漆黒の英雄譚   作:四季 春夏

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聖域に潜む影

スレイン法国の最奥部、法国の上層部の中でも知る者はごく一部に限られた『聖域』と呼ばれる場所がある。聖域と呼ばれる場所は部屋であり、部屋の中心には円卓が置かれており、その円卓の中心にはスレイン法国の国旗の同じマークの六本の蝋燭が描かれていた。

円卓には十二人分の席が用意されており、それぞれの席には既に全員が座っていた。

 

「それでは会議を始めよう」

 

現在の最高神官長である老婆が口を開いた。

 

「議題はやはりあの件か?」

 

「あぁ。例の逃亡した奴隷のことだ」

 

そう言われて円卓に座る者たちの表情が曇る。

 

「机の上に置かれた報告書を見てくれ」

 

そう言われて皆がそれを見る。そこには紙が一枚だけの資料が置かれていた。資料の薄さから得られた情報量が少ないのは明白であった。

 

「黒髪黒目・・この辺りで見ない容貌か」

 

「衛兵の一人が容姿について証言している」

 

「この容貌は間違いないのか?」

 

「えぇ。念のために精神操作を受けているか確認しましたが問題なしでした」

 

幹部の一人がそう尋ねたのも無理はない。他国では問題ないことでもスレイン法国にとってこれらの容貌は大きな意味を持つのだ。その質問に答えた者も精神操作を受けているかどうかの確認も何度も繰り返した程だ。

 

「ふむ・・この衛兵2人の死亡は奴隷と何か関係があるのか?」

 

「分からない。ただ・・死亡した衛兵2人は・・首を切り落とされていました」

 

「逃げた奴隷がやったのか?」

 

「いえ・・分かりません。ただ殺された衛兵2人に苦痛の表情は無く、切り口が綺麗であったことから・・・衛兵2人を殺したのは『神人(しんじん)』と同格かそれ以上の実力者でしょう」

 

「なっ!?」

 

誰もが驚愕する。『神人』と同格ならばまだ理解できる。だが『神人』以上の実力者といえばそんな存在は一つしかいない。それは『神』そのものだ。

 

「流石に『神人』以上は無いのでは?」

 

その言葉を聞いて皆が沈黙する。

 

『神人』とはスレイン法国が神と崇め祀る『六大神』。その六大神は人間との間に子供を作った。その存在こそが『神』と『人』の間の者。即ち『神人』である。そんな存在より強い者といえば『神』と同格ということになる。そしてそんな存在はこの場にいる誰もが認められなかった。

 

「いや・・『神人』とは限らないだろう。もし仮に我らが神・・六大神の子孫である『神人』ならばあのお方が必ずやここに来られるだろう。」

 

「死の神スルシャーナ様の第一の従者であるあのお方か・・」

 

「『神人』であるならば良いが・・もし八欲王の子孫であれば最悪だぞ」

 

「うむ・・確かに大罪を犯した者の子孫・・ならば人類は今度こそ滅びるかもしれぬ」

 

「我らが神・・スルシャーナ様を滅ぼした者たちめ・・」

 

多くの者がスルシャーナを滅ぼした八欲王に対して憤慨する中で、一人の者だけが口元を隠すように腕を組んでいた。その者は周囲を見渡す為に目元だけを見せていた。

 

「・・・・」

 

円卓に座るその者は部屋の壁を見る。そこには何かが収納できるようなスペースがあり、かつて六大神の象徴であり彼ら自身が守護していたとされる最強の武器『矛盾殺し(パラドックス・ブレイカー)』と呼ばれる剣が収められていたと言われる場所だ。

 

(スルシャ―ナ・・あの御方が「強者」と認めた数少ない存在。だが既に完全に・・。貴様が持っていたあの剣も・・。六大神の残したものの大半は消失した。今までの調査からしてスレイン法国には最早『我ら』に対抗できる術は無い。)

 

それから一時間以上は話しただろう。会議も終わりに近づいてきた。

 

最高神官長である老婆が締めの言葉を発する。

 

「それでは我らが六大神様に感謝の言葉を・・」

 

「我らはこれからも精進致します。」

 

最高神官長である老婆が口を開く。

 

「全ては人類繁栄の為に・・」

 

その言葉を聞き、皮肉を込めて笑った。

 

 

 

 


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