黄金の日々   作:官兵衛

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 流石に捏造オンパレードじゃないとユグドラシルのシーンはどうしようもないですよね?


アインズ・ウール・ゴウン

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 転がっている石を見つめる。

 大きめの石を蹴ってみると、「コツン」と音を立て美しいモーションで10メートルほど飛んでいく。

 もっと小さな石を見つける。

 慎重に足の位置を確かめて蹴り上げる。

 しかし、石は足先に当たることもなく、転がることもなくそこに在り続ける。

 いや、正確にはそこに石がある訳ではない。あくまでCGとしての存在だ。

 

「この石の大きさからは判定が無いのか……」

 時間潰しに、そんなことを今更確かめた俺は満足そうに顔を上げる。

 いつもと同じ曇り空、雲の形もいつも通りだ。

 

『DMMO-RPG Yggdrasil(ユグドラシル)

 2126年から配信されたこのゲームに数年遅れで参加した俺は、その自由度の高すぎる世界観と美麗なCGにドップリとハマり込み、今では毎日6時間はやり続けるヘビーユーザーと化していた。

 「タンクと僧侶は引く手あまた」という格言通りに、大盾を担いで様々なクエに参加してきたが、今日は特別な日だ。

 ガヤガヤと周囲の話し声が聞こえてくる。

 大勢が集まる広場で、派手な鎧を着込んだヒューマンがパタパタと手を振る。

 

「はーい!注目ー!タンクさんたちも全員集合してくれましたかあー?」

「大丈夫デース」

「B班全員揃いました」

「C班も全員居ますよー」

「クラン『浪速魂・盾夫一筋』揃いました」

「クラン『ガードルシールド』もそろってまーす」

 

 次々と俺と同じ最前線を維持するタンク野郎共が野良、チーム関係なく集まっている。タンクだけで100人を越えるだろう。

 

「では、ギルド・アインズ・ウール・ゴウンの現在で解っているトラップなどについてレクチャーさせて頂きます。私、『5ちゃんねる連合』の『十 名犬モーザ・ドゥーヴ 十』と申します」

 

「よろ」「よろしう」「よろ」「よろ」「よろ」「よろ」「ヨロ」「よろ」「よろ」「よろ」「よろshik」「よろ」「yoro」「よろ」「よろ」「yoろ」「よろ」「よろ」

 

 「よろしく」の文字が画面中に乱立する。ええい鬱陶しい。

 

「えーっと、ナザリック攻略非公式WiKiは確認しておいてくれましたか?」

 

 元々はレイドボスが居たダンジョンである「ナザリック」を根城とするギルド・アインズ・ウール・ゴウンを、このゲームをやり込んでいる者で知らない者は居ないだろう。

 たった41人で世界ギルドランク9位に上り詰めた『悪』を標榜するドキュンギルド。

 41人で世界ランク9位がどれだけ異常かというと、例えば今日は個人でしか参加していないが、『2ch連合』なんかは3000人が所属しているのだ。正直憧れのギルドの一つなのだけど、彼らはPK、PKKをやるので、その辺りが自分とは趣味が違ったし、何より入会のための条件として「異形種であること」「社会人であること」という戒律があるという噂を聞いたことがある。俺は開始当時は学生であり、更に人間種でキャラメイクをしていた。このゲームでは1アカウントで1キャラクターしか作成出来なかったので諦めるほか無かったんだ。

 

 そんなユグドラシルでの冒険の日々で『アインズ・ウール・ゴウンの拠点に大兵団を組んで乗り込もうぜ!』というプレイヤー作成イベントが提示版に貼り付けられていた。アインズ・ウール・ゴウンの拠点、ナザリックは元々ボスキャラが居たダンジョンだが、今はそこを拠点とした彼らが手を入れまくって凄まじく進化し、運営が用意したボスのダンジョンよりも踏破が困難であるという噂が流れており、チームやクランどころか、五大最悪事件に怒りを覚えているギルドが総員で攻めても落とせなかったのだ。

 あのギルドには剣職世界最強の称号「ワールドチャンピオン」である「たっち・みー」という剣鬼が居る。そしてワールドディザスターの「ウルベルト」、何よりも有名なのは『公式未公認ラスボス』という異名を持つギルドマスターの「モモンガ」。この3人はその界隈では有名人であり、いつかは会ってみたいと思っていたので俺もこのイベントに喜んで参加したのだ。

