薪となった不死   作:洗剤@ハーメルン

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とりあえず投稿。雑いかもです


逃走と始末と

 絶命したローガンを捨て置き、アストラはキャスターへと振り返る。だが、キャスターは剣も使えるらしく、ローガンから譲られたであろう結晶の剣を使い、更には生きている海魔を召喚の生贄とすることで数を保ちながら必死に防戦していた。だがそれも長くはもたず、アストラが援護に入れば彼はすぐに切り捨てられてしまうはずだ。

 だが、キャスターが隙を見て魔導書に魔力を込めると、アストラとセイバーが今まで切り捨ててきた海魔の体液が噴水のように地から吹き上がり、二人の視界を塞いだ。

 

 アストラは舌打ちをすると『フォース』で霧を吹き飛ばし、セイバーもまた即座に風によって周囲の視界を広げた。だが――

 

 

「おのれ……!!」

 

 

 そこにキャスターの姿は既に無く、あったのは霊体化できなかった結晶の剣と盾のみ。

 

 それを確認したアストラは両手の武具をしまうと、セイバーに切嗣を見に行ってくれ、と頼んだ。今日はしばらく森を調べてみる、と伝えて歩き出す。

 

 後半は口実で、目的はローガンの始末だ。不死人は己の人間性が無くなるまでは復活を自動で続ける。ロードランではその際に最寄りの篝火に転送されたが、ここや人の世ではそうはいかない。先のアストラのように、その場で蘇生するのだ。

 そして人の世で不死が殺される時は、固定して蘇生のための人間性が無くなるまで何度も殺す。それが通例だ。ロイドの護符は不死人の力を弱める効果があるが、捕らえられてしまうとそれすら必要なくなるほど無防備になるのだ。

 

 

「アストラ」

 

 

 その背中に、セイバーからの声がかかる。

 

 

「仕留めきれず、申し訳ありません。…………キャスターに後れをとったとなれば、剣の英霊失格です」

 

 

 そういう彼女に、アストラは言う。キャスターはセイバーに執着があるようで、放っておいても向こうから来るだろう、と。また、彼の戦闘スタイルは特異である上に、海魔の動かし方も先を見通した動かし方でかなり上手く、攻めきれなかったのは戦慣れしている相手に部下がいたからだ、とも言った。

 

 

「ですが、私は――――」

 

 

 なおも自分の責任を追及するセイバーに、アストラはじゃあ今度は頼む、と軽く言う。

 

 もっとも、アストラはローガンが目覚めるのが心配なだけであり、セイバーが悪いとも思っておらず、言葉に意味を込めたわけでもないのだが。

 そして、彼はキャスターがえらく執着していたジャンヌとは誰なのかと、続けて問うた。

 

 

「彼女はフランスの――――私とは別の国、別の時代の英霊です。彼女が私とどれほど似ていたかは存じないが、彼は私を彼女と勘違いするほど錯乱しているようです」

 

 

 すると、セイバーは、ひどく気に障ったようでなぜか敬語だった今までの口調が崩れかける。

 

 だがそれを聞いたアストラは、キャスターの生前における彼女との関係を考えそうになり、その思考をセイバーの口調を考えることで捨て去る。

 

 英雄が呼ばれる戦争であのように錯乱しているというのは、いったいどれほどの事があったのかと考えてしまうのだ。あれほどの事を起こした者に情などわかないアストラではあるが、考えない方が精神衛生上において良いということは変わらないだろう。

 

 アストラは彼女に普通に話してくれた方が言葉が短くて楽だ、と言い切ると、彼は返答を待たずして走って行ってしまった。

 

 取り残されたセイバーはアストラの性格が少々分かってきたようで、溜め息を吐くと彼女は城へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 アストラはローガンの元へ向かうと、彼の姿を見て安堵した。

 

 鎧もまとわぬ体は大剣の一閃によって肩口から脇腹へ刃が深く入り、その体を二分した。頭が付いていない方の肉塊は灰となって消滅しており、残ったのは少し足りない上半身だけだ。

 ただ、蘇生が近いのか、切断面が燃える炭のように光を放ち始めていた。

 

 早急に彼の上半身を固定するため、アストラはローガンをこの森に多い大木のそばまで引きずり、立てかける。そして、『銀騎士の槍』を構えると、ローガンの胸を勢いよく突き刺す。

 

 ローガンは死んでいるためうめき声も上げず、傷口からは血ではなくソウルが漏れ出す。

 

 アストラは全身を使って槍の先端を木と垂直に合わせると、刃の根本まで突き刺さるように思い切り突き刺した。そして、続けて『破魔の紅薔薇』を彼の腹に刃が埋まるまで刺す。

 

 ランサーから奪った『破魔の紅薔薇』。確認できたその能力は「刃の触れた魔術を魔力の流れを遮断することで強制的に停止、または解除させる」というものだ。もし槍が不死の蘇生を阻害するのであれば、その隙を利用して『ダークハンド』で一方的に吸精を行う事ができる。

 ダークレイスでも偉大なる古の者でもないアストラの一回の吸収量はそう多くはないが、何度も行えば人間性を奪い尽くすことぐらいはできる。

 

 完全に固定したアストラは『ダークハンド』を右手に浮かび上がらせる。

 

