漆黒の英雄譚   作:おしるこをしるこ

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預言者はいずこ

 

「……っ!」

 エメラルドタブレットの記憶から出たモモンは覚醒し、目を開ける。

 

 

「ここは……あの時と同じ空間…か」

 それはかつてモモンがヴァルキュリアと名乗る女性と出会った空間であった。ただ一つだけ違うことがあるとすれば空間内に先程まで話していた白銀の鎧のツアーがいたことだろう。

 

 

ツアーはヴァルキュリアの前に立ち何やら叫んでいる。それは怒鳴り声のようにも聞こえる。だがその意識は眼前の女にではなく別の場所に向けられていたようであった。

 

 

 

「どこだ【竜帝】!姿を見せろ!この女がいるということはお前もいるはずだ!」

「【竜帝】?……この女?ツアー、お前この空間が何か知っているのか?」

 モモンはツアーに歩み寄る。そしてその鎧の肩に触れた時。

 

 

「僕に触れるな!」

 そう言いながら振り返り、その勢いのままモモンを腕の力だけで振り払った。そのあまりの勢いにモモンは吹き飛ばされる。何とか態勢を崩すことこそなかったが、ツアーの思わぬ行動に思わず感情的になる。

 

「っ!この…」

 感情的になり殴りかかろうと拳に力を込めた。

 

(落ち着け……エメラルドタブレットの通りならツアーは竜帝の息子。感情的になるだけの何か理由は)

だが瞬時に気持ちを切り替えて冷静さを取り戻した。

 

 

「汚らわしい【流星の子】め!僕に近づくな」

「………」

 

 

「それよりもだ。モモン、君は【竜帝】とどうやって会えた?教えろ」

「……」

 モモンは僅かな時間思考を巡らせた。素直に答えてもいいのだが、心理的に答えたくない気持ちが勝っていたからだ。そしてそれ以上にツアーから何か新しい情報を引き出したいと思ったのだ。

 

 

(……いや無駄だな。素直に答えるべきだな)

 モモンなりにツアーという存在を考える。この者は一方的な物言いしかせず、そのことから自分の都合しか考えていないのは明白だ。そのことから取引じみたやり取りなど時間の無駄でしかないだろう。それ以上にこの者が何故か【流星の子】である自分に対して何やら嫌悪感……いや苦手意識とでも言うべき感情を向けていたことが気になった。そのため時間の無駄だとい悟ったのだ。

 

 

「それは……」

 モモンが答えようとした時だった。

 

 

『久方ぶりだな。ツアー』

 モモンの脳に直接言葉が届く。どうやらツアーにも届いたらしく何やら反応していた。

 

「竜帝!貴様…今までどこで何をしていた!」

『それを話すには時間が足りぬ。すまぬが説明出来ぬ』

 

「ふざけるな!貴様が死んでどれだけの混乱が起きたと思ってる!?それが原因でどれだけ多くの犠牲が出たと思っている!?」

『それを我の責だというのか?それは貴様が無力だった……それだけではないか』

 

「……まぁいいさ。さっさとこの空間から出て自らの責務を果たしてくれ。いいな」

『断る』

 

「何故!?」

『正確には出来ぬ。我はこの空間から出れぬ。更に言えばこの空間内でしか生きられぬ。今の我は魂だけの存在。所詮は"残骸"でしかない』

 

「……この女を生かすためか?」

『この世界のためだ。そのために消滅するはずだった我の魂と自我を分け、この女に始原の魔法(ワイルドマジック)を行使した』

 

「遥かなる過去と未来を繋ぐ者……【預言者】。その者のためか?」

『ツアー、貴様は既に答えを知っている。だから確認しここを訪れた。違うか?』

 

 先ほどから繰り返される謎の問答にモモンは割って入ることにした。あまりに置いてけぼりだ。これでは何一つ理解できやしない。

 

 

「さっきから何の話をしているんだ?」

「モモン、君には関係の無い話だ」

 どうやらツアーは答える気はないらしい。ならばもう一方に聞くしかないだろう。

 

「竜帝!何か答えろ。さっきから何の話をしている?」

『やはりお前はツアーと出会った。これは必然か……いや運命というべきか。やはりお前は特別なのだな』

 

