漆黒の英雄譚   作:おしるこをしるこ

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相変わらず文章はアレですが暖かい目で見て下さい。
あと近い内にもう一つの投稿作品にも投稿したいです。

ps
某ゲームで王様になりました!やったぁぁ!
一度目は魔術師で新婚旅行に行きました。二度目は戦士で世界燃やしました。
三度目はどんなキャラ設定でビルドにしようか悩んでいます。
何かそのおかげか日頃のテンションが上がってきています!
普段のテンションが30ぐらいなら今70ぐらいにまで上がっています。上限100。


揺れ始める世界

 

「はぁ……はぁ」

 

 

 男は走っていた。

 

 

 

「はぁ……はぁ」

 

 男は戦いの舞台から降りた。それは臆した訳ではなく、むしろ闘志を漲らせていた。視界には闘技場の階段、壁、柱また壁……が映るが、瞳が追いかけるはただ一人であった。自らが真に戦うべきそれを見つけたのだ。

 

 

 男は走る。本当は戦うべきではないと分かっている。次は無いかもしれぬ。本能が無いと断言している。されど男は駆けるのを止めぬ。

 

 男は走る。それは自らを打ち負かした相手と対峙しようと。即ち弱い自分自身へと刃を向けるために。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ」

 

 男は止まった。それは自らが追いかけた者が足を止めたからだ。そこは観客席と出入口を繋ぐ大きな通路であった。今は試合が行われているおかげで人の気配がない。好都合だと男は笑う。だが息が切れる。普段ならばこの程度走っていても疲れぬだろうが男は疲れたのだ。自らの生がここで終わりだと本能が告げているからだろう。

 

 

 

だが走る。

 

だけど走る。

 

だからこそ走る。

 

 

 既に止まっているはずなのに、男は走っているような錯覚を覚えた。

 

 

 客席から湧き上がる歓声、武器同同士がぶつかりあう音。そのどれもがまるで愛らしく思えた。

 

 

(色々あったな……俺も……だからかな)

 

 男は自らの生を振り返る。

 

 

男には才能があった。その才能のおかげで高みを目指せた。しかしその高みは偽りであったことを知った時、男は絶望した。ふと空を見上げると手を伸ばしても届かないものがあるのだとあきらめていた。

 

一人の戦士に再会するまでは……。

 

 

 

(感謝する。ガゼフ……お前のおかげで俺はまた戦うことが出来る!)

 

 

 

 

「また会ったな!」

 

ただ一言。その一言を全力を絞り出し放つ。その言葉に反応した女は振り向いた。帽子、仮面、貴人服、女の全てはそれらの白によって隠されていた。だがその声だけはどこか呆れた様子に男には思えた。

 

 

「どこかで会ったかしら?」

 女のその言葉に本気で覚えていないのだと男は知った。だが男は折れない。たとえ相手が自身の心を折った相手であってももう二度と折れぬと誓ったからだ。

 

 

「あぁ。言いたいことはいくつかある。だが今言うべきは一つだけだ」

 そう言って男は腰に差した刀に手を掛けた。居合の構えを取る。相手との距離は十歩にも満たない。

 

 

 

「あの時のリベンジを果たすぜ」

 そこにいたのはかつて心折れ自らを暗愚と称した男ではない。瞳に闘志を宿す剣士ブレイン=アングラウスその人であった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇ ◇

 

 

 居合の構えを行うブレインに対し目前にいる女は仮面越しでも分かるほど大きな溜息を一つ吐いた。

 

「……一度しか言わないわ。死にたくなければ私を見なかったことにしなさい」

「断る。お前がここで何をしようとしているかは分からない。あの時みたいに特定の武技を使える誰かを探しているの?だがロクでもないのは確かだろう?」

 

 

「愚かね……警告はしたわよ」

 そう言って女はブレインに向かって歩き出す。それを見てブレインは笑った。

 

 

(あの時と同じだな……だがあの時とは違う!)

