名前だと後で知った。
そう、つまり「偶然」とか「たまたま同じ名前」だとかは、ありえない名前のハズなんだ!
何故、この世界で突然その名前が出てくる……っ!?
『アインズ・ウール・ゴウン』
……それは、かつての俺が『ユグドラシル』の中で、1500人の仲間と共に攻め込んだ事もある有名なDQNギルドの名前だった。
ウルタールの猫様 鶴嘴様 粘土a様 タクサン様 骸骨王様 so~tak様 誤字脱字の修正を有り難う御座います