ポンコツ世界異聞=【終幕を切り刻む者達《ハッカーズ》】   作:きちきちきち

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ひゃっはー二次な小説だぁ!(ブースト)


傍話【故郷】

 

 

 聖錬南部

 とある街道のはずれ、何もない平原地帯。

 

 

―――『平和な街道』

 

 

「属性値安定、太陽の向きも風の匂いもおかしなところはなしっと」

『複合式羅針盤』【レンジャー】【野狩人:Lv3/5】

 若葉の少年以外に何の意義もない。ただ過去に対する心の整理。

 まったくの無駄足になる可能性が高いため、今回は一人で仲間には書置きして遠出していた。

 

 変動するマナに、多種多様な羅針が回る、その箱をぱたんと閉じて。

 特段急ぐ事情もなく、その足取りはゆっくりと、街道を歩いていくだろう。

 

「雨雲も全然遠い。このままなら大丈夫そうだ」

 その目的地は、『死神』(スケィス)の襲撃に滅んだ彼の故郷『リウ村』。

 ……その跡地である。

 

 彼は、今まで直視する事を無意識に忌避していた。

 正しい道に確信が持てない。もしや、始まりのそこに決定的な間違いがあるかもしれない。

 眼にしてしまえば、生き残ったこと自体が間違いだったと突き付けられるかもしれない。

 そんな形なき疑心である。

 

「いい天気」

 歩く歩く、世界の平常運転に、白い吐息を息を溶かしてほうとつぶやいた。

 今更でも向き合う気になったのは、先の色抜けた少女こと"天使"の言葉もあるかもしれない。

 確かめる勇気を、無償の愛にて宣言された"自由"だと。

 根拠がなかろうと贈られたその言葉に、確かに気持ちは楽になったのだから。

 

 歩く、歩くただひたすら歩く。

 時間はゆったりと着実に過ぎていく、そろそろに日も傾き落ち始めるだろう。

 

 そろそろ見えてくるだろう、懐かしい川が見える。懐かしい小山が見える。

 それを目印にしてそこにあったのは。

 

 廃墟ではない確かに喧噪を纏った、一つの村である。

 

「―――え?」

 あるはずもない風景に惚けた溜息が漏れる。

 そこには家々が確かにあった。けたたましい家畜の声、懐かしい畑の肥えた肥料の匂いがする。

 毎日、水を汲みに行った古ぼけた共用の井戸がたまらなく望郷の念を誘うだろう。

 

ギュウ……!

「もしかして」

 そんなはずもない。その終わりは、滅びはいつも脳裏の裏に確かにこびり付いている。

 白熱した心拍が体を揺らすほどに高まって。

 頬を抓る。しかし目の前には、かつての原風景が消えてくれない。

 

「もしかして、本当に―――」

 呆けるまま。

 彼は白昼の夢を見る様に怪しい足取りで、その村々に近づいていくだろう。

 きっと、あの夜の出来事は全ては、悪い夢だったのかもしれない。

 そんな都合の良い事を想いながら。

 

 しかし。

 その幻想からの声が聞こえた。

 

「あら、どなたかしら見ない顔ね」

「おや本当だ。その武装に恰好、何処かで活動している冒険者だろうか」

「ふむ?どこのどなたか存じないが、こんな何もない辺鄙な所によく寄ったもんだな」

 見知らぬ顔、見知らぬ声。その白昼夢は果たして一瞬に醒める事となる。

 彼の故郷、『リウ村』は決して大きくない。

 そして貧しい田舎村だ。お互いに助け合わないと生きていけなかった。

 もちろん住人とは全員知り合いであり、顔馴染み。故に知らない人間などありえない。

 

 そう、若葉の少年が呆然自失としてるうちに―――

 

「あっこら!待ちなさい!!」

ガチャ、ドタバタバタ!!