 女が右腕をブレインに向かって引いた。突きの構えであった。

 

 

 

 

 

この武技に必要な武技は既に発動した。後は僅かな狂いも許されない。

 

 

 

この武技は自分一人のためじゃない。

 

 

友の想いも宿る一撃。

 

 

 

 

女がブレインに向かって右手を突き出した瞬間、何かが女の指先を通った。

 

 

 

 

それは刀。ブレインの居合が女の攻撃速度---全力で手加減していたであろう---を上回ったからだ。

 

 

女はすぐに右手を見た。その内の指の一つ、その爪が切断されているのに気付いた。

 

 

 

「貴方……もしかして…」

 女はこの時思考を停止してしまっていた。驚愕ゆえに動けずにいた。だからだろう続いて放たれた武技への対処が大幅に遅れてしまったのだ。

 

 

ブレイン=アングラウスの放った縦切り。それが自身の仮面を切り裂くなど思いもしなかったのだ。

 

 

 

「俺の……今の俺の(・・・・)最強の武技<爪切り>。どうだ?感想は……」

「【神人】……?」

 

 

 女がその単語を呟くと同時に仮面が二つに分かれて落ちた。地面に落ちた際にカシャンと鳴ったことから金属製であったようだ。だがブレインの耳にその音は届かなかった。他の大きな音にかき消されたからだ。

 

 

自分の首を何かが掴むと同時に壁に叩きつけられたからだ。

 

「がっ!……お前その顔…」

 女の顔は左側の半分が剝がされており、その上に火傷を負っていた。更に左目が抉られており、そのことから女が酷い拷問を受けたであろうことが分かる。

 

 

「……【神人】は殺す!必ず殺す!」

 女のそれは「狂乱」の一言であった。先ほどまでの口調が嘘のようであったのだ。どうやら仮面の中にあった顔と【神人】には何かしら関係があるようであったが今のブレインにそんなことを考える余裕は無かった。叩きつけられた際に刀を落としてしまったらしく、さらに女に首を掴まれている状態であった。呼吸もままならないほど首が締まっていく。折れるのが先か、潰れるのが先か、そんなどうでもいいことを考えてすらいた。だがそれ以上にブレインの中では異なる感情で埋め尽くされていた。

 

 

(あぁ……俺はやった。やったんだ!やったぞガゼフ。俺は……勝ったんだ。この女の爪に!!)

 

 

 

 

「忌々しい【六大神】の子孫め!………死ね」

(あぁ……死ぬのか。悪くない人生だったよ。でもようやくお前に肩を並べることが出来たかもしれないのにな。あぁ……やっぱり最後はお前と戦いたかったよ。我が友(ガゼフ)

 

 

 ブレイン=アングラウスは死んだ。

 

 

 

 

 そう思った。

 

 

 

 

「よしなさいラスト。そのゴミは【神人】ではない」

 その声が女の背後から聞こえる。ブレインからすれば正面であった。それはいた。その声に反応した女が手に込める力を弱めるのが分かった。

 

 

 全身に赤い恰好をしており、仮面を被っているため顔は見えない。だが腰より低い位置にある尻尾がそのものが人間でないことを表している。

 

 

(こいつ!もしかして王都を襲撃した悪魔のヤルダバオトか!?)

 

 

 

「何故?」

 その言葉には何故止めたかの意味で聞いていたのか。もしくは何故ここに貴方がいるのかという問いであったのかはブレインには分からない。

 

 

「その者……ブレイン=アングラウスは特別な武技が使える訳ではない。かの武技を継いだのは二人のようです。これ以上の調査は時間の無駄でしょう。私がここにいるのは"皇帝にご挨拶"するためです。納得して頂けましたか?」

「……分かりました」

 

 

 ラストがブレインの首を掴む手を放した。床に落下し態勢を崩したブレインは喉元を抑えた。先ほどまで呼吸がまともに出来なかったからだ。

 

