漆黒の英雄譚   作:四季 春夏

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--現代1--
ある国のある話


 アインズ・ウール・ゴウン魔導国。

 

 

 

 

 その国では、「魔導国」では「アインズ・ウール・ゴウン」の元で「全てが一つ」であった。魔導国に住む全ての民は知っている。

 

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンこそ偉大

 

 アインズ・ウール・ゴウンこそ至高の存在

 

 アインズ・ウール・ゴウンこそ究極なる支配者

 

 

 

 

 魔導王はその至高なる力を以って「大陸統一」を成し遂げた。それはかつて人類を救ったとされる「六大神(ろくたいしん)」、力を背景に大陸を支配しようとした「八欲王(はちよくおう)」ですら出来なかった偉業であった。

 

 アインズ・ウール・ゴウンは不死者(アンデッド)でありながら、とても慈悲深かった。「六大神」の様に特定の種族だけではなかった。「八欲王」の様に力と恐怖で支配はしなかった。「神」や「王」よりも慈悲深く力強かった。一部の者は魔導王のことを「神王長」と称え信仰していた。「神」や「王」よりも高い位置にいる存在。魔導王のことを知る誰しもがその呼称に納得していた。

 

 

 

 

 かつて大陸には多くの国があった。リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、ローブル聖王国、アーグランド評議国、スレイン法国。そしてその他の国々。

 

魔導国は他の国に比べて遥かに規格外である。かつてバハルス帝国の皇帝であっジルク二フが言った言葉にこういうものがある。

 

「魔導王には敵わない。『王』という言葉は魔導王の為にあったのだ。だから私は『皇帝』なのだろう」

 

微笑みながらこう言ったエピソードはあまりに有名だ。教科書にも載っているほどである。その他にも「人類至上主義」を掲げた閉鎖的で排他的なスレイン法国が最後にはアインズ・ウール・ゴウン魔導国の支配下に入ったことからも魔導国の偉大さが分かる。

 

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国。

 

 そこに住まう民も「異形種」「亜人種」「人間種」と幅広い。

 

 そこに「差別」はなく彼らは皆「対等」な関係を結んでいる。

 

 例えばだが鍛冶や建造では右に出る者がいないとされる山小人(ドワーフ)。大きな身体を持ち腕力が自慢の巨人(ジャイアント)。この二つの種族が手を取り合えばあらゆることが可能となる。

 

 武器を作りたい?ならばドワーフに仕事を任せよ。重たいものを運んでほしい?ならばジャイアントに仕事を任せよ。といった具合である。この二つの種族が協力すれば家一つの建設などあっという間である。それはこの二つの種族だけでなく他の種族にも同じことがいえる。

 

 土堀獣人(クアゴア)という種族。彼らは土の中(地底)でも活動することが生活できる。何故なら視力は人間よりも鋭く、彼らの種族が持つ爪は土を掘り進めることができる。そんな彼らは雑食性であり鉱石をも食べる。これは鉱石を食べることで自身の身体をより頑丈に出来るからだ。そしてそんな彼らだからこそ「鉱石の採掘」に関しては右に出るものはいない。かつてはドワーフとは争っていたこともあったが、かの魔導王がその争いを平和的に解決。その後は魔導国でクアゴアたちは主に「鉱石の採掘」を仕事に賃金を受け取り生活している。今ではクアゴアが「鉱石採掘」し、ドワーフがそれを「加工」するといった具合だ。

 

 蜥蜴人(リザードマン)とは蜥蜴と人間が合わさったような種族である。彼らは湿地で生活を営む。そんな彼らは「魚」の「養殖」を試みた。これは魔導国の支配下に入る前の話である。だが魔導国の支配下に入ってからは多くの者が食す「魚」を提供する「組合」を結成した。そして彼らは自分たちの得意とすることを仕事とし、現在では魔導国に欠かせない種族としての地位を築き上げた。

 

 

 

 

 あらゆる種族は魔導国の元で「一つ」となっていた。

 

 

 

 

 誰しもが種族の特性を持っている。それを互いに協力し作業することで得られるものは有名かつ貴重な「黄金」よりも遥かに高い価値を生み、「アダマンタイト」よりも強固な関係を築いた。

 

 得意なことを……特異な種族が……

 

