手に入れたゆかりパーカーが呪われていた話。

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探せばありそうなネタだったけど、見つからなかったから書いた。


呪いのパーカーで結月ゆかりにされる話

『ねんがんの ゆかりパーカーをてにいれたぞ!』

 

『「殺してでも うばいとる」されたいのかお前は』

 

 友人とSNSのメッセージでくだらないやり取りをしながら、改めて手に入れた品を手にとって眺めた。

 

 ゆかりパーカー。

 テキスト読み上げ音声ソフトウェア、VOICEROID。そのキャラクターである結月ゆかりが身につけている、黒い布地に裾の赤いラインが格好いいパーカーだ。パシャリ

 

 いわゆるコスプレ用のアイテムなのだが、「普段使いもできるデザイン」である……らしい。

 普段、服には無頓着だからよくわからん。パシャリ

 

 フードに付けられたウサ耳がモチーフのアクセントは、動物というよりは機械っぽく、格好良くも可愛くもある。

 

 背中にあるエンブレムだけは、結月ゆかりを知らない人が見てもウサギがモチーフであることが分かってしまうデザインのため、その点だけは男の自分が着るのは恥ずかしい気もする。

 ……カバンを背負えば隠せるだろうか?パシャリ

 

『テンション任せに写真撮って送りまくるのを止めーや。ホントに奪いに行くぞ。……っていうか、サイズ合ってるのか確認したの?』

 

「パシャリ、っと……おっと、つい自慢癖が。『すまんすまん、調子乗ってた。サイズは注文通りなら問題ないはず』」

 

 そういえばちゃんとは確認してなかったな、と思いパーカーに袖を通してみることにした。

 

「んしょっ、と……。ん、いい感じじゃね?」

 

 やはりこの黒が格好いい……じゃなくて、サイズサイズ。

 ……うん、ぴったしだな。

 

 ついでに洗面所の鏡で見栄えを確認。悪くない。

 

 ……問題はやはり背中のウサギか。鏡越しに見ても、ここだけが可愛いすぎて俺には似合わん。

 

「着るなら背負いカバン必須かな、こりゃ」

 

 だがやはり、格好いい。

 使わずに飾っておくだけではもったいない。

 軽くポーズを取って、一枚撮影した。

 

『また写真……まぁいいや、なるほど悪くない』

 

『だろ?普段使いおkってのも間違いじゃなさそうだわ』

 

『ふーん。……ん?まさか明日着てくる気?確かそれ背中にウサギ……』

 

『分かってる、分かってるから。ちゃんとカバンで隠すから』

 

 そこだけ隠せていれば、ちゃんと格好いいパーカー……だよな?

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 異変に気づいたのは、翌朝だった。

 

「ん、んんぅ?……モミアゲだけが、伸びてる?」

 ナンダコレ?

 

 最後に理髪店に行ってから少し経つが、前髪も後ろ髪もまだそんなに伸びてはいない。

 モミアゲだけが、他の部位と比べて伸びていた。

 

「自分で切……ったら変なことになりそうだしなぁ」

 

 あまり器用じゃないし、その内時間があるときに店に行こう。

 そう決めて、昨日届いたゆかりパーカーに袖を通した。

 

 ……そういえば、ゆかりはモミアゲが長めだったな。長さもメタルマカロンも足りないが。

 

 そんなどうでもいいことを考えながら、カバンを背負って待ち合わせ場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、ハァ……」

 

 やけに背中のカバンが重く感じる。

 ノートパソコンが突っ込まれているとはいえ、ここまで重かっただろうか?

 

「おー、来た来た。おはよーさん……って、ダイジョーブ?」

 

 待ち合わせ場所には、よく見知った女子が一人待っていた。

 少し待たせてしまったか。

 

「っ、あぁ、おはよう。大丈夫だ、問題ない」

 

「それダメなやーつ……いや、ジョーダン言えてるからダイジョーブなのかな」

 

 所々で間延びした喋り方をするコイツは、何を隠そう昨晩のSNSでの会話相手である。

 同じサークルに所属している同級生だ。

 デザイン関係が得意な彼女とは、よく作業分担をする。今日集まったのもその関係だ。

 

 なお彼氏彼女の関係ではない。残念ながら。

 

「それにしても、ホントにそのパーカー着てきたんだねー。髪と相まってちょっとゆかりちゃんっぽ---んぅ?なんか髪が変?エクステ?」

「あ、あぁ……ちょいと歩きながら話すか」

 