 

 

 

「貴方は運がいい。良かったですね。私がこの場にいて」

「お前……もしかしてヤルダバオトか」

 ブレインに視線を向けた悪魔に向けてブレインは尋ねる。だが悪魔は何も応えずに床に落ちたブレインの刀をブレインに手渡した。ブレインはそれを迷わず掴んだ。

 

 

「忘れ物ですよ」

 そう言うと悪魔の爪が伸び、切断した。ブレインの右足を、刀を……文字通り(・・・・)切断したのだ。

 

 

 

 

「……あぁぁぁぁっっ!」

「私の名前はヤルダバオト。以後お見知りおきを。剣士様(・・・)

 それは悪魔なりの皮肉だったのだろう。刀剣を破壊された者に剣士とわざわざ発言するあたり性格は極悪と呼ぶに相応しいだろう。そして戦えない者にそういう辺り殊更酷い。

 

 

 右足を切断されたブレインはその場を後にするヤルダバオトとラストに向かって手を伸ばした。だがその手は何も掴むことが出来なかった。だが拳を握った。

 

 

「ヤルダバオトぉぉぉぉっっ!!」

 その声は歓声に飲み込まれ、ブレインのせめてもの抵抗は無意味に終わった。

 

 

 

 

 切断された足から噴水の如く血が飛び出す。自身の足が熱を帯びていく。ブレインはすぐに自身の腰に巻いているベルトを外すとそれを切断された右足の根本を固く結んだ。血の勢いこそ一度弱まるも嘲笑うかのように再び勢いを取り戻す。

 

 

 

「こんな形で死ぬのか……ちくしょう」

 ブレインは闘技場の通路から見える会場から漏れ出す光に向かって手を伸ばした。

 

 

 

 意識が朦朧とし、視界が霞んでいる中、その光景の中に一つの影が映った。

 

 


 

 

 

 

闘技場内では最後に残ったモモンに向かって拍手喝采が起きていた。

 

「すげー!アレが【漆黒】のモモン!」

「【漆黒の英雄】の名は伊達じゃねぇ」

 

 

 そんな中、一人の人物が貴賓室から外へ姿を見せた。

 

 

 

 それにより拍手喝采は一度止まった。誰もがその姿を知っており、その場に現れたことで必ず何か大事なことを言うと理解したからだ。それは日々の支配者としての振舞いからか、もしくは民の皇帝への理解もしくはあふれ出すカリスマによるものだったのだろう。理由が何であれ王国ではこうはいかないだろう。それだけ帝国を支配するこの男の優秀さが良く分かる。

 

 

 

 

「皇帝ジルクリフ=エル二クス=ファーロードが告ぐ。今回、闘技場に集まってくれた参加者、観客、全ての者たちよ。私は今日この時を皆と共有できたことを感謝する」

 その言葉に観客たちの中から涙を流す者さえいた。だがその顔色は明るく帝国の未来への期待などに溢れていた。「良い王だな」などとモモンは思った。

 

「そして最後まで残り、そして優勝したモモンよ。まずは優勝を祝おう。……乾杯」

 そう言っていつの間にか持っていた酒杯を高く掲げた。それを見て観客たちも真似をする。

 

 

「優勝者モモンよ。褒美を取らせよう。何か欲しいものはあるかな?」

「ありません。陛下。私は何も求めません」

 モモンはそう答えた。当然であろう。冒険者は国家間の争いに介入しないゆえに中立である。これは王国でも帝国でも常識である。だが特定の冒険者が特定の国家に属しているのもまた暗黙の了解である。モモンの本拠地はエ・ランテル、つまりは王国である。ゆえに帝国から、それも皇帝からの褒美など授かるのは些か外聞が悪い。ナーベを連れ戻すことと【漆黒】の名誉を守るために帝国に来たのにそうなっては辛いところだ。

 

 