 母親だろうか、その静止の声を振り切って。

 民家の扉が勢いよく開かれ、その中から幾つもの小さな影が飛び出していくだろう。

 

 そして、彼はあっという間に取り囲まれる。

 

「うおー!マジだ。本物の冒険者じゃん!!」

「かっけー籠手!なー、何でモンスター殺すの?ど派手な魔法それともかっこいい剣かな?!」

「おにーさん、ぼーっとして疲れてるの?待ってて今ね。村長さん呼んでくるね!」

【田舎育ち】【好奇心】【元気溌剌】

 外の人間という、物珍しさに好奇心に任せて民家から出てきた子供達である。

 圧倒的な好奇心と元気さに困惑しながら、少年は理解するだろう。

 

「ああ、そっか」

 ここはもう、自身の故郷その残骸ではない。

 若葉の少年と同じような境遇に、流れてきた人達が根付いて生活を回しているのだから。

 そう残骸でも。一から築き上げるより、元あるものを活用した方が手間がない。

 

「ここはもう、君たちの村なんだ」

 きっとどこか満足感のある、得心に納得に呟いた。

 きっと、そうやって見出されて、"生まれ変わった"のであろう。

 

「えーうん、冒険者だよー。あんまり気楽に近づいたらダメだよー」

「どーして?」

「どうしてって、結構ゴロツキも多いからね」

 そう諫めても、子供たちの熱量は収まる所を知らない。

 大人たちの話から、『冒険者』にたいする警戒心が薄いのだが、彼は知る由もない。

 

「そんな事よりその剣触らせてくれよー。おにーさんはどう戦うんだよ!?」

「こらだめ、抜き身の刃は危ないから」

 周囲に犇めく。ぴょんぴょん跳ねる小さな頭を撫で押さえつけながら。

 その好奇心を宥めて求めに応じて、細工籠手に滲ませ塗料(インク)をその指先に滴らせる。

 

【精霊術Lv2/5】【呪印術】(ウェーブ)

 そしてその指先に複数の蝶々を描いて、その跡に息を吹き込むだろう。

 彼の得手、精霊術の応用。

 すると、形をもって蛍火の様な蝶々の小精霊が、ぱたぱたと羽搏いて宙を踊るのである。

 

「すげぇキレー燃えてるちょうちょだ!あ、逃げちゃう!」

「誰が一番に捕まえるか競争しましょう」

「「「わー!!」」」

 それに釣られて、子供たちの包囲が緩んでそして脱出する。

 本当に溢れんばかりの元気だった。

 果たして己にそんな時期があったかと、もはや薄い過去への想起に眺めながら。

 

「こらっ、知らない人に無遠慮に群がるんじゃないガキども、というか仕事はどうした!!」

「ヤベ、村長だ!!」

「逃げろー!」

 村の奥から無邪気さを叱り声に 子供たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていくだろう。

 ぼさぼさとした髪をした変哲もない青年が歩いてくる。

「村長さん。この人が外からやってきた人です。褒めてくださいえっへん!」

「おー、偉いぞ"ミティ"」

 その影に隠れる子供を褒めて。

 齢は精々20前後か、話を聞く限りこの村の代表者とのことだったが、ただ随分と若い。

 

【先導者の資質】【農筋】【責務を継ぐ者】

 しかし、ただ確かに、上に立つ者としての威風を感じるだろう。

 リウ村の大人たちと同じ筋肉の付き方、農作業に鍛えられたそれも懐かし親近感を覚える。

 

「すまないな旅人さん。うちの子らが加減をしらなくて。新興の村だからな、外からくる奴が珍しくて仕方ないらしい」

「いえ大丈夫、想定外で勝手に固まってただけだから。ほんと元気な事は、良い事です」

「ああ、まぁ、元気すぎて持て余す事も多いけどな」

 確かにと、互いに苦笑する。

 子供の様子はその社会の健全さを表すという、その様子一つでここはいい村なのだろうと思う。

 

「改めてようこそ『ガランド村』へ、俺は代表をやらせてもらってる"ヴィジ"っていうんだ。旅人さん名前はなんていうんだ」

「ぼくは、リウ・カイト。まぁ見ての通り冒険者をやってます」

 そのまま彼らは、世間話に言葉を交わし合うだろう。

 