 

「それで、1階から3階の間に出てくる階層ボスキャラNPCが吸血鬼のシャルティア・ブラッドフォールンですね。あのー昔前のイベントの時のレイドボスだったので、すでに戦った事がある人も居るでしょう」

「あー あのヤツメウナギみたいな口の……トラウマだわー」

「うえー」

「WiKiを読んでおいて下さいね。今はとても可愛いロリ吸血鬼に改造されておりまーす」

「おおー!」

「知ってるー! アインズ・ウール・ゴウンのファンサイトに貼られてた! AOG(あそこ)はNPCが凝っていて凄い完成度だからさあ。メンバーの中にプロの人とかも居て課金テクスチャーも使いまくっているからな、ちょっと他とはNPCのレベルが違うぜ」

「シャルちゃんファンは結構居るぞー!」

「むしろシャルちゃんに会いたいから参加したまである!」

「下層に美人メイドグループが居るという噂を聞いたことがある」

「マジか!?」

「ちなみにシャルティアは、プレイヤーが作成したNPCの中で世界最強という噂もありまーす。侮らないように」

「ええ……こええ」

「作成者が課金しまくってガチビルド構成ですし、高位装備と高位アイテムの塊だそうでーす」

「作成者って、あのバードマンだろ?」

「こんなのが全開で暴れたら早々に脱落者が出るだろうな……」 

 

 バードマンって『爆撃の翼王』ペロロンチーノのことだな……。

 と、攻略wikiを読み込んでいる俺は脳内で補足する。

 

 

 こんな感じで主催者のレクチャーが2階層、3階層と探索が進んでいる範囲で確認されているトラップの説明などを終え、1500人の寄せ集めは「打倒アインズ・ウール・ゴウン!」という少し軽いノリで侵攻を始めた。

 

 三階層で出現したシャルティア・ブラッドフォールンに黄色い歓声が飛ぶ中、必死で盾を振りかざし「攻撃しろこのヤロー!」とアタッカーに罵声を飛ばし、第四階層では湖の中からザパァーと現れた巨大ゴーレムに歓声があがり、第五階層で氷の魔神を数の暴力で倒し、第六階層でダークエルフの姉弟に男女双方のプレイヤーから「お持ち帰りしたい~!」との合唱が成り響いた。

 

 ……そして遂に、今までアインズ・ウール・ゴウンのギルメン以外は誰も足を踏み入れてないであろう8階層に突入した。

 1500人の勇士は1000人弱にまで減っていた。

 ……てゆーかなんなの?あのひどいトラップの数々は!?

 絶対に通らないといけない毒沼が延々と続いたり、転移系トラップがやたら多くて、プレイヤーの強さとかとは別の所で撃退されていくのだが……運ゲーかよ……。

 

 7階の最高位悪魔(アーチデヴィル)のデミウルゴスはスキルの炎の壁(ゲヘナ)で各個分断しつつ、3匹の魔将を盾に遠距離範囲魔法でジワジワと削ってくるし……もう!もうっ!嫌がらせが多いわあ……このダンジョン。俺の周りの人々も心が折れ始めているようだ。

 しかし次は8階。全部で10階だと聞いているからな……あと少しだ。

 1000人近くいるから何とか踏破したい。そして、10階で待つであろう彼らに会ってみたかった。

 

 ……しかし、8階に降り立ち、侵入を続けていた我々を広場で待ち受けていたのは、まさかのアインズ・ウール・ゴウンのメンバー達だった。

 

 

 彼らの真ん中に陣取っていた豪奢なローブとオドロオドロしいスタッフを持ったエルダーリッチが、ずずいと一歩前に出ると高らかに宣言をした。

 「ふっふっふっ……よくぞここまで参ったな人間共よ! ここからは我々が相手になろうではないか!」

 

 おおおー!あれはAOGのギルマスのモモンガさん!? すごい!本物だ!

 そして、ちゃんと魔王のロールプレイをしていてくれている!?

