特攻兵器襲来後に突如として復帰を遂げたG・ファウストに関する物語。

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久しぶりにフロム脳を全開にした作品です。
読んでいただければ幸いです。


ARMORED CORE NEXUS THE-G-

 人類が『レイアード』と呼ばれる地下から解き放たれ、『サイレントライン』の一件を乗り越えた世界。

 人類が『レイアード』にいた時から存在する三大企業『ミラージュ』『クレスト』『キサラギ』による争いは止まることなく、力を合わせて様々な危機を脱した後も争いは続いた。

 その争いの中『ナービス』と呼ばれる企業も現れ、争いは更なる混沌へと誘われる。

 まだ戦いは終わっていないのだ。

 

 

  ※※

 

 

『レイアード』の地下採掘施設。

 暗く、一部しか灯りの付いていない今この狭い場所では『ミラージュ』と『クレスト』による資源の奪い合いが繰り広げられていた。

 事の発端は『クレスト』側の重量級MT『CR-MT85』を始めとした強力な戦力が採掘施設を奪うために侵攻を開始したことだ。

 この侵攻によって採掘作業に当たっていた『ミラージュ』側の採掘作業をする人員やMTは全滅。『ミラージュ』側は採掘施設を奪われまいと徹底交戦の構えで戦闘用MT『MT09-OWL』と『ミラージュ』専属のレイヴンによる強力な戦力を地下採掘施設に派遣した。

 両者はぶつかり合う。

 採掘するための施設はあっという間に激しい戦場に変わり、戦いはまだ続いていた。

 

「敵を落とした!」

 

『ミラージュ』側のACであるミラージュ標準軽量二脚型AC『ウラヌス』に乗り込む若者の専属レイヴン――グスタフは敵の重量級MTを一機撃墜したことを告げた。

 しかし敵はまだ残っている。レーダーに映る限りの数で残る敵は後二機だ。

 

≪こちら第二部隊! 敵レイヴンの攻撃を受けている、至急援護を求む!≫

「第二部隊ってことは隣のエリアか……! 『クレスト』の侵攻戦力にもレイヴンがいるのか」

 

 グスタフは味方の通信に耳を傾けながらバズーカを発射する目前の敵に集中した。ブースターを吹かし、軽量機ならではの高機動力でバズーカから放たれる高威力の砲弾を避ける。そしてそのまま軽量機の高機動力で敵の重量級MTの(ふところ)に飛び込んで『WL14LB-ELF2』によるレーザーブレードの斬撃で敵の重量級MTを真っ二つにした。

 

≪『ミラージュ』のレイヴンめ、お前のせいで仲間が!≫

 

 恨みの入った敵の声が通信機越しからグスタフの耳に入った。

 グスタフは「俺の知ったことじゃない!」と一蹴して、マシンガンを撃ちながら迫ってくる敵の重量級MTの攻撃を回避。高機動を活かして回り込み、コアに搭載されたEO(イクシードオービット)を起動。そのまま右手に持つ『WR04M-PIXIE2』という型番のマシンガンとEOを組み合わせることによってレーザーと実弾による凄まじい弾幕を形成した。

 

≪きさま――≫

 

 凄まじい弾幕に襲われた重量級のMTは通信が途中でブツリと切れると同時に穴だらけとなり、その場に倒れ込んだ。

 今いるエリアの敵は全て倒し終え、グスタフは一息吐いた。

 まだ戦闘は続いている。デカい発砲音とブースター音、爆発音が大型の扉の向こうからグスタフの耳に入ってきた。

 

「次に行くぞ」

 

 グスタフは再び緊張感を持って『ウラヌス』をゆっくり操縦しながらレーダーでの索敵を行った。

 レーダーの範囲内で敵であることを示す赤い点と味方であることを示す緑の点が動き回っている。それは味方と敵が戦闘中ということだ。

 そして味方からの通信が若干のノイズ混じりに入ってきた。

 

