薪となった不死   作:洗剤@ハーメルン

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サブタイが間違っていたので修正


魔法

 その後、数十合と打ち合った二人だが、何度も死して経験を積み重ねて養った勘を持つアストラと、生まれつき未来視に近い直感を持つセイバーは互いに一歩先を見て剣を振り、その上彼らの技量がほぼ同等のために、ただの打ち合いでは勝負が着かない。

 

 

「ずっとその武器で戦っていますが、あなたは武器を変えて戦おうとしていましたよね?」

 

 

 変えてほしいのかと、彼は問い返す。

 その返答を聞くと、彼女は剣を腰の高さで後ろ手に構え、明確な闘志をアストラに向ける。

 

 

「いや、あなたが自在に武器を変えるのを明かしたのならば、私も秘技を明かさなければ不敬だと思ったのでな」

 

 

 その声と共に、セイバーの剣を中心に広間に暴風が吹き荒れる。

 

 構えから捨て身の攻撃だと判断したアストラだが、八メートルほどの距離がある。が、それはオーンスタインのように一瞬で距離を詰めることができるからだと理解し、迎撃する事を決断。彼は竜狩りの槍を両手で構えると、自らも前に飛び出すために全身に力を籠める。

 セイバーは斬るために、アストラは串刺しにするために相手を見据え、闘志のみを視線に籠めて相手に致命傷を当てることにすべてをかける。

 

 

風王(ストライク)————」

 

「二人とも何やってるの!!」

 

 

 そんな闘いに水を差す女性の大きな声が、暴風の吹き荒れる広間に響いた。

 

 

「アイリスフィール……?」

 

 

 広間の入り口に立つ声の主を、唖然とした様子でセイバーは見つめる。

 

 

「セイバー!周りを見なさい!」

 

「え……」

 

 

 その剣幕にたじろぎ、冷静になったセイバーの視界に映る現在の広間は、二人の斬撃や剣圧によって白い大理石の床や備え付けの備品が砕け、ガラスは一枚も残っていない。

 アストラもそれを見ると、やりすぎたのだと理解し、気まずそうに槍を消した。

 

 

「も、申し訳ないアイリスフィール!つい熱くなりすぎてしまい……」

 

 

 いきなり現れた怒髪衝天となっている女性に、鎧も剣も仕舞って謝罪するセイバー(アルトリウス) を見たアストラは、一緒になって白い女性に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

アイリスフィールと呼ばれた女性はその場の始末を使用人らしき、同じく真っ白な服を着た人々に任せると、セイバーとアストラをある一室に連れて行った。そこは私室のような家具の配置であるが広く、どちらかというと食堂のようだ。

 最近の記憶ではアノールロンドぐらいでしかこのような優美高妙と言える物が無い彼は、あの老人にそこまでの力があるのだろうか、と考え込んだ。

 

 

「さて、いろいろ言いたいこともあるけど、仲間同士で殺し合うなんてどういうつもりなの?」

 

 

 アイリスフィールのその言葉に、問われた二人は目をパチクリさせた。

 

 

「いえ、最初は只の試合のつもりでしたが、熱くなりすぎてしまいまして」

 

 

 セイバーは申し訳なさそうに言うが、同じような事を言う彼は悪びれた様子も無い。それを聞いたアイリスフィールはため息を吐くと「次は気を付けて」と、半ば諦めたように言った。

 それを了承したアストラは、彼女の名前をやや丁寧に問うた。

 

 

「あら、自己紹介もしていなかったわね。私の名前はアイリスフィール・フォン・アインツベルン、セイバーのマスターよ」

 

 

 それに、アストラも偽名ではあるが、と前置きしてから名乗った。

 

 

「セイバーみたいなものね。これからしばらくの間、よろしくね」

 

 

 それに形式的に彼は返答すると、申し訳ないが何か食物をもらえないか、と自分が生身であることを付け加えながら言った。

 

 

「それじゃあ、みんなで夕飯にしましょう。セイバーも食べるわよね?」

 

「よろしいのですか?なら、せっかくなのでいただきます」

 

 

 子供のような笑顔を浮かべながらそう言う彼女に、何歳だろうか、と彼は失礼だと分かりつつも考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、彼が御馳走になった食べ物は彼が全く見たことの無い物ばかりであり、口に合わない物もあったが、ずっとソウルで腹を満たしていた彼としてはとてもありがたい物だった。黙々と食べる彼を二人が見ているのに気付かないほど、彼は集中して食べていたが。

 

 

「セイバーと互角に戦ってたみたいだけど、どうやってブーストしてるの?見たところ、魔術とは違うようだけど」

 

 

 食べ終えて満足そうな表情を浮かべたアストラに、アイリスフィールが問いかける。

 それを聞いたアストラは訳が分からないといった表情を浮かべた後、少し考え、何もしていないと答えた。

 

 

「何も?」

 

 

 そう聞き返すアイルスフィールに、彼は身体能力のブーストは特定条件下でないとできない、と伝えた。

 

 

「なら、他のはブーストできるの?」

 

 

 その問いには、彼は魔術や奇跡、呪術ならと答えた。

 