「ふむ……そうか。褒美はいらぬと申すか。流石は【漆黒の英雄】。噂に違わない謙虚さであるな。王国では【英雄長】の称号を受けたというが……成程。流石だな」

 そう言うと皇帝は口元をニヤリとした。何故だろうか、モモンにはそれが悪い予感に思えた。

 

 

「今日、この日に『武王』がいないことが残念でならない。もしいたらきっと良い試合が出来たであろう。非常に残念だ」

「そうだ!そうだ!『武王』を出せ」

 観客の何人かがそう言った。しかし皇帝は薄っすらと笑いただ手で制した。

 

 

「諸君らの中には納得できない部分もあるだろう。しかし先程までの戦いを見てモモンが『武王』に劣るとは思えない。この私はそう思ったが、諸君らはどうだ?」

「そうだ!モモンは『武王』に匹敵する!」

「ひょっとしたら『武王』以上かもしれない」

 

 

「だ…そうだ。モモンよ。では優勝した褒美、私が勝手に贈らせてもらおう」

「いや…陛下、私は…」

 

 

「受け取れ!」

「褒美だぞ!」

「【漆黒の英雄】万歳!」

 観客たちのその言葉にモモンは続いての言葉を言えなくなった。今思えばこの時モモンは強引にでも話を終わらせるべきだっただろう。もしナーベがいればこの場を強引に終わらせることが出来たかもしれない。だがモモンは優しすぎた。ゆえに強引に会話を終わらせるような真似は出来なかった。そしてそれがこの時ばかり仇となった。

 

 

「モモンに【英雄王】の称号を授けよう。今後、帝国で有事の際は頼りにさせてもらうよ。【英雄王】っ!!」

 

 

「【英雄王】万歳!」

 観客たちから歓声が響き渡る。拍手喝采も起き、会場は興奮に包まれた。ただ一人モモンを除けば。

 

 

(やられた……!まさかこれが皇帝の目的だったのか!)

 モモンを拳を強く握った。

 

 

(……ナーベがいたらこんなことにはならなかっただろうな。だがナーベはいない。私は頼りすぎたのかもしれないな……)

 

 

 

「それでは諸君、また会おう!」

 そう言って皇帝は貴賓室の中へ戻っていった。モモンはただ貴賓室を見ることしか出来なかった。

 

 

 

(………間違いなく今回の一件は王国に知れ渡るだろう。そして王都にも……)

 モモンは正直言って王都に良い思い出はない。貴族たちの派閥争いなどというものは特に見ていられなかった。

 

 

(何事もなければいいのだが……そう思うのは甘いだろうな)

 モモンは拳を作った。

 

 

 

 恐らく皇帝は……。

 

 

 そこまで考えたモモンの耳に誰かの叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

「ブレイン=アングラウスが!死んでいる!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 貴賓室に戻ったジルクリフは神官長の一人に顔を向けた。

 

「良い試合だったな」

「……そうだな」

 

 神官長の顔色は悪い。隠しているつもりだろうが表情を読み取る能力に長けたジルクリフにはそこに不安の色があるのが読み取れた。

 

 

(先程の参加者のシメイ。彼女が間違いなく原因だろうな。やはり……あの者から聞いた通り(・・・・・)だな)

 

 

「先程までの答えを言わせてもらおう」

「……聞かせてくれ」

 

 

「バハルス帝国はスレイン法国と……同盟は結ばない!」

「!っ、それが何を意味するのか分かっているのか!人類の為に正義を行わないというのか!」

 

 

「下らない。貴殿らの言う"人類"とは何か?"正義"とは何か?」

「決まっている……それは」

 

 

「"人間"であろう。悪いが私は帝国の未来を……利益を最優先に考える。"帝国のため"ならば手を取るが"人類のために"は同盟を結べんよ」

「ぐっ!ならば手紙でよかったであろう!何故わざわざ我らをここまで呼んだ!何の為に?」

 