「ほいさー」

 

 朝のことを話しながら、サークル室に向けて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日の写真と比べても明らかに伸びてるけどー……もみあげだけが一晩で、ねぇ……」

 

「我が事ながらおかしな話だと思うよ……」

 

「んー、本物ー?ホントにエクステとかじゃない?」

 

「本当だし本物だってば。……イテテテテ、引っ張るな引っ張るな。痛いから。本物だから」

 

「ゴメンゴメン、確かに本物みたいだねー。……んー、部屋着いたら切ってあげよっか?」

 

「いや、明日にでも髪切りに行くからいい。他の奴の邪魔になるかもだし。……っていうか部屋に髪切れるようなハサミあったか?」

 

「1つくらい有るでしょー。無かったとしても、彫刻刀やカッターなら間違いなく有「止メロォ!?」……ジョーダンだよ?」

 

 

 

 

 サークル室に着き、さっそく作業を始める。

 普段なら彼女はアナログ担当、俺はデジタル担当なのだが、今日は彼女の手伝いだ。

 それでも多少は自分の作業も進めるつもりのため、持ってきたパソコンとコンセントを繋ぐ。

 ……そういや充電忘れてたな。まぁ手伝っている最中に終わるか。

 

「……そういえばさー、ゆかりパーカーってそんな色だったっけ?」

 

「うん?格好良い黒だろ?」

 

「いや、そこじゃなくてー。ラインとか裏地とかの方。もうちょっとピンクに近い色じゃなかったっけー?」

 

「んん?……いや、こういう赤色じゃなかったか?」

 

「そうだっけー……?」

 

 おかしな事を聞くなぁ。

 でも、言われてみれば……本来はどうだったっけ……?

 

「……まぁいいや、さっさと作業始めよう」

 

「……りょーかいー」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「ただいまー……」

 

 作業を終え帰宅した時には、やけに強く感じる疲労感で倒れそうだった。

 昼休憩挟んだとはいえ、普段やらん作業をやって、相当体力使ったかなこりゃ……。

 

 手で触れた床の冷たさが心地良くて寝……いやダメだダメだ寝るならせめて着替えてシャワー浴びてからじゃないと。

 

 睡魔に負けそうな体を律して風呂場へと向かった。

 そうして服を脱いで熱い湯を浴びようとして---妙な違和感に手を止めた。

 

「……んん?」

 

 はて---自分の肌はこんなに綺麗だっただろうか?

 

 

「……」

 

 

 ……馬鹿馬鹿しい。なにナルシストみたいなこと考えているんだ俺は。

 疲れているのだろう。

 さっさと汗を流して寝てしまおう。

 

 

 

 

 

 そう、軽く考えていた。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「……゛ぬ゛おぉぉ…………」

 

 翌朝。

 めっちゃ気怠くて起き上がれそうにない。

 声もなんか変だし、風邪引いたかもしれん。

 

 今日は特に予定入れてないし、このまま家で過ごそう……。

 そう考えながら枕に顎を乗せ、うつ伏せで布団に包まっていると、視界に自分の髪が入ってきた。

 

 ……また、モミアゲだけが伸びている。

 それだけじゃなく、色がわずかに紫掛かっているような気がする。

 まるで、結月ゆかりに似てきているような……。

 

 

「…………」

 

 

 ……寝よう。調子が悪いと変なことを考えてしまう。

 食欲も湧かないから朝食は要らない。

 

 昼食、夕食だけちゃんと食べれば問題はないだろう。

 そう思いながら、紫掛かった瞳を閉じた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「んぁ……、むぅ……。---えっ?」

 

 さすがそろそろ起きて何か食べようと考えながら、顔を洗いに洗面所へ向かってようやく自分の異常に気付いた。

 

 黒ではなくなった髪。

 紫色の瞳。

 服の隙間から覗く、シミ一つ見当たらない肌。

 ”俺“ではない顔つき。

 

「えっ、いや、待てよ、ナン、ダ、これ……」

 

 鏡に映る顔が自分の物ではない。その事に混乱と恐怖を覚える。

 嫌な予感がして、ズボンとトランクスを引っ張りその内側を覗き込んだ。

 

 ……有る、ちゃんと有---いや駄目だこれは

 

「小、さい……?」

 

 縮んでいた。

 己が男性であることを示すはずのそれは、明らかに昨日より小さくなっていて、このまま消滅しようとしていることを示唆しているようだった。

 

「……おかしい。おかしい、おかしい!」

 

 なんだこれは?自分の体に何が起こっている?