「カイトさんか、とにかくせっかくの客人だ。大したもてなしもできないがよければ家に来て休んでいくといい」

「え、いいですよ立ち寄っただけで、そんな悪いし」

「気にしなさんな。俺たちも村の外の話が気になる、もうすぐ夕餉だ遠慮せず食ってけ食ってけ」

【先導者の資質】【爺の黨訓】

 何処か愛嬌のある雰囲気その言葉、それは似つかわずの年の功を感じさせられる。

 若葉の少年はそれに招かれて、てこてことその後を村長を呼んできた子供が付いてくる。

 ―――見知った―――初めての―――村の奥へと案内される。

 矛盾する、それはとても奇妙で変な気分だった。

 

 

 

 

 

●●●

 

 

 

 

―――よく知っている―――それでいて知らない―――

 補修が重ねられたとある住宅の中。

 そこに招かれて、その応接間に案内されてそこに気楽に座って。

 昼食と言った通り目の前に料理が並べられていく。

 

 大人たちも外の人間が興味があるのか、手土産を片手にちょっとした宴染みた雰囲気となるだろう。

 

(前も村長さんが使ってたなぁ……、一番大きいからなここの家)

 またそんな奇妙な感覚に、戸惑いながら。

 

「おぅまだ少し早いが、外からの客人を祝して」

「「「乾杯ーっ」」」

 乾杯の号令と硝子のぶつかり合う音が響く。

 憶えある、裏の小山の麓に自生している果実を発酵させた酒だろう。

 どこに暮らしを改めても、人間という生き物はお酒への情熱は忘れられないものらしい。

 

「冒険者さん、粗茶になりまーす」

「えっと、ありがと」

「いえーごゆっっくり」

 何故か、そのままテコテコ付いてきた"エティ"と呼ばれた子供が、お茶入れ引っ込んでいく。

 長居はする気もない為、お酒を断ったが。

 野草を煎じた以外のきちんとしたお茶など、この田舎では嗜好品である。

 改めて己が客人として招かれている事を自覚して、申し訳ない気持ちが加速する。

 

 その中で。

 

 若葉の少年は言葉にして語る。

 最近自身が体験して見知った話を。

 『高山都市』(ドゥナ・ロリアック)の事、『増殖の氾濫』と呼ばれる大反乱の話を。

 

「―――まぁ、こう言うことがありまして」

「ほうほう、知らない間に外ではそんな騒がしい事になってたのか」

【政治知識Lv1/5】

 それを聞いて、村長と呼ばれた男は興味深そうに頷くだろう。

 

「話に聞く限り、信じらねぇとんだ化け物だな。そんなん相手してよく生き残ってるなアンタ!」

「おう、法螺じゃなければ、ニーチャンはもしかしてとんでもない凄腕だったりするのか?」

「いや、ぼく程度ならごまんといると思う。冒険者ランクもまだBだから」

 否定してなお、そこに認識のズレは割とあったりする。

 冒険者としてのカイト等は"戦闘特化"と呼ばれる中でも、生き急ぎ過ぎたランク詐欺といえる練度に至っている。

 

 道標となる先達も環境による知識の素養も恵まれない為、彼程度ごまんといるのも事実だ。

 なお"在野"においては珍しい。もはやそこまでの鍛錬と修羅場を踏破している。

 ただこの世界において出会う、強烈な異彩を放つ連中に感覚がマヒしているだけである。

 

 しかし、若葉の少年の話をよく考えずに、村人達は真に受けて。

 

「はーなるほどだ。いやー世界は広いな!」

「一角獣の嬢ちゃんも『巡礼使』(クソ共)を涼しい顔で駆除した位が、割と外の世界では当たり前なのか」

【農筋】

 そりゃ安心だと、深く考えずにわはははと大騒ぎするだろう。

 "リウ村"と同じ、大人達は日々の貧しさに忙しさが、それ以上に心を回す余裕はないのだから。

 だからこそ、世界の広さに焦がれ夢見てそして何より実現した"親友"(オルカ)は空に繋がった僕等の憧れの星だったのである。

 

