今の唯一の楽しみです。おかげでちょっとだけモチベ回復します。
ルナになって腕グニャグニャしてみたら面白そう。
"誰か"を求めると『色欲』、
"何か"を求めると『強欲』、
ならば消されしまった"過去"と"未来"
この二つを求めることを何と呼ぶのかしら。
守護者統括アルベド 『漆黒の英雄譚・第三部』より抜粋
歌う林檎亭
「そうか……旦那は帰るんだな」
そう言って別れを惜しむ男にモモンは嬉しくもあり同時にいたたまれない気持ちになった。
「あぁ。だが二度と会えない訳じゃない。また帝国付近で依頼があえば会えるさ」
「……そうだな」
ヘッケランはそれがモモンなりの気遣いだとすぐに分かる。【英雄王】という厄介な名誉を授かったモモンにとっていらぬトラブルを避ける意味でも帝国に来る理由はないはずだ。--ヘッケランが把握している限りの情報で推測混じりだが--今まで帝国に来なかったモモンが今回帝国に訪れたのだって、相棒であるナーベを探す目的があったからだろう。
そしてそんなモモンがエ・ランテルに帰る理由など一つしかない。
(相方であるナーベさんには会えたんだろう。だがどういう訳か連れ帰ることは出来なかった……。無事は確認できて安心した。だから帰る。そんな所だろう)
ヘッケランはその辺りが正解だろうと何となく思った。普段からワーカーチームのリーダーをやっているだけにその考え方は理解できたからだ。もし自分の元から仲間が去ったら……そう考えたことが無いというのはありえなかった。仲間の一人であるイミーナと恋仲になるまでは常にそういった不安を抱えていた。ロバーとは仲良くやっていけたが……それも運が良か……いや良い仲間に巡り合えただけだ。
「ヘッケラン、君には世話になった。礼を言う」
「俺こそ……いや
ヘッケランは頭を下げた。感謝の気持ちと…そして謝罪だ。何から何まで世話になっておきながら何も恩返しできていない。それが情けなくて申し訳なく思った。ただあおの想いだけが胸の奥でこだましていた。
入口のドアが開いた。ドアの方へ目線を向けるそこには想像通りの人物が立っていた。帝国四騎士の一人であるレイナース=ロックブルズだ。これから帰るモモンを彼のホームであるエ・ランテルまで送り届けるためだろう。
「モモン様……そろそろ時間です」
レイナースはそう言いながらモモンへと声を掛けた。そこにはヘッケラン同様の感情があったのだがヘッケランには知る由もなかった。
「あぁ。そろそろか……」
モモンはカウンターから席を立つ。全身鎧を着こんでいながらその動きは軽い。しかし少しの間だけだが一緒にいたヘッケランにはどこか未練を残した動きのように思えた。それは帝国から去ることへの未練……いやこの場合はナーベへの……。
(旦那……)
ヘッケランにはその背中がとても寂しそうに思えた。今のヘッケランだからこそ想像することができる。自らの愛する者と離れることはとても辛いことのはずだ。もしイミーナが自分の元から去ってしまったら……そう考えずにはいられなかったからだ。多分今の自分には耐えられないだろう。既にヘッケランからすればイミーナは日常そのものの象徴であり、もう一つの心臓のようなものだ。あるのが当たり前で」、それが失われることなど考えたくもない。
「何か…俺にできることはなかったのか?」
そのヘッケランの声をきく者はいなかった。ヘッケランは自身の無力感から歯を食いしばり拳を作った。そこにあるのは怒りではない。怒りならばどこかにぶつければいい。だがこの感情の場合どこにぶつければいい?その答えをヘッケランは知らない。短い間だが、モモンは信用できる人物であり好感の持てる戦士であった。実力・人柄どちらにしても『フォーサイト』全員が認めている。
「結局……俺は何も出来なかった…のか」
それがヘッケランがその場で出した最後の言葉であった。
モモンは帝国を去った。
エ・ランテルへ帰るために。今はレイナースと数人の帝国騎士たちによりエ・ランテルに向かっている所であった。
帝都が離れていくのをモモンはただ黙って見ていた。今のモモンの頭に一つの感情が支配していた。
それは無力感であった。
(【守護者】……コキュートス殿、アウラ、マーレ、シャルティア・ブラッド・フォールン。それと同格であろうセバス殿、そしてその者たちの忠誠を受ける支配者アインズ殿……全員私などより遥かに強い。
「ナーベ…」
思わず呟いていた。無事であったのを確認できて安心した。だが……それで納得できた訳ではない。
(理由は分からないが……ナーベは魔導国へ降った。何故か?……いや今考えるのはよそう。これはエ・ランテルに帰還してからゆっくり考えよう。組合長たちに質問攻めされる可能性は非常に高いだろうが……正直に報告するしかないな。帰ってからそうするとして……これからどうしようか?どうすべきだろうか?)
