艦隊これくしょんの二次創作になります。

主人公である提督は初期艦として漣を選び艦隊運営をはじめます。
提督から見た漣の姿を書いています。
苦いような甘いようなそんな物語です。

前作とは関係のない世界のお話です。
pixivにも同じものを投稿しています。

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私は初期艦〝漣〟のことがわからない。

   No.069 漣  綾波型9番艦 駆逐艦

   特型駆逐艦の19番目、綾波型でいうと、9番艦の漣だよ。

   読みにくいって? 貴方が字を知らないだけヨ。

   南雲機動部隊が真珠湾でボコボコやってる時、

   ミッドウェー島砲撃を敢行したよ。何気に凄くない?

 

***

 

 小柄な少女がニコニコしながら私の前に現れた。ピンク色の髪を丸い飾り付きのゴムでツインテールに結っている。

 着用しているのは白地にやや青みの強い紺のセーラー服、右腰には柄物の大きな缶バッジをつけている(後で調べてわかったことだが、小さな波を模した漣柄と言うらしい)。ショルダーストラップを付けた12.7㎝連装砲を装備しているのはわかるが、使い魔なのかうさぎに似た謎の生物が砲にしがみついている(これについては調べてもわからなかった)。

「綾波型駆逐艦漣です、ご主人様。こう書いてさざなみと読みます」 

 彼女は私の机の上に置いていた紙に鉛筆で〝漣〟と書き手渡してきた。失礼だが、見た目に反してなかなか良い字を書くなと思った。

 字の方が気になっていて聞き流していたが、今この娘は私のことを何と呼んだ?紙から顔を上げて目の前の漣の顔をまじまじと見る。

「ご主人様?」 

 彼女は初対面の私のことを〝ご主人様〟と呼ぶ。

 

 私は初期艦〝漣〟のことがわからない。

 

***

 

 提督としての初仕事は鎮守府近正面海域の出撃任務であった。そこで私は漣の夜戦突入を初めて見た。

その時点で漣は中破しており、上着が盛大に破れ、スカートも焼け焦げてイチゴ柄の下着が見えていた。

「逃げられないよ! 漣はしつこいからっ!!」

 普段執務室でおちゃらけている彼女とは全く違う、獲物を狙うタカのようなギラギラとした目をしていた。

 漣は見事に魚雷で敵を仕留めた。

 硝煙と海水が混じった匂い。焼け焦げボロボロになったセーラー服を纏い、彼女は私のところに戻ってきた。

「いつもふざけていると思われがちですが、まぁちょっと本気は、凄いでしょ、ね?」

 右の髪留めがちぎれ飛び衣服は見るも無残であるが、執務室で見るいつもの彼女に戻っていた。

 

 私は初期艦〝漣〟のことがわからない。

 

***

 

 艦隊の練度もそこそことなり、ここ数日はキス島沖へ出撃している。敵艦隊は手ごわく、何度も何度も失敗しながらの毎日だった。

 旗艦は漣、二番艦に曙、電、雷、島風、と続き、しんがりは幸運の駆逐艦雪風だ。

 何度目の挑戦であろうか、我が艦隊は最深部まで進撃し、敵キス島包囲艦隊との戦闘に入った。敵を右舷に見ながらの砲撃戦である。敵艦隊はしぶとく小口径砲の砲撃ではそれほどダメージを与えられない。一方、敵の砲撃はなかなか正確であった。昼戦の間に曙、電は中破。雷は大破してしてしまう。

 戦闘は砲撃戦から雷撃戦へと移行した。旗艦漣の魚雷は敵旗艦軽巡ホ級へ命中し大破まで追い込む。島風の魚雷は輸送ワ級のどてっぱらを突き破り、見事撃沈。雪風の魚雷は中破していた軽巡ト級に命中し大きな水柱が立つ。水柱が消えるとそこには何も見当たらない。轟沈である。一方、敵の雷撃が電に集中し大破してしまう。夜戦の戦力が削がれる。

「逃げられないよ! 漣はしつこいからっ!!」

 艦隊は夜戦へと突入した。夜戦に参加できるのは漣、曙、島風、雪風の四人だ。

 夜の闇を劈き、漣の砲撃は駆逐ニ級を襲う。二斉射目で撃沈する。二番艦曙は中破し黒煙を上げながらも奮戦する。曙の砲撃は駆逐ニ級の装甲を突き破り撃沈。駆逐艦の意地を見せた。続く島風の12.7㎝連装砲が火を噴く。二斉射で輸送ワ級の息の根を止める。残るは大破した敵旗艦のみである。しんがりの雪風は冷静に砲撃を叩き込み敵を葬り去った。