 それはそれとして、一頻り笑った後に。

 酔っ払い特有の脈絡のない話題転換に、宴は切り替わるだろう。

 

「にしても村長、やっぱり井戸だけじゃ水が足りねぇさ」

「わかってるが、上流の湖はあの"狐獣"が居座って使えん。今モンスター相手に、人やってもけが人が増えるだけだ」

【村人】【農筋】

 一つの話題提起にぽつぽつと不満交えた意見が溢れ出す。

 そも、小さな社会の宴というのは団結の再確認と同時に、今後を話し合う場でもあるのだ。

 

 きっと、その癖という奴だろうと。

 部外者である彼は、傍に想いながら茶をすすりながら聞くだろう。

 

「保存食の貯蓄は計画通りだが。旅人さんの外の話を聞くに、そもそも見積もりが甘いんじゃないか」

「そうだそうだ国は一番大変な時に、何も助けれくれんかった」

「んだ、やっぱり税はもう少し待ってもらった方がいい。とてもじゃねぇが余裕がねぇよ」

 この『聖錬国』という、人類最大の生存圏は他の領域に比べて遥かに平和だ。

 しかし、四年事に必ず訪れる"大襲撃"(スタンピード)には備えるのは当然だろう。

 数日で片が付く『王国』とは違い、『聖錬』のそれは闊歩する『八罪十罰』が全て討伐されるおおよそ数か月の長きに続くのだから、備えなければ飢えて死ぬのである。

 

 脅威が多い、備えることが多い。

 故に働いても働いても苦しい、貧しい。若葉の少年にも覚えのある話だ。

 

 その不満の声を―――

 

「いや近いうちに税は収める。次の更新にはこの村を地図に乗せてもらう。知識の伝道者たる"賢人会(キルヒア)の牧師"を派遣してもらわない限り、俺達は先細りなんだ」

【先導者の資質】【政治知識Lv1/5】

 この地獄めいた世界において、木っ端の村々など十数年で滅んで入れ替わる。

 その中で税を払わない限り、国が定期的に災害に更新するだろう"地図"に表記されない。

 それは世界に認知されない、存在しないのと同義である。

 

「余った食糧を売り、岩塩を掘ろう。そのゴルで将来的に絹を織ろう。今の俺達じゃない。未来の子供たちの為に」

【高等教育】【責務を継ぐ者】

 彼は現実に胸を一杯にしない、先の見据える者の視点に語る。

 地図になければ行商人が来ない。知識の伝道者たる"牧師"もそんなところには出向かないだろう。

 それに例えば、国の都合に追い出されても何の権利も主張できないのだと。

 

「まぁ村長さんがそういうなら、従うけどよ」

「アンタが言うなら間違いねぇさ、"ホビンの街"から逃げられたのもアンタのおかげだ」

 

「こら馬鹿ども!こんな時に空気読まんかい!!」

「ほらどいたどいた!飯の時間だよ!」

 そんな会話の最中、覇気に満ちた女性の声が響くだろう。

 そんな勢いのまま夕餉が運ばれてくる。逞しい村女たちの手で、広い食卓の上に並べられるのである。

 

「あーっやだやだ。この酔っ払い共、旅人さんに関係ない話で盛り上がってさ」

「そういやそうだ。すまんな旅人さんよ!関係ない話で盛り上がっちまって!!」

「いえ、全然面白かったです。よく考えてるなって」

 その謝意に、若葉の少年は思ったままに声に出した。

 "ヴィジ"と親しまれる村長は意見を聞きながら、決して流されない得難い(強い)リーダーなのだろう。

 あぁ彼はこの短い間に、彼らが好きになりつつある。

 

「そういってくれるとありがたいさね。さぁさ、旅人さんも遠慮せずにお食べなさい。お口に合うかは分からんがね」

【田舎料理】

 土臭い麦粥、乏しい肉の代替えになる豆の煮もの、そして少しばかり肉の入ったシチュー。

 客人がいるからか少し背伸びしたのだろう。

 しかしどれも懐かしい、懐かしすぎる田舎の食事である。

 