≪こちら第三部隊! もう耐えきれない、全滅は時間の問題だ! ぐぁ――≫

 

『ミラージュ』第三部隊の信号が途絶。通信は途中で途切れ、レーダーの緑の点は消えた。全滅である。それまで味方部隊と交戦していた一つの赤い点がグスタフに向かってくる。

 

「味方部隊が一つ全滅か、隣のエリアに行く前に味方部隊を全滅した敵と交戦することになるな……!」

 

 敵との交戦に備えて、搭載武器の表示を見る。グスタフの目は各武器の残弾を見つめた。

『WR04M-PIXIE2』の残弾は741発。EOの残弾は自動で回復することにより、フルの100発だ。

 残弾に余裕があることが分かると、グスタフは気力を失わないように腹に力を入れて操縦桿を強く握った。

 

「来いよ! 『クレスト』の連中が!」

 

 残弾のチェックを終え、グスタフは自身に気合を入れながらレーダーで敵の動きを凝視した。敵の赤い点が分厚い扉の向こうからグスタフの機体に近付いてくる。

 赤い点が近付く度に緊張が走った。赤い点はMTなのか、ACなのかは分からない。

 正体が分からない敵に対してグスタフはレーダーを見続けることしか出来ない。

 レーダーに映る敵との距離が600mを切った。

 

「どんな奴だ? 早く来いよ、こっちは緊張しっぱなしで腹が痛くなりそうなんだから」

 

 距離が近くなってくるごとにグスタフはレーダーとコックピットモニターの双方を見た。もうすぐで視界に入る。より一層の緊張が走り、操縦桿を掴む力が強くなっていく。どんな武器を持っているか分からないのだ、もしも視界内に敵が収まった瞬間に高威力の武器を当てられたら致命的なダメージを受けることになる。しかも軽量機故にAPも少ない。もらうダメージは少なくしなくてはならない。

 

「……!」

 

 レーダーに映る敵との距離が400mを下回った。

 そして分厚い扉が開かれる。通路の光りに照らされた敵が姿を現した。

 

「ACか!」

 

 明確に姿を現した敵はレイヴンズアークに登録されていない『クレスト』のパーツで固めたタンク型ACだ。見るからに重装備であり、左手に持つバズーカから大口径の砲弾が飛んだ。

 グスタフは咄嗟(とっさ)の判断でブースターを吹かし、一発目の砲弾を避けた。そのままグスタフの乗る『ウラヌス』はブースターによる高機動を発揮し、マシンガンを撃ちながらタンク型ACの背後に回り込んだ。

 

「コイツ、とんでもない代物を持っているのか!」

 

 敵の背後に回り込んだグスタフが目にしたのは、ACに搭載出来る武器で最強の攻撃力を持つとされている恐怖の武器『CR-WBW98LX』だ。

 その戦艦の主砲とも呼べる代物がグスタフの機体『ウラヌス』に向いた。

 グスタフは絶対に当たるものかと言わんばかりに操縦桿を激しく動かした。『ウラヌス』の動きが不規則なものとなり、敵の照準を逸らそうと必死に動き続ける。

 そして『ウラヌス』が地に足を着けた瞬間『CR-WBW98LX』の砲から青白い光りが漏れ出した。その様子は今にも撃とうしている。

 

「くそ、くそー!!」

 

 モニター上部に〝LOCK ON〟の文字が現れる。グスタフはその文字を見て、冷や汗が身体を這うのを感じていた。

「もしもあの砲の攻撃に当たったら」と脳裏に(よぎ)って、止まらない。

 グスタフは操縦桿を必死に動かしながらAPを見つめる。APは6772だ。先ほどの戦闘で被弾した分を引きずっているものの、『ウラヌス』のAPはまだ十分に余裕があった。

 

「ここは一か八か回り込む!」

 