 

 なんてサービス精神の高い人達なんだ……とてもあの糞トラップを設置していた人達と同一人物とは思えない。

 同行した仲間達も同じ思いでクライマックスを演出してくれているAOGの人達への賛辞の空気で溢れた。

 

「よおーし! いくぞおー! もの共おー! タンクは壁を作りつつ距離を詰めよ!魔法部隊は高位魔法を準備!」

 

 そんな指揮官役の掛け声に盛り上がりの頂点に達していた俺たちは「うおおおー!」と雄叫びを上げた。

 

 そのとき、タンクとして最前列に居た俺にはアインズ・ウール・ゴウンの中で一人のメンバーがピンク色の小型モンスターをギルマスのモモンガに手渡していたのが見えた。

 そして彼が腕の中を俺たちに生贄のように差し出し、誰かがシールドバッシュでピンク色の小型モンスターに攻撃を加えた瞬間……最前列に居た俺の視界はブラックアウトした。

 ただ周りの悲鳴はヘッドフォンから漏れ聞こえた。

「うわあ!?強力なスタンだ!」

「極悪デバフが広がっているぞ!?」

「なんだあの発光する飛行体は!?」

「エナジードレイン!?助けてくれ!俺のキャラがエナジードレインを起こしている!」

「ぎゃあ! 彼奴ら斬りかかってきたぞ!くそっ動けねえー!ずりぃー!」

「ギルメンだけじゃねえ!なんか居るぞ!?」

「やべえ! あっちの広範囲の超位魔法が……駄目だ!対魔法抵抗が殆ど0にまで下げられちまってる!まともに喰らったら死ぬぞ!」

「転移魔法が発動しない!?逃げられない!?」

「ぐわぁー!もう駄目だ!主催者の提案どおりにセカンドウェポンで来るべきだった……この装備をこんなところにドロップしたくなかった!」

 

 阿鼻叫喚である。

 

 暫くの間、彼らによる蹂躙が行われ、侵入者は全員残らず彼らに撃退された。

 多くの装備品をドロップしてしまい彼らに没収されて酷い目にあった侵入者は多い。俺の愛盾も復活したときには失くなっていた……。

「あれはチートじゃないのか!?」と怒りの収まらぬ人達が運営にメール爆弾を投下したが「仕様です」の一言で撃沈した。

 

 これが俺が知るユグドラシルというゲーム内でのアインズ・ウール・ゴウンだ。

 

 どうして、その名前がこの世界に? 

 特殊な名前ゆえに偶然一緒というのは考えられない。

 

 俺はココに生まれ変わりとして居るんじゃなかったのか?

 何故、アインズ・ウール・ゴウンの関係者か、もしくはゲームをやっている人がいるんだ? 彼もまた前の世界を退場して、ここに産み落とされたのだろうか?

 

 カルネ村でアインズ・ウール・ゴウンと名乗ったマジックキャスターはユグドラシル関係者であることは間違いないだろう。確率的に一番高いのは俺と同じように、前世をあの世界で過ごして、こちらに転生した人物が昔の記憶の中からユグドラシルの中で有名だった『アインズ・ウール・ゴウン』という名前を取ったというものだろう。カルネ村とガゼフを救ってくれたという事はまともな人である可能性は高い!

 もちろん本当にアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーかも知れないが。どちらにせよ、前世を同じくする仲間だ。会いたい。会ってみたい。

 

 

 

「ガゼフ戦士長!そのアインズ・ウール・ゴウンと名乗る人物と、何とか会いたいのだが!」

 長らく沈思黙考していた俺が突然焦りながら話し出したことに面食らったガゼフは、俺を落ち着かせるようにゆっくりと語り出す。

「いえ、それが彼は世間知らずの魔術師ゆえに、各地を旅しながら時勢を把握したいと語っておりました」

 

「つまり解らないということか……」

 

「はい、申し訳ありません」

 ガゼフは申し訳なさそうに項垂れる。

 

「いや、全く君のせいじゃない。これっぽっちもだ。あと、本当にアナタが無事に帰ってきて嬉しい。クライムもとても心配していたんだ」

 

 俺はクライムを残してガゼフと別れて自分の屋敷へとトボトボと歩いて帰った。帰宅後に執事に「ワーカーや冒険者に金を渡して『アインズ・ウール・ゴウン』という人物を捜して欲しい。カルネ村の周辺に居るはずだ」と告げた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、全く何の手がかりも無いまま日は流れ、俺はいつも通りにクライムと剣術の鍛錬をしていた。

 最近はクライムもどんどん強くなり、すでに俺よりも遥かに強いが、俺は俺でガゼフ戦士長がクライムに教えた内容をクライムを通して教わることで、僅かながらも練度が上がったような気がする。