 

「貴殿らに聞きたいことがあったからな。そのためだけに来てもらった」

「…何だと?」

 

 

「貴殿らは本当に【六大神】に仕えているのか?」

「何を言っている?無論だ」

 

 

「では死の神スルシャーナ、彼は何故スレイン法国を見限った?」

「……貴様、どこまで知っている?」

 

 

「質問しているのはこちらだ。まずは答えてくれないか」

「……」

 

 

「では質問を変えよう。スルシャーナ第一の従者の名前は?まさかヤルダバオトかな?」

「!」

 

 

 瞬間、貴賓室内に殺気と警戒心が満ちる。その瞬間であった。

 

 

 

 

「ブレイン=アングラウスが死んでいる!」

 その声に注意がそちらへ向く。神官長はチャンスとばかりにニヤリと笑った。

 

 

 

「貴様は知り過ぎた!死ね」

 神官長はローブの懐から一つのアイテムを取り出した。そこにあったのは悪魔像であった。そう……ヤルダバオトが王都を襲った原因だと言われるアイテム。それが神官長の手に握られていた。

 

 

 悪魔像が妖しく光る。瞬間、闘技場内は地獄と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそうはならなかった。

 

 

 

 何者かが神官長の腕を大きな槍で貫いたからだ。

 

 

 

 

「ぐわぁぁっ」

 室内で大量の鮮血が流れる。腕を失った神官長は腕の喪失を見て皇帝の方へと視線を向け直した。そこにいたのは一人の可憐な少女であった。

 

 

 

「まったく大の男がだらしないでありんすね」

「まったくですな。シャルティア殿」

 そこにいたのはアインズ・ウール・ゴウン魔導国の【守護者】が一人。シャルティア=ブラッドフォールンであった。

 

 

「何故、その者がここに!?答えろ!」

「決まっているだろ。帝国は法国とは同盟を結ばなかったが、魔導国とは同盟を結んだ。そういうことだ」

 

「人類の敵となる気か!正気か貴様!」

「至って正気だ。むしろ貴殿らの方が狂っているとさえ思うがね。それと人類の敵…と言ったが貴殿らの様に"人間"を正義にあらゆる悪行を正当化する者たちの方こそ人類の敵ではないのか?」

 

「我らは人類とその正義の為に!」

「カルネ村の一件、そのことを知っている上でそう語るのだな?」

 

「あれは…」

「たかが戦士長ガゼフ一人を殺すためだけに(・・・・・)……。何の罪も無い平和な村を燃やし民を虐殺した者たちが正義を語るな!しかもそれをよくも帝国に罪をなすりつけようとしたな」

 

「あの一件は誤解だ。アレは…」

「悪事を正義と偽る人間、誠実で話の分かるアンデッド。どちらの方が信用に値するか……言うまでもないだろう」

 ジルクリフがそう語ると神官長はうなだれた。

 

 

 

「この者たちは殺してしまってもよいでありんしょう?」

「申し訳ないが生きたまま捕らえて頂きたい。悪魔像という証拠。その回収とその意図について尋ねさせてもらいたい」

 

 

「分かったでありんすよ。アインズ様にはぬしの指示に従ううように言われているでありんす」

「感謝します。シャルティア様。さて……爺、やれ」

 

 

そう言うとジルクリフの傍にいたフールーダが神官長の頭に手を置いて<魅了(チャーム)>と唱える。

 

 

 

 

「神官長、貴殿は何故悪魔像を持っている?これは王国での惨劇を引き起こしたアイテムだと認識しているのだが」

「友よ……それはヤルダバオト様から渡されたものだ。」

 

 

「では質問を変えよう。ヤルダバオトの目的は何だ?何故王国だけでなく帝国まで襲おうとした?」

「友よ……。我らの崇高な目的、それを叶えるためよ。あのお方は我らの悲願を成就してくださるのだ」

 