 そうすることで彼らは己の「種族」に誇りを持ち、自身は何が出来るか……何の「職業」に就けるかを考え、自らの『未知』なる可能性を追い求めていく。

 

 それはさながら現代の『冒険者』の様である。

 

 

 

 


 

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国

 

 

 

 

 その国はアインズ・ウール・ゴウン魔導王により統治された国である。

統治者の魔導王自身も不死者(アンデッド)であり、そのためか分け隔てなく様々な種族を受け入れ現在では過去のアーグランド評議国をも遥かに超える種族が暮らしていた。

 

 そんなアインズ・ウール・ゴウン魔導国がアインズ・ウール・ゴウン大陸(今年までは大陸には名前が無かった)の中にある諸国を全て支配下に置き、見事大陸統一を果たした。

 

 アインズ・ウール・ゴウン魔導王は大陸統一を果たし際に祝杯を行った。その祝杯の場にはアインズ・ウール・ゴウンとその配下の方々だけでなく、現在の『新しい時代』を作ったとされる者たちが数百人程出席していた。

 

 

 

 現在の『冒険者組合』を作り上げた冒険者組合長ブルトン=アインザック。

 

 『ポーションの先駆者』のリイジー=バレアレとンフィーレア=バレアレ。

 

 数奇な人生を歩みながらも魔導国に多大な貢献をした少女エンリ=エモット。

 

 『リザードマンの英雄』と呼ばれるザリュース=シャシャ。

 

 『魔導国の大商人』の異名を持つバルド=ロフーレ。

 

 『鮮血帝』と恐れられたジルクニフ=ルーン=ファーロード=エル=二クス。

 

 

 

 他にも伝説となった者たちの顔があった。

 

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンは祝杯を挙げた際にこう語った。

 

 

 

 

「私一人ではこのような偉業は成し遂げることは叶わなかった」

(ご謙遜を・・父上)

 

 そんなはずはないと多くの者は思った。魔導王や彼の配下が纏うアイテムは全て超級のものであり、彼らが使用する魔法は全て超級のものである。一つ一つが神話を連想させるようなものばかりであったからだ、いや中には神話そのものを書き上げることが出来そうな武具やアイテムすらあった。

 

 

 

 

「私の部下である守護者たちやその下にいる者たちが頑張ってくれたからだ。そして守護者たちやその者たちに協力してくれた者たちの存在があったからこそ、魔導国の『今』がある。お前たちや魔導国の民に感謝しよう」

 

 そう言う魔導王はどこまでも謙虚であった。だが同時にそんな魔導王だからこそ大陸統一を果たすことが出来たのだと多くの者は思った。今までの『王』のイメージとは全く異なる存在、それこそがアインズ・ウール・ゴウンという王なのである。

 

 

 

「守護者たちは確かに多大な貢献をしてくれた。だが守護者だけではない。彼らと同等の働きをした者もいる」

 

やがて話題は魔導国で多大な功績を上げた者たちの話になった。

 

 

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国を語るに欠かせない人物がいるだろう?実はだな……その人物についての物語を出版しようと思ってな……」

 

 その言葉を聞いた者たちは思わす「もしや…」と漏らす。それが誰の事か察しがついたからだ。今はもう去ってしまいこの地にいない大英雄のことだ。

 

 

 

 

「『漆黒の英雄譚』の名前で出そうと思う」

 

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンがそう言ったことで会場は大いに驚いた。出版するということは一体「誰の手」で書かれるのだろう?誰しもがそう思った。

 

 

 

 

 魔導王はその者の元にまで歩み寄ると肩を叩いた。

(えっ……父上!?)

 

 

 

 

「悪いが、これを『お前』の手で書いてほしい。頼めるか?『___________』!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

魔導暦5年

 

 

 

 

アインズ・ウール・ゴウン魔導国

首都エ・ランテル

 

 

 魔導国の首都であるエ・ランテルは交易都市でもあり、大陸の中心でもある。そのため大陸で最新のものや情報を得るにはここにいることが必須である。そのため何か大きなイベントがある時も一番最初にここで行われるのである。「武術大会」や「魔術大会」から最新の「生活魔法」の発表などである。だからこそ利益を追い求める商人だけでなくあらゆる職につくものは誰もがここで商売をしたがる。

 