 覚悟したグスタフはもう一度回り込もうとブースターを使って接近した。

 しかしその瞬間に砲から青白い光りが走った。その光りは凄まじい熱量を持ちながら『ウラヌス』にヒット。青白い光りは爆発し、『ウラヌス』を中心とした一帯は一瞬の内に丸焦げになった。

 APの表示にノイズが走るが、すぐに表示が直る。直って表示されたAPは5028だ。

 

「当たっ……たぁ!?」

 

 グスタフは叫んだ。爆発の衝撃は機体全体に伝わり、反動でその動きを止められた。コックピットにもその衝撃は伝わり、凄まじい衝撃がグスタフを襲った。

 衝撃が止むと、グスタフは息を切らしながら正面のモニターに映る敵のタンク型ACを睨んだ。もはやAPの表示など見ていない。

 

「死ぬものかよ」

 

 グスタフは静かに言い、闘志を振るい立たせて殺意を持つ。

 グスタフの闘志は操縦桿を握る手を力強くさせ、殺意は見えない矛の如く敵のタンク型ACに突き刺さる。

 モニター上に映し出された敵を凝視、青白い光が漏れる砲を見つめてブースターを吹かし始めた。

 ブースターによって『ウラヌス』は高機動を発揮。その瞬間にまたもタンク型ACの砲から青白い光が走るものの、『ウラヌス』はその高機動さで砲から放たれたレーザーを回避した。攻撃を外したタンク型ACは焦っているのか、バズーカを乱射する。

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

 バズーカから発射されたいくつかの砲弾に被弾するも、グスタフはそんなものなど気にせずに敵の背後を取った。そのまま攻撃を開始し、『ウラヌス』の持つ『WR04M-PIXIE2』とEOによる凄まじい弾幕を形成する。

 敵のタンク型は完全に反撃出来ず、背後からの弾幕に成す術がない。

 そこで頭を使った敵はブースターを使って旋回を速める。敵側のACの動きを予測出来なかったグスタフは敵の砲から放たれた青白い超高熱の光りを直撃された。

 

「うぉ!?」

 

 またも反動にやられた『ウラヌス』は仰け反り、コックピット内に振動が伝わってくる。グスタフは振動で身体を振り回され、コックピットのコンソールに頭を打ちつけた。

 グスタフの額に血が流れる。先ほど頭を打ちつけた時に怪我をしてしまったのだ。それでもグスタフは痛がることはなく、殺意の(こも)った鋭い目を敵のACに向けた。

 

「俺が死ぬと思うなよ……」

 

 グスタフがそう言った瞬間、再び砲から超高熱の青白い光りが飛び出した。光りは態勢を直せていない『ウラヌス』にヒットし、表面装甲を溶かした。内部構造が丸見えになった『ウラヌス』に対して敵はバズーカを発射。丸見えになっている箇所にヒットし、モニターにノイズが走る。

 

≪残りAP10% 危険です≫

「知ったことかぁー!!」

 

 グスタフは頭部COMの警告を無視するように叫び、そのまま思い切り操縦桿を倒してブースターを使用。襲い来る砲弾と青白い光りを避けながら背後に回り込む。そこからはレーザーブレード『WL14LB-ELF2』での乱舞が始まった。敵の砲を切り刻み、そして機体の中核となるコアを焼き溶かしながら突き刺す。

 

≪やめろ! やめろぉ!≫

 

 敵ACから慌てた様子の通信が入る。しかしグスタフはコックピットまでレーザーブレードを突き刺した。いくら手負いにしたとはいえ、敵がACであることには変わりはない。脅威になりかねない故にグスタフは躊躇(ためら)いなく続けた。

 

≪やめ――≫

 

 敵ACからの通信が途切れる。それは敵ACのパイロットが死んだと言って過言ではない。

 敵を確実に撃墜したグスタフの目がレーダーの方に向く。レーダーに映る敵影は後一つ。対して味方部隊は全滅。ここからは一対一の対決、しかしグスタフは敵の正体が分からない。MTであれば運が良いと言えるが、これでACであれば死んだも同然である。

