人理は成され、陰我は消滅する。
「マシュゥゥゥゥ!!!」
少女が死んだ。これまで多くの苦難を供に乗り越えてきた相棒がその身を呈し、自分を庇って死んだのだ。だと云うに、戦う力は残っていない。黄金の鎧も砕かれ、牙狼剣も折られた。何も出来ない。
「終わりだ。人類最後のマスター、いや・・・黄金騎士よ」
魔術王が手を翳す。
無慈悲なる閃光が放たれんとする。
「・・・」
何も出来ない。
成す術が無い。
仕様がない。
「・・・」
ならば諦めるか?
「否」
立ち止まるか?
「否」
彼女の死を無駄にするか?
「断じて否!」
それは駄目だ。
それだけは駄目だ。
これまで多くの人々が、英霊が、皆が力を貸してくれた。託してくれたのだ。想いを、願いを、希望を、この身に。
ならば諦める訳にはいかない。
たとえ何があろうとも。
「無駄な事」
目に光が戻る。そんな俺を見て奴は嘲笑う。だとしても、そんな事は関係ない。自分が何者か、何故此処にいるのか、それが全てだ。戦う力が残っていなくとも、自分はまだ死力を尽くしていない。まだ諦める程に抗ってはいない。この身を呈してはいないのだ。
(立て・・・)
まだ、
(立て・・・)
まだ、
(立て・・・)
まだ、
「終わってなどいない!」
「その身で何が出来る」
奴の言うとおり、何も出来ないかもしれない。成す術なく、殺されるかもしれない。無駄な時間なのかもしれない。それでも俺は誰だ?俺は何だ?何のために此処にいる?
「俺は・・・俺は・・・!」
「消えろ」
魔術王から閃光が放たれた。全てを呑み込まんとする光が。あらゆる物を破壊し、無に還す光。後に残るは塵のみとなりうる光。しかし、その光が俺を包み込む事はない。それは、
「バカな・・・」
「我は守りし者!人類最後のマスター!黄金騎士、牙狼だ!」
魔術王の光を打ち消し、新たな光が産まれる。
剣に力が宿る。皆の力が。
今日に至るまでの全ての人々の想いが。
その手に蘇るは牙狼剣。
召喚せしは、数多もの牙狼剣。
鎧はない。
何故なら必要ないのだ。
既にこの身は、牙狼なのだから。
「魔術王。貴様の陰我、俺達が断ち切る!」
「貴様は・・・」
幾多もの牙狼剣が魔術王を呑み込む。それが意思だと言わんばかりに、絶え間なく降り注ぐ。思考停止に陥った奴にとってそれは防ぐには多すぎたのだ。鮮血が舞い、その身体に無数の傷を付ける。
「ぐっ・・・」
奴が膝を付いた。
「魔術王ぉぉぉぉ!」
「黄金騎士ぃぃぃぃ!」
それを好機と見て、全ての力をぶつける。
対する魔術王も正気を取り戻し、ぶつかってくる。
でも負ける訳にはいかない。この双肩には、あまりにも多くを背負いすぎてしまったのだから。
「「オォォォォォォォ!!!」」
皆の想いを、この・・・一撃に!
ーーーーー
「その空間は間もなく崩壊する。急いで脱出を!」
カルデアの通信でダヴィンチちゃんが告げる。
全ては終わった。かの魔術王を打ち破り、ここに人理修復は成されたのだ。
「先輩!」
「マシュ!?どうして・・・」
「話は後です。脱出を!」
彼女が生きていた。その理由は分からないが生きていた。心の底から安堵する。大切な相棒の存命に。しかし喜びも束の間、事態は一刻を争う訳であり、暢気に話
している場合ではない。
「そうだな。行こう!」
駆け出す、最後の力を振り絞って。
またマシュと笑い会うために。
(オウゴンキシ・・・)
「!」
それは自分がよく知る声だった。
黄金騎士として逃れられない宿命。
「先輩、手を!」
マシュが手を伸ばす。その光に入ればレイシフトでカルデアに帰る事が出来る。だが、
「マシュ」
「先輩・・・?」
「すまない」
その手を取ることは出来なかった。
マシュの悲しそうな顔と供に、光は消えていく。
ーーーーー
『オウゴンキシィィィィ!ワレガホロビルコトハナイ。カナラズヤ、キサマノマエニアラワレルダロウ!』
「ならばその度に断ち切ってやる。それが黄金騎士、牙狼だ」
「オノレェェェェ・・・」
ーーーーー
『オウゴンキシィィィィ!!!』
俺は黄金騎士。
ホラーを狩るのが俺の役目。
ならば、
「ザジ。貴様の陰我、俺が断ち切る!」
我が名は牙狼。
守りし者である。