 エ・ランテルの中にはいくつかの種類の店がある。その中でも「本屋」がある。「本屋」と呼ばれるこの場所では生活に必要とされる雑学や神話や伝説といったおとぎ話が売られている。

 

 おとぎ話は主に三つだ。人類を救った『六大神』。力を背景に支配を繰り返した『八欲王』。魔神を討伐した『十三英雄』。本屋の中でも人気かつ有名なのはこの三つだ。だが現在本屋に行列が並んでいるのはいずれかの本を求められているからではない。

 

 本屋の前には国民の行列がある。はっきり言って並び過ぎており、今日は商人の馬車が他のルートを迂回せざるを得なかった程だ。この行列に何万人が並んでいるのか分からない。魔導国の人口は多く、その場にいる者だけで五万人は並んでいるだろう。その中には人間だけでなく森妖精(エルフ)蜥蜴人(リザードマン)山小人(ドワーフ)などもいる。その行列に並ぶ者が一人増えた。

 

 

 

 

「凄い行列だなぁ」最後尾に並ぶ少年はそう呟いた。

 

 少年の名前はコナー=ホープ。エ・ランテル出身でエ・ランテル育ちの人間の少年である。今年で10歳になった。

 

 

 

 

「凄いなぁ」

 

 コナーが行列に目を向ける。今回彼らが本屋で並んでいるのは自分と同じお目当ての本をあるからだとコナーは知っている。

 

(みんなの目的は間違いなく『アレ』だな。この行列だと……最低でも二時間は掛かるかな?まだまだ時間掛かるだろうし、待っている間これを読もう)

 

 そんなことを考えながらコナーはズボンのポケットから一冊の本を取り出した。表紙には「十三英雄物語(魔導国出版)」と書かれている。

 

 コナーは本を開いた。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

◇◇◇◇

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 コナーが三分の一ほど読み終えた頃、ようやく売り子の前に立つことが出来た。コナーはポケットに「十三英雄物語」を仕舞うと代わりに財布を取り出して自分の番を待った。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 売り子の女性の声を聞いてコナーは頭の中で「そんなに待ってないよ」と思った。待っている間に自分の好きな物語の1つを読み返すことが出来たからだ。コナーは本を読むのが好きなため苦痛ではなかった。

 

 

 

「銀貨5枚です」

 

 コナーは父親からプレゼントされた------ずっと使い続けてボロボロになった------財布から銀貨を五枚取り出すと、売り子の前に置かれたテーブルにそれを置いた。先程までは気にしていなかったがよく見ると売り子の三人はエルフの女性たちであった。それを見てエルフは奴隷の証として耳の一部を切断されていた歴史があることを教科書で見たことを思い出した。だがそんな歴史が嘘だったこの様にエルフたちの耳は傷は無く綺麗であった。

 

 

 

「銀貨5枚をお預かり致します……こちらになります」

 

 そう言ってエルフの彼女から本を受け取る。ズッシリとした重さであり、まるでこの本の物語の内容の濃さを語っているようでコナーは思わず興奮しニヤリとした。

 

 コナーの表情を見てエルフの一人がクスリと笑う。コナーはそれに気づかなかった。それは嘲笑の類ではなく「この本の主人公は誰にも好かれているのだな」と微笑ましく思ったからだ。

 

 長蛇の列を抜けるまでコナーの表情が変わることはなかった。列から抜けるとコナーは自分が本を持っているかを確認した。確かに持っている。

 

 

 

「よし。買えた」

 

 本来なら金貨一枚の価格なのだが、初回販売限定価格ということで半額の銀貨五枚で購入できるようになっていた。過去のエ・ランテルでは高額の部類だが、現在では銀貨五枚というのは庶民の手にも届く値段だ。これも魔導国陛下の治世の賜物である。

 

 コナーが手首を動かして本を眺める。

 

 表紙や裏表紙、背表紙なども全て黒い本だ。表表紙と背表紙に書かれているタイトルと作者名を見る。

 

 表紙には「漆黒の英雄譚」と書かれている。作者名は……

 

(早く読みたい!)

 

 その気持ちに突き動かされてコナーは本を片手にしたまま走る。長蛇の列に見られるが気にしなかった。普段から走っているおかげか長時間走っても息切れ一つしない。

 

 コナーは家に向かって走っていった。

 

 


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