 我が艦隊は見事敵艦隊を殲滅した。

 彼女たちはあちこち焼け焦げ、黒煙を上げ、ボロボロになりながらも帰投した。この戦闘でのMVPは雷撃戦で敵軽巡を撃沈し、夜戦においては敵旗艦を撃沈した雪風であった。

 彼女たちが執務室に入ってきた。MVPを取った雪風がニコニコしながら私の前に立った。

まるで小動物のようであったので、私は無意識に雪風の頭に右手を乗せて撫でた。

 そのときである。私は目の隅にある光景を捉えた。夜戦に突入した時に見た、射るような眼差しで私の右手を見る漣の姿を。

 私はハッとして雪風の頭に手を置いたまま、漣の方に顔を向けた。だが、私の目に映ったのはいつものようにいたずらっぽく笑う少女の姿だった。

「艦隊のただいまです、ご主人様っ」

 

 私は初期艦〝漣〟のことがわからない。

 

***

 

 艦隊の練度もぐんぐん上がり、我が艦隊では曙が一番最初にレベル99に到達した。

 ケッコンカッコカリシステムが実装されたので、さっそく書類一式と指輪を用意し、曙とケッコンカッコカリをした。普段憎まれ口ばかり叩いている曙は真っ赤になり動揺してしどろもどろになっているのが愉快であった。ケッコンすれば曙の憎まれ口も少しは減るだろうかと思っていたが、そんなことはなかった。

 

 今週の秘書艦は曙にお願いしているが、今日は昼から曙が演習に出るため1200より漣に交代する予定だ。

 時刻は1145。私は曙と遠征計画を練っていた。

「なんでボーキサイトだけこんなに備蓄が少ないのよ!?管理がなってないんじゃない?」

「ああ、紫電改二の開発を頼んでいたらだな……」

「もっと計画を立てて開発しないと。これだからクソ提督は……」

 ノックもなくガチャリと執務室の扉が開く。顔を上げて入口を見ると漣が突っ立ていた。漣は元々丸い目をいつもより丸くして黙って立っていた。

「おう、なんだ早かったな。そんなところに立ってないで中に入れよ」

 漣は何も言わず、後ろ手で扉を閉めてトコトコと窓に向かって歩いた。窓際に立ち、ニヤニヤしながら私たちの方に視線を送る。口には出してはいないが、あらあらお熱いことでとでも言いたげな視線である。だが、私が目を合わせると、くるりと反転して窓の外を眺めはじめた。小雨が窓ガラスを濡らしている。

 漣のニヤニヤした視線を浴びた曙がどんな顔をするかが気になり、私は横目で曙の様子をうかがった。曙は眉間に少ししわが寄っていたが頬を赤らめやや恥ずかしそうにしていた。

 漣は外の景色を眺め続けていた。荷役用のガントリークレーンが小雨に降られながらゆっくりと動いている。窓ガラスに写る漣は目を少し細め唇をとがらせていた。

 曙は広げていた書類を几帳面にまとめながら窓の外を見た。

「嫌な天気ね。降るんなら思い切り降ってしまったほうが諦めもつくのに……。漣、じゃあクソ提督のこと頼むわよ」

「やるよ~、ほいさっさ~」

 漣はいつもの明るく人懐っこい声で答える。窓の外を見たまま。

「クソ提督もサボるんじゃないわよ!」

 そう言って曙は急ぎ足で執務室を出て行った。

 

 室内は二人きりになった。30秒ほどの静寂ののち、一瞬風が強く吹き付け、窓ガラスに雨粒がザっと当たった。それを合図にしたように漣はくるりと勢いよく回れ右をした。遠心力でスカートがふわりと浮き、上着も空気を含んで捲れてチラリとお腹がみえる。トレードマークのピンクのツインテールが揺れる。

「漣もたまには真面目に、お仕事お仕事っ」

 いつものいたずらっぽい笑顔の漣が小首をかしげてこちらを見ていた。

「どうしたの? ご主人様」

 

 私は初期艦〝漣〟のことがわからない。

 

***

 

 連日、演習、出撃、遠征にと忙しい毎日である。そんな中、午前中の演習で我が艦隊で2番目にレベル99に到達した艦娘がいた。初期艦「漣」である。

 段ボール箱が積み重ねられ、お世辞にも綺麗とは言えない備え付けの赤いカーテンが下げられているだけの部屋。そこからこの鎮守府での生活は始まった。漣と二人きりで……。

 その初期艦がついにレベル99になったのだ。

 漣は自分がレベル99になったときには特別な感情を示さなかった。少なくとも私にはそう見えた。今日の秘書艦として彼女は今まさに目の前にいるが、いつもとなんら変わらない様子である。窓際に設置しているタンスの上に座っているうさぎを指でつついて遊んでいる(未だにこのうさぎが何者なのかわからない)。