「いただき、ます」

 若葉の少年は、穏やかな雰囲気を纏った老年の女性に促されて。

 両手を併せて礼を、木を掘り出した素朴な食器を手にして麦粥を口に運ぶ。

 

 それは予想通りに。

 

「……っ土の味がする」

 噛み締める。人が変わっても、土は変わらない。それは間違いなく故郷の味だった。

 思わず、自然に一筋の涙が零れて落ち、そのまま麦粥の上に滴るだろう。

 皆で、堆肥を撒いて種をまき、朝に昼に日々必死に耕して。

 刈り取り後に大地に感謝を込め、お礼肥えしていた。みんなが育てた畑の土の味である。

 

「ど、どうしたんだい。口に合わなかったかい?もしかして泣くほど不味かったかい??」

「いえ、大丈夫おいしいです。ただ懐かしくて」

 その心配を否定するように、麦粥を改めて掻き込んだだろう。

 あぁ無駄になってない。時間に流れに押し流されて無為になってはいないのだ。

 彼の滅んだ故郷"リウ村"の残り香がここにある。

 

 ただただ走る事に必死になって、忘れていた情動。それが涙になって零れただけだ。

 

「おい、もしかしてアンタ―――いや、いい。もう返せるものじゃない聞かんでおこう」

「うん、きっとその方がお互いに、いいと思う」

 流石に村の人達もその涙で察する共感する、きっと境遇は同じなのだから。

 彼らとて同じく理不尽に襲われて、故郷の残骸に居場所を何とか見つけ出した放浪者なのだ。

 それ以前に、そこに暮らしていた人達がいるのは道理である。

 しかし、そんな巡り会わせがあるとは思わなかった。

 察して、どこか神妙な雰囲気になってしまうだろう。

 

「まぁ辛気臭い話になっちまうが旅人さん、俺らの話を聞いてくれないか」

「うん」 

 つらい記憶だ。お互いに深く知る必要はないだろう。

 それでも村長は語りだし、少年は聞き入る。きっとそれはケジメの話である。

 

「ここから北に山を二つ越えた所に、"ホビン"って町があったんだ。そこにガランドっていう法螺吹き爺さんがいた。呆れられつつ、町のみんなに親しまれたみんなの爺さんが」

―――【辺境のギルド長】【好々爺】【法螺吹き】

 何処か懐かしむ様に、彼は語るだろう。

 彼らにとって子供の頃から、冒険者ギルドのマスターをやっていた爺さんだった。

 この町の幼子は纏わり付くように遊び、彼の口から飛び出す何処か盛ったような冒険譚に、からかって面白がりながら成長するものだ。

 

巡礼師(マローダー)の襲われてあっさり滅んじまったけどな。俺らはそこから逃げてきた。爺さんたちの足止めで、運がよく助かった」

「………」

 その言葉の反面、村長と呼ばれた彼の目に後悔はない。

 捨てることでしか拾えない事もある。

 上に立つ者として彼にはそれが自然と理解できた。

 それが幼いころから慣れ親しんだ、もう一人の父の様な誰かだとしても、だ。

 

 フラッシュバック、目頭の熱さに一呼吸、息を吸って。

 

「ただ、捨ててきた者を、俺らの恩人の名前を忘れちゃいけねぇだから爺さんの名前を村に名付けた。あんたの故郷の名前、教えてくれないか。墓標の土台に刻んでおくからよ」

「―――"リウ村"、それが故郷の名前です」

 この世界の人間なら、特に滅びの近い田舎育ちなら薄っすら認識している。

 死後の世界などなく、"死"が土にマナに還る事だというならば―――

 その境目などはまさに運命の悪戯、生きるというのは死者の上に立っている様なものだ。

 

 だから、忘れてはならない。忘れたくない。

 祈るべき神もなく、死後の世界がないこの世界で、それでも石碑()を立てる理由なのである。

 

 

「その、ありがとう。この二文字だけでも僕等の事、覚えてくれると嬉しい」

 若葉の少年はそう言ってほほ笑んだ。

 原風景は、歴史の一文字も満たさず終わるだけ、そう思っていたのだ。

 それが倒れて土に還る時、小さな花どころか、誰かを育む作物が育っている。

 