「何の話だ」

『……』

 

「もういいだろう。ここに連れてきてくれた礼として僕から一つだけ答えよう」

「ツアー、お前…」

 

「よく聞くんだ。モモン……遥かなる過去と未来を繋ぐ者が【預言者】だ」

「?それがどうした?私がその【預言者】だとでも?」

 

「そこまで分かっているなら話が早い。竜帝は君を【預言者】だと言ったはずだ。違うかな?」

「…確かに過去にそう言われたが……」

 

「それは竜帝の嘘だ。君が【預言者】であるはずがないんだよ。【真なる神人】とかなら分かるけどね」

「【真なる神人】?本当に何の話だ?正直言って話についていけないが……どういうことだ?」

 

「君はエメラルドタブレットを通して過去を見た。そうだね?」

「あぁ」

 

「君はエメラルドタブレットの中で彼女……ヴァルキュリアに出会った。そうだね?」

「あぁ」

 

「さてここで疑問だが、エメラルドタブレットの遥かなる過去と未来、この過去と未来とはそれぞれ"だ"……いや"何"を指すことだと思う?」

「?過去と未来……?」

 

「そこまで理解できたなら後は分かるはずだ。後は自分で考えるんだ」

「?」

 

 

『……』

「悪いがモモン、竜帝のことがあるため僕が言えるのはここまでだ」

 

「話がまるで分からないんだが……」

「今はそれでいい。僕の要件はそれだけだ。そろそろ戻ってくれ」

 

「(………言っても無駄か。本当に自分の都合だけだな。この者は…)分かった」

 モモンは何とか戻ろうとするも戻れなかった。

 

 

一体どうしたものかと……そう悩んでいるモモンに向かってヴァルキュリアがこちらに顔を向けていることに気が付く。でもその目は虚ろでどこか遠い所を見ていた。

 

そして小さな声だったが確かにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモン……あなたの名前はモモン」

 

 

 

 

「えっ……その言葉は……」

 

 

 

 

そこでモモンの意識は覚醒して………。

 

 

 

 


 

 

 

 

「モモンさん」

「殿ぉー」

 モモンは自分に覆いかぶさる巨大な影によって目を覚ました。思わず上半身を起き上がらせる。

 

「シズ…ハムスケ…ここは家か?私は一体」

 どうやらモモンはエ・ランテルの自宅にまでどういうわけか戻ってきたらしい。

 

「私とハムスケが待っている留守番している間に、白銀の鎧の男が来てモモンさんを連れてきてくれた」

「そうか…(ツアーが?)」

 

「もしかして知り合いじゃなかった?」

 シズの無表情が崩れる。どうやらツアーのことを敵だという可能性が思い浮かんだのだろう。モモンは手で制しながらとっさに思い付きで喋った。

 

「知り合いだ。まぁ…仲良くは無いが…少なくとも敵じゃない(仲良くできる気もしないが……)」

「そう…」

「そうでござったか……心配したでござるよ。殿はずっと眠っていたでござるからな」

 

「ずっと?どれくらいだ?」

「半日くらい……」

 

 シズの答えにモモンは頭を悩ませた。エ・ランテルに帰還してから半日も眠っていたらしい。さっさと組合に報告すべきだからだ。

 

 

「悪いがすぐに冒険者組合に報告しないといけないことがある。すぐに戻るから二人はここにいてくれ」

 モモンはそう言って支度をして二人を置いて家を出た。

 

 

 残された二人はほんの少しだけ会話した。それはほんの短い会話だった。

「……これでいい。これでいい……はず」

 

「殿……泣いていたでござる。何故かは分からぬが」

「……良いの。これでいい。私はナーベじゃない。だからモモンさんが泣いていても隣に立って涙を拭えない」

 

「…シズ殿」

「ハムスケ……ナーベは多分戻らない。多分一生……」

 そう言いながらシズは拳を作った。表情こそ一切変わらないがその言葉に込められた思いがハムスケには痛いほど分かった。

 

 

(悔しい……今のシズ殿の中にはその感情だけで一杯のはずでござる。自らを助け出してくれた恩人二人が引き裂かれるのを黙って見ることしか出来なかった。某だって……悔しいでござるよ)