 

「その目的、悲願とは何だ?」

「アーラ・アラフ様の復活だ。友よ……」

 

 

 ジルクリフは冷や汗をかいた。この男たちは自身の神のために他国の何の罪も無い市民を犠牲にしようとしていたのだ。冗談じゃないと内心で舌打ちをするが今は冷静さを失って暴れる訳にはいかない。怒りを何とか抑えて次の質問を投げかける。

 

 

「どうやって復活させるつもりだ」

「人間以外の生命を殺しつくし、その魂をもって復活するとだけ……聞いた」

 

 

「何故スルシャーナではない?かの神は最後までスレイン法国に君臨していたはずだが」

 他国のジルクリフは皇帝になるための英才教育、それと皇帝になってからの情報収集によりあらゆることを知った。当然スレイン法国に関しても例外ではない。特に宗教国家である法国において宗教への理解は重要度が非常に高い。そのため宗教への理解はそう国への理解へと直結するとかつて考えた。

 

 

「スルシャーナ?……あれのどこが人間だ?ただのアンデッドではないか。神を名乗るだけのアンデッドめ」

「………それが貴様らの本音か。貴様らの信仰など所詮は偽りだったということか……嘆かわしいな」

 

 

「何を怒っている友よ……貴様、よくも!」

 どうやら魔法の効果時間が切れたようだ。先ほどとは異なり怒りを露わにした男は鋭い目つきでジルクリフを睨みつける。

 

 

「捕らえよ。この者たち全員牢獄へ連れていけ!」

 

 

 こうして水面下で起きた争いは終結した。

 

 

 

 

かのように思えた。

 

 

 

 

「それは困りますね。彼らにはまだ利用価値がありますから」

 突如現れた存在にジルクリフは警戒した。その者は貴賓室のただ一つだけあるドアの前にいた。そしてそんなジルクリフを庇うようにシャルティアが前に出る。

 

 

 

「ぬしが悪名高いヤルダバオトでありんすか。随分と弱そうでありんすが」

「つまらない挑発ですね。神官長たち、無事ですか?」

 

 

「ヤルダバオト様!我らのことなど捨て置いて下さい!」

「それも良いのですが折角ここまで来たのですから連れ帰りますよ」

 

 

「それをさせると思うでありんすか?」

 ヤルダバオト目掛けてシャルティアが全力で(・・・)手刀を放つ。

 

「ラスト」

 ヤルダバオトがその名前を呼ぶと同時にシャルティアの攻撃は防がれた。目の前に現れた白い貴人服の女にシャルティアの攻撃を同じく手刀で防いでいた。全力の一撃が防がれた。それは即ち最低でも実力は同じだということだ。

 

 

「ぬし…何故ヤルダバオトなどに仕えるでありんすか?ヤルダバオトなんかよりずっと強いでありんしょう」

「……あの御方の為に生きる。それが私の使命」

 

 

「理由は分からないでありんすが、邪魔ぁ!」

「邪魔なのは貴方よ」

 シャルティアはもう片方の手で拳を作りラストの顔…仮面目掛けて殴りかかる。しかしシャルティアの腕は掴まれてしまう。

 

 ラストはシャルティアの腕をずっと掴んだままだ。とてつもない腕力の持ち主であることは明白であった。。

 

 

「まさかぬし……」

「………もういいわね」

 

 ラストはそう言うとシャルティアの腕をパッと放した。シャルティアはすぐに攻撃態勢に移ろうとしたがラストは消えていた。ハッとして周囲を見渡し神官長たちの姿を探すも既にいなかった。

 

 

 

「あの女、やはり……。だとしたらもしかしてヤルダバオトも?」

 シャルティアのその言葉の意味を理解できる者は今この場にはいなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

浮遊都市エリュエンティウ

 

 

広大な砂漠の上に浮かぶ巨大な城。

 

 

都市守護者と呼ばれる三十人の従者がこれを守っている。

 

 

 

 

だがかつてあった栄華は既に失われており、素晴らしかった建築様式の城はただの瓦礫と化していた。あらゆるものは崩壊しており、周囲にはおびただしい死体の山と血の海が流れていた。壊れた床から炎と煙が漏れ出している。

 

 

 

 

(くそ、一体何が起きた?)