真っ先に思い浮かぶのはナーベをエ・ランテルへ連れ戻すことだ。だがモモンは今の自分が魔導国に勝利できると思えるほど自惚れてはいない。
もしナーベが何かしらの理由で魔導国に縛られているとして、私がそこで連れ帰ること
(いや無理だ。不可能だろう。仮にナーベを連れ戻せたとして、エ・ランテルはどうなる?冒険者を事実上辞めたナーベ。それをエ・ランテルに連れ戻すのはどう考えても個人の問題ではなくなってしまう。最悪の場合戦争になるかもしれない。ただでさえヤルダバオトの一件でモモンは王国内で良くない目で見られている。それに……)
モモンは歯を食いしばり拳を作った。
(守護者一人にすら今の私では敵わない!もし守護者一人が相手という条件であれば、万が一の可能性があるとすれば……その時だけは
モモンはそのことを理解すると自らの腕が震えていることに気が付く。
(出来るのか?私に……そんなことを……)
もし、次に【守護者】と対峙した時、ずっと避けていた【十戒】の一つを使わなくてはならない。危険過ぎる"第八のあれ"を使うしかない。それは分かっている。しかし最悪の場合にはこれの使用には大きな代償を背負うことになる。
(もしかしたらナーベがいなくなって……少し自棄になっているのかもな)
モモンは自らを嗤った。
(だが情けない話だが……今の私にその覚悟はない。『誰かが困ってたら助けるのが当たり前』……この言葉は言うなれば……自らの身に何があっても誰かを助ける……そういう覚悟がなければ言う資格はない。今の私に……それが出来るのか)
ふと誰もいない馬車の中を見渡す。
常に傍にいて支えてくれたナーベはいない。
(………どうしてこうなったんだろうな)
気が付けば失ったものを数えていた。
(母さん、ウルベル、チーノ、チャガ、アケミラ……ギルメン村のみんな。……ミータッチさん、そして………ナーベ)
みんないなくなった。そして誰もいなくなった。
『誰かが困ってたら助けるのが当たり前』
…だったら、今の私は一体『誰』を助ければいい?
誰か教えてくれよ。
……なぁ。教えてくれよ。今の私は『誰』だったら助けられる?