 ダークレイス達が使う業であるのだが、何度か吸精を喰らい、更にソウルである『呪術の火』と違って『ダークハンド』を構成するのは人間性である、と気づければほとんどの不死の英霊は使えるようになるだろう。もっとも、見よう見まねのそれはダークレイスに及ばず、ぶつかりあえば確実にそれを構成する人間性を吸収されるということは周知の事実であるが。

 何度か吸精を喰らって殺されずにダークハンドが何なのか理解すると言う難しい手順があるが、アストラはそれを霊体状態で喰らうことによって多少は安全に済ませることができた。霊体を構成する人間性が消え、実態を持たせるほどのソウルが漏れてしまえば霊体は強制的に元の世界に送還されるからだ。

 

 アストラはローガンの首に『ダークハンド』を纏った手を当てると、顔を近づけて吸精を行う。

 

 ローガンの口から漏れ出す人間性はアストラの兜の穴へと吸い込まれ、その先のアストラの口から彼へと吸収される。

 量はそう多くはないが、ローガンの肌が少々乾いた。どうやら、彼の持つ人間性はそう多くはないらしい。

 ダークレイスの業を使う事に抵抗感がないわけではないアストラだが、不死人を殺すにはこれが最適であり、更にはこの世界では持つ者が皆無と言える人間性の補給も行う必要があるのだ。

 

 アストラはローガンの首に込める力を強めながら、更なる人間性の吸収を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼はいったい何者なのだろう。城へと走りながらそう私は考える。

 古い神を倒し、その魂を使って世界を救おうとした英雄だという事は私も切嗣も聞いた。だが、私と同等の剣を、退魔の武器を、魔法を持つ彼はいったい何なのなのだろうか。

 武具を出し入れするのはサーヴァントと同じように魂の一部と化しているのだろう。だが、弱体化したとはいえ神を倒すなど英雄にも難しいことである。それも一人ではなく、数人もだ。

 そして、彼の剣技は才能があるといっても英雄ほどではなく、軍隊の剣豪ほどだ。だが、彼の肉体はサーヴァントと戦えるほど人間のそれを凌駕しており、剣の腕はどれほどの修羅場をくぐったのか分からないほど洗練され、騎士王である私と打ち合えるほどにもなっている。また、その武具のほとんどは常時発動型の宝具と言ってもいいほどの物である。そして、その一端しか目にしていないが、魔法の使用だ。

 彼は才能を覆すほどの修羅場や、ソウルを使って創ったという物も含めた数多の宝具集めなどをどれほどの年月をかけて行ったのだろうか。推測できる年月は、彼の外見年齢にはとうてい釣り合う事はない。ましてや魔法の習得など、メイガスが数代かけて行ってもほとんどの者がたどり着けないことを成している。

 環境が全く違う別世界のことだと割り切ればそれまでだが、そう断じるのは彼への侮辱であり、英雄としての負け惜しみとも取れるだろう。彼の話をそのまま信じるならば、彼はその身に火を放って世界を救おうとしたのだ。

 だが、彼は人に心を許しきった様子が無く、先ほども戦力としては私をある程度信じたようだが、なるべく自らの手で決着を付けようとしていた。彼が人を、味方すらも信じられなくなるようなことが過去にあったのだろうか。

 もっとも今は余計な詮索よりもキャスターを打つことが先決だ。そして、先ほど仕留めきれなかったのは私の責任だ。彼は仕留めたというのに私は逃してしまった。次こそは――――

 

 

 

 

 

 

 

「アイリ、もういいよ。休んでてくれ」

 

 

 キャスターの逃亡をアイリが確認し、セイバーが戻ってきているのがパスで分かった。謎の魔術師についてはアストラが始末したみたいだ。

 

 

「まだ大丈夫……と言いたいところだけど、そうさせてもらうわ。ありがとう切嗣」

 

 

 そう言うとアイリは遠見の魔術に使っていた水晶玉を手に、部屋を後にした。もちろん、彼女には舞弥を付けているが。

 

 

「さて……」

 

 

 すっかり静かになった部屋で、そう独りごちる。

 少々思考に時間をかける事ができそうだ。

 

 今回の襲撃はキャスターだが、それと同時に魔術師の侵入も確認されている。また、アストラはその直前に突如森に現れた者とも交戦し、それを下している。

 彼、別世界の英雄であるアストラ。僕がセイバーを召喚する際に彼女の剣と同質の彼の剣が引き寄せられ、こちらへ同時に召喚されたということらしい。

 戦力としては申し分ない。ランサーに阻まれて爆破できなかった件については、建築物を倒壊させる爆破方法を教えなかったこちらのミスだ。もっとも、交戦後に置き土産としてありったけの爆弾でホテルを吹っ飛ばしてくれていた方が、こちらにとってはありがたかったが。彼はその時の爆弾を持ったままだが、ランサーとそのマスターがホテルから姿を消した以上、現時点ではその使い道は彼にも僕にもないだろう。まあ、これは次に会った時に返してもらうことにしようか。

 一方で、彼の性格がつかめない。話を聞く限りでは自己犠牲を突き詰めたような英雄だったらしい。人の世から昼が消え、自分が新たな太陽となるためにその身を燃やした。しかも、古い神を殺してまでも行ったらしい。そこまでは絵に描いたような英雄だ。だが、彼からはセイバーやその聖剣とは逆の、魍魎のような死徒のような闇を感じる。

 

 彼はいったい何者なのだろうか。そう思いながら煙草に火をつけた。


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