 

「……アストラ、全部とは言わないからどれか見せてもらえるかしら? できるならブーストじゃない方がみたいのだけど、セイバーも見たいわよね?」

 

「え?……是非とも拝見したいですね、やはり好奇心はありますから」

 

 

 二人が手の内を暴こうとしているのが分かったアストラだが、ソウルで肉体を神に近づける事によって人間を止めたも同然の彼は、嘘を吐いた事もあってこれだけは期待に答えようと了承した。

 アストラはここでもできる物を見せようと、立ち上がった彼は右手に呪術の火を出現させて、近くの燭台に近寄る。そして、その中の一本のロウソクに使うと二人に言うと、その一本の前で右手をフィンガースナップをするために構えた。

 

 

「今からやるのは何?」

 

 

 そのアイリスフィールの問いに、彼は呪術だと答え、ロウソクにかなり弱めた発火を浴びせた。

 ロウソクは空気が燃える音と共に炎に数瞬包まれ、火が虚空に消えた頃にはそれを固定していた針のみが、燭台の先に変形しながら付着していた。

 それを見たアストラは、ここまで自分の火を強化してくれたクラーナに心の中で感謝した。

 

 

「炎を発生させるだけだけど、単純故にすごい威力ね。術式はどうしてるの?」

 

 

 感心しているだけのセイバーと違い、アイリスフィールはアストラに質問を浴びせる。それ見て、彼女は魔術師なのだろうか、とアストラは推測した。

 そして、術式と言われても呪術の火の使い方として教わっただけの彼は、自分は知らない上もしかしたら無いかもしれないと答えた。

 

 

「むちゃくちゃね……」

 

 

 それを聞いたアイリスフィールは苦笑いすると、どうせなら他の二つも見せてほしいと言った。ここまでくれば一緒だろうと思った彼は、魔術師の杖を取り出して、擬態の魔法を自らにかける。

 アストラは一瞬ソウルの靄に包まれるも、次の瞬間には大きな壺になった。

 

 

「ほう、これは面白いですね」

 

 

 セイバーは興味深そうに壺に近寄ると、その中を覗き込んで声を上げた。

 

 

「どうしたのセイバー?」

 

「な、中が!中が空っぽです!!」

 

「え!?」

 

 

 セイバーの言葉に驚いたアイリスフィールは、彼女の元に駆け寄って壺の中を覗き込む。

 

 

「ほんとうだわ。もう、わけが分からない……」

 

 

 壺の淵に両手を乗せたまま、アイリスフェールがお手上げといった様子でそう言った。

 壺になったわけでも壺の中にいるわけでもない彼は、もういいかと二人に聞き、下がらせた。

 

 

「今のは何?」

 

 

 擬態を解除し、関節を動かしていた彼にアイリスフィールが問う。それに彼は魔術と答えると、奇跡を使うために杖をタリスマンに取り換えた。

 そして、この世界で使えるか不安な彼だったが、ベルカの秘儀である沈黙の禁則を使用した。彼を中心に紫の波紋が浮かび、すぐに消えた。

 

 

「何ですかこれは?」

 

「さあ……。アストラ、これは何?」

 

 

 アストラから見れば二人から微弱な紫の波紋が発生しているのが見えているのだが、二人には見えていないようなので、アストラは二人に魔術を使ってみるように言った。

 

 

「私は魔術は使えません。アイリスフィール、お願いできますか?」

 

 

 アイリスフィールにそう言うセイバーに、彼女が魔術を使えないと分かったのは儲け物だとアストラは思った。

 

 

「ええ、分かったわ。じゃあ、簡単な物だけど……」

 

 

 アイリスフィールはそう言うと、懐から金属製らしき糸を取り出し、そこに魔力を集中させた。彼は彼女が何をしているのか分からなかったが、魔術を使おうとしているのだとは理解した。

 

 

「……あら?」

 

 

 しかし、一向に何も起きないのをアストラが訝しんだ時、アイリスフィールが困惑に満ちた声を上げた。

 

 

「どうかしたのですか?」

 

「いえ……ちょっとだけ待ってくれる?」

 

 

 糸を凝視するアイリスフィールの表情が、みるみるうちに困惑と驚愕の混ざった色に染まる。

 

 

「————アストラ、これって魔術を封じる奇跡?」

 

 

 それにアストラは、簡単に言えばそうだ、と一言答えた。すると、アイリスフィールは顎に指を当て、考え込む。

 

 この世界の魔術に効果があるか分からなかったアストラだが、ベルカの神は罪人の情報を拡散した世界全ての暗月に知らせるほどなので、信仰しているわけでは無い彼も罪の女神ベルカの偉大さを思い知った。

 

 

「…………ありがとう、よく分かったわ。セイバー、彼を部屋に案内してあげて。アストラ、明日には冬木に発つからそのつもりでいて」

 

 

 アイリスフィールはそう言うと、席を立ち、部屋を後にした。

 これを見せたのはまずかったか、と彼は自分の行動を悔やんだが、過ぎたことは仕方ないと思いつつセイバーの誘導に従って続いて部屋を出た。


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