モモンは馬車の中で声を押し殺し、ただ拳を握った。
悲しい訳ではない。怒っている訳でもない。
ただ自らが何をすべきか、それが分からぬのだ。
ゆえに苦しむのだ。
自らの感情が自らを苦しめる。抑制されるわけでもない激しいその感情にモモンはただ飲み込まれていく。暴風の如く押し寄せるそれに対する受け止め方を、その術を知らぬのだ。
傍から見れば普段の英雄としての彼の姿とは程遠いだろう。
この時のモモンにとって必要だったのは彼を『英雄』と呼ぶ者ではなく、彼をただの『人間』として扱う者だったのは言うまでもない。
こんな時、
ふと彼に言われた言葉を思い出した。アレは確か修行を始めた頃だった。
----力なき正義は無力、正義なき力は暴力だ----
----だからこそモモン、君はどれだけ力を得ようと"正義"を失ってはならないよ----
あの時は聞かなかったが結局の所"正義"とは何だったんだろうな。きっとあの人ならその"正義"というのを失うことは決してなかったのだろう。
(そう…私と違って……)
今のモモンにとっては全てネガティブの方向へ思考が流れてしまう。それ程までに今回の一件は衝撃であったのだ。
そしてそんなモモンの乗る馬車を上空から見つめる一つの鎧の姿があった。
「さて……それで私に何か用かな?」
モモンはエ・ランテルへもうすぐ到着という所で馬車を下ろしてもらった。最初は渋ったレイナースたちだがモモンが三度説得することで何とか帰ってもらった。帰ってもらった理由としてはそうした方がいいと判断したからだ。
「気付いていたのかい?」
「お前ほどの者が頭上にいて気付かない訳がないだろう。それよりも……」
モモンが見るとツアーの鎧はボロボロであった。まるで砕け散った鎧を無理やり修復したような様子だった。
「気にしないでくれ。帝都では君を殺すと言ったが今は忘れてほしい」
「…どういう風の吹き回しだ?何があった」
「時間が惜しい。言うことを聞いてくれないかな」
疑問形。だがその声には高圧的な意思が込められていた。要する命令という訳だ。
「頼み事でもあるのか?」
「時間を無駄にしなくて済む。僕を【竜帝】と会わせろ」
ツアーのその言葉にモモンは一瞬言葉を失った。確かにエメラルドタブレットを通して竜帝とは会えたが、それだけだ。今までアインズ殿にも触れてもらったこともあるがあの"謎の空間"に行けたのはモモンただ一人だけだ。アインズ殿でさえ行けなかった。だからこそモモンは言葉を選ぶことにした。
「…それが可能かどうかは分からないぞ」
「それでも構わない。【竜帝】に聞かねばならないことがある。後は切っ掛けだけあればいい」
ツアーの物言いはモモンにとって欲しい言葉をくれない。ゆえに情報が不足している。恐らく理解してもらおうなどと思ってもいないのだ。だからこそ相手への理解や配慮のない物言いなのだろう。
「分かった。今取り出す」
そう言ってモモンは懐からエメラルドタブレットを取り出す。四つの欠片。その全てを取り出し手に持つが何も起きない。
「どうした?」
「いや何も起きないんだ。いつも向こうへ行く時はこれが何かしら反応するんだが……」
モモンのその言葉にため息を吐いたツアーはボロボロになった鎧の胸部から……まるで異空間から何かを取り出すようにそれを出した。
「お前!それを持っていたのか?」
「あぁ。だが説明は時間の無駄だ。さっさと触れてみてくれ」
モモンはツアーが取り出したエメラルドタブレットに触れる。
瞬間、脳裏に一つの声が響く。
黒の全身鎧を纏う一人の戦士が一つの棺から出た男に向かって言葉を掛けている。
----何故俺を蘇生させた?----
----悪いが力を貸せ。リーダー----
頭が割れる。胸が引き裂かれる。
白銀の鎧の者……恐らくツアーが男に向かって何かを伝える。
----リーダー、君に"夢"を持つ資格はないよ。----
----分かっている。俺は……----
どこかの大森林。一人のドライアードの近くで七人組がいた。
----お前の夢は何だ?----
----俺の夢は多種族の共存……そのための国だな。まぁ叶わなかったがな----
----それは…----
----知ってるか?リク。夢っていうのは呪いと同じだ。叶わなければずっと呪われたままだ----
二人の男が酒杯を当てあう。
----あぁ。お前の『仲間』になってやるさ。リク----
----ありがとう。スルシャーナ----
英雄たちが蟲の種族と対峙する。
----カエセ!スルシャーナ様ヲカエセ!----
----………すまない。俺のせいだ----
----リーダー、君は…----
----ツアー、俺には夢がない。でもな……夢を守ることなら出来る!----
そこで意識は消失した。