漆黒の英雄譚   作:四季 春夏

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奴隷の逃亡

「はぁはぁ」

 

モモンは走っていた。どこがどこだか分からないがそれでも走っていった。

 

またドアだ。

 

モモンは勢いよくドアを開ける。

 

「やっと出れた」

 

モモンは外に出ることが出来た。

 

モモンの目の前に広がる光景は初めて見る光景だった。

 

「おい!お前何故奴隷がこんな所に!?」

 

全身鎧を着込み長槍を携えた男にそう言われる。男の背後には同じ格好の人物が三人立っていた。恐らく衛兵だろう。かつてギルメン村で聞いた話に当てはまる。

 

モモンは自分の恰好を見る。その姿はこの国でいう奴隷なのだろう。ただ最も疑われたのはこの服に着いた血痕だろう。

 

「っ!」

 

モモンは走り出した。立ち止まることが危険だと判断できたからである。

 

「待て!くそ!奴隷が逃亡した!上に報告する奴と屋敷を調べる奴に分かれろ。」

 

「「分かった」」

 

衛兵は三手に分かれた。二人はモモンを追いかける方へ走り出す。三人目は上司に報告しに、四人目はモモンが出てきた屋敷を調べに、この四人の行動がモモンを追い詰めることとなる。

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

「はぁはぁ・・」

 

どれだけ走っただろうか・・

 

初めて来た街の中を土地勘も無いモモンが走っていく。

 

人もいない路地裏に隠れる。

 

「はぁはぁ・・・・」

 

心臓が痛い。喉も極端に乾いている。全身が怠い。足裏が痛い。それも当然だろう。裸足でひたすら走ったのだ。足裏を見てみると石でも踏んでいたのか血が出ていた。

 

村は襲われ、毒で意識を失い、奴隷にされ、そして逃亡・・

 

その全ての原因はスレイン法国・・

 

そのスレイン法国の中に自分はいるのだ。

 

「はぁはぁはぁ・・・・」

 

胸が激しく痛む。何かが突き刺さるような感覚・・

間違いない。この感覚はあの時の毒だ。

 

「ゲホッ・・」

 

モモンはその場でそれを吐き出した。大量の血液が路地に残る。

 

「こんな時に・・!」

 

モモンの全身の力が抜ける。全身が痛い。石の様に重く硬くなった身体。だがそれでも何とか走ろうとする。

 

「くそっ!」

 

暗くて気付けなかったが路地裏の奥は行き止まりだった。周囲に人がいないのが幸いか。

 

「ゲホッ!!」

 

再び吐血する。身体の中が焼けるように熱い。

 

「見つけたぞ!」先程から追いかけてきている衛兵の2人だ。

 

衛兵に見つかってしまった。

 

「あいつ病人か?血を吐いてるぞ」

 

「おい。アレをやるぞ」

 

「おっ、いいね」

 

衛兵たちが槍をこちらに向ける。そのまま槍を片手で持ちモモン目掛けて投げつけた。

 

「がっ!」

 

投げられた槍がモモンの右足に突き刺さる。モモンはそのまま倒れそうになるのを壁に手を置くことで何とか止めた。

 

「やった!ポイントゲット!次お前だぞ。」

 

「死ねよ。異常者が!」

 

もう一人が槍を投げた。その槍はモモンの左足を貫く。

 

「がぁぁっっ!!!」

 

両足を槍で貫かれたモモンは倒れる。

 

衛兵が近寄ってきた。

 

モモンは衛兵たちに向けて腕を伸ばす。

 

「気持ち悪いんだよ!!」

 

衛兵の一人がダガーを持っていない方の手でモモンの腕を掴む。

 

「もう少し付き合えよ」

 

モモンは何度も蹴られた。顔、胸、腹、背中、腕、足・・

何十回蹴られたか分からなくなるとどちらかの衛兵が口を開いた。

 

「衛兵ってのもストレスが溜まるんだ」

 

「むしろ感謝しろよ。価値の無い奴を有効活用してやってんだから。」

 

男たちが高笑いする。その声がひどく不快に感じる。

 

(こんな腐った『(くに)』なんて・・!)

 

モモンは衛兵たちを見る。まるで睨みつけすぎて血が出そうな程であった。

 

視界(しかい)が・・いや『世界(せかい)』が歪む。

 

(こんな腐った『世界(せかい)』なんて・・・!!!!!!!)

 

モモンの世界がひび割れ、そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異質な音を聞き取った。

 

「!!っ・・・」

 

風を切ったような音。

 

その音が聞こえた後、衛兵2人の首が落ちた。首が地面に落ちる。その顔は自分たちが死んだことにすら気付けていなかったのだろう。

 

だがモモンがそれに気付くことは無かった。

 

何故なら全神経が目に集中していたからである。睨みつけていた目は注視する目に変わる。

 

衛兵2人の首を切り落とした人物を見ていたからである。

 

その人物は白銀の剣と盾を持っていた。その人物が剣を収める。

その際に肩に掛かった赤いマントが風に舞う。

 

警戒心からか、モモンは感謝の言葉ではなく違う言葉を投げかけていた。

 

「どうして助けた?」

 

一言で言えば怪しんだのだ。

 

その男・・全身を純銀の鎧を装備した人物がこちらに手を差し出す。

 

「"(だれ)かが(こま)っていたら(たす)けるのが()たり(まえ)"!!」

 

 

 

 

 


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