 

「今度はなんだ? ACか?」

 

 レーダーに映る赤い点が隣のエリアからグスタフのいるエリアに向けて移動している。そして赤い点は分厚い扉の前に来た。今にも扉が開かれようとしている。

 これまでにない緊張がグスタフに走る。

 緊張下の中でグスタフは息を呑み、扉から離れて身構えた。

 

「なにが来るんだ?」

 

 グスタフが言うと同時に扉が開かれる。扉の向こう側にある通路の光りが敵機を照らし、その姿を明確にグスタフに見せた。

 

≪お前もレイヴンだ、死ぬ覚悟は出来ているな?≫

 

 緑を基調としたカラーリングのACが飛び出すと同時に渋い男の声が通信に入った。グスタフは目を見開かせ、敵が放ってくるライフルの弾丸を回避した。そのまま回避し続け、グスタフは天井にまで延びている分厚い壁の裏に隠れた。この壁であればACが持つどんな武装でも貫通は出来ない。

 

「ふぅ……またレイヴンズアークに登録のない機体か」

 

 一息吐けたグスタフは冷静さを取り戻して、モニターに表示されている自機の状態とレーダーによる敵の位置確認を行った。

 自機の状態は極めて深刻だ。残りAPは既に10%となっており、コックピット内で危険な状態であることを示す装甲値低下のアラートが鳴りっぱなしになっている。その上に残弾は弾薬フルの状態の半分より下回った386発だ。放つ弾を全弾当てれば十分に倒せる弾数だが、敵を倒せるまでに自機が撃破されないかがグスタフは一番不安だった。

 そんな不安要素を抱えながらグスタフはレーダーの方を見た。レーダーに映る敵ACは一歩も動いていない。

 

「こちらの様子を窺っているのか……」

 

 敵ACの動きからしてそう悟ったグスタフは操縦桿を握る手を(ゆる)めた。攻撃してこないのなら別に身構える必要はないのだ。

 グスタフはコックピット内にある水の入ったペットボトルを持ち出し、それを飲んだ。もう何時間も水分補給をしていないグスタフにとってこの比較的落ち着いた状況は好都合なのだ。更にこの状況を利用して水の次は非常食として持ち込んだビーフジャーキーの入った袋を開け、ビーフジャーキーを食べた。

 腹が減っていたのか、グスタフはあっという間にビーフジャーキーの入っていた袋を空にした。

 

「ゲプ……腹ごしらえは終わった、食える時に食わないとな」

 

 空の袋をコックピット内に投げ捨てると、グスタフは油だらけの手を拭いて再度操縦桿を握った。

 レーダーに映る敵であることを示す赤い点は一歩も動いていない。それは本当にグスタフがどう動くかを見ているかのようだ。

 グスタフはレーダーの赤い点を凝視し、敵ACの動きを見続けた。しかし十分が経とうとも敵ACは動きもしない。

 

「気味が悪いな、なんで回り込んで攻撃してこない? 見た感じ敵機体の破損はなかったはずだ……敵ACには余裕があるはずなのに何故?」

 

 グスタフは考える。なぜ攻撃してこないのかを。

 そして十分が経った。グスタフの頭の中にはなにも出て来なかった。敵ACの取る行動――つまりなにもしないというのがただただ分からず、グスタフは困惑していた。

 そこでグスタフはある予測を立てた。

〝壁の向こう側にある広い場所で戦う方が敵ACにはなにかしらの理由で都合が良い。つまりはこちらを誘っている〟

 あくまでこれは予測でしかない。敵の本当の目論見など分からないのだから。しかし今はこの予測を信じるしかないグスタフは敵の誘いに乗らず、分厚い壁に隠れ続けた。

 

「敵の目的は一体なんだ……?」

 

 もしかしたら増援を待っているのか? と、グスタフの頭の中に過る。

 

「でも、増援を待っているのなら増援が来るのが遅すぎる」

 