 そもそもこれは現実なのか?

 頰を抓ってもただ痛いだけ、何一つ元に戻る兆しは無い。

 

 結月ゆかりになっていく。

 似るのではなく、そのものへと変わっていく。

 自分が自分ではなくなって行く、己がこの世から消えてしまう。

 そんな恐怖に苛まれ

 

「っ------!」

 

 たまらず叫んだ。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 ……携帯の鳴る音で目を覚ました。

 叫んだ後、そのまま色々振り切れて気絶してしまったらしい。

 

 画面を見れば、通話は昨日の彼女からだった。

 すっかり弱々しくなってしまった手で、携帯を取った。

 

「……もしもし?」

 

『もしもーし?やっと繋が---ん?あれ?……番号間違え、た?』

 

「……はは、大丈夫だよ。合ってる。風邪引いたっぽくてさ。声が変なんだ」

 

『えっ、あぁうん。そっか。昨日無理させちゃったかな?』

 

「いや、平気平気。休めばなんとかなるさ」

 

『そっか、平気そうなら良かった。結局夕方過ぎにまで付き合わせちゃったからね。早めに切り上げられてれば---……いや、おかしいでしょ。風邪引いたとしてもそんな声にはならないでしょ」

 

「バレたか」

 

『気付くよそりゃ。えっ、何事?君っぽくない声なんだけど、なんとなく君だってわかる。……裏声とも違うっぽいし、どうしたの?』

 

「……あー、いや、その……。数日は顔出せないかも」

 

『えっ、なんか思ったより重症な感じ?大丈夫?見舞いにでも行こうか?』

 

「いや、いいよ。……むしろ今は人と会いたくない、かな」

 

『う、うん……?そう言うならやめとくけど……。と、とりあえずお大事に、ね?』

 

「あぁ、ありがとう。……それじゃ」

 

 そう告げて、通話を切った。

 ……来るのはやめておくと彼女は言ったが、多分あの様子だと「やっぱり心配だったから」とか理由をつけてそのうち来かねないな。

 

「……どうしよう」

 

 呟いて、改めて自分の体を見た。

 身長も縮み始めたらしく、服はサイズが合わない。立ち上がれば、ズボンやらなんやらはずり落ちてしまうだろう。

 肌は白く、細く折れそうな腕にはどこにも男だった名残りは無い。

 伸びた髪は、すっかり結月ゆかりっぽくなってしまった。

 髪色も、白い色水にわずかに紫の絵の具を溶かしたような柔らかな色合い。

 瞳は日本人らしからぬ……というよりどの人種にもありえないアメジスト。

 

 もはや自分が自分であった痕跡は、声と、わずかに残った男の象徴だけだ。

 

 ……だが、その二つもじきに消えて無くなる。

 男らしかった低い声は、今の中性的な声を経て、最後には結月ゆかりの声になるのだろう。

 自分の性別をを示すものはどんどん縮んでいて、その内消えて逆のものが作られ始めるのだろう。

 

「……」

 

 寒い。ふとそう思って、近くにあったゆかりパーカーに手を伸ばした。

 何故か、縮んでしまった今の自分でもぴったりのサイズだった。

 薄々察していたが、この異常事態の原因はこのパーカーなのだろう。

 非現実的だが、それだけは分かった。

 

 

 分かっていながら、パーカーから手を離せなかった。

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 ……呼び鈴が鳴った。

 案の定、彼女は来てしまったらしい。

 

 パーカーに触れていたことで、体の変化はラストスパートへ。

 声はよく知るが自分の声ではなかったものに。

 体はすっかり女の子のものに。

 外見は完全に、結月ゆかりへと変わり果ててしまった。

 気にしていた背中のウサギも、似合う見た目になってしまったのだろう。

 

はい……あぁ、やっぱり。今、開けるよ

 

『りょーか……えっいや今声、……えっ、ホントに?』

 

既に、見ればわかる有様だよ

 

 そう告げて玄関のドアを開ければ、困惑した様子の彼女が居た。

 そしてその目の前には、困り顔の結月ゆかりが居ることだろう。

 

 ……裸パーカーの、だが。




続きを書くかは不明。
書くとしたら半年以上先。

4/23追記
や ら か し た
原作名の綴り間違えてやんの……。
修正しますた。(L→R)


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