 

 

 

 

◇ ◇

 

 

 

 

家を出たモモンは路地裏に立っていた。周囲に人がいないことを確認する。

 

そして思い出す。

 

 

 

 

ヴァルキュリアの言った最後の言葉……あれは自身を拾い育て上げてくれた母親モーエの言葉と同じだった。

 

二人の容姿は違う、話し方も違う。だがただ一つだけ共通していることがあったのだ。

 

同じ言葉を語ったのなら、その言葉には同じ意味が込められている可能性がある。

 

だとしたら……。

 

 

 

 

遥かなる過去と未来。

 

過去とはヴァルキュリア、未来とはモモン。

 

それは一つの可能性を指す。

 

 

 

 

つまりモモンとヴァルキュリアの関係は……。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 モモン自身、その関係にどういう感情を持っていいか分からなかった。

 

 

 

 結局、モモンが冒険者組合に今回の一件を報告したのはそれから二時間後のことであった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇ ◇

 

 

 神々の居城、そう表現してもいいほどの場所にナーベはいた。

 

 

 その廊下に二人の女性は立っていた。一人はナーベ、もう一人は……。

 

 

 

「さてと…私の部下になった訳だけど何か質問はあるかしら?ナーベ」

「ありません。【守護者統括】アルベド様」

 

 

 

「そう……。では一先ず私の部屋の掃除でもお願いしようかしら。案内するわ」

 その言葉に従いナーベはアルベドについていく。

 

「ここが私の部屋よ」

 そう言って見せられた部屋は非常に整理整頓がされており持ち主の性格を表しているようであった。正直言って掃除の必要性を感じなかった。ゆえにナーベは困惑する。そしてこの部屋の掃除の必要性を訪ねようとした時であった。

 

「これを渡しておくわ」

 アルベドが差し出したのは純白のハンカチであった。ナーベは頭上に疑問符が浮かぶ。しかし続いての言葉を聞きその理由を知る。

 

「この部屋は私の部屋。【守護者統括】という立場である以上、誰かが聞き耳を立てることもない(・・・・・・)そのため扉さえ閉めれば誰にも見られない(・・・・・・)わ。この意味分かるわね」

「アルベド様…それは……」

 

「私は今からアインズ様に魔導国の今後の方針について相談の予定があるから一時間は戻ってこない(・・・・・・)わ。掃除(・・・)はそれまでにすましておきなさい。今後のために(・・・・・・)

「……かしこまりました。アルベド様」

 ナーベはアルベドに対して本心から頭を下げた。するとその姿を見たアルベドは部屋から出ていく。その際に扉をさりげなく閉めてくれた。

 

 

(アルベド様には全てお見通しですか……)

 ナーベはアルベドに部屋のドアに背中からもたれかかりそのまま床に腰を落とした。ナーベはアルベドから手渡されたハンカチを強く握る。

 

 

 視界がぼやける。目に溜まる液体のせいだ。

 

 

(あぁ……あぁ……)

 

 

 世界がぼやけた。心に溜まった想いのせいだ。

 

 

(あぁぁぁぁぁぁっ!!!!)

 胸が締め付けられる。喉が詰まる。

 

 

 

その日、一人のメイドがアルベドの部屋から現れた。

 

その表情を見た赤毛のメイドは後に語る。

 

 

 

 

そこには最初から無かったのか、枯れてしまったからなのか。

 

涙を流すことなどないであろう一人のメイドが立っていたと……。

 

 

 

 

 

 

 

 アダマンタイト級冒険者チーム【漆黒】

 

 【美姫】脱退により、メンバーはリーダーであるモモンのみとなった。

 

 そしてそれはかつての過去と同じ状況であった。

 

 

 

 

 多くの疑問や感情を残し、一つの物語は幕を閉じた。

 

 そしてそれは新たなる物語の始まりを意味していた。

 

 その果てに英雄は孤独な戦いへと身を投じることとなる。

 

 

 

 


 

 

 

 漆黒の英雄譚・第二部

 

 第六章・消えた美姫

 

 

          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





すいません。
こんな話ですみません。
作者のモチベがヤバいので
とにかく投稿優先です。

どうか温かい目で見て下さい。
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