 

 しばらくして休憩しているとラナーの所で見たメイドがクライムを呼びに現れた。

 なんだろうか?あいつめ……さては可愛いクライムを自分の部屋で強引に手籠めに……。

「クライム!?騙されるな!」

「はい?」

「ザナック様……ラナー様は御客様である御友人にクライム様を会わせたいと仰られているだけで御座います」

「くそ……本当なのか?」

「はい、大丈夫で御座います」

「そうか……ハチミツ!」

 俺は油断させた所でメイドの目を見て威嚇する。

「びくうっ」

 メイドは条件反射のように体が固まる。

「良し、行け!」

 あの恐怖を忘れるんじゃないぞ、ハニー。

 いつでもハチミツはオマエを狙っているんだ。

「ザナック様、意味が解りません……」

 クライムが珍しく困り顔で呆れていた。

 

 クライムが居なくなった後、屋敷に帰ってお風呂に入り、執事から各種報告を受け執務を行う。

 そして厨房に行くと料理長からオヤツをねだりサンドイッチを手に入れた俺は、紅茶とサンドイッチを楽しみながら読書をしていた。しばらくすると廊下を歩く音が聞こえ、ドアをノックする音とともに「クライムです。失礼致します」という声が聞こえた。そしてドアを開けて入ってきたクライムを見て俺は驚いた。

 

「クライム、どうしたんだ? その白銀の鎧は」

 クライムはデザインはシンプルだが、目立つ白銀色のフルプレートを恥ずかしそうに着ていた。もちろんクライムが好んで身につけるわけではないだろうから、あの悪魔からの贈り物だろう。

「あー、良い。ラナーだろ? ただでさえ『我々のアイドル・ラナー妃から可愛がられるなど不届きな奴め!?』と妬みや嫉妬がオマエに集まっているのに……」

 

 こんなの着て見せびらかしたら、イジメられるかも知れないじゃないか。

 

「よろしいのです、ザナック様。ラナー様がわざわざ私のために用意して下さった特注の鎧です。これを着ても笑われないような騎士を、ただただ必死に目指すだけで御座います」

 

 あー、もう良い子だなあー、クライムは! 

 クライム可愛いよ。可愛いよクライム。

 

「そうか。その心構えならラナーに文句をつけるのは辞めよう。それでオマエに会わせたい御客様というのは誰だったんだ?」

 

「はい、以前にも会わせて頂いたことのあるアダマンタイト級冒険者の『青の薔薇』御一行様の方々で御座いました」

 

「え?ラナーが……冒険者と?いつのまにそんな繋がりが?」

 

「はい、実は『青の薔薇』のリーダーであられるラキュース・アインドラ様は、元々は貴族アインドラ家のご令嬢であらせられまして、その頃にラナー様と何度かお会いしていたのが御縁とお聞きしております」

 

「へえー。そうだったのかあ……」

 

『青の薔薇』女性だけのチームで構成されている唯一のアダマンタイトチーム。

 正直興味一杯だ。

 

「はい。お優しい人達で、さすがラナー様の御友人で御座います」

 

 いやいやいやラナーに友人?ないない。

 

「クライムは冗談が上手いなあ」

 

「え!?」

 

 きっとラナーが友人のふりしてるだけか、相手が合わせてくれているだけなんだろう。いや、もちろん本当に友達とか作って欲しいんだけどね……。ただ、なんか可哀想で。ラナーじゃなくて相手が。絶対相手を手駒としか考えてないんだよな、アイツ。

 

「一度、友達は選ぶようにって、ちゃんと説教しないとな」

 

「そんなっ!?蒼薔薇の方々はとても素敵な人達で御座います!」

 

「うん。だから蒼薔薇に説教しないとな……」

 

「ザナック様……」

 

 いかん。俺のクライムが哀しそうな子犬の目でこちらを見ている。くそう、こいつラナー大好きっ子だからな。

 

「この、ラナー大好きっ子め」

 

「えっあの、そのっ」

 

「まあそこは否定しなくて良い。むしろ本当に頼むよ……頼むぞ!」

 

 俺は両手でクライムの肩を掴んで頼み込む。

 

「想像以上に必死だ……」

 

 クライムが涙目になった。なんでだ。

 

 

 

 

 






ベトンベトン様 Sheeena様 骸骨王様 so~tak様 誤字脱字修正 有難うございます

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