 それでこそ、この残酷な世界の無常が、少しは晴れた気がするのだから。

 

「なーんてな、すまないなせっかくの食事に辛気臭い事を!今日は大盤振る舞いだ。旅人さんよ幾らでも食ってくれ」

「お、さっすが村長ふっとぱらー!!」

「お前らの分はねえよ!自重しろ酒樽があっという間に空になるわ!!」

【農筋】

 そんな事は忘れたと過去の話は、今日の享楽に陽気に笑い飛ばす。

 あぁ、リウ村の大人たちもそうであったなと、懐かしく目を細めて。

 彼も彼で、豆の煮ものを摘まんで口に運ぶ。やっぱり、それは土の味がしただろう。

 

 

 

●●●

 

 

 そして。

 宴も終わり、それぞれ一人一人と自身の帰る場所へと戻っていくだろう。

 多少静かになったそこで。

 

「あぁそういえば、旅人さん。真っ白な一角獣の様な剣士を……"リンネ"さんって言ったかな。もしかして、知ってたりするか」

「一角獣、リンネ、さん?いえ知らない名ですね」

 酔っぱらってふと、思いついたような言葉に反応する。

 若葉の少年はその言葉に記憶をひっくり返すが、やはり思い当たる節はない。

 雑多な冒険者である、まだまだ交友関係は狭い。

 

「そうか残念だ。町を襲った巡礼師(マローダー)を全部駆除した恩人だ。見かけたらでいいから一言、言伝を頼まれてくれないか」

 少年はその言葉に目を驚きに瞬かせる。

 一般的に公共の敵(パブリックエネミー)である『巡礼師』(マローダー)という存在。

 『預験帝』という未開の暗黒地帯にばらまかれた、それの戦闘能力は冒険者でいえば戦闘特化のAランクに相当すると言われている。

 それを須らくぶち壊したという。つまりは若葉の少年にとって、遥か格上だろう。

 

「あの人は"間に合わなかった"って俯いて悔いていた。だからよ、間に合ったと。気が向いたらここに、俺らはいつでも歓迎すると伝えてくれ」

「わかりました。きっと名が売れた人だから見かけたら間違いなく」

 彼はその耳にしたその特徴を心に刻む。

 "幻獣"に例えられるとすれば、とても目立つ人なのだろうとなんとなく思い馳せて。

 

 きっと、とても優しいの人なのだろうと想像を膨らませて。

 そういう人がこの世界に確かにいて会える可能性があるならば、それはそれで楽しみだった。

 

 生まれて滅びて、また生まれる。

 残酷なれど、確かに廻る世界の一ページの事だった。

 

 

 





 何か微妙に村人たちも精神強くない???(想定外)

小ネタ。
・この村の住人は  https://syosetu.org/novel/154988/71.html
 のお話で滅びた街で生き残った人達になります。
 法螺吹きの爺さんと、一瞬の英雄録に準じた冒険者たち。
 それにリンネちゃんが割と頑張ったので、子供含めて結構な数生き残りました。

・リウ村について、『死神』(スケィス)が襲撃に
 【JUDGEMENT】で村全体凍結させた為、割と状態が保存されて残りました。

・小さいエティちゃんは村長さんをひそかに狙っている。
 お手伝いで外堀を埋め埋め。

・『農筋』は農作業に鍛えられた、反復行動に適したストレス耐性と。
 農作業という、繰り返す重労働に適した筋肉の付き方を表します。
 カイト君も冒険者のはじめの頃持ってたもんで、
 瞬発力を発揮する為の矯正にえらい苦労しました(オルカの指導)。

・応竜ことたーちゃんの出身の村も、
 これに比べればお淑やかだったけど、大体こんなもんだと思ってください。
 とっくに滅びて完全に風化しましたが、
 その愛の土壌に、ずっと抱かれてると勘違いしてる。
 その愛された分だけ、この世の全てを愛し返そうとする気狂いになります。
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