 私は今日の暦を確認する。〝大安〟の二文字が目に入った。

 私はやにわに立ち上がると、

「ちょっと出てくる」

と漣に言い残し部屋を出た。部屋を出る際に、驚いたような漣の視線を感じたが、今は目を合わさない。目的の場所まで早足で急ぐ。

 

「おい、俺だ」

 扉を軽くノックすると、カチャリとドアノブが回り、軽巡洋艦大淀が右手をメガネにあてがいながら顔をだした。彼女は艦娘として着任したのは後になってからだが、任務娘として最初期から鎮守府に在籍していた。長い付き合いである。

 私は挨拶もせず本題を切り出した。

「預けていたものを出してくれ」

 大淀は一瞬目をぱちくりさせると、なるほどといった表情をして私を招き入れた。大淀は左の壁にかかった絵画の後ろに手を入れ何かを操作した。するとカチッっと音がして壁の一部が開いた。壁の中に隠し金庫を設置していたのだ。彼女は金庫の中から書類と小箱を取り出し、私のところに持ってきた。

 私にそれらを手渡すと、無言でサムズアップをしてメガネの奥からウィンクをバシバシ飛ばしてくる。

「……うっとおしい」

 だったら私に預けなければいいのに、という抗議を二人分の間宮券を握らせることで黙らせる。明石と一緒に行ってこい。

 執務室の金庫に保管しておくという選択肢もあったが、不安だったのだ。いたずら好きの駆逐艦が集まると正直手に負えない。彼女たちにはギンバイなど朝飯前だ。一度、執務机の錠が開けられていたこともあった。であれば、駆逐艦娘が手を出さない場所に預ける方が得策だと考えたのだ。

 

 さて、これで準備は整った。執務室の扉の前に立ち、自分の格好を点検する。

「よし」

 一度深呼吸をしてから、扉を開ける。

 

 漣は執務机の私の椅子に座りうなだれていた。目を伏せ唇を少しとがらせて。扉が開いたことに気づくと、ビクッと身体を飛びあがらせるように頭を上げ目を丸くしてこちらを見た。目元は少し赤らんでいるように見えた。

私はまっすぐに執務机の前まで進む。懐から小箱を取り出し、中の指輪を取り出した。

 

「お帰りなさいませー、ご主人さまー……って、あれ? 提督、マジ顔って、あれ? あれれ!? ……えぇ?」

 

 驚愕の表情に喜びが交じり合い、両目に涙を溜めた少女が目の前にいる。誰よりも長く鎮守府で過ごし戦った少女だ。

 

 私は先ほどの漣の一言を聞き逃してはいなかった。

「〝ご主人様〟じゃなく〝提督〟……ね……」

 それを聞いた漣は大きく目を見開いて私の顔を見たと思いきや、即座に下を向いた。耳を真っ赤にしながら何やら口をもごもごさせている。私が口を開こうとすると、スッと息を吸い込む音が聞こえた。と同時に、漣はぐいと顔を上げ私と目を合わせる。

 口元を少し緩ませ、目を潤ませながら彼女はこう言った。

 

「ご主人様! 調子に乗ると、ぶっとばしますよっ!」

 

 私は初期艦〝漣〟のことが……。

 

***

 

   漣(さざなみ)は、ちょっと変わり者の艦娘。

   根は真面目で実力もあるが、

   風変りな言動と行動で人を惑わす。

   本当はちゃんとお話ししたいと思っている。

 

 




 艦隊これくしょんの世界において、ひねくれている駆逐艦と言えば、曙、霞、満潮あたりを挙げる方が多いと思います。では、初期艦の漣はというと。選択画面の紹介文にあるようになかなかひねくれているというか、こじらせているなと感じたわけです。ピンクのツインテという強烈なインパクト。何だか一世代古いようなインターネット用語。これはなかなかのものだなと思ったわけです。
 私は第七駆逐隊が好きなのですが、そのなかで実は一番表裏の差が大きいのは漣なのではと考え始めてから妄想が膨らみ、このような形になりました。
 物語を書く上で、なるべく原作の台詞を使おうと考えました。多いとは言えない台詞をどのように組み合わせていくか、楽しくもあり悩みどころでもありました。
 また、この提督は最初にケッコンしたのが曙、二番目が漣ということになっていますが、これは私の艦隊と同じ順番です。キス島の編成もクリア当時のメモを引っ張り出して確認しました。戦闘結果はちょっと違いますけど。
 漣はいいぞ。第七駆逐隊はいいぞ。七駆はみんなかわいいぞ。

 また、何か思いついたら書いてみようと思います。


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