 変に違和感を覚えるグスタフは頭を回転させればさせるほど、訳が分からなくなっていた。

 敵ACはこの状況を楽しんでいるのか? とも頭の中に過ってくるが、グスタフはもう一度冷静になって考えた。

 そしてようやく、一歩も動かずにこちらの様子を見ているという敵の不可解な行動に説明が付く予測がグスタフの頭の中に出てきた。

 

「そうか……敵はこちらの危険な状態を知らない。だから敵は手が出せない!」

 

 難解なパズルを解いたような感覚を覚えたグスタフは思わず声が大きくなった。

 これでこの状況を打開出来る打開策が生まれる。

 この戦場を生き抜ける希望が見えてきたグスタフは打開策を考える。

〝死にたくない〟という感情が無意識に入って来ながらもグスタフは打開策を考え続け、モニターに映る一つの兵器がグスタフの目に飛び込んできた。そして一つの生き延びるための打開策が浮かび上がってきた。

 

「敵を騙して、その隙に討ち取る。我ながら良い考えだ、と言ってもこれしか策がないけどな」

 

 そう言うグスタフはコックピットモニターに映る一機のガードメカを期待して見つめた。

 グスタフの打開策は至って簡単だ。目の前にあるガードメカを稼働させて囮にし、隙を見せた一瞬の内に敵に接近して全力攻撃を掛けるというものだ。

 しかしこの打開策は賭けでもある。もしも敵ACが囮に引っ掛からなかったら、グスタフには死が待っている。

 グスタフは賭けの部分も十分理解し、覚悟を決めた。後は実行に移すのみである。

 コックピットハッチを開け、グスタフの目に放置されたガードメカが入る。

 

「これを起動させれば――」

≪長いこと待たせてくれる≫

 

 実行に移そうしたまさにこの瞬間、突然敵からの通信が入った。こちらの作戦が悟られたのかと、グスタフに緊張が走る。

 身動き一つしなかった敵ACがグスタフの様子を探るように動き出す。その駆動音がグスタフに耳に入り、急いでレーダーを確認した。レーダーの赤い点がゆっくりとだが、動いている。

 

「タイミングが悪い!」

 

 今のグスタフの状態は機体のコックピットに守られてはいない。この状態で敵の攻撃を受ければ即死の可能性は大だ。

 死ぬ恐怖に負けたグスタフはガードメカを起動する前に急いでコックピット内に戻った。コックピットハッチを閉めると、すぐにモニターに表示されるレーダーを凝視した。敵の赤い点が近付いてきている。

 

「このままじゃ死んじまう。こうなったら敵に呼びかけて少しでも時間稼ぎをするしかない」

 

 グスタフは呼びかける前に深呼吸を一つして、通信機を見つめた。そして通信機を使ってグスタフは敵ACに向かって呼びかけた。

 

「おい、お前。少し話し合わないか?」

 

 グスタフが呼びかけると敵ACの動きが止まった。

 思惑通りになった今、グスタフは敵ACに対して話し続ける。

 

「お前、家族はいるか?」

≪それを聞いてどうする?≫

「質問に質問を返すなよ、いるのかいないのか?」

≪答えるとでも?≫

 

 中々会話が弾まず、グスタフは内心舌打ちを打った。このまま会話が弾まないと敵ACは再びグスタフの方に向かってくるからだ。

 グスタフはどうにかして会話が弾む内容を考える。それまで少しの沈黙が訪れる。

 

≪急に話しを振ってきた割にはだんまりか≫

 

 通信が入ってくると共に敵ACが再び近付いてくる。敵ACの足音と敵からの通信に反応して、グスタフはすぐに会話の続きを始めた。

 

「べ、別の話しにしよう! お前はなんで『クレスト』の依頼を受けたんだ?」

≪教える義務などない≫

「そこをどうにかさぁ、な?」

≪仕方がない、少しだけお前と戦う前に教えてやる≫

 