 

 ツアーはエリュエンティウの地表部を走っていた。この場所に着いてからツアーはずっと強烈な不協和音を聞いていた。まるで鋼の弦をノコギリで引いているようなそんな違和感。先ほどから何か大きなものが弾ける音が聞こえる。

 

 

ツアーが瓦礫の山の一つに足を置いた時、その不協和音の原因を知った。

 

 

 

 そしてそれが視界に入った瞬間、強烈な吐き気と目眩に襲われる。

 

 

ツアーが見た光景はエリュエンティウを守る都市守護者の最強とされた存在の頭部が拳で潰された瞬間であった。

 

潰されたそれは痙攣を起こしもう死んでいることを物語っているように思えた。だが問題はそこじゃない。そこにいる背中を晒している人物こそが問題であった。

 

 

黒髪、中肉中背、どこにでもいる村人の様な恰好、血まみれ。左腕に何者かの腕のみが握られていた。その腕は白銀よりも強い輝きを放つ手甲であった。

 

 

ツアーはその人物をよく知る。否知りすぎていた。

 

 

 かつての災厄。【六大神】が現れる前の存在。ツアーの母である竜王とその取り巻きを血まみれになって笑いながら首をもぎ取った男。暴力そのものを愛し、血を流させるのも血を流すのも笑いながら受けれ拳を振るう異端。

 

 

 

 

「お前がエリュエンティウを……都市守護者たちを破壊し尽くしたのか!」

 ツアーの目の前にいるのは頭部を破壊された遺体と、全身に血を浴びている男であった。その男はツアーの方へと顔を向けた。

 

「……」

 男は関心の無い瞳でツアーを見る。だがそれは一瞬のことであり、ツアーの存在を視界に入れると瞳に光が宿る。

 

「こんな所にいたんだね。また戦おうよ。あの時みたいに」

 そう言って男は微笑んだ。その笑顔は純粋無垢と呼ぶに相応しい。だがその口元は三ケ月の如く大きく歪んでいた。

 

「何を言ってる?」

 ツアーがそれを口に出すと同時に男は右腕を伸ばしてきた。その手にはまるで何かを掴もうとしているように思えた。

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁっ」

 ツアーの体が崩れ落ちる。ツアーは何が起きたか分からなかった。だがとてつもなく悪寒がしまともに鎧を動かせなくなる。

 

 

「偽物だったのかな。面白くないね」

 男は先ほどの腕の動きを止めると何事も無かったように歩き出す。だがその男にツアーは待ったをかけた。

 

 

「誰が貴様の封印を解いた!?」

 だが男はツアーの言葉を無視して歩き出す。歩くたびに全身に浴びた血肉が床に零れ落ちる。

 

 

 

「待て!」

 ツアーは男の背中に向けて手を伸ばした。

 

 

 

 

 何が起きたか分からない。だが気が付くとツアーは仰向けに倒れ、その腹部を男によって踏まれていた。男が足の力を少し入れるだけで鎧にヒビが入っていく。

 

 

 

 

「どうしたの?もっと強くなって…」

 男は笑う。その口元が大きく歪む。瞬間、男とツアーとその周辺、空間が……世界が揺れる。

 

 

 

 

(まるで歯が立たない)

 鎧のヒビが全身に広がっていく。ツアーの鎧の感覚がなくなっていく。意識が朦朧とするせいか何を言っているかわからない。

 

 

 

「もっと僕を笑顔にしてよ

 最後に見たのは男の綺麗な笑みであった。金属が砕け散る音が聞こえツアーの意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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