 グスタフはホッと一息を入れ、これから敵の自分語りが始まることに安心していた。これでガードメカを起動するまでの時間を稼げる。

 グスタフは早速通信機を手に持ち、コックピットハッチを開けた。

 

≪俺がこの襲撃依頼を受けたのは娘のためだ。娘は『クレスト』に勤めていて、新兵器開発に携わっているんだ。しかし新兵器開発をするにも資源が足りてない。だからこうして資源採掘施設を襲撃している訳だ≫

「全部娘のためか……出来た親じゃないか」

 

 お世辞にも聞こえるグスタフの言葉は意外にも敵のパイロットを薄笑いさせた。敵のパイロットは機嫌を良くしたのか、そのまま話しを続けた。

 

≪そうだ、全て娘のため。娘のためならこの歳でも操縦は出来る≫

「なるほど、声からしてかなり渋い感じがする訳だ。ご老体なのによくもまぁがんばったもんだなぁ」

≪センスは無くとも長年培った技術だけはあるからな、だからこうして戦ってられる≫

 

 グスタフは敵との会話を続けながらコックピットの外に出て、ガードメカの起動に取り掛かる。その行動を気付かれないようにグスタフはなるべく物音を立てないように敵との会話を続けた。

 

「でも無理はしない方が良いぜ、老兵さん」

≪敵の心配をするか、とんだ若造だ≫

 

 会話を続けている間にグスタフは敵に作戦を気付かれないようにガードメカの起動ボタンを押した。

 ガードメカのCOMが「起動準備開始します」と告げる。COMの言葉は敵には聞こえておらず、警戒することなく会話は続いた。

 

≪全く……敵にしては優しい若造だな≫

「ありがとうよ」

 

 ガードメカのCOMが「起動準備完了しました」と告げ、グスタフはガードメカの制御パネルに表示された〝起動〟という文字に手を触れた。触れると、ガードメカは起動を始めて動き始める。

 

≪レーダーの敵反応が二つになった、なにをしたんだ若造≫

 

 突然現れた一つの点に違和感を覚えた敵はグスタフに向かって問いかける。

 ガードメカの起動を完了させたグスタフはコックピットに戻り、ハッチを閉めた。そして敵からの質問にグスタフは返す。

 

「そっちには悪いけど、さっきの会話は全て時間稼ぎに使わせてもらった」

≪急に話しを振ってきたのはそういうことか≫

「分かってくれとは言わない。俺は生きたいだけだ。だからこの手を使わせてもらった」

≪そうか……最後に名前を聞かせてもらえないか?≫

「なぜだ?」

≪一人のレイヴンとしてお前の名前を憶えておきたいからだ≫

 

 敵のパイロットからの声は騙されたという怒りはない。むしろグスタフに興味を持つ声だ。

 不思議と優しい気持ちになれたグスタフはその声に応えた。

 

「俺はグスタフだ」

≪グスタフか……覚えておく。俺の名はファウスト。『パンツァーメサイア』と共に戻ってきた老兵だ≫

 

 敵のAC『パンツァーメサイア』はゆっくりと動き始める。

 変わって『ウラヌス』もゆっくり動き始める。

 追い込まれた者と追い込んだ者の戦いが再開されようとしていた。

 

「俺はきっとバカなんだろう」

 

 唐突に出たその言葉と共にグスタフは操縦桿を動かす。そして照準を向けて攻撃した。それは敵に向けられたものではなく、自分が起動させたガードメカに対してだ。

 

≪どうした? 二対一で戦わないのか?≫

 

 レーダーにガードメカの反応が消え、ファウストは問う。

 それに対してグスタフは笑って「正々堂々と戦いたくなった」と答えた。そのまま『ウラヌス』を動かし続け、分厚い壁の陰から姿を現した。

 パンツァーメサイアは銃口を下に下げたまま攻撃をしない。ファウストは正々堂々と出てきた戦士の姿を喜んで見ていたのだ。

 

≪死ぬ覚悟は出来たな?≫

「もちろん、戦う覚悟も出来ている」

≪では……≫

「あぁ……」

 

――行くぞ!

 

 二人から放たれたその言葉は〝再開〟を意味する。

 そうしてブースターの噴射音が響き渡った。二機とも圧倒的な熱量を生み出しながら高速で地面を滑るその様子は踊っているかのようだ。

 突撃ライフルの発射音、マシンガンの発射音とEOの発射音が混ざり合わさり、一つの音楽かのように奏でられる。

 

≪久しい感覚だ、ここまで楽しめるとは≫

 

『パンツァーメサイア』はブースターによる高速移動で見た目以上に素早く動き、飛んでくるマシンガンとEOの弾による被弾を抑えながら突撃ライフルを放ち続ける。

 

「いいぞ!!」

 

 ブースターの大出力により『ウラヌス』は『パンツァーメサイア』より素早い動きを披露し、突撃ライフルの銃弾を次々に回避していきながらマシンガンとEOの組み合わせで弾幕を形成した。

 どちらも一歩も退かない戦い。もはや撤退や任務放棄という言葉は二人の頭から消し飛んでいる。

 

「これほど吹っ切れたのは初めてだ!!」

 

 グスタフは叫ぶ。同時に撃ち続けたマシンガンとEOの弾数が0になった。

『ウラヌス』はマシンガンを捨て、EOをコアに戻した。

 武器を捨てた『ウラヌス』の姿を見た『パンツァーメサイア』は合わせるかのように突撃ライフルを投げ捨てた。

 どちらもレーザーブレードの刃を見せ合い、お互いぶつかり合うが如くブースト全開。

 火花を宙に散らし、ブーストの噴射は止まるところを知らない。そしてお互いが確認し合った覚悟の下で刃をぶつけにいく。

 

 二つの魂の雄叫びが戦場を埋め尽くす。

 

 刃と刃は干渉することなく、お互いの装甲を焼き溶かしていく。

 そして決着が付いた。

 先に動きを止めたのは『ウラヌス』だった。羽を散らすように『ウラヌス』は破片をボロボロと落としながら行動を停止し、地面に(ひざまず)く。

 

≪すまないな≫

 

 コアの一部が溶けている『パンツァーメサイア』は羽を散らさなかった。そのまま『ウラヌス』に歩み寄り、コックピットハッチを開けてパイロットが生きているか確かめる。

 結果は、死んでいた。

 ファウストはなにも言わず、安らかに眠れるように身体の半分が焼けているグスタフの目を閉じた。そして『ウラヌス』のコックピットハッチを閉めた。

 

≪良い戦いだった≫

 

 ファウストはそう言い残し、この戦場を去った。

 

 

  ※※

 

 

 採掘施設での戦いから一ヵ月ほどが経った。

 今の大地は所属不明の兵器によって荒らされ、荒廃していた。

 あの大事件が起こった今でもファウストは生き残っていた。残った余生を気ままに生きることが出来るが、ファウストはそれを望まなかった。

 

――娘が病院で眠っている今、自分に出来ることは戦うことだけ。

 

 そう自分に使命感を与え、ファウストは〝引退〟という文字と共に自分の名前を捨てた。

今度は戦場に復帰したレイヴンとして自分の愛機である『パンツァーメサイア』に乗り込む。起動させると、モニターに外の様子が映し出される。

 そして正面遠くにいる機影。

『アライアンス』の襲撃部隊のMTたちだ。

 

「引退したファウストはもういない、今ここにいるのはG・ファウストだ」

 

――忘れないからな、グスタフ

 

『パンツァーメサイア』はブーストを全開にして、全力で駆けた。駆けるその姿は『ウラヌス』の如く。

 老いた戦士は戦い続ける。自分が殺した若い戦士の分まで。

 それが戦士の責任だ。

 


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